真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三??†無双』其の四十三 本編 |
第二章 『三??†無双』 其の四十三 本編
房都 北面城壁 (時報:桂花六人目 妊娠五ヶ月)
【緑一刀turn】
雲ひとつ無い西の空が、朱く染まり始める。
立春を過ぎ暦の上では春になったが、房都はまだまだ寒かった。
乾いた寒風が城壁の上に居る俺たちに吹き付け、頭と体を冷やして行く。
昼前にねねが無事に出産を終えて、((音音|ねおん))が生まれたばかりだ。
夕暮れが近い今、ねねと音音は揃って医務室の寝台の上で静かな眠りの中にいる。
俺たち三人はその可愛い寝顔を眺めていたのだが、いつの間にか音々さんの姿が見えない事に気が付いた。
さっきまでは初孫の誕生にはしゃいでいたのに・・・・・ただ単にお手洗いに立っただけなのかもしれないが、何故か気になった。
ねねと音音の事を恋と恋々に任せ、俺たちはその場を離れ音々さんを探しに医務室を後にした。
目撃情報を辿って着いた先が今居る北側の城壁の上。
音々さんはここで北方に連なる山を眺めていた。
この山々の向こう。北東には洛陽。北西には長安があり、更にそのずっと向こうには涼州隴西郡がある。
((董雅|とうが))さんと((董陽|とうよう))さんがねねの出産に合わせ、現在こちらに向かっている途中だ。
二人の到着より先に音音が生まれてしまったので、お二人はきっと悔しがるだろうな。
今度こそ生まれる時を一緒に祝いたいと言っていたのに。
音々さんはそんな二人に頭を下げに来たのかも知れない。
音々さんと董雅さんは友人であって、家臣と主では無いと言っていた。
飽くまでも客将として留まっていたそうなのだ。
音々さんと董雅さんの関係は、俺たちと華佗の関係に近いんじゃないだろうか。
友の為に力を貸し続ける・・・・・俺たちも音々さんと董雅さんを見習って行きたい。
あれ?・・・音々さんの向いているのって北東の方角だよな・・・?
それに城壁の石の上に何か置いてある。
あの木の札は・・・・・位牌だ・・・。
「・・・・・あなたの娘の音々音が無事に出産を終えました。しかも帝のお子をです。そちらで自慢しまくってやりなさい♪」
風下に居た俺たちには音々さんの呟いた声がしっかり届いてしまった。
「あなたの血をまたひとつ後世に残す事が出来ました・・・・・・・・ほめて・・・くれますか・・・」
音々さんの目元から光る物が流れている。
その口元は笑みを崩すまいと堪えているのが俺たちにも分かった。
本当ならばここは見なかった事にして立ち去らなければいけない処だ。
しかし俺たち三人は、朱に染まり始めた世界に立つ音々さんから目が離せなかった。
そのまま数分間、時間だけが流れて往く。
先に動いたのは音々さんだった。
涙を拭った音々さんが静かに俺たちを振り向く。
その顔の微かな笑は無理に作った物では無かった。
「立ち去られるか、お声を掛けて下さるかと思ったのですが・・・・・わたくしの方が根負けしてしまいました♪」
「「「ええっと・・・・・・ごめんなさい。つい見とれちゃって・・・・・」」」
「位牌を前に涙を流す女を口説かれるとは、一刀さま方の趣味もまた一段上がられた様ですね♪」
場を和ませようと冗談を言っているのは解る・・・・・だけど・・・。
「「「今は全面的に俺たちに非が有るから、何を言われても反論しません・・・・・あの・・・その位牌はやっぱり・・・・・」」」
「はい。音々音の父親・・・・・・わたくしの夫だった者です。」
さっきの呟きで判ってはいたけど、面と向かって言われるとやはり動揺する。
「「「あの・・・俺たちも手を合わせていいですか?」」」
その言葉は自然と出て来た。
ねねの父親ならば挨拶はしておきたい。
「はい・・・・・ありがとうございます・・・」
音々さんは静かに動いて位牌の前を開けてくれた。
俺たちは無言で位牌に手を合わせる。
「寝取った相手に勝利宣言をなさるお気持ちはいかがですか?」
「「「・・・・・・・お願いだから勘弁してください・・・・・」」」
「冗談ですよ♪一刀さまを誘惑したのはわたくしですし・・・・・・・戻りましょう。冷えて来ましたから一刀さまたちがお風邪を召してしまいます。」
音々さんに促され歩き出す。
そして音々さんはまた、呟く様に話し始めた。
「わたくしは?州の東郡武陽県出身です。音々音が生まれたのも、この人が死んだのもそこでした。」
そこは陳留から黄河を少し下った場所だった。
「「「それで北東を向いていたんですね・・・・・」」」
「はい・・・・・わたくしの話を・・・聞いて頂けますか?」
俺たちは頷き、歩きながら音々さんの話を聞いた。
【音々turn】
?州東郡武陽県。
そこでわたくしは生まれ、育ち、あの人と出会い、結婚し、音々音を産みました。
あの人は武官でわたくしは文官。
お互い駆け出しの若造と小娘でした。
在るのは将来への夢と希望のみ。お金も人脈も有りませんでしたが、あの人の武勇とわたくしの学んだ知識があれば、必ず道が拓けると信じていました。
ですが・・・・・その夢はあっさりと消え去りました・・・・・。
「陳越さん!あんたの旦那さんが盗賊に襲われたっ!!」
「え?・・・・・」
それはあの人の帰りを待って、夕飯を作っている最中でした。
あの人が街の外を見回り中だったそうです。
音々音が三歳になり、わたくしが再び文官として務め出した矢先の事でした。
わたくしは悲嘆に暮れ、喪に服し、これからどうしたら良いのか悩んでいる時。
武陽県の県令の男が訪ねて来ました。
「ワシの所に来ればイイ思いをさせてやるぞ。」
その下卑た笑いに全てを悟りました。
あの人はこの男に謀殺されたのだと。
わたくしはその男の股間を蹴り上げ、気を失った隙に音々音を連れて武陽県から逃げ出しました。
持ち出せたのは僅かな蓄えと位牌のみでした。
走って逃げては女の足では直ぐに追いつかれる。
船着き場で黄河を下る船がないか聞いて回り、青州の平原に向かう船に乗り込みました。
そして直ぐに隣の洛陽に向かう船に乗り移り、音々音と共に身を隠しました。
「(あなた・・・・・わたくしと音々音を守って!)」
((筵|むしろ))の下で音々音を庇うように抱き、((白木|しらき))の位牌を握り締めてわたくしはひたすらに祈りました。
わたくしの策はうまく行き、追っ手は全て東に向かって行きました。
追っ手を撒いて洛陽に着いたわたくしは路銀を稼ぐ為、酒家で給仕の仕事をしました。
洛陽の都は人の出入りが激しく、人口も多い。
わたくしの様な母娘が流れて来るのも珍しく有りません。武陽県の追っ手程度ではまず見つけられない確信が有りました。
一年間酒家で住み込みをさせてもらい、音々音も育てました。
お金も貯まりましたが、それ以上に様々な情報が給仕の最中に得られました。
お客は農民、漁師、行商人、兵隊、役人と様々です。
酒が入れば口も軽くなり、色々な情報が飛び交いました。
十常侍の専横が囁かれ始めた頃に、わたくしは危機感を覚え洛陽を出ました。
目指したのは涼州の奥地、敦煌。
商隊の一行に同行させてもらい、西を目指しました。
ですがその途中、今度は本物の盗賊にわたくし達が襲われました。
こんな所では死ねない!あの人が残したこの子を何としても守らなければ!
自分の操を餌にしてでも音々音を守ろうと覚悟しました。
あの県令から身を守る為に逃げ出したというのに、結局は獣の様な男達にこの身を差し出すのかと、心の中で自嘲してしまいました。
懐の白木の位牌に手を当てて機会を伺います。
「なんだ!?ガキかよっ!!」
「ガキでも女なら売れんだろ!傷つけんなよ!値が下がる!!」
どうやらわたくしを子供と勘違いしてくれたみたいでした。
この時は低い背と薄い胸に感謝しました。
「オレこういうのも好きなんだけどなぁ・・・」
「しょうがねえ野郎だな、大事に扱えよ。」
甘かった・・・・・こんな奴は何処にでも居るのか・・・・・。
髭面の汚い男の手がわたくしに伸びてきました・・・・・ですが、その手が途中で止まりました。
「・・・・・・・・・・・おまえら死ね。」
それは女の子の声でした。
わたくしに迫っていた男が突然横に吹き飛び、その背中から血を吹き出し動かなくなりました。
開けた視界に映ったのは、((戟|げき))を構えた赤い髪の女の子でした。
「なんだこのガキっ!!どこから湧きやがったっ!!」
女の子はうるさい蠅でも追い払う様に、軽く何度か戟を振り回しただけで残っていた盗賊全てを殺してしまいました。
「・・・・・・このゴハン、もらっていい?」
女の子は商隊の荷物を指差して、わたくしに訊いてきました。
突然の出来事にわたくしは黙って頷く事しか出来ませんでした。
女の子はわたくしが頷くのを確認すると、食料を積んだ荷車を引いて行ってしまいました。
わたくしは位牌を握り締め、心の中で呟きました。
あなたがあの女の子を呼んでくれたのですか?
わたくしと音々音は生き残った商隊の人達と近くの街に避難しました。
そこが董雅殿と((日|りい))ちゃん・・・董陽ちゃんの治める隴西郡でした。
「誠に申し訳ない・・・・・盗賊すらまともに討伐出来ず、この様な事態を招いてしまいました・・・」
こんな事を本気で言う太守に初めて出会いました。
商隊が盗賊に襲われるのは自己責任です。
その為に私兵を雇い、他の行商人達と隊を組んで移動するのですから。
「こんな姉妹まで・・・・・どうだね、身寄りが居ないならこの屋敷で暮らさないかな?」
「何を仰っているのです、あなた。こちらはこの子のお母さんですよ。」
「え!?この娘さんが母親!?」
「うちの人が失礼致しました。私にも娘が居るから分かりましたよ♪ご苦労なさっていらしたんですね・・・・・」
わたくしの手を取った日ちゃんは、荒れた手を優しく包み込んでくれました。
わたくしはその日から隴西郡で働き始めました。
日ちゃんとは直ぐに仲良くなり、真名を交換し合いました。
その頃の隴西郡は周りの国や五胡、盗賊と敵だらけでした。
わたくしは内政と軍事、子供達の教師と多忙ですが充実した日々を過ごしました。
月ちゃんに詠ちゃん、阿猫ちゃんとみんな良い子でした♪
阿猫ちゃんの武勇が守りの要でしたが、やはり武将の数が足りません。
あの時の赤い髪の女の子。
あの子が味方になってくれたならと、情報収集と探索を始めました。
あれだけの武勇、どこかに仕官したなら噂になる筈なのにまるで聞こえてこない。
あの子はどこかひとりで暮らしているのかも知れない。
再び会えたのはあの時から半年後でした。
「母上!母上!この方がまた、ねねを助けてくれたのです♪」
あの女の子を音々音が連れて来た時は本当に驚きました。
「この方は呂布奉先どのとおっしゃるのです♪」
音々音に手を引かれ、肩にはあの戟を担ぎ、その戟には大きな猪が吊るされていました。
何でも、音々音が山に木の実を獲りに行ったら、この猪に襲われそうになったそうです。
そこに呂布ちゃんが現れて助けてくれたとの事でした。
「音々音!ひとりで街から出てはいけないといつも言っているのですっ!!」
「うぅ・・・ごめんなさいなのです・・・・・」
探究心と負けん気が強い所為か、たまにひとりでどこかに行ってしまう事があります。
それでいてこうして怒ると、その時だけは反省するのですから困ったモノです。
「今日の所は呂布ちゃんに免じて許してあげます。呂布ちゃん、本当にありがとうなのです。呂布ちゃんに救われたのはこれで二度目ですね。」
「・・・・・・・・・んん?」
首を捻っている所を見ると覚えていないみたいです。
「半年前に商隊を襲った盗賊を斃してくれましたね。その時に呂布ちゃんはわたくしにゴハンを貰っていいか訊きました。わたしが頷くと呂布ちゃんは荷車を引いて行っちゃいましたね♪」
わたくしの話を聞いて呂布ちゃんは目を見開いていました。
「・・・・・・思い出した。あの時の・・・」
「そうです♪わたくし名前は陳越。呂布ちゃんは二度も娘の陳宮を救ってくれた恩人です。わたくしの事は音々と真名で呼んで下さい♪」
「いいの?」
呂布ちゃんは顔を赤くして少し興奮しているみたいでした。
「音々音も!呂布どの!ねねの真名は音々音というのです!」
音々音はすっかり呂布ちゃんに心酔してしまったみたいですね♪
「恋・・・・・・恋って呼んで・・・」
「それが真名なのですね、恋ちゃん♪」
「うん♪」
「恋どのですな♪では母上!恋どのにゴハンをごちそうしてほしいのです!助けてもらったお礼に約束したのです♪」
あれだけの武をわたくしの料理程度で手に入れられるなんて、こんな安い買い物はありません♪
それとも、やはりあなたが恋ちゃんを音々音に会わせてくれたのですか?
意外に高い買い物だった気もしてきました・・・・・・。
あなた・・・・・一騎当千にはそれなりの代価が必要ということですね。
「なんやぁ?この張文遠に喧嘩売ろうなんざ百年早いで!」
この子が最近、近隣の国で揉め事を起こしている張遼文遠ですか。
街の入口で騒ぎが起きそうだと言うからもしやと思い来てみれば。
手ぐすね引いて待っていたですよぅ♪
「一体何が有ったのですか!?」
まあ、ここはとぼけておくのです。
「これは陳越様!我々はこの流れ者に、この街に来た目的を問い質しただけです!」
「こちらの兵はこう言ってますが?」
「なんや?ちびっ子に用は無い。上のモン連れてきい!」
中々に荒んだ感じの子ですね。わたくしの話は聞く気なしですか。
でも、そうはいきませんよ。
「おやおや、歳上に対する礼儀がなってませんね。これでもわたくしは貴女より十歳以上は歳上なのですよ。張遼文遠殿♪」
「はああ!?全然見えへんわ!」
ふっふっふ♪しっかり食い付きましたね。やはりまだまだ青いですね♪
「わたくしには五歳になる娘がおりますし、わたくしは客将ですが、このわたくしより上の方は太守殿ご夫妻しかおりません。話を聞くのに不足とは思えませんが?」
わたくしが真面目な顔で言うと、本気で戸惑い始めました。
「え、ええと・・・・・なあ、そこのあんちゃん。ホンマなんか?」
「本当だ!陳越様は政務と軍務、双方で太守様を助けておられる軍師様だ!」
おや?腕を組んで考え込み始めましたね。
ですが、ここはそんな暇与えませんよ。
「きさまかあああああああっ!董卓様を狙ってきた盗賊というのはっ!この猛将華雄が居る限り!董卓様には指一本触れさせんっ!!」
計算通り、丁度いい感じに阿猫ちゃんがやって来ました♪
「な、なんやあいつ?」
「あ〜、すみません。うちで飼ってる猪が暴れだしちゃいました。ちょっと捕まえるの手伝って貰えますか?」
「はあ!?」
「上手く捕まえられたら、太守殿に会える様に取り計らってあげますよ♪」
「・・・ははぁ・・・そういう魂胆かいな・・・オモロイ♪いっちょやったろやないか♪」
文遠ちゃんが構えた武器は偃月刀でした。
阿猫ちゃんの戦斧をどう凌ぐか見ものですねぇ♪
実はこの時、わたくしは張遼文遠がどういう人物か調べて有りました。
ひと月ほど前からその名を耳にする様になり、気になったものですから。
判ったのはこの子が恋ちゃんと同じ并州出身である事。
そしてわたくしや恋ちゃんと同じ様に、故郷を出なければならなくなった事。
この子も自分の居場所を求めてここまで流れ着いたのです。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!」
「そうりゃあああっ!そないな力押しだけやったらウチには通用せんでえ♪」
阿猫ちゃんとこれだけ楽しそうにじゃれ合えるなら問題無いでしょう。
董雅殿と日ちゃんならこの子の凍てついた心も溶かしてくれるに違いありません♪
油断しました・・・・・・まさか十常侍の張譲が自ら乗り込んで来ようとは!
詠ちゃんに音々音、霞ちゃんの知恵があれば大抵の事は大丈夫だと思っていました。
しかし、十常侍の様な妖怪どもの相手は流石にまだ早過ぎでした。
今は阿猫ちゃんと恋ちゃんと霞ちゃんの武勇、そして恋ちゃんの勘が頼りです!
黄巾の乱に終結が見え始めた頃・・・・・わたくしが居てはあの子達の成長の妨げになると思い、わたくしはひとりで隴西郡に戻ってしまいました・・・・・。
張譲はそれを待っていたのでしょう。
洛陽に入った月ちゃんが丞相を名乗り、暴政を行っているという噂が聞こえてきます・・・。
あの子達がこれまで頑張って築き上げたてきた『民の為の軍隊』も『信頼』も『名誉』も、全てが十常侍共に奪われ、汚され、踏み躙られていく。
今直ぐにでも洛陽に飛んで行きたい!
ですが、今わたくしがここを離れればこの隴西郡は諸侯に押し潰されてしまうでしょう。
あの子達の帰る場所を・・・・・ようやく手に入れたこの場所を守らねば。
あなた・・・・・音々音を守って下さい・・・。
わたくしはまた・・・位牌を握り締めました。
今の私には祈る事しか出来ません。
悪い噂は日に日に大きくなって行きました。
十常侍の対抗勢力だった大将軍何進が暗殺されたという情報も飛び込んで来ました。
そして遂に袁紹から諸侯へ檄文が・・・・・。
その直後に十常侍誅殺の報が入りましたが・・・手遅れです。
既に諸侯が動き出し、あの子達を攻める為に集結しつつ有ります。
西涼の錦馬超すら参戦する為にこの国の横を通過して行きました。
唯一の救いは誰も『董卓』の姿を知らない事。
檄文と共に世に広められた姿絵は、性別も違えば、その姿はとても人間とは思えない物でした。
わたくしはそこに一縷の望みを賭け、あの子達に隴西郡への脱出を促す手紙を、早馬に届けさせました。
しかし・・・・・わたくしの手紙が届く前に董卓誅滅の報が聞こえて来ました。
早すぎる・・・・・連合軍が水関と虎牢関を抜く順路を取って、恋ちゃん、霞ちゃん、阿猫ちゃんが居るのに、この進撃の早さは何なのです!?
そして次に届いた噂は驚くべきものでした。
『飛将軍呂布が天の御遣いにひと目で平伏した』
あの恋ちゃんが!?
それに『天の御遣い』・・・・・こちらも噂は黄巾の乱の頃から聞いてはいました。
それがここで関係してくるとは夢にも思いませんでした。
更に霞ちゃんが曹操に降り、阿猫ちゃんは行方不明という噂も入って来ました。
音々音は・・・・・恋ちゃんと一緒らしいという報告が入りました。
しかしあの子達が月ちゃんと詠ちゃんを見捨てて敵に降るなんて考えられません。
噂通り恋ちゃんが『天の御遣い』に自ら降ったのなら、それは月ちゃんと詠ちゃんを守る為ではないでしょうか?
そうです!先日も恋ちゃんの勘を頼ると願ったではないですか!
ここは大至急『天の御遣い』と呼ばれる人物の情報を集めるのです!
情報その物は次々と入って来ました。
『天の御遣い。その名を北郷一刀と云い、占い師菅輅の予言の通り流星と共にこの地に舞い降りる。この大陸の未曽有の災厄を払う為、その身を三柱に分け劉玄徳、曹孟徳、孫伯符と共にその力を奮わん。』
『天の御遣い北郷一刀。その身を白く輝く天の衣ぽりえすてるに包み、弱きを佐け悪しきを挫く。』
何とも胡散臭いですが、劉備殿の所に音々音と恋ちゃん、曹操殿の所に霞ちゃんが降っています。
連合の頃から密かに同盟を結んでいたとすれば、月ちゃんと詠ちゃんを救い出す事が出来そうです。
「太守殿!日ちゃん!月ちゃんと詠ちゃんはきっと生きています!ほとんどの兵が劉備軍と曹操軍に降った事も、それで納得が行くのです!」
わたくしは急ぎ、そう伝えました。
この二人がどれだけ悲しみ、苦しんでいるか・・・それを少しでも早く除いてあげたかったのです。
しかし、二人の反応はわたくしの期待とは違う物でした。
「・・・音々殿・・・月は・・・董卓は死んだのだ。」
「ですからそれは偽装の可能性が!」
「ありがとう、音々ちゃん・・・でも、いいの。『董卓』が死んだ事で戦乱が治まるのなら・・・董卓が生きていては、また民が苦しみます・・・・・」
この二人は・・・・・どれだけ自分を犠牲にしても民を守ると言うのですか・・・・・。
ならば、わたくしは二人の友人としてその意を汲んだ上で、大きなお世話をさせて貰うのです!
わたくしは更に情報を集めました。
『チOコ将軍』『チOコ太守』『空から降ってきたチOコ野郎』
かなり心配になってきました・・・・・・。
東から、袁紹が并州を併呑した後、青州に攻め込んだという報が届いた頃。
西から、五胡の羌と?が侵攻しているという報も届きました。
五湖が国境を越えてくるのはよく有る事でしたが、この時は今までと違いました。
今までにない程の軍勢で攻め込み、西涼の馬騰殿が既に倒れたという情報まで入ってきました。
「音々殿!街の民に荷物をまとめて避難する様に指示を出してくれ!」
董雅殿の決断は早かった。
現在の隴西郡は孤立無援。
戦力も五胡の大軍相手では防ぎきれないのは火を見るより明らかでした。
「しかし太守殿!それではあの子達の帰る場所が・・・」
わたくしはその事の方が心を占めてしまっていました。
「音々殿!あの子達は新しき主を見出した!辛いだろうが子離れの時が来たのだ!」
董雅殿の言葉にわたくしは目が覚めた思いでした。
「解りました・・・・・避難先はどちらになさいますか?」
「山に逃げ込みやり過ごすか・・・それとも黄河を下るか・・・」
「わたくしは東に向かうのがよろしいと思います。」
「やはり山に逃げ込んだ位では無駄か・・・」
「いえ、奴らは騎馬民族です。山に入るのは良い考えです。黄河を下ると仰いましたが、住民全てとその財産を積めるだけの船は調達出来ないでしょう。それに船は官軍が迎撃の為にほとんど接収してしまうでしょうから。」
「ならば陸路か。平地ではそれこそ五湖に取り囲まれて襲われる・・・・・成程、山道を使うか。」
「それも黄河の南の山に入るべきです。北の山では匈奴が待ち構えているでしょう。」
「今回の侵攻に匈奴は参戦していないが・・・・・のこのこやって来る難民を襲うのは別と云う事か・・・・・」
「はい。黄河の渡し舟くらいなら雇うことは可能でしょう。時間は掛かりますが、先ずは長安、そこで駄目なら洛陽。更に?州の武陽まで視野に入れておけばまず大丈夫でしょう。」
「音々殿・・・・・そこは・・・」
「大丈夫ですよ♪例の県令は様々な悪事が露呈して、曹操殿に処刑されておりますからご安心ください♪」
あの人の仇を取ってくれたのですから、機会があればお礼を申し上げたいものですね。
「では民の準備が出来次第逃げ出すとするか♪」
「わたくしは逃げる方が得意ですからな♪お任せを♪」
近隣の国から董雅殿は臆病者、卑怯者と罵られるでしょう。
しかし董雅殿も日ちゃんも、民が無事ならその言葉も賛辞や勲章と受け取る事でしょう。
脱出は今の所順調です。
最初の目的地、長安までは来ることが出来ました。
しかしここでまた驚く情報が入りました。
漢王室が羌の暗殺部隊によって滅ぼされたと。
その暗殺部隊は曹操軍によって排除され、洛陽は今、曹操軍の管理下に在るそうです。
曹操殿は魏王を名乗り、漢王室の弔い合戦として羌の迎撃に出陣。
この長安も越えて西に向かっています。
「ほほう、涼州の隴西郡から落ち延びて来られたのですか。」
魏の軍師のひとりが長安に居ました。
この子は手強そうですね。見た目からして堅物の印象が有ります。
地名と董雅殿の名を聞いて眉が動きました。
わたくしの読みが間違っていなければ、保護を求める事が出来る筈です。
「出来ましたらこの長安を出立して貰えないでしょうか?」
「そ、それは・・・・・」
わたくしの読みは甘かったのでしょうか!?
「洛陽は現在我々が残してきた守備部隊だけで、ほぼ無人と言っても過言では有りません。これから避難民はもっと増えるでしょう。董雅殿にはその受け入れの指揮を洛陽でしていただきたい。」
これはまた・・・・・確かに考えが甘かったです・・・逆の意味で♪
しかし董雅殿が納得されていない様子です。
「郭嘉殿。私の娘はあの」
「董雅殿!それを仰ってはいけません!貴殿は民を思い、真っ先に脱出を決断されました。そのご英断を見込んでお願いするのです。避難民の為に引き受けて頂けませんか?」
こう言われては董雅殿は断れないでしょう。
僅かの会話で董雅殿の性格を見抜いたのか、それともその下地となる情報を持っていたと云う事です。
「陳越殿、出来れば貴女にはお見せしたい物がございます。戦場に向かう事になりますが、如何でしょう?」
戦場・・・つまり来た道を引き返す事になる訳です。
董雅殿と日ちゃんの手伝いをするべきなのでしょうが、わたくしが見て、確認してくる事がこの二人の為になる筈です。
わたくしは戦場となっている臨渭の近くで望遠鏡を覗いていました。
魏軍の中に霞ちゃんの旗が見えます。
そして山側から現れた援軍に深紅の呂旗と陳の旗・・・・・・黄巾討伐の時から見慣れた旗をわたくしが見間違える筈ありません・・・・・。
よくぞ無事でいてくれました。
そして文字の無い旗が二つ。
ひとつは狼?・・・・・いえ、あれは手の形、デコピンですか。そこに眼鏡の意匠。
その横に在る旗には三日月・・・・・間違い有りません!
あれは月ちゃんと詠ちゃんの旗です!
涙で曇る視界を拭い、その光景を瞼の裏に刻み付けます。
良かった・・・・・ほんとうに生きていてくれた・・・・・。
「あの十文字旗が天の御遣い様の旗ですね。」
「ええ、三人の天の御遣いのひとり。我らが紫一刀殿と呼ぶ方の旗です。」
「・・・・・・戦乱が治まりましたら、曹操様と御遣い様に必ずご挨拶に参ります。わたくしは今から洛陽へ向かいます。」
「お会いにならないのですか!?」
「今は生きている事が確認出来ただけで充分です。お預けした避難民の人別帳をあの子達に見せて頂ければ、あの子達なら察してくれるでしょう。」
董雅殿の言う通り、子離れの時なのですね・・・・・あなた。
懐に忍ばせた位牌に手を添えます。
白木で出来た位牌もすっかり汚れて茶色くなってしまいました。
今は護衛に付いて来てくれた兵と共に洛陽を目指しましょう。
ですが、わたくしの目には、洛陽の更に東。
武陽県の懐かしい・・・・・ささやかな幸せを過ごした日々が思い出されていました。
【音々turn】
「あれからはひたすら仕事に打ち込む毎日でしたね。隴西郡に戻っても復興の為に我を忘れて働きましたよ♪」
わたくしの長い話を聞いてくださった三人の一刀さまたちは、済まなそうにしていました。
「「「あの時もっと資金と物資をお届けしたかったんですけど・・・・・」」」
「董雅殿が頑固に断り続けましたからな♪それでも恋ちゃんが懐妊した頃から妙にそわそわし始めたのですよ。」
「「「あの董雅さんが?」」」
「わたくしも長い付き合いになりましたから。それくらいは見抜ける様になりました♪一刀さまたちがあの子達の近況を手紙で伝え続けて下さったでしょう。あの手紙を董雅殿はいつも楽しみに待っていたのですよ。勿論、日ちゃんとわたくしも♪」
「「「汚い文字でスイマセン・・・」」」
「中々味があって良い((文|ふみ))でしたよ♪全て大事に保管してあります♪」
「「「うわ!恥ずかしいなぁ!」」」
本気で照れている所が可愛らしいのですよね、この方たちは♪
「さて、日も暮れてしまいましたし・・・」
部屋の中は話をしている最中に灯した数個の燭台で照らされています。
「「「ああ、そうですね。一度ねねと音音の様子を見に行きますか。」」」
「何を仰っているのです?夜は男と女の時間ですよ♪」
「「「へ!?」」」
「こんな時間にわたくしの部屋にいて下さるのですから期待してましたのに・・・・・」
紫苑ちゃんだって露柴ちゃんと崔莉ちゃんを授かっているのですから、負けていられませんよ!
十ヶ月後
【緑一刀turn】
音々さんの出産が無事に終わり、医務室の寝台の周りはお祝いをする人達が取り囲んでいた。
「初めて出産に間に合ったのが音々殿とは・・・・・」
「あなたったら・・・もっと素直に祝福しましょうよ。」
董雅さんが複雑な顔をしているけど、俺たちとしては苦笑いをするしかない。
そして董雅さんよりもっと複雑な顔をしているのがひとり。
音音をおぶったねねだ。
「・・・・・音音が物心ついたら、((音肆|おとよ))との関係をどう説明したらいいですか・・・」
そんなねねに詠、霞、マオが肩に手を置いて慰めていた。
月と恋。そして子供達は音肆を眺めて和んでいる。
「やっぱり赤ちゃんはカワイイですね♪」
「うん・・・音音が生まれた時にそっくり♪」
音音が生まれてまだ十ヶ月だもんな。
俺たちも記憶が鮮明に残っているけど、本当にそっくりだ。
そして、もうひとり。
「音々さん、本当にお疲れ様でした。」
「ありがとうなのです、二刃ちゃん♪でも、初めて出産を見て引いたのではないですか?」
「い、いえ!あたしも医者を志したんですから!むしろ感動させてもらいました♪」
「わたくしの次は半年先の華琳様と桂花ちゃん、その次は璃々ちゃんですから、しっかり今日の事を思い返して復習しておくのですよ♪」
「はい!」
音々さんが先生みたいだ・・・・・みたいじゃなく本当に月達の先生だったんだもんな。
音々さんにも子供達の先生をお願いしてみようかな?
「「(おい、緑。)」」
赤と紫に小声で呼ばれて二人の示す方を見ると、箪笥の前に置かれた音々さんの着替えの上に、錦に包まれた物が有った。
これは・・・・・あの位牌だ。
音々さんは普段からこの位牌を肌身離さず持っていた。
だけどそれを知っているのはこの場にいる俺たち三人と董雅さん、董陽さん夫妻だけだ。
ねねにも教えていないなんて、どうしてかと尋ねたら。
『恥ずかしいから』と言われてしまった。
理解出来なかったのは俺たちが女心に鈍いからなんだろうな。
俺たちは静かに位牌に向かって手を合わせる。
なんだか貴方から音々さんを奪ってしまったみたいになりましたけど、音々さんは決して貴方の事を忘れないでしょう。
貴方との思い出を大事にする音々さんを好きになりました。
そんな音々さんを守り、愛すると約束します。
「どうしたの、兄さんたち?」
「「「ん?ちょっとね♪」」」
俺は錦に包まれた位牌を音々さんの所に持って行く。
「はいこれ。大事な『者』なんだからちゃんと持ってないと♪」
「陛下・・・」
「それは音々ちゃんの・・・」
董雅さんと董陽さんは直ぐに気が付いたみたいだ。
「一刀さま・・・・・」
音々さんが俺の手から両手で受け取った。
「それはいつも母上が持ち歩いているお守りですな。」
ねねは本当にこの中身が何か知らないんだな・・・。
音々さんは笑顔で包を胸に抱き締めたが、その瞳からは大粒の涙が頬を伝っていた。
「ええ・・・そうです・・・・・大事な・・・とても大事な・・・・・あなたたちも守ってくれた大事なお守りです・・・・・」
あとがき
完全オリキャラの音々さんなので
思う存分書かせて頂きました。
本編がかなり長くなったのと
この雰囲気を壊したく無かったので
おまけは別収録とさせて頂きました。
説明 | ||
得票数64の音々さんのお話です。 今回は本編とおまけを分けて、連続アップします。 理由はあとがきで。 |
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コメント | ||
あとがきの追加 主人公達の陰で時代に翻弄された一人の女性の半生。音々さんは、『その他多勢』に含まれる女性達の代表だと思っています。(雷起) 牛乳魔人様 こうして時間を空けて思い返してみると、『音々さんに』書かせてもらった気がします。 ホンマええオンナや♪(雷起) 殴って退場様 音々さんの最後のセリフは本当に泣きながら書きました。 心情的におまけを同時収録する事が出来ませんでした(//∇//)(雷起) メガネオオカミ様 我が子を守る為に闘う母は、それだけでとても惹かれてしまいます。一刀には音々さんをしっかり守ってもらいます。(雷起) 終の竜様 ありがとうございます。恥ずかしい話ですが自分でも書きながら何度も泣いていました。(雷起) 音々さんええオンナやなぁ(牛乳魔人) 確かにここでおまけのギャグを入れてしまったら、雰囲気ぶち壊しになってしまうな。(殴って退場) 母は強し……原作紫苑さんや今回の音々さんを見ていると本当にそう思いますね。音々さん、これまで苦労した分しっかり幸せになってくださいね! (メガネオオカミ) やっべ、泣きそう(;_;) お茶目だけどとても芯の強い音々さんが出てて、感動しました。(終の竜) |
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