太守一刀と猫耳軍師 第14話 |
「さて、包囲したまではいいけど、どうするかな……」
城門を眺めながら独り言を言う俺にまず朱里が答え、愛紗と翠がそれに続く。
「相手は城門を閉ざし、徹底抗戦の構えを見せていますから、無理押しすると被害が大きくなりすぎるとおもいます」
「かといって時間はかけられないでしょう。……袁紹が撤退したのは、魏の軍勢が袁紹の本拠地、南皮に向けて進軍を開始したのが原因のようですから」
「時間が経てば、魏の軍勢が矛先を転じて幽州に侵入する可能性もあるってワケか」
「つまり、速やかにこの城を落とす必要がある……と。何か策とかある?」
「紫青にはあります」
俺の言葉に真っ先に名乗りを上げる紫青。
「わ、私にもありますよ!」
「私もいくつかあるわね」
続いて桂花と朱里も手を上げる。
笑顔で圧力をかける紫青に、物言いたげな朱里、睨むような視線を向ける桂花と、軍師3人の真ん中で火花が散ってるきがする。
「ご報告いたします!」
慌てた様子の兵が俺の所へやってくる。その声で軍師3人の怖い雰囲気がなくなった。
「お、良いところに……。報告ってどんな?」
「はっ、楽成城より抜け出してきた民の1人が何やらおかしなことを申しております。
何やら伝言を頼まれたとかで……」
「その伝言っていうのは?」
「なんでも、楽成城の城主に敵対の意志は無く、ただ袁紹に娘を人質に取られたため仕方なく戦いを決意した、と……」
何やらややこしい話しになってきたなぁ……。
「えっと……確かに黄忠さんには娘さんがいますね。けど、その娘さんが人質にっていうのは……」
「信用できない、か。その住民は誰に伝言を頼まれたって?」
「は。伝言を頼んだ者は誰かと尋ねたところ、昇り竜といえばわかると……」
昇り竜……趙雲のことか。
「趙雲か」
「あやつかっ!」
俺と愛紗がほぼ同時に声を上げる。桂花もどうやら気づいたようだ。
「ということはこの情報は信じていい情報みたいね。でもどうしようかしら、そうと分かったらあまり戦いたくはないわよね?」
「そうだな……。どうする?」
「人質を救出してしまえば黄忠さんがたたかう理由はなくなりますから、ここを素通りしてしまえます。
中にいる趙雲さんと連絡が取れればいいのですけど……」
「誰かが中に潜入するしかないな……。潜入する適役は……、やっぱり俺か」
ああ、やっぱり、というように諦めのような表情をする愛紗。
愛紗もが潜入にむいてないのは分かってるだろうしここは目をつぶってもらおう。
「問題はどう時間をかせぐかだな」
「そうね、案はいくつかあるわ。まずひとつは一騎打ちで時間稼ぎをする方法、もう一つは騎兵隊を使って袁紹を追撃に向かわせて、それを追わせる方法。
どちらも一長一短ってところかしら。一騎打ちは相手が乗ってこなければ意味がないし、危険度も高い。
追撃の方は指揮権を持っているのが袁紹の兵だから簡単に釣れるでしょうけど、救出後に黄忠の兵を止めるのが大変だわ。
それに時間がかかると、袁紹の本隊と黄忠の兵に挟撃を受ける可能性がある」
「一騎打ちをするなら紫青に一つ案があります。黄忠は民を大切にする城主だと聞いています。
それなら、火計の準備があるといって脅せばおそらく乗ってきます。火矢をつがえた弓兵を何人か用意するだけで良いかと思いますよ」
「ふむ……。一騎打ちのほうがやりやすそうに感じるな。適任なのは愛紗かな?」
「はい、愛紗さんが適任だとおもいます。
それとご主人様1人では敵の数が多いと対応しきれないでしょうから、霞さんについて行ってもらうのがいいと思います」
「じゃあそれでいこう、鈴々、華雄、翠、白蓮は桂花達は待機でよろしく、何かあったらすぐ動けるようにしておいてほしい」
──────────────────
町中に侵入してまずは趙雲を探して走る。
「袁紹のやり口はいくらなんでも汚すぎるな」
「そやなぁ、流石にこれは目に余るわ。見つけたらしっかりお仕置きしたらなあかんな。
お、アレちゃう? 趙雲て」
霞の言う方向を見れば、見覚えのある白い着物のような服。趙雲がいた。
「趙雲!」
「おや、北郷殿自ら侵入してくるとは、なかなか大胆ですな」
「伝言をくれたのは趙雲か?」
「ええ、黄忠殿の娘が人質に取られていると知って、捨て置くのは私の性に合わぬので。
しかしあのような伝言をよく信じられたものだ、おそらく信じまいと思っていましたが」
「そんな真似をするような人間じゃないだろ? 趙雲は」
「そんで、肝心の黄忠の娘さんの居所って見当ついとるん? 早いとこみつけんと時間稼ぎもそない長いこともたへんで」
「うん、確かに今はそっちが優先だな」
霞の言葉に趙雲が苦い顔をする。
「さて……先ほどから探していたのだが、一向に見つからん」
「ほなどないしよか? 手当たり次第に探し回るっちゅうわけにもいかへんしな、おそらく袁紹の監視がおるやろし騒ぎを起こすわけにもいかん」
「この際だ、町の住民に手伝ってもらおうか。この町の住民は皆、黄忠殿を慕っている。事情を説明すれば無言で協力してもらえるだろう」
「よし、じゃあ手分けして聞きに回ってみよう、合流出来なければもともこもないから、近くから潰していこう。2人はそれぞれこの隣の筋を頼む」
「了解や、ほなまたあとでな」
「心得た、ではまた後ほど」
2人と別れ、周囲を見回す。流石に戦が始まるとなれば、みな逃げたか家に閉じこもっているかのようで人通りはほとんど無いといっていい。
「袁紹の兵でもうろついてればとっ捕まえるんだけどな……」
街路を走り、路地に目を向け、あたりを探す。ようやく見つけた住人に声をかけ、事情を説明すれば趙雲の言うとおり、協力を申し出てくれた。
「その手のことに詳しい人なら知ってるぞ、よんでくるから、お仲間と合流して待っててくれ」
その言葉に従うようにして、趙雲と霞のいる筋の通りへ向かい、2人を呼び寄せる。
丁度2人と合流した所に、先ほどの住人が中年の男を連れてやってくる。
その中年の男は袁紹の兵が居る場所は知っていたが、相手の数が多く手が出せなかったとのこと。
早速、その中年の男に道案内を頼み、路地に入り込んでいけばなるほど、袁紹の兵が立っている家がある。
どうやら空き家になっているらしい。
「ふむ、確かに悪党共が根城にするに相応しい雰囲気だな」
「そやなぁ、ありきたりすぎて何の面白みもあらへん」
正面に立っているのは1人か……。
「正面の奴は俺が片付けるよ、中に入る前に気取られるわけにはいかないし」
2人が返事をする前に、気配を殺して走る。壁を背にして立つその男の横から忍び寄り。その口抑えこむように右手でつかみ、そのまま後頭部を石壁に打ち付けさせる。
そして続けてその股座に膝で一撃食らわせれば、悲鳴を上げることもかなわず、白目を剥いて兵士は地面に沈む。
「霞、趙雲、後は任せた、多数を相手にするのは得意じゃないから。霞は娘さんの確保を、趙雲は敵の殲滅を優先してくれる?」
「ふむ、心得た」
「任せとき、ほないくで……」
空き家の戸を蹴破り、霞と趙雲が駆け込んでいく。
「当たりだな。はぁ──っ!」
趙雲が槍を一閃すれば、兵士が打ち倒され……。
「どけどけええぇぇぇ!!」
霞は邪魔な兵をそのエモノで弾き飛ばしながら、空き家の奥へと突き進んでいく。俺もその後に続き、空き家に入り込む。
家といっても狭い、敵の兵士の数は10人か20人といったところか。この程度の数は趙雲と霞ならば物の数ではない。
数分もかからずその家を制圧し、それらしい女の子を発見して、霞が保護する。
「お姉ちゃんたち、誰?」
「我が名は趙子龍。黄忠殿を助けるためにお主のことを探しておったのだ」
「お母さんを助けてくれるの?」
「そやで、せやからウチらと一緒に来てほしいんやけど、かまへんか?」
霞の言葉にその子が頷く。
「ええ返事や、ウチは張遼文遠。コッチがウチのご主人様の北郷一刀や」
「わたし、璃々」
「よろしくな、璃々。それじゃあ、黄忠の所に行こう。ちょっとゴメンよ。急がないといけないから」
璃々を抱きかかえて城門へと走る。この中で一番弱いのは俺だから、両手を塞ぐなら俺が適任だろうと考えての事だ。
「ふむ、城門から堂々と出られるか。確かに正義は我らにある。それが良いだろう」
「怖いやろけど安心しい、ウチらがちゃんと守ったるから」
「璃々怖くないよ、お母さんをたすけないといけないもん」
「よお出来た子やな」
城門を出ようとしたところ、丁度袁紹の兵が痺れを切らして璃々を連れてこさせようと連絡しにいくところだった。
「連絡する必要は無い」
趙雲がその兵へ槍を振りぬき、打ち倒す。
「容赦っちゅうもんがあらへんなぁ」
「悪を滅するに躊躇は要らんからな」
「確かに」
後方の騒ぎに、兵達がこちらへ視線を向けてくる。
「皆が注目している今、堂々と名乗りを上げるぞ」
趙雲が名乗りを上げ、璃々の救出を宣言し戦闘をやめるようにと叫べば、声は黄忠と愛紗にも届いたのだろう、闘う音が止まる。
「お母さんっ!」
俺の手から離れて、璃々は黄忠のもとへと走っていく
やれやれこれでこの件は落着か。俺は大きくため息をついた。
璃々がこちらを指さし、あの3人が助けてくれたと告げれば黄忠がこちらに向き直る。
「え……? この人達が?」
「そう。我が名は趙雲。字は子龍。……故あって璃々殿をお助けした。そしてこちらは……」
「ウチは張遼。字は文遠。で、こっちが」
「俺は北郷一刀、よろしく」
俺と張遼の名を聞くと、黄忠が驚いた表情をする。まぁムリもないだろう。
「えっ!? 北郷殿といえば幽州の太守の……。それに張遼といえばその武将……」
「ここを包囲したときに、たまたま城内にいた趙雲が内情を教えてくれてね。
俺たちの目的は袁紹ただ一人だし、無駄な戦いを避けるために、娘さんを救出しようってことになってね。
それで、忍び込むのに一番向いてる自分で忍び込んで、張遼と一緒に助けたってわけ」
「なら、一騎打ちを望んだのは……」
「時間稼ぎのためだよ」
事情を説明し、城の通過をお願いすると黄忠は快くOKしてくれた。
それを聞けば俺はすぐに軍を動かし、袁紹を追いかけようとする。
そうすると、黄忠に呼び止められた。
恩を受けたら返さないといけない、そういって黄忠は俺たちに下り、仲間になってくれた。
それに続くように趙雲も俺達についてきてくれる、ということになった。
2人の真名はそれぞれ、黄忠が紫苑、趙雲が星。
心強い2人の仲間を新たに加え、俺達は袁紹の追撃を続ける。
追いかけることしばし、袁紹軍の最後尾を発見したという報が飛び込んでくる。
陣形も整えられていない袁紹の軍に全軍が一斉に突撃をしかけ、踏みつぶしていく……。
相手は数だけが多い烏合の衆、勝敗はアッサリと決した。問題は袁紹を逃してしまったことだが。
袁紹を取り逃がしてしまっても、ここで壊滅的な打撃を与えたのだから後は南皮を抑えてしまえば問題はない、と言うのが軍師3人の意見。
俺達は3人の意見を信じ、南皮へと軍をすすめていく。
これでようやく近隣にあった悩みの種が一つ消えたのだ。
これからのことを考えると気が重いけど、今はこの勝利を喜ぼう……。
あとがき
どうも、黒天です。
今回は原作と余り変わらない流れになってます。
忍び込むのが誰か、というあたりぐらいですかね。
次回からまた拠点フェイズになるかな。原作だと曹操戦開始までの間になんと3回拠点フェイズがあります。
やるのはおそらく桂花さん、霞さん、朱里、詠ちゃん、月ちゃん、華雄さん、紫青さん、白蓮さん。
詠月のコンビはバラでやるのもありかなーなどとおもったり。
実際誰々やっていくかは、気の向くままにってところですけれど。
原作で目立たなかった人を書いていきたいとはおもってます。
逆に原作のメインキャラはどんどん不遇になっていくわけですが……。鈴々とか愛紗とか。
作者が軍師贔屓なので朱里の出番が結構多いのは仕様です。
星、紫苑のコンビは多分、他の人をからかう役回りでちらほら出てきそう。
このへんでそろそろキスシーンとか入れてこうかなぁ、とか思いつつ。
これからしばらくは砂糖漬け状態になりますかねー?
さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
また次回にお会いしましょう。
説明 | ||
今回は袁紹滅亡まで。 紫苑さんと星さんが仲間になります。 ここは原作とあんまり変わらない展開です。 |
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コメント | ||
ギルガメッシュのセリフじゃなかったですかね。慢心せずして何が王か!!でしたっけ?(シュレッケ) >>風見海斗さん んー、原作はやったけどそんな台詞あったかな、ちょっと覚えてないです(黒天) 桂花のデレを見ずして何がファンか!!←このネタ分かります?一応説明しておくとFateシリーズのネタです。(Fateは見たことないけど・・・。)(風見海斗) ↓↓粥美味さんもいるじゃないですか。(飛鷲) >>ヒトヤの蠱惑魔さん いやいや、確かに白蓮さんの話しは書いてく予定ですが、一人舞台にはなりませんよ!(黒天) 原作で目立たなかった人を書いていきたいとはおもってます・・・だと?・・・白蓮さんの一人舞台じゃないですかー!(親善大使ヒトヤ犬) >>クラスター・ジャドウさん 確かに、ヒーロー番組の悪役みたいなのは同意です。うちの一刀はそこだけは強いですからねー、ほんとにそこだけですけどw(黒天) >>いたさん そういってもらえるととても嬉しいです! 頑張って続きも書いていきますよー!(黒天) あぁ、幼女を人質に脅迫って、最早ヒーロー番組の悪の組織も同然の下策。…成程、後に華蝶仮面なんてのに成り済ます趙雲にはピッタリだ。無印だと潜入役は張飛だった筈だが、この作品の一刀の方が隠密には適役か。恐らくこの作品の一刀なら、真以降に出てくる周泰と同等の隠密技術があるだろうから。(クラスター・ジャドウ) 原作という食材に、どう調理して一品と出せるかが黒天さんの腕の見せ場かと。原作を上手く加工してある絶品だと、この作品読んでの感想です。(いた) >>nakuさん まぁ、ちかよるとからかわれるのである意味近寄りたくはないかも? 原作的にはようやくメインメンバーが揃ったって感じですな。(黒天) >>たっつーさん 性務的に、誰が美味いことをいえとw まぁ実際間違えてないかもしれんですな。原作より人多いから政務は楽してるでしょうけどw(黒天) >>Jack Tlamさん 修正しました!(黒天) 途中で霞の字が違ってますよ。(Jack Tlam) |
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