太守一刀と猫耳軍師 第34話
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捕縛した孫権達に事の次第を説明し、どうにか納得を得ることができた。

 

問題なく説得ができたのは、紫青と華琳、そして穏の助け舟があってのことが大きい。

 

というのも、どうも穏は第一陣に居たらしいのだ。

 

援軍を呼ぶために孫権の妹、孫尚香を置いて一度本拠地に帰ったらしい。

 

俺の下に華琳が下っている事に孫権は相当驚いていた。

 

「おそらく、計略を仕掛けた下手人は公瑾よ。

 

こちらの陣営に、公瑾の手の者に娘を人質に取られた、という人間がいるの。

 

今頃、呉の本拠地の旗が、孫から周に変わってるのではないかしら?」

 

「いつかはこうなるだろうと……そういう予感はあった」

 

華琳の言葉に、孫権が諦めにも似た表情を浮かべる。

 

孫権が言うには、周喩と孫権には長いこと意見の隔たりがあったらしい。

 

姉である孫策のように覇道を歩み、天下統一を夢見ていた周喩

 

呉の民が平和であればそれでよかった孫権。

 

意見の隔たりは大きな溝になり、いつかはこうなると思っていたという。

 

「北郷一刀、お前はどうするつもりだ? 

 

まだ分からないが、周喩が本当に謀反を起こしたとしたら」

 

「周喩が覇道を歩くというなら、必ず戦になるだろうし、そうなるなら叩き潰す。

 

そうでなくとも、周喩を捕らえにいくつもりだけどね。

 

もううんざりなんだ、人質を取るなんていうやり口は。

 

そんなことをする人間を俺は放置する気にはなれない」

 

「そうか……。だがもし慈悲にすがれるのならば、孫呉の民を悲しませるようなことはしないで欲しい……」

 

「それは当然、そのつもりだよ。略奪とかそういうのは厳しく禁止してるから。一般人に迷惑をかけるつもりはないよ」

 

「それを聞いて安堵した。……ならば私はもはや何も言うことはない」

 

「取り敢えず、申し訳ないけどしばらくは捕虜として窮屈な思いはさせるとおもう」

 

「わかった」

 

孫権との話しが終われば、俺は席を立って紫青の所へ向かう。

 

桂花達と連絡がついたか確認するためだ。

 

どうやら、呉の本隊が壊滅したことで国境で戦っていた兵達も降伏したため、もうすぐこちらに合流できるだろう、とのこと。

 

それを聞けば俺は軍を進める指示を出す。

 

おそらく俺達が呉の本隊を急襲して討ち取った事で周喩の予想より進軍速度は早いはず。

 

それなら地盤を固められないうちに攻め込んでしまおう。というわけだ。

 

幸い、思っていたより被害が少なかったため、

 

進軍速度は遅めにし、途中で桂花達の隊と合流するという方針に決めた。

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「あの、北郷様……? 私を一体どこへ?」

 

現在、俺達は進軍する途中で俺達に降伏した街で休止をとっていた。

 

俺に同行しているのは、華?と霞と華琳。

 

華?は名を伏せて軍に同行させていた。

 

理由としては、娘を助ける際に顔を確認させるため。

 

「華?はここに来たこと無い? ここが、華?の子供が嫁いだ先の街だよ」

 

周喩に近しいものとはいえ、本拠地からは結構離れているため、根回しが間に合わなかったのだろか。

 

俺達が近寄ると降伏を宣言して城門を開いてくれた。

 

「ここにいるかどうかはわからないけど、城主と話してみようとおもってさ」

 

城を尋ねると城主は快くあってくれるとのこと。

 

「お久しぶりです」

 

華?も、その城主の顔を見ると見覚えがあったらしい、軽く挨拶をしながら、早速娘に合わせて欲しいと切り出す。

 

そうすると城主は渋い顔をし、しばらく思案してから。

 

「こちらです」

 

と、俺達を案内する。

 

広間を出て城の中をしばらくあるき、奥のほうへとつれていかれる。

 

案内された先は、城主の私室の裏手、中庭の一角だった。

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そこは手入れが行き届いた墓石が一つ。

 

その墓石には華?の娘の名が彫り込まれていた。

 

没年を見ればそれは最近の物ではない。

 

「これは……どういう……」

 

華?は呆然とその墓石の前に立ち尽くす。

 

「ここに来てから、数ヶ月とたたぬうちに様態が急変し、亡くなられました……。

 

今際の際に、

 

お母さんが私が死んだと知ったらきっと泣いてしまうから、それを隠していて欲しいと。

 

その遺言の通り、あの子に変わり私が手紙を書き続け、まだ生きているように振る舞っておりました。

 

華?殿をだますような事をして申し訳ありません」

 

「そんな……」

 

墓にすがりつくように、華?が泣き崩れる。

 

「華琳、行こう。霞、華?が早まった事をしないようにだけ、注意して見てやっててくれ」

 

「わかった、娘の後追わせたりさせんから安心しい」

 

俺と華琳を連れて少し離れた所に移動し、城主に話しを聞けば、

 

華?の娘が生前使っていたという部屋がそのままに残されているというので、そこへ2人で移動する。

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「北郷一刀、あなたはどう思うかしら?」

 

華琳がその小さな椅子に手をかける。机も低く、まだ小さな子供だったのだろうと分かる。

 

「……、多分この城主は白だとおもう。脅迫の手紙については知らない様子だったし、

 

この墓は手入れが行き届いていたし……」

 

部屋をゆっくりと見回す。ホコリひとつ見当たらず、

 

部屋の主が居なくなった今も、手入れしていることがうかがえる。

 

整えられた寝台、枕元には人形。南向きの窓の花瓶には造花だろうか、花が飾られている。

 

その花の一つ一つにさえ、ホコリがついているようなことはない。

 

壁には肖像画、椅子に座り、笑っている女の子……。おそらくここの城主が書かせたものだろう。

 

「この部屋も、いまだにそのまま残して手入れしているぐらいだから。

 

ここの城主はきっと華?の娘のことを大切にしてたんだとおもうよ。

 

だからここに華?の娘が居た事を知る誰かのしわざだとおもう」

 

華琳はその机に置かれた、華?の娘が書いたと思しき絵を手にとる。

 

傷まないようにとの配慮だろうか。

 

額縁におさめられたその絵には、にこやかに笑う華?と、父親の姿、2人と手をつなぐ女の子。

 

あまり上手な絵ではないが、その家族は幸せそうに見えた。

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「確かにそうね。やりとりが手紙だけだったとしたら、気付かれないよう細工をするのも比較的容易いわ。

 

手紙を止めて、変わりの手紙を送ればいいだけだもの」

 

「仕掛けたのが周喩だったとしたら、正直、俺は周喩を殺したいと思ってる」

 

「意見があうわね、同感よ。本当にこれを仕掛けたのが公瑾かどうかはまだ断定できないけれど、

 

子を思う母の気持ちと、母を思う子の気持ちを利用し、踏みにじったのだから」

 

大切なものを扱うように、もとの位置に絵を戻す。

 

「それに、駆虎呑狼の計のおかげで北郷と呉の双方に大きな被害が出たのだから、頸を刎ねて当然ね」

 

俺はゆっくりとため息をつき、椅子の背もたれに手をかける。

 

「この子も、悲しんでるだろうなぁ……。

 

自分が死んだことを隠したばかりに、母親がつらい目にあった上に、大きな戦が起きたんだから」

 

「……、あなた、泣いているの?」

 

自分の頬に触れればまとわりつく水。

 

「そうらしい。これぐらいの事で涙するなんて、やっぱり俺は王には向いてないかなぁ……」

 

その小さめの椅子に座り、天を仰ぐ。

 

「あまりそういう所を兵に見せると、頼りない王だと舐められるわよ。

 

……でも、その涙する姿に心惹かれる兵も居るのは事実よね。

 

あなたが死にかけた直後の戦いで、兵を鼓舞するために関羽がこういったそうよ。

 

同胞の墓前で涙してくれる主のことを思い出せ、と」

 

「恥ずかしいなぁ……」

 

後頭部を引っかき、袖で涙を拭う。

 

「あなたは私さえも仲間に、友にしたいといった。

 

ならあなたは、私に何かあったら……、私のために涙してくれるかしら?」

 

「そうなるだろうなぁ。いくら過ごした時間は短いとはいえ、相談に乗ってもらったりしたこともあるし

 

一応寝食を共にしたわけだしね。」

 

「ならいいわ」

 

華琳は俺の前に立って俺の目を覗きこみ、口を開く。その目つきはなんだか優しげに見えた。

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「曹孟徳は北郷一刀の友となろう。

 

あなたが傷つけられる事あらば、傷つけた者を地獄まで追い、相応の罰を与えよう。

 

何か事を成さんとするなら、私はそれを共に成そう。

 

道誤ることあらば、私はそれをただそう。

 

そして……死することあらば、私は墓前で涙しよう」

 

「華琳……」

 

「何故かしらね、あなたの生き様には心惹かれる。

 

もっとあなたを見ていたいと思う。だから私はあなたの傍に居ようとおもう。

 

あなたの友としてね。あなたは先に言っていた通り、私を友としてくれるかしら?」

 

「もちろん。俺も華琳と同じように、華琳に害成す者に相応の罰を与え、その行いに手を貸し、間違ってればそれを指摘する。

 

あんまり考えたい事じゃないけど、もし華琳が俺より先に死んでしまったら、華琳のために泣くよ。

 

っていっても、最初の害成す者への罰則は、俺基準だとかなりゆるいだろうけど」

 

「一言余分なのよ、あなたは」

 

華琳がため息をついた。

 

「そろそろ華?も落ち着いたかしらね。

 

華?が落ち着いたら、後続が追いついてくるまで体を休めておく事よ。

 

公瑾が準備を整える前に、倒しに行かなければならないんだから」

 

俺はゆっくりと頷いて華琳と共に部屋を出た。

 

今度、華琳と酒でも飲もう、なんて考えながら。

 

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あとがき

 

どうも黒天です。

 

今回は華琳が正式に仲間になりました。

 

もうすこしうまく動かせればよかったのですが、随分悩んで書いて、私にはこれが限界でした。

 

この後も一刀とうまく行けばいいなぁ……。

 

次回は周瑜戦ですが、周瑜戦は結構あっさり終わりそうな気がします。

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。

説明
今回は戦と戦の合間のお話。
すこししんみりしてしまう話しかもしれないです
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コメント
・・・あれ?そういえば宗主国ってどこだっけって一瞬思った件 蜀の三姉妹勢とか空気すぎんよwwww(Alice.Magic)
↓まてww早まるんじゃないwww(風見海斗)
うん、蜀の面々が空気なのは、多分メインヒロインが勝てない(何で?)人が多いからだよきっと・・・。鈴々とか朱里なら勝てるかもしれないが(だから何?)(きまお)
>>陸奥守さん ありがとうございます……? 蜀の面々は無印のヒロインですが、我が強くて扱いづらい感がありまして、気づいたら空気も同然になってしまいました……。(黒天)
>>naoさん ですね〜。ここからどうデレていくでしょうね(黒天)
>>h:oさん かなり前、とはいっても黄巾の乱前後を想定しています。華?の年齢は紫苑さんとトントンかチョイ上ぐらいかな。桂花さんは次の回ぐらいに追いついてきます(黒天)
>>たっつーさん 関羽はどうにも扱いづらくて何故かこんなことに。確かに華琳とはかなり仲良くなりましたしね、でも実は蓮華を堕とす予定はなかったり。確かに桂花さんの胃は大変なことになりそう・・・(黒天)
>>いたさん 合掌……(黒天)
>>nakuさん どうしてこうなってしまったんでしょうね(遠い目(黒天)
蜀√の話でありながら蜀ヒロインを全員ディスっていいる黒天さんの手腕に、この陸奥守、感嘆の極み。(陸奥守)
華琳が仲間になりましたw惚れるのも時間の問題ですね〜w(nao)
かなり前に亡くなっている娘さんを利用して他国に内乱を起こさせるって、最初から利用しようと考えているか娘さんの遺言の内容が分からないと不可能でしょ。 この内容を周瑜に伝えた何者かの影が見えるようです。 それよりメインヒロインである桂花を誰より大切にしてやって;;(h:o)
…娘さんに合掌。(いた)
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恋姫†夢想 北郷一刀 一刀 華琳 

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