自死の商人
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「これがわが課が先月から試験的に販売を開始した新商品です」

男が自信満々に出したものはちゃちなクリスマスの飾りのようなものだった。

「こんな何の変哲もないもののどこが新商品なんだ?」

男の上司が不機嫌そうに尋ねた。

「たしかに何も目新しい所のない見た目ですが、この商品の売りは使い道です。これは手軽に自殺をするためのものなのです。自殺補助具と言ったところでしょうか」

「自殺補助具だと?ばかばかしい。そんなもの売れる訳ないだろう。第一、そんなものを売ったら社のイメージが悪くなるどころでは済まんぞ」

半ば呆れながら上司は男に怒りと侮蔑のこもった視線を向けた。

「もちろん『自殺補助具』なんていう反社会的なものではなく、単なる部屋の飾りとして販売しています」

「自殺をしようとしている人々はおそらくこの商品を目聡く見つけて、本来の使い方である『自殺補助具』として使うでしょう」

男は説明を続けた。

「それに我が国の年間の自殺者数は約三万人です。これだけいれば毎年ある程度の需要を見込めるでしょう。まだ多くはないですが、実際ある程度の売り上げが既にあります。さらに……」

「さらに?」

「この商品は隠れた自殺需要を呼び起こすでしょう」

「我が国の宗教は他の多くの国と違って自殺を禁じていません。しかも文化的背景からすると自殺を推奨しているといっても過言ではありません」

「確かに……『武士道とは死ぬことと見つけたり』などとも言うしな……」

上司は戸惑いながらも肯定した。

「そんな我が国で自殺を思いとどまる原因とはなんでしょうか?」

男の問いに上司は

「死にたくないという意思じゃないのか?将来の希望だとか」

と答えた。

「それは前の段階ですね。死の欲求が将来の希望を越えたあとに思いとどまる原因の大きなものは手順の煩雑さです」

「例えば首吊りの場合は頑丈なロープを用意するところから始めなくてはなりません。そしてそれを結んで、自分の首を通すという手順が必要です。こんなことをしているうちに死ぬのが怖くなってしまって諦めてしまうんですよ」

「そういうものなのか?」

「人間なんてそんなものですよ。いくら将来の希望が持てないと言っても目前に死の恐怖が現れれば躊躇してしまう。ちまちま自殺の準備をしている間にその恐怖に負けてしまう。銃があればこめかみに押し当てて引き金を引くというシンプルな動作で死ねる。恐怖に負ける前にサクッと逝ける訳です。しかし我が国では残念ながら銃を手に入れるのは非常に難しい」

「つまりこれは銃に代わる簡便な自殺道具という訳か」

「そうです。普段は部屋の飾りとして使い、死にたくなったら本来の使い方をする。本人は簡単に死ねる、私たちは商品が売れるという相互にメリットがあります」

「そう聞くとメリットがあるように見えるが、倫理的な問題が…」

「いえいえ、部屋の飾りとして売る商品なのですから、私たちがそんなことを気にする必要はありません」

「わが社の商品が自殺に使われるという所には良心が痛むが、買った商品をどうするかなんていうのは消費者の勝手ということか」

「そのとおりです」

「しかし……」

ここで上司は気付いた。

「しかし、君の説明だとこの商品を使う人の一部は本来であれば自殺を諦めるはずなのではないのか…?」

「経済の発展のために多少の犠牲は仕方ないかと。それに……」

「それに?」

「わが社のモットーは『困っている人に救いの手を』ですから」

 

説明
ショートショートというのもおこがましい長さですが
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