真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第二話
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〜雪蓮side〜

 

 

 

 

「聖っ!!! あなた、何してるの!!!!!!」

 

「……………。」

 

「なんで…………なんでこんなことをしたの!! 答えなさい、聖!!!!」

 

「……………。」

 

「待ちなさい!!! 何処に行くの!!! ちゃんと答えなさい!! 聖……聖〜!!!!!!」

 

「……………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「………はっ!!  ………………夢……なの……??」

 

 

 

目が覚めると見たことのある天井……。

 

寝台に横たわる私は、特に暑い訳でもないのに体中に玉のような汗をかいていた。

 

 

「どうしたのかしら………。緊張してる………のかな………??」

 

 

柴桑の町の外れに黄巾賊の残党がいると報告が入ったのが二日前。

 

その日のうちに準備を整え、冥琳と祭と共に討伐に出かけたのが昨日の朝早く。

 

柴桑の町に着いたのが昨日の夜のことだ……。

 

 

 

討伐を今日に控えた所でのこの夢は些か不謹慎ではあるのだが………。

 

 

「……………妖説なんて信じないんだけど、何か嫌な予感がするのよね……。」

 

 

それは確定的なものではなく、私のいつもの勘なのだけれど………それでもその勘が良くあたるものだから中々油断できない……。

 

 

「聖…か…………。彼は今何をしてるのかな……??」

 

 

夢に出てきた彼………。

 

しばらく会うことは無かったが、その活躍だけは母様を通して聞いている。

 

 

母様は彼の話をする時には、乙女の様な無邪気な笑顔と共に話してくれる。

 

やれ2里先にいる敵を弓で射抜くなり、やれ一人で千人の賊を倒すなり………。

 

彼の武勇伝は終わりを見せず、その武勇伝を嬉しそうに話す母様を見るのが私の楽しみだった。

 

今日も何処かで彼は武勇伝に語られるべきことをしていることだろう…。

 

 

 

「ふう…。汗かいちゃったし、着替えて顔でも洗ってこようかしら……。」

 

 

 

寝台から起き上がり、服を着替えて部屋から出る。

 

朝靄の残る涼しい空気を目一杯に吸い込めば、靄がかかった頭はすっきりとし、朝の爽やかな気分が感じられる。

 

こんな気分を感じるのも久しぶりだなと思いながら、ふっと顔が綻ぶ。

 

その顔を見れば、まだあどけなさの残る少女の顔で…とてもではないが一介の将だとは思えない。

 

 

 

 

 

井戸についたところで再び自分の体に尋ねる。

 

体を動かすことにだるさや重さは感じない…。

 

手を握ったり開いたりしてみても緊張してるようには思えない。

 

ならば何故あのような夢を見たのだろうか………。

 

 

ピシッ!!!!

 

 

顔を洗おうと木製の桶に手を伸ばしたところで、桶に亀裂が走る。

 

その桶はこの前新しくしたばかりだと昨日この町の警備兵が言っていたのだが………。

 

 

「……………不吉なことの前触れか…。」

 

 

木製の桶を眺めながらそっと亀裂をなぞる。

 

 

「雪蓮っ!!!!!!!!」

 

 

すると、息を切らせながら冥琳が駆け寄ってきた。

 

その表情はいつもの彼女とは違い蒼白で、私の勘が何か良くないことが起こったと告げている。

 

 

「…………どうしたの、冥琳??」

 

「雪蓮っ!!!!  蓮音様…………蓮音様が!!!!!!!」

 

「母様がどうかしたの!?」

 

「蓮音様が……………殺された!!!!!!!」

 

「……………えっ……??」

 

 

今、彼女はなんと言ったのだろうか………。

 

母様が……………殺された……………??

 

 

「………ちょっと冥琳………冗談にも程が………。」

 

「冗談ではない!!!!! 今しがた、寿春より伝令の兵が着いた。その者がそう言っていたのだ!!!」

 

「でも………あの母様よ、冥琳……。母様が殺されるなんて………そんなのありえないわ……。」

 

 

母様の強さというのは娘の私が良く知っている。

 

江東の虎と呼ばれるに値するほどの武を持ち、あの呂布とでさえ互角に戦えると形容されていた人物が殺されるなど…………考えられるものではない…。

 

 

「それが……………私にも信じられないんだが…………。」

 

 

そう言って俯く冥琳。

 

いつもの彼女からは感じられない歯切れの悪さにどこか胸騒ぎがする。

 

 

ドクンッ!!

 

 

「伝令兵の報告なので、確かな事だとは………言えないのだが…………。」

 

 

ドクンッ!!!!

 

 

「蓮音様を殺した人物というのは…………私たちも良く知る………。」

 

 

ドクンッ!!!!!!

 

 

「徳種聖………彼だそうだ!!」

 

 

 

その瞬間、目の前が暗くなっていく。

 

 

 

友の声が遠くから聞こえる中で、私はゆっくりと目を閉じていくのだった………。

 

 

 

 

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目が覚めるとそこには見覚えのある天井……。

 

同じような感想をさっきももったなと思いながら横を見ると、心配そうな視線を向ける親友と目があった。

 

 

「…………おはよう、冥琳。」

 

「…………おはよう、雪蓮。気分はどう?」

 

「大丈夫よ……。ごめんなさい、急に倒れたりして……。」

 

「本当…。いきなり倒れるから心配したじゃない…。」

 

「だから…ごめんって……。」

 

「………………しかし、分からないでもないわ…。」

 

「………。」

 

「私も初めて聞いた時は卒倒するかと思ったほどよ…。ましてや、肉親のあなたなら、こうなるのも当然…。」

 

「…………私はね、母様が死んだことに関してはそんなに驚いていないの…。あれだけ戦が好きで、最前線で戦っていた母様を見てたから、何時かこういう日が来るとは小さい頃から思ってた……。」

 

「じゃあ………やっぱり……。」

 

「えぇ……。『聖に殺された』って所が信じられなかったのよ…。あんなに楽しそうに聖のことを話す母様を私は見たことがない……。それに、聖も母様の事を少なからず好きでいたように思う……。そんな二人が、殺し合いなんてすると思う?」

 

「………思えんな。少なくとも私には、聖が蓮音様を殺すことで得る利があるとは思わない…。」

 

「じゃあ、聖は何故こんなことを………。」

 

「分からない………今は情報が少なくて、確かなことは何も言えないわ…。」

 

「そう、なら本人に聞きに行くしかなさそうね…。」

 

「あぁ………そうなんだが…………雪蓮、それは随分と先の事になりそうだ…。」

 

「…………どういうこと?」

 

 

先ほどの時よりも一層暗い顔になって話し出す冥琳に、少し不安になる。

 

一体、何が起こったのだろうか……。

 

 

「実は、聖は蓮音様を殺した後、寿春の町をそのまま占拠したらしい。そして、孫家に関する人間を探し出して捕えているそうだ……。」

 

「そんな!! 蓮華とシャオは!!!?」

 

「大丈夫だ……。二人とも見つかる前に子布殿に連れられて脱出し、今こちらへ向かっているそうだ…。黄蓋殿にお願いして途中まで迎えに出て貰っている。」

 

「合流してからはどうする気なの…。」

 

「…………合流したら、そのまま西に行って袁術の所に保護してもらおうと思っている。そこで再起を図るため力を蓄える必要があるだろう……。」

 

「………それが最善…か……。」

 

「すまない、雪蓮……。軍師である私にもこのような展開は予想出来なかった……。」

 

「良いのよ……。元々全てを分かる人なんていないわ……。今は今後どうするのかだけを考えて行動しましょう。」

 

 

そうだ…。

 

起きてしまった事にどうこう言っても仕方がない……。

 

ならば、起きたことで変化したことにどのように対応していくか……これをしっかりとしなければ、孫家は潰れてしまう……。

 

母様が守ろうとしたこの呉の地を、呉の民を守るため、私は恥や外聞など捨てて一からやり直さなければならないのだ………。

 

そして、力をもった暁には………。

 

 

「しっかりと話をつけましょう………徳種聖…。」

 

 

孫策の目には闘志の炎が燃え上がり、まさしくそれは江東の小覇王と呼ばれるにふさわしい雰囲気と威圧感を醸し出すのであった。

 

 

 

 

 

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そして……孫堅が殺されたと言う話題は大陸中に急激に知れ渡っていく。

 

 

 

平原では……。

 

 

「桃香様!!! 大変です!!!!」

 

「どうしたの…愛紗ちゃん…。  えっ!? 聖さんが蓮音さんを!!? どうして!!??」

 

「分かりません………ただ、聖殿はそのまま孫堅殿の居た寿春の町を乗っ取ったとの話です。」

 

「そんな………あんなに仲がよさそうに見えたのにそんなことって…………。朱里ちゃん、聖さんと連絡は取れないかな!?」

 

「取れるとは思いますが……今は止めといた方が良いと思います。あれだけ頭の回る聖さんのことですから、きっと何かしらの考えがあってのこと………今はむやみに口を出さない方が得策かと。」

 

「でも…!!」

 

「落ち着きなされ、桃香様。我々は彼がむやみやたらに人を殺す者だとは思っていません。先ほど朱里が言ったとおり、何か考えがあっての事と考える方がしっくりくる。ならば、今はそちらのことよりも、この事件を切欠に武装発起してくる輩を鎮めるため、彼が私たちに残してくれた物を有効に使って自国の安全を高めるのが必要なことではありませんか?」

 

「星ちゃん……。うん、そうだね。彼と同じ立場にならないと、対等に話すことは出来ない…。なら、私たちがすることは今は自国の発展に努めること……。よしっ!! 今まで以上に頑張ろう!!」

 

「「「御意!!!!」」」

 

 

 

 

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そして………陳留では…。

 

 

「………何っ?? 孫文台が殺された?」

 

「はい。殺したのは徳種聖とのことです……。」

 

「徳種聖………。そう、彼が殺したのね……。稀代の英雄、孫文台とお互いの覇をかけて戦をしてみたかったのだけれど………その夢は一生叶わなくなってしまった……。ならば、彼女を殺したと言う彼を殺すことで、私の覇道は為されるわ。」

 

「ならば、直ぐにでも兵の準備を…。」

 

「いいえ、春蘭。今は動く時ではないわ。今はしっかりと地を固めるとき………何れ起こる世界を巻き込んだ天下大乱への準備が必要よ……。分かった?」

 

「………は……はぁ……。つまり、今は戦う時ではないと………。」

 

「そう言うことよ……。あなたは、今まで通り新兵の訓練に努めるように……良いわね?」

 

「はい!! お任せください、華琳様!!!!」

 

 

そう言って一目散に訓練場へと駆けていく春蘭を見て、ため息を吐きながらも楽しそうな秋蘭。

 

 

「秋蘭。あなたと桂花は今まで通り内政を行いながら、今回の騒動の詳しい情報を集めるように……。」

 

「情報………ですか……??」

 

「えぇ。どうもこの騒動はおかしいわ……。このような展開になったところで、彼の行動に見合うだけの利益が見当たらない……。そんな事を彼が行うかしら……。」

 

「私もそうは思えません……。ならば、より詳しい情報を得る必要があるかと……。」

 

「そう言うことよ……。腕の良い諜報員を選別しておくこと……良いわね?」

 

「御意!!」

 

 

出ていく秋蘭の背中を見送った後で、玉座に凭れながら笑みを浮かべる曹操…。

 

 

「………賽は投げられた……。彼の行動はこの世界の危うい均衡を瓦解させ、世を大戦乱に導く……。その戦いに勝った者こそが王となってこの大陸を支配する……。そしてそれはこの私、曹孟徳がしてみせる……。さぁ、知恵比べの後は力比べをしましょう………徳種聖………。」

 

 

 

 

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そして、洛陽でも………。

 

 

「大変!! 皆、これを見て!!!」

 

「詠ちゃん!!? これって!?」

 

「……………徳ちゃんが、孫堅の姉さんを殺したんか……。」

 

「ふん…。どうせ、卑怯な真似をして殺したに決まっている…。そうでなければ、あの孫堅が簡単に殺されるはずあるまい。」

 

「いくら自分が孫堅にぼろくそに負けたからと言って、そんな事を言ったらダメなのですよ、華雄。それに、聖に限ってそんな卑怯なことはしないのですよ…。」

 

「ねねの……言うとおり……。 聖………卑怯……嫌い……。」

 

「何だと!? 誰がぼろくそに負けただ!!?」

 

「華雄に決まってるのですよ。」

 

「貴様っ〜!!!!!」

 

「はいはい…。言い合いはそこまで…。それよりも、この事が今後の世界を揺るがす問題になりかねないことの方が大事。直ぐに何かが起こると言うことはないにしても、準備だけは怠らないようにしましょう…。」

 

「そうだね、詠ちゃん。では、霞さんと恋さん、華雄さんは新兵の訓練に力を注いでください。」

 

「了解や。」

 

「………。(コクン)」

 

「分かりました。」

 

「詠ちゃんとねねちゃんは、私と一緒にこの街の内政について今後の事を話し合いましょう。」

 

「分かったわ。」

 

「分かったのです。」

 

「それでは皆さん。お願いします!!」

 

「「「「「応っ!!!」」」」」

 

 

 

 

 

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歴史は動き始める。

 

止まっていた歯車は回りだし、繋がっている部分部分からまた新たな出来事が起きていく。

 

歯車は一旦動き始めればその動きを止めることはまずない。

 

そう………歴史も同様に、平和な世の中と言うものは長くは続かない……。

 

それは、どの世においても同じことであるが、平和な世の先には必ず戦いの歴史がある…。

 

そして、この世も遂に戦いの歴史に突入していく。

 

その切欠は聖の起こしたこの事件であるが、その一年後に更にその動きを助長する出来事が起こる。

 

そしてそれは、戦いの時代の幕開けを如実に指し示すものになった………。

 

 

 

各主要都市の中心街。

 

ここに書かれた瓦版の内容に、民は皆絶望の表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

『霊帝崩御。次期帝であった小帝弁も暗殺される。』

 

 

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弓史に一生 第九章 第二話    広がる波紋   END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後書きです。

 

第九章第二話の投稿が終わりました。

 

 

 

今話では、中国全土に広がる蓮音様の死の訃報。

 

それを各地の長たちがどのように受け止めたのかを描いています。

 

 

雪蓮が案外ドライだなと感じる方もいるとは思いますが、孫家の人は戦場で死ぬ覚悟はできているはずですので、蓮音様が死んだということにそれほど衝撃があるわけではないと私は思いました。

 

それよりも孫家の人間なら仇討ちに燃えるのが相場な気がします。

 

やられたらやり返す……倍返しだ!!!

 

 

半沢○樹面白かったですよね……。

 

 

 

 

次話はまた日曜日に…。

 

それではまた来週〜!!!

説明
どうも、作者のkikkomanです。

今話は第九章第二話。

前話でのことはとても辛いことです…。

愛する人を自らの手で殺すことはそう簡単な決断で出来るものではないでしょう…。

それを乗り越えるために、聖は果して何を思うのか……。


とは言っても、その答えはまだまだ先になりますが……。
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