プレゼント
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プレゼント

 

父はもういない・・・母と私の二人でこの世界を生きていく。

「・・・」

深夜の静まり返った家の中、少女はベッドに横たわっていた。

今日も聞こえてくるミシンの動作音、それは母の部屋から聞こえてくる。

「今日も休んでない・・・」

母は娘を養っていく為の仕事をしていたが、それには休みが無い。

少女はいつもこのミシンの音を聞きながら寝る。

少女の夢はいつも母と笑っていた日々、それは父がまだ生きていた時の記憶。

楽しい日々、かけがえのない時間、でも今は夢の中でしか過ごせない時間。

「・・・朝か」

少女は窓から差し込む日の光で目を覚ます、いつの間にか泣いていた少女。

涙を拭きベッドから起き上がり、着替えて学校に行く準備を行う少女。

「・・・」

母はまだ仕事をしていた、いつも家の中で聞こえてくるのはミシンの音だけ。

「・・・行って来ます」

やはり返答は無い、少女は家のドアを閉めて鍵をして学校に向かった。

学校から帰ってきてもミシンの音だけが少女を出迎えていた。

「・・・ママ?」

「・・・」

母は無言で仕事している。

(負担は溜まっているよね、大丈夫かな?)

「・・・ママ、肩でも叩こ―――」

「・・・」

少女の言葉も思いもいつも空を空しく切るばかりだった。

そして今日もベッドに横たわり、ミシンの音を聞く。

(ママ、またいつか楽しくお話をしたいよ・・・)

(いつからだったろう?ママが忙しくなったのは・・・)

(そうだ、私が学校に行くようになってからだ・・・)

(私も・・・ママの助けになりたい・・・)

静かに眠りに落ちていく、そして今日もあの夢を見る少女・・・それは少女にとっての

支えにもなっていた。

そして窓から差し込む日の光で今日も目を覚ます、いつものように学校へ行く準備をする。

「・・・行って来ます」

「・・・」

無言の母、少女は寂しい気持ちのまま学校に向かう。

その日の夜の事だった。

「ママ、あのね」

「・・・」

無言で仕事をしている母に少女は勇気を出して話す。

「学校を辞めて・・・私も一緒に働きたいな」

「・・・なんで?」

「えっ?」

「何でそんな事を言うの!?」

「ママ・・・ごめんなさい・・・」

「どうして!?どうしてなのよ・・・なんで・・・」

その日、母に泣いて怒られた少女。

(ごめんなさい・・・私の為にしてくれているのは分かっている)

(・・・けど、この寂しい気持ちが消せないの)

学校で少女は一生懸命に勉強した、他の子よりも努力をした。

「・・・もっと頑張らないと」

“今は勉強をしっかりしよう”頭では理解しているつもりだったが心が離れていくようだった。

どんなに頑張っても褒めてくれない母、ただ仕事に全てを捧げているようだった。

「・・・こんなに近くにいるのに心が離れていくようだな」

(私に・・・何が出来るのだろう?)

今日もミシンの音が聞こえていた、少女は窓から星空を見上げていた。

(パパ、私はどうしたらいいの?)

そして少女はあの夢の世界へ旅立った・・・

その日の夢は昔、広場で母に歌を教えてもらっている夢だった。

少女と母は笑顔で楽しく歌っていた。

(・・・懐かしいな)

目を覚ます、また涙を拭き、学校の準備をする少女。

(今日も寝ずに働いて、いつか体を壊すよ・・・)

(・・・うん)

そして少女は意を決して聞いてみた。

「一ヶ月にどのくらいお金があれば家族二人で生活できるの?」

「・・・」

母は作業していた手を一旦止めて少女を見ずに悲しそうに呟く。

「またあなたも働きたいって言い出すの?」

「・・・」

(違う、そうじゃないよ・・・)

その一言が言葉に出来ない少女、そして仕事を再開する母。

少女は静かに学校へと向かった・・・。

授業を終えての帰り道の途中、夢で見た広場に来た少女。

「・・・ママ」

(私も・・・助けになりたい・・・何かしたい・・・)

そして、少女は広場の中心で歌を奏で始めた。

それは昔、ママに教えて貰った歌だった。

(喜んでくれるか分からないけど、今の私に出来る事をしよう)

少女はその日から学校の帰り道に広場で歌を奏で続けた。

その歌を聴いていく人々は少女に少しではあるがお金を渡していく。

毎日、雨の日も風の日も休まずに歌っていた、それは少女の秘密の日課だった。

「・・・ママ、ちょっといい?」

ある日、少女は母に声を掛けた。

「今日はママの誕生日だよ」

「・・・」

母は無言で少女の話を聞いていた。

「一か月分はとても無理だったけど、今日一日分だけどお金を貯めたんだよ」

「・・・えっ」

「さあ、受け取ってね・・・ママ」

「・・・あっ・・・うっ・・・」

「今日は二人でゆっくりしよう―――――いつもありがとう」

ママは泣きながら“ありがとう”って言ってくれた。

 

その日は一日だけの休息のプレゼントだった、けど二人とってその日はいつまでも

忘れられない日になった。

 

説明
それは父親に先立たれた母と娘の物語・・・
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