地球防衛軍3/4 バトルマシン
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・BM01ベガルタ

 BM01ベガルタとは2017年の戦いの最中に日本のEDF技術研究部を筆頭とする共同開発チームによって開発されたバトルマシンである。

 フォーリナーの二足歩行兵器ヘクトルが装備する粒子ガトリング砲とスパークランチャーは絶大な火力を持っており、大量に押し寄せるヘクトルの大軍によって中華戦線を支える中国人民解放軍の集団軍やEDF第7師団は甚大な損害を被った。

 一連の攻防戦で得られた、ヘクトルの火力や装甲といった基本的な性能やその考察をまとめた報告電文を、EDF極東司令部は各司令部に伝達した。

 報告電文には、ヘクトルは被弾時に衝撃を緩和させるため大きく身体を仰け反らせる特徴があり、このとき両腕の装備の照準が合わせられず、極端に命中率が落とすという弱点を持っていることが記されていた。

 日本のEDFは対ヘクトル用の兵器に、以下の策定を決定した。ひとつ目はヘクトルを仰け反らせるに足る火力を連続で投射する火砲の搭載。ふたつ目はヘクトルからの流れ弾に耐え得るだけの装甲である。策定に従ってEDF技術研究部と防衛省防衛装備庁、三菱重工や三咲重工、チタニア社など多数の企業と共同した対ヘクトル用兵器の開発が開始した。

 会合の場では共同開発チームの技術者によって10式戦車やギガンテスの車体を流用し砲塔に大口径の機関砲を搭載した戦車案と、ヘクトルの構造を模倣し腕と足を備えた人型兵器案が提案された。

 詳しい経緯は不明だがこの会合で人型兵器案が採用され、仕様が策定されて開発が始まった。戦後のインタビューで何人もの開発者が人型兵器を作りたかったと語っており、軍事的合理性よりも技術者の趣味が優先された可能性が高い。

 しかしこの対ヘクトルだけに注力した構想が功を奏し早期に開発は完了した。バトルマシン・ベガルタと命名されたこのロボットは、ヘクトルの日本上陸には間に合わなかったものの、すぐさま生産が開始された。

 全高は約6メートルで、アクチュエーターは油圧駆動、動力はディーゼルエンジンである。ブースターによる跳躍ができるように脚部は上下の衝撃に強い逆関節を採用している。

 武装は左腕部にマシンガン、右腕部にロケットランチャーと火炎放射器を装備している。

 左腕のマシンガンはヘクトルを仰け反らせるための装備である。ベガルタ用に新規開発されたもので、ドラム状の砲弾給弾機構と一体化した砲身内部には冷却材が搭載されており毎分1200発の砲弾を投射できる。

 ヘクトルを仰け反らせるに足る充分な火力があり、射程内であれば一方的にヘクトルを撃破することできた。また巨大生物との戦闘において通常の機関砲では火力不足に陥ることもあったが、ベガルタのマシンガンは大口径で十分な火力を持っていたことから掃射に役立った。

 ロケットランチャーはヘクトルを撃破するための装備である。マシンガンは仰け反らせることを目的としていたが、それでは撃破に時間がかかることが想定されたため、成形炸薬弾が使える無反動砲が搭載された。

 弾種は成形炸薬弾や多目的榴弾を使用する。ヘクトルの破壊用ではあるが、仰け反り効果も狙って連射性も重視されており3銃身化されている。

 火炎放射器は対巨大生物用の装備である。巨大生物の接近を許した場合に使うことが想定されていたが、射程の短さから目立った戦果は出せなかったという。銃身の加熱を抑えるため、3本ある銃身のうち1本から発射するようにしており、一定以上銃身の温度が上昇すると別の銃身から発射する仕組みとなっている。専用の燃料を右腕に積むため、破壊された際にこれに引火する恐れがあり、またロケットランチャーが近い部位にあることから誘爆する危険も高く、現地改造で燃料タンクごと撤廃されたケースも見られる。

 全身には随所に装甲板が貼られ、耐酸塗装が施され関節部も高い耐久値を示す。コクピットこそ剥き出しであるが、操縦者が乗り込むと自動で不可視の電磁バリアが展開される。後期型になると四足要塞の技術を模倣した不可視のフォースフィールド発生装置によって全身を防護し、ギガンテス戦車よりも高い耐久値を示した。ただし電磁バリアやフォースフィールドの展開には膨大な電力が必要であり、稼働時間は非常に短くなっている。

 これだけの重武装は当然に機動力を引き換えにし、歩行速度は歩兵でも追随できるほどほどである。腰部は限定旋回式で後方に照準を合わせられない上に、重量の問題で脚部の旋回能力も低いため、前方以外からの巨大生物の接近には対抗しきれない。

 機動力を補填するため背部にブースターが搭載されており、点火することで垂直に跳躍が可能で、一時的に敵の攻撃を回避することができる。しかしあくまで跳躍できるだけであり、水平方向への移動は期待できず機動力確保にはさして役に立たなかった。

 機動力が低いという弱点は歩兵が援護することでカバー可能であり、戦闘の多くが防衛戦で敵の方から押し寄せてくることから機動性の低さはさして問題とされなかった。戦場への輸送には運搬車両との連携が不可欠であるが、戦場では歩兵の盾と矛になるベガルタは大いに歓迎された。

 ただし人型である必要性はかねてより疑問視されており、鈍重な機動力や燃料効率の悪さは紛れもない事実であった。北米方面軍や欧州方面軍では日本から提供された少数のベガルタで評価試験を実施したものの、必要性が認められないと断じており生産工場は作られなかった。試験機は下半身を取り払い、上半身をギガンテスの車体と組み合わせて戦場へと送り出された。

 戦後には巨大生物掃討戦に参加するも、機動力の低さから進撃には不向きだったため、さして活躍の場は与えられなかった。

 後継機のBM02とBM03の普及によって順次退役していき、一部の機体は民間に払い下げられたり、戦争博物館に展示されることとなった。払い下げられた先は主に建設作業会社であり、武装を撤廃してマニピュレータを装備し建設作業に従事した。

 2025年の戦いでは正式に参戦した機体はないものの、民兵が博物館に展示されていたものや作業用のものを改修し戦場に投入したとされる。

 なお試作型の体験版仕様機には高出力ブースターが搭載され、他に類を見ない圧倒的な機動力を誇ったとされるが噂があるが噂の域を出ない。

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・BM03ベガルタ

 2018年の巨大生物掃討戦と並行してEDFは戦略防衛大綱の策定を急いでいた。マザーシップの撃墜によって飛行ドローンと輸送船は撤退し一応の勝利を収めたものの、フォーリナーの再侵略は容易に想像できるものであった。

 北アメリカ大陸を徐々に解放しつつあったEDF北米方面軍は、戦略防衛大綱の策定に先行する形でバトルマシンの開発を進めようとしていた。ベガルタの有用性は戦中から疑問視されていたが、日本が最後まで戦線を維持し、さらにはマザーシップの撃墜に成功したことから、日本がとった戦略と戦術の研究が進められており、バトルマシンは特に注目を浴びていた。

 実際に研究が進んでいくと、ベガルタには兵士の士気を高める効果が明らかとなった。ベガルタのパイロットは人型のロボットを操縦することで、まるで自分がフィクション世界の主人公になったような気分になり、非常に高揚感に満ち溢れるという。またベガルタの周辺で戦闘する歩兵も、ベガルタがいることで攻撃に積極的になる効果が見られた。

 これは心理学者たちによるとベガルタが人間にとって非常にシンパシーを感じやすく、ともに戦う「仲間」と認識しやすい造形をしているためだとされる。人間よりもはるかに強固な装甲と圧倒的な火力を持つ巨大な人型ロボットを、人間は「ヒーロー」とみなして安心感に繋げる。その安心感を元にパイロットや周囲の歩兵は高揚するのだという。

 また三次元的な運動性能にも注目が及んだ。ベガルタは背部のブースターと脚部の屈伸を併用して跳躍を可能としており、もし性能が向上すれば三次元的な運動能力が期待できるとされた。高度な三次元運動能力が得られれば山岳地帯での活躍が期待できるほか、市街地でもビルからビルへ跳躍し立体的な機動が可能となる。

 これらを理由にアメリカはバトルマシンの研究と開発を決定した。開発にあたって、全高6メートルの大きさを限度とし、パイロットの操縦席を密閉型にすること、戦車用の運搬車両に載せられること、戦術輸送機に積載できること、着地した先のビルを破壊しない程度の重量であること、外見はなるべくヒロイックにすることを達成目的とした。

 アメリカはまずBM02を開発したが、量産はあえなく頓挫した。あまりにも性能が低く陸軍が導入を拒否したからである。BM02の失敗によりアメリカは日本に共同開発を打診した。

 日本もマザーシップの撃墜に成功したとはいえ国全体で見れば大きく疲弊しており、復興速度はアメリカに劣っていた。バトルマシンの後継機を独力で開発することは困難であり、開発予算をアメリカに大きく依存する形でバトルマシンの共同開発を受け入れた。

 開発にあたっての指針としてまず汎用性が求められた。BM01は火力を得るためにマシンガンとロケットランチャー、火炎放射器が固定装備としてあてがわれており、これ以外の武装を装備することは一切考慮されていなかった。そのため高い火力を持つ反面、運動性が低いため半固定砲台のような使い方しかできなかった。

 アメリカの技術研究部は機体各所にハードポイントを設け、そこに武装を取り付ける構想を示した。腕部にはアームレールシステム、胴体後部には多機能火器接続システムを備え、それぞれのシステムに対応した装備を開発することで、任務に合わせて武装を変更することを可能にするものであった。

 日本の技術研究部はこの提案に興味を示し、さらに胴部、腕部、脚部の取り外しができるようにし、各パーツを換装する構想を提案した。これはたとえば、可搬重量は小さいが歩行速度の速い脚部や、可搬重量こそ大きいが歩行速度が遅い脚部などをあらかじめ作っておき、任務に合わせてパーツを換装し最適な戦闘能力を得るというものである。

 両者の構想は日進月歩の勢いでまとまり、仕様はわずか数日で確定し迅速に試作型の開発に移されることとなりBM03が誕生した。

 ベガルタの造形はBM01では泥臭く無骨といった印象であるが、BM03では洗練された見た目となった。操縦席を胴体に内蔵する密閉型コクピットによってパイロットがむき出しにならなくなり、各ケーブルも大半が内蔵されたことで弱点を軽減している。

 腕には三指のマニピュレーターを標準装備している。これは物資運搬やマガジン装填などの雑務を担うもので、戦闘力を直接付与するものではない。

 BM03と同時並行に開発された武装は、リボルバーカノンとロケット砲の2つである。左右の腕のアームレールシステムに連結する形で装備できる。「両方の腕にリボルバーカノンを装備する」というような使い方も可能だが、多様な局面に対処するため左右別々の武装を装備することが基本とされている。

 リボルバーカノンは先のBM01に装備されたマシンガンの後継であり、ヘクトルへの打撃を担うものである。多銃身化によって連続射撃による銃身の加熱は抑えられ大型の冷却材を必要としなくなった。弾数は900発で1分間に720発発射できる。連射性はBM01のマシンガンに比べ落ちているが、先述の通り冷却材が不要になり、砲身が急激な温度変化に晒されることがなくなったことから砲身寿命が伸びている。

 ロケット砲は機体重量の軽量化が要求されたことから、BM01の3銃身型から単銃身型に変更されている。マガジン式のため弾を撃ち切った後にリロードすることで再発射が可能である。弾数は1マガジン当たり30発。1分間に45発の発射が可能である。

 固定装備として3発のスモークディスチャージャーが両肩側面に搭載される。もちろんフォーリナーや巨大生物に煙幕は無意味であり、人間同士の戦闘を考慮したものである。ただし全長6メートルがもたらす前方投影面積の大きさは、長距離攻撃能力に乏しいフォーリナー相手ならともかく、対人戦においては致命的な弱点になる。そのため対人戦ではバトルマシンは運用しないことが原則である。

 装甲はコクピット周辺に薄めの複合装甲が使われ、それ以外の非装甲部分には対酸対ビーム塗装が塗布される。これらはあくまで最低限のものであり、主装甲は機体周囲に展開するフォースフィールドである。胴体にはフォースフィールド発生装置を内蔵しており、機体周囲に不可視のフォースフィールドを展開させることで防御能力を得ている。フォースフィールド発生装置の宿命としてエネルギー消費が激しく、常時展開させた際の稼働時間は極めて短い。そのためパイロットには常時展開するのではなく、戦闘中のみ展開するよう義務付けられている。

 脚部にメインスラスターを搭載し、また背中にサブスラスターを搭載している。これらの噴射と脚部の屈伸を併用した跳躍によって、限定的な三次元機動能力を獲得している。重量は軽いため一応ビルの上に飛び乗る事もできるが、古い建物や一般的な家宅に飛び乗ると踏み潰してしまうためあまり推奨はされない。

 試作型のBM03は換装機構などを備えた先進的な兵器であったため、故障率が高くそのまま制式採用されることはなかった。だが技術的な方向性が定まったため、改良型が凄まじい速度で開発され続けることとなった。

 余談ではあるが、ベガルタのような脚部を持つ兵器全般を日本のEDFは公式に「バトルマシン」と呼称しているが、英語圏では「Power Suits」と呼称している。

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・BM03ベガルタ ゴールドコート

 BM03のゴールドコート型は技術実証機である。試作機の胴体とファイアーウォーリア型の腕部と脚部を組み合わせ、全身にゴールドコートという特殊な黄金の塗料を塗布している。

 開発時期はBM03が試作段階だった時期にまで遡る。当時はBM03の換装システムの実験としてファイアウォーリア型やヘビーキャノン型といった様々な機体が生み出されていたが、実験終了後には不要になったパーツが少なからず存在していた。

 また同時期にレーダー波の反射角度を変えるゴールドコートの試験も予定されており、ついでにBM03の異種パーツを混成させる試験と、カメラとダブルアンテナの増設試験を一気にまとめて並行して行うこととなった。その結果、通常型の胴部とファイアウォーリア型の腕部と脚部を組み合わせ、カメラとダブルアンテナを増設し、ゴールドコートを塗布した特殊な機体が生み出された。

 試験は特に問題も起こらず、滞りなく終わっている。異種パーツの混成については「各パーツのメリットが打ち消されてしまう」としており、カメラとダブルアンテナについては「あると便利だがなくても別にいい」、ゴールドコートについては「クソの役にも立たない」などといった報告が出されている。

 ゴールドコートは見た目こそ派手なものの、実用性は皆無であった。ゴールドコートは電波の反射角度を変えるため、敵からレーダー照射を受けても反射波を敵に受信させず位置が特定されにくくなるというものだが、実際のところ電波の反射角度がそれほど変わらず実際の効果はないに等しい。そもそもフォーリナーは電波を使った探知をしている形跡がなく、運用は対人戦に限られてしまう。また仮に対人戦だとしても、地上戦ではレーダーはほとんど使われない。なぜなら電波が地形や建物に反射して使い物にならないからである。レーダーを使う敵がいないのにゴールドコートを施しても意味がなく、逆に黄金なせいで目視での被発見性が高まってしまう。

 この試験結果通り、量産機では異種パーツの混成は推奨されず、カメラとダブルアンテナの生産はされず、ゴールドコートの塗布はされていない。

 しかし試験終了後もこの機体は廃棄されず、予備機として保管されることとなった。戦勝記念式典の時期が近く、たまたま試験を視察に来た幹部が見た目の派手さを気に入って式典にゴールドコート型を参加させることを決定したためである。

 この最初の式典で国民の衆目を集めたことで、その後も式典用機として運用されることとなった。しかし決定された予算から逸脱した機体であるため、当機は広報センターの展示品として扱われ、バトルマシンの定数に含まれずほとんど整備もされないまま放置され続けた。それでも式典のたびに問題なく稼働したため、BM03の信頼性が図らずも実証される形となった。

 そして2025年の戦いが勃発すると、このゴールドコート型は広報部によって大々的に宣伝材料として扱われることとなった。2025年の戦いによって民衆の反フォーリナー思想は一気に高揚し志願兵が続出したが、採用枠も増加したため定数割れを起こしていた。広報部はさらに志願兵を増やすため、様々な宣伝材料を求めていた。広報部は新規入隊者に対して「兵科の自由選択」「指揮官待遇」「初心者歓迎」などを謳った宣伝を積極的に行った。特に国営放送で流された「EDFスカウトニュース」という番組では、実際の戦況とはまったく違う偽の勝利報告を並べ立ててまで入隊を促進していた。大本営発表ともあだ名されたこのプロパガンダでは、新規入隊者にゴールドコート型のパイロットになる資格を与えるというものが含まれていた。実際この文言通り、一部の新兵にはゴールドコート型の搭乗権が与えられたが、ハードもソフトもアップデートされておらず、2025年当時としては力不足としか言いようがない性能であった。ゴールドコート型は実戦的な兵器とは言いがたかったが、それでも装備の不足から実戦に投入された。

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・歩行要塞バラム

 バラムとは日本が開発した歩行要塞である。全長は50メートルにも及び、陸上兵器としては移動要塞X4に次ぐ規模となっている。

 バラムの開発には防衛省の一部幹部たち意向が大きく関わっている。2018年、フォーリナーとの戦いがマザーシップの撃墜で収束しつつある情勢の中、アメリカでは移動要塞X4の開発が始まっていた。この影響を受けて日本でも要塞兵器の開発計画が持ち上がったが予算を理由に認可されず、続いて移動要塞X4のスモールタイプの開発計画へと改変されたがこれもまた予算を理由に却下された。

 だが要塞兵器を開発しようとする幹部らは仕様書を大きく改定し、「巨大生物殲滅作戦用の移動拠点」として予算審議を通そうとした。この仕様書に書かれた移動拠点とは、移動要塞X4のような要塞兵器ではなく、兵員や物資の運搬、あるいは作戦指揮所としての機能を持つ文字通りの移動拠点とされた。だがこの内容は実態とは大きくかけ離れており、予算審議を通過させやすくするためのものであった。

 幹部らの積極的な根回しによって賛同者が防衛調達審議会の委員に選出され、また数々のロビー活動によって移動拠点の開発は審議会を通過した。財務省にはEDFと防衛省の概算要求を跳ね除ける力はなく、この査定は通ってしまった。戦中の混乱により多くの議員や官僚を失い、満足な行政すら執り行えなかった当時の議会や財務省は機能していると言いがたく、逆にフォーリナーを撃退した防衛省の権威は強まり、国際機関のEDFが介入することで防衛省予算の透明性が極めて低下しており、移動拠点の実態は秘匿されてしまった。並行して行われていた巨大生物の掃討戦と、政府や国民も抱くフォーリナーの再侵略への恐怖心は、防衛省への権力集中の最大の理由にもなっていた。

 こうして「巨大生物殲滅作戦用の移動拠点」は開発に移されたが、機密保持のために開発工場は厳重に密閉されており、スパイやドローンの進入を防ぐために厳重なセンサー網が張り巡らされ、武装した隊員による警戒が常に敷かれていた。また開発者たちは自分の担当箇所以外の情報は必要最小限しか知ることがなかった。

 この厳重な警戒は自国民の侵入を阻止するためのものであった。要塞兵器の開発は一部幹部らが議会や財務省だけでなく自分たちが所属する防衛省すらも騙した壮大な計画であり、関係者以外の侵入は絶対に阻止しなければならないものであった。しかしこのあまりに厳重過ぎる警備体制が仇となり、逆に市民やマスコミから注目の的になった。何を開発しているか一切公開されなかったことから「核兵器の開発施設」や「巨大生物の冷凍保存場」といった憶測まで流れ始め、周辺住民による反工場デモが活性化した。それを皮切りに戦時非常体勢の即時停止を求める平時経済体勢移行派の市民が各県から合流し、大規模なデモへと発展した。当時は戦災による市場経済の崩壊が著しく、多くの市民はヤクザが運営する闇市で物々交換することで生活していたのである。数度のデモは罵詈雑言混じりつつも平穏に終わったが、最終的には警察とデモ隊が衝突する事件に発展し、かつてない規模の死傷者が出たことで、暫定政権は責任を取り内閣を総辞職した。その後政権交代によって各省庁の刷新が図られ、防衛省に対し工場内を公開するよう圧力がかけられた。さらに概算要求に対する再度の査定が実施された。これらを経て移動拠点の実態が発覚し、開発推進派たちが逮捕されるに至った。

 そして工場内に査察が入り、開発されていたものが公表された。工場にあったのは移動拠点とは名ばかりの全長50メートルに及ぶ巨大な人型ロボット「歩行要塞バラム」であった。兵器としての実用性は皆無に等しく、この事実を知った防衛省やEDFの良識派幹部たちは泡を噴いて倒れたという。この一連の騒動は機体から名を取り「バラム事件」と呼ばれるようになった。

 実態を知っていた開発推進派は逮捕されたとき、一同満面の笑みだったという。すでに開発はほぼ完了しており、起動できる状態にあったからである。彼らは巨大な人型ロボットを現実のものにできたことに満足しており、テレビにバラムが映るととても喜んだという。

 結局このバラムは解体するかどうかで議論の的になった。テーマパークなどに売却することも模索されたが買い手がつかず、解体費用も膨大になることからずっと倉庫で放置される状態が続いた。

 2025年の戦いが始まるとバラムに実戦投入の機会が与えられた。たまたまバラムが保存されている倉庫の近くに巨大生物が出現したためである。バラムを操縦したがっていた兵士が基地司令官に直談判して出撃の許可を得たという。もちろんパイロットとしての養成は受けていなかったが、操作方法が簡単なため特に問題にはならなかった。

 この戦闘に4機のバラムが投入されたが、巨大生物の攻撃により全機大破している。巨大生物の中に戦甲変異種という新種が出現しており、この個体が吐き出す強力な酸を防ぎきることができなかったためである。しかし運悪く新種が出現するという事実を考慮に入れた上でも、バラムの戦術的価値は皆無としか言いようがなかった。攻撃方法が腕による殴打のみでは巨大生物に対しろくな反撃ができなかったからである。

 この戦闘から数日後、別の戦闘でも投入されたがさしたる戦果を残せず、余ったバラムは倉庫に放置されることとなった。誰も整備せず放置され続けていたが、あらゆる攻撃でも傷ひとつつかない怪生物エルギヌスへの対抗兵器として選出されたことで、バラムに再び活躍の機会が訪れた。

 エルギヌスは全長50メートル以上の超巨大生物で、機関砲、戦車砲、巡航ミサイル、さらには対装甲貫通弾グラインドバスターですらダメージを与えることができず、侵攻を阻止する方法が存在しなかった。EDF総司令部は、大質量のバラムをエルギヌスに衝突させ絡みつかせれば、身動きをとれなくすることができる可能性があるとしてバラムを投入することを決定した。

 バラムは急いで倉庫から運びだされ、稼働させるための整備や超合金装甲の強化が施された。そして作戦決行日にヒドラ輸送ヘリ4機によって戦地へと運搬された。この作戦は本来予定していたパイロットが巨大生物に襲撃され、行方不明になるというアクシデントに見舞われたが、指揮官の判断で現地に展開していた歩兵の1人に操縦が委ねられた。

 本来エルギヌスに衝突させるはずだったのだが、特にエルギヌスが止まる様子はなかったため、腕部で殴りつけるという作戦に変更された。この戦法は有効で、何度かの殴打ののち、エルギヌスを撃破するに至った。大質量の腕部を叩きつけることで、内臓破壊を引き起こし撃破に繋がったとされる。これによりバラムは世界初のエルギヌスの撃破に成功した。

 その後大量のエルギヌスを一掃するためにバラムの増産が急ピッチで行われ、武装の搭載や腕部のさらなる大質量を求めて改良も施された。他国でもバラムの設計をもとに数々の歩行要塞が開発され、対エルギヌス戦に投入された。

 なお質量が大きすぎるため、歩くだけで地面に大きなダメージを与え、舗装された道路であろうと容赦なく破壊する。またエルギヌスとの戦闘後はフレームごとずたずたに破壊されるため、戦闘ごとにオーバーホールが必要となる。いくらか欠点を抱えてはいるものの、エルギヌスに対抗できる兵器が実質バラムだけという状態が続いたため、代替の兵器が開発されることはなかった。

 ちなみに第一回対エルギヌス戦後に開発されたガンタレット搭載型はB型と呼称されるようになり、それに伴い初期型のバラムはA型と呼ばれようになった。さらにこれを対エルギヌス戦用の整備が施される前をA1型、された後をA2型として区別する場合もある。

 バラムA型は機体各所に搭載されるはずの装備が未完成で、主だった武装は一切搭載されていない。拳の部分はフォーリニウムを使った大質量の特殊合金が使われており、対エルギヌス戦で絶大な威力を誇った。

 レーダーやセンサーは頭部とその周辺に集中して配置されている。頭部は可視光及び赤外線カメラを搭載している。カメラは頭部だけでなく脚部や股間部にも搭載されており、これらの映像を合成処理しヘルメットを介してパイロットに限定的な視界を与える。背部のカメラが少ないため全周視界は得られていない。

 頭部の後ろ側にあるアンテナは対地用のレーダーシステムで、IFFアンテナを兼ねる。頭部の左横にある円形状のものは火器管制レーダーで、こちらは武装と連動する予定だったが、ガンタレットの開発が間に合わなかったことから前方警戒にのみ用いられる。

 装甲は超合金装甲と呼ばれる複合装甲である。地球原産の素材とフォーリナー由来の素材を混在させた強固な合金で、あらゆる攻撃に対し高い耐久性を誇る。またフォースフィールド発生装置を搭載しているため、機体周囲には常に不可視のフォースフィールドが展開される。動力源は核融合炉であるため、フォースフィールドを展開するエネルギーを常に得ることができる。

 バラムはベガルタとはデザインも大きさもまったく違うため、姿勢制御などに必要なソフトウェアも新規に開発されている。これは非常に完成度が高く、段差を検知して適切な歩行を実行することで高い走破性を獲得すると同時に、パイロットに直感的な操作方法を与えることに成功している。その高い完成度は専用の操縦器具を必要とせず、PlayStation4用のDUALSHOCK4コントローラーで歩行から殴打まであらゆる動作が可能になっており、コンピューターゲームに慣れている者なら簡単に操縦することができる。実際、エルギヌスを撃破した歩兵もバラムを操縦するための訓練は受けていなかった。

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地球防衛軍3 EDF ベガルタ 

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