お腹を満たせ大作戦?
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秋口にさしかかり、栗、サツマイモ、秋刀魚などの秋の味覚が揃い始める。

旬の食べ物に舌鼓を打つが、少し物足りないと感じる物が三人…いや、三匹。

 

「うぅ…やっぱり足りないや〜…」

 

昼食を終えてなお空腹感を訴える腹を抱えて。鳶代飾は人目につかない宿の裏手で、より疲れない狸の姿に戻る。

狸だけでなく、動物はこの時期冬に備えて脂肪を蓄えるべく沢山食べる必要がある。人に化ければ冬の食糧不足は補えるが、太古の昔からの習慣はそう簡単には変えられないらしい。

 

キュウ〜と小さく鳴くと、近くに生っていた葛の花を食んだ。

 

「あ、ここ俺が見つけた場所だったのに!」

 

「あれ?十助くんもおなか減ったの?」

 

常とは違い狸の姿で、十助はコクリと頷いた。深く頷いたせいで後ろ頭の十円ハゲが見え隠れする。

 

「減るに決まってるだろ〜…足りねぇ…山行ったら兎でもいねぇかな…」

 

「いってらっしゃい」

 

「冗談だって…こんな人里近くの山じゃ居ねぇよ…」

 

十助がぼさぼさの尻尾でピッタンパッタンと地面を叩いた。空腹で気が立っているのだろうか。不機嫌そうな十助を笑って受け流すが、空腹は空腹。何かで小腹を満たしたいものだ。

 

「あ…飾さん、十助さん」

 

二人よりも一回り小さな体躯。楜亜羅が恐る恐るといった様子で近寄ってくる。

どうやらこの場所は、お互いが知らないだけで全員が休憩所として寛いでいたらしい。

 

ちょこんとその場に座ると、くぅ…と誰かのお腹が鳴った。

 

 

 

「……作戦会議!どこかで食料を調達しよう!!」

 

「台所からくすねる!」

 

「却下!」

 

唐突に始まった会議に、速攻で上げられた策が即座に却下され、十助が非難の声を上げる。

 

「なんでだよ!」

 

「台所の食材は皆の共用だろ?僕達ばっかり食べる訳にもいかないって」

 

穏やかな表情のまま諌める飾に同調し、楜亜羅もこっそりと頷く。これだから狸は!と不満を言うが、怒った方が腹が減る事に気づき、さっきよりも尻尾の動きは鈍い。

 

三匹の口数が減って、ほんの少し影が伸びた頃。

誰かの足音がした。すぐに反応出来た飾と十助は近くの藪に身を隠すが、うとうとしていた楜亜羅は気付かず、身を隠す二人を見て首をかしげた。

 

(ばか、人来てんぞ!)

(こんな人里に狸いたら怪しいよ!)

 

唇だけ動かしてつたえるが早いか、足音の主が楜亜羅をひょいと抱きかかえた。

 

「おや、珍しい。こんな人里に狸ですか。」

 

美人な狸さんですね〜と言いながら頭や背を撫でると驚いて硬直していた楜亜羅も落ち着きを取り戻した。驚きからもこもこに膨らんでいた毛は徐々に戻っていく。

 

「ご飯を探しにきたのかい?」

 

尋ねられ、楜亜羅はつい、キューと返事を返してしまう。それにクスリと笑って、近くの小窓から中に向かって声をかける。

 

「陽乃さん、昼食の野菜の葉とか、まだ残ってたら貰えますか?」

 

「ひ…鶸さん?あ…えっと…大根の葉が…お浸しにしようかと、湯に…通してますが…」

 

「少し頂けますか?」

 

水にさらして少し冷ました物を楜亜羅の口元へ運ぶ。

 

「食べるかい?栄養はあるよ」

 

塩ゆでされた青々とした葉。少し戸惑いながらも食べ、鶸と陽のはその可愛らしさに目を細めた。

 

 

 

「そうか…そう言えばみんな、動物見かけると飯粒分けたりしてたな。」

 

「分けて貰いに行けばいいんだね」

 

藪のなかで二匹は顔を見合わせて頷き、ひっそりと皆が寛ぐ縁側へと向かった。

 

葉のすれる音を聞き、鶸は悪戯っ子を見るような表情で見送る。

 

「上手く行くといいけど…」

 

「鶸…さん?」

 

「あ、すみません、ただの一人ごとです」

 

 

 

 

 

「ん、狸?迷いこんで来たのか?」

 

昼寝でもしようかと縁側を通りかかった鬼月の視界に茶色の毛玉が転がるのが見えた。キューと鳴く姿は狸そのもので、人に慣れているのか逃げようともしない。

 

首根っこを掴むと嫌がるが、どうやら大人しい性質の狸らしい。

 

「ふーん…おい、朔夜!」

 

縁側から室内で菓子を摘まむ朔夜に呼び掛けると、狸に気付いた朔夜があらあら、と言いながら近寄ってくる。

 

(よし!!)

 

つままれた格好のまま十助は内心で喜んだ。この流れなら菓子を貰えるかもしれない、と。

 

「狸ですか…」

 

「あぁ、この辺じゃ珍しいな…。っつぅわけで朔夜」

 

朔夜に獲物を見せるようにし、鬼月はニヤリと笑ってみせた。

 

 

「今夜は狸鍋だな」

 

「食べざかりの子たちが居ますから、みんな喜びますね」

 

(!?)

 

千羽山には狸がおってさ、それを猟師が鉄砲で撃ってさ

煮てさ、焼いてさ、食ってさ〜…

 

二匹の脳裏で手毬唄の一節が流れる。

ついでに鍋を囲む仲間の様子まで想像してしまった。

 

食べ物を手に入れられるかと思ったのにこちらが食べられては本末転倒だ。

 

ピャっと悲鳴をあげて暴れる十助を助けるべく、近くに隠れていた飾が慌てて鬼月に飛びついて引っかいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く…食われるかと思った…」

「諦めて、普通に生活した方が安全にお腹いっぱいになれるかもね…」

 

げんなりする二匹に、楜亜羅が鶸と陽乃の二人から貰ったおやつを分け与えた。

 

「あ、そうだ、鶸さんが言ってたんですけど…」

 

お腹が減ったなら素直に台所で頼んだ方がいいよって…。

 

気付かれてるのか単に動物好きなだけか…判断しかねる言葉だ。それでも、忠告には従った方がよさそうだ。

明日からまた人に化けて、皆と同じように同じご飯を食べよう。

 

三匹は仲良く、焼き菓子をほおばった。

 

説明
ここのつ者小説3作目。
登場するここのつ者:猪狩十助・鳶代飾・藤野楜亜羅・砥草鶸・蒼海鬼月・犀水陽乃・雀崎朔夜
狸達可愛いです!今まで書いたことのない子たちを中心にしているので、口調
の間違い等ありましたらご指摘お願いします!
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