県令一刀と猫耳軍師 第3話
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「一里ですか? ここからですと、あの木のあたりですね」

 

一里、という距離がどの程度のものかというのをイマイチ把握していなかったので警邏に出た際に愛紗にたずねてみるとそう答えてくれる。

 

愛紗が指差す先は結構近い。わりとハッキリその木は見える。

 

「そんなもんなのか」

 

大体500メーター無いぐらいか? 随分短いと思ってたがこんなに短いとは。

 

「見通しのいい場所なら2里ぐらい先の人間と話しが出来る方法を知ってるんだけど、愛紗はどう思う?」

 

これは現代人の視力基準での話しだから、人によってはもっと遠くまでいけるか。

 

「そんな方法があるのですか? それなら是非とも教えていただきたいですね。早馬を飛ばすより早いでしょうし」

 

「忍者隊に一応教えてはあるんだ。一つは昼用、一つは夜用なんだけど。帰ったら教えるよ」

 

城に帰って忍者隊の男を1人捕まえて、愛紗に手旗を実演したい旨を伝え、城壁の上に行ってもらう。

 

「それで、どうするのです?」

 

「やってみせるのが一番はやいかとおもってさ」

 

忍者隊の男が移動している間に俺は部屋から紅白の旗を取ってくる。いわゆる手旗信号ってやつだ。

 

部屋から戻ってくると、ちょうど男も城壁の上についたところのようだ。

 

「あっちに伝えたいことを言ってくれたら伝えるよ」

 

「急にそう言われてもですね……。なんでも良いのですか?」

 

「なんでもいい」

 

「では、すぐこちらにくるように、と伝えられますか?」

 

俺は頷いて旗を振る。旗を振り終わると忍者隊の男はこちらにやってくる。

 

何を言ったかと問えば、キッチリと、すぐこちらにくるように言われたので来た、と答える。

 

「これが昼用の分。ありがとう、下がっていいよ」

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手旗信号というのがあるのは知っていたが、信号のパターンなど覚えてるわけがないので、荀ケに相談してパターンを作ってもらったのだ。

 

モールス信号についても同じようにパターンを作ってもらった。

 

「これなら、相手が見える所なら遠くまですぐに言葉が伝えられますね、夜用というのは?」

 

「コッチが結構厄介でね、今荀ケと考えてる所なんだけど……。ろうそくの明かりを隠して、その隠し方の長短で文字を伝えるんだ。でも教えるのも結構むずかしくてね。それにろうそくだと明かりが小さいから遠くまでは見えないし」

 

「また荀ケですか、少しあの子を贔屓しすぎでは? 優秀な文官であるのは認めますが……。それに彼女は正式な家臣ではありませんし、こういった重要な事を相談するのはいかがなものかと」

 

愛紗が不服そうな顔をしてそういう。相変わらず荀ケが俺に毒舌を吐いているのが気に入らないらしい。

 

事実として確かに政治関係の相談事も多いから一緒にいる時間が長いのはあるし贔屓してると思われてもしかたないか。

 

「愛紗や鈴々を軽視してるつもりはないよ? 中々こうして二人話したりする時間が作れないけどさ」

 

「わ、わたしはそういったことを言っているわけでは!」

 

「俺はみんなで仲良くやってきたいとおもってるから、できれば愛紗にも荀ケと仲良くやってほしいと思ってるんだけどな。荀ケが来た日の件でまだ怒ってるのは知ってるけどさ、せめて敵視するのはやめてあげて欲しい。俺は平気だから」

 

「怒るのは当たり前です! 何故ご主人様はあれほど侮辱されても平気なのですか」

 

「んー、あの時愛紗が荀ケを殺してたとするよ。その場合ここはどうなってたかな?」

 

「と、申されますと?」

 

「荀ケがきてから1日に出来る仕事の量は随分増えたし、良いこともかなりあっただろ? 荀ケのおかげで俺の政策がいくつか形になって、民にいい影響が出てきてる。短期間でも効果が見えるんだから多分これからもっといい影響が出てくると思う。俺が侮辱されるのを我慢するだけで、みんなが幸せになるなら安いものだとおもうんだ」

 

「ご主人様……。わかりました、そこまで仰るのであれば」

 

「納得してくれたなら良かった。それじゃ、俺は仕事に戻るよ」

 

民の幸せを、と願ったからには、少しでも仕事をして態度で示さないと。

 

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その日もいつものように仕事をしていると、黄巾党の軍団が県境に現れて警備隊が襲われ、全滅したという情報が飛び込んできた。

 

今まで駆逐し、追い払ってきた黄巾党が幽州に散り、それが集結して大軍団になって復讐するかのごとくやってきたとのこと。

 

現在は朝廷に任命されて黄巾党退治に遠征した帰りの公孫賛という武将が防戦していてくれるが、戦力差が大きく、突破されるのは時間の問題なので至急本体に出陣して欲しい。

 

そう言い残して県境からきた伝令は気を失った。

 

県庁が騒然とするなか、愛紗と鈴々は各部署に指示を出し、出陣の準備を整える。

 

俺は荀ケのもとへ向かっていた。

 

「荀ケ、頼みがある」

 

「なによ、出陣について来て軍師でもしろっていうの?」

 

「……お見通しか。まだ傷も完治してないのに申し訳ないけど、その通りだよ。荀ケの力を貸してほしい。今回は相手がかなり多いらしくてね、いつもみたいなわけにはいきそうもないんだ」

 

苦笑しながら頷く。

 

「そうね、ひざまずいて地面に頭を擦りつけてどうしてもってお願いするなら行ってあげなくもないわ」

 

最近、慣れてきたのか嫌われたのか、それとも愛紗の前でおとなしくしている反動か、俺に対する言動がどんどんキツいものになってる気がする。

 

まぁそんなことを言っている場合ではない。その言葉を聞くとおれは即座に土下座の姿勢になり、言葉を続けた。

 

「頼む!」

 

返事が帰ってこないので顔を上げると荀ケが目をまんまるにしてこちらを見下ろしていた。それから額に片手を当てて大きくため息をつく。

 

「本気でやるとは思わなかったわ、あなたには主としての威厳とかないわけ?」

 

「お前は俺の部下じゃない、仕事はしてもらってるけどお客さんだ。それに、人死が少なくて済むなら頭ぐらいいくらでもさげるぞ」

 

荀ケは俺の横を通りすぎていく。

 

「……いつまで座ってるのよ、いくわよ。ソレをやったらやるっていったんだから、ちゃんと仕事をするわ。急ぐんでしょ? いくら男が嫌いっていっても、約束を違えたりはしないわ」

 

「頼りにしてるよ、怪我が辛かったら言ってくれ」

 

「あなたの細作隊……忍者隊だったかしら? そちらにも仕事をしてもらわないとね」

 

「まだ練度は低いから期待に答えられるかはわからないぞ?」

 

「練度が低いっていっても、普通の兵とは訓練内容がまるで違うわ、一般兵を走らせるよりもかなり効率がいいはずよ。運用は私に任せて頂戴」

 

そういうと、荀ケはにやりと笑って見せる。頼もしい、やはり軍師を任せて正解だったと思う。

 

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「荀ケを連れてきても大丈夫だったのですか? まだ怪我が治っていないというのに……。」

 

「ムリをいってついて来てもらったんだ。軍師を任せたくてね。荀ケの持ってる兵法の知識はきっと強い力になってくれるはずだから」

 

「しかし、行軍速度を緩めるわけにはいきませんよ?」

 

「俺が責任もって面倒みるよ」

 

「報告します」

 

先行部隊から送られてきた伝令が俺の前に跪く。

 

「先行隊の3里先に黄巾党の別働隊を発見しました。別働隊は他県からの移民を襲撃しようとしているようです!」

 

「先行隊に指示を出すわ。移民と黄巾党別働隊の間にはいって牽制。こちらから仕掛ける必要はないわ、移民からなるべく離れないで。もし戦闘になっても攻撃より防御を重視して時間をかせぐように。本体が合流したら先行隊はすぐに戦線から引き、横撃の準備を始めなさい。関羽、張飛、駆け足指示を、先行隊に追いつくわよ」

 

「う、うむ。全軍駆け足! 先行隊に追いつくぞ!」

 

「全軍我に続くのだ!」

 

軍が駆け足を始めるなか、荀ケから指示を受け取った忍者隊の1人が一足先に駆けていく。身軽さ重視で鎧もつけておらず、その足の速さはかなりのもの。

 

荀ケに目を向ければ脚がつらそうではあるが、必死についていきている。だいぶ良くなったとはいえ本調子ではないか。

 

行軍速度を上げて移動することしばらく、俺達は家財道具を抱えて歩く農民たちに出くわした。まだ衝突はおこっていないようだ。先行隊はさっと本体と交代するように引き、横撃の準備を始める。その先行隊の隊長に荀ケが指示を飛ばせばその通りに動いていく。

 

「関羽隊は移民の先導を行いながら後退、張飛隊は戦線を形成して頂戴。敵の数が不明なので行動はいつも以上に迅速に」

 

次々に指示を飛ばす姿は流石荀ケといったところか。その横顔をみて思わずにやにやしてしまう。

 

(怪我が治るまでといわず、ずっと居てくれたらなぁ)

 

そう思わずには居られなかった。

 

「お兄ちゃん、逃げ遅れた人がいるよ! 女の子とお年寄り、あの二人も助けないと!」

 

戦線を構築し、遥か前方から群れをなして押し寄せてくる黄巾党の一団を見据えていた鈴々から声があがる。その声を聞き、ちらと荀ケに視線を送る。

 

「あなたの信念は人死を少なく、戦う力のないものに救いを、だったかしら? 見捨てるのが一番楽なのだけど助けるんでしょう? 張飛隊、突撃。先行隊は前に出すぎないように追従しなさい」

 

指示を聞けば張飛は軍を率いて突撃していく。おれもそれに負けないように追いかけていき、無事に女の子と老婆を保護することができた。

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驚いたことにこの女の子が諸葛亮孔明だという。『天の御遣い』としての評判をきき、わざわざやってきたとのこと。

 

史実とあまりに違うので吹きそうになったがここはこらえる。既に荀ケがうちの軍にいる時点で史実と違うのだ。

 

随分緊張していたようだが、どうにか落ち着いてもらい、力を貸してくれるというで俺は頷き、孔明とともに前線にいる鈴々、荀ケのもとへ向かう。

 

俺たちが追いつく頃には、農民たちを護衛していた愛紗の部隊も鈴々隊に合流を果たしていた。

 

黄巾党の別働隊は速度を上げて突っ込んでくるのが見える。

 

「3人ともまたせた」

 

「問題ありません」「相手の数が多いからどうするか考えてたとこなのだ」

 

「荀ケはもう答えを出してるんだろ? その答えを聞く前にちょっとこの子の意見をきいてみてもらいたい。さっき仲間になった諸葛亮だ」

 

孔明を紹介しながら荀ケにそういうと、

 

「兵数はおよそ1万らしいわ。あなたならこの状況をどうするかしら?」

 

荀ケが諸葛亮に問いかけ、ほんの少し考えてすぐに諸葛亮が口を開く。

 

「そうですね、敵は陣形も整えずに突撃してきているようですから、方形陣をしきつつ黄巾党を待ち構え、一当したあと中央を後退させて縦深陣に誘い込むのはいかがでしょう?」

 

「いい案ね、でもその策を実行するには兵の練度が足りないわ」

 

「そうですか、なら精鋭部隊を選り、隙を見て横撃をかけるという方法でどうでしょう?」

 

「私も同じ見解だわ。横撃の準備はもう始めさせているし、すぐにでも実行できるわよ」

 

「分かった、それじゃあ手はず通りにすすめていこうか。頼むぞ、みんな」

 

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そして両軍が激突し、結果はこちらが損害軽微で圧勝。損害で本体との戦いに支障が出たりはしないだろうとのこと。

 

俺はこの戦いでは最前線には出ず、朱里と荀ケの側で戦闘を見守っていた。

兵の練度が低いとはいえ、陣形等をしっかり作り、役割を決めて戦闘をするようになってきたからは俺がいては邪魔だと思った事と、荀ケと朱里の面倒を見なければとおもった事からの判断だった。

 

「横撃の時期の判断も私とキッチリ同じだなんて」

 

荀ケは驚きの表情で諸葛亮を見ている。

 

「荀ケから見て孔明はどう?」

 

「軍師としての才能は十分、きっと大きな力になってくれるわよ」

 

「ああ、私もそう思う。孔明も荀ケも、二人とも機を逃さぬ眼力に柔軟な兵法、素晴らしい力を持っている」

 

「む、鈴々だってそーおもってるよ!」

 

この後俺は孔明から真名で呼ぶ事を許され朱里と呼ぶ事となった。荀ケは……何か考えこんでいるようで無口になってしまっていた。

 

そういえば、まだ誰も荀ケの真名は知らないんだよな……。

 

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交戦地点から、東へ二里ほど行ったところに黄巾党の本体と対峙している公孫賛の陣地が築かれていた。

 

その陣地にはいった俺は軍議をするために朱里と荀ケを連れて公孫賛と対面する。

 

まぁ、そうなんだろうなーとおもってたが、やっぱり公孫賛も女性。そして美人。

 

「おまえが天の御遣い?」

 

開口一番がコレである。活発であけっぴろげな感じに見える女性だ。無遠慮な視線を俺に向けてじろじろと眺め回される。見た目通りならやりやすそうではある。

 

これでとんでもない腹黒とかだと困るが。

 

「一応そういうことになってるな。状況は?」

 

やや不機嫌そうにこう返す、こちらは急ぎに急いできたのだ、いきなり雑談から入られては……。

 

「すまんすまん、そうだったな。どういう男だかちょーっと気になってたもんでな。気を悪くしないでくれ」

 

「いや、こっちこそすまん。黄巾党を押さえつけてくれていたからここまで余裕をもって撃退にこれたんだ、あの軍勢じゃ国境周りの兵達だけじゃ太刀打ちできなかったし、ここで止めてくれていなければ被害は酷いことになってたはずだから、これぐらいで不機嫌になってちゃいけないな」

 

「遼西郡のねぐらに帰る途中だったからな、ついでだついで。そこまでいわれるとむず痒いじゃないか」

 

恥ずかしがるように視線を外す公孫賛をみてなんだか微笑ましいとか感じてしまった。愛紗あたりがいたら気が緩んでるっていわれそう……

 

ゲシッ

 

「っ!」

 

バッチリ顔に出てたらしい、愛紗の代わりに荀ケに殴られた。公孫賛はその様子をみて笑っている。クソ、今度はコッチが恥ずかしい。

 

「それで、兵はどの程度つれてきたんだ?」

 

「荀ケ、朱里。頼む」

 

「先の黄巾党の別働隊との戦闘で受けた損害と、補充兵で差し引き5500ってとこね。」

 

ここは荀ケがこたえる、先ほど合流したばかりの朱里と違いより詳しく知っているから当然といえば当然か。

 

「敵の総数は?」

 

「二万五千前後ってところだな。兵数がこれだけ違うと足止めが精一杯でね」

 

「それだけ数が違えば厳しいですね。いくら軍と賊とで兵の練度が違うとはいえ、殲滅に向かうのは無謀すぎます」

 

今度は朱里が口を挟む

 

「そっちの子の言うとおり、だから?県への道を塞いで陣地にこもってたってワケ。ここから向かう先となればほかは曹操や袁紹の本拠地だから備えも万全だろうし」

 

「相手も弱い所に目をつけるだろうから来るならこっちか……。だから守ってくれたんだな、ありがとう」

 

「ついでだって言ったろ! ああもう、こっ恥ずかしいったら……」

 

「俺個人じゃなく、守られたみんなからの感謝だとおもってくれ」

 

「公孫賛殿、少しよろしいか?」

 

公孫賛の後方にいた改造した着物のような白い衣服を身につけた少女がこちらに向かってあるいてくる。

 

「援軍がきたようで重畳、されば黄巾党を撃破する手段をお聞かせ願いたい。さすれば私が先陣を切り、あなたに勝利をお贈りしよう」

 

「また始まったか……」

 

2人が言い争いを始める。少女の言い分は、今すぐ吶喊しろ。とのこと。公孫賛は兵を損ねるからだめだという。

 

2人の間に割って入る空気でもないし、割って入る勇気もなかった。結局公孫賛がキレて、好きにしろ! という流れになった。

 

「彼女の名は?」

 

「趙雲、趙子龍だ。全くヤツはいつもいつも……」

 

趙雲。また有名な武将の名前が飛び出してきたな。確かに趙雲であれば黄巾党の烏合の衆に遅れはとらないだろうが数の差はなんともならないだろう。

 

ゲームや漫画で知る趙雲ならどうするかを少し考えてみる。

 

……多分本当に単騎ででも突撃するだろうな……。

 

「朱里、荀ケ。趙雲が本当に突撃するとして何か策はないか? 趙雲の能力は関羽と同等と仮定して考えてみて欲しい。突撃しないばあいはとりあえず考えなくていい。おそらく俺の見立てでは本当にすぐ突撃をかける」

 

振り返り、背後に控えている2人の軍師に声をかける。朱里は顎に手を当てて考えるポーズ。多分あの頭のなかでは猛スピードで戦闘がシミュレートされているのだろう。

 

「準備してたアレが使えるはずよ。黄巾党に明確な指揮官がいるとは考えづらいわ、軍勢を混乱させるのは容易いし、混乱すればなかなか立ち直れないはず」

 

まずこれは荀ケの意見。予め用意していたものというのは旗だ。外見からの人数を水増しして驚かせようという策だ。

 

「混乱させたところで背後から攻撃を仕掛けてもらえば損害を少なく、かつ効果的に殲滅できるとおもいます。アレは公孫賛さんには使えないので、こちらはオトリ、公孫賛さんに伏兵となってもらうのがよいかとおもいます。他にも策はありますが、趙雲さんと足並みをそろえるのでしたら、これが一番とおもいます」

 

「……というわけだが、お願いできるか? 公孫賛」

 

「構わないけど、準備が整うまで結構長いこと耐えてもらう事になるし、危険と判断すれば我らは引くぞ」

 

「十分だ。朱里は先にいって愛紗と鈴々に兵をまとめるように言ってくれ」

 

「はわわ、りょ、了解しました!」

 

朱里が駆けていくのを見ながら本陣に向けて移動を始めると、荀ケから声がかかる。

 

「なんで新参のあの子なのよ。私を先に行かせてくれればよかったのに、そうすればあなたと離れられたからせいせいしたのに」

 

俺は答えずに荀ケの脚を指さす。そこには血が一筋流れていた。やはり無理をかけたようで、傷が開いてしまったようだ。

 

「っ! 見くびらないでくれる!?」

 

「すまん……」

 

「軍師をやるといったからにはこの程度の傷がなんなのよ、まだまだ走り回らなきゃならないのよ? それに、あなたなんかに心配されたくないわ!」

 

そうはいうものの、歩く姿にやはり右足をかばうような動作が見て取れる。あまりムリをさせたくなかった。荀ケはあくまで客分だし。きっとまだ曹操の所に行く気でいるだろうし、出立が遅れてしまっては気の毒だ。

 

「何をぼーっとしてるの? 私をいやらしい目で見てたんじゃないでしょうね、けだもの!」

 

「ねぇよ!」

 

その後ろで、趙雲が単騎突撃を仕掛けようとしているとの報を聞く。

 

予想は大当たりだった。

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俺と荀ケが本陣に到着したときは朱里が今回の作戦の説明を終え、俺のゴーサインを待つばかりになっていた。

 

愛紗に事情を説明し、朱里の言った手はず通りに行動を起こしてもらう。俺はまだ説明を受けていないが、朱里は諸葛亮孔明なのだ、大丈夫だと判断した。

 

本当は荀ケにはもう少し後方に下がっていてもらおうかとおもったがおそらく言っても聞いてくれないだろう。

 

荀ケは忍者隊に指示を飛ばし、公孫賛の軍の監視にいかせたようだ。

 

「手はずは?」

 

「ええと、愛紗さんの部隊がまず趙雲さんとともに突撃、一当した後に撤退し敵の先陣を釣り上げます。愛紗さんが撤退すると同時に本陣は兵を展開し、釣り上げた先陣を半包囲して叩きます」

 

「あくまで援軍がくるまでの時間稼ぎだから殲滅しにかかる必要はないから、逃げ道を開けて敵の攻撃の手を緩める、ってことか」

 

「そうです」

 

朱里が俺の答えに満足そうに笑い、頷く。

 

「愛紗の隊の引き際の合図は朱里と荀ケに任せるよ。鈴々、やることは分かってるな?」

 

「おうなのだ!」

 

前方をみればしばしして愛紗の部隊が敵の先陣と接触したのが確認できる。

 

「……そろそろですね」

 

じっと正面を見据えていた朱里が合図を送ると、すぐに部隊は引き返してくる。それに追いすがるように黄巾党の先陣が続いてくるのが見える。

 

「見事に釣れたな、食いつきのいいサカナだ。鈴々手はず通りに頼むぞ」

 

「任せるのだ! 総員戦闘配置! 突出してくる敵を囲んでボコボコにやっつけちゃうのだ! みんな鈴々に続けー!」

 

さすが軍師2人のお墨付きのある作戦か、敵に動揺が広がっているのが俺にもわかる。

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これだけの数の敵を相手の戦闘だが、こちらの被害は少なく、敵の被害はかなり大きい。これなら公孫賛の軍が来るまで容易に持ちこたえられそうだ。

 

「報告します!」

 

時折、忍者隊のものが帰ってきて公孫賛の軍の状況を知らせてくれるのがありがたい。いつ来るか、下手をすれば来るかどうかすら分からないものを待つより、ずっと安心感があり、余裕が持てる。

 

向こうの動きがわかるのなら、公孫賛が動きやすいように動いてやる事もできる。

 

「朱里、荀ケ、公孫賛の軍はそろそろ来るか?」

 

愛紗が荀ケと朱里に問いかける、表情にはまだ余裕が見て取れる。

 

「ええ、そろそろ来るわよ」

 

「はい、斥候からの報告をきく限り、もう来るはずです、攻勢に移れるよう準備をしておいてください」

 

「分かった」

 

愛紗が号令を出し、準備を初めてすぐ、兵士が報告に走ってくる。

 

「敵後方に砂塵、と騎兵の姿が! 旗は公孫! お味方の援軍です!」

 

ほぼ荀ケと朱里の予想した通りのタイミングで公孫賛の軍が現れた報だ。準備を終えていた愛紗と鈴々はすぐさま攻勢にうって出る。

 

「突撃! 粉砕! 勝利なのだ!」

 

「全軍突撃!」

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公孫賛が現れてからの勝負はとにかく早かった。現れるタイミングを予め予想していたこともあり、連携がきっちりとれたことが大きい。

 

損害も俺の予想より随分少ない。さすが名だたる名将達、と言った感じだ。

 

逃げ崩れた黄巾党の掃討は公孫賛が買って出てくれたのでそちらに任せ、愛紗達とともに引き上げてきた趙雲に声をかけた。

 

「おつかれ、怪我はない?」

 

「これは北郷殿。お気遣いかたじけない。幸いにも怪我はありません」

 

「趙雲さん、ちょっと無茶がすぎるんじゃない? 単騎で突撃していくなんて」

 

「あれぐらい無茶の範疇には入らないでしょう。それに、関羽殿の隊が私の背後にピタリとついて来たのは驚きましたが」

 

「それはご主人様が、趙雲さんは本気で突撃するだろうから助けないといけないと……」

 

「私が突撃した報を聞いてからでは間に合いますまい、それに判断も早い、伯珪殿とは随分違うようだ。伯珪殿は決して無能ではないが、乱世を制し、民を守る王にはなれんだろう。勇気はあるが英雄としての資質が足りなすぎる」

 

趙雲の公孫賛に対する手厳しい言葉に苦笑する。

 

「客将になってるってきいたけど、随分手厳しい事をいうんだな」

 

「口が悪いのだ」

 

「まさにその通りですが、残念ながら伯珪殿を主とすることはもはや無いでしょうな」

 

趙雲がいうには、この後、公孫賛の元には戻らず、大陸を歩き自分がつかえるに足る英雄が他にいないか確かめて回るらしい。

 

候補としては、呉の孫権、魏の曹操、一応俺も候補のうちであるらしい。

 

一応勧誘はしてみたが、やはり大陸を歩き、自分の目でそれぞれを確かめてみたいとのこと。

 

意地を通させてくれ。そういって趙雲は立ち去っていった。

 

趙雲と話す間、荀ケは何かを考えているのか一言も喋らなかった。おれはその脚に視線を向ける。

 

黄巾党本体との戦闘にはいってからは長距離を走ったりということがなかったためか、マシにはなったようだが、やはりやや脚を引きずっているのが目につく。

 

帰ったら、ちゃんと礼を言わないとな……。今声をかけたらまたびっくりされそうだし。

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あとがき

 

どうも、作品説明にも書いた通り、原作とほぼ同じ流れなので「ほぼまるっと同じじゃねぇか!」っていわれそうでガクブルしております黒天です。

 

この先、反董卓連合あたりではもう少し頑張って独自路線ですすめていきたいと思ってます。

 

あいかわらず三国志系の知識不足だなぁと悩みつつ……。

 

いろいろと突っ込みどころは多いかとおもいますが、あまりいじめないでもらえると幸いです。

 

しかし、うちの桂花さんは随分とおとなしい桂花さんになってしまった。

 

ひょっとすると本領を発揮する前にデレることになるかも。

 

では、最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう!

説明
今回は原作にもあった公孫賛と共闘しての黄巾党の討伐です。

つかってる戦術は原作のものと同じ、情報収集力が上がっているので原作よりも少し有利に進んでいる感じです。
原作と同じ流れで進んでいくので、今回のはかなりそっくりに見えるかも……。
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コメント
>>クラスター・ジャドウさん そう言われれば確かにそうですね。星は初登場の時はなんであんなに荒ぶってたんでしょうね。いろいろ鬱憤がたまってたんでしょうか(黒天)
…そう言えば無印趙雲の初登場は、黄巾党に単騎突撃した挙句に殺され掛け、北郷軍に助けられるんだったな。独断専行で公孫軍どころか、救援である北郷軍にまで多大な迷惑を掛けたのに、自分が悪いとすら思ってなさそうなのが…。史実や演義は兎も角、星は切れ者な変人のイメージがあるが、これじゃ華雄と然程変わらんぞ?(クラスター・ジャドウ)
>>クラスター・ジャドウさん 一行殺、まぁ確かに公孫賛は不憫でしたよね。うちの白蓮さんはきっと不憫にはならない……はず?(黒天)
無印公孫賛は、説明文一行でアッサリと処理されたあの最期(通称・一行殺)がなぁ…。無印だと声優さんまで、張遼役の人による兼ね役だったし(真以降では、専任の声優さんが新たに着いた)。あの一行殺の所為で、真以降でも不憫キャラがデフォルトに…。(クラスター・ジャドウ)
>>ミクボンさん 白蓮さん人気者だなぁ……。不遇だけど、むしろ不遇だからこそなんでしょうかw(黒天)
ぱいちゃんは、俺の嫁だ・・・(ミクボン)
>>Alice.Magicさん 知らなかっただけです!w もう忘れないはずなので大丈夫です(黒天)
真名忘れるとかひどすぎるよ!w白蓮ちゃん器用貧乏でみんなの役に立てるのになんで影が薄い扱いされるのだー!(Alice.Magic)
>>きまおさん 指摘ありがとうです、修正しました!(黒天)
細かいツッコミですが誤字。多分あの頭のなかでは猛スピードで戦闘がシュミレートされているのだろう。>シミュレート、が正しいです。誤解されがちですが。(きまお)
>>陸奥守さん 無印だといつの間にか死んじゃいますからね、白連さん。彼女の運命がどうなるかはお楽しみということで……(黒天)
>>ヒトヤの蠱惑魔さん 修正しました!まぁ、恋姫も結構古いゲームですもんねぇ……。(黒天)
無印しかやってないなら白蓮の運命がやばいって事になるんですか?白蓮有能、白蓮かわいい、だから助けてあげて。(陸奥守)
体長ではなく隊長かと、それと無印の記憶ももう曖昧なのでまるっと々でも問題無しですぜ旦那(親善大使ヒトヤ犬)
>>飛鷲さん 無印だと公孫賛の真名は出てこなかったのですよ……。さてさて、朱里と桂花さんの関係はこの後どうなっていくでしょう……。私にもまだわかりません(黒天)
↓↓白蓮の事を忘れちゃダメだって!!真では朱里が政治、雛里が軍事を統括していました。まぁ2人は仲良しなので仕事もプライベート(BL本読む時とか)も一緒にいたみたいですけど。(飛鷲)
>>TAPEtさん 無印しかやってないのでー……。真の勢が何かもわかってなかったりします。 早速修正しました!指摘ありがとうです(黒天)
>>nakuさん つるぺたで固めるw 他は、董卓達とかですか。うーん、どうしましょう?w あと白蓮って誰だろうとおもって調べてみたら公孫賛の真名だったんですねw(黒天)
>>飛鷲さん コメントありがとうございます。他作をしらないのでそういう風になるかは謎ですが、多分作業の分担したりはしていくかもです(黒天)
無印の展開ですね。じゃあ真の勢は出ないんでしょうかね。それと本郷となってる所があるので修正が必要ですね。(TAPEt)
朱里と雛里みたいに分担作業してる感じになりそうですね。(飛鷲)
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