続・足りないよ、恋ちゃん |
それはとある日のことです。
「恋〜? どこだ〜?」
一刀が城内を歩いていました。今日は恋と一緒におやつを食べる約束です。現に一刀の腕の中には美味しそうな桃まんが入った紙袋がありました。
最初は一刀の自費で買おうと思っていたのですが、どういうわけか愛紗が買うのをかってでてくれたため、一刀の懐が痛むことなく大量の桃まんを買うことが出来ました。
その愛紗はどこか暗い笑みを浮かべながら『これで一緒』と怪しく呟いていましたが、一刀には意味が分かりません。
しかし、その肝心の恋が見えません。部屋に行っても誰も居らず、中庭を見てもその姿を見つけることは出来ませんでした。
頭を悩ましていると洗濯物を抱えて歩く月の姿が見えました。
「月、恋見なかった?」
「恋さんですか? さっき城壁の上で寝ているのを見ましたよ?」
「ありがと」
「いえ」
城壁に登ってみると恋が丸まって寝ているのが見えました。
スヤスヤとお昼寝する姿はとても心地良さそうで、起こすのが可哀想に感じるほどでした。
「恋〜?」
そっと声をかけてみますが、一向に起きる気配がありません。
それどころか、運が悪ければ頭と胴体がお別れをしてしまいます。しかし、一刀には力強い味方がいます。
「恋〜? 桃まん食べるんだろ〜」
「……食べる」
一刀の言葉は今度は恋の耳に届きました。
ムクリと起き上がると、眠たそうな瞳を桃まんの入った紙袋に向けていました。
「恋、おはよう」
「…………桃まん」
少し眠たげながらもしっかりと桃まんに視線を固定しているのは流石と言うべきでしょうか。
苦笑して桃まんを紙袋から一つ取りだすと、恋に差し出します。
「食べようか?」
「うん」
モグモグと城壁の上から街並を眺めながら桃まんを租借していきます。
一刀が一口食べるうちに、一つ食べ上げ。一刀が一口のみ込むうちに一つ食べ上げ。
二人で食べきれるのか、と思うほどあった桃まんを残すところ、残り一つです。
その残りの一個を見つめ、恋がオロオロしています。
桃まんと一刀の間を視線を行き来させ、懸命に何かを考えています。
「恋、最後の一個食べていいん――」
そこま言った口元に半分になった桃まんが差し出されました。
「半分こ……」
「ありがと」
差し出された桃まんを仲良く食べます。さっきまでの速度とは比べられないほどにゆっくりと食べ上げていきます。少しずつ、少しずつ。この時間が終わらないようにと。ゆっくり食べ進めていきます。しかし、所詮桃まん半分。すぐに食べ上げてしまいました。
「御馳走様」
「…………御馳走様」
どこか名残惜しそうに言う恋に一刀は話しかけました。
「恋、最後の一個、全部食べて良かったんだぞ?」
しかし、恋は首を横に振ります。
「ご主人様といっしょなら半分こ」
「でも一人だと一杯食べれるだろ?」
「一杯食べたらお腹も一杯になる。でも、ご主人様と一緒に一緒に食べたら胸が一杯になる。だから……一緒」
顔を染めて、真っ赤になりながら喋る姿は愛らしく、一刀の理性は一瞬で吹き飛んでしまいました。
「……〜〜〜!!! あ〜、恋は可愛いなぁ!」
そう言うと一刀はギュウ、と恋を抱きしめました。恋もなすがままです。それどころか、抱かれやすいようにかすかに一刀に寄りかかりました。勢いのまま、一刀が恋にキスをしようとした時、気付きました。
「あれ? 恋小さくなってる?」
「……(コテリ)?」
恋を抱きしめながら一刀は首を傾げます。感触が違う気がしたのです。最初の頃、抱きしめた時に比べると体にすっぽりと収まる感じがします。
「なんだろ、恋少し小さくなってる気が……」
「恋、小さくなった?」
「いや、流石にそんなことは……ああ」
少し悩んで気付きました。
「俺が大きくなったのか」
そう言えばここ最近、制服が少し窮屈になった気がします。
「ご主人様が大きくなった?」
「うん、多分ね」
「……ご主人様、嬉しそう」
「そうかな? うん、そうだね」
そう言うと一刀は改めて恋を抱きしめます。
「こうすると恋が腕の中におさまるからね」
一刀の腕の中の恋はとても三国無双と言われるような人物ではなく、ただの女の子にしか見えません。それが一刀は嬉しく思います。
武将呂布を守ることなんて出来ませんが、恋と言う女の子なら笑顔にして守ることぐらいは出来ると思えるからです。
ギュ、と抱きしめられ恋は嬉しそうに頬をゆるめました。
「ご主人様。大好き……」
「俺も恋のこと大好きだよ」
徐々に沈んでいく太陽を背景に二人の顔の距離が縮まって行き、最後は――。
キスを終えて、恋が顔を真っ赤に染めながら言いました。
「恋、もうちょっと大きくなる」
「どうして?」
「……ちゅ、しづらい」
「そっか。じゃあ、大きくなるの待ってるな」
その言葉を聞いて一刀はこっそりと笑い、恋をもう一度強く抱きしめました。
後日、恋が一刀の執務室に遊びに行こうかと、歩いていると東屋に見知った三人がいました。
「でしたらご主人様には……」
「で、でも朱里ちゃん。ご主人様驚かないかな?」
「へ、へぅ。私もご主人様が驚くようなことは……」
どうやら一刀について話し合っているようです。何となく、恋は近付いて行きました。
恋が近付くと朱里が声を上げました。
「あれ、恋さんどうしたんですか?」
「別に……」
その時、ふと昨日のことを思い出した月が恋に尋ねました。
「恋さん。昨日ご主人様には会えました?」
「……(コクリ)」
その時、恋の脳裏にある考えがよぎりました。
『恋、少し小さくなってる気が……』
と言う一刀の言葉が真実か尋ねてみようと。
もし、自分が小さくなっていたら頑張って大きくなる。ご主人様が大きくなってるならもっと大きなる。
ここに居るのは蜀の軍師だから、答えてくれるだろう。そう思い、さっそく尋ねました。
「……小さくなった?」
「はわっ!?」
「あうぅ」
「へうっ!?」
その言葉は三人に激震を走らせました。そして慌てて自分の胸元を見て、恋の胸を見て、絶望に打ちひしがれ、自分の身長を思い浮かべ、恋の身長を見て心が折れました。
恋としては何故、三人が打ちひしがれているのか分かりません。自分の身長が小さくなったかを聞いただけです。
「れ、恋さん? どうしてそんなことを?」
「ご主人様が言ってた」
「ご、ご主人様が……?」
「……抱きしめた時、小さくなったって」
その言葉に三人の顔が一瞬で真っ赤になり、そのまま青くなっていきます。
その光景を見てちょっと面白い。と恋は思いました。それくらいまでに顔色が変化したのです。
「で、でもご主人様。小さい方も……」
「そ、そうだよ。朱里ちゃん」
「で、ですよねっ! ご、ご主人様も小さいのも良いって言います」
どこか、縋るように言う三人の言葉を聞いて恋は首を横に振ります。
「ご主人様、大きい方が良いって言ってた」
「は、はわぁぁ」
「あ、あうぅぅ」
「へ、へぅぅぅ」
ズゥゥゥン、と卓を囲んでいた三人に重い雰囲気が漂います。もう、自己擁護出来る気がしない三人です。
三人の中で勝手な妄想が広がります。
『なぁ、恋。ここ最近朱里達の胸、小さくなってないか?』
『……分からない』
『そっか。……じゃあ、ここ最近背、ちぢんでない?』
『……分からない』
『そっか、分かんないか。でも、胸も背も恋ぐらいが丁度良いよな。(スリスリ)』
「〜♪〜〜♪〜〜〜♪』
そんな場面を想像してしまい、朱里達はもう、動きたくないとばかりに机に突っ伏してしまいました。
しかし、恋としては自分の答えを貰っていません。
ただ、感じから身長が小さいのは思いのほか悪いことらしい。それだけ分かりました。
やはり、大きくなった方が良い。そう言う結論に達しました。
「……もっと大きくなる」
「!!?? れ、恋さん。それ以上大きくするって、どこまでですか!?」
恋の言葉にうつ伏していた朱里が机を叩いて起き上がって叫びました。もう、信じられない。と言わんばかりです。
「? ご主人様が困らないぐらい?」
「そ、その大きさで、困る……?」
「しゅ、朱里ちゃん…………」
「へ、へう……………………」
もはや呆然とするしかない三人に恋は首を傾けながらも、固まってしまっては仕方がありません。恋は一刀の所に遊びに行こうと立ち去りました。
後日、中庭には懸命に青龍偃月刀を振るう少女と。
「あの胸の大きさはきっとたくさん物を食べているからだよ!」
「朱里ちゃん。その後、すぐに寝るのも大切かも」
「そして動くんですよね」
と言いつつ、桃まんを懸命に食べている三人の女の子の姿があり。
「何やってるんだ?」
「……(パクパクパク)」
そんな二組を見ながら仲良くのんびりと寝転んでいる二人の姿もありましたとさ。
どうも、友人に『お前の作品はツリアス。シリアスと言って釣るから、ツリアスだよ』と言われたくらのです。納得がいいきません。
友人の目は節穴のようです。
さて、今回も微妙にシリアスです。どうでしたか? 軽い話で少し薄いですが、楽しんでいただけたなら嬉しいです。
それでは、また。See you next again!
説明 | ||
お早い投稿です。今回は軽くて、薄い話です。お楽しみください。 | ||
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コメント | ||
こ、このままではいずれも取り返しのつかないことに・・・既になってる気も(汗)(海平?) 「どういうことですか」って、一刀に聞きに行けよ。 三人共さ〜。(劉邦柾棟) 勘違いとすれ違いでとんでもない事にwwww(アサシン) 愛紗が病んでるw(semi) ツリアス・・・新しいな・・w(yutapi) どこが?作品はとても面白かったです。(kasuta) |
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