訳あり一般人が幻想入り 第18話
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「だからぁ、私は何も悪くない! ただ本を借りに来ただけだぜ!?」

「借りた本を一切返さないで借りたとは言わないわ」

 

 魔法の森の奥深くにあるとある西洋の小さな家の中に、魔理沙と一人の少女の二人が会話をしていた。その家は温もりを感じる木を使った家具が綺麗に配置され、テーブルの上にあるクッキーや紅茶の匂いで満たされていた。

 そして窓側にある棚の上には少女が作ったであろう西洋人形が密集して置かれていた、というより部屋全体に人形が置かれていた。

 

「それにパチュリーやスグルと言う外来人に説教を受けたぐらいで、泣きついてここに来られるのも困るんだけど」

「う、うるさいやい! 只の説教じゃないって言っただろ!? 特に優なんかねちねちと嫌味言ってくるし、外の変な人間と同じ扱いするし! 私のガラスの心が傷ついたぜ!」

 

 魔理沙は少女の家で紅魔館の図書館での出来事を愚痴こぼしていたようだ。少女は溜息をこぼしながら魔理沙に諭す。

 

「なんて言われたかは知らないけど、これに((懲|こ))りて『勝手に本を借りない』ことね」

「ううぅ……なんだよ! アリスなら分かってくれると思ったのに、もういい! 私は帰る!!」

 

 魔理沙は憤慨し、勢い良く立ち上がりその勢いそのままにドアを力強く開ける。

 

「はぁ、まったく……私は貴女のカウンセラーじゃないのよ……」

 

 少女は気が滅入り再度溜息をつく。その後、玄関が騒がしいのに気づく。

 

「まったく、魔理沙はどこでも騒がしいわ……」

 

 少女はある一点を見つめて固まっている魔理沙のもとへ歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

 

第18話 小さいことにも逃げる者に、全ての行動の価値は薄い

 

 

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「テキトーに走り回ったはいいが、ここはどこなんだ……」

 

 横谷は一人、魔法の森の中で彷徨っていた。まるで富士山の樹海のような何か得体の知れぬ不安を感じさせる程肌寒く、それでいて湿気もやたら高く鬱蒼と高い木々が茂っていた。

 

「くそっ……なんで美鈴は一人で行っちまうんだよ……」

 

 横谷としては、美鈴と行動を共にしたほうが森に迷うことはないだろうし、いざとなれば守ってくれるかもしれないと考えていたのだが、開始直後に美鈴以下、子全員が即座に飛んで離散して早くも計画が崩れたので仕方なく一人で逃げている始末である。

 紅魔館に戻っても良かったのだが、戻ろうにも三十秒以内に気付かれずに戻ることは無理と考えたのでルールに従うことにした。

 

 

 冷や汗か湿気によるものかわからない汗をかきながら、周りに警戒し紅魔館とは反対の方向に逃げていくこと数十分、一つの小さな洋館仕立ての家を発見する。

 

「こんなとこに家が……無人の家なら入って隠れよう」

 

 普通なら当然そんな行為は禁止なわけだが、バレなければしてないことと同じだ。そう思いながら横谷はその家に入ろうとドアに近づいたが、近付くにつれ中から声が聞こえてくるのがわかった。

 

「ちっ、誰か入ってるのか……? なんか聞いたことあるような声だな……」

 

 家の中から聞こえてくる女性の声に聞き覚えがあったが、ドアの窓も閉めきっていてその声の主を特定できなかったので横谷はさらに近付く。

 

「ア――なら――るとお――に、もういい! あたしは帰る!!」

「ぼはぁっ!?」 

 

 唐突にドアが勢いよく開き、顔面をしたたかに打ってドアの勢いが伝導し、そのままに横谷は飛び上がりなだら倒れた。

 

「な、なんだ!?」

 

 ドアから現れたのは魔理沙だった。その魔理沙は横谷が上げた奇声が聞こえて周りを警戒している。

 

「んぐぅ〜〜痛でぇ〜〜……」

「あ、え!? 優!? 何でお前がここにいるんだよ!?」

 

 顔面を手で押さえながらゴロゴロと地面を転がっている横谷を見つけて魔理沙は、またも目の前に現れる横谷に不審感を混じえながら驚いた。

 

「何事なの一体……」

 

 家の中から魔理沙よりやや背が高い新たな少女が様子を見に現れる。まるで人形のように肌が色白く、金の髪色でヘアバンドのように赤いリボンが巻かれ、青のワンピースに白いケープを肩に羽織り、腰にピンクのリボンを巻いていた。

 

「アリス、コイツだぜ! コイツが私が本を借りるのを邪魔して、挙句に訳の分からない説教した奴だ!」

 

 魔理沙は家から出てきた少女――アリス・マーガトロイドに横谷を指差して本を借りるのを邪魔した犯人と説明する。

 

「コイツが例の説教男……って何で泣いているの?」

 

 アリスは地面に転がって少し涙を流しながら悶絶している横谷を不思議がる。

 

「おい優! なんでこんなとこにいるんだよ! まだ説教しに来たのか!」

 

 魔理沙は未だに額を押さえたままの横谷を見下ろしながら、きつめの口調で問いかける。

 

「違う……フランの遊びに付き合って鬼ごっこやってるんだ。適当に歩いていたらこの家を見つけて、誰もいなかったら入って隠れようと思っただけだ」

 

 横谷は立ち上がりながら魔理沙の問いかけを丁寧に返す。この状態を第三者視点から見たら図書館の時とは立場が逆転したように見えているだろう。

 

「へ〜そうかい。私はお前の変な説教に心傷ついているのに、((暢気|のんき))にあのフラン様のお遊びのお付き合いですか。気楽でいいねぇ〜」

 

 お遊びを強調して魔理沙は皮肉たっぷりに言葉を返す。ここまでくると完全にあの時と立場が逆転してしまっている。

 

「お前、フランと遊びを付き合って暢気にしてられ……」

 

 横谷はそこから反論を止める。

 ここで喧嘩腰に行ってしまったら関係がさらに悪化してしまう。確かに鬼ごっこ程度なら危険な存在のフランでも、弾幕ごっこよりは格段に安全である。気楽に遊んでいると言われても仕方ないかも知れない。

 それに魔理沙はあの時の説教――というよりただ怒鳴っただけとも言えるあの言動に、真意はわからないが傷ついたと言っている。横谷はあの時の言動を本気にそう思って言ったつもりではない。しかしこのまま何も言わないと、誤解を受けたままになって関係は悪いままだ。

 幸い魔理沙は目の前にいる。この好機を逃してはいけない。謝るなら今だ、横谷は心の中で決断した。

 

「……あの時は、悪かった。でもあれは本気で思って言ったんじゃないんだ。あの時の俺は……おかしかったんだ」

「あー? なに言ってんだ? あんだけ怒鳴っといてあれは本気じゃない、だなんて信じられるか」

 

 横谷の謝罪を魔理沙は受け入れない。あれだけ怒鳴られれば((猜疑|さいぎ))心の一つや二つは芽生えてしまうのも無理は無い。だがこのまま誤解を受けたままの状態は何としても避けたい。

 横谷は魔理沙の猜疑心を取り除くために最も古典的な方法で謝る。

 

「確かに酷いことを言ったが、本当にあれは本心じゃないんだ。信じてくれ」

 

 そう言って横谷は頭を深く下げ謝罪の意を伝えた。しかし魔理沙の険しい顔が崩れることはなかった。

 

「そんなんで謝ったつもり? 私はかなーり傷ついたんだけどなぁ」

(このっ……)

 

 挑発的な発言に横谷ははらわたが煮え繰り返しそうになるが、ここで謝罪の姿勢を崩せば面倒になると考え自制した。

 そこで横谷は口で謝罪を述べても魔理沙の機嫌が直ることはないと見立て、最終手段の謝罪の意を伝えようと考える。数瞬のためらいはあったものの他に方法が思いつかず腹をくくり行動に移す。

 横谷は正座で座り、額を地面につけてもう一度謝る。

 土下座。

 上手く口で事を収めることができない横谷では、ためらいやこんな事で行動に移したくないという葛藤はあったもののこれが精一杯の誠意を表す行動。心に届くと信じてずっと地面から離さない。

 

「本当に悪かったと思っている。いや、悪かった。すまん」

「う、お……」

 

 いきなりの土下座に魔理沙は言葉を失う。あの時の横谷が頭に残っているので対応がまるで違いすぎて面食らう。双方とも罵り合い張り合っていくと思って用意していた辛辣な言葉が吐き出せない。

 

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「随分早々と土下座するのね。男ならここぞという時に使うものでしょう」

 

 と、突然上がったその声は魔理沙ではなかった。その隣のアリスが横谷の土下座を出す早さに呆れていたのだ。その言葉に眉根を潜めるが、それでも横谷は無視して土下座をそのまま続ける。ここで反応して反抗してしまったら面倒事が増えるだけである。

 

「そ、そんな事したって私は許さないぞ。あんだけ怒鳴られたんだ、土下座で赦すほど甘い女じゃないぜ」

 

 魔理沙は土下座をしている横谷から顔を逸らし悪態をつく。

 

「あら、貴女に向かって土下座するなんてそうそうないことよ? 許してあげたらいいじゃない」

 

 そこにまたしてもアリスが話しに割り込んで魔理沙に横谷を許すよう諭す。その言葉に魔理沙は冗談だろと言わんばかりに目を見開いて驚く。

 

「ちょ、アリス! お前はどっちの味方なんだ!?」

「私はどちらの味方でもないわ。魔理沙にも非はあるじゃない、元はといえば、魔理沙が図書館へ本を勝手に借りに行ったのが悪いんだから」

「私は悪くないぜ! アイツが説教じみたこと言わなければこんな事にはならなかったんだ! 優があの時見て見ぬふりしていたら、あたしがここまで腹を立たせていなかったんだ!」

 

 しかし魔理沙はなおも横谷を許すことも、本を勝手に借りようとしたことを悪いことと認めない。自分の行動のすべてが正しく、相手の行動のすべてが間違っている。そんな信念を堂々と言ってのける。

 

「説教一つ我慢できずに逃げ帰って、自分のやった行いを悪びれない。魔理沙はホント子供ね。少しは自分のやってきた行動を改めなさいよ」

 

 まるで子供のように我を通す魔理沙にアリスは呆れながら悪態をつく。

 

「な、なななな、何でアリスにまで説教されなきゃなんないんだ!? もうアリスはいいから家に帰って独りで暗く人形でも作ってろよ! これはあたしとコイツの問題なんだからなっ!」

 

 アリスにまで突っ込まれ、アリスが味方になってくれないと見限った魔理沙はこれ以上言われないために、家に帰れとアリスを突き放すように言う。

 しかしアリスは帰る様子がない。その表情は眉間にしわを寄せており、どう見ても嫌悪の表情である。

 あんな事を言われてその表情をしないほうが難しい。明らかに相手の神経を逆撫でさせるような言葉である。

 

「何よその言い草、私は正論を言ったつもりよ。実際、今回のことだって貴方が突然泣きついて勝手に愚痴ってきたじゃない。それを自分が不利な状況になったら帰れ、だなんて虫が良すぎるわ。私は貴女のカウンセラーじゃないのよ」

「私はこの話を分かってくれると思ってアリスに話したんだ! わからず屋なカウンセラーに用はない!」

「な、なによ、窃盗して見つかって説教されるのは当たり前じゃない! そういうのを自業自得って言うのよ」

「アリスはあの場にいないからそんな事言えるんだ! 第一、私は盗みに行ったんじゃないっての! 死ぬまで借りるだけだぜ!」

「返す気がないならそれは盗みと同じよ!」

「あーもう同じ事を何度も言うな! お前は((小姑|こじゅうと))か!」

「なによ!」

「なんだよ!」

 

 徐々に二人だけの会話――というより痴話喧嘩になって、横谷は土下座までしたのに無視されていく事に段々と惨めな気持ちになる。

 話の焦点も魔理沙の紅魔館の図書館の件から、日頃の鬱憤の言い合いと話の矛先があらぬ方向に行ってしまっていた。

 やれガサツな性格直せだ暗い性格直せだ、やれ爆発する固形物投げるな人形に作った自作服の自慢するな、と最初の話の原型が見えない。

 

「ったく、アリスといいパチュリーといい、死なない魔法使いは薄情でいい性格を持った奴がいないな!」

「あんな本の虫と一緒にしないで! それにガサツな普通の魔法使いに言われたくないわ!」

「はぁ〜あ、こんな事になるんだったらアリスに言うんじゃなかったぜ。こんな役立たずだとは思わなかったぜ」

「なっ!? もう頭に来た! 一度懲らしめる必要があるようね!」

「はっ! いいぜ、やってみろよ!」 

 

 そう二人は言うなり剣呑な雰囲気そのままに構えた。アリスに至ってはどこから現れたのか見た目は可愛らしい、なのに物々しい武器を所持した部屋にあったものと同じ西洋人形数体がアリスの周りに浮遊していた。

 よく見るとその人形から糸が引いているのが目を凝らしてようやく分かった。

 

 アリスの能力は『人形を扱う程度の能力』。人形に付けてあるワイヤーのような糸から自身の魔力を注ぐか、人形自身にある動物(人間でも可)の魂を定着させることにより人形を生きているかのように操作することが出来る(魂を定着させた場合、魔力いらずで完全自立の人形になる事も可能)。

 

「あの〜もしもし? お取り込み中すまないけども、土下座までした俺の立場はどうなるの? めちゃくちゃ恥ずいんだけど」

 

 近付きづらい雰囲気を承知に横谷は、次に起こるであろう危険な行動を止めに、やんわりと制止に入る。

 

「なによ! 邪魔しないで!」

「今はそんな事、どうでもいい!」

 

 横谷は二人の怒声に少し圧倒される。魔理沙は「どうでもいい」と言ってしまう始末。最早二人は最初の目的は見失い、目先の怒りをその相手にぶつけることしか考えていない。

 横谷は圧倒された気力を押し返し、もう一度やんわりと制止に入る。

 

「いやだから、俺は謝罪で土下座したのになんでそちらさん二人が喧嘩に発展なのさ。まぁ喧嘩するのは勝手だが、今やられると俺の渾身の土下座が無意味になるから喧嘩はそこら辺にして、もう一度謝らせ――」

 

「「――うだうだとうっさい!」」

 

 強烈な一喝が、横谷の頭の中に響く。二人の目は血走っていたが、怒り狂っているというより戦闘態勢に入っていた目だった。

 その戦闘態勢に入ったところに水を差されたと思ったのか、とんでもない言葉をアリスは発する。

 

「邪魔臭いわ、少しそこで伸びててもらおうかしら」

 

 アリスは身体の向きを変え、浮いている数体の人形が一斉に横谷の方に向いた。

 

「は!? ちょ、ちょ待てやめろ! 冗談言うな、俺は只の人間だぞ! 丸腰だぞ! そんな人を相手に卑怯だ!」

 

 横谷は必死の抵抗を行う。と同時にあの時隠れて逃げておけばよかった、と暗に思った。これでは獣同士が戦っているところに、護身するための武器を何も所持していない人間が止めにいくようなもの。

 横谷は外の世界で学んだ喧嘩の対策から、自分に関係ない、もしくは関係なりつつあったり、関係有りから一変して部外者となった時はその場に離れ、巻き込まれないように自分の身を守ってきた。

 今回もそうだった。まさに逃げられる場面はいくつもあった。しかし、まだ魔理沙に許しを貰っていない。なので勝手に逃げてしまったら駄目だという責任が余計な口出しをしてしまい、今、まさに自分の身に危機が急速に忍び寄る。

 

(ぐぅっ、どうすれば……)

 

 アリスの目からは憂さ晴らしついでに、確実に横谷に手をかけることが決定したのが物語っていた。横谷はこの場から逃げ出したいが、襲ってくる相手に背を向けたら確実に危ない。

 弾幕が放たれたところで、図書館の時のように全て避けられる自信はない。あの時は相手側も当てるつもりはなかった、ということもあって当たらなかっただけなのだ。

 まさに蛇に睨まれた蛙状態になってしまう。誰も助けるものはいない。ただただ手を((拱|こまね))く事しか出来ない。その間にもアリスはじりじりと横谷の方に近づく。

 

「大丈夫よ、殺しはしないわ。私たちが『話し合い』している間に黙っててもらうだけだから」

「ざけんな! 誰が黙って弾幕を食らうってんだよ!」

 

 横谷は威勢よく虚勢を張るが対抗策も打つ手もない。ただ言葉を重ねて時間を稼ぐくらいしか出来ないが、それをアリスは待ってはくれない。人形の手から光りだし光弾を作り出している。

 

(くっそぉ! どうすりゃいいんだ!)

「あ! 優見っけた!」

 

 今の状況からひどく場違いな少女の声が空からこだまする。

 

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「妖精? なんでこんなとこに……」

「ち、チルノ? なんでここに……あ」

 

 横谷はふよふよと曇天の空に浮いているチルノを見て、自分はフランと鬼ごっこをしている途中だったことを思い出す。

 チルノは周りの状況を気にせず、横谷の方に近付く。助けに来たのではなく、勿論鬼ごっこの遊びを全うして横谷を鬼にするつもりで、である。

 

「ちょっとそこの妖精。何をしにここにきたの?」

「え? なにって、逃げたみんなを探してここに来たら優を見つけただけだけど?」

 

 またもや水を差され射殺すような目線でアリスは問いかけるが、チルノは全く悪気なく答える。あまりにも無邪気な返事にアリスも冷静になる。

 

「そう。でも悪いけど退いてもらえる? 私はコイツに用があるから」

「え〜あたいたちは遊びに忙しいから駄目だよ」

「そんなことどうでもいいわ。コイツにも一回痛い目合わせないと気が済まないの」

「どうでもよくないっ! 遊びはあたいたちにはとっても大切なの!」

 

 アリスの発言にチルノは反抗する。どんな用だろうと、私たち遊びを止められるのは心外だと言わんばかりだ。しかし、アリスはこれ以上構っているつもりはない。

 

「いいから退きなさい! 貴女も怪我したくなかったらここから離れ――」

「――あ、そうだ! あんたも一緒に遊ぼうよ!」

「はぁ?」

 

 アリスは考えもなかった言葉に目が点となる。しかしすぐに拒否をする。

 

「なんでそうなるのよ、するわけないじゃない鬼ごっこなんて幼稚な遊びなんて。そんな事するぐらいなら人形作っているほうがまだいいわ」

「そんな暗い趣味だといつか友達が離れていくよ」

「なっ、こんなバカ妖精に言われるなんて……」

「だっ、誰がバカだって!?」

 

 先の双方の発言で、二人は体をわなわなと震わせて怒りを体現している。それを余所に魔理沙は少しせせら笑っていた。

 

「もういいわ、一緒にそこで伸びてなさい! 蒼符『博愛の仏蘭西人形』!」

 

 アリスはスペルカード名を叫んだ後、周りの人形たちが一斉に鱗のような青色の弾幕が射出された。そしてその弾幕は分裂しながら数を増やし、同時に白から赤へと分裂するたびに色を変えながら横谷達に襲ってくる。

 

「誰が! 氷符『アイシクルマシンガン』!」 

 

 無数の弾幕を向かい打つべく、チルノもスペルカード名を叫び弾幕を張る。こちらも数えきれない氷柱に似た小さい氷弾を向かってくる弾幕を凍らせて迎撃していく。

 

 チルノの能力は『冷気を操る程度の能力』。

 その場で氷が出来上がるのも、その能力を持つ氷精の力によって生成できる。もちろん相手の放つ弾幕も、その場にあるものも全ていとも簡単に凍らせることが出来る。

 因みにここまで強力な力を持った妖精は幻想郷内でもそうそういないらしく、チルノが言った最強という誇張表現は間違っていない。

 

「ふん、凍らすだけじゃ防いだとはいえないわよっ」

 

 今度は周りと同じような人形を手に持って、チルノに向かって投げる。チルノは冷静にその人形も凍らす。

 

「ふふん、幻想郷サイキョーのあたいの前に、やけになって人形投げちゃったの?」

 

 チルノは鼻で笑いアリスに向かって小馬鹿にするように言葉を掛ける。しかしアリスも口角を上げて笑っている。

 

「言ったでしょ? 凍らせただけでは防いだとはいえないわ、って。魔符『アーティフルサクリファイス』!」 

 

 刹那、凍らされた人形が光りだし直後には地面が((抉|えぐ))れるほどの強烈な爆発を起こした。 どうやらこの人形は魔力を込めた、いわば手榴弾的な人形のようだ。爆発した人形は包んでいた氷を破り、爆風の勢いに乗って氷片と爆熱が、文字通り爆発的な速度で同時に襲う。

 

「うわわわっ!?」 

 

 予想外の攻撃にチルノは驚きながらも氷のバリアを作って氷片と爆熱を防ぐ。通り抜けた氷片の一部はもれなく横谷の方に襲いかかってくる。

 

「ちょ、あぶっ! ふぉおおお!?」 

 

 幾つか頬に((掠|かす))り皮膚が浅く裂けそこから血が流れでたが、なんとか避けて最小限の被害に食い止めた。

 

「よくもやったわね! うおぉぉぉぉおお!」

「考えなしに突っ込んでくるなんて、やっぱり妖精は馬鹿なのね!」

「くっ、ここにいたらヤベェ、バレねぇように……」

 

 チルノは怒って氷剣を作り出し、そのまま勢いよくアリスとの間合いを近づいていく。その間に横谷は今のうちにと、見つからないようでそそくさとその場を去った。

 

説明
◆この作品は東方projectの二次創作です。嫌悪感を抱かれる方は速やかにブラウザの「戻る」などで避難してください。
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東方 幻想入り オリキャラ 紅魔館 

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