伊織「さあ、麻雀を打つわよ!」P「おうっ!」  第2話中編
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 東二局 (東家・律子 南家・P 西家・伊織 北家・雪歩)

 

律子「それにしても、雪歩はあっさり親を放棄したわねえ。伊織のリーチ、見た目にも高そうじゃなかったのに」

 

伊織「ちょっと!適当なことを言わないでよ。私のリーチはいつもその手の完成形なんだから」

 

雪歩「え!三枚切れのペンチャンリーチでも平気でやっちゃう伊織ちゃんの口からそんな言葉が聞けるなんて」

 

伊織「う、うるさいわねっ!そういう時は、その手の潜在能力がそこまでだったってことよ」

 

雪歩「伊織ちゃんはいっつもそれだね」

 

律子『雪歩は伊織の打ち方を知っている。わかってても降りたってこと?』

 

P「ははは。まあ完成形とは言えないけど、あの形と早さならリーチもありだと思うぞ」

 

伊織「でしょう?悪形の安手でも、先が見込めないなら即リーチってのも戦略の一つなのよ」

 

P「リスクもあるが、相手と状況次第では有効な考え方だな」

 

雪歩「うふふ。それはそうなんですけどね、プロデューサー」

 

P「ん、妙にもったいぶった言い方だな。何か秘密でもあるのか?」

 

雪歩「伊織ちゃんって誰が相手でも突っかかっちゃう癖があるんです。それで対戦成績が上がらないことを悩んでいて」

 

伊織「ちょっ!な、なに言ってるのよ……あんたそれ、絶対に言わないでって何度も」

 

雪歩「伊織ちゃんも私の秘密を言っちゃったんだから、これでお相子だよ」

 

P「伊織は自分を貫こうとするからな。もちろん美点ではあるけれど、麻雀では実力が上の人には対応されそうでもある」

 

伊織「……随分なことをぬかしてくれるわね。そこまで言ったからには、きっちり勝ち切ってもらうわよ」

 

P「努力はする。が、麻雀の初対戦で初回の半荘を勝ち切るのは本当に難しいことなんだ。それだけはわかってくれ」

 

律子「実力が上なら可能性はかなり上がるんじゃないんですか?」

 

P「いや、初対戦の初回に限ってはどうだろうな。むしろ相性とか雀風の方が影響しそうな気もする」

 

律子「そうでしょうか」

 

P「俺の麻雀は特にな。単発でトップを取ることを目的とした麻雀じゃないから」

 

伊織「なんだかよくわからないけど、まあいいわ。ちゃんと打ってくれるならそれで勘弁してあげる」

 

P「ああ、約束する。気にいらなかったら、対局後にでも突っ込んでくれ」

 

伊織「ええ。気にいらないところはぜーんぶ問い詰めてやるんだから。にひひっ」

 

雪歩「なんだか伊織ちゃんの機嫌が良さそうだから、今のうちにリーチしちゃうね」

 

伊織「え、ちょっと!それで気分が悪くなったらどうしてくれんのよ」

 

雪歩「麻雀だから仕方がないんじゃないかな?」

 

律子『さて。さっきは流局で伊織の一人テンパイ。ほぼ点棒状況なしの東2局、13巡目リーチ』

 

 

〜雪歩の捨て牌〜

 

8南北九(1)発

東(3)7二五(7)

北←リーチ

 

 

 

 

律子『特に怪しいところもない、普通の棒テンに見えるわね。ドラが3ソウだからソウズの下が濃厚かな』

 

伊織「ああ。雪歩っぽい捨て牌だわ」

 

雪歩「伊織ちゃん?対局中はあんまりおしゃべりしちゃダメだよ」

 

伊織「今までもずっとしゃべってきたじゃないの」

 

律子『他には五マンのまたぎ、(7)ピンのまたぎ。次にあって(3)ピンのまたぎってところかしら』

 

P「雪歩が言ってるのは、局に影響するおしゃべりのことだろう」

 

雪歩「プロデューサーは対局マナーにも詳しいんですか?」

 

P「このくらいは常識だよ。おしゃべりで対局に影響を与えるのは、麻雀の求めるところじゃないからな」

 

雪歩「ですよねっ!そういうのはモノポリーとかでやってくださいって思いますっ!」

 

P「そうだな。でも、なんで雪歩はそんなに熱くなっているのかな?」

 

伊織「このあたりの悩みって、雪歩の中では根が深いのよ。私と麻雀で話すようになった切っ掛けでもあるし」

 

雪歩「だから伊織ちゃん。ダメだよ。合ってても違ってても、その一言でちょっとだけ麻雀がつまらなくなるんだから」

 

伊織「はいはい、わかったわよ。私が悪かった。もう言わないから」

 

P「にしても……ふーん」

 

律子『プロデューサーがやけに雪歩の捨て牌を見ているわね。別になんの変哲もないタンピン系だと思うけど』

 

伊織「ああもうっ!」

 

律子『伊織がツモ牌を見て伏せた?何かの癖かしら。で、捨て牌は一枚切れの東。トイツ落としで回った?』

 

雪歩「麻雀中の伊織ちゃんはいつも騒がしいね。感情もむき出しで、楽しんでる感じがするなあ」

 

伊織「なにそれ。ま、確かに今は苦しんでいる真っ最中だけどね。雪歩はいっつも余裕っぽくて羨ましいわ」

 

P「伊織と雪歩はそんなに打ってきたのか?事務所でもそんなに話している風でもなかったように見えたぞ」

 

伊織「そりゃあね。話す内容がアレだから、家に帰って電話やネットで話すようにしていたもの」

 

雪歩「ネットの麻雀ではよく一緒にやっていたんですよ。卓を囲んで打つのは、ほんとたまにですね」

 

伊織「なかなか中高生の遊びにつきあってくれる人なんていないのよ。しかもそれが麻雀ときたら」

 

雪歩「お弟子さんたちは露骨に接待してきますからね」

 

伊織「水瀬でもそう。ちゃんと打ってくれる人なんていなかったわ」

 

雪歩「新堂さんにはあり得ないくらい負けちゃったけどね」

 

伊織「あれはもう思い出させないでよ……」

 

P「新堂さんってそんなに強いのか。ぜひ一手、ご教示願いたいな」

 

伊織「それならまず、私たちに圧勝してもらわないとね」

 

雪歩「そんな伊織ちゃんも、まずはこの局をどうにかしないとね」

 

伊織「……」

 

P「雪歩が伊織をコテンパンにした場合、俺の立場はどうなるんだ?」

 

伊織「うるっさいわねっ!!あんたが!私に!勝ってみなさいって言ってんのよっ!!」

 

律子『伊織が一番うるさいじゃない……でもまあ、この局。私も悪くないから前に出たかったんだけど』

 

P「……」

 

伊織「……」

 

雪歩「……」

 

律子『安牌が増えない。しかもテンパっちゃったわね。ピンフドラドラ六・九万待ち』

 

律子「ちょっと、失礼します」

 

律子『うーん。雪歩の現物待ちで5800のダマ、親の連荘はメリットが大きいわね。まあこの牌なら通るでしょうから』

 

雪歩「あ、それロンです」

 

律子「……えっ?」

 

雪歩「メンピンドラ一。裏が一つで、えっと7700ってあるんですか?」

 

P「前回は切り上げ満貫にしたから、今回もそれでいいんじゃないか」

 

雪歩「じゃあ満貫です」

 

伊織「あーあ。やっぱりこれかあ」

 

律子『あ、伊織がずっと伏せていた牌。9ソウ……当たってる!?』

 

雪歩「その読み切った牌を裏返す癖、あんまりよくないよ」

 

伊織「私はただ、相手の当たり牌をつかんでしまう自分の弱さが許せないだけ。そんな牌は見ていたくないの」

 

雪歩「でも……」

 

律子「ねえ、ちょっと待って。なんで伊織はこの捨て牌で9ソウ待ちが読み切れるの?」

 

 

〜雪歩の捨て牌〜

 

8南北九(1)発

東(3)7二五(7)

北←リーチ 一南

 

 

〜雪歩の手〜

 

78(567)三四五七八九 西西

 

 

伊織「なんでって……ねえ律子。そんなの対局中に言えるわけないってこと、わかって言ってるんでしょうね?」

 

律子「そりゃわかってるけど。でもこれ一点で読み切れる牌じゃないでしょ?なのに」

 

雪歩「うーん。ひょっとしてですけど、律子さんってあんまり対人対局の経験がなかったりしますか?」

 

律子「えっ?いえ、回数はわからないけれどけっこう打ってきたつもりよ」

 

雪歩「じゃあ、うん。聞き方を変えますね。あんまり色んな人と打ってきていないんですか?」

 

律子「それは……ええ、そうね。対局する人はだいたい同じだった」

 

雪歩「じゃあ私の打ち方は理解できないかもしれません。たぶんですけど、あまり考えない方がいいと思います」

 

律子「でも、現実に通ると思った牌で満貫を打っちゃってるわけだから」

 

雪歩「効率や理論ではわからないと思います。この捨て牌での、6・9ソウ待ちは他の視点が必要だから」

 

伊織「そんなにたいしたもんじゃないんだけどね」

 

雪歩「今の律子さんはその視点がないようなので、ただの結果として次を考えた方がいいかと」

 

P「まあまあ、そのくらいにして。次に行こうじゃないか。律子も満貫を打ったくらいじゃあへこたれないだろう?」

 

律子「そりゃそうですが。でもこれ、私の麻雀にとっては致命的かもしれません……」

 

 

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(終局)

 

律子「いいとこなしだったわ……」

 

伊織「律子のおかげで楽に打てたけど、結果三着じゃあ納得いかないわねえ」

 

雪歩「うーん。点数的にはもうちょっとだったんですけど」

 

伊織「雪歩、その差は”埋まらない差”よ。勝ち切れるかどうかってのも麻雀の醍醐味なんだから」

 

P「とはいえ、そう楽に勝たせてもらったわけじゃないぞ。俺はいい勝負が出来たと思っている」

 

伊織「いい勝負を演出した、ってわけじゃないのね」

 

P「勝てと言われたからな。少しでも勝つ確率を上げられるように、きちんと打たせてもらった」

 

伊織「勝つと言われて素直に勝たせちゃうんだから、私たちって思っていたよりもヘボってことね」

 

P「いや、そんなことはないぞ。少なくとも伊織はちゃんと打てている。大人と比較しても遜色のない打ち方だ」

 

伊織「そう言われてもねえ。成績がこれじゃあ喜べないわよ」

 

P「仕方がないところがネックになっているんだと思うぞ。見たところ、経験と性格に難ありだ」

 

伊織「経験はわかるけど、性格に難ありってどういうことよっ!」

 

P「あ、いやそうじゃなくてだな。麻雀中は伊織の素の性格が出ているってことだ。普段よりも感情の起伏が大きいだろ?」

 

伊織「確かにちょっと変になっちゃうけど、それの何が悪いのよ」

 

P「状況変化で一喜一憂したら、状態が透けて見ているようなものだろ?そうなれば対戦相手は対応しやすい」

 

伊織「うっ」

 

雪歩「ほら、やっぱり。伊織ちゃんはもっと静かに打った方がいいよ」

 

伊織「で、でもっ!この方が、楽しいし…………みんなとおしゃべりもできるし」

 

P「そうだな。だから俺は、伊織の打ちたいように打てばいいと思うぞ」

 

伊織「でもこのままじゃあ全然勝てそうにないのよ。今のままじゃあいけないって思うから」

 

P「どうしても勝ちたいなら、まあ手はある」

 

伊織「あるのっ?!どんな手?」

 

P「アイドルの水瀬伊織か、社交界の水瀬家ご令嬢として打て。素じゃない伊織は強い。俺が保証する」

 

伊織「ちょっと!それじゃあ素の私が弱いみたいじゃない!納得いかないわっ!!」

 

P「伊織はまだ中学生じゃないか。中学生として麻雀で遊ぶなら、そりゃどうしたって大人には勝てない」

 

伊織「なんでよ」

 

P「子供だからだ。大人よりも思考が偏ってしまうから、麻雀で必須な多角的思考や考察ができないんだよ」

 

伊織「多角的な検討くらいやってるわよ。最低限の確率計算も効率的な思考もモノにしてるわ」

 

P「でもな伊織。それを半無意識でやっちゃうのが大人なんだ。伊織は頑張ってやっているだろ?だから他が疎かになる」

 

伊織「あ……」

 

P「麻雀を打っている時は、いつも以上にはしゃいでたぞ。頭をフル回転させているから、余裕がないんだろ?」

 

伊織「悪かったわねっ!」

 

P「悪いことなんてないぞ。ただ、あれが伊織の素直な姿なんだなあって思っていただけだよ」

 

雪歩「ふふ。麻雀をやっている時の伊織ちゃん、かわいいですよね」

 

伊織「あ、うう……」

 

P「まあそんなわけだから、どうしても隙が多い。だからアイドルか水瀬の伊織という仮面を用意しておくというわけだ」

 

伊織「そんなんで、強くなれるの?」

 

P「ああ。一番の欠点を本職で隠すんだから完璧さ。伊織の猫かぶりは半端じゃない。思考もクリアになるはずだ」

 

伊織「それ、褒めてんの?」

 

P「どうかな。なーに、すぐにそんなものは必要なくなる。伊織は器用なんだから、慣れればそれも必要なくなるさ」

 

伊織「……わかった。今度、試しにやってみる」

 

P「大丈夫だ、伊織。このまま成長すれば、俺なんてすぐにやっつけられるさ」

 

伊織「ふんっ!じゃあそのご期待通り、いつかあんたを追い抜いてやるんだから。首を洗って待ってなさい!にひひっ」

 

P「よし。その調子だ。ついでに聞くが、今日の俺の打ち方に不満はあったか?」

 

伊織「勝ってくれたんだからそれでいいわ……今日は楽しかった。また、お願いするわね」

 

P「ああ。俺も楽しみにしているぞ」

 

律子『私にはある。大きな不満、いえ。大きな疑問が……』

 

 

 

 

説明
伊織は全力で麻雀を楽しんでいるようです。

注:『一』は一マン、『1』は一ソウ、『(1)』は一ピンです
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アイドルマスター 水瀬伊織 秋月律子 萩原雪歩 アイマス 麻雀 

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