双子物語-48話- |
部活をしていた時のこと。一緒に部員をしてくれていた倉持さんに声をかけられる。
「今日、生徒会のことで手伝って欲しいことがあるんだけれど」
「え、うん。いいよ」
肯定の返事をしたわけではないけど、いつどうなるかわからないから
手伝えることは手伝っておこうという決まりになってて私は倉持さんの後を追って
行こうとすると。
「先輩、私もいきます!」
「叶ちゃんはこれから柔道部に行くんでしょ。そっちを優先しなさい」
「えっと…今日は休もうかなって」
「それサボりになるじゃない。今日はとにかく行ってきなさい」
「は〜い…」
口を尖らせて渋々私の傍から離れる叶ちゃんを見ていると隣から倉持さんが
クスクスと笑っていた。
「ずいぶん好かれてるのね」
「まぁ、一応彼女さんだし…」
私が隠し事をしないのか、そもそも気にしない人が周りに多いせいか。
私は自分の事情を聞かれたら普通に言ってることが多い。
なので叶ちゃんとの関係は私と親しい人間には丸分かりなのだった。
私のできることといったらせいぜい書類の整理、管理、申請受付くらいしか
することがない。
後は力仕事もあるにはあるのだけれど、私は昔から体が弱いので
気をつかってもらっているし、実質の仕事は生徒会長の方が多いから
私は本当に見て勉強をするしかないのであった。
「ふんふん♪」
「先輩、何かごきげんですね」
「雪乃が傍にいてくれるからね〜」
「そうですか…」
告白された時とは違う雰囲気だけど、あの時の光景を思い出していた。
文武両道、綺麗な長黒髪。明るくて気さくで、完璧でみんなの憧れ。
疲れると時々甘えてくるところとか、かわいいとさえ思えるほどなのに。
私の中でこの人のどこがいけなかったのだろうと考えていた。
後悔してるわけではない、ただ気になった。
真剣な顔をして書類に目を通して判子を押す姿を見ていると
なんだか落ち着くようだ。
今の先輩はお気に入りの後輩が隣にいてうれしいってだけなんだろうなって
わかると無駄に力が入らなくて良いなって。
見ながら時間を費やしていくと、生徒会室に裏胡が元気良く入ってきた。
「雪乃、こっちの方も見てくれるかな?」
「うん、いいけど」
「ちょっと、せっかくいい気分で仕事してるのに〜」
「あ、先輩すみません。雪乃には全体を短く見てもらいたいので」
裏胡に引っ張られるようにして連れて行かれそうになると、立ち上がって裏胡に
文句を言う先輩だが、その言葉を言われてしまうと何も言えないようである。
私は遊びに来たわけではない。仕事を見に、覚えに来たのだから。
裏胡の案内では主にスポーツの部活が中心で裏胡は笑顔を浮かべながら
部員や部長とのコミュニケーションを図っていた。何か問題事がないか
さりげなく調査に出ているらしい。
たまに生徒間のトラブルがあったときも出張に出るらしいから大変そうだ。
「あ、雪乃先輩だ」
その中で1年生が目をきらきらさせて私を見ていた。私はこういう場合どういう
反応すればいいんだろうと思考していて、このまま何もしないのも失礼だと
思って笑顔でその相手を見ると黄色い声があがっていた。
当然その後、部長に怒られるのを見てしまうことになるのだが。
悪いことをしただろうか。
そんな私の考えに裏胡は笑ってお腹を押さえていた。
「今のでいいんだよ。雪乃はほんと生真面目だなぁ」
「勝手がわからないからさぁ〜」
移動中に見上げると空は雲ひとつなく、真っ青な晴天である。
暑い日を通り越してからは外に出るのも苦ではなくなってきた。
むしろ時折吹く風が心地よいくらいである。
「まぁ、ちゃんと申請通りにやってるか。問題はないかのチェックくらいかな」
「わかったわ」
「文化部系統はまた違った感じだし、そこは楓に教えてもらいなよ」
「了解したわ」
世間話を交えながら、業務のひとつひとつを丁寧に教えてくれて私も少しずつ
吸収していく。そして、途中に加わった楓と裏胡の二人が笑顔を浮かべながら
終了を告げてくれた。
授業が終わってから完全下校間際にようやく一息つくことができた。
それまではずっと歩いたり、部活の様子を見たりして大変だった。
そんな私に楓は大丈夫?と声をかけてくれた。
「今日は全部見たから大変だったけれど、毎日ではないから忙しいのも時々なのよ」
「それはよかった」
これが毎日だったら私の体力は確実に持たないだろう。
「まぁ、雪乃の仕事はどっちかというと机での仕事をメインにしてもらいたいから
こっちの方はあんまり出向かないと思うけど、一応どんなのかわかってた方が
いいかなって思ってさ」
「そうだね…」
もし本当に私も生徒会に入るのなら知っておかねばならないことだらけだった。
後風紀委員との兼ね合いとか。あの辺も見ていて面倒そうだった。
上に立つものは下にいる人にはわからない、大変なことがあるのがわかっただけでも
本日の収穫であった。
「あ、雪乃」
「なに、裏胡」
「彼女が迎えにきてるよ」
「あっ」
私の背後に指を差して私が振り返るとそこには嬉しそうに駆け寄ってくる
叶ちゃんの姿があった。
「せんぱい〜!」
「わっ」
力はまったく入ってなかったけど、勢いがよかったから少しびっくりした。
部活帰りで髪の毛が湿っぽく汗の匂いが鼻についた。だけど嫌な匂いではない。
私より背の低い叶ちゃんの頭を愛おしく撫でていると。
「イチャイチャするんだったら、寮に帰ってからやれよー」
「うふふ、ほほえましい光景ですこと」
楓と裏胡の存在をすっかり忘れていて私は少し恥ずかしい気持ちで二人に返事を
してからその場から離れる。
見られていたドキドキが少し収まって手を繋いで帰りの道中に叶ちゃんが
思い出し笑いをしながら私を見上げてきた。その上目遣いが可愛くて抱きつきたくなる。
「今日、先輩が部活に見に来てくれたのが嬉しくていつもよりがんばっちゃいました」
「そうだったんだ。私あまり見れてなかったんだよね。生徒会の仕事を見ていて」
「いえ、その用事だったことは知ってるんで。そうだとしても私の中では嬉しかった」
「よかったわ」
「はい!」
叶ちゃんの笑顔に釣られて私も笑顔を浮かべながら寮へと帰っていく。
さっきまではただ「疲れた」というのがあったけれど、彼女と触れたら
心地よい疲れに変わっていた。こんな気持ちは以前まで味わったことがなかった。
幸せな時間だ…。
「では、ごはんの時間までお別れですね」
「そうだね、色々やることあるだろうし」
「…やっぱり同じ部屋がよかったですね。今思うと」
「そうかもしれないね」
少しの時間も惜しむように手を握りながら見つめあい言葉を紡いだ。
やがて時間が迫り私たちは手を放し離れていく。
食事の時間までそう間はないのだけれど、すこしでも長く居たいという
気持ちにさせられる。これが恋というものだろうか、胸の鼓動が止まらない。
「やぁ、今日はどうだった?」
「ん、けっこう大変だった」
部屋に戻るとルームメイトの瀬南がベッドから降りてあれやこれや聞いてきた。
この親友も何かと私のすることに興味があるらしく、私も嫌な気持ちがしないから
やってきたことをすべてを伝える。
それが彼女も嬉しいのだろう。まるで自分のことのように話を聞いて、
辛い時も楽しい時も一緒に共感してくれるのが最初一人だった私にとっては
救いだった。
「どうしたん、ゆきのん?」
「ううん、なんでもない」
過去のことを思い出して耽っていたと気づかれたらからかわれそうな気がしたので
話を咄嗟に逸らしていた。
「えぇ、気になるやん」
「いいの!」
着替えてる最中にもしつこく食いついてくる親友に言いながら着替え終わると
背を向けて部屋を出ようとした。
「あ、ちょっと待ってな」
食事の時間が近いからせっかくだから一緒に行こう、と私の傍に近づいてきた。
さっぱりしている性格の割には私に関する出来事にはすごい知りたがっていて困る。
だけど一緒にいて嫌じゃないから結果的にはこれでいいのだと思う。
苦笑をしていると瀬南が不思議そうな顔をして聞いてきた。
「何かあったん?」
「ん、あんたがけっこうしつこいからね」
「おっと…それはすまんな」
頭をぺこぺこ下げながら申しわけなさそうに言うけど、本心だと半分ほど
くらいで、好奇心の方が勝っているに違いないのだ。
途中に叶ちゃん、名畑ちゃんと合流して4人で食堂室に向かっていく。
今日は色々慣れないことをしたせいか、疲れてたのか。席に着く頃には
お腹が盛大に鳴って思わず赤面してしまう。
「だ、大丈夫です。先輩のお腹の音も可愛いです!」
「叶…それフォローになってないから」
「あっ」
「あはは、後輩ちゃん二人共面白いなぁ」
二人のやりとりを見て微笑ましく見ている瀬南。
面白いし可愛く感じる。やりとりというより存在がっていう意味で。
そんなことを思っているうちに選んだ料理が出来上がったことが
知らされて私は受け取り口にいるおばちゃんから大盛りのナポリタンを
受け取った。
ここのは酸味と塩味が絶妙で、とても美味しいからいくらでも
お腹に入れられる自身があった。
肉も野菜も柔らかくて味が濃いからかなり好きである。
ただし私のは特別で一般の量のおよそ10倍くらいはあるだろうけど。
山盛りのナポリタンを見て3人とも笑っていた。
まぁ、自分でもよく食べる方だとは思うけど。それより気になるのは。
「叶ちゃんは体をよく動かしてるのにあまり食べないよね。
それで力つくの?」
「はい、あまりお腹に入らなくて」
私が視線を叶ちゃんの食べてるものに向けながら言うと叶ちゃんは恥ずかしそうに
笑いながら答えた。だって量は多いどころか一般の人より少なめだったから。
うーん、改めて私は人より燃費が悪いのだなぁと感じた。
しかし、しっかり食べないと私は集中できなくなるので減らすわけにはいかなかった。
そもそも体重に変化がない以上減らす理由もないわけだけれど。
これを言うと大多数の女子からうらやましいと言われてしまうので
このことには触れないことにした。
それぞれ楽しい食事を満喫して、本日のあったことを話ながらそれぞれの部屋に戻る。
何事もなく楽しいはずだったけれど、私はどこか不安な気持ちが残っていた。
そんな感情が湧いて出てきたのはベッドの上で布団を被った時。
さっきまでは楽しく話をしていたからだろうか。今の気持ちには全く気づかなかった。
「どうしたん?」
こういう時にいつもすぐ気づいてくれる親友の存在はありがたかった。
「今日ちょっと生徒会のを見学したんだけど、もしやるとしたらちゃんとやれるか
不安になってね」
隠してもためにならないことははっきりと打ち明ける。今までもそうしてきた。
そしたら瀬南はきょとんとした顔をして言ってきた。
「まだ手伝いなだけなのにもうそんな想像してるん? まだ継ぐと決めたわけでも
ないやろに」
「それは…そうだけど」
「仮に継いでゆきのんが生徒会やろうとしても、全員がゆきのんに好意的じゃないのは
わかっとるけど。いざとなったら生徒会役員関係なく私も手伝うわ。
それに経験者が二人もゆきのんを守ってくれるやろしな」
「裏胡と楓か」
言われて二人の姿が浮かんでくるようだ。あの二人なら何でもこなせそうな気がする。
でも、だとしたら…。
「だとしたら私が求められる理由ってなんだろう」
「ゆきのんに自覚はないだろうけど、あんたは面倒見いいし、何より周りを見て
まとめることができる。だから先輩も推したんやないかな。
まぁ、個人的に好きだという私的な意味も入ってるだろけど」
笑いながら言う瀬南に気楽なやつだなぁとは思ったけどそれと同時に気分も
少し楽になった気がする。そうだ、何かあっても私は頼める相手がいるんだ。
昔は家族以外に信用できる人がいなかったけど…こういうのもいいもんだな。
そして安心した途端に目が閉じていき。いつからだろうか私は眠りについていた。
寝落ちるちょっと前に瀬南が何か言ってたような気がしていたが私には確かめる術は
なかった。
不安そうにしていたゆきのんに私なりの言葉を紡いでいて、最後に私はこういった。
「ゆきのんは愛される人間やからな。後々嫌がってるみんなもわかってくれるって。
私もゆきのん大好きやし」
言って私の気持ちに気づかれたらまずいかなと思って思わず口を閉じたが
もう遅いだろうかと、恐る恐るゆきのんのベッドに視線を移すと彼女はいつの間にか
すっかり安らいだ顔をしながら寝ていた。とても愛らしい寝顔である。
「こういう姿を見ればみんな好きになれるような気がするけどな〜」
他の人間が同じことしててもこんなことは思わないだろう。
不思議と人を引き寄せる顔をしている。だけど普段ちょっと強気な表情で
それを相殺してる感が否めないが。
「おやすみな」
寝ているゆきのんにそう言ってから私も寝ることにした。
私はこの気持ちを伝えるつもりはない。いつまでも彼女の親友というポジションを
維持したいから。
関係が壊れてしまうかもしれない告白の言葉は、そっと私の胸にしまいこむのであった。
平気なつもりでゆきのんの緊張が移ったのか私も少し疲れていてすぐに
眠りに就くことができた。
求めても求めたくなくても、時が経っていつしかあの時期がやってくる。
私はあのしんみりとした空気が非常に苦手だった。
今年は私をどういう気持ちにさせるのだろう。
そんなことを思いながらやがて眠りの中に意識が溶け込んでいった。
続
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生徒会活動の見学、日常。好きな人との時間。そんな話です。 | ||
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