青空に咲く大輪の花
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天は人に数多の恵みを齎す。晴れ渡る陽光は実り良き作物を育む糧となり、降り注ぐ雨粒は世に生きる全ての命に潤いを与える。吹き抜ける涼風は風車を回す動力となり、振り積もる白雪は見る者全てを魅了する。

しかしその一方で、天は人に数多の災いを齎す。晴天は旱害となって全てを干乾びさせ、雨天は洪水となって全てを呑み込む。暴風は竜巻となって全てを吹き飛ばし、寒波は吹雪となって全てを閉じ込める。

天恵と天災。切っても切り離せぬ表裏一体の天候と言う現象に、嘗ての人々は神々の姿を見た。彼等の喜びが、悲しみが、怒りが、空と言う媒体を以ってして具現化しているのだと。そして、抗う術を持たぬ嘗ての人々が思索の果てに行き着いたのは『供物』という手段だった。時には食糧を、時には芸術を、時には祈祷を、そして時には人命を、代償として捧げる事で、より良き恵みを、より良き実りを、より良き育みを希った。

しかし時は流れ、技術や文化の進歩と共にそのような信仰心は徐々に廃れ、その拠り所は存在すら曖昧たる神仏の宗教から確固たる証明に基づいた学問へと移行していった。当然、未だに信仰が残る地域は多々存在するが、それは辺境、辺鄙と表現して差し支えない地域がその大半を占めている。よりよい環境の土地を選び、よりよい土壌で田畑を耕し、よりよい作物で稼業を営む。高所得者は百姓を雇い、百姓は農奴を雇う。稼ぎを上納し、分配し、やがてそれは集落から市街へ、市街から大都へと姿を変え、気付けば大陸の中心には巨大な帝都が築き上げられた。雇用者と被雇用者のみであった階級社会は、やがて統率者たる王とその補佐たる臣下を生み出し、その下で帝都の施政をこなす中央貴族、帝都へと物資を貢ぐ地方貴族、その貴族達の土地で日々の糧を得る市井と、下へ向かうに連れて末広がりの枝分かれを示す金字塔を描くようになる。その様は、正に自然界の食物連鎖。下の者が税を納める代償として、上の者は彼等に権利を与え保護する義務を負う。技術を提供し、知識を提供し、安全を提供しなければならない。

が、結局は人間によって構成された社会である。万事が思惑通りにいく筈もない。先に述べた通り、人は天に逆らう術を持ち得ていない。この先、どれほど技術が進歩するかは不明だが、少なくとも現段階ではそうだ。度の過ぎた天候は先述の通り、作物を奪取するのみでなく、飢餓や疫病のように様々な災害となって我々に降りかかる。

故に、人は足掻く。自らの領分で、自らの手足で、生き抜こうとする。より強い作物を開発し、より強い家屋を開発し、より強い環境を開発する。『開発』という行為は巨大なコミュニティと高い知性を持つ人間の特権と言えよう。そして新たに得た文武を以って、更に新たな領分を切り拓く。確信をもって革新を行う。

しかし、皆が皆、正当な道を行くとは限らない。人は元来、罪深きもの。原書に刻まれた七つの罪は、誰の心にも眠っている。容易い方へ、気楽な方へ、誘われるままに向かおうとする。甘美な密壺の底に、その身の破滅が待ち受けていると解っているにも関わらず。

 

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「計画は順調か?」

夜の帳が世界を暗く覆う中、壮年の男性の声がその部屋に飽和する。辺りには豪奢な家財、絢爛な美術品、それらを仄かに照らす火焔は荘厳な暖炉の中。古式ゆかしき様式美が散りばめられたその部屋は、一定以上に裕福な権力者でなければ手に入れる事を決して許されない豪華さを持ち合わせている。

「えぇ、滞りなく」

それに応える小さな影は、人が膝をつき頭を垂れたそれに酷似していた。恐らく前者に仕える従者の一人であろう。しわがれ声からして年頃は還暦前後、所謂老人のそれだと察する事が出来る。

「で、あるか。次は明朝であったな」

「えぇ、彼奴ももう間も無く折れるでしょう。そうなってしまえば、後は領主様の思うままに」

さしたる会話でもないが、これまでの内容からして、この二人の企みが後ろ暗いものである事はある程度察して頂けるだろう。宵闇で窺い知る事は叶わないが、二人が浮かべている笑みも決して気分のいい類ではないのは間違いない。

ゆるりと両者が視線を向ける先、両手で開け放つ必要すらある大きな窓から繋がるテラス。広がる雄大な自然、月明かりに照らされた木々の絨毯、更にその向こう。連なる山々を越えたその先に、彼等が獲物として目を付けた対象が存在する。にやり、と更に嫌らしく笑みを深めて、二人は高らかにあくどい笑い声を上げた。

 

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同刻。その山々を越えた森の中。

「あぁ、腹減った……」

それは心の底からこぼれ出た言葉だった。同意するように低く唸りを上げる腹の虫の声は、幾ら宥めるようにさすっても一向に収まる気配はない。目は輪郭を虚ろにぼやけさせ、何と焦点を合わせることもない。というか、合わせる対象がそもそも見当たらない。

「くっそ、前の町でケチらずにもうちょい買い貯めしておくんだった……こんなに時間がかかるとは」

月光が見渡す限りの木、木、木。寒さ対策に厚く着込んだ外套の彼の現在地は鬱蒼と生い茂る森林のど真ん中。満足に舗装もされていない獣道同然の地べたに張り巡らされた木々の根幹が、先ほどから何度も何度も足を掬おうとするので余計に疲れが貯まっていく。正直、苛立たしくて仕方がない。

「あ〜、ったく。こういうときはこいつもただのお荷物だもんなぁ……よりにもよってこんな所で燃料切れ起こしやがって」

これ、というのは彼の引き摺っている、金属製の大きな円筒が目立つ台車だった。そのまま露店でも開けそうなくらいに大きく、となればまず間違いなく重い。それも後部には蒸気機関らしき火炉と排気口が視認できる。どうやら、本来であればその台車は搭乗し運転する事も可能なようだ。それを更に木の根にとられて元来の役割を果たさない車輪が徒労に終わらせようとしているのだ、労力の消費は普通に牽引するそれよりも相当なものだろう。

そんな鋼鉄の塊を振り向きながら、消耗しきった表情でぶつくさと愚痴を漏らす彼、年頃は三十前後。彫りの深い顔立ちは無精髭も相まって不相応な貫禄を携えていた。苛立ち交じりに懐から取り出す小さな紙の箱。摘み出したのは一本の煙草だった。が、しかし、

「くそっ、時化ってやがる。全然点きやしねえ」

それは煙草のみでなく、火付け用のマッチもだった。虎の子の最後の一本が役に立たないと解り、苦渋に歯を噛み締めながら握り潰し、そのまま近くの草むらにでも投げ捨てようとして、

「っと、いかんいかん。八つ当たりしたところでどうにもならんか」

すぐに熱は冷めたのか、肩を落としながらその辺の樹木の根本に腰を落とす。

「あ〜……疲れた、もう動けん。ここでいいや、ちっと休憩」

纏う外套の中に首を引っ込め両の手足を仕舞い込み、完全に休息の体勢に。そのまま意識を深く深く沈めようとして、

「……ん?」

ふと、感じ取った匂いにすんすんと鼻を動かす。どんな、と問われると類似するものが思いつかないので形容に困るが、微かに鼻を衝くような湿った独特の匂いは間違えようもない。

「―――げ。雨の匂いだ」

気づけば、彼は重い腰を再び胡乱げに持ち上げていた。

 

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「うへぇ……マジかよ、こりゃ酷ぇな」

あれから十分も経たないにも関わらず、頭上は瀑布のように降り注ぐ雨粒で埋め尽くされていた。土砂降り、豪雨、そう表現して全く差し支えないだろう。雨量はまるで異常気象のそれだった。まだ暴風雨でないだけ、ましな方ではあるかもしれない。

「早い所着かねえと、体力もたねえぞ」

あのまま休んでいようものなら、翌朝には水も滴るどころか、世にも奇妙な陸上での水死体の完成である。

「……いや、溺死じゃねえから水死体は違うか」

というか、死ぬつもりは更々無いのだが。

そんな間抜けな思考回路が活動するくらいには、まだ余裕はあるらしい。

と、

「―――お?」

視界の端、立ち並ぶ木々の切れ間に一瞬、灯の欠片が映った気がした。長距離走をやり遂げるコツの一つとして『細かく到達点を決める』というものがある。早い話『あの看板の下まで』『あの交差点まで』と、目に見えるような近い位置を仮定のゴールと定め、到達したらまた視認できる仮定のゴールを定め、というのを延々と繰り返していけば自ずと本物のゴールにも辿り着ける、という訳だ。到達点が解る、というのは案外馬鹿に出来ないもので、一度『もう少し』と思ってしまえば不思議と身体は軽くなる。人間の脳は複雑なようで、意外に単純な部分もあるのだ。

と、話が逸れたが、どうやら目的地が近いようだ。

「やっと到着か……」

冬季ではないとはいえ深夜、それも雨で全身ずぶ濡れである為に身体は凍えんばかりに冷え切っている。寒さが奪うのは何も体温だけではないのだ。

「はぁ……行くか」

両手を気休め程度の吐息で温めると、彼は再び台車の牽引用の取っ手を握り直し、最期の力を振り絞ってゆっくりと歩き出した。

 

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その村には雨が降っていた。ただ降っているだけならば何と言う事もない。世界中の何処でも確認できる、ありふれた気象でしかない。問題なのはその雨がここ数日でなく、ここ数ヶ月に渡って振り続けている事にあった。

「また、今日も雨か……」

窓の外、曇天の夜空が染め上げる昏い景色を眺めながらの呟きは、少なからずの落胆を含有していた。最低限の白熱電球の射光と大きな暖炉によって眩しいとは感じない程度に照らされている室内は、金属加工の技術水準が遥かに進歩した現代においては所謂『懐かしい』と評されるようなものであった。無理もない。この村は世俗から隔離されたも同然な山村であり、村人の多くはその生計を農業、畜産などの一次産業で立てている、俗にいう田舎である。作物や加工した商品の仕出し、そして物資の仕入れの大半を定期的に訪れる行商人に頼っているこの村は、当然ながら帝都やその周辺地域ほど発達した技術が普及してはおらず、未だ自然との折衷を主軸に置いた生活を営む事を、ある意味で強いられているとも言えた。

そして、その呟きの主は窓硝子に浮かび上がる水滴を拭いながら一向に止まる気配のない黒雲を見上げていた。その指は白く細く、対して髪は黒く長く、そして艶やかだった。明らかに、女性のそれであった。

「本当に、いつになったら止んでくれるのかしら……」

雨は天然の如雨露である。作物に水分と地中の栄養を届ける為に必要不可欠だ。が、しかし、過ぎた水分は根を腐らせたり、時には洪水と化して河川を氾濫させ、田畑ごと全てを押し流してしまう事すら有り得る。何より、このまま雨天が続くようでは、その地に暮らす住人達の気も滅入るというものだ。実際、彼女もこうして溜息混じりの言葉ばかりが口を衝いて出るのだから。

と、

 

―――どちゃっ

 

「……?」

それは泥濘の飛沫が飛び散った音に聞こえた。決して小さくも軽くもない何かが地面を叩いたという証拠。それも、これほどはっきりと聞こえたということは、

「何の、音?」

無言で玄関口へと向かう。ランタンを片手に戸をそっと開け、隙間から外を覗いて、

「―――え?」

彼女は絶句する。室内から漏れ出す射光の先で、まるで糸の切れた操り人形のように四肢を投げ出し俯せに、一人の男性が倒れていた。

「っ、だ、大丈夫ですか?」

暫しの茫然の後、我に返ってすぐさま駆け寄る。男は外套を纏っており、その下の衣服も日常生活のそれとは違う明らかに長期間に渡る移動や環境を変化を前提とした出で立ち。この村で生まれ育ってきたが、見覚えのない意匠であった。どうやら村の外から来たようだ。

「あ、あぁ……」

「どうされたんですか? どこかに怪我を? それとも、何か持病が?」

薄らいではいるものの、男の意識は未だ覚醒しているようだった。舌の根すらまともに動かせないほどに衰弱しきっているらしく、途切れ途切れの音を繋ぎ合わせながら、何かを自分に伝えようとしているようで、

「何ですか? 何を伝えようとしているんですか?」

口元に近づき、少しでも多くを聞き取ろうと耳を澄ませて、

「は、は、」

「『は』、なんですか?」

 

―――腹、減った……

 

それは実に肩透かしで、それを最後に糸の切れた人形のように四肢を投げ出した男を、彼女は思わず暫くの間、呆然と見下ろしてしまっていた。

 

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「いやぁ、有難うお嬢さん。今回は流石に死んだかと思ったよ」

「はぁ、どういたしまして」

数十分後。汚れ、草臥れきった外套と衣服を洗濯機に放り込み、風呂に入れさせ着替えを終えると、男性の弱々しかった印象は完全に逆転していた。年頃は自分よりもかなり年上で、恐らくは三十前後。彫りの深い顔立ちは、手入れの届いていない無精髭も相まって中々の貫禄を醸し出していた。雨粒に濡れ凍えんばかりに冷え切っていた血色は湯船と暖炉で見る見るうちに回復し、今は有り合わせの材料で作った食事に、実に美味しそうに舌鼓を打っている。

「あの、もしかして兵隊さんですか?」

「ん? どうしてそう思う?」

「その、表のあれは新しい小型の戦車なのかと。違うんですか?」

『表のあれ』というのは、彼が先ほどまで引っ張っていた大きな円筒が目立つ、金属製の無骨な台車である。見るからに金属製のそれはそこらの牛馬並に大きく、となればまず間違いなく重い。それも後部には蒸気機関らしき火炉と排気口が視認できる。どうみても円筒のそれは、彼女には砲塔にしか見えなかった。

「あぁ、確かに傍目はそう見えるかもしれないな。けど、そんな物騒なものじゃない。俺の商売道具なのは当たってるけどね」

「では、あなたは軍人さんではない、と?」

「あぁ。俺はしがない行商人さ」

「行商人? あの台車で、一体何を売られてるんですか?」

初見であれば十中八九、誰もが兵器だと思うであろうそれは、それ自体が商品でない限り、売買の道具にはとても見えなかった。大砲と言えば、何かを『打ち出す』以外の用途が思い浮かばず、何かを打ち出す商売で砲兵以外となると、

「花火、とか?」

「まぁ、そんなものだと思ってくれて結構。普段は自走式のあいつに乗って移動しているんだけど、ここに来るまでに燃料が切れちまってね。こういう時はこいつもただのお荷物になっちまう」

どうやら正解ではないが、あながち遠くもないらしい。微かな沈黙は返答に対する驚嘆なのか、逡巡なのか。

「煙草、吸っても?」

「えぇ、どうぞ」

「どうも―――って、あぁ。時化ってて点かないんだった」

どうやら最後の一本だったのか、苦渋に歯を噛み締めながら握り潰し暖炉へと放り込んでいるのを見ていると、随分と感情の起伏が大きい人だと思う。少なからずの湿り気を帯びた燃料は蒸発の音を立てながら緩やかに灰へと還っていく。

「それで、あなたはどうしてこの村へ?」

「ヒョーマ」

「はい?」

「ヒョーマ。俺の名前だよ。まだ名乗ってなかっただろう」

「そういえばそうでしたね。私はフィーノです。この村の村長をやっています」

「ほぉ。随分若いのに、大したもんだ」

「名前だけのお神輿ですよ。昨年、前の村長が亡くなって、私が跡を継いだだけです」

「そう、か。そりゃ不躾な事を聞いたかな」

「気にしないで下さい。それで、ヒョーマさんはどうしてこの村へ? 花火を見せに来たのでしたら、この村では商売にはならないと思いますよ」

「……そりゃまたどうして?」

尋ねるヒョーマにフィーノは再び窓へと歩み寄り、カーテンを開け放って、言う。

「ここ数ヶ月、私達は太陽を一切見ていないんです。ここら一帯の空はずっと分厚い雲に覆われたままで、一向に晴れる気配を見せてくれません。おかげで作物はまともに育ちませんし、氾濫した川じゃ魚も満足に取れません。……それに、原因不明の体調不良で動けなくなる人も、少しずつ増えていて」

「体調不良、ね」

「少なくとも、この村の医者では原因の特定は出来ませんでした。定期的に来てくれていた行商人の皆さんも『危険だから』と近寄らなくなってしまって。今は蓄えを削りながら何とかなっていますけど、いずれは底を尽きるでしょう」

「なのに、態々俺にメシを分けてくれたのかい?」

「だって、困ってる人は放っておけないじゃないですか」

柳眉を下げ眉根を顰め、しかし笑うと言う表情は少なからずの翳りを帯びていた。そこからありありと窺える、彼女の心中は、

「大丈夫です、ご心配には及びません。山向こうの領主様が、私が嫁ぐなら村の皆を迎え入れてもいいと、そう言ってくださっていますから」

「で、受けるのかい?どう見ても、君は嫌々そうしているように見えるけども」

「……だって、村人を守るのが、村長の務めじゃないですか」

悲愴感すら漂わせる、弱々しい笑顔だった。正に、顔に書いてある、と言う奴だ。心中を察するまでもなく、彼女の本心は明白であり、彼女はそれを必死に飲み込もうとしている。それは、自分が最も嫌う笑顔で、しかし一宿一飯の恩人に当たり散らすわけにもいかず、ヒョーマは目の前の食事を腹に収めることに意識を集中させた。

 

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「さて、そろそろ向かうとするか」

場所は再び冒頭の暗い部屋へと戻る。。辺り一帯の地域、その人や物資の行き来する道、その焦点たる城下町。その中心に聳え立つ、どこか前時代的な面影を残す城、その最上階。町を一挙に見下ろす事さえ容易なその部屋で、軽く酒を煽り上機嫌な彼は徐に立ち上がるとそう言った。

「今から向かえば丁度夜明け。そろそろ限界も間近となれば、今日こそフィーノ嬢も首を縦に振ってくれるやもしれん」

既に語るに落ちているとは思うが、彼こそフィーノの言う山向こうの領主、である。彼の城に訪れる行商人にはフィーノの村を訪れていた者もおり、その中の一人が嘗て城を訪れた際に話していたのを、彼は偶々耳にした。

『山向こうの村、その村長の娘は実に見目麗しく、あれほどの女子は他にそうはおりますまい』

最早持ち込まれた商品などそっちのけで、彼は年甲斐もなく未だ見えぬ彼女へ想いを馳せた。そして五年ほど前、査察とは名ばかりに村を訪れた際、彼は一目でフィーノに惚れてしまい、直後に告白。数秒の後に、ものの見事に玉砕したのである。『タイプじゃないんです』という一刀のもとに切り捨てられるのも無理はない。何せ当時のフィーノは十代前半の少女である。年上趣味でもない限り、そう簡単に親と同年代のおじ様相手に惚れ込んだりはしないだろう。が、この領主、そこで引きさがるような潔い男ではなかった。あの手この手で迫り続けて幾星霜、振られに振られ続け、戦績の黒星はとうに三桁に達しているとかいないとか。それでも諦めないこの男が、果てに選んだ手段は、

「今から村へ向かう。『例の粉』の準備を急がせよ」

「畏まりました」

「フィーノ嬢もよもや想像だにしておらんだろうて。あの村に雨が降り続ける原因が儂自身だとはな」

 

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「……なんで、あんな事まで喋っちゃったのかな」

今日出会ったばかりの初対面。それも事情を理解できない幼い子供相手に愚痴るならまだしも、明らかに自分より年上の男性相手。そんな相手にまで不平不満を溢してしまうほどに、自分自身が参ってしまっていると言う事か。

「きっと、嫌な思いをさせたよね」

当の本人は既に客間で床に就いている。布団に入るや否や泥のように眠りだしたのだから、相当疲労が溜まっていたのだろう。何せこの村は最寄りの町から急いでも一昼夜はかかる。それを彼は一人で、あの巨大な台車を徒歩で引っ張ってきているのだ。浪費した体力は普通の交通手段とは比べ物にならないだろう。

「そういえば」

結局聞きそびれてしまったが、彼の職業とは何なのだろうか。花火の行商という商売自体珍しいが、だとしてもこのような辺境の山村に来て儲けが出るとも思えない。もっと人口の多い帝都周辺を渡り歩いていれば充分である筈なのだ。彼の雰囲気からして、儲けは二の次で気儘に世界中を旅するのが目的だ、と応えられても頷いてはしまいそうだが。

『まぁ、そんなものだと思ってくれて結構』

それはつまり、完全な正解ではないと言う事だ。あんな大砲を用いて、花火師に似て非なる職業。

「…………」

まるで想像がつかない。そもそも大砲を用いる職業自体が砲兵と花火師以外に思いつかない。あれが大砲か否か自体、私の推測でしかないのだけれど。

「不思議な、人だな」

見るからに年上なのに、あんなに喜怒哀楽がはっきりとしていて、嬉しい事に喜んで、腹立たしい事に顔を顰めて。感情を隠す素振りすら見せないその在り様は少々妬ましくも好ましいもので、

「羨ましいな」

彼には、枷と言うものがないのだろう。地位や貧富によるしがらみ、その一切から解き放たれた、自由気儘な旅路。丘の向こうへ、海の向こうへ、森の向こうへ、空の向こうへ、想いを馳せ、思いを描き、そしてその正否を自分の目で確かめに行く。それはきっと、何てことのない事柄のようで、何よりも心を躍らせるものに違いない。

でも、

「…………」

露を拭った先、車軸の如く降りしきる雨粒の向こうで揺れる微かな灯。ここで生まれ、ここで学び、ここで遊び、ここで育った。生まれ故郷。大切な場所。見捨てる事など、出来はしない。

自分にないものを欲するのは人間の性だ。それが現実的な願望であるならまだしも、

「私には、これぐらいしか……」

思い浮かぶ視線。好意を向けられる事自体を嫌う人は少ないだろうが、それが『そういう対象』として見られない相手ならば話は別だ。何度も、何度も、それこそ何十も何百も懇切丁寧にお断りしているというのに、未だに加減や引き際というものを理解してくれない。

あの人の元に嫁ぐ。いい気はしない。というか、はっきり言って嫌だ。でも、

「でないと、皆が……」

このまま収穫すら出来ないままでは、食糧は近い内に底をつく。村の医者が診ても体調不良者の原因は不明。泥沼の蟻地獄。真綿の絞首台。後はずるずると呑み込まれて、じわじわと締められていくだけ。そんな事は許せない、認めない。その代償が、私で済むのならば。

向ける先の無い憤りのというものは、本当に厄介なことこの上ない。悔しくて、腹立たしくて、強く噛み締めた奥歯がギリ、と嫌な音を立てる。村人たちは「自分たちの為に望まない結婚なんてしなくていい」と、皆が口を揃えてそう言ってくれた。その優しさはとても嬉しくて甘えたくもあり、そしてだからこそ、とても苦しくて甘えたくなかった。どんなに廃れていったとしても、生まれ育ったこの村が大好きなのだ。そして、自分に守る術が、その選択肢がある。だとしたなら、それを選ぶことに何の躊躇いも、

『で、受けるのかい?どう見ても、君は嫌々そうしているように見えるけども』

「…………」

先刻のヒョーマの言葉が、ふと脳裏に蘇った。あんな風にさらりと他人に物申せる不躾さは一旦置いておいて、何故そうなったのかと推察して、一つ思い当る。

(あの時のヒョーマさんの目、すごく悲しそうだった)

それは憐れみの感情などではなく、自分の境遇に何か辛い思い出を被らせているような、そんな気がした。自分の倍近く生きているのだから、自力ではどうしようもない、抗いようもない理不尽、不条理といったものを知っていてもおかしくはないだろうが、それにしたってあの瞳の昏さは、そう簡単に生まれるようなものには思えなくて、

「ん、んぅ……」

そこまで考えて、時刻が深夜を回り、流石に襲って来る睡魔に抗い切れなくなってゆっくりと船を漕ぎ始める。そのままゆっくりと両腕を枕にして、フィーノは木卓の上で眠りに落ちて行った。

 

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「ふぁ、良く寝た」

寝室より欠伸を噛み殺しながら起き上る影一つ。寝癖のついた頭を掻きながらゆっくりとヒョーマは居間へと現れた。

「ん? ……あらら、こんなとこで寝ちゃってまぁ。疲れも取れないだろうに」

今の木卓に身体を預けながら眠る彼女に、今さっきまで自分の使っていた毛布をかけてやる。微かに身じろぎしたかと思うと、ゆっくりとその毛布に顔を埋め、

「やっぱり寒かったか。流石に暖炉だけじゃな」

そう思って苦笑した、その直後。

「ん……」

「お、起きるか?」

身じろぎ一つと漏れた声。微かに眉を顰めるその顔を横から覗き見て、

「お、とう、さん……」

「…………」

目尻から一筋の滴が零れて、毛布に吸い込まれていった。その顔はあまりに少女で、その声はあまりに幼くて、ヒョーマは真一文字に唇を紡ぐ。山村程度とはいえ、集落一つをその身に背負うというのは並大抵の重圧ではない。ましてやこの娘は親を亡くしただけでなく、未だ成人すら済ませていない、少女と言って差し支えない身空である。

「……はぁ、しょうがねえな。もう一仕事するか。電話、借りるぞ」

嘆息。そのまま彼は受話器を持ち上げ、誰かと話し始めた。

「どうも、お久しぶりです。……えぇ、調査の方は当たりでした。場所は……はい、それで間違いありません、至急お願いします。で、なんですけど、少々許可を頂きたい事でありまして……」

 

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翌朝。空模様は晴れ渡ってこそいないものの、雨足はようやく止まった様で、今は雨霧がぼんやりと当たりに飽和していた。少し肌寒い気もするが、空気は連日の大雨で散々洗い流されたらしく、吸いこんでみると中々に心地良く肺腑の隅々まで行き渡る。雨そのものはあまり好きではないが、雨上がりのこの澄んだ空気は、嫌いじゃない。

「さてと、燃料を補充させてもらわんと」

何度も深呼吸を繰り返した後で、ヒョーマはフィーノの家のすぐ脇に停めさせてもらったあの台車へと向かった。無骨な鋼鉄製のそれの後部、蒸気機関の火炉を開き、そこへフィーノより譲り受けた石炭を放り込んでいく。経済状況を聞いた後ではよかったのだろうかとも思ったが、彼女曰く『石炭なら毎日消費しても一冬を越せる程度の貯蓄はあるので』とのこと。確かに、薪なら文字通り腐るほど手に入るだろう山村で石炭を必要とするのは冬季くらいのものである。大抵は念には念をと多めに準備しているだろうから、こいつの『一発』程度の火力で左右するような事もないのだろう。

「ん、こんなもんかな」

充分な補充を終えて鉄扉を閉じる。後は使用の際に点火すれば万事無問題。首や腰を軽く曲げて解し、ぐっと背を反らして身体を伸ばした、その時だった。

「―――きっ、貴様っ、一体何者だ!」

「ん?」

何やら切羽詰まった声の方を見れば、ぞろぞろと護衛達を引き連れて、一際立派な馬に乗ったオヤジがこっちに向かって来る。そんなに自分の権威を主張したいのか、見るからに煌びやかな服や鞍や鐙の意匠は、正直悪趣味と評して問題ない。無駄に装飾品の多い業突く張り、そんな印象を受ける。これは性格もがめつい吝嗇屋で間違いなさそうだ。

「噂通りだな、このオッサン……」

「応えよ! 貴様は何者だ!」

「別に、ただの通りすがりの行商人ですよ。腹減ってぶっ倒れた所をこの家の娘に助けて貰ったってだけです」

「……ふむ、であったか。ならば宜しい」

何が宜しいだ、と心中でだけ吐き捨ててヒョーマは台車のメンテナンスを再開する。昨夜の雨で時化ったり錆びたりしていないかが心配だったが、どうやら無事なようだ。各可動部も問題なく動く。

「ん、流石俺の相棒。頼もしいぜ」

ガン、と鈍い返答は右の拳で。見上げた砲塔は露に濡れながらも堂々と黒く鈍重な様を見せている。

と、

「んっ、んん。フィーノ殿。御在宅ですかな?」

やたらと大袈裟に胸を張って扉を叩くオヤジ。そのまま後ろにでも倒れてしまうそうなほどの角度である。貫禄があるわけでも鳩胸というわけでもないので、正直見るに堪えない。ゆっくりと開けられるドア。やがて先ほど自分がかけた毛布に身をくるんだフィーノが何処か気だるげに出てきたのが見えた。

「領主様、ですか……本日のご用件はなんでしょうか?査察のご予定は聞いておりませんが」

辟易染みた、胸の中の苛立ちや呆れを煮詰め尽くしたような台詞であった。うんざり、そんな四文字が見て取れる表情を隠そうともしない所を見ると、彼がここを訪れたのは一度や二度ではないのだろう。フィーノは彼に対して、見るからにネガティブな感情の方が圧倒的に勝っているようだ。それでも平然と上から目線の態度を崩さない所を見ると、あの領主とやらは承知の上で拝み倒しているのか、それとも気付いていないだけのただの馬鹿なのか。前者ならばまだ救いようもあるというものだが。

「要件など決まっております。私との婚約についてです。前向きに検討していただけましたかな?」

既に答えは決まっているだろう。そんな言外の本音をまるで隠そうともしない得意げな態度に、初対面のヒョーマですら並々ならぬ嫌悪感を覚えた。こんな調子で彼女曰く、数年単位で迫られ続けているというのだから、フィーノの我慢強さは素晴らしいものだ、と手放しにそう思う。

と、

(―――ん?)

「…………」

フィーノが、何故か横目でこちらを見ていた。助けに入って欲しいのだろうか。まぁ食事と布団に燃料まで分けて貰ったのだ、それくらいは吝かではない。そう考えて、どうにもそうではなさそうだということに気が付く。助けを乞うている、というよりは決断に迷っているように見えたのだ。そして、その要因の一端が自分にあるのだろうと、そう思った。恐らく、昨夜の自分の言葉か態度が何かしらの形で彼女の琴線に触れたのだろう。はてさて、彼女はどうするのだろうか。暫く見守っていると、フィーノは虚空を彷徨うように視線を巡らせた後に、決断したように表情を引き締めて、

「……結構、です。何度もお断りした筈ですし、今後とも心変わりする事は有り得ないでしょう。お帰り下さい」

ひゅう、と小さく口笛を一つ。深々と下げる頭は反論の余地を許さず、取り付く島もないとはこのことだ。一種の爽快さすら覚えた。流石に村一つ任されているだけの事はある。

と、そんな彼女の反応が予想外だったのだろう、領主の男は一瞬、信じられないものを見るような目つきでフィーノを見下ろし、しかし直後に何故か得意げな笑みを浮かべてこう言った。

「そうですか。実に、実に残念です。貴女はもっと聡明な女性であったと、そう思っていたのですけれどねぇ」

嫌らしい、憎々しい、腹立たしいの三拍子が揃い踏みした、世の中の下品という下品を煮出して煮込んで煮詰めきったような、そんな表情だった。

「私は一向に構いませんよ?ただ、この雨が止まぬ限り、この村はいずれ底を尽きる。金も、食料も、何もかも。それに、謎の病気まで流行っているというじゃあありませんか。本当に、私の力が必要ではないので?」

それでも尚、食い下がってくる。これは明らかに何かおかしい。流石にそう思ったのだろう、フィーノは下げていた頭をゆっくりとあげ、領主を見上げる。

「貴女の身一つで、この村を救って差し上げると、そう言っているのですよ。なぁに、大した問題ではありますまい。本当に、その決断でよろしいのですかな?山村とはいえ、民を束ね、民を生かし、民の上に立つ者として」

「…………」

これでよくぞ未だに沈黙を保っていられるものだ。それとも、僅かでも口を開けば罵詈雑言が溢れかえってくると分かっているからこそ、必死に飲み込もうとしているのだろうか。

(そろそろ、頃合いだな)

そう思い、ヒョーマはフィーノと領主の間にずいっと身体を割り込ませた。

「なんだ、まだいたのか貴様。邪魔をするんじゃあない」

「ヒョーマ、さん……?」

訝しげにこちらへと視線を向ける二人。片方は心底邪魔だと言わんばかりに見下ろしながら。もう片方は何をする積りなのか全く不明だという疑問から。そして、

 

―――ヨウ化銀。

 

「―――――」

「……え?」

ヒョーマがそう呟いた途端に、領主は口を閉ざし、僅かに表情を青ざめさせた。

 

-11ページ-

 

「雲ってのは、言うなりゃ水や氷の塊なんだな。風で浮いちまうくらいに軽くて小さい水滴や氷晶が幾つも固まってあぁなってる。これらを雲粒といって、こいつが地上で発生したのが霧ってわけだ」

一体、何の話だろうか。詰まることなく滑らかに語り始めたそれは、ヒョーマの随分と草臥れた外見からは想像もつかないほどに専門的な学論だった。

「で、雨ってのはその雲粒、特に氷晶の方だな。それが氷点下一五℃以下の低温の雲の中で生まれ、尚且つ昇華核として周囲の水蒸気を吸収して雪片、所謂雪の素になって、落ちてくる間に溶けたものを指す。つまり、雨が降るには“低温の雲”の中に“氷の粒”が生まれる必要があるわけだ。その粒の素になるのは、海の波飛沫で吹き上げられた塩の核だったり、地上から舞い上がった砂塵だったり、そもそも雲の中で水蒸気が凍ったりと、基本的には自然発生的なものなわけだが」

そこで一旦言葉を区切って、一歩詰め寄るヒョーマ。思わずたじろぎ、同じく一歩後ずさる領主。そして、

「この氷の粒を、人工的に発生させる方法がある」

「っ」

「―――え?」

今、この人は何と言った?“人工的に”雨を降らせる方法があると、そう言ったのか?

「要するに、強制的に雲を低温状態にして、氷の粒を無理やり作っちまう、そういう薬品があるのさ。それがヨウ化銀。こいつを大砲で打ち上げるんでも、燃やして煙状にして昇らせるんでも何でもいい、雲ん中にぶち込んでやれば温度は下がり、氷の粒を生まれやすくさせられる」

「い、一体何の話だね?」

「昨日、アンタの城の倉庫から、こいつが大量に見つかったわけだけども、理由を聞かせちゃくれないかね、って話さ」

「―――――」

領主の反応はあからさまだった、ひきつけを起こしたかのように表情を奇妙な形に歪ませ、言葉を飲み込んだまま沈黙を決め込んでこそいるが、額には脂汗がじわりと滲み出ている。

「アンタんとこが旱魃で苦しんでるってんなら解らなくもない。が、むしろここ数ヶ月、この村は豪雨に見舞われ続けてるそうじゃねえか。前もって違う土地で雨を振らせて雲を消しちまって、ここら一帯を晴れさせることも出来なくはないわけだが、だったらそれこそもっと遠く離れた土地から見つかるはずだわな。何よりも―――」

殊更に詰める距離。周囲の護衛たちが槍の穂先を向けて包囲網を敷いてくるが、構うことなどなく。

「―――無断で天候技術を利用するのは重罪だ。正式な手続きを踏んで許可が下りてりゃあ、ドライアイスが使用されてるはずなんだよ。ヨウ化銀は微弱だが毒性がある。多少なら問題委はないが、長期間に渡って大量に摂取すりゃあ、作物や人体に影響が出たっておかしかない。恐らく、その辺も視野に入れてやがったろう、テメェ」

襟首を掴み上げ、額を突き合わせんばかりの至近距離での睨み合い。いや、正確に言うなら睨み“合い”などではない。そもそも今の領主に、そんな気概があるようには窺えない。

「ど、どうして正式な手続きを踏んでいないと言えるのかね!? 私は、きっちりと段階を踏んで―――」

ふいに、ヒョーマが懐から何かを取り出したのを見て、領主は悪足掻きのような言い訳を噤む。そして、

 

―――俺がその権限を持っているからに決まってんだろうが。

 

それは黒革製で、小さな手帳のようなサイズと構造をしていた。開き、まざまざと突きつけたそこには、輪を描いた茨の冠の中で羽ばたく双頭の大鷲が彫り込まれたレリーフが嵌め込まれており、

「そ、それはっ、皇帝陛下のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?!?」

「既に俺の方から陛下に連絡が行っている。昨夜の内にヨウ化銀はすべて処分したし、使っていた発煙路も全部ぶっ壊した。今頃、テメェの城に正規軍の連中が逮捕状持ってきてるはずだぜ。年貢の納め時だな、下種野郎」

そういえば、ヒョーマが昨日どこかへ電話していたのを、フィーノは思い出した。

突き放されたと同時、四肢から力が抜け、糸の切れた人形のように泥濘の中で投げ出される領主。豪奢な衣装は泥に塗れ、それを拭う気力もないのか、ただただ死んだように微動だにしなくなった。取り巻きの衛兵たちは“口を封じてしまえばいい”と切っ先をよりヒョーマに近づけようとして、

「―――おっと、それ以上来るな。大怪我したくなけりゃあな」

後ろ手にしていた、もう片方の手を見せびらかすように掲げるヒョーマ。そこには一本の紐が握られていた。紐を辿っていき、その先を、その根元を目の当たりにして、そこで初めて衛兵たちは気づいた。彼の真後ろ、鎮座しているそれは小型でこそあるが、彼らの記憶の中の“野戦砲”に酷似していた。そして、その砲塔がこちらに向けられており、後部の排煙筒からもうもうと黒煙が立ち昇っている事に。

「あとほんのちょびっとでも近寄って来たなら、こいつを引っ張るぜ?どうなるか、解らないお前らじゃあないよな?」

背筋に怖気が走ったのだろう、一気に腰が引け、足が竦み始めていた。

「手を出してくれても結構だが、もうちょいじっくり考えてみろ?俺は“お前らは黒”って連絡を、とっくの昔にしてるんだぜ?そんな俺が帰らぬ人になってみろ、真っ先に疑われんのはお前らだろうが」

逆境の場数が桁違いなのだろう、ヒョーマの飄々とした態度はまるで崩れる気配がない。それどころか、連中を手玉にとる始末である。腕っぷしではまるで叶わないのは火を見るよりも明らかなのに、彼らはまるで蛇に睨まれた蛙のように、物理的にも精神的にも雁字搦めにされ、動けそうにもない。それどころか、

「5……4……」

ざわり、とどよめきが走る。突如始まったカウントダウンの意味がこの状況下で解らぬはずもなく、

「3……2……」

進むにつれてヒョーマの笑顔は色濃くなり、対して衛兵たちは戦々恐々と慌てふためき始める。指示を仰ごうと領主を見るものの、死にも等しい宣告を叩きつけられて既に意識を空の彼方まですっ飛ばしてしまったのか、泥だらけの中年親父はうんともすんとも言いやしない。そして、

「1……ぜ―――」

「た、退散〜〜〜〜!!」

ヒョーマが最後に思いっきり紐を引っ張ろうとした瞬間、神輿のような状態で物言わぬ骸状態の人形を担ぎ上げ、蜘蛛の子を散らすように連中は逃げ帰っていったのだった。

 

-12ページ-

 

「ったく。大将が大将なら子分も子分だな。呆気ねぇ」

既に米粒ほどの小ささに見えるまで遠ざかっている腰抜けたちに目を細めながら、ため息をついて、

「耳、塞いでな。フィーノちゃん」

「え?あ、はい」

咄嗟の事だったので反応が遅れたが、反射的にその言葉に従い、フィーノが両耳に掌を当てて聴覚の遮断を試みた直後、ヒョーマは何ということのないように平然と握っていた紐を引っ張って、

(―――え?)

 

―――ドゴォォォォォォォォン!

 

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」

砲撃の爆音が凄まじい音量だという知識こそあったが、至近距離とはいえ、耳を塞いで尚、これほどの威力なのかと思い知る。耳を劈く、というよりも、まるで巨大な鉄塊を叩きつけられたような衝撃。兵士たちの怯えようも頷けるというものだった。

「だ〜っはっはっはっは!あいつら、物凄い速さで逃げてくぞ!」

その隣で、ヒョーマは腹を抱えて大笑いしながら、更に砂粒のように小さくなっている人影の塊を指さしていた。若干、目尻に涙まで窺える。そんなに笑えるようなことだろうか。今の私はむしろ、彼らにほんの少し同情や憐憫まで感じているのだけれど。

「というか、本当に撃っちゃってどうするんですか!?この村の人口は、それは多くはないですけれど、当たる確率だってゼロじゃないですよ!?」

「大丈夫、大丈夫。これ、空砲だから。音が派手なだけで砲弾なんか入ってない。ってか、砲弾なんで持ってないし」

何の悪びれもなく言い放つヒョーマは、流石に耳に何かしらの影響が出ているのか「うお〜、耳ん中がぐわんぐわん言ってやがる」とか言いながら小指で耳の中を穿っていた。

そんな、気が付けば先ほどまでの凄味は鳴りを潜め、飄々とした態度へと戻っている彼を見上げて、

「……ヒョーマさん」

「ん?」

「あなたは、何者なんですか?」

思わず、フィーノは尋ねていた。披露された知識。衛兵に見せた度胸。何より、あのレリーフ。あれは、皇帝陛下直属の組織に所属する人間のみが持つことを許された代物だったはずだ。

「……さてね」

「さてね、って」

「俺は、俺のやりたいようにやってるだけだからな。俺は、俺でしかないさ」

そう言うや否や、彼は砲身を真上に向ける。台座の前部に設置されているのは風速計だろうか、それを見ながら角度の微調整を行い、砲身の後端の栓を開けると、収納部分から何やら人間の頭蓋骨くらいの大きさをした円形の塊を引っ張り出してきて、

「ほ、砲弾!?」

「違うってば。持ってないって、さっき言ったでしょうよ。確かに似てるし勘違いするのもわかるけど、これは俺の商売道具であって、決して武器なんかじゃあない」

まぁ見てなよ、すぐに解るから。そんな呟きが鼓膜に届いて、フィーノは口を噤んだ。

「仕事は終わったから、ここで食料と燃料の補給させてもらえたら直ぐに次の町に発つ予定だったんだけどな、気が変わった。見せてやるよ。俺の商売」

そう言いながら、彼が自分だけなく、周囲を見回しているのを見て、フィーノは初めて気が付いた。先ほどの砲撃の音に釣られて、村人たちが集まってきていたことに。

塊を砲身に装填し、煌々と燃え盛る火炉の火力を確認して、安全装置を解除する。すると、排煙筒から吐き出される排気量がぐんと増え、それに連れて何かが軋むような音が砲塔から低く轟き始めた。

「さ〜てお立合い、紳士淑女の皆々様!本日の演目は大空に輝く双輪の白日にござい!」

仰々しく持ち上げた右手に握られるのは先ほどと同じ、発砲の引き金たる太く丈夫な一本の紐。そして、

「10、9、8、7、」

訴えかけるように、大声で読み上げる数字。掲げる左手は、数えるたびに立てた指が減っていく。煽っている。一緒に数えてくれないか、と言外に訴えかけていた。子供たちが面白がって真っ先に乗り始めた。

「6、5、4、3、」

怪しい雰囲気はないと悟ったのか、若者や大人たちもそれに続く。気づけば、それは村人たち全員に伝播して、大合唱となっていた。

そして、

「2、1―――」

満身の力を込めるように背を逸らし、つけられるだけの勢いをつけて、その右手を大きく振り下したと同時に、

 

―――ゼロォォォォォォォォォ!

―――ドゴォォォォォォォォン!

 

再び、鼓膜を突き破らんと襲い来る轟音。それと共に上空へと昇る一陣の恒星。炎の煌めきを纏ったそれが、皆が見上げる中、頭上を覆う分厚い黒雲への吸い込まれていった、次の瞬間。

 

―――ズドォォォォォォォォン!

 

「たぁぁぁまやぁぁぁぁぁぁ!だ〜っはっはっはっはっはっはっはっは!」

「―――――」

皆が一様に、言葉を失った。言葉を出せず、紡げず、発せられずにいた。

灰色の空の中心で、あれほど鈍重に圧し掛かっていたはずの雨雲は爆音と爆風に吹き飛ばされ、ぽっかりと巨大な穴が穿たれていた。そしてそこには、いつ振りに見たかも忘れてしまった、真っ青に広がる空と、そこに咲き誇る二つの山吹色の花。太陽の隣にあって尚、その目映い花弁は決して負けず劣らず、華麗で煌びやかだった。

「過炭酸ナトリウムという物質がある。こいつは水分を帯びると発熱しながら分解するって性質を持っていてな、そいつを今、爆薬で雲の中にぶちまけた。そうすりゃあ雲そのものと反応して水分を蒸発させ、爆風とも相まって霧散させられるって寸法だ」

隣からの説明に耳を傾けながら、フィーノはその輝きを網膜に焼き付けていた。意識してそうしているのではなく、それ以外に今、彼女の頭の中を占めているものが無かった。

「その上、過炭酸ナトリウムは分解されると炭酸ナトリウムと過酸化水素になる。炭酸ナトリウムは人体にも環境にも殆ど無害だし、過酸化水素に至っては放っておくだけで水と酸素に分解される。まぁ、まだまだ研究の余地はあるけどな……さて、そろそろかな」

「……?」

何のことだろうか、とそこで初めて隣のヒョーマへ視線を戻すと、彼はどこから取り出したのか、この晴れ渡る空の下で何故か雨傘をさして立っており、

「ヒョーマさん、どうして―――」

と、尋ねようとした次の瞬間。

 

―――ドッパァァァァァン!

 

「うっひょおおおおお!」

「きゃあああああああ!」

鉄砲水のようなそれは、まるでバケツを引っ繰り返した水飛沫のように降り注いできた。思いもよらぬ突然の事態に、水浸しの皆が呆然となる最中、一人だけ難を逃れたヒョーマが傘を畳みながら説明を始める。

「打ち上げた過炭酸ナトリウムだけで、あの量の雨雲全部を蒸発させるのは流石に難しいんだよ。だからこそ爆薬の威力も借りてるわけで」

「……要するに、蒸発しきらなかった水が一気に降り注いできた、って事ですか?」

「ご明察」

「解ってたのなら先に教えてくださいよ!」

「いやぁ、こいつはまだ試作品の段階でさ、今回が初使用だったんだよ」

「でも予測は出来てたんですよね!?態々雨傘の用意までしてたんですから!」

「こらこら、あんまり動くな。びしょ濡れで、いろんなところが丸見えだぞ?」

「へ?……きゃあっ!」

指摘されて初めて気づいたのか、自身の身体を抱き締めるようにして瞬間的に屈みこむフィーノを見て、ヒョーマは高笑いをした。既に二つ目の“太陽”は霧散し、晴れ渡る青空と、数カ月ぶりに目の当たりにした太陽の柔らかな光が、彼を後光のように照らしているのをしたから見上げて、

「ヒョーマさん……あなたは、本当に何者なんですか?」

再び、自然と湧き上がってくる疑問を、投げかけずにはいられなかった。天候技術の無断使用が重罪とされる理由は、確かに凶悪にして大規模な事件を引き起こせるという部分もあるが、それだけではない。雨を降らせるということは、本来他の地域で振るはずだった雨を奪うということになる。雨を晴らすということは、本来その地に振るはずだった雨を奪うということになる。それはやがて豪雨や干天へと変貌して、人間へと牙を向く。『天気』とは即ち『天(神)』の『気(意思)』。それらをこちらの都合で捻じ曲げるのだから、それ相応の『帳尻合わせ』がいつか起こり得る。人々は、そんな『天災』という恐怖に古来から怯え続けてきただから。

しかし、ヒョーマは先ほど『これを商売としている』とも『俺がその権限を持っている』とも言っていた。そんなことが許されるとなると、

「別に。俺はどこにでもいるような、しがない『天気屋』さ」

「てん、きやって……」

「で、どうだい、お客さん?」

「……はい?」

 

―――頭の上は晴らしてやってぜ?心の方は、ちっとは晴れたか?

 

それは余りに無邪気な、年端もいかない少年のような笑顔だった。余りに純粋で、眩しくて、不釣り合いなようで釣り合っていて、何とも不思議な気分を覚えた。

だから、なのだろうか。ううん、きっとそうだ。

「……あははっ」

「うん、その顔だ」

「え?」

「俺は、その顔を見るために、この商売をやってるんだよ」

見渡す限りで、皆が笑っていた。歓喜の声を上げて、涙を滲ませて、びしょ濡れの身体を寄せ合ったり、抱き締めあったりしながら、笑っていた。嬉しくて、嬉しくて、堪らなかった。

「技術ってのは、人を笑顔にするためあるもんだ。決して、悲しませるために、苦しませるために、あるんじゃあない。だから、俺はこの技術を悪用する奴を決して許さないし、この技術で一人でも多くの人間を笑顔にしたい。ただ、それだけなんだよ。それに」

そこで一旦言葉を区切ると、ヒョーマはこちらを向いて、

「やっぱり女の子は、そうやって綺麗に笑ってなくちゃあな」

「……私、もう女の『子』なんて歳じゃあないですよ?」

「んな子供っぽい下着付けといて何言ってんだ、マセガキ」

「こ、こらああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「うひょっ、逃げろ〜い!」

あぁ、人って怒りながらでも笑えるんだなって、心の底から思えたんだ。

 

-13ページ-

 

その昔、旱魃に苦しめられている、とある村があった。作物は干乾び、河川は干上がり、飢餓と疫病が人々を苦しめていた。やがて、年老いた村長は言った。

『神様がお怒りを鎮めるために、供物を捧げにゃならん』

しかし、差し出す作物はないし、差し上げられるほどの芸術品を拵えられる職人もいない。となれば、残るは人命、所謂『生贄』しか、選択肢は残されていなかった。

村の為に死ね。その命を差し出せ。当然、誰もが拒み、首を横に振った。どれだけ辛かろうと、どれほど苦しかろうと、誰だって死にたくはない。そこで最後にものを言ったのは『階級』という概念だった。その村には、農奴がいたのだ。

『我々はどうなっても構いません。どうか、どうか息子だけは』

その農奴の夫婦は必死に嘆願を繰り返し、最終的に未だ物心もつかぬ幼い一人息子のみは、助命が認められた。そして、その少年は幼くして両親を失う羽目になった。その少年こそが、他ならぬヒョーマであった。

長き旱魃を乗り越え、やがて村長の家に引き取られて成長したヒョーマは十代も半ばという頃に、村長から謝罪の言葉と共に事実を知らされる。『自分を殺しても構わない』と、地に額を付けんばかりの勢いで頭を下げる村長を怒ることも殴ることもなく、ヒョーマが出した結論は村を出ることだった。しかしそれは決して、村長や村民を恨んだり憎んだりしての行動ではなかった。

『二度と、自分と同じ思いをする者がいてはならない』

彼はどこまでも真っ直ぐな、純粋で健やかな青年に育っていた。帝都を訪れ、数多くを学んでは試し、試しては学んでを繰り返す毎日。やがて彼は若くして、ヨウ化銀に人工的に雨を降らせることが出来る性質があることを発見、帝都において高い地位と名声を得る事となる。

『これで、二度とあのような事態は起こるまい』

しかし、本来は調理器具であるはずの包丁が殺人の凶器に使われてしまうことがあるように、道具や技術は持ち主次第で如何様な手段にも用いられてしまう。天候技術の開発は異常気象に見舞われる人々の救いの一手となったと同時に、意図的な豪雨、旱魃のみならず、ヨウ化銀の弱毒性のように、小さな町村であったなら意図的に滅ぼすことが出来てしまう悪魔の力でもあったのである。

『俺は決して、そんな積もりじゃあなかったのに』

彼に感謝の言葉が届けば、同じ分だけの怨嗟の言葉も届いた。彼に歓喜や感動の手紙が届けば、同じ分だけの憤怒や悲哀手紙も届いた。彼は悔やみ、葛藤した。自らが良かれと生み出したものは確かに多くの人々を救ったが、それと同時に多くの人々に『自分と同じ苦しみを味あわせてしまったのだから。自分のしたことは本当に正しいことだったのだろうか。迷い、戸惑う彼に救いの手を差し伸べたのは、余りに意外で、予想の範疇を大いに超えた人物だった。

『貴殿の此度の偉業、真に大儀であった。折り入って頼みがあるのだが、宮殿を訪れてはくれまいか』

ある日、いつものなんてことのない郵便に紛れて、そんな仰々しくも、それに不釣り合いでないほどの上等な紙を用いて、そんな手紙が届けられていた。封に使われている蝋の印は、茨の冠の中で羽ばたく双頭の大鷲。皇帝陛下の印、そのものだった。

『旱魃に苦しむ民は、降り注ぐ雨に歓喜した。豪雨に苦しむ民は、降り注ぐ光に歓喜した。貴殿の力を、儂に貸してはくれまいか。儂は、より多くの民の笑顔が見たいのだ』

直属の監査官となって全国を放浪し、天候技術の悪用を懲罰すること。また、正しい使い身を広め、より多くの技術の開発に研鑽すること。一も二もなくヒョーマは快諾し、陛下直属の密使となった。

日頃は花火の行商を装って大陸中を渡り歩き、悪用の噂あらば直ぐ様駆けつけて元凶を断つ。この世界で唯一、天候技術を自由に行使することを許された者。その名を、『天気屋』ヒョーマ。今日も彼はこの世の何処かで、名前も知らぬ誰かの笑顔の為に、この空を見上げている。

《終劇》

 

-14ページ-

 

後書きです、ハイ

 

ども、皆様ご無沙汰しております。お元気に過ごされてますでしょうか。

―――え? 私? 死にそうですよ。肉体的にも、精神的にも。(いやこれ冗談抜きに)

 

さて、投コメにも書きましたが、最近はサークルの原稿に取り掛かりっぱなしで、中々こっちのSSに時間を割けませんでした。何とか今月中に『盲目』『Just』の更新が目標です。

皆様、次の更新でお会いしましょう。

でわでわノシ

 

 

…………余談ですが、この小説、今月末の大学祭に売り出す部誌に乗ります。ひょっとしたら、ひょっとするかもしれませんねぇ。

説明
投稿109作品目になりました。
リアルの方が忙しく、最近はこれの執筆に取り掛かってました。
数少ないであろう、私の作品『全て』に目を通して下さっている方々ならば気づいたかもしれませんが、随分前に投稿した三題噺『天気屋』『月光』『行商人』のリメイクです。
普段のように感想、意見、その他諸々、コメントに残して下さると嬉しいです。
では、本編でどうぞ。
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コメント
おぉ〜、面白かったです。前の話でも面白かったので、リメイクが読めてうれしいです。・・・・ではでは、次の作品を楽しみに待ってます。(一丸)
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