変わりたい、変われない
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「今回は僕の指示に従う、そうだったね?」

 

美しい顔に美しい微笑みを浮かべる様は妖艶だが、実際の半兵衛は美しい手弱女とは似ても似つかない内面を持つ男である。

目的の為には手段を選ばない、冷酷ながら燃えるような激しさを持つ男。

それをよく知っている官兵衛はう、と言葉を詰まらせる。

微笑んではいても目が笑っていない。

 

「あ、あれは小生のせいじゃないだろう!運が向かなかっただけだ!」

「向かなかったのは運ではなく風向きだろう?」

 

山の天気が変わりやすいのは知っているだろう、君の注意と調査不足だよ、と言われてしまえばその通りなのだが、官兵衛にはどうしても納得がいかない。

守備を言い渡されていた稲葉山城入口は官兵衛もよく知る地だ。地面より城が突き出でて来るのも知っていた。

しかし机上の知識と実体験は全く違う。

地下のものが地上に現れれば盛り上がる土により足を取られる者。

予想以上の勢いに隙ができてしまう者

加えて突然の雨による視界の悪化、兵の士気の低下。

それらにより守備が崩れ防衛がままならなかったのは事実だが、すべてを自分のせいだと言われるのに官兵衛は納得がいかない。が、反論もできない。

…指揮を執るはずの官兵衛が真っ先に足を取られ、何もできなかったのもまた事実なのだ。

口を噤む官兵衛を見やり細く溜息を吐く半兵衛の視線が突き刺さる。

 

「…君の指揮が崩れるのもこれで何回目だろうね」

 

官兵衛に任せた場所は守り切れたことがない、と言って過言ではない。

他の者に比べ武力に劣ることはなく、頭の回転も遅くはない。兵法にも通じている。

だが、実戦において官兵衛が役に立ったと言い切れることはない。

動物の巣らしき穴に落ち、味方の張った罠にかかり、雨に降られるのも毎度のこと。

重要な拠点に置いてはおけないと離れたところに置けばこれだ。

 

「好きでこうな訳じゃないのは知ってるだろう、たまには頭脳労働一本にしてもらえんかね」

「君を本陣に置いておくなんて、それこそぞっとしないよ」

 

吐き捨てるように溜息ひとつ開き直れば返ってくる言葉から毒が抜ける。

自身の功績に比べ見合わない立場と信頼を得ているとやっかまれ、それを半兵衛がいなしていることは知っている。

役に立たないのであれば切り捨てる、そんな男が官兵衛を豊臣に置いておく理由はひとつ。

買われていると分かっているからこそ制御できない“運”が恨めしい。

 

「…君のそれは単に運だけじゃないと思うけどね」

 

掛けられた声に俯いたままの顔を上げれば、何故か目の前に迫る顔に言葉を失う。

呆れたように細められた目に視線を離せないでいるとぐり、と額に固いものを押しつけられた。

 

「あだだだだ!な、なぜじゃ!!」

「相手が僕だからと油断しただろう、君は。迂闊で不用心なんだよ」

「だからって剣の柄を押し付ける必要はないだろう!?」

「痛い目を見ないと分からないだろう。刃の方じゃないんだからいちいち騒がないでくれ」

 

既に何度も痛い目に合っているだろうに反省の色もない、とは言わないでおいた。

迂闊で不用心なのは事実だが、官兵衛の運向きが悪いのもまた事実として半兵衛は受け止めている。

官兵衛が己を省みもう少し自身に気を配れれば強力な戦力となるだろう。

 

「僕が君に望むもの、君なら分かるだろう?」

「…言われなくても」

 

言外に含まれるものを今更だと鼻で飛ばせば、今更なのだから少しは、と鼻で飛ばされる。

必要とあれば自分の外見をも利用する半兵衛が遠慮もなく顔を歪め鼻息すら飛ばしていることに官兵衛が思い至ることはなかった。

説明
BASARA2の稲葉山城に黒田官兵衛がモブ武将でいたなぁ、というお話
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戦国BASARA 黒田官兵衛 竹中半兵衛 

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