死刑アプリ
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 プロローグ

 

 

 少年が校門に着く頃にはすでに登校時間を十分ほど過ぎてしまっていた。

 校門にはいかにも体育教師といった感じの体の大きな男が立っている。少年は見つからないように門を潜ろうと試みるが、そこは体育教師。死角など存在するはずもない。

 少年はすぐに見つかってしまった。

「すみません。遅刻しました」

 定型分どおりの謝罪をする。

「おい、今何時だと思ってるッ! もうHRが始まっている時間だぞッ!」

「はい……」

 紅潮した顔で教師が怒鳴り散らすのに、少年は萎縮した声で返事をする事しか出来なかった。

 顔には冷やかせが浮いていた。

 顔色も青くなっていた。

「お前。遅刻するのは何回目だ?」

「い、一回目です」

「そうか。一回目か」

 教師は回数を気にしているようだ。

 その事に少年の緊張した口元が安堵にやや綻ぶ。

しかし、それも一瞬の事。

 教師が携帯電話を取り出すと少年の顔を恐怖で歪み、目は驚きに見開かれ、口は絶望にあんぐりと大きな暗い穴を開けていた。

「そうか、そうか。じゃあお前は死刑な」

 

 バァーン!!!!!

 

大きな銃声が学校中に響き渡った。

 

 

 

 

「ちょっと! ちゃんと掃除しなさいよ!」

 女生徒の怒鳴る声に男子生徒は露骨に嫌そうな顔をすると「うっせーな」と小さな声で呟いた。

 彼は掃除サボリの常習犯であった。大体にして生徒に掃除させるという学校のシステムそのものが、気に食わないと思っていた。

「ちょっと、聞いてるの?!」

「聞いてねぇよ」

「うそ。聞こえてるじゃん。毎回毎回、なんで掃除さぼるの。みんなやってるのにさ」

「ちっ」

 うるさい女だ。いつもいつも注意してくるのはこの女だった。そんなにみんな仲良く掃除をさせたいのか。

「うるせーって言ってんだろッ。掃除なんてやりたい奴がやればいいんだよ。例えば、お前とかな」

 ケケケと笑うと少年は掃除用具が入っているロッカーを蹴り飛ばした。ロッカーは倒れ中に入っていた掃除用具が投げ出される。

「どうしても掃除……やってくれないの?」

「やるか、バーカ」

「じゃあ、あんた死んだほうがいいよ」

「あ?」

 少女は携帯電話を取り出すと、男子生徒に向けた。

「死刑」

 

 バァーン!!!!!

 

 大きな銃声が学校中に響き渡った。

 

 

 

「やめて、やめてよ」

 校舎裏ではカツアゲが行われていた。

「んだよ。おれっぽちしかもってねぇのかよ」

 頭を借り上げた男が、戦利品を見ながら悪態をつく。その取り巻きであろう小男が「ほんっとに使えねぇな」とカツアゲされている男子生徒の腹を蹴った。

 男子生徒はヒュウヒュウと風船から空気が漏れるような音の呼吸と共に、膝をついた。

「ねえ、先輩。もうこいつ要らないんじゃないっスか?」

「ん? そうだな。もう金も持ってないみたいだしな。死刑でいいか」

「そうですねぇ」

 ギャハハハという下品な笑い声で笑い合った後、小男が携帯電話を取り出すと陽気な声を上げた。

「つーわけで、金を貢げなくなった罪で死刑でーす」

 ギャハハハハ。

 下品な笑い声が響き渡る中、見上げる男子生徒が見たのは、自分を見つめるケータイカメラの冷たい瞳だった。

 男が携帯電話の画面上のボタンを押すと、携帯電話のレンズがフラッシュの様に光った。それが、彼が見た最後の光景だった。

 

 バァーン!!!!!

 

 大きな銃声が学校中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 遅刻をしたら死刑。掃除をサボったら死刑。借りパクしたら死刑。フラれたら死刑。気に食わなかったら死刑。エトセトラエトセトラ……。

 もはや理由はどうでもよくなりつつあった。

 一体、今日だけで何発の銃声を聞いただろうか。

放課後になっても帰る気がせず、机につっぷしているのは、最後の授業が体育という事もあってかったるかった事もあるが、それよりも精神的なものが大きかった。

 その悩みの種は数ヶ月前に配信された、あるスマートフォンアプリだった。

「浮かない顔をしている子は死刑だー!」

「っ?! 」

 パシャ!

 カメラのシャッターを切る音。

 慌てて顔を上げると、そこには携帯電話を向ける一人の少女の姿があった。

「お前……。冗談でもそういう事やめろよ」

「えへへ、めんごめんご」

 ばっと冷や汗が来てから、ため息がきた。

「ほんとビックリしたんだけど」

「そりゃー、ビックリさせようとしてるんだもん。えへへ大成功。ぶい」

「ほんとにビックリしたんだけど」

「いや、二回言わなくてもわかるって」

 やれやれだ。

 まったく悪びれることなく、ピースサインをしている。

彼女は朝比奈(あさひな)真昼(まひる)という名前だ。平たく言えば幼馴染という奴である。物心ついた頃にはもう一緒にいて、今までクラスさえ違ったことない。ここまで来ると腐れ縁というやつだが、彼女曰く「運命の赤い糸でつながっているから」らしい。運命って怖い。

「ちーちゃん、怒ってるの?」

 ちーちゃんというのは俺の名前だ。夕凪(ゆうなぎ)千尋(ちひろ)だから真昼はちーちゃんと呼ぶ。

「いや、怒ってないよ。ただビックリしただけ」

「ふうん。三回も言うなんてほんとにビックリしたんだね。珍しいね」

 そりゃ、ビックリもするだろう。真昼は自分がした事の意味がわかっていない。冗談にしていい事と悪いことがある。その境目が分かってないと思った。

「ごめんね。元気付けてあげようと思ってやったんだけど、逆効果だったみたい。最近ちーちゃん元気ないからさ」

「そりゃ、元気なくなりもするだろ」

「どうして?」

「どうしてって……」

 真昼が小動物のように首を傾げながら訊ねてくる。

 この後に及んでそれを聞いてくるとは。彼女は鈍感力を極めた究極のゴーイングマイウェイ人間なのか。いまさらか。

「みんな、そんな感じだろ」

「つまり?」

 え? つまり? その先は特別用意していなかったので、少し狼狽する。

「えーと、つまりはだなぁ……」

 

「ほんっと、あんたってサイテー!」

 

 俺の声はガンと机を叩く音にかき消された。

 みると男女が喧嘩している。記憶が正しければ、あの二人は付き合い始めたばかりではなかったか。クラス内の噂には疎いので確証はないがおそらくそうだったはずだ。

「うん、そうだよ」

 真昼が頷く。心を読むのはやめていただきたい。

 女はヒステリーな金切り声をあげて、さらにガンガンと机を叩きつける。しかし、男はそれを相手にせず、席についたまま頬杖をついている。

「なんかモメてるね」

「ああ」

「かもメールだね」

「うるさい」

 真昼のどうでもいい感想を一蹴すると、俺は次の女の行動に釘付けになった。女は携帯電話を取り出して弄くりだした。

(これは……やる!)

 男は頬杖を突いたまま気づいていない。

 女が携帯電話のカメラを男に向ける。画面を押した次の瞬間――!

 

 バァアアアアアアアアアン!!!!!!!!

 

 至近距離で聞いた分、とりわけでかい音が響いた。携帯電話のカメラ部分が強いフラッシュのような閃光を放つと、銃声にカスタマイズされたシャッター音が轟いた。

 教室がシンと静まり返る。

 椅子に座った男は、グラリと体制を崩すとそのまま床に崩れ落ちた。

 額には拳銃で打ち抜かれたような穴が空いていた。

 そこからドクドクと血が溢れ出して。あっという間に血の海が出来た。

 額を打ち抜かれた男は地だまりの中心で光のない瞳で天井を見つめている。

彼は死刑になったのだ。

「あ、もしもし業者さんですか? あ、はい。ええ、なんか死んじゃってー。はい、あ、はい。んじゃ、そのままでオッケーって事で、はい。よろしくお願いしますぅ。ピッ、ツーツー」

 女は男を死刑にした、その携帯電話で死体回収業者に電話をすると、周りを見回してから、

「みんな騒がしてごっめーん。ほら、何見てんのよ。帰るやつは帰る。部活行くやつは部活いく。ほら早く行きなさいよ」

 それで場の緊張の糸は解けた。ざわざわとし始めたかと思ったら、もう皆何事もなかったかのように日常に戻っている。

 そう、これは別に特別な事なんかじゃない。これが俺達の日常だった。

 まるで、悪夢のような日常だった。

 

 

 

 

 俺が死刑アプリをダウンロードしたのは数ヶ月前だった。

 誰が配信したものなのか。元々どこのサイトにあったものなのか。それもわからない。俺がそれをダウンロードする頃には俺の周りには普及しきっていて、ダウンロードサイトも沢山増殖していた。コピーも大量に出回っておりもはや拡散は止められない状態になっていた。

おそらくそれは政府をもってしてもそうだったのだろう。もし止められるならこのアプリが俺の手元にあるわけがないからだ。

死刑アプリは簡単にいえば、写真を撮る感覚で人を殺す事が出来るアプリで体の一部でもカメラに写っていれば、そいつは銃で額を撃ちぬかれたようにして死ぬ。

 実際の銃をサンプリングしたという、シャッター音がとてもリアルだ。

 スマートフォンさえ持っていれば、誰でも簡単に手軽に人を殺すことが出来る。

 司法のマークである天秤のアイコンから、何時しか死刑アプリと呼ばれ、このアプリで殺すことを死刑と呼ぶようになった。

 人類総裁判官時代の到来である。

 しかし、皮肉にも全員が裁判官となったこの世界が無法地帯と化すのにそれほど時間はかからなかった。

 無秩序の中の秩序など幻想に過ぎない事がよくわかった。全員が持てば抑止力が働いて誰も使わなくなるなんて事はないのだ。これだけ大勢の人間が手にしているのだから中には使う奴が出てくるのは必然の事だった。いわゆる馬鹿というやつだ。そして、そこが綻びとなって全体に広がっていくのだ。

 今では至る所で死刑が執行されている。

 理由なんてどうでもいい。遅刻したとか、掃除をサボったとかそんなことでも死刑は下される。

 まさに無法地帯と呼ぶにふさわしい状態。

 いつ死ぬともわからない世界に生きていれば、そりゃ、気分も滅入るというものだろう。

 

 それから数日後。

 いつもよりも遅めの登校をすると、学校で真昼が死刑を受けて死んでいた。

 

 

 

 

 それから数ヵ月後。

 状況はより悪くなっていた。

 世界は目に見えて荒れ始め、人の心もより荒んでいった。

 世紀末。そんな言葉が脳裏をよぎるぐらいには世界は終わり始めていた。

 多くのものが死刑を受けて死んでしまった為に、教室で授業を受ける人数もかなり減ってしまっていた。

 体育の授業の人数の足りないサッカーを終えて、ぐったりと机につっぷする。後は帰るだけなのだが、どうも気が乗らない。

 別に疲れているわけではない、かったるいだけだ。

 真昼も死んでしまい、特別話そうと思うほど仲のいいやつもいない。なら、なぜ学校に来るのかといえば惰性以外の何ものでもない。本当にかったるい世界だ。

「浮かない顔をしている子は死刑だー!」

 パシャ!

 カメラのシャッターを切る音がした。

 ああ、懐かしい悪戯だ。既視感がある。

「誰だ!」

 俺は飛び起きた。懐かしいとかそんな事を言っている場合じゃなかった。その声は確かに死んだはずの真昼の声だった。

 顔を上げると、そこには携帯電話を向ける女の子の姿があった。

 真昼だった。

 しかし、以前と違う部分があるとすれば、それは真昼が宙にふわふわと浮きながらドヤ顔しているという部分だった。

「夢か……」

「そうそう、これは夢なの。ってちっがーう。私は幽霊だよ。三途の川を渡って戻ってきたんだよ」

 ノリ突っ込みは健在であった。

 しかも幽霊であるらしい。

「お前、本当に幽霊なのか」

「ほんとだよ。ほら、おっぱい触ってみ?」

「なんでだよ……」

 突然の事で頭がついていかなかったが、そえは確かに真昼だった。死んだはずの真昼である。

 本人曰く、幽霊と言っているが、多分本当に幽霊なのだろう。でなければ宙に浮いていることの説明がつかない。

 念のために言っておくが俺に霊感の類はない。幽霊をみるのもこれが初めてだ。なぜ、真昼の霊が俺に見えるのかわからない。

「それはね、二人が赤い糸で繋がれているからだよぉ」

「はぁ?」

「は? じゃないでしょっ。結婚の約束もしてくれたのに……。忘れちゃったの」

 うるうるとした目で真昼がみている。結婚の約束? そんなのしたっけ?

「いつ?」

「幼稚園の時」

「もっと詳しく」

「年少の時」

「何時何分地球が何回回った時?」

「え、ええと……」

 真昼は空に浮いたまま、膝を抱えると「そんなのわかんないよ」と困った顔を作った。

「とにかくしたの。わかった?」

「う、うん」

 本当は思い出していなかったが剣幕に押されて頷かざるを得なかった。

「私がちーちゃんの前に出てきたのも、それが理由なんだから」

「理由。って結婚が?」

「うん。だから、ちーちゃん死んでください」

 

 

「え、お前、もしかして悪霊?」

 混乱のあまり思わず口をついて出てしまった。

「私、悪い幽霊じゃないよ」

 真昼が慌てて否定する。

「だって、私はちーちゃんを迎えにきたんだもん。だって現行の法律じゃ人間と幽霊は結婚できないでしょ?」

「いやまあ」

 それは、そうだろう。常識的に考えても。とはいえ、何を言わんとしているのかはおおよその見当がついてきた。

「だから、死んで」

「いきなり死ねとは穏やかじゃないな」

「だって、ちーちゃんいないと寂しいよ。ねー死のーよー。私を未亡人にするつもりなの? 子供たちが空に向かい、両手をひろげ鳥や雲や夢までもつかもうとしているの?」

 それは異邦人。

 真昼は胸元で手を組んで、潤んだ目を向けてくる。しかし、そんな目に騙されるわけがない。チワワ戦法が現代に通用すると思ったら大間違いである。

「俺ら結婚してたわけじゃないし、そもそも死んだのお前じゃん」

「ち、ばれたか」

 ばれるばれない以前の問題だと思う。

「なんで、私がこんなこと言うかっていうとね。早く死んでくれないと私とちーちゃんの年齢がズレちゃうでしょ。人間は歳をとるけど、幽霊は年取らないから」

「まあ、そうなのか?」

 幽霊が歳とらないかどうかなんてことを、俺には知りようがない。

 真昼はぐいっと体を前に乗り出すと、重要なことをであることを示すようにはっきりとした口調で言った。

「ちーちゃんはロリコンだから、それでいいかもしれないけど。私、オジさんは嫌だからね」

「ロリコンの何が悪い」

「誰も悪いなんて言ってないでしょ、私がオジさんは嫌なの。ちーちゃんだっておばさんと結婚なんて嫌でしょ」

「嫌だ」

「でしょう?」

 真昼が勝ち誇るのに、返す言葉がなかった。なんということだろう反論することすらできないとは、彼女の論理はあまりに正論過ぎる。完璧だ、真昼のロジックはダイヤモンドより硬く、サファイヤよりも深い。

「でも、俺には死ねない理由があるから」

「わかってるよ。死ぬのが怖いんでしょ。みんなそう言うんだよね。もちろん真昼ちゃんは、そのことに対する対策は当然持ってきてるし」

 真昼は自慢げにふふんと鼻を鳴らす。

「死後の世界について教えてあげる」

 

 

 

「なぜ、死ぬのが怖いのか。私なりに考えてみたの。そうやって考えていくなかで私は一つの結論に行き着いたわ。

 すなわち、死んだらどうなるのか、わからないから怖い。だから嫌がる。きっとちーちゃんもそうだろうと思ってばっちり勉強してきたの。一寸先は闇でも、私が照らしてあげれば闇じゃない。

 とはいえ、私も自分で見聞きしたこと以上の事は知らないんだけど。

 ある日、廊下を走っていたら突然、私は死んでしまったの。

 それからしばらくして気がついた時には、私は見知らぬバスに揺られていたわ。窓の外は橙色の光が見えるばかりで、バスが炎の中を走っていると、しばらくしてから気がついた。

 バスを運転していたのは、見たこともないような大きな猫だった。ずんぐりとした体を雪のような真っ白な毛が覆っていて、バスの運転手の帽子だけを頭の上にちょこんと乗せていたから、その猫が運転手だとかろうじて理解することが出来たわ。ハンドルを握っていたしね。

 私はすぐに、運転席まで歩いていって猫さんに聞いたわ。

 ここはどこですか? 

 って。そしたら猫さんは

 にゃお。

 って答えたの。それで、私はピンと来たわ。このバスは地獄に向かっているんだって。

 結果的には、少し違っていてバスが止まったのは三途の川の川辺だったけど。

 猫さんは降りる時に、これを持っていきなさいと言ってフェリーの片道切符を私にくれたの。それは三途の川を渡るための大切な切符で、猫さんは絶対になくしてはいけないよ。といって、私をみたの。金色の瞳がとても美しくて、まるで心を透かされるようだった。

 その時の私は、はてはてこの猫さんはご飯は何を食べるのかなって考えていたから、多分本当に見透かされていたんだろうな。去り際に、俺は銀のさらは食べない。サイエンスダイエット。それも、シニアアドバンスドだ。だが、たまにねこまっしぐらは食うな。

 って言い残して去っていったの。

 三途の川の川辺には切符を持ってない人たちが、浅瀬で砂金を探していたわ。これは後から知った話なんだけど、本来切符は現金で購入するものなんだって、だけど、三途の川でお金を稼ぐ方法なんて、砂金を集めるくらいしか方法がないから、みんな砂金を探しているって。その時の私のお財布には五百円くらいしか入ってなかったから、もし猫さんから切符を貰えてなかったら、私は今でも、亡者になって三途の川で砂金を探していたのかも。そう考えると、私の猫好きオーラが効いたのかな。もらえてラッキーだったよ。

 三途の川を渡って、地獄に着いた私はまず、入獄審査で三日間くらい待たされたわ。

 聞いた話によると、地獄の官吏達がその人の人生の調べるんだって。

 私なんて、まだ学生だし薄っぺらぺらな人生だったから三日で済んだけど、長い人だと審査だけで数ヶ月待たされる人もいるんだとか。

 え、天国にはいけないのかって。まってまって、今からそれを話そうとしてるんだから。

 結論からいうと、天国へは直通で行くことは出来ないわ。

 死んだ人間は、全員一度は地獄へ落ちる。

 天国に行くためには、地獄の閻魔さまに多額の献金をしなければいけないの。

 その為のお金を稼ぐ事が、地獄で暮らす人たちの基本的なモチベーションとされているわ。地獄は商才がある人にはとことんまで、お金を稼ぐことが出来るけど、そうではない人はスラム街で貧困を享受しているような世界なの。

貧富の差がとても激しいけど、努力すれば努力した分だけお金が稼げるとも言える。お金がなくても、幽霊だから最悪飢えて死ぬことはないし、神様もそれでいいと思ってるみたい。

天国は、そんな地獄とは違って桃だけ食べて毎日遊んで暮らせる世界らしいわ。何をしていようが富(というか桃)が分配されて、みんなが質素ながらも平等に暮らせる社会なの。公共インフラもすべて、神様直属の天使たちが直営しているから本当に何もする必要がないんだって。素敵だよねぇ。あぁ、毎日ごろごろしたい。

でもね。驚くことに、天国に行くためにお金を稼ぐという名目で地獄に暮らしている人たちだけど、巨万の富を築いた人間ほど天国には行かないらしいわ。財閥を作って地獄を支配することに心血を注ぎ続けているの。

天国に行くのは金儲けに飽きた人か、資本主義社会に嫌気がさした人か、出世競争に敗れた人っていうのが、地獄での通説みたい。

私は天国ってとてもよさそうに思うけど、お金を持つと、こんな私でも地獄スタイルの考え方に変わっちゃうのかな」

 

 

 

「そんな感じなんだけど、わかった?」

 一気呵成に話し終えると、一息ついた後に真昼が言った。

 正直な所、あまりの情報密度にアウトラインを理解するのが精一杯であった。いや、それも言いすぎからも知れない。彼女の話からわかったのは、彼女が元気にやっているらしいという事だけだ。まあ、それがわかっただけでも、長い話を聞いたかいがあった。本来ならば死人に口なしなのに、こうして話せている。そう思えば運命の赤い糸で結ばれている関係というのも悪くない。

「っていうか、なんで『にゃお』で地獄行きってわかんだよっ」

「いま、それを突っ込むの?! ニュータイプだからだよ」

 説明になってねぇ。

「……まあ、なんとなくわかったよ」

「ほんとっ」

 真昼は手を叩くと、嬉しそうに舞い上がった。

 ニコニコと口元を綻ばせると「じゃあ、死んで」と弾んだ声で言った。

「それにね。いま、死ぬと、とってもお得なんだよ。天国にいくにはお金が必要だって、さっき言ったでしょ。いま地獄では学生を対象とした学割と早割りキャンペーンが受けられてとってもお得なの」

「なんかCMに白い犬が出てきそうな話だ」

「本来、早死にはよくないことだから。地獄にはアルバイトと契約・派遣社員を除いた生涯所得を持ち込む事が出来るけど、学生にはあの世に持っていけるお金がない。だからこそのキャンペーンよ」

「それは何かおかしくないか。キャンペーンが学生の不利分を補うための施策なら、それはお得とはいえない。普通に生涯賃金を持ち越した方がお得じゃないか」

 我ながら、何を話しているのかと思うが。真昼が唐突に持ち込んできた話に付き合うのもいまさらだ。

 真昼はそれを聞くと「普通はそうだよね」と意味深に答えた。

「でもね。ちーちゃん。果してちーちゃんが働き始めて十分な賃金がもらえるくらいまで、((本|・))((当|・))((に|・))((こ|・))((の|・))((世|・))((界|・))((は|・))((存|・))((在|・))((し|・))((て|・))((い|・))((ら|・))((れ|・))((る|・))のかな?」

 真昼は真面目な顔を作った。

「はっきり言って人間はもう駄目だめだよ。かつての覇者を極めた生き物たちと同じように、人間も絶滅する時がすぐ近くにきてる。

 こっちではみんな噂してるよ。

 いつ終末(カタフトロフ)が訪れるのかって……。

 すでに地獄の官吏たちは増える霊魂に備えて経済対策を打ち出してる。

 わかるでしょ?

 知らないのは、この世界の人たちだけなの。もう世界は末期なんだよ。

 だから手遅れにならないうちに早く死んだほうがいい。

 いまなら、学割と早割りがきくし。何より最後まで待ってたら混むよ。

 それとも、三途の川辺で何年も砂金集めがしたいとでも言うの?」

「お前の言いたい事は、わかった。それでも俺は死ねない」

「どうして……」

 真昼が崩れ落ちる。

「私の事が好きじゃないのね」

 目に涙を溜めるとグズグズと鼻を鳴らす。

「いや、好きだけど」

「えっ?! 」

「いやだから好きだって」

 俺が言うと、真昼は泣きはらした赤い目を見開き詰め寄ってきた。

「マジでっ?!  本当に。それはラブとライクとどっちの方でっ」

「そりゃもちろん、ラブの方で」

 というか、なんでそんなに驚くのか。

「そうだったのかー。てっきり私の片思いだと思ってたよー。超嬉しいっ。じゃあ結婚しよ! おう、さっさとゼクシィもってこいや」

 真昼は再び舞い上がると、窓まで駆け寄り空に向かって叫んだ。

 というか、そこの確証が持ててなかったのに、さっきから死ね死ね言っていたのかこいつは、

「殺してしまえばこっちのものだと思ってました」

 てへっ、と舌を出す。「てへっ」じゃねーよ。怖い女だ。

 それから真昼はふと、思い出したように、

「じゃあ、それならなんで?」

「まだ、見たいものがあるから」

「見たいもの?」

「世界の終わり」

 

 

 

 この世に生を受けたなら、《世界の終わり》を見たいと思うのはそれほどおかしな事だろうか。始まりがあれば終わりがある。それを見たいと思うのはそんなにおかしな事か。

 ((そ|・))((れ|・))を見るためなら不死を探求することも厭わない。

 それくらいの気持ちは俺の中にはあった。

 しかし、その気持ちは真昼には伝わらなかったようだ。

「こんな携帯電話に支配され終わった世界になんの未練があるっていうのか。わからないよ。世界が終わる所なら、死んでからだってみれるじゃん」

「それじゃあ、意味がないんだ」

 あくまでも、当事者としてその風景を見ることを望んでいる。

 そう説明した所で、真昼は釈然としない顔をしていたし、納得できないようだった。それはそうだろう。彼女はすでに外周にいる人間なのだ。どんなにくそな世界であるとわかっていようが、必死に生きている人間の気持ちをわかれというほうが無理というものなのだから。

「うぅ、せっかく三途の川の高い渡航料を払ってきたのに。この為にメイド喫茶でがんばって働いたのに」

「お前、メイド喫茶で働いてんのかよ」

「そうだよっ。冥土(めいど)でメイド喫茶だよっ! 悪かったな!」

 真昼は怒っていた。まあ、しょうがない。

「私は諦めないからね。またお金を貯めて来てやるんだから。婚約の言質(げんち)はとれたし、とりあえず引き下がるけど……、絶対ちーちゃん殺してやるんだから、首を洗ってまっててよね」

「ああ、待ってるよ。退屈だし。まあ、その前に他のやつに殺されちゃうかもしれないけど」

「もしそうなったら、ここに電話してね。私の地獄(むこう)での携帯電話の番号だから」

 そう言うと、真昼は一枚のメモをくれた。以外と抜け目がないというかしっかりしているなと思わず感心してしまった。

 真昼は名残惜しそうにしながらも、あの世に帰っていった。

 

 

 

 それから数日後。

「おい、知ってるか。これ」

 そう言って、比較的懇意にしている男子生徒から、学校に来て早々に見せられた画面に俺は目が点になった。

「今朝配信されたばかりらしいぜ。偶然みつけたんだ」

 そう自慢げに掲げる携帯電話の画面には、見たことがないアプリが表示されていた。

 

《核ミサイルアプリ》

 

 俺はその後、その比較的懇意にしている男子生徒から教わり、自分の携帯電話にもそのアプリをダウンロードした。

 そうしてから気がついたが、教室中がそのアプリの話題で持ちきりだった。

 誰も彼もが、その降って沸いた新作アプリの話をしている。おそらくこの教室の人間でこのアプリを落としていないものはいないだろう。

 後で知ることになるが、実はこのアプリの存在はこの教室だけではなく学校中で話題になっていた。

 俺は手元に落としたばかりの、このアプリの核のマークが描かれたアイコンに触れるとソフトを起動させた。そこに書かれた説明文に目を落とす。

 

《これは、核ミサイルアプリケーションです。

このアプリを手にいれた貴方は、お手元の簡単な操作で手軽に核兵器を落とすことが出来ます。

まず、表示された地図から核ミサイルを落としたい場所を選択しタップしてください。場所の選択が終わったら、次は種類の選択をします。

選択が終わったら発射を選択してください。

すると、指定した場所に核ミサイルが落ちます。

兵器の再現性に大変苦慮いたしましたが、最大限の努力と労力によって核爆発後の放射能汚染まで完璧に再現性を持たせることに成功いたしました。

クオリティは保証いたします。

それではよき核兵器ライフをお送りください》

 

どぉおおおおおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 読み終わる直後に轟音が響いた。

 みれば、遥か遠くの山にきのこ雲が立っているのが見えた。何が起こったのかなどと騒ぎ茶番を演じるまでもないだろう。

 誰かが、人気がない場所かつ結果を即見ることが出来る場所を指定して試したのだ。

 クオリティは保証するの言葉どおり、高い再現性をもって核は落ちた。

 このアプリは本物だ。

 本当に核兵器を落とす事が出来るアプリだ。

 教室中が騒然とするなか、俺は思わずニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

 さあ、世界の終わりがみえてきた。

 

 それから程なくして、世界は《人類総核保有国時代》に突入した。

 

 

 

 

 エピローグ〜新世界より

 

 

 

 

「店長っ。大変ですよ! 禿げてる場合ですか!」

「頭の毛が薄いのは元からだよ。真昼ちゃん」

「世界が滅んじゃったんですよ!」

 私がその事を知ったのはお店のテレビでのことだった。

 俄かに噂され始めていた世界の滅亡が、突然やってきたのである。

 噂はあったにしろ、こんなに早く訪れるとは誰もが予想していなかった。それこそ神様ですら予想していなかったに違いない。多分世界は滅亡しちゃうんだろうな。と思っていた私ですら、どうせ数年後の事だろうと思っていた。

 その直後から地獄は混乱の渦に叩き込まれた。

 世界の黄昏時に際し増える霊魂を見越して行われていた、地獄の官吏たちの経済対策は即刻打ち切られ、すぐに神様主導による《新世界構想》が立ち上がる。

 新世界構想とは今、私たちがいる地獄を新世界として昇格させ、神様は新しい地獄を創造しそっちを地獄として使おうというものだ。

 地獄を創造出来しだい、私たちには寿命が再設定され新世界に《生き返る》のだという。

 これは、世界の滅亡を見越して、新しく器になる世界を創造していなかった神様の不手際が生んだ緊急措置で、そもそも神様は世界の滅亡という言葉を《人間が沢山死ぬこと》程度に定義していた節があり、よもや世界そのものがなくなってしまうなど夢にも思っていなかったようなのだ。

 時代の進化は、神様の想像を大きく越えていたのだと思う。

「これから、どうなっちゃうんだろうねぇ」

「どうなんでしょう」

 旧地獄が名目上《新世界》という呼称に変わって数日が過ぎた。もちろん名前が《地獄》から《新世界》に変わっただけで、私たちはまだ幽霊のままだ。生活そのものには、まだそれほど影響はない。

 神様が新地獄を創造するのには、まだ大分かかるらしくしばらくはこのままだろうというのが巷の噂だった。

 今日、三十人目のご主人さまをお見送りした昼下がり、店長がテレビを見ながら呟くのに私は曖昧に頷いた。

 テレビでは、《移民奴隷》の特集をしていた。

 

 

 

「じゃあ、私あがりますね」

「やあ、真昼ちゃんの疲れさま。これ今月のお給金ね」

「わーい、やったぁ」

「そんなに喜んでもらえると、おじさんも渡しがいがあるよ。ぐへへ」

「いや、店長。ちょっと怪しい人、入ってますよ。ただでさえ禿げてるのに」

「昔はフサフサだったんだよぉ」

「それ、禿げてる人みんな言いますよね。ほんとなんですかねー?」

「天地(てんち)神明(しんめい)に誓って」

 大げさ過ぎる。

 店長に挨拶をしてから私は店を後にし、ある場所に急いだ。世界が滅亡し、新世界構想が立ち上がってから、私は暇を見つけてはそこに通っている。

 道中、先ほど手渡された給料袋の中身を確認する。

 中身は先月と同じ額だった。まあ、当然の事なんだけど。

(これじゃ、まだ心許ないかなぁ)

 給料袋の中身を、もう一つ持っていた別の封筒に移し変える。その封筒には、これまで稼いだ給金が入っており、それなりの分厚さになっている。

 しかし、まだ十分と言い切れる額ではないように思われた。

 ((奴|・))((隷|・))((を|・))((買|・))((う|・))((の|・))((に|・))((は|・))((や|・))((は|・))((り|・))((心|・))((許|・))((な|・))((い|・))。

 だが、時間は待ってはくれない。

 タイムリミットは刻々と迫っているのは確かだった。

 地獄特有の紅すぎる夕焼けが目に染みる。

 私は、移民奴隷が集まる市場へと足を速めた。

 

 街から外れた所にある、港にたどり着いた。

 潮の香りと、波の音が聞こえる。

 海面は夕日を映し、赤く煌いていてとても幻想的な雰囲気を醸し出している。

 以前、ここは三途の川と繋がっていたが、今はただの海だ。

 地獄の玄関口として栄えていた跡はもうなく、跡地は巨大な奴隷市場と化していた。

湾岸沿いにずらっと地平線の彼方までコンテナが並べられており、通りに向けられた側面は金網になっていて中身が見えるようになっていた。中にいるのは人間だ。俗に《移民奴隷》と呼ばれる人たち。今回の新世界構想で一番の貧乏くじを引かされた人たちだった。

 移民奴隷とは、世界の終わりに巻き込まれて死んでしまった人たちの事を指してそう呼ばれている。

 すなわち彼らは旧世界において、最後まで生き続けた人たちなのだ。

 本来の緩やかな衰退を通り越しての突然の世界の消滅は、様々な弊害を引き起こした。その害の中でも彼ら移民奴隷にもっともしわ寄せが行ってしまった。

 地獄の官吏たちは、世界の終わりと共に大量に押し寄せてきた霊魂に対する審査を放棄し、あろうことか全員を奴隷として処理してしまったのだ。そして混乱を避けるために地獄時代三途の川と繋がっていた港に、奴隷市場と称したスペースを作り隔離してしまった。

 新世界構築に追われる彼らからすれば、もはや雑事(ざつじ)に構ってなどいられないという事なのだろう。神の声を実現するために奴隷移民たちは神に見捨てられたのだ。

 そして、新しく地獄が創造され、私たちに寿命が再設定された場合何が起こるか。まずは大規模な人口淘汰が起こるだろう。

地獄には有史以来、天国に逝った一部を除き時代と共に積みあがった大量の幽霊が生活している。霊的世界という曖昧な世界観の中で存在することを許されてきた私たちが、新世界という確固とした世界観に押し込まれれば、確実に溢れてしまう。

 その先に待っているのは大規模な人口淘汰だと私はみていた。世界の成立と共にかなりの人間が地獄送りにされるのは間違いない。

 そして、その矛先が真っ先に向けられるのは、ここにいる移民奴隷たちであろう事も予想ができた。

 すべては神様にとっては織り込み済みの事なのだ。

 理不尽だが、神様のやることなのでしょうがない。神様とは気まぐれなものなのだから。

 しかし、そんな中にも蜘蛛の糸とでも言うべき救いは残されている。

 簡単な話。奴隷なのだから、買ってしまえばいい。資産を持ち越している人間ならば自分で自分を買うことも出来るだろう。

 すなわち、この移民奴隷という政策は、極めて地獄らしいシンプルなメッセージが込められている政策なのだ。そのメッセージとはすなわち

 

《文句があるなら金で解決しろ。金を持ってない奴は死ね》

 

 という強烈な洗礼である。

寿命の概念が入ったせいでエグさが増してるし、もうここは地獄じゃないんだけど、と思わず突っ込みたくなるがしょうがない。

「とはいっても、ちーちゃんが資産を持ってるとは思えないからね」

 私が、この場所に通う意味もそこにあった。

 私が探している夕凪千尋。つまりちーちゃんは、ここにいる事は間違いがないのだ。

「あの時、私の薦めに従って死んでおけばよかったのに……」

 ブツブツと文句を言うが、ブツブツ言っていても始まらない。このまま放っておけばちーちゃんは死んでしまう。死なせるわけにはいかない。約束も守ってもらわなければいけないし。

 しかし、そう思い何日も捜索しているが一向にしてちーちゃんは見つからなかった。そもそも見つからないのでは買う以前の問題で話にならなかった。

 それから何日も通ったが結局ちーちゃんを、見つけることは出来なかった。

 神様による新しい地獄が創造されると共に、私たちは新世界に《生き返った》。

 そして、それと同時にコンテナに入った移民奴隷たちが海に沈められていくのをなす術もなく見送るしかなかった。

 その日は、海から離れることが出来ずに夜までえんえんと泣くしかできなかった。

 もう、いっそ死んでしまおうか。

 そう思った時、ポケットの携帯電話が鳴った。

 

 

 

「だれ?」

「真昼?」

「え、もしかして……、ちーちゃん?」

「ああ」

「ど、どこにいるの?」

「世界の終わり」

「え?」

「俺はついに世界の終わりをみたよ」

「……綺麗だった?」

「うん、綺麗だ。人類でたどり着いたのは俺だけだ」

「そっかぁ、ちーちゃんはすごいねぇ」

「泣いてるのか?」

「ううん」

「ほら、時間がどんどん巻き戻っている。創生の地平を経ていま閉じようと――る」

「? ちーちゃん?」

「こ――で、本当にせか――――」

 

 

 

「ちーちゃん、ちーちゃんっ」

 反応のなくなった携帯電話に向かって、私は叫び続けた。

 何が起こったのかわからなかった。

 死んだ人間が生き返ったとか、そんな奇跡みたいなことが。しかし、受話器越しの声は確かにちーちゃんのものだった。

 気が動転していたが、はっと思い出して慌てて履歴からかかってきた番号にかける。

 

 プルルルル……。

 

 夜のしじまに紛れて微かに着信音が浜辺の方から聞こえてくる。

 音を辿っていくと、浜辺に流れ着いているちーちゃんの姿をみつけた。

「ちーちゃん」

 駆け寄ると声をかけた。

「真昼がいるって事は、俺は死んだんだな」

「ううん、生きてたんだよ」

 何言ってんのお前と、ちーちゃんは訝(いぶか)しんでいたが、私にはなんとなくわかった。

 私はどうも、こっちでの情報を鵜呑みにし過ぎていたらしい。

 世界が消滅したのは、まさに今なのではないか。

 つまり、彼は((生|・))((き|・))((抜|・))((い|・))((た|・))((の|・))((だ|・))。

「ちーちゃん。あの時は死ねとか言ってごめんね」

「え、今、それを謝んのかよ」

「えへへ」

 この時、ちーちゃんがどんな顔をしていたのかわからない。

 私は、嬉しさで目が滲んでそれどころではなかったからだ。

 

 

 おしまい

 

 

 

 

 あとがき

 

 冥土でメイド喫茶だよと言いたかっただけです。

 本当にありがとうございました。

 

 とまあ、それだけではなんなので。

 今回、個人的には、結構いい感じに書けたんじゃないかなと思います。

 短かったとはいえ、こんなにすんなり書けたのは初めてかもしれず。

 特に後半は、やばいタイトル関係なくなってきたと思いながらも、死生観が猫の目のようにクルクル変わるので、そこが書いていて楽しかった。

 エピローグ入れなければ、タイトルに偽りなしの話になったと思うのでそれでよしとすることにしよう(汗)

 

 死刑アプリみたいなのは、本当にあったらすごいですけど。

 スマートフォン幻想が残っている、いまだからこそ書ける話になったんじゃないかなと思います。

 読んでくださりありがとうございました。

 ではまた。

 

 

                                   しお

 

 

説明
実は題名の割りには幽霊の女の子と交流してるだけだったり
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