渡し守 |
何時だって都合が良い
誰かの夢の渡し守
降ろされた糸だって
きっと千切れる
私の場合は
差し込む光だって
きっと細く立ち消える
私の場合は
君が私にしたみたいに
この((彼岸|ひがん))から逃れるには
何でも良い 頼りない声だって
薄っぺらく振られる手でも良い
引き((摺|ず))り込むように手繰り寄せれば
逃れられる筈
君が私にしたみたいに
君が私に したみたいに
何度されたら成り代われる
君が私にしたみたいに
誰か手近な君を身代わりにして
踏み越えて行ければ良いのに
心よりの善意を踏み抜いて
去って行った
君みたいに
なのに私は
不誠実に誠実を捧げ
心無き人に配慮を重ねるような真似をする
軽さが透けて見える約束も 信じてみせた
けれど返る仕打ちは同じ
かつてはこの川を流れに逆らい
共に((漕|こ))ぎ出した人が居た気がしたけれど
それも幸せが((湖岸|こがん))の果てに見えるまで
先を((凝|こ))らして((睨|にら))んでいた筈の視線が
岸へ飛び移る頃合いを計り出して 横に流れていたこと
気付いていたよ
だけど止めなかった
止めやしなかった
――君が私にしたみたいに
私にも出来たなら
きっと私も振り返ることなく
私をすり替えながら 強く生きて行けたでしょう
独り((善|よ))がりでも 立派に
((躊躇|ためら))いもなく きっと
君が そうであるように
((櫂|かい))を離したなら
あの滝壺に落ちるかな
息をする度溢れる滴も
((斑|まだら))模様の頬だって
紛れて見えなくなればいい
それとも海へと((拓|ひら))けるかしら
途方もない
絶望への航海
――涙の波紋を((割|さ))き
失意の嵐が訪れる
もしもこの船から投げ出される時は
私だけの岸辺まで
この身一つで 泳ぎ着いてみせましょう