SF連載コメディ/さいえなじっく☆ガールACT:31 |
「ああ。無事だ。それどころか、くずれる家から君をかばってくれたのも彼女だよ」
「えっ」
「おまえ、覚えてへんのか?夕美が身を挺してやな………」
「た…たしかに。たしかにそうでした。覚えています、それは…」
途端に亜郎の脳裏にその時の光景がくっきりと浮かんだ。ただし思い出したのが青白く輝く光に包まれた夕美の均整のとれた裸身だったので、たちまち色白の亜郎の顔は真っ赤になった。
「それは……美しい姿で…」
「あああん!? なんやとぉ!?」耕介は思わず体操競技の男子平行棒のように車椅子の手すりを掴んで、ずいと伸び上がった。その勢いに一瞬亜郎もたじろいだ…が。
「うわいたっ!!あ、あいたたたたたた」
「先生、押さえて。今は押さえて…あっちこっち壊れてるんだから。」
「くそー、俺がこんなに故障してへんかったら、今のんは親父パンチのシーンやわ、絶対」
ほづみはかかえるようにして耕介を車椅子へ納め直すと、あらためて亜郎の方へ向き直った。
「君。君こそ異常はないのか?どこか強く打ったとか?熱とかないかい」
「いいえ?ほんとにどこも痛くない…強いて言えば、さっきまでいた…研究室ですか、あそこのひどいニオイのせいでちょっと頭が痛いくらいですが」
「それは悪かったね、冷蔵庫が壊れてて、どうやら色々トラブルがあったみたいで」
「トラブル?」亜郎はほづみがあまりにもサラリと言ってのけるのが驚きだった。「トラブルどころか!だいたい、あの連中は何なんですか。それに夕美さんを包んでいたあの青い光は?そもそも、この研究所は何を………」
「なんやおまえ、勝手にひとん家(ち)上がり込んどいてからに、目ぇ覚ました思たら錯乱か。なんやねん、連中とか青い光とか」
「え?」
「そらまあ、えげつない事故やったからな。ショックなんも無理ないけど」
「じ、事故!?」亜郎は目を丸くした。いや、目を丸くしたのは亜郎だけではない。ほづみもである。
「…覚えてへんのか?うーん、やっぱり病院で精密検査を受けた方がええぞ。悪いガスを多く吸うたんかも…。それか家が崩れたとき…せや、きっと頭のどっか打ったんやわ。で、気絶してる間に」
「ちょっと待って下さいよ。」亜郎は耕介の言葉を途中で遮った。赤かった顔色が今度は見る見る青ざめていく。「………夢を見てたって言うんですか、あなたは。」
「せやかて…違うんか?」
「よく言いますねえ!!一体、何をどうすれば家がこんな風になるんですか。ガス爆発だったらもっと壊れ方に方向性があるだろし。でもあれは何です?部分的にせよ完全に消滅してる箇所さえあるじゃないですか。そもそも、ここで何の研究してるんですか。」
痛い所を突かれて言葉に詰まった耕介のあとをほづみが引き取った。
「それは言えないよ。企業の依頼でやってる研究もある。守秘義務って解るだろ、メディア部の部長ともなれば。それくらいの常識、分るよね」
どうもこの、ほづみという男はやりにくいな、と亜郎は思った。自分は相当理屈っぽい方だが、コイツはそれに輪を掛けて理屈っぽいらしい。しかもまるで弁護士みたいに巧みに論点をすり替えてくる。
「………そうだ、夕美さんは?夕美さんに会わせてください。」
そう言うと耕介が眉根を寄せた。
「夕美はずっと眠っとる。たぶん、明日まで目を覚まさへんやろうな」
「え! …ええっ!? ま、まさかそれって」
「決まっとるやないか。身を挺してお前をかぼたお陰で精根尽きてしもたんや。」
「そ、そんな…だって無事だって」亜郎はうろたえた。
「無事だよ。でも怪我はしていない、って程度の意味だ。今の彼女は絶対安静だよ」
「ああ…」
それを聞いたとたんに噛み付きそうな勢いはどこへやら、萎れた花のようにしょげ返る亜郎を見て耕介の口の端に一瞬、笑みが浮かんだ。しかしそれに気づいたのはほづみだけだった。
(先生は本気で昨夜の事は夢だなんてシラを切り通すつもりかしらん。…一応調子は合わすけど、いくらなんでもなあ…)
ほづみの読み通り、亜郎も一年生の身でメディア部部長を担うだけあって、感情面ではすっかりしょげ返りながらも、理性面では別人のように事態を冷静に分析していた。
昨夜の体験は本当に夢だったのか?
見たものがどれほど奇想天外な現象だったとしても、夢だと言い切るには脳裏に刻み付けられた記憶があまりにもリアルすぎるではないか。
そもそもあの時…と昨夜の事を様々と脳裏に描きながら検証を繰り返す内に、ふと、あることに思い至って心の中で(あっ。)と叫んだ。
それはそのまま確信に変わった。(そうだ、間違いない。絶対にあれは夢なんかじゃない!!)青ざめていた顔がふたたびパッと紅潮する。
今度はほづみだってぐうの音も出ないだろうと勢いづいてガバと顔を起こした亜郎の鼻の下に、つう、と二本の赤い液体が流れた。
同時に亜郎の前の床には勢い余って同じ液体がぼたぼたぼたっ、と音を立てて落ちた。鼻血だった。
「わっ」
予想外の事態にさすがに普段冷静なほづみも肝を潰した。
「あっ」
亜郎も突然のアクシデントに、ほづみをやり込めてやるつもりの決めゼリフがすっ飛んでしまった。
「わわわ」亜郎は慌てて両手で顔を被ったが、焦りにシンクロして早鐘のように打つ鼓動に合わせて後から後から出てくる鼻血は止めようがなかった。
「あんたら、そんなとこで何してんのん」
いつの間にか夕美が後ろに立っていた。
「ぶぴゃあ」
次に驚いて飛び上がるのは亜郎の番だった。
「ゆ、夕美さん!!」
「うわっ。な、なんやあんたっっ!! 顔面血だらけやんか!」
〈ACT:32へ続く〉
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すんげーはげみになりますよってに…
(作者:羽場秋都 拝)
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毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ?つ!!”なヒロインになる…お話、連載その31! | ||
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