とある 上条ハーレム会議完結編 サヨナラノツバサ
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とある 上条ハーレム会議完結編 サヨナラノツバサ

 

 

「俺のクソチビの唯一無二の魅力を否定した貴様を許すことはできねェッ!!」

 漆黒の翼を生やし、怒り狂った学園都市最強の称号を持つ少年が上条当麻へと上空から迫ってくる。その距離はもう5mとない。

「ロリコンの理屈は俺には分からねえってのッ!!」

 当麻は全力疾走を続けながら長年の戦闘で培った勘を頼りに一方通行の腕を避ける。公園の障害物の多い地点をジグザグに走りながら標的となる確率を少しでも減らす。

「俺はなぁ……っ! 年上の家庭的なお姉さんタイプが好みなんだよッ!」

 脳が命令を下すよりも速く全身を前後左右に揺らして動かしながら一方通行の追撃を必死にかわし続ける。

自称モテない硬派な男子高校生の当麻にも譲れない理想はある。一方通行の暴力に屈して己の理想を曲げてしまうことは絶対に嫌だった。

「小学生が最高だという当然の理さえも受け入れられねェのか貴様はァッ!!」

「そんなのはロリペドだけに通じる理屈だってのッ! 俺には通じねえッ!」

 当麻と一方通行の追走劇は既に1時間に渡って続いている。延々と公園内を回って追いかけっことかくれんぼが続けられている。

「もう……足に力が入らなくなってきやがった」

 ほとんど休む間もなく走り続けている当麻は既に体力の限界を迎えている。生存本能だけが少年の足を動かし続けている。

「チッ! 視界が霞やがる……」

 一方通行もまた能力を1時間連続で使用しているために体力と集中力は既に限界を迎えている。頭は朦朧としている。しかし己の信念を否定された怒りでそれらを補っている。

 2人は共に限界を超えている。状況に何らかの変化が起きることを望んでいた。

 そして──

 

「あっ!?」

 地面に落ちている小石に足を引っ掛けて当麻が体勢を前のめりに崩す。

「んなろうっ!」

しかし当麻は崩れた体勢のまま右足を前に出して踏ん張ろうとした。だが、蓄積された疲労に声なき悲鳴を上げていた当麻の足は意志の遂行を拒んだ。

 足に全く力が入らず土の地面に膝から崩れ落ちる。

「クソッ!」

 当麻はそれでもめげずに立ち上がろうと下半身に力を込める。しかし、額から汗が流れるばかりで足は少しも動いてくれない。

「シャッシャッシャ。もう動けねェみてェだなァ三下ァ。これで終わりだァッ!」

 一方通行が速度を上げながら上空より近付いてくる。

「舐めんなよ。俺にはまだ右手が……クッ」

 舌打ちが漏れ出た。迎撃に移ろうにも正座姿勢から動けない。足に力が入らない。

右手だけ一方通行に向けて構えてみるものの、動けない体では腕の稼動範囲が狭すぎる。一方通行に対して無防備な的を晒し過ぎている。

「俺……こんな所で死ぬのかよ?」

当麻の脳裏にある単語が過ぎる。平和になって遠ざかったとばかり思っていた“死”という単語が。

「畜生ぉおおおおおおおぉッ!!」

 当麻は一方通行に向かって、その先の天に向かって行き場のない憤懣と隠された悲鳴を大声で叫んでいた。

 

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「むにゃむにゃぁ〜わたしの胸がDカップに増量された暁には〜とうまを狙う有象無象なんか全部けちょんけちょんなんだよぉ〜」

 学園都市第七学区某高校家庭科室。

 白い修道服を身にまとった幼さを顔に残す少女が机に突っ伏して眠っている。涎を垂らしたその表情はとても気持ち良さそう。

 そんなシスター少女をスタイルの良いショートカットの少女が優しく見守っている。

「お顔を拭かせていただきますね」

 五和はおしぼりを取り出すとインデックスの顔にそっとあてた。口の周りの涎が綺麗に拭き取られていく。

「綺麗になりましたよ…………これからはイギリスで幸せに暮らしてくださいね。飛行機の貨物室はちょっと寒いかも知れませんが」

 五和は優しい笑みを浮かべたまま、50円切手を額に貼り付け頬に英文で住所が書く。それから携帯を取り出してどこかに連絡を取ると、インデックスに背を向けた。

「さて、そろそろ戻りませんと」

 五和は再び振り返ってインデックスの顔の前に新しいおしぼりを置いておく。

「どうぞ」

 五和が置いたおしぼりからは柑橘系の清涼な香りが微かに漂ってきた。

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「小学生幼女の良さも分からねェ愚か者の三下は今すぐ死ネェエエエエェッ!!」

 刀のような鋭利さを感じさせる一方通行の右腕が当麻に向かって伸びる。風を引き裂く音が耳に伝わってくる。

「まだ恋人もできたこともないのに……こんな所で死ねるかよぉッ!」

 当麻は迫り来る一方通行を睨み付ける。

 右手で迎撃に向かうものの一方通行が掻い潜ってくるだろうことは簡単に予想がついた。当麻もまた長年の戦闘経験を持つ戦闘のエキスパートなのだから。

死。

 優秀な戦士であるが故にまばたきの先の未来が予想できてしまう。

 死にたくない。

 未来が分かってしまうからこそ、当麻はその結果に対して激しい拒否感を覚えた。

 そんな当たり前の生存本能が当麻に彼にとっての禁句を叫ばせた。

「誰か……助けてくれぇえええええええぇっ!!」

 当麻が他人に助けを求めるのは久しぶりのことだった。

 彼はいつもヒーローであり助ける側の人間だった。そして自分以外の誰も戦いに巻き込みたくなかった。だから、決して他者の前で弱音を吐かなかった。

 当麻は他者に対しては助けを切実に求めることの大切さを訴え続けている。だが、その実当麻自身は自分から助けを求めることを戒めていた。

 その意味で当麻はとても歪んだ生き様を示していた。

そんな当麻が誰とも知れずに助けを求めた。それは少年が人との繋がりに活路を求めた人生の転機となった瞬間でもあった。

 

「分かりました♪ 今、お助けしますね♪」

 幼さを残す少女の明るい声が当麻の耳に届いた。更に次の瞬間、目の前が突然暗くなった。

「何だ、一体っ? 何が起きたんだ?」

 当麻の目の前に突如大きな壁が生じた。いや、前方だけでなく情報も左右も後方も塞がっている。ドームと言った方が正解に近い壁が当麻を覆い囲んでいた。

「何だよこれ?」

「なンだよ、この邪魔なもンはよォッ!!」

 何故ドームが突然生じたのかは全くの不明。けれど、突如出現したこの防壁によって一方通行の攻撃から当麻が守られているのだけは確かだった。

 一方通行が防壁を破ろうと攻撃を繰り返す音が聞こえてくる。

「グッ、ギャァアアアアアアアアアアァッ!?!?」

 そして一方通行の悲鳴が聞こえた。しかもその悲鳴は段々と遠ざかっていく。

「この悲鳴……一方通行がぶっ飛ばされて遠ざかっているってのか? 何が起きてるんだよ!?」

 外界との情報を閉ざされた当麻には何が起きているのかまるで分からない。

「一体これは何なんだ?」

現状を把握すべく360度見回しながら手掛かりを探す。すると、ドームの後方は完全には塞がれておらず光が差し込んでいる部分があるのを発見した。当麻は視界が効く穴の周囲をよく観察してみた。

「4本の巨大な肌色の丸太? いや、もしかするとこれは人間の手か?」

 確証はない。ないのだが、当麻は今自分が大きな人間の手に包まれて守られているのだと直感した。

「うん? 大きな人間?」

 当麻が何かに思い当たった次の瞬間──

「えっ? 視界がクリアになった?」

 当麻を覆っていたドームは突如姿を消してしまっていた。

 まるで夢を見ていたと謂わんばかりにドームは影も形もなくなっている。

 けれど、ドームの代わりに生じたものがあった。当麻のすぐ隣に頭に花を咲かせたセーラー服姿の少女が立っていた。

 

「初春……っ」

 少女は当麻の知り合いだった。

「こんにちは……BL王上条さん」

 初春飾利は思春期の少女らしい恥ずかしげな照れ笑いを浮かべながら当麻に挨拶した。

「なのなの」

「こんにちは、です」

 当麻の隣にいたのは初春だけではなかった。

「あっ、ああ。春上も枝先もこんにちは……」

 挨拶を交わしながら当麻の心臓の鼓動が速まっていく。

女子中学生と意思疎通するのに緊張しているのではない。無自覚とはいえハーレム王の異名を持つ当麻が少女たちに囲まれたぐらいでは緊張しない。

 それは当麻の隣に立っているのが柵川中学校トリオの少女たちだから。腐の付く3人娘だから。

 けれど、苦手意識が抜けないにしても当麻には言わなければならないことがあった。

「その……初春たちが助けてくれたのか?」

 伏し目がちに確かめる。

「さあ、どうでしょうか?」

 初春はとぼけてみせた。

「でも、さっき、ドームを作って俺を命の危機から救ってくれたのは……初春たち、だろ?」

 確証はないものの、先ほどのドームは巨人の手なのではないかと当麻は思っている。

 そして当麻は巨人の正体が初春ではないかと考えている。本人は公言していないし、変身する瞬間を見たこともないが。

「BLの力で上条さんは生きながらえた。それだけは確かなのだと思います」

 初春はまたも直接的な返答を避けた。

「まあ、細かい事情は詮索しないでおく……その、助けてくれて……ありがとうな」

 照れ臭かったが、嬉しくもあった。

 人に助けてもらうのも悪くない。当麻の中で少しだけ考えが改まった。

「どういたしまして。全ては良質なBLを維持するためですから♪」

「なのなの♪」

「人として当然のことをしたまでです」

 柵川中学3人娘は楽しそうに笑って返した。和やかな雰囲気が当麻たちを包み込む。だが、話はここで終わってはくれなかった。

 

「テメェ……よくもやってくれたなァッ!!」

 50mほど後方に吹き飛ばされていた一方通行が漆黒の翼をはためかせ再び当麻たちの元へと飛んで返ってきた。

「中学生のBBAどもォッ!! ランドセルを脱いだ熟女な分際でェ、よくも俺の三下へのお仕置きを邪魔してくれたなァッ!」

 地面に降り立った一方通行は怒りの視線を初春へと向ける。けれど初春は全く動じない。ほえほえっとした和やかな表情を浮かべ続けている。

「未来の旦那さんを傷つけるなんてダメですよ♪ 夫婦は仲良くしなきゃ♪」

「誰が誰の未来の旦那だってンだァッ!? 中学生の耄碌したBBAが世迷言を言ってンじゃねえぞッ!」

 一方通行は初春を激しく叱責する。けれど、それでも花環少女は動じない。

そして当麻は体を震わせていた。けれど、その恐怖対象は一方通行に対してではない。中学生少女トリオに対してだった。

「何で初春たちを見ているとこんなにも恐怖で体が動かなくなるんだよ!? 年下の可愛い中学生の女の子が3人いるだけじゃねえか」

「可愛いだなんて照れちゃいますね♪」

「なのなの♪」

「たった一言でハートを鷲掴みされてしまいました。さすがはハーレム王ですね。ポッ」

 照れ顔を浮かべ恥ずかしがる初春たち。だが、照れている最中にも当麻が彼女たちから受けるプレッシャーは一方通行の比ではない。

「でも、上条さんの優しさは男の人にだけ向けられるべきですよね♪」

「なの♪ BLに女の子は不要なの。ハーレム王の愛情は男にだけ振り撒くなの。そして男同士の陵辱劇を見せて欲しいなの♪」

 初春と春上衿衣はとても朗らか。

「私も初春さんと衿衣ちゃんの教育のおかげで帰依した身。上条さんの恋の相手には男性が相応しいと思います。その、上条さんは女の私から見てとても素敵な男性だと思いますが……」

 枝先絆理は当麻を見ながら特に顔を赤らめた。

「お前らBLとか一体何を言ってんだよ? ……一方通行のロリ理論並に分からんねえぞ」

 当麻の額を流れる汗が止まらない。けれど、当麻は悟らざるを得なかった。一方通行と柵川中学トリオ。この2つの勢力を同時に巻くことは不可能だと。前後を挟む2匹の蛇に睨まれた蛙の心境だった。

 

「上条さんと一方通行さんの恋が成就するためには、まず一方通行さんが、自分の恋心と素直に向き合えるようになる必要がありますよね」

 初春は当麻と一方通行を交互に見ながら思案顔をしてみせる。

「一方通行さんには調教、じゃなくて教育が必要なの」

「そうですね。BLに適した再教育を受けてもらうことにしましょう♪」

 初春が衿衣の言葉に頷く。そして楽しげに手を叩きながら絆理に向かって告げてみせた。

「それじゃあ今日は枝先さんのレベル6昇級試験を行いたいと思います♪」

「試験、ですか?」

 絆理が眉をしかめながら困った表情を見せる。

「はい。とっても簡単な試験でレベル6に上がれますよ♪」

「それって、どんな試験でしょうか?」

 とても楽しそうな初春に対して絆理が恐る恐る尋ねる。

「枝先さん1人でレベル5第1位の一方通行さんを撃破してください♪ または支配下に置いてください♪ そうすれば枝先さんもレベル6に昇級ですよ♪」

「えぇええええええええぇっ!?!?」

 初春の無理難題に絆理が驚きの声を上げる。

「私が1人で一方通行さんに勝つなんて無理だよぉ」

 初春と衿衣は微笑みながら首を横に振った。

「そんなことありませんよ。1000万BLネットワークにコネクトしてホモを愛する清らかな乙女たちのパワーを分けてもらえば意外と簡単に倒せますよ♪」

「巨人化して握り潰せば一発なの♪ とっても簡単なの♪」

「私……巨人化するのはちょっと……」

 戸惑いの表情を見せる絆理。

 

「おいッ! BBAども。テメェらなんで俺に勝つことを前提で話進めてンだァ?」

 一方通行が肩を怒りで震わせながら当麻たちへと近付いてくる。

「さあ、枝先さん。一方通行さんはやる気十分みたいなので頑張ってちゃっちゃと倒しちゃってくださいね♪」

「頑張って絆理ちゃん。レベル5なんか青銅聖闘士、良くて精々が白銀聖闘士。今風に言えば3級パラサイト。BLネットワークの力を引き出せる絆理ちゃんの敵じゃないのなの」

「そ、そんなことを急に言われてもぉ〜〜」

「そこのカチューシャ女が俺の相手ってかァ? 学園都市最強の称号を持つ俺も舐められたもンだな」

「ふぇえええええええぇんっ!!」

「どうなってんだよ、一体……?」

 こうしてリハビリ上がりの少女絆理は学園都市最強の称号を持つ白もやしと初春たちの助けなしで戦う羽目になったのだった。

 

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「五和ちゃん。ご苦労さまだったのです」

「いいえ」

 五和が体育館へと戻ってきた。

「夏も盛りの内にみんなで海に行きませんか? スイカ割りとか楽しいと思うんですよ」

「佐天さんや食蜂と一緒に海なんか行ったらストレスで死ぬ自信があるっての」

「えぇ〜? 私はぁ御坂さんと2人で海の家にお買いものに行くのすっごい楽しみ力全開なのにぃ」

「そうしてツーショットの機会を作り胸囲の格差社会をお姉さまに痛感させるのですね。実に素晴らしいです。と、ミサカは涙ぐむお姉さまが見たい気持ちを素直に吐露します」

「まったく、貴方たちにはお姉さまの奥ゆかしい胸の素晴らしさが欠片も分かっていませんのね。美乳と微乳は発音が同じだと言うのに」

彼女がインデックスに付き添っている間に、美琴の電撃によって沈黙した中学生の少女たちは全員が復活を遂げていた。会議は休憩中らしくとりとめのない雑談が耳に入ってくる。

「シスターちゃんの姿が見えませんが?」

「私が作った食事を召し上がられて現在お昼寝の最中です。起きたらそのままお帰りになられるそうです」

 五和は頭を下げながら返答した。

「……てっきり始末したのかと思ったのです」

 魔法少女モードの小萌は口元を動かして何かを呟いた。

「どうぞ」

 五和は爽やかな笑みを浮かべながら小萌におしぼりを差し出した。

 

「それでは五和ちゃんも戻ってきたので、最終セッションを始めるのです」

 小萌が立ち上がり会議の再開を宣言する。各参加者も自分の席へと戻っていく。五和は小萌の後ろへと控えた。

「最終セッションは上条ちゃんとの恋愛を諦めるか否か。それを最後に確認するのです」

 小萌の凛とした響く声に参加者たちの表情が引き締まる。そして各自は座ったまま腕を曲げ伸ばしたり首を回したりとストレッチを開始した。無言の準備体操が行われる。

「今日の会議を通じて上条ちゃんのことを諦めようと心が折れた子はいますか?」

 小萌は参加者一同を首を動かしながらグルッと見回す。

「諦めてしまった方が吉なのですよ。殺戮劇に巻き込まれなくて済むのです。男なんて星の数ほどいるのです。上条ちゃん以外にもいい男は幾らでもいるのですよ」

 小萌が説得を試みるほどに少女たちは念入りにストレッチを行っていく。

「みんな命が惜しくないのですかっ!?」

 小萌の最後の問いかけ。少女たちは沈黙をもって返答とした。俯き加減の五和の瞳が鋭く尖った。

 

「どいつもこいつも生き急ぎの大馬鹿娘ちゃんたちなのです。先生はがっかりなのですよ」

 小萌は大げさに息を吐き出してみせた。

「では、上条ちゃんを諦めてくれるおりこうちゃんは1人もいないということですね」

 小萌はもう1度大きくため息を吐きながら肩をすくめてみせた。

「ならば、暴力なのです」

 小萌の掛け声と共に参加者の少女たちが一斉に立ち上がる。

「ライバルが全員冷たい躯を曝せば自動的に上条ちゃんは手中に納まるのです。各自、暴虐の限りを尽くして上条ちゃんの愛を手に入れるのです」

 佐天はバット、美琴はコイン、黒子は鉄杭という風に各自が得物を構える。会場が殺気で満ち満ちていく。

「戦いの開始の前に……どうぞっ」

 五和は全員におしぼりと冷茶を差し出していく。

「お茶を飲んだらバトル・ロワイヤルのスタートなのです♪」

 小萌が受け取ったお茶をがぶ飲みしながら告げる。小萌に倣って冷茶を一気飲みしていく少女たち。

「おかわりもありますよ。どうぞ………………天草式特製の全身麻痺薬入りですが」

 五和は少女たちが冷茶を飲み干していくさまを見ながらニッコリと笑った。

 

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「おいッ、デコカチューシャ。テメェがこの俺の相手をしてくれるらしいなァ。ヨロシク頼むぜェ。ヒャッハッハッハ」

「ひぃえええええええぇっ!?」

 枝先絆理は目の前で対峙する下品な高笑いを奏でる少年を見て全身を震わしていた。顔が強ばって今にも泣き出してしまいそう。

「枝先さ〜ん。ちゃっちゃと一方通行さんを倒してレベル6に昇格してくださいね〜♪」

「ホモパワーで1発なの〜♪」

 一方でチートパワーを自在に操る初春と衿衣は呑気な鼻歌混じりの応援を行っている。緊張感の欠片も見えない。

「なあ、アレ。まずいんじゃないのか? 枝先の奴、相当に危険なんじゃねえか?」

 1人上条当麻だけは心配しながら絆理の対峙を見守っている。

「心配要りませんよ。枝先さんはBLネットワークの力の引き出し方にまだ慣れていないだけです。素質は十分ですから」

 当麻の質問に対しても初春は重ねて心配していないことを述べた。

「それを世間一般では大ピンチって言うんじゃないのか? あの子、チートパワーがなければレベル1か2なんだろ?」

「獅子は我が子をBLの穴に落とすと言います。枝先さんにもこの極限状態の戦いを通じて真のBL戦士として覚醒してもらいたいと思います」

「なの♪ 危機的な実戦を通じることでレベル6への絶対進化はこの世界のお約束なの♪」

「それって覚醒できなきゃ枝先があの学園都市最強のロリコンに殺されるってことだろ!? 誰もがヒーローになれるんなら苦労はねえっての」

 当麻は初春たちのスパルタ式教育に驚いていた。

 

「デコカチューシャ。オメェから来ないようなら……俺から行かせてもらうぜッ!」

 一方通行が右手を前に向かって突き出す。空気の流れが操られ、手の平から発せられた突風が絆理を襲う。

「キャッ!?」

 絆理が悲鳴を上げながら尻餅をついて地面にうずくまる。突風は絆理の2m右横を突き抜けていった。

「おかしい……俺はあんな風にわざと外すつもりはなかった。なのに、なンであんなに外れた?」

 一方通行は自分の右手を見つめながら何か考え事をしている。

「枝先、立つんだっ! そんなヤバい男相手にしゃがみ込んでいたら的にされるだけだぞ」

「はっ、はいぃ〜〜っ!」

 当麻のアドバイスを受けて絆理が立ち上がる。けれど足がガクガクと震えてしまっており、まともに動けそうにない。

「チッ! どういうことかもう1度確かめてみっか」

 一方通行はもう1度右手を前に突き出した。

「ヒッ!?」

 絆理が小さい悲鳴を上げると同時に突風が繰り出される。先ほどよりも威力を増した大風が。しかし、突風は絆理を大きく外れて明後日の方向、当麻たちの方向へと飛んできた。

「なろっ!」

 当麻は慌てて右手を突き出して突風を無効化する。

「危ねえじゃねえかっ!」

 大声で一方通行に向かって抗議する。

「涼しくて気持ちがいいですよねぇ〜♪」

「なの♪」

 初春と衿衣は全く動じていなかった。

「おい、一方通行っ! テメェ、初春たちもまとめて片付けようってんなら、俺も黙っちゃいねえぞ」

 当麻は鋭い視線を一方通行に向けて睨みつけた。

「ンなンじゃねえよ。ただ手元が滑っただけだ」

 一方通行は頭を軽く掻きながら枝先を見たまま。当麻とは取り合わない。

「お前、学園都市1位だろうがっ! そんな凡ミスするかっての!」

「確かに2度続けての風の操作ミスなんて俺らしくもねえ。ただ1つの心当たりを除けばな」

 絆理を見る一方通行の瞳が細まった。

 

「おいッ、デコカチューシャ」

「なっ、何ですか?」

 震えながら一方通行に答える。

「テメェ、本当に中学生か?」

 一方通行の瞳が鋭くなった。

「ちゅっ、中学生ですよ。この柵川中学の制服が何よりの証拠です」

 絆理は自身の服装を指で指し示す。

「なら、質問を変えるゾ」

 一方通行の瞳がギロッとした狩猟者のものへと変わる。

「オマエ、飛び級中学生とかじゃねえのか? 本当は10歳のガキとかじゃねえのか?」

「わっ、私は13歳のれっきとした中学1年生です」

「本当かァ? 嘘ついてンじゃねえのかァ?」

 一方通行の瞳の迫力に絆理は全身をビクッと震わせた。

「…………その、とある実験の副作用で、数年間眠っていて……目覚めたらもう中学生ということになっていましたが……」

 絆理は辛そうに少し顔を俯かせた。

「えっ。そ、そうだったんだ」

 絆理のことをよく知らなかった当麻は少女の境遇を知って驚きの声を発してしまった。中学時代までの記憶をなくしてしまった当麻にとって絆理の境遇は他人事とは思えないものを含んでいた。

「なるほど。なるほどなァッ! ヒャッハッハッハ」

 反対に絆理の告白を聞いて一方通行は甲高い笑い声を奏でた。

「そっかァ。そういうことだったのかァ」

 腹を抱えて笑う。

「デコカチューシャ。テメェは身体はBBA、心は幼女だったンだなァッ! 道理で狙いが上手く定まらねェわけだ。幼女相手に狙い撃てるわけがねェ」

「わっ、私はBBAでも幼女でもありません!」

 一方通行は絆理の必死の抗議を無視して初春へと顔を向け直す。

「初春、テメェもひでェ奴だなァ。精神年齢はまだ1桁かも知れねェ女を腐改造するなンてよォ。絶対進化計画関連の研究者ぐらい逝かれてやがるぜ」

「そうですか? わたしは幼稚園児を対象とした読み聞かせ会でもBL本を題材にしてますよ」

「チッ。テメェは本気であのクソ科学者どもと変わらねぇ逝かれ具合だな」

「わたしはこの世を腐で覆い尽くすと決めたのです。普通ではできないことをやろうとするのなら、せめて覚悟ぐらいは必要ですよ。それが分からない一方通行さんではないでしょう?」

 初春は気負いなく微笑んだ。

「チッ! 本当に食えねェ奴だ。中学生のガキBBAとは思えねェ覚悟を決めてやがる」

 一方通行は大きく舌打ちを奏でた。

 

 

「まあ、とにかく俺の攻撃が逸れた理由は分かった」 

 一方通行は右手を握り締めた。

「なら、もうこんな無意味な戦いは止めろ。お前だって枝先と戦うことに抵抗を覚えているんだろ」

 当麻は一方通行に向かって戦いを止めるように熱く訴える。

「上条さん……」

 絆理はそんな当麻を見ていると温かい気持ちが胸の奥からひっきりなしに溢れてくるのを感じていた。こんな嬉しくて高揚する気持ちになったのは生まれて初めてのことだった。

「そンなわけには行かねェだろ。何しろ喧嘩を吹っ掛けてきたのは初春の方なンだぜ」

 一方通行が横目で初春を見る。

「わたしは枝先さんが負けるとは微塵も考えていませんよ♪」

「勝つとか負けるとか大事なのはそこじゃないだろうっ!? 初春は友達が血を流したり怪我する所を見たいのか?」

 のほほんとした返答を続ける初春に当麻が非難の声を出す。

「わたしは枝先さんがこの戦いで怪我をするとも欠片も思っていませんよ」

「どうしてだ? 相手はあの一方通行なんだぞ」

「その理由についてはですねえ……」

 初春は質問には直接答えずに絆理を見た。

「先ほどは1人で倒してくださいと言いましたが、若干条件を変更します。わたしや春上さんの手を借りずに一方通行さんを倒してくださいね」

 力強く頷いてみせる。

「えぇええええぇっ!? それじゃあ、さっきと全然変わらないよぉ!?」

 驚く絆理。

「初春。お前は何を考えている?」

「枝先さんにもレベル6の世界を知って欲しい。今はそれだけです」

 初春は重ねて微笑んだ。

「ンじゃ、初春の承諾も得た所でェ、勝負再開とすっかァ」

 一方通行の背中に漆黒の翼が生え、少年の体が空中へと浮かび上がる。

「マジかよ、一方通行のヤツ。本気で枝先を潰すつもりか?」

「ヒィエエエエエエエェッ!?」

 絆理は漆黒の堕天使を見ながら全身を震わせていた。

 

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「さて、時刻は丁度午後5時を迎えましたので本日の上条ハーレム定例会議は終了にしたいと思うのです」

 五和が差し出したおしぼりで汗を拭い冷茶を飲み終えた参加者たちは準備体操を繰り返しながら小萌の閉会の挨拶を聞いている。

「なお、この後は上条ちゃんの愛を掴むための時間無制限の暴力と殺戮劇タイムに突入なのです」

 小萌の説明に無言で頷く少女たち。好きな男の愛を勝ち取るためにはもはや暴力しかない。その想いで全員が一致している。

「先生はみんなのことを忘れないのです。だからあの世から先生と上条ちゃんの幸せを祝って欲しいのです」

 魔法少女モードとなっている小萌はうっすらと涙を浮かべながら微笑んでいる。彼女の頭の中で他の参加者たちは既に故人となっている。

 そんな小萌に対して少女たちは冷たい視線を一斉に送って返した。

「さて、みんなとのお別れの挨拶も済んだ所で、そろそろ殺し合いに入りたいと思うのですが……何か言い残したいとことや遺言やお墓の前で伝えて欲しいことはありますか?」

 小萌はあくまでも少女たちの死を前提にして話を聞く。

 少女たちは自分が勝者になるという固い信念を抱いて参戦しているために、遺言を残そうという悠長な考えは持ち合わせていない。

 だが、そんな緊迫した空気の中、後ろに控える少女だけが小さく挙手をした。

「はい、五和ちゃん。遺言を好きなだけ述べて欲しいのです」

「あの、遺言と呼べるかは自分でよく分からないのですが……」

 五和は恥ずかしげに頬を染めながら小声で告白する。

「みなさんがこれから殺し合いに興じることは不可能だと思うんです」

「どうしてなのですか?」

「だってみなさん……痺れ薬が全身に回ってもう動けないはずですから♪」

 五和は小萌をはじめとする参加者たちに控え目に微笑んでみせた。

 次の瞬間、小萌を除く全参加者が全身を急に支えられなくなって机の上へと突っ伏した。

「午後5時に発症するように念入りに調整を重ねておきました」

 五和は結果に満足しながら優しい笑みを浮かべる。

 

「あっちゃ〜……この展開は漁夫の利を狙っていた佐天さんもびっくりですよ」

 佐天たちはもう指1本動かせない状態に陥っている。

「柔和な笑顔に完璧に騙されましたわね」

「やっぱり女の笑顔に騙されちゃダメ。女は無表情なぐらいが丁度いい」

「秋沙が言うとやたら説得力があるな」

 各自麻痺状態からの回復を必死に試みるが動くのは口だけ。

「食蜂。何でアンタまで引っ掛かってんのよ? アンタが普通にあのお茶を飲んでいたから私も安心して飲んだのに」

 美琴の操祈に対する不平に御坂妹らが頷いて同意する。

 恋のライバルでありながら献身的な態度を取り続ける五和は明らかに胡散臭かった。

けれど、心理掌握の異名を持ち、他人の心の内を覗くことに長けている操祈は五和を全く警戒していなかった。普通におしぼりを受け取り、冷茶も飲んでいた。

 だから美琴たちは毒が入っていないと踏んだ。けれど、見事に麻痺させられてしまっていた。

「その理由は2つなんダゾ」

 操祈もまた突っ伏したまま質問に答える。

「赤信号みんなで渡れば怖くない。みんなで痺れ薬に引っ掛かるのなら、それは後でいい思い出になるんダゾ」

「私たちの人生に明日があるとは限らないでしょうがっ!」

 美琴は声だけでツッコミを入れた。

「食蜂さん……1人だけ仲間はずれは嫌だったんですね」

「意外と寂しがり屋ですのね」

 操祈の説明は意外と高評価だった。

「それともう1つの理由は……私が麻痺薬のことを知った時にはぁ、もう遅かったんダゾ」

「もう遅かった? あの人は全く無心でおしぼりとお茶を配っていたってこと?」

「そうじゃなくてぇ〜、空気感染力を利用した麻痺薬を予めこの体育館全体に仕込んでいたってこと」

 ただ1人無事な小萌は体育館の外壁を見回す。小萌が到着した時には既に全ての戸が開け放たれていたアリーナ。

「なるほど。空気の流れを利用して体育館の外から痺れ薬を蔓延させたのですね。相当な時間を掛けて」

「はい♪」

 五和は笑みを絶やさずに小萌の言葉を認めてみせた。

「五和さんのぉ計略に気付いた時にはぁ、もう体育館の空気を吸っちゃった後力だったからぁ、お茶やおしぼりに毒が含まれているのに気付いてももう関係なかったんダゾ」

「食蜂の警戒を更に掻い潜るなんて……相当な策士だったのね、この女……」

「私やお姉さまの2歩、3歩上を行く方でした。と、ミサカは実戦データが白もやしとのものしかなかった偏向ぶりを悔しく思いながら痺れ続けます」

 危険物探知を操祈に頼りすぎていた少女たちに待っていたのは戦う前からの敗北だった。

「どうぞ」

 そんな少女たちに対して五和は1人ずつ丁寧に口付近におしぼりを置いていく。

「即効性睡眠薬を気化させて染み込ませた特別製のおしぼりです。すぐにいい夢が見られますよ」

「…………私たちを、殺すの?」

 美琴が悔しそうに声を出した。

「いいえ」

 五和は微笑みながら首を横に振る。

「みなさんには私と上条さんの結婚式に参加してお祝いしてもらうという大切なお仕事があります。だから生きていてくれないと私が困ります」

「フ……ザケ……ン……ナ…………ッ」

 その一言を最後に美琴は完全に気を失った。他の少女たちも同様にして眠りについた。

 

 

「五和ちゃんは優しいのですね」

 気絶した7人の少女を見回しながら小萌が声を掛ける。

「そうでしょうか?」

「先生なら痺れ薬なんてまどろっこしいことはせずに致死性の毒で一網打尽にします。結婚式はみんなの遺影に祝ってもらえば十分なのです」

 小萌は十字を切る真似をしてみせる。

「私はやっぱり、みなさんに拍手して祝ってもらいたいですね」

「先生はアリの反逆も許さないのです。生きていれば上条ちゃんを奪われてしまうかもしれないのです。殺してしまえば永遠に奪われないのです」

「確かに私も平穏で穏やかな生活は送りたいです」

 五和は改めて小萌の隣に立ち直した。

「どうして先生は平気なのですか? 先生には特に念入りに薬を含ませたお茶とおしぼりも提供したはずなのですが?」

 五和は首を捻った。

「魔法少女は人類の夢なのです。夢というのは毒程度のもので壊せるものではないのです」

 分かるような分からないような説明をする小萌。

「つまり、夢を崩せば小萌先生の変身は解けると?」

「まあ、先生を物理的に倒すよりは変身を解かせる方が倒し易いのは確かなのです」

 小萌は五和の言葉を否定しなかった。

「夢の存在である魔法少女にとって飲酒と喫煙はご法度なのです」

「タバコは……私、吸いませんので」

「五和ちゃん程度の戦闘力で先生に勝つためには……大生ジョッキの泡の出る麦茶で先生を酔っ払わせて眠らせるしかないのです。クックック」

 小萌は余裕の笑みを浮かべる。この場における圧倒的強者は自分であると疑わない不遜な態度。

 

「どうぞ」

 そんな彼女の目の前に1Lサイズの大ジョッキに注がれた泡の出る麦茶が置かれた。

「どこから出したのですか?」

 小萌の額から冷や汗が出ている。

「いえ。祝勝会に自分で飲もうと予め準備していました」

 五和は平然と答えた。

「このサイズ、五和ちゃんは結構イケる口なのですか?」

 1Lサイズのジョッキが準備してある時点でただごとではない。

「はい。天草式のみんなや上条さんからは何故か飲酒はダメとよく口を酸っぱくされて言われているのですが」

「何となくどういうことか分かったのです」

 小萌はジョッキを見つめる。

「まあ、せっかくの五和ちゃんのご好意なのです。今日は暑いし、今はサタデーナイトフィーバーってことで、遠慮なくいただくのですよ」

「どうぞ」

 小萌は大きなジョッキを豪快に持ち上げると端に口を付けてグビグビと音を立ててビールを飲み始めた。小萌の勢いは止まらず、1度も口を離すことなく1Lのビールを全て飲み干してしまった。

「かぁ〜〜っ! 泡の出る麦茶は一気飲みに限るのです。プハァ〜」

 口の周りを泡だらけにしながら小萌は大きなゲップを奏でる。

「すごい飲みっぷりですね……」

 酒豪を自覚する五和も小萌の豪快な飲みっぷりには呆れもするし賞賛もする。

「学校で教師が堂々と飲酒するなんて……教育委員会を恐れない……この世全ての悪です」

「侮るな、なのです」

 上体をフラフラさせながら頬がほんのり染まった小萌はトロンとした瞳で五和を見る。

「あの程度のビール、飲み干せなくて何が教師ですか。この世全ての悪? ふん。先生を酔っ払わせたければその3倍は持って来いなのです。いいですか五和ちゃん。教師とは、己が視界に入る全ての生徒を背負うもの。この世の全てなぞ、とうの昔に背負っているのです。ういっく」

 小萌は大きなしゃっくりをしながらフラついている。暑い中での激しい討論会の後のビールは小萌をいつも以上に酔わせている。

 

「どうぞ」

 五和は更に3倍のビールジョッキを小萌へと差し出した。

「まだ持っていたのですね……ういっ」

「私はビールなら1度に3Lまではいけます。今日は限界を越えようと思って4L準備していました」

 五和は爽やかに笑った。

「天上天下唯我独尊。学園都市の真の英雄たるは誰か。先生から見ればまだまだ小娘に過ぎない五和ちゃんに示してあげるのですよ」

 小萌はそう言ってから挑発的な笑みを発し、ビールジョッキを眺めた。

 そして──

「これが月詠小萌の生き様なのですッ!!」

 小萌は3Lのビールを休む間もなく一気に飲み干した。

「まさか……休憩も入れずに計4Lのビールを飲み干してしまうなんて……」

 酒豪の五和をもってしても、小萌の飲みっぷりは異常だった。そして、その異常はすぐに身体に変化をもたらした。

「クッ」

 小萌の上体が再びフラつく。小萌の顔からひっきりなしに汗が流れ落ちる。

「五和ちゃんに伝えておくのです」

「何でしょうか?」

「勝負は下駄を履くまで分からないのです」

「それはもちろんです」

「世の中には……オチというものが存在しているのです。途中まで上手くいっていても一瞬の油断が命取りなのですよ」

「ご忠告痛み入ります」

 五和は小さく頭を下げた。

「それから……」

 小萌は邪念のない爽やかな笑顔を五和へと向けた。

「先生の大切な生徒たちを殺さないでくれて……ありがとうなのですよ」

 小萌の上半身が力を失い急速に前のめりに倒れていく。

「……今日の所は五和ちゃんに花を持たせてやるのですよ」

 その言葉を最後に、変身が解けた月詠小萌は机に突っ伏すと大いびきを掻き始めた。

 

「さて、これで体育館は制圧完了ですね」

 五和は自分以外に意識のある者がいないアリーナを見渡す。

「残る上条ハーレム要員は3名。一方通行さん、鳴護ありささん、女教皇様ですね」

 五和は3本指を立てる。

「女教皇様は宇宙ですから無視して大丈夫ですね。アイドルはとても忙しいようですし、その内に枕営業か男とスキャンダルで勝手にフェードアウトするでしょうからこちらも問題なしと。となると、残る敵は白もやしさんだけですね」

 五和は立てた指の2本を折った。

「それじゃあ暗くならない内に一方通行さんを排除しに行きますか」

 体育館の入口に向けてゆっくりと歩き出す。

 その時だった。

「えっ?」

 五和にとっては思いも寄らない展開が始まってしまったのは。

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「俺は確かに幼女を狙い撃ちすることはできねェ。半幼女であるオメェも狙えねェ」

 一方通行は上空30m地点で静止し、絆理に向かって語り掛ける。

「けどよォ、地域一帯を攻撃してその中に幼女がいたとしたらどうなる? 幼女だけ避けるなんてェ器用な真似は俺にはできねェぜ。シャッシャッシャッシャ」

 白髪の少年の更に上空の地点で大気が対流を始める。

「あの野郎……まさかっ!」

 当麻は何かに気付いて枝先の前に立つ。

「上条さん……」

 当麻の背中を見て絆理の心臓が大きく高鳴っていく。

「カッカッカッカ。気付いたかァ、三下ァッ!!」

「テメェ、この周辺一帯を吹き飛ばして枝先を倒すつもりだなっ!」

「そうだァッ! そうするのが半幼女を倒すのに一番手ッ取り早いからなァッ!」

 一方通行の頭上の大気の流れが次第に激しくなりながら巨大な渦を巻いていく。

「畜生……一方通行が上空にいたんじゃ、あれが発射される前に止める手段が俺にはねえ」

 無能力者である当麻には上空にいる一方通行に触れる方法がない。

「おい、初春。春上。一方通行の奴、決闘の枠を超えて大規模破壊に走ろうとしているぞっ! 止めなくていいのかよ! こんな時こそ巨人化しろよ!」

「確かにこの付近一帯全部を壊されてしまうのは問題ですけど……一方通行さんは枝先さんを攻撃対象としていることには変わりがありませんし」

「絆理ちゃんと上条さんが勝つと固く信じているのなの♪」

 当麻の訴えにも初春たちには動く気がない。

「あっ、今、春上さんがいいことを言いました」

「何をだよ?」

「この状況から、上条さんと枝先さんはコンビを組んで一方通行さんを倒してしまえばいいんです」

 初春は手を叩いた。

「だから、俺には空にいる一方通行を攻撃する手段がないんだ」

「一方通行さんを倒すのはあくまでも枝先さんです。上条さんはそのお手伝いをしてあげてください」

「でも、私、どうすれば一方通行さんを倒せるのかなんて……」

「上条さんは枝先さんの力を引き出してあげてくださいね♪」

「力を引き出すって気楽に言われてもなあ」

「頑張れ男の子♪」

 初春は楽しそうに笑っている。

 

「なあ?」

「はっ、はいっ」

 当麻に背中を向けられたまま話し掛けられ絆理は緊張しながら返事した。

「枝先の能力って何だ?」

「その、精神感応系ですが……レベル1なのでできることはほとんど何もありません」

「そうか……」

 当麻をガッカリさせてしまっただろうか?

 そんな心配が絆理の心を占める。

「そのさ……ちょっと聞きにくいことを聞いていいか?」

「何、でしょうか?」

「枝先は、そのさ、巨人……になれるのか?」

 当麻の声はとても戸惑っている。

「私は、初春さんや衿衣ちゃんのようにBLネットワークの力を上手く使いこなせないので……いえ、それ以前に巨人という存在が怖いので自分でなるのはちょっと……」

 絆理は初春や衿衣にも伝えたことがない自分の気持ちを当麻に吐露していた。当麻になら何故か素直に打ち明けられた。その理由に段々と絆理自身も気付いてきている。

「そっか。誰もが巨人になりたいわけじゃないもんな」

「はっ、はい。でも……巨人になれないと、BLネットワークの力を自在に引き出せるようにならないと……初春さんや衿衣ちゃんに申し訳がなくて」

 絆理の声は沈んでいた。

「枝先にとって初春と春上はとても大切な友達なんだな」

「はい」

 絆理は力強く答えた。

「私が今こうして生きていられるのも2人がずっとずっと献身的に助けてくれたからなんです。衿衣ちゃんが私の声を聞いて、初春さんが御坂さんたちに届けてくれたから。だから、私にとって2人は特別な存在なんです」

「……これでホモに染め上げたりしなきゃ本当にいい話なんだがなあ」

 当麻は小声で何かを呟いた。

「ならさ、恩返しをすればいいさ。巨人以外の形で」

「巨人以外の形?」

 当麻から提案された案は絆理が全く考えもしなかったものだった。

 

「ネットワークの力を引き出すのは、何も巨人化しなければならないってことではないんだろ?」

 当麻の話を考えてみる。

「確かに……初春さんはあの形態のままでもBLネットワークの力を引き出せます。2人が巨人化するのは、男たちを捕食してBLに変えてしまうのに効率が良いからと聞きました」

「だったらさ、枝先が望む形でネットワークの力を引き出してみろ。巨人になるんじゃない。お前がなりたいものになるんだっ!」

「私が、なりたいもの……」

 心臓がドキドキ高鳴っている。興奮している。

 巨人になることを勧められて戸惑っていた時とは違う。

 この高鳴りは……。

「そっか。私……」

「枝先にもなりたいものがあるだろっ! 誰に決められるんじゃなくて、自分でそれになってみせろっ!」

「私がなりたいもの……それは……」

 心臓の高鳴りが限界に到達する。

「遠慮することはねえっ! なりたいものを言ってみろっ!!」

 当麻の熱いその言葉は絆理の心の深い部分に到達した。

「私……魔法少女カナミンが好きなんですっ! 魔法少女カナミンみたいになりたいんですっ!」

 子供っぽいと思われるのが嫌で初春たちにも打ち明けられなかった絆理の趣味。

 それは絆理が幼い時に昏睡状態に陥ったことを考えれば、ごく自然であったとも言える少女向けアニメの鑑賞だった。

「なら、なってみせろよ……魔法少女絆理にッ!!」

 当麻が熱く吼えた瞬間、上空が一際煌いた。

 

「終わりダッ! 中途半端幼女と三下ァッ!!」

 一方通行が収縮した大気の塊を2人に向かって落とす。台風よりも遥かに圧縮されたその大気球は直撃すれば人間を瞬時に消滅させるであろうことが簡単に予測付いた。

「なれっ! 絆理ッ!! 今こそ夢を叶えて魔法少女になってみせろッ!!」

 当麻は大気球に対して一歩も引かず自らの身を盾にしながら右腕を突き出す。当麻は絆理を守りぬくことをその背中で示していた。

 そんな当麻の背中を見て、絆理の覚悟も決まった。

「はいっ!!」

 自分の夢を叶えたい。そして当麻を護りたいという想いが絆理に無限の力を与えていく。

「BLパワーッ! セット・アップッ!!」

 力は眩い光となって絆理の全身を包み込む。

 そして──

「魔法少女バンリっ! ここに参上ですっ!」

 フリフリヒラヒラの黄色を基調としたコスチュームを身にまとい、ステッキを手にした絆理が光の中から現れた。

「チッ! 何だありゃッ!? だが、今更何をしようともゥ遅ェンだよッ! 終わりだ!」

 一方通行の言う通り、大気球は地面に迫っている。

「攻撃だッ! お前の力、初春たちに見せてやれぇえええええええぇっ!!」

「はいっ!!!」

 絆理は両手でステッキを構える。

「BL・レボリューションッ!!」

 心に浮かんだままのワードを叫びながらステッキを振り下ろした。

「なンだよ、ソレッ!?」

 ステッキの先端からは色鮮やかなバラ色の光線が発射。光線は大気球を一瞬にして粉砕。更に直進して一方通行に直撃した。

「バッ、馬鹿ァアアアアアアアアアアアァッ!? 学園都市最強のこの俺が……力に目覚めたばかりの半端ガキに一撃でやられただとォッ!?」

 一方通行の体はバラ色の光に包まれながら上空へと突き上げられて行く。絆理の視界から消えるほど高く吹き上げられた後に、鳥の羽の如く風に揺られながらゆっくりと地上へと落ちてきた。

 

 

「やったぞ、枝先っ! 逆転勝利だっ!」

 絆理が自身の勝利を知ったのは当麻に声を掛けられてからだった。それまでの間、ただ呆然としていた。

「あ、あっ、はいっ」

 自分が一方通行を倒したと言われてもまだ実感が湧かない。そもそも魔法少女になっている自分が夢の中の人物のように思えてならない。

「お前ならできると思ってたさ」

 当麻は絆理の手を掴んで上下にブンブンと振り回しながら喜びを表現する。

「その……上条さんの、おかげです」

 体中に熱が篭っていくのを感じながら俯いて返答する。当麻に手を握られているというぬくもりが初めて彼女に勝利を実感させた。

「その、私、気付いたんです」

「うん? 何にだ?」

 当麻の顔を見上げると体中の熱が上がりっ放しになっていく。漫画やアニメでしか知らないその感情を自分が抱いていることをもはや否定できなくなっていた。

「私が、今日、急に魔法少女になれた理由ですっ!」

 少女は遂に想いを打ち明ける決心をする。

「そりゃあ、枝先が一生懸命頑張ったからだろ」

 あっさりと答える当麻。絆理の心にヒビが入る。

「そ、それはそうなんですけど……それだけじゃないんです」

「初春や春上への友情パワーだろ? 分かってるって」

 ドヤ顔を浮かべる当麻。

「それもありますけど、それだけじゃなくてですね……」

 気持ちを伝えたいのに、当麻はそれを察してくれない。

 当麻に関わる少女たち全てがぶつかっている問題に絆理もまたぶつかっていた。

 そして──

 

「おっ。一方通行が目覚めたみたいだぜ」

 絆理が自分の気持ちを伝えられないまま当麻は絆理の手を放してしまった。

「あっ」

 当麻の手が離れた瞬間、絆理はどうしようもないほどに泣きたくなった。

 まだ自分の気持ちを伝えられないでいることがとても悲しかった。

 そんな少女の気持ちを察しないまま当麻は一方通行を見る。

「ポッ」

 一方通行は当麻と目が合うと恥ずかしげに頬を赤らめて顔を背けた。

「はっ?」

 当麻には白い少年の行動の意味が分からない。

「どうやら、枝先さんの魔法で一方通行さんは上条さんのことが好きだけどまともに顔も見られない純情奥手少年へと生まれ変わったようですね」

「男同士の純愛ラブなの♪」

「「えぇええええええええええぇっ!?」」

 絆理と当麻が声を合わせて驚く。

「BLネットワークの力を借りた変身から繰り出した魔法ですから、BL属性が付いているのはごく普通のことですよ」

「絆理ちゃんは純愛好きなの♪」

「わっ、私は別に、一方通行さんに上条さんを好きになって欲しかったわけじゃ……ライバルが増えちゃうよぉ」

 絆理は頭を抱えた。

 

「純情奥手男と鈍感男の純愛ラブ。男同士の愛の形として物語的にはありだと思いますが……春上さんはどう思います?」

 初春は衿衣を見た。

「陵辱が足りないのなの♪ 男同士には愛なんて必要ないと思うのなの♪」

「ですよね♪ わたしも、BLは男同士の陵辱に限ると思うんです」

 初春と衿衣は顔を見合わせて微笑み合った。

「というわけで」

「なの♪」

 絆理の視界から一瞬、初春の姿が消える。

「えっ?」

 次に初春が視界に入った時、彼女の手には絆理が持っていたはずのステッキが握られていた。

 更に、一方通行の側には20m近い大型の巨人が出現していた。

「枝先さんと一方通行さんにはもっと激しいBLを好きになってもらおうと思います♪」

 初春が持つステッキの先端が絆理を捉える。

「ナノォオオオオオオオオオオオオォッ!!」

「きゃぁああああああああああぁっ!?」

 ナノ巨人が一方通行をその巨大な腕で捕らえ、口元へと運ぶ。

「わたしは……わたしたちは枝先さんが失恋して泣く姿を見たくないんです」

「えっ?」

 初春はとても寂しそうな瞳を見せた。その瞳の、その言葉の意味を問いたかった。

 けれど、それは叶わなかった。

「まったく、ホモは最高だぜ!です」

 初春が魔法の呪文を唱えた瞬間、その先端から腐った、そう表現するしかないバラ色の光線が発射され、絆理の身体を包んだ。

「初春……さん…………?」

 何が起きたのかよく理解できないまま絆理の意識は完全に摘み取られてしまった。

「お疲れ様。そしてお休みなさい……レベル6でわたしの大切なお友達の枝先さん」

 初春が何を言ったのか絆理には聞こえなかった。

 

-8ページ-

 

「まっ、まさか……地球に自力で帰還してくるなんて」

 空より飛来し体育館に落下したソレは五和が全く予想していなかった物体だった。

「女教皇様……」

 五和は落下してきたソレの名前を呟いた。

「でも、幾ら女教皇様でも長時間宇宙空間を彷徨った後の生身での大気圏突入は……」

 恐る恐る神裂火織が落下してクレーターとなっている中心地へと足を運ぶ。

「女教皇様がご逝去されているのであれば……むしろ好都合ですね」

 計画に狂いが生じ不安が沸き起こる心を必死に抑え付けながら火織の状態を確かめる。

 すると──

「…………クッ」

 火織の口から苦悶の声が漏れ出ているのが聞こえた。

「女教皇様は生きておられる……」

 火織が生きている。しかも意識があることも確認できてしまった。

「どうします?」

 先ほどまでの朗らかな表情が作れない。そして考えがまとまらない。

 刻一刻と時間だけが過ぎていく。そして──

「肺から空気を吐き出せば落下速度が軽減するかと思ったが、そんなことはなかったな」

 ボロボロな白Tシャツにジーパン姿の火織は立ち上がってしまった。

「……これでは何のために女教皇様を一番初めに排除したのか分かりません」

 人間には相性というものがある。誰しも馬が合う相手、苦手な相手がいる。

 苦手の相手の場合、実力を発揮することすら叶わない。

 五和の場合には天草式で縁が深い火織がそうだった。

「……けれどっ!」

 五和は胸の前で手を合わせ力を込めた。

 

「女教皇様っ!」

 五和は直径10m深さ3mほどのクレーターの内部へと飛び降り火織の前へと立った。

「おお、五和か」

「よくぞご無事で」

 全身煤だらけで笑顔を見せる火織に対して頭を下げる。

「地球に帰還できず宇宙空間を漂っていた所、偶然に究極生物カーズを名乗る男とぶつかって軌道が変わってな。こうして地球に帰還できたというわけだ」

 火織は宇宙漂流中の同類との接触によって地球に帰還を果たしていた。

「とはいえ、予想しない角度からの大気圏突入となって高熱と衝撃のせいで体中がボロボロだ。冗談抜きで99・9%が死に体だ。こうして立っているのも奇跡と言えよう」

「99.9%が死に体、ですか……」

 五和は自身の心臓が高鳴るのを自覚した。

「上条さんのお嫁さんの座を掴むには……頂点に上り詰めるしかないんです」

 小さく息を吸い込む。

「どうぞ」

 五和は普段通りの朗らかな笑みを浮かべながらおしぼりを差し出した。

「ああ。スマンな」

 火織はおしぼりを受け取ると煤けた顔を拭き始めた。

 五和はその様子を見ながら

「……後5分」

 火織に聞こえない小さな声で唇を動かす。

「どうしてこちらに降りられたのですか?」

 火織がここに降りてきたのは偶然とは思えなかった。自分の嘘助言に怒ったのか、それとも……。

「今日は上条ハーレム定例会議の日だからな。会議を無断欠席するなど許されん」

「そのためにここへ?」

「ああ」

 頷く火織。

「もっとも、会議は既に終了してしまったようだから結局無断欠席になってしまったが」

 火織は視線を円卓へと向けた。そこには小萌以下の参加者たちが眠っている。

 宇宙から火織が落ちてきた大騒動にも関わらず眠り続けている不自然さには気付いていないようだった。

「みなさん、熱心に討論に参加なされてお疲れでしたから」

「無断欠席に関しては後ほど謝罪しておかねばな…………うっ!?」

 火織がよろけた。

「どうぞ」

 五和が寄り添って火織を支える。

「スマンな」

「いいえ」

 小さく深呼吸して精神を整える。そして、覚悟を決めて告げた。

 

「女教皇様が会議の無断欠席について謝罪する必要などありません」

 それは五和にとって火織への小さな宣戦布告。

「何故だ?」

「女教皇様は地球への帰還の際に激突死なされたので謝罪の言葉を口にするのは不可能だからです」

 淡々と五和にとってのあるべき姿を告げていく。

「私は見ての通り生きているのだが?」

「女教皇様の葬儀の日に私と上条さんの婚礼の報告を行うことは私の中では既に決定事項です。覆すことはできません」

 五和は己のプランを堂々と述べた。

「そうか。それでは確かに私が生きていては色々と不都合だな」

「はい」

 神妙に頷いて答える。

「五和と上条当麻は既に恋人同士なのか?」

「いいえ。上条ハーレムの構成要員を全員倒してから恋仲になる予定です」

「そうか」

 火織は天井を見上げて何かを考えている。その次の瞬間だった。

 

「へっ?」

 五和は命の危機を感じ取り瞬間的に飛び退いた。それと火織が必殺の刀を抜いたのは同時だった。先程まで立っていた地点に鋭い刃物で空気が切り裂かれる音が鳴り響く。

「死に体でも攻撃力がパラメーターを振り切っている相手では……一撃喰らえば死ですね」

 クレーターの淵に降り立った五和は己の勘に従った跳躍が間違いでなかったことを自覚した。火織が本調子から遠かろうと彼女の一撃は人間に死をもたらす威力を維持している。

「五和に一つ尋ねておきたいことがある」

 いきなり斬りつけた件を一切謝罪することもなく火織は話を切り出す。

「何でしょうか?」

「何故後3分待ってから今の話をしなかった? あの受け取ったおしぼりに含まれていた薬品から考えれば私が意識を失うのはもうすぐであろう」

 火織はおしぼりの秘密に気が付いていた。それを知って五和の全身に力が篭る。

「それはですね……私の手で女教皇様を斃さないと、胸を張って上条さんのお嫁さんになれないからです」

「つまらんことにこだわる…………本当に、乙女だな」

 火織は笑ってみせた。

「はい。ですので………………どうぞっ!」

 五和の両手の指の隙間から8本のおしぼりが同時に放たれる。

「今の私は右腕しか動かせん……だが、剣を振るうにはそれで十分ッ!!」

 火織は8本のおしぼりを粉砕した上で全て床に叩き落とした。

「なら……続けてどうぞっ!」

 五和は更に第二撃、三撃のおしぼり波状攻撃を仕掛ける。

「私が動けないことを考えての物量攻めなのだろうが……フッ。甘いぞ」

 火織は常人では全く目に止まらない超速度で刀を奮って五和が放ったおしぼりを悉く地面に斬り落としていく。

 第四撃のおしぼり8本が放たれた所で五和の攻撃は止んだ。

「どうした? もう武器の貯蔵切れか、おしぼり使いよ?」

 満身創痍のはずの火織が余裕の表情を見せる。

 負傷してもなお圧倒的な強さを誇る火織に対して五和は──

「おしぼり使いが自分の差し出すおしぼりより弱いと思ったら大間違いですよ」

 いつものように微笑んで返した。

 

「私が意識を失うまでにまだ1分近く時間は残っている。動けずとも、この剣より繰り出される衝撃波を使えばお前を倒すことは十分に可能だ」

 火織は抜刀術の構えを取る。火織から繰り出されるその一閃の威力は五和が最もよく知っている。喰らえば人体切断も十二分にあり得る。

「私も時間切れなど狙っていません」

 そう言って五和が胸より取り出したもの。

「ウォッカ瓶、だと?」

 それは、透明な液体が入った琥珀色の瓶だった。

「はい。アルコール度数96%のスピリタスウォッカですよ」

 五和は頷いてみせる。

「おしぼり使いではない、酒豪としての私の力を女教皇様にお見せいたします」

 五和はウォッカの瓶の口を切り、その表面をライターでかざした。

「火、だと?」

 ウォッカの瓶の表面から青白い炎が吹き上げている。

「先ほど放ったおしぼりにはエタノールが含まれています。ですので、火が点けばよく燃える特別仕様になっています」

「まさか、五和。貴様っ!」

 火織の目が険しくなる。

「自分で飲むつもりだった祝杯用のこのウォッカを女教皇様に捧げます…………どうぞ」

 五和は火の点いたウォッカを火織の足元に転がっているおしぼりへと放り投げた。

「クッ!?」

 ウオッカから引火し、大炎上を引き起こす半球状のクレーター。その炎は3mの深さの穴を突き抜け、その上に立つ五和の身長をも遥かに越す火柱を吹き上げさせた。それは人の火葬を連想させる激しい炎だった。

 

「結局、女教皇様の葬儀までに上条さんとの結婚の段取りを進行できませんでした。計画の練り直しが必要ですね」

 燃え盛るクレーター内部に背を向けて五和はゆっくりと歩き出す。彼女の頭はこの後どう当麻と結ばれるかでいっぱいだった。

 そして──

 

「戦果の確認もせずに戦場を離れるなど愚か者のすることだ」

 

 クレーターの中から凛とした声が鳴り響いた。

 その声と共に風を裂く音が炎の中から聞こえたような気がした。

 気がしたというのは、音がしたと判断するより先に硬い何かが五和の後頭部に直撃して意識を掠め取っていたから。

「どう……して……?」

 床に重い金属が落ちた音が鳴り響いたことから、投げられたのが鞘に収められた剣であることを悟る。もはや振り返って確かめるほどの意識を五和は有していなかったが。

「私は溶岩の中に放り込まれても生存していた究極生物カーズと出会ったのだぞ。そして、生身での大気圏突入にも成功した。そんな私を数千度の熱で焼き殺そうとは笑止」

 聖人という言葉では説明できないほどに人間離れした火織だからこそ見出せた活路。

「だが、服が燃えてしまった状態ではここから出ることはできん。こんなはしたない姿を誰かに見られようものなら恥ずかしさで確実に死んでしまう」

 本当に変な人だ。五和は薄れいく意識で思う。

「よってこの勝負、引き分けとしたいと思う」

「…………何故、鞘を付けた状態で刀を放ったのですか?」

「五和は会議参加者たちの命までは奪わなかった。ならば、私だけお前の命を刈り取るのは不公平というものだろう」

 火織はごく自然な口調でその理由を述べた。

「それにお前は私の大事な愛弟子でもある。殺すことなど私にはできないさ」

 五和は自分の体が急に熱くなったことを感じた。

「まったく……殺人機械にならないと上条さんの愛情は勝ち取れないのに……誰も彼も甘い、ですね……」

 五和は前のめりに倒れ、そのまま意識を失った。

「その甘さが嫌いじゃないから……困るんだよ……」

 その言葉を最後に火織の口から言葉が紡がれることもなくなった。

 

 こうして上条ハーレム会議は出席者全員が完全沈黙する結果を迎えた。

 

-9ページ-

 

「定例会議の方も首尾良く全員沈黙してくれたみたいですし、Happy Endに向けた最終決戦といきましょう♪」

「何だよ、この最悪な状況は……」

 上条当麻は四方を敵に囲まれ体中から冷や汗が流れ出て止まらない状況に陥っていた。

「ナノォオオオオオオオオォッ!!」

「ヒャッハッハッハハ。三下ァ、今すぐ嫁になってやるぜェッ!!」

 左右を囲むは20m近い大型の巨人。そして、その巨人に食われ、更におかしくなって出てきた一方通行。

「お嫁さんが上条さんのことを待っていますよ。2人でウルトラハッピーになったらいいじゃないですか♪」

「BL、完遂。それが私の夢。私の使命」

 前後を囲むのはBLネットワークの力を利用して学園都市最強の能力者となった初春。そして、その初春の魔法でBLの権化と化した魔法少女の絆理。

 最も戦闘力が低い者でさえ、レベル5最強の能力者という最悪なカルテット包囲網を当麻は敷かれていた。

「初春っ! 枝先はお前のことを特別な存在だって言ってたんだぞ。それを、こんな風に洗脳しやがってっ!」

「言ったでしょう。わたしたちは枝先さんが泣く姿なんて見たくないんです。だから、今の段階で摘み取ったまでです」

「何だよ、泣く姿って?」

「それが分からないから……貴方は無自覚なハーレム王として君臨し、女の子を傷つけ、女の子同士を傷付け合わせるんですっ!」

 初春の瞳に怒りの炎が宿る。

「上条当麻さん……貴方は乙女の敵ですっ!」

「意味分からねえっての!」

 当麻は初春の目力に押されている。けれど、何の話か分からない以上初春に気持ちで負けるわけにはいかない。

「そんな乙女の敵のあなたにわたしは乙女たちがもう争わなくてもいい、貴方が乙女たちに喜ばれる道を提供しようというのです。それの何が悪いのですか?」

「何を言っているのかはよく分からねえが……そんなもんはテメェの独善じゃねえかっ!」

「ええ。独善です。それが何か?」

 初春はさも不思議そうに首を捻った。

「上条さんや御坂さんはいいですよね。悩んだり挫けそうになっても、自分が信じた道を進めば、それは結局みんなの理解を得られる道に繋がっている。そういうの、生まれながらのヒーローだと思うんですよ」

「何を言って?」

「でも、私や一方通行さんは違います。そういう差をどう表現したらいいですかね?」

 初春がとても冷めた瞳で当麻を見ている。

「まっ、それはいいんですよ。私や一方通行さんは己の信念を貫き通すと決めたので人の理解は二の次なんです」

 初春を見ていると息苦しさが際限なく加速していく。今にも窒息してしまいそうでイライラする。

 

「わたしはわたしの正義に従ってHappy Endへと導くまでですっ!」

 初春が絆理のステッキを当麻に向かって突きつける。

「行きますよ、ハーレム王。女の子の貯蔵は十分ですか?」

「貯蔵もなにも、俺は女の子にモテたことなんかないっての!」

 当麻は初春に向かって突撃を開始する。

「この状況を打開するには……初春を抑えるしかねえっ!」

 大将を抑えることで他の3人を引かせようと考える。だが──

「ヒャッハッハッハッハッ!!」

「ナノォオオオオオオオオォッ!!」

「ぎゃぁああああああああぁぁッ!?」

 左右から一方通行とナノ巨人の攻撃を食らって大きく吹き飛ばされる。

「ウグッ!?」

 立ち上がってはみたものの、すぐに足を捻ってしまっていることに気付く。

 1対1でも勝てる見込みがほとんどない戦力差で1対4では勝機を見出すことは不可能だった。

 

-10ページ-

 

「上条さんもBLに染まってください。そうすればもう攻撃を受けることはありませんよ」

「そんなこと受け入れられっかよっ!」

 当麻が腫れ上がった足の痛みを無視して再び初春に向かって突撃を開始する。

「がやぁあああああぁッ!?!?」

 だが、再びナノ巨人と一方通行の攻撃を受けて大きく吹き飛ばされる。

「畜生……ッ」

 植え込みに突っ込んだ当麻だったが再び立ち上がる。そして3度目の突撃。

「何度やっても無駄ですよ♪」

 初春の言葉通りに当麻が3度弾き飛ばされる。

「初春……お前が無駄だって決めつけようが、俺は何度だって攻撃を仕掛けるまでさ」

 満身創痍のはずの当麻は再び立ち上がって突撃する。

 4度、5度、6度。

 既に意識を失っていてもおかしくない当麻だったが、それでも突撃を止めない。

「さすがは主人公の気質を持つヒーロー。涙ぐましい努力です」

 7度目の当麻の突撃。

 それは名称こそ突撃であるが、その実態は意識が朦朧とした当麻が右手を振り上げながらよたよたと初春に向かって歩いていくというものだった。

「そんな攻撃でわたしを倒そうなど…………奇跡でも起こさない限り絶対に無理です」

 初春は意識を失う寸前の当麻の攻撃に対してそう評した。

 

「なら、この勝負は……当麻くんの勝ちね」

 

 突如初春の後方から少女の声が鳴り響いた。

「まっ、まさかっ!?」

 初春が慌てて振り返る。そこに立っているのはサングラスと麦わら帽子で顔を隠したホワイトパンツ姿の少女。その少女の正体に初春は心当たりがあり過ぎた。

「鳴護ありささんっ!?」

「ピンポ〜ン♪」

 少女はサングラスを外しながら笑ってみせた。

 鳴護ありさ。世界を代表する奇跡の歌姫が初春の前に立っていた。

「ここでありささんの登場はまずいっ!」

 初春は手に持つステッキに力を込める。

「それじゃあ早速……私の歌を聞けぇえええええええええぇっ!!」

 初春がステッキを発動させるより早くありさは歌い始めた。絶望しかけた者に希望と幸運をもたらす奇跡の歌を。

「なんでもかんでもみんな〜おどりをおどっているよ〜おなべのなかからぼわっと〜いんちきおじさんとうじょう〜」

「何でおどるポンポコリンなんですかぁ〜っ!!」

 初春がついツッコミを入れてしまい攻撃を休める。その間に奇跡は始まっていた。

「うン? 俺は一体今まで何をやってたンだ?」

 一方通行は自分の手をマジマジと眺めながら首を捻っている。

「まさか……一方通行さんのBL改造が解けた?」

 科学でも魔術でも解けないはずのBL改造。それが歌、正確には歌により引き起こされる奇跡により解けていた。

「なら、奇跡を止めさせてもう1度洗脳するまでですッ!」

 初春はステッキをありさへと向ける。しかし──

「もう止めて、初春さんっ!!」

 ありさの前に絆理が両手を広げて壁となっていた。

 

「枝先さん……」

 一方通行と同様に絆理に施した洗脳も解けていた。

「ですが、ここでこの人だけは倒しておかないと。枝先さん、あなたはっ!」

「いいのっ! いいから、私はいいからっ!」

 絆理は涙を流しながら首を横に振って初春の言葉を拒絶する。

「おい、初春……友達泣かせてんじゃねえよ……」

 そして背後から当麻の声が聞こえた。当麻は声だけは健在だった。しかし、その荒い息遣い、何度も地面を踏み直している仕草からまともに立つ力も残っていないことは明白だった。

 目の前に立つのは泣きながらありさへの道を塞ぐ絆理。

 戦力は圧倒的に初春が有利。

 だから、初春は──

「まさか枝先さんのことで上条さんにお説教されることになるとは思いませんでした」

 ステッキを足元へと下げた。

 

-11ページ-

 

 戦いは終わった。

「さて、ミッションに失敗してしまった以上撤退ですね。ナノ巨人、引きますよ」

「ナノォオオオオオオォッ!」

 ナノ巨人は右の手の平に初春を乗せた。

「待って、初春さんっ! 衿衣ちゃんっ!」

 絆理は去ろうとする2人を呼び止める。

「私も連れて行ってっ! お願いだからっ!」

 絆理は必死に声を張り上げていた。

「枝先さんはわたしたちと違って、この道を選ばなくても幸せに生きられると思いますよ」

 険の取れた表情で初春は絆理に諭した。

「私の幸せは初春さんや衿衣ちゃんと一緒にいることなのっ!」

 絆理は更に必死に訴える。その瞳はまた泣きそうになっている。

「BLの道はイバラの道ですよ」

「3人一緒なら、イバラでもお花見見物できるよ!」

「普通の幸せで満足できないとは……本当に仕方ない人ですね。ナノ巨人っ」

 ナノ巨人の左手が静かに地面に降りる。それは初春とナノ巨人が絆理が一緒に行くことを認めた証に他ならなかった。

「あの……上条さん」

 絆理はありさに支えられながら立っている当麻へと振り返る。

「本当に、ありがとうございました」

 当麻に向かって深々と頭を下げる。

「初春たちと仲直りできて……良かったな」

 当麻は絆理に向かって笑ってみせる。

「それで……その……」

 絆理は頬を染めながら体をモジモジとさせた。潤んだ瞳で当麻を見る。

 そして気が付いてしまった。

「あっ」

 当麻と彼を支えるありさがとても様になっていることに。

 自分では当麻の横に並んでもこうはならないことに。

「…………お体をご養生してください」

「あ、ああ。ありがとうな」

 それだけ述べてもう1度頭を下げる。そして俯きながら小走りにナノ巨人の手へと乗り込んだ。

「年貢の納め時がきたらしいハーレム王さん。それではさようならです」

 初春が当麻に向かってそう告げるとナノ巨人はのっしのっしと足音を響かせながら去っていった。

 

 

「終わった、のか」

 夕日が差し込む公園の中、当麻はありさに支えられながらようやく戦いから解放されたことを悟った。

「当麻くんは今日も大変だったみたいね」

「まあ、な」

 満身創痍の体。いつも通りと言えなくないとはいえ、今日は普段以上に疲れた。

「可愛い女の子にもモテモテだったみたいだし」

「何だよそれ?」

 当麻は結局の所、絆理の想いには気付いていない。最後の場面から登場したありさにはバレバレだったのにも関わらず。

「あたし、とっても嫉妬してます」

「いや、何に対する嫉妬だよ?」

「あたしの方が当麻くんのことをずっとずっと前から大ダイダイ大好きだということです。ポッと出の新人さんには負けられません」

「なぁああああああああああぁっ!?」

 当麻の驚きの声が上がる。

「えっ? 何? ありさって……俺のこと、好きだったりするの?」

 当麻にとってそれは全くの予想外のことだった。

「その反応。ラブアピールをずっと繰り返していたあたしにとってはすごく傷つくものなんですけど……」

 ありさのジト目が当麻を突き刺す。

「いや、てっきり、仲の良い友達として好意を抱いてくれてるものだとばかり……」

 当麻は焦っている。

「あたしの当麻くんへの好きはライクではなくラブの方です。これでご理解頂けたでしょうか?」

「あっ……はい……」

 当麻は俯きながら顔を真っ赤に染めた。

 

「そ、その、よく俺の所へ来てくれたな。仕事、忙しいんだろ?」

 本人的には生まれて初めて女の子に告白されたと思っている当麻は焦りまくり。とりあえず話題を逸らしにかかった。

「大好きな男の子から電話があったんだもん。仕事を一生懸命終わらせて、こっちに飛んできたの」

 逆効果だった。ありさに好きを強調されてしまった。

「よく、ここが分かったな。留守録には何もいれなかったのに」

「当麻くんのことだからこの辺りにいるんだろうなあとは思ったの。そうしたら大きな巨人が見えたから急いで飛んできたの」

 騒動のある所に当麻あり。ありさの読みは当たっていた。

「当麻くん、これから治療しないといけないよね?」

「そうだな。病院はもう終わってるだろうから明日になるだろうけど」

「なら、あたしに当麻くんの看病をさせて欲しいなあ」

 ありさは楽しそうに笑った。

「ええっ?」

「実はあたし、明日の昼までオフなんだ。だから、当麻くんに付きっきりで看病できるよ」

「付きっきりって、それはマズいだろ。俺とありさは恋人同士でもないのに」

 当麻の言葉を聞いてありさはニマッと笑ってみせた。

「なら、あたしたちが恋人同士になれば当麻くんは看病させてくれるんだね♪」

 ありさは笑みを絶やさぬまま当麻へと顔を近づけた。そして──

「えっ?」

 当麻の唇に自分の唇を押し当ててきた。

 1秒ほどの短い唇と唇の接触。

 

「改めて言います。あたしは当麻くんのことが好きです。あたしとお付き合いしてください」

 

 ありさは照れながらもハッキリと自分の気持ちを伝えた。

「………………………は、はひ。喜んで」

 顔を真っ赤に爆発させた当麻が返事をしたのは1分は経った後のことだった。

「じゃあ、早速。あたしの家に行って恋人の当麻くんを看病するね♪ タクシー呼ぼう♪」

「……あの、それはいきなりスキャンダルというやつでは? ありさの芸能活動に傷がつくんじゃ?」

 当麻はできたばかりの恋人の積極的な姿勢に焦りまくっている。

「スキャンダル大いに結構。大いに報道されれば上条ハーレムのみんなにも本日の活動報告ができるしね♪」

 ありさは当麻の腕をグイグイ引っ張りながら歩いていく。

「上条ハーレム? 何だそりゃ?」

 当麻が上条ハーレムの存在に気づくことは遂になかったという。

 

 

 了

 

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