雑な彼女 |
「それじゃ、私と付き合ってみる、なんてどうかな?」
雑な告白だ。17年間、これまで雑に生きてきた私の初めての愛の告白。
雑な勉強で学年で真ん中くらいの成績を取り続けて、何となく推薦で私立の大学に合格。雑な部活動はソフトボール部のベンチを暖め続けて、結局試合には一回もでられなかったけど、別段悔しくもなかった。
雑なのは人間関係でも遺憾なく発揮され、おおよそ友人と呼べる友達は二人だけ。
それも上部だけの付き合いな訳で、学校を一歩出れば他人様も同然。
帰り道だって違うし、他人の私生活なんてどうでもよかった。
そんな友達の一人が好いた男に告白して、見事に振られ、事もあろうか私に慰めにもらいにきた。
場所は学校から離れた夕日のきれいな高台の公園。
別に彼女に特別な感情を抱いていたわけではないと思う。告白だって傷ついた彼女を励ますための冗談のつもりだった。
クラス皆からサバサバしてて男っぽい、可愛いげがないなんて言われてる私の雑な思い付き。
でもそんな雑な告白に私は何か分からない期待を抱いていた。だってその告白を口にしたとき、私の心臓はバクバクって爆発しそうな位、高鳴ってたし、恥ずかしいほど顔は火照って熱くなってた。
頭の中じゃ「何を馬鹿なことを言っているんだ、私」とか「いや絶対今のは引かれたね」とか「いやいや待てよ?もしオーケーとか言われたら冗談でした何て言えないぞ」とか、これから起こる彼女の返答っていう未知の未来を想像すること0.001秒。
そこから彼女が眉を潜めるリアクションを見るまでの実時間約2秒は私にとっては2分、いや20分にも感じられた。
そして彼女が一言。
「それ本気?」
そう私に問いただす彼女の顔は眉間にシワをよせ、一歩後ずさり。明らかに私と距離をとってるわけで、これはもう冗談だって苦しい言い訳しても友人としては終わったって確信した。
「あ、いや冗談、冗談だって。ごめん、笑えないね」
それでも私は雑な言い訳してその場を誤魔化そうとしていた。なんと愚かしい自分に嘆きたくなる。
「ごめん陽音(はるね)、私帰るね」
そういって友人、夏乃(はるの)が顔を隠すように走り去っていった後ろ姿を見て、私はこの時初めて後悔した。勿論、指で数えられるほどしかいない友人を雑な告白で失ってしまったことに。
私の生き方は雑だ。雑な生き方っていうのは他人と関わらないこと。別に拒絶する訳じゃない。人と距離を取り、必要なときは差し障りのない会話をし、おおよそ人と関わる必要最低限のコミュニケーションだけで生きていく。それが雑な生き方だ。
私はその生き方で別段困ったこともない。だってそれは失う関係少ない気ままな人生だから。
そして夏乃とはそれっきり。三学期、卒業までの一ヶ月間は学校に来なくてもいい。だから会うこともない。だから夏乃は男に告白して、フラレて、学校の知り合いから、雑な告白されて、私から去っていった。
私はその一ヶ月、受験も終わってるわ私は何かこう晴れない霧の中を歩くような日々を過ごして、考えて、なんか一人カラオケで叫んで見たり、何時もの私は人前ではニコニコと笑い、頼み事も断らない『都合のいい人』。そんな『都合のいい人』が都合が悪くなったら邪魔なんだよね何て、一人で黄昏れて、何となく気がついた。
夏乃が私から離れたんじゃない。私は元々夏乃の近くになんて居なかったんだ。雑な私は都合のいい振りをして近付かづくのを面倒臭がった結果だ。
でもそれでいいと思ってたのに、何で私はこんなに苦しいの?そもそも私は何でこんなに後悔してる?近づくのが怖い?拒絶されるのが怖い?
何故か三年間ずっと同じクラスだった夏乃。何時も可愛い顔だなぁって何となく目で追っていた私。夏乃から話しかけられてちょっと嬉しかったこと。彼氏に告白するって聞いて、なんかムカついた反面、そんなこと言っちゃっていいの?って喜んだ私。
あー、ダメだ!
私はもう今までみたいな雑でも楽な行き方が出来ない。この頭とか心の中にあるモヤモヤした気持ち抱えて二度と会えないなんてヤダ!
そしてようやく私は夏乃に伝えたいって思った。
たとえ嫌われても、自己満足って言われても、心に区切りをつけるために、私の本心を魅せたいんだ。
だから卒業式の後、いつの間にか会場からいなくなってた夏乃を追って私は走った。
どうしても会いたくて、伝えたくて、一ヶ月前告ったあの場所まで!
あの場所で待っててってメールしたけど返信も無かった。夏乃がいるはずないって頭では解ってた。
でも私は走った。ろくに運動もしてないし、走れもしないのに、息を切らして、高台へと続く階段は長かったけど、夕日が眩しくって先なんて見えなかったけど、走りぬいたんだ。
そして私は階段の最後を踏み抜くと、そのままバタンって天を仰いで倒れた。
ゼーゼー息を切らして、周りに誰がいるかなんて考えつかない位疲れて、赤い夕陽に照らされながら、それでも私は叫んだんだ。
「私は…ぜー…なっちゃんの事が…はー…好きだぁ!友達じゃ…なくっていい!私は……なっちゃんのぉ……事が……」
私は一体何をやってるんだろう?
一人で天を仰いで、目に汗が滲んで痛くって、誰も居ない公園にぶっ倒れて、私は何馬鹿で雑な自己改革なんてやってるんだろう?
そんな私を覗きこむ影。逆光に照らされて顔がはっきり見えないけれど、見間違うはずない。私が初めて近づきたいッて思った夏乃だった。
「馬鹿じゃん、陽音。私達同性だよ?付き合えるわけ無いじゃん」
「そ、それでも、ゲホッ、ゴホッ!」
夏乃が来てくれたのに、むせて声がでない。夏乃のはっきりとした拒絶に動揺しまくりで頭の中は真っ白。
「それでも私も陽音の事、好きだよ」
瞬間夏乃が私の唇を奪った。
それはまるで挨拶のように一瞬で、目の前には夏乃の顔があって、確かに感じた夏乃の肌の温もり。
「はは、陽音の冗談はきっついなぁ」
夏乃はなんか困った顔で笑い出す。
「冗談じゃぁないっ!私はなっちゃんともっと話したい、ケンカしたい、一緒に泣いたり笑ったりしたいの!」
私はようやく私の伝えたかった事を伝えたい人に伝えられた。アニメの受け売りが9割って雑な思いだけど。
「……それ本気?」
「マジ!」
その瞬間夏乃の目に涙が浮かんでた。
「……なっちゃん、なんで泣いてんの?ごめん、私気持ち悪かった?嫌いになっちゃった?」
「馬鹿、鈍感、間抜け!私も陽音の事、好きだったんだよ!」
そう言って泣きじゃくる夏乃に私はただ抱きついてなだめるしかできなかった。
だって夏乃の言ってることが理解できなかったし、こんな時他にできることも知らなかったし、こうして雑な私の雑な自己改革は終わった。
結果私達は友達以上恋人未満って所。
傍から見たら仲のいい女友達って事。
内情もそんなもん。
今まで雑だった私にできる事は手をつなぐのが精一杯。
でもまあそんな雑な私も悪くは無いかな?
終わり!
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ここに出てくる女の子は全部妄想です。 現実にはありえないってことです。 でもあったらいいなぁッて思いたい想いなのかもしれません。 |
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