アイラブアイスクリーム |
「あっ!」
ショーケースの向こう側にいたのは、思わず声を上げずにはいられない相手だった。
「ここでアルバイト始めたの?」
尋ねると、彼女は気まずそうにキャップのつばで顔を隠した。
「お友達? いいわよ、もうあがって。お客さんも減ったし」
気を遣う先輩らしい人を恨めしそうに見る彼女は、逆に余計なお世話と言わんばかりだ。
「あ、いや、僕は…」
彼女はキャップをとって、失礼しますと先輩に頭を下げると、僕を見た。
「何がいい? おごるわ。持って行くから前の公園にいてくれる?」
ため息を吐いていつも以上に不機嫌そうな彼女。
上目遣いに窺いながら、僕は一番スタンダードなバニラを選んで「お願いします」と呟いた。
彼女は、入学式から目立っていた。
とにかく美人だからだ。
クラス、いや、学校の中でも軍を抜いていると思う。
決して、僕のひいき目だけじゃない。
実際、声をかける男は多かった。
でも、彼女の拒絶は激しく、まもなくそんな男も減っていった。
それは男だけでなく、同性にまで及び、今ではお高く留まった女、という位置にいる。
教室では誰も寄せ付けず、一人窓辺の席で空を見つめるか、本を読んでいるかしてる彼女。
まさか、アイスクリーム屋でアルバイトしてるなんて想像もつかなかった。
けど。
「はい」
ベンチにぼんやり座っていた僕を見下ろして、アイスを差し出してきた彼女は明らかに怒っている。
美人の睨みは迫力がある。
「ありがとう」
僕が受け取ると、彼女はストロベリーのアイスをなめながら、無言で隣に座った。
沈黙が、気まずい。
「…えっと…いつからアルバイト始めたの? 僕、あそこよく立ち寄るのに会わなかったから最近だよね?」
彼女の返事は、ない。
「…なんで、アイスクリーム屋さんでアルバイト?」
「…だから」
「え? ごめん、聞こえなかった」
「好きだからよ、悪い!?」
声を荒げた彼女にうわっと身を引く。
ちょっと顔を赤らめたのを見ると、どうやら怒っているからではなく、恥ずかしかったからかもしれない。
「いや、全然! いいと思うよ! おいしいよね、アイス。僕はチョコレートとアーモンドにクリームとキャラメルトッピングしたのがお気に入りなんだ!!」
「そうなのよ! 私も!! あの甘ったるい感じがいいのよね!! あなた、わかるじゃない」
気まずさを紛らわすために言った言葉に、突然目を輝かせてまくし立てた彼女に目を見張る。
学校のイメージとは全然違う。
でも、笑顔がかわいい、と思った。
「私はそれと…っ」
そこで、彼女は突然言葉を内においやった。
「…似合わないわよね、私がこんなの…」
「え? なんで? そのほうがずっと女の子らしくてかわいいと思うけど?」
素直に返すと、彼女の顔が真っ赤になった。
これもまた意外な反応だ。
「やめてよ、そんなの、言われたことないのに…」
「ないの!? あ、そうか、かわいいというより美人だもんね」
「…なんなのあなた!? からかってるの!?」
「な、なんで怒るの? 思ってること言っただけなのに…」
「そ、そもそも、男がアイスクリーム一人で食べにくるってどうなのよ!?」
うっと声に詰まる。
それは僕もなんとなく前から思っていたこと。
だからいつも人がいなくなる時間を見計らってお店に行くんだけど。
「やっぱりそうかな…」
せっかく憧れの女の子に近づけたと思ったけど、これはちょっとかっこ悪いかもしれない。
情けなくうなだれた僕に彼女は気まずそうな顔をした。
「あ、いや…でも、うん、そうね」
言いよどんでいた彼女だったけど、自分の言葉を肯定した。
「やっぱりそんな男は変よ」
「そんなはっきり言わなくても…」
「…だから、たまには付き合ってあげてもいいわ。アイス食べるの」
「え!? ほんと!?」
「だから、アルバイトのことは秘密にしなさいよ!!」
「うん、わかったよ!! ありがとう!!」
雲の上の人と思っていた彼女。
近づけたおかげで、もっと好きになれそうだと思った。
「嬉しいよ、僕、ずっと君のこと好きだったんだ!!」
あっけにとられた顔をした彼女。
告白は唐突だったかもしれない。
でも、せっかく仲良くなれそうなんだ。
アイスクリームのように、溶けないうちに、僕のことも好きになってほしいんだ。
説明 | ||
ほのぼの恋愛ショートです。 | ||
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コメント | ||
女の子はいいツン具合ですね。それにしても男の子、斜め上をさらっといってしまう子ですね。(華詩) | ||
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