仲がいいほど何とやら
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がっしりとした太い腕にぶら下がる、小さな影が二つ。

 

「おっし、回るぞ〜!」

 

楽しそうな掛け声とともに雨合がその場で回って見せると、左右の腕にぶら下がった十助と苺から歓声が上がった。

 

「うおぉぉ!はえぇぇ!!」

 

「おじさん凄い〜!!」

 

「これくれぇ余裕余裕!」

 

わっはっはと豪快に笑い、その後も二・三回、緩急をつけながら回ってから二人を下ろす。下ろされた二人もだが、あれだけ回って誰も目を回していないのは流石と言うところだろう。

 

小柄ではあるが幼子と言うわけでも無い二人を両腕にぶら下げて、その上体幹を全くぶらさずにぶん回す膂力。

その様子を見ただけで、武に秀いた物は彼の身体能力が伺い知ることが出来る。

 

たまたま通りがかった黒犬も足を止め、すげぇ〜と感嘆を漏らした。

 

「雨合さん凄いっすね!」

 

「お、遠山の兄ちゃん。まぁ、鍛えたからな。」

 

お前さんも若いから、二・三人抱えて走れんじゃねぇか?なんて肩を回しながら。

 

雨合の腕から降りた十助はさっそく自分でもやりたいのか、一番身長の近い涼に頼んでいる。身長差を埋めるために縁側の段差を利用しているのを見て、気付かれぬように笑った。何かと突っかかってくる奴ではあるが、子供らしい一面を見ると猫可愛がりしたくなる。

 

結局十助はおんぶに切り替えたらしい。自分の力を試してみたいというのは男なら誰しも思う事。腕にある程度覚えがあればなおさら。

 

黒犬自身もこの新しい力自慢の遊びに興味が惹かれた。

誰かにぶら下がって貰おうか。キョロキョロと辺りを見回すが、あいにく話しに乗ってくれそうな人の手が空いていない。梨はどちらかと言えばやる側だろうし、鶯花を持ち上げる気は無い。というか、あいつの方が背が高い。

 

クルクルと視線を動かしていると、後ろからパタパタと軽い足音が聞こえた。どうやら苺が梨にやってみないか誘っているようだ。

 

まぁ、後でもいいか。そう思った直後だった。

 

「くーちゃんおんぶぅっ」

 

「ぐぇっ!?」

 

ドーン、と、勢いよく苺に背中に飛び付かれた。小柄な苺ではあるが、油断しきっていた所に背後から…しかも歩き始めであった為に平衡を崩し、そのまま前方に倒れ込む。

 

幸か不幸か、倒れた方向には誰もいなかった為に巻き込む事は無かった。が、逆に言えば救いの手も無かった。

 

「黒犬さん!?」

 

「あれ?くーちゃん?」

 

鶯花は飾をぶら下げたまま振り返り、苺は驚いたように黒犬の名を呼んだ。常の彼なら飛び付いた所でよろける事も無かったのだ。飛び乗った姿勢のまま肩のあたりをゆする

 

「ぶざまだな」

 

「おいおい遠山の!そんなことで潰れてちゃあ…ブハッ…ククッ」

 

「い、苺ちゃん、黒犬さんがつぶれちゃってます!」

 

梨の毒舌と雨合の笑い声に混ざって涼が案じる声がした。

前二人のからかいにカチンと来はしたものの、いつまでもつぶれている訳にもいか

ない。背の苺を落とさないようにゆっくりと立ち上がり、苺も落ちないように慌てて首に腕をまわしてしがみついた。

 

「どーってことねーよ……いきなり勢いよく来たから間に合わなかっただけで」

 

「言い訳かよ負け犬」

 

縁側から飛び降りるようにしながら十助がちゃかす。普段からやり合ってる相手だけに軽口もポンポンと飛びだす、が、その背中には落ちないようにしがみつく涼の姿。降り損ねたらしく、少し後ろに涼の草履が落ちている。

 

「言い訳じゃねーし!てか負け犬って言うな!それに段差使ってたお前に言われたくねーな十助」

 

「しょーがねーだろ背が……っ!!!」

 

言いかけた所で十助の言葉が止まる。続く言葉で墓穴を掘る事に気が付いた。顔が怒りで赤くなり、握った拳を奮わせる。少し悔しそうな目でキッと黒犬を睨みつける。

 

「〜〜くそー!負け犬!てめーぶっとばしてやる!」

 

「返り討ちだ!」

 

どこか楽しそうに黒犬も応戦し、じゃれ合いのような喧嘩が始まる。ただし、じゃれ合いといっても野生動物の…だが。

 

「わーい」

 

「苺!危ないから今すぐおりろ!」

 

互いに少女を背負ったまま、かつ攻撃を間違えて当てる事も無く喧嘩する技量には感心するが、やっている事は感心できない。

 

「とっ…十助くん!一度…止ま…ひゃ!!」

 

自身より大きい黒犬の背の苺はそう大変そうでもないが、より小柄な十助にしがみつく涼は必死だ。いや、いっそ落ちた方が危なくないかもしれないが、そこまで頭が回ってはいないようで。

 

「ははっ!いや〜若いっていいねぇ〜。なぁ!魚住の嬢ちゃんよ!」

 

雨合の目には仲良くじゃれ合っているようにみえるのか、それともたんにからかっているのか。恐らく後者だが、一番混乱している涼に声をかけた。こぶしや蹴りを避け合う為に激しく揺れる背中では、声もぶれて聞こえる。

 

「雨合さん!二人をどうにかしてくださいっ!」

 

「おっ、そうだったな〜」

 

若干非難めいた声に、雨合もおもむろに腰を上げた。鶯花を手招き、喧嘩を続ける二人に何の気負いも無く近づくと。

繰り出される途中の黒犬の腕と、十助の首根っこをひょいっと掴み、力を入れた風も無く簡単に二人の動きを抑えてしまう。

全力とまでは行かずともそれなりに力を込めていたのを平然とした表情のまま抑えられ、黒犬も十助も何が起こったか分からないというふうに雨合を見上げた。

 

「喧嘩すんのは構わねぇが、嬢ちゃん達は下ろしてからにしろよな」

 

言いながら苺を黒犬の背から下ろし、涼も鶯花が引きとった。

 

「ありがとねおじさん!!」

 

「すみません…助かりました」

 

楽しそうな苺と違い、涼は酔ったのか少しふらふらしている。

 

「鶯花さん、二人が宿を壊すようでしたら…教えてください」

 

お説教に来ますから。そう言い残して涼は部屋へと戻って行ったが、近くに居た鬼月に十助の腰切り棒が当たり、「やりやがったな」と呟いて乱闘に加わったり、面白そうだとばかりに雨合が混ざったり…。

 

存外、早く説教を頼む事になりそうだ、と、鶯花は苦笑いをした。

 

 

 

 

 

「おや、手合わせですか…俺も混ぜて貰っていいですか?」

 

 

「黒犬!苺を危ない目に合わせるとはいい度胸だな。私の相手もして貰おうか」

 

 

 

 

 

 

いや、今すぐ呼んで来よう。

 

説明
ここのつ者小説2作目。
登場するここのつ者:玉兎苺・遠山黒犬・猪狩十助・雨合鶏・魚住涼・
黄詠鶯花・(金烏梨・蒼海鬼月・砥草鶸)
わちゃわちゃした最後にはみんな仲良く喧嘩してそうな。
保護者組の胃がマッハ。
色んな方と少しでも絡ませたくて、一言だけの方もみえますが、大勢お借りしました。
きっと、壊れた宿は鳶代飾くんが直してくれると信じてる。
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小説 ここのつ者 

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