真・恋姫?無双 〜夏氏春秋伝〜 第十三話
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大梁における例の一戦から一月ほどの時が経過した頃。

 

この日、陳留の城には出陣の時を今か今かと待ち構えた曹軍の姿があった。

 

そこには隠しきれない熱気が溢れ、今回の出陣に対する兵達の意気込みが手に取るようにわかるほどである。

 

そんな兵達が突如水を打ったように静まり返った。

 

軍前方の城壁上に華琳が姿を現したからである。

 

その両脇には春蘭、秋蘭を始め、桂花、菖蒲、司馬懿、季衣、さらに一刀、凪、真桜、沙和も含めた華琳にその実力を高く評価された者達が勢揃いしていた。

 

華琳は大きく一つ息を吸うと、声を張り上げた。

 

「聞け、皆の者!世に蔓延していた霞は既に晴れ、その奥に隠れし敵の姿は暴かれた!捕まらない風を追い、いつ現れるやも知れぬ影に怯える日々はついに終わりを迎えるのだ!我等が目指すは冀州曲陽、討つべきは黄巾!我が下に集いし精兵達よ!その力の程を、卑しい賊徒との格の違いを私に確と見せてみよ!」

 

『おおおぉぉぉぉっっっ!!』

 

城内どころか街の隅々にまでも届きそうな程の大音量が響き渡る。

 

士気はこれ以上ない程に充実しているようだ。

 

「それでは…全軍!出撃!!」

 

華琳の号令と共に曹軍は一糸乱れぬ様子で以て出陣していく。

 

その様子を眺めながら、華琳は振り返らずに小声で背後の部下に話しかけた。

 

「張角達の件、しっかり頼んだわよ」

 

「ええ、お任せ下さい。この一月の間に裏工作は万全、策も幾通りも用意しております」

 

「そう、さすがね。うふふ。どんな娘達なのかしら。楽しみだわ」

 

張角達の話を桂花から聞いて以来、華琳は張角達をその目で見ることを楽しみにしていた。

 

元々の人材好きに桂花が相当に上手くつけ込んだようである。

 

「さて、皆もそろそろ行きなさい。但し、準備は忘れないこと。わかっているわね、春蘭?」

 

「な、なぜ私だけ名指しなのでしょうか?」

 

「あら?わからない?」

 

「姉者、普段を思い返してみろ」

 

「アンタがバカだからよ、当たり前でしょ」

 

「まぁ、しょうがないよ、春蘭」

 

「うぅ、皆まで〜…」

 

華琳の春蘭への発言を発端に、秋蘭、桂花、一刀が相槌をうち、菖蒲が苦笑する。一時だけ和やかな空気が流れた。

 

しかし、その空気はすぐに引き締まったものへと戻る。

 

「昨日の軍議でも言ったことだけれども、敢えてもう一度だけ言っておくわ。私達は黄巾本隊にぶつかる前に、今後のことと万一のことを考慮して黄巾の物資集積地を潰す。その後、そのまま本隊へと向かい、これを掃討する。都合連戦となるわ。その準備を怠らないこと。いいわね?」

 

『はっ!』

 

解散の号を受け、将達は各々の部隊へと戻っていく。

 

その折、桂花が一刀に作戦の確認の為に話しかけてきた。

 

「ちょっと。潜入班の選抜はちゃんと終えたんでしょうね?」

 

「ええ、大丈夫です。周倉含めて計5人、ちゃんと選抜しておきました。それぞれ指示内容に特化した技能持ちなので、余程の問題が無ければ失敗はしないはずです」

 

「そう。これだけは言っておくわ。アンタの取引から始まったことかもしれないけど、華琳様が諾の返事をされた時からこれは既に君主命令と同じものなの。失敗は決して許されないわよ?」

 

「肝に命じておきます」

 

肝心の内容が漏れてしまわないよう、一応注意を払いつつの確認を終え、2人もまたそれぞれの配置へと散って行った。

 

 

 

 

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曹軍が陳留を出て冀州へ向かうこと数日。

 

交通の要衝となる地点に陣を構える黄巾の補給処に一同は近づいていた。

 

「そろそろかしら?」

 

「はい、直に放った斥候が戻ってくると思われます」

 

華琳の呟きに傍にいた零が答える。

 

それを裏付けるかのように斥候が帰還してきて報告を行う。

 

「報告です。情報の通り賊の補給処を発見致しました。ただ、西方より賊の陣へと向かう一軍の姿がありました」

 

「わかったわ。下がってよい。零、あなたはどう見る?」

 

「そうですね…この地の黄巾を見つけ。攻めようとしていることは偶然ではないでしょう。ここを賊にとって重要な土地であると認識した上で行動を起こしているはずです。となれば恐らく優秀な軍師或いは文官が付いているものかと」

 

「でしょうね。私の考えも同じよ。愚昧な諸侯などではこの地を割り出すことは不可能でしょう」

 

華琳は零の返答に満足を示す。その様子を見ながら秋蘭が問い掛ける。

 

「それで、いかが致しますか、華琳様?」

 

「報告の様子では直に戦闘が始まるようね。戦うはずだった敵を相手してくれると言うのだから、ここは高みの見物といきましょう。万一、敗走しそうになるのだったら、その時に助ければいいだけよ」

 

「了解しました」

 

この場での方針を華琳達が決定している間、一刀は斥候に出ていた兵にあることを尋ねていた。

 

「ちょっといいか。黄巾に向かっている軍の旗印は見えたか?」

 

「はい、中央に劉、前衛に関と張です」

 

「そうか。官軍ではなく義勇軍だろう?」

 

「は、はい、その通りです。隊長はご存知なので?」

 

「いや、少し、な。やっぱりこのタイミングで出てくるんだな。劉備玄徳…」

 

一刀の最後の呟きは誰の耳にも届くことは無かった。

 

斥候の情報から劉備が表舞台に出てきたことを知った一刀は、その事を桂花に報告しに行った。

 

幸い桂花は現在糧食管理(主に春蘭と季衣に対して)をしていることを知っていたために容易に見つけることが出来た。

 

「桂花殿。ちょっとした報告が」

 

「一刀?何かあったの?」

 

「前方に賊陣地発見するも、とある軍が攻略中。現在は助太刀の準備は整えつつ、その様子を見守ることとなっています」

 

「そう。その程度だったらアンタが来るまでもないわよね。で、本題は?」

 

やはり桂花の推察力は高いな、と感心しつつ一刀はその本題を報告する。

 

「軍の旗印は劉、関、張。以前一度だけお話したと思います。今はまだ義勇軍で弱小ながらも、今後必ず強大な勢力を築き上げる者達が遂に立ち上がりました」

 

「やがて華琳様に並ぶ程の英雄となる2人の人物、その一人、だったわよね?確かにアンタの今までの天の知識とやらによる勢力の予測は恐ろしいほどに当たっている部分があったわ。でも、これだけは流石に眉唾物ね」

 

「ええ。ですので今は頭の片隅にでも置いておいて頂ければ幸いです」

 

現時点でかなりの勢力を誇り始めている華琳の軍勢。それに比べると、いや、例え曹軍と比べずとも劉備の義勇軍は様々な面で乏しいものであった。

 

そんな劉備勢がやがて大陸を代表する英雄となることを誰が信じられようか。

 

諜報活動に優れた黒衣隊の長、一刀ですら未来の知識が無ければ警戒を向けなかっただろう。

 

その為、今は危険かも知れないことを知らせる、程度に止めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

それから数刻の後、戦に勝利した劉備軍の陣を、桂花、春蘭、秋蘭を引き連れて華琳が訪問した。

 

4人が帰ってくるなり、桂花は一刀に指示を出してくる。

 

「一刀。いくらか部隊をつけるから、それ連れて劉備陣営に協力してきなさい」

 

「はっ!」

 

名目は劉備に対する協力。しかし、桂花は簡単な手信号を送ってきていた。その内容は、て・い・さ・つ。

 

要は兵力の供出を隠れ蓑にした体の良い偵察任務なのであった。

 

 

 

 

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「曹操様の命により、供出兵の指揮を執らせていただきます、夏侯恩と申します」

 

「お前が…?曹操は優秀な部下を貸し出す、と言っていたが」

 

「ちょ、ちょっとちょっと、愛紗ちゃん!そんな言い方はないよ!折角協力してくれてるんだよ?」

 

「う…しかし、桃香様…」

 

「にゃはは、姉者は相変わらずお姉ちゃんには弱いのだ!」

 

一刀が兵を連れて劉備の陣地に赴くと、その名乗りから一悶着起こる。

 

会話の内容から一刀は3人の名を推測出来た。

 

一刀の名乗りに警戒心も露わに応対したのが関羽。

 

正史においては『美髯公』と呼ばれていた関羽だが、ここではその立派な顎髯の変わりに艶やかな黒髪を湛えている。

 

陣の奥から飛び出してきてその関羽を諌めるのが劉備。

 

『人徳の王』と呼ばれるだけのことはあり、相当に人あたりの良さそうな笑顔を浮かべている。

 

そして、無邪気な笑顔を振りまいているのが張飛。

 

その手には小さな体に不釣り合いな程の、かの有名な丈八蛇矛が握られていた。

 

「はわわ、桃香様、お待ち下さい〜」

 

「あわわ、待って〜朱里ちゃ〜ん」

 

未だにごたごたとやっている3人の下に2人の少女が駆けて来た。

 

背丈は小学生程度であり、武の素養もあるようには見えない。

 

しかし、その背格好は文官然としたものであることから軍師なのだろう、との考えに一刀は至る。

 

ここで一刀は悩んだ。

 

黄巾の乱の時点で劉備軍に優秀な軍師はいただろうか、と。

 

(劉備の軍師って言っても諸葛亮に?統、後は徐庶と法正だっけ?それくらいしか知らないもんなぁ)

 

三国志にそこまで精通しているわけでは無い一刀には2人の少女の名を推測することは出来ないのであった。

 

「あ、朱里ちゃん、雛里ちゃん!2人からも愛紗ちゃんに言ってあげてよ〜」

 

「はわわ…えっと、愛紗さん。先程の言はさすがにまずいです!」

 

「だがな、朱里よ。この者が曹操が言うほど優秀には思えんぞ」

 

「あわわ…待ってください、愛紗さん。夏候恩さんといえば夏候惇さん、夏侯淵さんの副官をずっと務めあげている方です。曹操さんが己が両腕と称されている方達の副官なのですから平凡な人物とは思えません」

 

「にゃ〜、そうなのか?鈴々はこのお兄ちゃんがそんなに強そうには思えないのだ」

 

劉備軍側で勝手に話が進んでいたが、ここでようやく一刀が口を挟むタイミングが生じた。

 

「仰る通り、私は武はそこまで高くありません。夏候両将軍の副官を務められているのは偏に部隊の指揮、将軍の戦闘補佐の能力のおかげです。今回私が派遣された理由も関羽、張飛両将軍の補佐が主な役割でしょう」

 

「ほう?言ってくれる…そこまで言うのであれば、それだけの物があるのか、じっくりと見せてもらおうか」

 

関羽はそれだけ言うとさっさと陣の奥へと去って行った。

 

それを見送った後、劉備が一刀に謝罪と挨拶に声を掛ける。

 

「先程は愛紗ちゃんがすいません。私は劉備です。この度はご助力ありがとうございます」

 

「はわわ、私は諸葛亮でしゅ!あぅ」

 

「あわわ、ほ、?統でひゅ!いひゃい…」

 

「朱里も雛里も噛み噛みなのだ。鈴々は張飛なのだ」

 

「改めまして、夏候恩です。本日よりしばらくの間、よろしくお願いします」

 

関羽が去り、幾分か空気が緩んだところで互いに自己紹介を交わす。

 

一刀は彼女達の名を聞いて内心驚いていた。

 

(諸葛亮に?統がもう参入しているのか?!随分と時系列を無視してくれる…)

 

世に名高い蜀漢の最高頭脳。その2人の名が飛び出してきたことにも驚くのだが…

 

「こ、こちらこそよろしくお願いしましゅ!」

 

(噛み噛みのオドオド…これがかの有名な臥龍と鳳雛なのか…)

 

正史で語り継がれるその人物像にはとても似つかないその様子への驚きが大きかったのであった。

 

 

 

 

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あの後、一刀は今後の進軍予定を劉備達に伝え、その翌日には進軍を開始した。

 

桂花と諸葛亮をそれぞれ主軸として両軍は連絡を取りつつ、次なる黄巾の補給処を目指す。

 

その間、一刀は劉備陣営の情報を集めていた。

 

やはり、未だ義勇軍であるからか、兵数、資金、装備は良いとは言えない。

 

しかし、兵の士気は中々のものであった。

 

その理由も2日と経たずに判明する。

 

簡単に言えば、皆、劉備を心から慕い、その為に行動しているが故であった。

 

そして、特筆すべきはやはり将。

 

張飛は見た目の通り、子供のような無邪気さを持っており、暇な時間に関羽と手合わせしたがることも多かった。

 

その為、この数日の間にも幾度か張飛と関羽の鍛錬を目にする機会があった。

 

どちらもかなりの腕を持っており、春蘭に勝るとも劣らずといった評価が妥当である。

 

また、諸葛亮、?統に関してもこの数日で評価、というよりも印象がガラリと変わった。

 

2人とも緊張しやすいタイプではあるようだが、締めるところは締めていた。

 

それは特に相手方の軍師、つまり桂花と零と対峙した時に顕著に表れていた。

 

腹の探り合いのような場においては、噛むどころか常時毅然とした態度を保ち、その姿は確かにかの臥龍、鳳雛であると納得できるものであった。

 

 

 

 

 

 

 

そのように劉備軍を分析しつつ進軍すること数日、一同はようやく2つ目の黄巾の補給処の目前まで辿り着いた。

 

「劉備殿、こちらの軍はこのまま先行し、陽動の役目を担うことになります」

 

「は〜い。それじゃあ朱里ちゃん、雛里ちゃん、準備の方お願いね」

 

「はわわ、ぎょ、御意!」

 

「あわわ、わかりました!」

 

一刀がこの戦における劉備軍の役目を簡単に説明すると、劉備が即諾する。

 

その劉備の命で早速準備に入ろうとした軍師を横目に関羽が食い下がってくる。

 

「待て。敵の数は先の戦よりも多いのであろう?そのような相手に我々の軍だけで先行せよ、など無茶もいいところではないか?」

 

「そこは大丈夫です。黄巾を釣り出せさえ出来れば、半刻待たずとも敵陣の焼き討ちは完了します。潜入、工作に特化した部隊を育成しておりますので、賊程度が相手であれば失敗は無いでしょう」

 

「むぅ。それは本当なのだろうな?」

 

「姉者はちょっと疑り深すぎるのだ。人数が足りないんだったらその分鈴々達が頑張ればいいだけなのだ。ってわけで鈴々が先鋒貰うのだ!」

 

「鈴々!お前も少しは考えて行動をだな…」

 

一刀と関羽のやり取りに割り込んで来た張飛に関羽が説教を始める。

 

少々うやむやになった感がありはするが、兎に角、関羽も納得の上で作戦に移ることとなった。

 

 

 

「全軍、横陣展開!」

 

一刀の号令によって曹軍の兵は一分の乱れもなく、素早く陣形を整える。

 

それを見て劉備軍の重鎮達は感嘆のため息を漏らしていた。

 

「はぁ〜、すごいね〜」

 

「はわわ、陣の形成がとても早いです」

 

「練度が相当高くないとこれだけの動きは出来ましぇん。あわわ」

 

「確かに一挙手一投足に至るまでよく訓練されているのがわかります」

 

「にゃ〜!鈴々達も負けてられないのだ!」

 

張飛が元気よく叫び、劉備軍の兵達に呼びかける。

 

「皆もお兄ちゃんの部隊に合わせて横列陣形を組むのだ!」

 

『はっ!』

 

劉備軍の動きは厳格な訓練を積んだ軍隊のそれには及ばないものの、動きは良い方で、士気の高さも相まってそこらの諸侯よりも力があることを伺わせるものであった。

 

「それでは諸葛亮殿、?統殿。軍全体への指示はお願いします」

 

「はい、お任せ下さい。我らの役目は敵を本陣から釣り上げること。それ以降はこちらの判断で動かしていいのですね?」

 

「ええ。陣を焼かれてしまえば、黄巾では抵抗することもままならなくなるでしょう。その時点で決着はついたようなものですから、それ以降の指示はいらないだろうとの判断だそうです」

 

「そうですか。わかりました」

 

この一刀の発言、実は偽りが混ざっている。

 

指示内容は確かにその通りなのであるが、曹軍の軍師勢にとってその真意は別にあった。

 

華琳の意向でもあるのだが、諸葛亮と?統の実力を見ることに目的がある。

 

いくら相手が賊とはいえ、陣を焼いただけではさすがに決着とは言えない。

 

件の2人がこのことに気付くのは当然のことと見ている。

 

現に先程のやり取りの間にも2人はその先の策を考えている様子があった。

 

ここでどのような策を立てるのか。

 

内容としては軍の被害を最小限に抑えるものになるはずである。

 

賊相手でその実力の程が測れるかはわからないが、少なくとも無駄になることはない、と今回のことが決まっていたのであった。

 

 

 

 

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劉備軍は準備を終えると、銅羅を打ち鳴らして前進を開始する。

 

ここの黄巾には指揮官らしい者もいないのか、策がある様子もなく、単純に突っ込んできた。

 

「まずは一当てだ!その後、徐々に後退するぞ!」

 

一刀が号を発し、戦端が開かれる。

 

並び立って賊に対峙する劉備軍も、その戦い方は中々に体系化されたものであった。

 

「バラけるな!複数人で組みなれ!防御に徹する者とその隙をついて攻撃する者を各々定めよ!隣の友を信じよ!友を救えば友に救われる!我らが軍の結束を見せつけよ!」

 

関羽もまた黄巾を相手取りつつ、己の部隊に号令を発している。

 

なるほど、関羽の指示は鍛錬不足を数で補うやり方であった。

 

そしてその方法は十分に理に適っている。

 

惜しむらくは実質的な攻撃兵力が減ってしまうことであるが、今回程度であれば問題ないだろう。

 

(もしかするとこの辺りも計算に入れた上での諸葛亮達の指示なのかもな)

 

同じような号令を張飛も行っていることから一刀はそのような推測を立てつつ、作戦を進行していくのであった。

 

 

 

「伝令!賊の全軍出陣を視認!後退を開始せよ、とのことです!」

 

「了解した!全軍反転、退くぞ!俺も殿を努める!引き離しすぎるなよ!」

 

『応っ!』

 

開戦の後、1刻も経たずに伝令がやってくる。

 

作戦が上手くいっていることを確認して一刀達は賊を陣から引き離す段へと移行する。

 

「誰か、関羽、張飛両将軍に伝令を!後退は中央で合流して全軍同時に、殿は我らが努める!」

 

「はっ!」

 

伝令が走り去ると一刀は予め選抜しておいた殿部隊と共に部隊の最後尾につく。

 

後退していく部隊の様子を背に感じながら黄巾をいなし続ける。

 

曹軍と劉備軍が丁度合流し始めた頃、左右にそれぞれ展開していた関羽、張飛が数名の兵を率いて殿部隊の下へと現れた。

 

「我らも殿を努めます!任せきりというわけには参りませんので」

 

「鈴々も殿を努めるのだ!とりゃりゃりゃ〜!!」

 

関羽が駆けつけた理由を簡単に説明し、張飛は到着するやいなや黄巾へと斬り込んでいく。

 

その様子を目に入れながら一刀は2人に呼びかけた。

 

「助太刀感謝します。ただ、やり過ぎないように気をつけてください。あくまで釣り上げることが目的ですので」

 

「言われなくとも!はああぁぁぁっ!!」

 

関羽は返事をしつつ黄巾へと一撃を放つ。

 

2人の参戦によって殿部隊の負担は一気に軽くなった。

 

圧倒的な武を見せた2人は、ただそれだけで黄巾へのいい牽制となっていたのである。

 

その中、一刀は実戦における2人の武を測る。

 

どちらもほぼ鍛錬時の印象通りであった。

 

関羽は春蘭や菖蒲と同じパワータイプである。しかし、特に春蘭との違いは、関羽はそのパワーを活かすための技を考案し、研鑽によってその質を高めている節があることだった。

 

菖蒲もまた技を用いるタイプではあるが、その利用目的が違っている。菖蒲は言うなれば攻撃の選択肢を増やすために技を用いている。対して関羽は流れの中で効率的に攻撃を当てるために技を用いている。

 

つまり関羽の『技』は良く言えば王道だが悪く言えば型にはまったものでしかないのであった。

 

対して張飛の方だが、やはりこちらもパワータイプではあるようだ。しかし、体格の問題なのか、関羽程のパワーは無い。その分を体捌きと手数で補っている。

 

また、張飛は技のような攻撃を行ってはいるものの、どうやら天性の武の才能による行動のようである。その動きは実に自由奔放であり、ほとんど同じ行動が無い。

 

実際に対峙すると厄介なことこの上無いタイプの武人であった。

 

一通りの観察を終えると殿の任務に集中する。

 

「あと少しだ!遠隔攻撃に気をつけろ!踏ん張るぞ!」

 

『応っ!』

 

全部隊とも順調に後退し、殿部隊も絶妙に追撃を捌き、黄巾を陣からかなり釣り出すことに成功していた。

 

僅かに見える黄巾の最後尾の陣からの距離を考えると、そろそろ潜入部隊が行動を開始している頃である。

 

更にそのままで幾許かの時が過ぎた頃、黄巾の陣より火の手が上がった。

 

それに気づいた黄巾は次第に同様が全体に波及し、遂には完全に崩れてしまう。

 

そんな状況の中、伝令兵が殿部隊の下に現れた。

 

「諸葛亮殿より伝令!ここから数町の間、全力で後退の後、関羽、張飛両将軍は開戦時同様左右へ展開、夏侯恩殿の部隊は更に数町後退の後反転、3方向より挟撃し、賊を殲滅せよとのことです!」

 

「わかったのだ!」

 

「了解した!鈴々、我らも部隊の先頭に戻り、指揮を執るぞ!はぁっ!!」

 

伝令から告げられた内容に関羽と張飛は直ぐ様応じ、一つ大きく黄巾を吹き飛ばすとそれぞれの隊の下へと去っていく。

 

一刀は近くの兵に曹軍全体への伝令を頼む。

 

「皆にさっきの内容を伝えてくれ。俺はこのまま殿を努め、反転の時期を指示する。兵全体にいつでも反転できるよう準備を徹底させておいてくれ」

 

「はっ!」

 

伝令が去った後、僅かな間を置いて部隊の速度が上がる。

 

殿部隊もそれに合わせ後退速度を上げ、また掛かってくる賊への対応もいなすことから確実に討ち取ることへと主軸を変更した。

 

そのまま数町後退したところで、指示通り劉備軍が左右へと分離・展開する。

 

曹軍は更にそのまま数町後退したところで一刀が声を張り上げた。

 

「そろそろだな。全軍、反転!只今より賊の残党、その殲滅戦を開始する!我らが軍のその強さ、賊にとくと見せつけようぞ!」

 

『おおおぉぉぉぉっっ!!』

 

いくら作戦であると理解していても、撤退というものは鬱憤が溜まる。

 

その溜まりに溜まった鬱憤がまさにこの時、爆発を起こしたのであった。

 

その後、黄巾本陣側から回り込んできた春蘭、菖蒲率いる曹軍の部隊も加わり、黄巾は四面楚歌の状態となった。

 

周囲を囲むはいずれも優秀な将を抱える屈強な部隊。

 

黄巾の残党は最早抵抗する気力も失せ、四半刻と経たずに全ての者が投降、あるいは殲滅と相成ったのであった。

 

 

 

 

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戦を終えるとすぐに華琳が春蘭、桂花を伴って再び劉備陣営を訪問していた。

 

一刀が部隊の者とともに戦場の後始末をしていると菖蒲が声を掛けてきた。

 

「一刀さん、お疲れ様です」

 

「菖蒲さんもお疲れ様。良い時機で挟撃を仕掛けてくれて助かったよ」

 

「いえ、零さんが指示してくれたものですから」

 

零が話題に出ると、一刀は疑問に思っていたことを聞いてみるいい機会だと考えた。

 

「菖蒲さん、ちょっといいかな?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「零さんのことなんだけど、あの人は軍師としての能力も相当高い。大梁で直に感じ取ったからそれはわかる。でも、華琳様にはそれほど評価されてないのは何故?」

 

一刀は以前に菖蒲と零が同郷であると聞いている。その為、菖蒲であればその理由がわかるのではないかと踏んでいたのである。

 

然して完全な理由とは言わないまでもそのヒントを得ることには成功したのであった。

 

「零さんは以前からここぞという時に運が悪いのです。普段はそのようなことは無いんですよ?ですが、大梁の時のように、零さんが主要な軍師として出陣した時は必ず何らかの問題が生じています…」

 

「軍師として出陣した時だけ?でも、以前からって言うのは?」

 

「零さんは通っていた私塾でも同じような感じだったようです。有名な私塾だったそうですが、実力で言えば零さんは最優となり得たそうですが、結局…そういったように、子供の頃から名を上げられそうになると決まって問題が起こったそうです」

 

話を聞く限りでは不幸体質とはまた違う物のようである。

 

名が上がりそうな時、と菖蒲は言っているが、もしそれが正解なのであれば文官として高い評価を得ていることに矛盾する。

 

情報が不足していて、結局、今はまだ分からない、という結果にしかならないのであった。

 

「もし何か原因があるのなら取り除いてあげたいね」

 

「ええ。零さんは努力の出来る天才だと思っています。ですから、零さんには評価されて貰いたいです」

 

そこからは特に話題らしい話題もなく、2人は手早く後始末を終えると陣へと戻っていった。

 

 

 

黄巾本隊との間にあった要衝地は既に落ち、決着の時は近い。

 

各々の想いを胸に秘め、一同は進軍していくのであった。

 

説明
第十三話の投稿です。

いよいよ黄巾の乱、最後の戦いに赴きます。
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コメント
>>はこざき(仮)様 良くも悪くも桃香様第一!それが愛紗さんの魅力でもあり欠点でもあり……w(ムカミ)
無印はともかく真恋姫の愛紗さんは蜀√以外はあんな感じですから…北郷が蜀にいないと基本桃香以外見えてませんし…w(はこざき(仮))
>>ヒロ1985-2015様 一応愛紗は義勇軍とはいえ、将ですからね。正規軍の者が相手でも副官という役職が、といったところでしょうか。(ムカミ)
関羽の態度が傲慢なのが理解出来んから。一刀の方が身分高いのに何やねんその態度は。(ポンチキ)
>>禁なる玉⇒金球様 割と哲学的なことになりますが、理想というものは実現出来ないからこそ理想なのだと思っています。それ故に人は理想に惹きつけられる。言い方は悪いですが、恋姫の劉備は”理想”を掲げてばかりである意味民を騙してるんですよね…(こう言ってますが、別に原作蜀アンチではないです。あくまで自分が感じた一意見として考えてください)(ムカミ)
己の欲せざる所は人に施すなかれ、とてもじゃないが徳の軍隊とは見えないね関羽さん君と賊に違いはないよ、そして君主と他の配下も塵屑の如し。反面教師には成りますが、劉備は例の如く友人騙して迷惑かけて旗揚げでしょうか?(禁玉⇒金球)
>>陸奥守様 恋姫の大概の武官はその辺り(身分)あまり気にしてませんよね。いい意味でも悪い意味でも。愛紗さんは華琳にも突っかかっていった程ですし(ムカミ)
州軍の将軍クラスの一刀と無位無官の愛紗では身分が違うのだから、愛紗の態度は問題だろう。これは華琳も侮辱してる事になるんだから、一刀は無礼を糾弾しなきゃならない立場なんだけどね。たとえ華琳が上位の人に無礼千万な人であっても。(陸奥守)
>>J様 赤壁での連環の計、苦肉の策、これらをどうしようかはまだ悩んでいます。一度決めたとしても変更するかもしれませんし。上手く描写出来るかわかりませんが、お楽しみ頂ければ幸いです(ムカミ)
>>本郷 刃様 他に穏便に済ませられそうなメンバーが思いつきませんw まだいないけれど、風くらいでしょうかね?(ムカミ)
>>naku様 史実では関羽は傲慢だったとも言われてますし、原作でもその面は強そうに見えましたね。桃花に関してはどこかで面白い考察を見たことがあります。簡潔に言うと、この劉備は雌伏の時を過ごしていないために君主として未熟すぎる、と。これには、なるほど、と思いました(ムカミ)
此処で一刀と?統が面識を持つってことは赤壁の連環計はどうなるんだろ?別の人がやるとか?別の策になるとか?そもそも赤壁自体無くなるとか?大分先のことだけど今から楽しみです。(J)
一刀の目的は劉備軍の現状や戦力の情報収集でしたか・・・関羽の対応は一刀じゃなかったら大変なことになってましたよね〜ww(本郷 刃)
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