しっとりシュークリーム |
どうして膨らまないんだろう。
何度も何度も試みるんだけど。
オーブンからでてくるのは、無残にひしゃげた黄色の物質。
これは、私の未来の行く末なんだろうか。
こんなにも、想いは膨らんでいるのに。
「なんでシュークリームなの!?」
料理部の友達には、初心者で不器用な私には絶対無理だから、もっと簡単なものから始めろって言われた。
でもしょうがないじゃない。
作りたいんだもん。
小さくて、ふわっと軽くて、甘くって。
そんなシュークリームみたいな女の子になりたかった。
でも、私には作ることさえ叶わないみたい。
とぼとぼ一人で学校帰り。
ため息ばかり出てしまう。
「おい」
ふと後ろから声をかけられて振り向くと、今一番会いたくないやつがそこにいた。
顔を見られたくなくて、すぐに前を向く。
「無視すんなよ。最近なんで野球やらないんだ?」
「別にいいでしょ。最近おかし作りにはまってるの」
「おかし?」
「なによ、似合わないって言いたいの!?」
「んなこと言ってないだろ。女子の間で流行ってるみたいだしな。さっきもこれもらったんだ。食う?」
スポーツバッグの中から出てきたのは、よりにもよってシュークリーム。すごくキレイに膨らんでる。
「…これくれたの、しーちゃん?」
「あぁ、うん。そう」
なんだ。また、先越されちゃったんだ。
例えば、空に浮かぶ雲のように。
縁日で売ってる綿菓子のように。
こいつが持ってるシュークリームのように。
やわらかいイメージのしーちゃん。
私がなりたかった理想の女の子。
いつもこいつにおかしをプレゼントしてる。
「ほら、やる」
差し出されたシュークリームは本当においしそう。
「もらったものあげちゃっていいの?」
「だってこんなにあるしさ」
「シュークリーム、好き?」
「まぁ、食い物はなんでもな。でも」
「でも?」
「食うのもいいけど、野球のボール投げてるほうがいいな。お前も、だろ?」
「…」
「…違うか。オレが、お前もそうであってほしいと思うんだ。だから」
「?」
「たまには野球、一緒にやろう。じゃあな!」
遠ざかっていく後姿を見ながら、もらったシュークリームにかぶりついた。
私には絶対こんなの作れない。
でも、野球だったら負けないんじゃないかな。
自分にしかないもので勝負するのもいいかもしれない。
膨らまなかったシュークリームの代わりに、膨らんできた見えないボールを、小さくなった背中に向かって思い切り放り投げた。
説明 | ||
シュークリームにまつわる、淡い初恋物語です。 | ||
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