ほんわかホットケーキ |
「そっち、行っていい?」
隣り合う窓をコンコンたたくと、カチャリと鍵の外れる音がして、不機嫌そうな顔が覗いた。
でも、これが無愛想な彼の素顔。
私だけがわかる、了承してる顔。
昔から隣に住んでる、いわゆる幼なじみの彼とは、この窓を通して行ったりきたりする仲。
最近は私の押し掛けばっかりだけど。
「ホットケーキ焼いたんだ。食べない?」
窓から窓へ移動する。
昔からのことだから手慣れたものだ。
「何かあったのか?」
机にホットケーキの皿を置くと、低い声が聞いた。
「何もないよ」
ははは、と笑ってごまかす。
ないわけでもないんだけど。
「あんたたちってなんなの?」
友達に言われて、私も困った。
幼なじみ。
それだけ。
今や空気みたいな存在だ。
「何言ってんの、付き合ってもいないのに倦怠期みたいじゃない」
空気が倦怠期? 悪いことだろうか。
だって、空気がないと人は生きていけない。
一番近くて、一番大切なものじゃない。
じゃあ、彼にとっての私はなんだろう。
ただの隣人?
「おいしい?」
一口ホットケーキを口に入れた彼を見て、聞いてみる。
「ああ」
なんだ、それだけ?
私は、思わず彼の頬を両側にひっぱった。
「たまには『おいしい』とか『いい嫁になれる』とか気の利いた言葉はないの?」
「…これでいい嫁?」
言い返されて、言葉に詰まる。
確かに、ホットケーキ以外は作れないけど…
「でも、子供の頃はほめてくれたでしょ」
「俺はもう、子供じゃない。いい加減、こっちに乗り込んでくるのも卒業しろよ」
頬の手をはねられて、拒絶された、と思った。
――そっか。もう、昔みたいにはいられないのか。
幼なじみって、不公平だ。
情けないところばかり見られてきて、取り繕う時間もないじゃない。
今さら女として見てもらいたいなんて。
意識しだしたのは、彼を好きだという子が増えてきたころからだったと思う。
かっこいいよね。
そんな言葉に首をかしげた。
でも、好きだという気持ちはわかる。
すごくいいやつだってことは、誰よりも知ってるから。
ただ、かっこいいってだけで好きなんて、許せない。
口数は少ないけど、悲しいときは励ましてくれて
困ってるときは助けてくれて
嬉しいときは一緒に笑ってくれて
そこが、彼のいいとこなんだから。
いつか、そんなところもわかった上で好きになる子がでてくるんだろうか。
彼もそんな子に恋してしまうんだろうか。
でも、私は――
「私は…もっと、一緒にいたいから…」
ホットケーキなんて、口実に過ぎない。
ふと、彼の手が私の頬に触れた。
こんなに大きかったっけ?
引っ張っていった手は私より小さかったはずなのに。
突然、口をふさがれた。
彼の顔で視界もふさがれる。
おかしいな。
彼のせいで
息ができないのに
やっぱり、彼は、私の空気だなんて。
しばらくして、離れた彼。
強い瞳から目が離せない。
そんな彼がかっこいいという女の子たちの言葉に初めて納得できた気がする。
甘い名残に、軽くめまいを感じた。
「…謝らない、からな」
目を逸らした彼の、ほんのり赤い頬。
ホットケーキみたいにやわらかそうで、もう一度触れたい、と思った。
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幼なじみのほのぼの恋愛ショートです。 | ||
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コメント | ||
二人とも、もう少し素直にね。でも丁度いい感じなのかな。(華詩) | ||
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