神喰の魔獣 |
ある晴れた、とても暑い昼下がり。
マイナス20℃の洞窟の奥にある、氷の広場。
別に避暑のために、こんな辺鄙な場所までやって来たわけではない。
ココには、私が求めて止まぬ者が居る。
大きな体躯を包む、羊毛のような白い下毛と、ウェーブのかかった巻き毛。
この毛むくじゃらの 『 犬 』 のような 『 羊 』 のような生物は、
『 狼 』 に分類され、学名は 『 フェンリルウルフ 』 というらしい。
しかし、そのような、学者達が決めたカテゴライズなど、この際どうでもよく、
今現在問題となっているのは、私の目の前に居る 『 それ 』 が想像以上に、
『 デ カ い 』 ということだ。
フェンリルウルフという生物は、
大きくても体長4mと言ったところで (いや、それでも普通の狼と比べれば、断然大きいのだが)
しかし、私の目の前に立つ 『 それ 』 は、優に6mを超えている。
普通の人間ならば、腰を抜かして逃げようとする大きさだ。
斯く言う私も、あまりの大きさに固まってしまった。
だが私はあえて、『 それ 』 に一歩あゆみ寄り、
「私と共に、旅に出ないか?」
まともな冒険者とならば、そんな悠長なことを言う以前に、武器を構えるだろう。
だが、私は戦いに来たわけではない。
大きな 『 それ 』 は、そっと目を伏せた。何かを考えているように見える。
いや、そもそも、人間の言葉が通じるのだろうか? という疑問が、今更ながら私の脳裏に過ぎる。
『 それ 』 は目を閉じたまま、ピクリとも動かない。
…タップリと10秒は経っただろうか。
まさか寝ているわけではないだろうな、と不安になりつつも、
そろそろコチラから、何か行動を起こすべきか、と考えたその時、
『 断る 』
目の前の巨大な狼は、そう答えた。
どうやら意思疎通はできるようだ。
後はどうやって口説き落とすか、なのだが…。
「私と共に来れば、美味い肉を毎日たらふく食えるぞ」
「着いて行かずとも、目の前にあるではないか」 と言われてしまえば、
そこで終わってしまうのだが。私の人生が。
だが、私の不安を他所に、
『 断る 』
狼の返答は変わらなかった。
とりあえず、今すぐ取って食われるわけではなさそうだ。
私はやや安心して、問答を続けることにした。
だが狼は、依然として断り続ける一方である。
何故こうも頑なに断るのであろうか。
疑問に思った私は、率直に尋ねてみた。
『 外 は 暑 い か ら だ 』
なるほど、私の問いが率直ならば、彼の返答も率直であり、
しかも非常に理にかなっている。 私も暑いのは嫌いだ。
ならば諦めるしかないかと、ため息をつき、踵を返したところで、
『 帰ってしまうのか? 』
…この言い回しは、『 帰るな 』 という意味であろうか。
私は顔だけ振り返り、答えた。
「また明日、冷たい土産でも持って来よう」
私の返答に、彼は何も言わずに目を伏せ、その場にしゃがみ込んだ。
私は出口に向かって歩き始め、だが、もう1度振り返って、彼を見た。
彼の長い尻尾が、微妙に揺れていた。
「涼しくなれば、気も変わるだろうか」
私はクスリと笑って、出口に向かって歩き始めた。
説明 | ||
ファイナルファンタジークリスタルクロニクルクリスタルベアラー(なげぇよ)のフェンリルウルフを題材にした、なんでもない小話。 | ||
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