リリカルなのはSFIA |
第四十四話 幾つもの可能性
リイン視点。
首都グラナガン上空で雲の向こう側から大型の次元航行船の数倍の大きさを持つ『聖王のゆりかご』が落ちてくる。
それを私達三人でどうにかしろだなんてはやてちゃんも物凄い事を言ってくるです。
でも、やるしかないですぅう。
「エクセリオンスマッシャァアアアアッ!」
あぅうううううううっ!
なのはさんがブラスターモードを使って収束砲を放つ。だけど、その負担は大きくてユニゾンしている私にもそのダメージが回る。
なのはさんは私以上にダメージがあるはずなのに平然と収束砲を放ち続ける。
[目標達成率40パーセント。出力上昇を推奨!]
レイジングハートが『聖王のゆりかご』の装甲を打ち破れなかったことを知らせる。て、出力の上昇って…。
「ブラスタァアアアア、2ゥウウウウウ!」
ちょ、ちょっと待って。ブラスターモードの第二段階って、さっきより強い負荷がかかる奴で…。
「エクセリオォオオオオンッ…」
ちょ、ちょっと待って。待ってください。これ以上負荷がかかったら…。
駄目ぇええええっ。リイン壊れちゃうですぅううう!
「スマッシャアアアアアアアアッッ!!」
にゃああああああああああああっ!!
ヴィータ視点。
なんかリインの奴が変な悲鳴を上げたような…。
まあ、それはそれとして。なのはのやつ無茶しやがって、というか二回連続で砲撃を放つなら念話でもいいから知らせてくれ。
「でも、まあ、これで…。このデカ物を真っ二つにしてやるぜぇえええっ!」
[オーバードライブ!]
私は自分の相棒から幾つもの弾丸。カートリッジが吐き出した感触を確かめながら、アイゼンの鉄槌部分を巨大化。柄の部分も五メートル近くは長くしてそれを振り降ろす。
「シェアッ、シュテェエレンッ、ハンマアアアアアアッ!!」
鉄槌のの殻を打ち破り、片方からは巨大なドリル。そして、その反対側にはジェットブースターが現れる。
巨大なドリルは高速回転し、ゼクシスの攻撃で空いた巨大な風穴がなのはの砲撃が撃ちこまれ、その穴は更に巨大にそして『聖王のゆりかご』に更に攻撃を加える。
ガガッガガガッガガガガガガガガガガガガ!!
鋼が鋼を削り落とす音を響かせながら私はアイゼンを振り降ろす。
だけど、長年の手ごたえで分かる。このままじゃ、この『聖王のゆりかご』を打ち砕けない。だけど、ここで砕かないと、はやてや私達が帰る場所が。
そして、何よりも誰よりも『傷だらけ』になったあいつにっ。
「顔向け出来ねえぇんだよぉおおおおおおおっ!」
ガシュンッガシュンッガシュンッガシュンッガシュンッガシュンッ!
ただでさえ負荷をかけている状態のオーバードライブ。それにカートリッジを追加して更に強化を重ねる。
「ぶち抜けぇえええええええっ!!」
鉄槌の騎士ヴィータ。鉄の伯爵グラーフ・アイゼンに砕けない物なんてねぇえええっ!!
クアットロ視点。
…ううう、ドカンドカンとうるさいですわぁ。
まだ、ガジェットと戦っているのかしら、無能な管理局員達は。
結局アサキムの言っていた『白歴史』を変えることは…。
せめてものの抵抗で最後に聖王教会の真上に転移させようとしたけど、転移直前に転移先が少しだけ変わったような…。
「…『聖王のゆりかご』大、破?…落下まであと二分三、十秒?」
目の前にあるモニターにはそう表示されていた。
私のアイエス。シルバーカーテンは未だに解除されていなかった。だけど、中途半端にダメージを受けた所為か解除することも出来ない。
そんな中で、現状を知らされる。
今、私がいるのは未だに『聖王のゆりかご』の内部で首都グラナガンの上にあって墜落中。それをさせないためにあのエースオブエースと守護騎士が戦っている。
その二人の下には管理局の地上本部が映し出されていた。
そして、動力部があったゆりかごの後方部分をあのエースオブエースが周囲の魔力をかき集めて収束砲を撃ち放ち、消し飛ばしていった。
そして、巨大なドリルとジェットエンジンを組み合わせたかのようなハンマーが私のいるゆりかごの前方半分を叩き壊そうとしていた。
だけど、このままあいつ等の好きにさせたらしゃくね。
あいつ等の未来が約束された『白歴史』。
このまま事が運ぶのは((癪|しゃく))だ。だから、最後の悪あがきをさせてもらう。
「『聖王のゆりかご』。AMF最、大出力」
もう殆ど残されていない『聖王のゆりかご』のエネルギーを守護騎士のハンマーが直撃する前にAMFを展開する。
見た目は馬鹿でかいハンマーだけど、所詮魔力。だからこそ、不意に回復したAMFにヴィータの攻撃の威力は減衰する。
その時に見せた騎士の顔があまりにも滑稽だった。
エースオブエースが胸を抑えながら、無駄だとわかってもこの巨大な『聖王のゆりかご』にバインドをかけて空中に固定しようとするが、その質量とAMFによってバインドはあっけなく壊れる。
その顔は今にも泣きそうな顔をして笑えた。
「…ふ、ふふふ。ざまぁみろ。です、わ」
クアットロは再び消えかけた意識の中で自分を乗せた『聖王のゆりかご』を目で追うことしか出来なかったなのは達を見て苦しそうに笑顔を浮かべた。
だけど、どんな時だって幾つもの可能性は残されている。
そう、どんな時だって。
『ラッキースター!オーバードライブ!』
真っ二つにされたとはいえ、あまりにも巨大な『聖王のゆりかご』。
地上墜落にまで残り千メートルを切ったかどうかの位置に割り込んできた一隻の船。アースラ。
『ツインエクセリオンバスターキャノン!発射ぁああああああっっ!』
その美しい金髪を風に遊ばせながらも甲板に立ち、その両肩に乗せた大砲から自分の髪よりよりも光を弾く砲撃を放つ。
金色の閃光が絶望の塊を再び押しとどめようとしていることに、そして、クアットロは気付くことが無かった。
はやて視点。
シグナムとゼストさんを一緒にアースラ乗艦して、急いで『聖王のゆりかご』を追ってみれば頭1/3を残した状態で墜落していくのが見えた。
フェイトちゃんやアリサちゃん。すずかちゃんの三人はクロノ君が率いる部隊で待機を命じている。というよりも他の皆は疲弊が多すぎて戦線復帰は無理と判断したからだ。
それを見た私達は瞬時に行動に移る。
魔力を主体とする物と、スフィアリアクター・Dエクストラクター組に分かれて各々が行う事を全力で行う。
落下していく『聖王のゆりかご』はAMFに包まれて今も落下している。
いの一番で飛び出したアリシアちゃんは初っ端からフルドライブを行い、落下していく『聖王のゆりかご』を押し上げるように砲撃を放つ。
心なしか落下速度が緩まったかのように見えたが、それでも『聖王のゆりかご』は破壊することは出来ずに、その落下は止まらない。
「シグナム!エリオ!私と一緒にヴィータ達が砕いたゆりかごの瓦礫を破壊するで!リインフォース!ゼストさん!あれをぶっ壊してきて!」
「了解です!」
「承知!」
[私もいるぜ!]
「ほんじゃ、アギトも私達と一緒にお掃除に参加しいや!」
なのはちゃんとヴィータで可能な限り壊してくれた破片を私とシグナム。そして、ゼストと一緒にいたアギト。彼女は今、シグナムとユニゾンしているから姿こそ見えないが重要な戦力になる。
最初の方こそゼストと一緒に居たがっていたが、ゼストさんが持つ槍。Dエクストラクターはユニゾンしていると最大出力は放てないらしく、この緊急時にそれは文字通り命取りになる。
私達三人はなのはちゃん達が撃ち漏らした瓦礫を破壊していく。
その破片の一つ一つが地上に落ちればアパートの一つや二つを押しつぶす巨大な物だった。それを私達が細かく、いや、跡形もなく消し飛ばさないといけない!
「やるぞっ!アギト!」
[おうっ!火竜ぅ]
「一閃!」
ドッ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!
シグナムの持つレヴァンティンが鞭のような連結刃に変形しながら数キロ先にまで伸びる。
その連結刃にはアギトとシグナムの全力の炎が宿り、触れる物。いや、近くにあった瓦礫すらもその余波で爆砕していく。
「ストラーダ!紫電一閃!」
ドゴオオオンッ!
エリオは雷の矢のように空を駆け抜けながら『聖王のゆりかご』の残骸を破壊していく。
「…これがっ、最後だ!ロックバスター最大出力っ!!」
「ザ・グローリースター!フルシュートォオオオオ!!」
「SPIGOT!最大出力!撃ち抜けっ、VXブレイザァアアアアッ!」
ゼストは手に持った槍にありったけの魔力を込めて投げる。
リインフォースの持つガナリーカーバー。リニスの前に直列した四つのSPIGOTをくぐり抜けた。
ゼストの放った槍に追従するように二人の砲撃が螺旋を描くように絡まると、放たれた槍の軌跡は、まるで銀の彗星のような光を放ちながら『聖王のゆりかご』に突き刺さる。
「「「「打ち砕けぇえええええええっっ!!!」」」」
ドッ!オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!
目がくらむほどの閃光の後に爆音が数瞬遅れて鳴り響く。
『聖王のゆりかご』のあった空間には砂煙が黙々と立ち上っていた。
「…やったか?」
私がそう言った次の瞬間、その砂煙を突き破るように『聖王のゆりかご』の先端部分が振ってくる。
大きさにすれば直径百メートルも無いがそれでも巨大な残骸が振ってくる。
だけど、そこにいた誰もが動けなかった。
アースラの甲板の上で『聖王のゆりかご』を破壊しようとしていたリインフォース達。
小さい。それでも無視できない『聖王のゆりかご』の残骸を破壊していたはやて達の誰一人として全力攻撃をした後の反動の所為で動けなかった。
オオオオオオオオオッ!
『傷だらけの獅子』を除いて。
マグナモードを展開してその巨大な瓦礫を掴み落ちてくるのを堪えている。
あれだけの重傷をどう癒したのか?まさか、またマグナモードを併用した無理な回復をしたのか。
高志から感じられる魔力に変化を感じた。
まるでアサキムのような底知れない魔力。ただ、アサキムとは違い不気味な感じではなく荒々しく生命力に満ち溢れている。だけど、それが寂しそうに感じる。
そんな不思議な魔力の波動だった。
「っ。お兄ちゃん!」
ドォンッ。
体力と魔力を回復させることは出来てもそれを維持するだけの気力が無い事を感じ取ったのだろう。
アリシアは高志が瓦礫を抑え込んでいる間に瓦礫にラッキースターに砲撃を撃ちこむ。
瓦礫はその砲撃を受けて全体に亀裂を生む。
その行動のおかげで高志の突然の登場に驚いた一行だが、アリシアの行動で高志の上体を把握したのかすぐさま攻撃に移る。
「バーレイサイズ!」
「VXキャリバー!」
リインフォースが光の鞭を放ち、リニスは両手から光の剣を二本作り上げると、瓦礫を両断する。
「火竜一閃!」
シグナムがレヴァンティンを振るい、片方の瓦礫を吹き飛ばす。
「フレーズベルク!」
そして、最後にはやてが魔力の拡散砲撃ちこむ。
ドオオオオオオオオオンッ!
そして、全ての瓦礫が吹き飛ばされると高志がゆっくりとアースラに降りてきた。
いや、浮遊するのも疲れたといわんばかりに甲板の上に落ちていく。
そんな高志を優しく抱き止めたのはアリシアだった。
ガンレオンの装甲は彼女に抱き止められると同時に解除された。
「……離れろ。アリシア。俺は、もう『放浪者』になったんだ。それも相手に触れるだけでそいつに『スティグマ』を。スフィアをめぐる戦いに巻き込む呪いをばら撒く存在になったんだ。今、こうしている間にお前に『スティグマ』を…」
「やだ」
もう、『傷だらけの獅子』のスフィアを使いこなせるようになった自分自身の体の事だからか、高志はアリシアを突き放そうとするが体に力が入らないのか気だるそうに言うが、アリシアは離れようとはしなかった。
「それに…、さ」
ボンッ。
と、小さな爆発音を立ててアリシアの持つ拳銃が壊れる。
それはアリシアのバリアジャケットが解ける事意味していた。
「…もう、触っちゃった」
アリシアは優しく高志の体を撫でる。
自分の頬を撫でる柔らかい髪を眺めながら高志は諦めたかのようにぼやいた。
「…馬鹿たれ。これじゃあ俺がやって来た事が無意味になっちまったじゃねえか」
「いいもん。馬鹿で。それで傍にいて触れるなら馬鹿でも」
そうやっている二人を見てはやては胸が締め付けられる痛みを感じた。
「…あ」
自分が好きな二人が抱き合っている。一人は友人として、もう一人は異性として。
そんな光景を見ていても状況が状況だ。
『聖王のゆりかご』の残骸を破壊したとはいえ、落下している瓦礫の中には人に当たればただじゃ済まない物も多い。
「…あ〜、そこの二人。バリアジャケットを羽織れないならアースラの中で待機しぃや」
アースラの周りにはフィールドを発生させているから空の強風に煽られても吹き飛ぶことはないけれど、未だに小さな破片がアースラに降り注いでいる。
それが当たらないようにと声をかけるが…。
「…アリシア?」
「………」
トサッ。
不意に高志を支えていたアリシアが力無く甲板の上に伏した。
「……アリシア?」
倒れたアリシアの髪が風でなびく。そして、その髪の下には鋭利に尖った『聖王のゆりかご』の破片が突き刺さっていた。
「…アリシアちゃん!?」
はやては思わず声を荒げてアリシアの元に近寄る。
その間にもアリシアの着ている服や髪。そして、アースラの白い甲板をアリシアの血が赤黒く染め上げていた。
ジ・エーデル視点。
最後に砕いた瓦礫の破片がアリシアちゃんに当たるとはねェ…。
あの破片。あれがあった聖王のクローンの入ったカプセルの後ろ側。一応、生命反応は出ているから彼女等の放った制圧用の攻撃。いや、『非殺傷設定』というものが無ければカプセルごと壊すことが出来ただろう。また、砕くことが出来なくても攻撃した余波で瓦礫を吹き飛ばせただろう。
要は彼女達の『出来るだけ殺さないように』という優しさがあの瓦礫の破片を彼女の元に運んだという訳だね。
いやはや、幾つもの偶然。幾つもの可能性がこのような事態を生み出すなんて、ね。
まさに『こんなはずじゃなかった事ばかりだよ』って状況だね♪
スフィアで生き返った人間だから研究用として欲しかったけど、仕方ない。
あとで彼女の遺体を回収して研究するとするかな。
さて、彼女が死んで情緒不安定のゼクシスと機動六課では『聖王のゆりかご』の破片で恐怖に陥っている『力無き民』に力を貸そうじゃないか。
『尽きぬ水瓶』。お膳立ては済んだよ。さあ、お目覚めの時間だよ♪
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第四十四話 幾つもの可能性 | ||
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