恋姫†無双 関羽千里行 第4章 33話
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第33話 −武道大会−

 

 からっと晴れた午後。北郷一刀は隊の調練に励んでいた。そして今は走り込みの最中である。

 

一刀「あと少しだから頑張れー。」

 

隊員A「隊長より先にへばりなんてしないっすよ!」

 

一刀「言ったな?俺もまだいけるし、もう数周追加するぞ?」

 

隊員B「か、勘弁して下さいよー!」

 

 はははと笑い合う光景を見たら、愛紗や星あたりには緊張感が足りないと怒られるだろう。でも、引き締めるところは引き締めてるつもりだし、硬軟は使い分けている。少なくとも、隊員とのコミュニケーションは大事だということは間違いないはずだ。

 

隊員C「でも、これくらい今の黄蓋様の隊に比べたら楽なもんだろ?」

 

隊員B「そ、そうかもしれませんが...」

 

 気になる言葉が聞こえてきた。

 

一刀「黄蓋隊がどうしたって?」

 

隊員C「はあ。なんでも、最近黄蓋様のしごきがきつくなってきてるみたいで。調練自体は普段から厳し目でしたけど、最近は少しいつもと黄蓋様の雰囲気が違うらしいってあっちの隊のやつが...」

 

一刀「ああ、なるほど...」

 

 その理由に真っ先に思い至る。おそらく、禁酒生活のせいだろう。祭といえば酒と戦だ。そう言える人間にもう数人心当たりはあるが...ともかく、祭は以前の一件で一ヶ月の禁酒中だ。戦の方も最近は内政に注力しているお陰で戦も山賊退治とか、小規模なものしかない。となれば、祭にある程度ストレスが溜まってきているのも頷ける。

 

一刀「わかった、俺から祭に言っとくから、その人には安心するよう言っておいてくれ。」

 

隊員A「まさか隊長...」

 

一刀「...?なんだよ。」

 

隊員A「いえ、なんでも!隊長のことは尊敬してるっす!」

 

一刀「?ありがとう?」

 

 なんだか釈然としない。

 

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 その日の夕方。早速祭の部屋を訪ねてみた一刀は、その惨状に驚いていた。

 

一刀「あのー、黄蓋さん?何をやっておられるのですか?」

 

祭「なんじゃ...北郷か...何、ちと読み物をな。」

 

 だらんと寝台に横たわる祭の手には何かのカタログらしきものと、その横には幾つもの樽がこれでもかと鎮座していた。

 

一刀「ちなみにそれは...」

 

祭「水じゃ、水。仮にも儂が処分中に堂々と酒樽を部屋の中においておるわけなかろう。まあ本来なら酒が入っているはずなんじゃがな。」

 

 祭は樽から取り出しておいたのか、酒瓶から杯に水を注ぐと、そのカタログらしきものを見ながらどこか虚しそうにそれを飲んでいた。

 

一刀「重ねて聞くけど...何やってるの?」

 

祭「なんじゃ、質問ばかりじゃな...いいか、儂は今、酒を飲むことを禁じられているな?」

 

一刀「うん。」

 

祭「しかし、常識的に考えて一ヶ月酒を飲まないというのは、人間の生命に関わる問題じゃ。」

 

一刀「(...え?)」

 

祭「じゃが酒は飲めん。となれば、それらしい雰囲気を作って、酒を飲んだつもりになるしかなかろう。」

 

一刀「そ、そうか...なるほど。」

 

 どうやら、カタログは各地の酒を紹介したもので、それを見ながら飲んだ気になっているらしい。

 

祭「はあ、今何日目じゃったか?」

 

一刀「...まだ一週間だね...」

 

祭「そうか...」

 

一刀「うん...」

 

祭「北郷、曹操か...この際、策殿のところでも構わん。どちらかと殺り合う気はないか?」

 

一刀「残念ながらというかなんというか、今のところはないね。それに雪蓮さんのところとは仲良くやれそうな気がするし。」

 

祭「そうか...」

 

 そこへ、

 

雛里「失礼します、祭さん借りていた本を返しに来たのですがってご主人様!?」

 

祭「おう、そこへおいておいてくれぃ。」

 

一刀「ふむ。なあ、雛里。祭がストレス...うーん、精神的疲労を抱えているみたいなんだけど、なんかそれを解消するのにいい案ないかな?」

 

 それだけで、雛里は事情が飲み込めたらしい。少し思案顔になってから、

 

雛里「そうですね...なら、北郷軍の武将同士で、試合を組んでみたらどうでしょうか?祭さんも、愛紗さんや星さんたちとは戦ってみたいって以前からおっしゃっていたわけですし。私は武人さんではありませんが、武人さんは常に強い武人さんを求め、それと勝負することでその心を満たすと言いますから。」

 

一刀「あー、それいいかも。」

 

祭「何!?それは本当か!?」

 ガバっと起き上がり、こちらに詰め寄ってくる祭。

一刀「まだ決まったわけじゃないけど、ほかの皆もやりたいっていうならいいんじゃないかなぁ。勝ち抜き戦とかにしたら盛り上がりそうだし。」

祭「それじゃ!他の奴らのことは心配いらん!早速儂が説得して回ってこよう。ではな!」

 そう言うなり、あっという間に飛び出して行ってしまった。

雛里「あの、大丈夫でしょうか?」

一刀「大丈夫じゃないかな...あんまり無茶なことなら愛紗あたりに諌められるだろうし。でも、場所とかどうするつもりなんだろ。」

 そんな呑気に考えていた時期が、私にもありました。

 

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地和「さあまもなく開始されます、第一回、北郷一武道会!司会はこの私、いま巷で話題の数え役満しすたーずでも一番人気!みんなの妹、地和が担当いたします!」

 

兵士たち「ほわああああああ!」

 

一刀「どうしてこうなった。」

 

 演習場だったその場はオープニングの張三姉妹の演目で十分に温まり、これからの試合に対する期待感を煽っている。開けた試合会場の周りには観客席が設けられ、兵士たちが興奮しひしめいている。だが、それを呆然と見つめる一刀といえば、ぽかーんとして開いた口が塞がらない。

 

一刀「雛里、こんなことやるって話聞いてた?」

 

雛里「聞いてたも何も、はじめに祭さんとこの話をした時、ご主人様もいいっておっしゃってましたよ?ご主人様の許可の印が押された書類も見ましたし、お忘れになっていたのでしょうか。」

 

一刀「いやまさか、こんなことになっているとは...」

 

 これからはぼんやりとした頭のままで書類を通さないようにしようと心に誓う一刀なのであった。

 

地和「今大会は一対一の勝ち抜き戦。ここ京を拠点とする北郷軍の部隊を指揮する将軍同士による武の凌ぎ合いです。そしてなんと!今大会で優勝した者には北郷軍最強の称号とともに!」

 

 地和は観客席のうしろで呆けている一刀に向けて一瞬にやりと微笑んだ。

 

地和「我らが北郷一刀から、なんでも一つ願ったご褒美が与えられます!」

 

一刀「なにぃいいいいいいいい!?」

 

 盛り上がる観衆にその声は消されたもの、しっかりと隣に佇む雛里には聞こえてしまっていた。

 

雛里「び、びっくりしました...あの、出来れば急に大きな声は...」

 

一刀「ご、ごめん。雛里、俺が通した書類にそんなことまで書いてあったのか?」

 

雛里「は、はあ。えーと、」

 

 頭のなかにある書庫か何かに検索をかけているのだろうか、少し唸ってみた後雛里は答えた。

 

雛里「そう言えば、補足のところに、今大会について君主である北郷一刀は最大限持てる力と財力を持ってこれを支援するって書いてありますね。」

 

一刀「力と...ざ、い、りょ、く、だと...」

 

 そこから考えられる結論はひとつ。ちょうどそこへ、獲物を携えた霞が通りかかる。

 

霞「おお?一刀やーん!見ててな、ウチ絶対優勝したるさかいな!」

 

一刀「お、おう、頑張ってくれ。...ちなみになんだが、優勝したら霞は何がほしいの?」

 

霞「そらま、決まってるやろ。」

 

 にこやかに手をくいっと曲げる仕草で答える霞。

 

霞「ほな、またなー。」

 

 パラパラと手をふってそのまま意気揚々と行ってしまうのだが、それを見送る一刀の顔は悲壮感にあふれていた。

 

一刀「終った...」

 

 そう、この大会に出場するであろう将軍のうち何人かの願いは決まっている。ありったけの酒だ。そんなことになれば、北郷一刀の財布はすっからかん、欲しかったあんなものやこんなもののために少ない小遣いをため続けてきた貯金は確実に消し飛ぶ。

 

雛里「あの、どうかされましたか?」

 

一刀「雛里、うう...俺、もう心が折れそうだ...霞、祭、星...翠もか?いや華雄も褒美なんかいらないだろうからって、霞あたりに酒を頼まれているかも...」

 

雛里「はぁ。よくわかりませんが、その方たちが優勝しなければ大丈夫なのでは?」

 

一刀「...そうか!雛里ありがとう!」

 

 何かを思いついたらしい一刀は、雛里に何故か礼を言うと、霞と同じ方向へと走り去っていった。

 

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地和「さあ、いよいよ始まります第一回戦!司会は私みんなの妹、地和と、解説の程cさんを迎えてお送りしたいと思います。よろしくお願いしますね、程cさん。」

 

風「宜しくお願いされるのですよ?」

 

地和「若干解説役に不安が出てきたのですが...それでは程cさん、今一度今大会について説明してもらえますか?」

 

風「はいー。今大会では、抽選によって決められた四組に別れ、第一試合と第二試合、第三試合と第四試合の勝った方がそれぞれと対戦、そして最後に残った二人による決勝で優勝が決められます。よって、始めの抽選が勝敗に大きく影響を与えるとも言えますね。また、勝敗は時間無制限一本勝負。相手に参ったと言わせるか、相手を戦闘不能にしても勝ちになるのですよ。ただし、にらみ合いで試合が進まない場合は...」

 

地和「場合は?」

 

宝ャ「空気読めってことよ。」

 

地和「なるほど。では早速厳正なる抽選の結果決まった組み分けを発表します!」

 

 試合会場とは別の控室でそれを聞いていた皆に緊張が走る。そこへ、

 

一刀「おじゃましまーす。」

 

愛紗「一刀様、どうしてここへ?」

 

一刀「いいからいいから。ほら、組み分け聞き逃しちゃうよ。」

 

愛紗「は、はあ。」

 

 

地和「一回戦第一組、関雲長対甘興覇!」

 

 愛紗VS思春

 

愛紗「あの時以来だな。」

 

思春「今度は負けん。」

 

 

 

地和「第二組、馬猛起対華雄!」

 

 翠VS華雄

 

華雄「お前ともやってみたかったのだ、よろしく頼むぞ。」

 

翠「こっちこそよろしくな。だけど、勝負である以上手は抜かないぜ?」

 

 

 

地和「第三組、趙子龍対張文遠!」

 

 星VS霞

 

星「ほう。」

 

霞「星かー。やってみたくはあったけど最初に当たりたくはなかったなぁ。」

 

 

 

地和「第四組、黄公覆VS北郷一刀!」 

 

 祭VS...?

 

祭「は?」

 

一同「ええーっ?!」

 

一刀「一試合目は祭かー、お手軟らかに頼むよ。」

 

翠「て、なんでご主人様まで参加してるんだよ!?」

 

一刀「いや、この機会に皆の実力を肌で知っておこうと思って。」

 

華雄「気概は認めるが、かすり傷程度ではすまんのかもしれんのだぞ?」

 

一刀「わかってるって。」

 

星「この面々にあって怖気ないとは、どうして中々肝が座っていらっしゃる。なあ愛紗?」

 

愛紗「やる以上は、手加減など致しませんよ?」

 

一刀「うん。ただ、命はとらないでほしいなぁ。」

 

 一刀は言えなかった。本当は、財布を吹き飛ばしそうな人の足を引っ張るためだけに大会に参加しようとしているだなんて。だが、これは一刀自身の文字通り命をかけた策である。十分に気をつけたとしても、大怪我は免れないだろう。だが、命の危機にまさる脅威が差し迫っていると一刀は捉えていたのだ。

 

一刀「(ここで財布が0になったら、領収書降りなかったこの前隊の連中と飲みに行った代金も払えない!あそこ出禁になるのはいたすぎるぞ!)」

 

 だがその内容はやっぱり至極みみっちい。その間にも組み分けの次に試合順が決められていく。

 

風「順番に、四組、二組、三組、一組の順番で試合を行います。それではみなさん、死なない程度に頑張るのですよー。」

 

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 試合のため、それぞれが向かい合って試合会場に入る。

 

地和「さて、それでは第一試合を始めます。第一試合は黄蓋対一刀!注目はやっぱり我らが北郷一刀!なんで出ちゃったの!?とりあえず死ぬなよー!」

 

一刀「負けるの前提!?」

 

地和「あ、それと私たちの講演料と、私の司会実況の出演料はあとでしっかりいただきますからねー。」

 

一刀「...実はもう詰んでた?」

 

地和「解説の程cさんはこの試合をどう見ますか?」

 

風「お兄さんが正攻法で勝てるとは思えませんから、何か卑怯な手を狙っているのかもしれませんね。」

 

一刀「言いがかりだ!」

 

 今回は本当に何も考えてないんだけどね。だが風の言うとおり、ガチンコ勝負を挑んで勝てるとは到底思えない。諦めてその後も盛り上がる解説席の二人を無視して、向かい合った祭に目を向ける。

 

祭「北郷。お主が相手とて儂は容赦はせんぞ?負けを認めるなら今のうちじゃ。」

 

一刀「そんなことはしないよ。でも今日は武器弓矢じゃないんだね。」

 

祭「こんなところで矢を使ったとして、観客に当たらないように相手を倒すのは面倒ではないか。」

 

 倒せる自信はあるのか。ただ、祭が飛び道具を持ってないのは好都合だ。弓矢相手はあまり経験がないから、軌道を予測してココらへんにくるってところに剣を合わせるのはできるけれど...正直、至近距離だったり不意打ちだったら急所を外すくらいしかできそうにない。その点、剣での戦いなら時間を稼ぐくらいならできるだろう。せめて衆人環視の中で無様な負け方をするのだけは避けたい。

 

隊員D「隊長、頑張って下さーい!」

 

一刀「おう!」

 

隊員E「たまにはかっこいいとこ見せて下さいよ!」

 

一刀「わかったわかった、ちゃんと見ててくれよ!」

 

愛紗「一刀様ー、ご武運を!」

 

 ...そうだな。応援してくれる人のためにも勝つ気で行くべきだ。獲物である刃を潰した直剣を握り直す。対する祭はというと、構えらしい構えはなく、あくまでゆったりと剣を肩に担ぎ、こちらを見据えている。

 

審判「それでは...」

 

 スチャ

 

審判「試合開始!」

 

一刀「せい!」

 

 開始の合図と同時に祭に向かって突進し斬りかかる。しかし、

 

祭「いい考えじゃが、相手に隙があるかくらいは見極められんとな。」

 

 軽くいなされ再び間合いをとる。祭のもっている武器は同じ直剣だ。獲物が同じなら間合いも同じ。後はパワー、スピード、腕の差をどうやって埋めるかだが...無理じゃね?

 

祭「こないのなら、儂からゆくぞ!」

 

一刀「わっと!」

 

 振りおろされた斬撃を流してダメージを最小限に留める。直剣の斬撃は日本刀から放たれるそれらに比べれば鈍器の衝撃に近い。さらに、祭は斬撃にしっかりと体重を載せて威力を増してきている。ならば、刃に刃を当てすべらせるようにすれば...!

 

祭「ほう。」

 

 勢い余った斬撃は伸びていき、放った本人は少なからずそれに引っ張られる。そこに隙が、

 

祭「これも発想はいい。じゃが儂には効かん。」

 

 祭は余裕綽々でこちらの斬撃を引き戻した剣で受ける。はやりスピードも技術も段違いだ。

 

祭「伸び代がありそうなやつとやるのは力の差があると言っても面白いな。よし。儂が少し稽古をつけてやろう。」

 

 そう言うと祭は単純な斬撃から体術を混ぜ込んだもの、一刀の反応を楽しむかのように多彩な技を繰り出してきた。その一つ一つに対応する一刀もその一撃一撃が重いためいなすので精一杯である。しかし、それが祭の嗜虐心を刺激するのか、勝負が中々つかないその様はあえてとどめを刺さないでいるかのようにも見えた。

 

霞「祭のやつ遊んどるなぁ。」

 

星「ふむ...主もよくやっているし、あれはあれで見応えがあるが...主君が家臣にいいようにいたぶられているというのは、あまり兵への心象は良くないのではないか?」

 

思春「そうでもないようだ。」

 

隊員D「隊長、おされっぱなしじゃ勝てませんよ!攻めて行きましょう!」

 

隊員E「隊長!踏ん張りどころですよ!」

 

 兵士たちはむしろ善戦する一刀に好意的な目を向けていた。普段から黄蓋を始めとする将軍の人外っぷり...もとい勇猛振りを見ている兵士からしてみれば、身体的な部分で自分たちに近い一刀の奮戦は心沸き立つものがあるのだろう。

 

祭「ふむ...このままでは儂が悪者にもされかねんな...」

 

 打ち込みつつもそう漏らす。

 

一刀「祭、遊び過ぎだって!」

 

祭「加減はしているが手は抜いておらんぞ?そこまでやれているのはお主の実力じゃ。」

 

一刀「そうかな...だとしたらそれについては先生がよかったからかもな。」

 

愛紗「...」

 

祭「ほう。じゃが、楽しい時間もそろそろ終わりにしてやろう。こんな気分のいい日はうまい酒が...」

 

 急に動きを止めた祭に一刀は一瞬疑問が浮かぶが、この好機を逃す手はなかった。

 

一刀「今だっ!はっ!」

 

祭「っ!」

 

 祭は自分に向かう攻撃に案の定一瞬遅れて反応せざるを得なかった。

 

審判「一本!勝者、北郷一刀!」

 

兵士たち「うおおおおおお!」

 

 驚きと興奮に沸く会場、その中心で少々呆然となる二人。

 

一刀「か...勝てた?」

 

祭「ま...負けたじゃと?」

 

 お互いがお互いを見て未だ疑問が拭えないが、そんなことに周囲はお構いなしだ。

 

地和「なんと!まさかまさかの大番狂わせ!北郷一刀が初戦を制しました!やるじゃない一刀!ちょっとだけ見なおしたわよ。今の勝負、程cさんはどう分析しますか?」

 

風「お兄さんが攻撃する直前、黄蓋選手に隙がありましたね。どうしてそんな隙ができたのか全くわかりませんが、もしかしたら今だ謎に包まれている、お兄さんの天の御遣いとしての四十八の能力の一つかもしれません。」

 

兵士たち「おお!!」

 

 そして勝手に設定を追加されていた。拍手喝采もまともに耳に入らないまま退場した一刀と祭は、武将たちに迎えられた。

 

愛紗「どんな手を使ったのですか?祭のあの硬直は明らかに不自然です。」

 

一刀「あれ?俺勝てたの?」

 

華雄「...まだ呆けているようだな。」

 

星「祭、お主何かあったようだがどうしたのだ?」

 

祭「いや、それが...」

 

 皆の注目が集まり、

 

祭「ふとまだ酒が飲めないと思ったら、この世の地獄が見えた気がしてな...」

 

 ズザーッ!

 

 皆盛大にずっこけていた。

 

祭「ええい!今回のはなしじゃぞ、北郷!禁酒が終わったらまた勝負じゃ!」

 

 本人は至極まともに、単純に負けたことを悔しがっていた。

 

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 さらに続いて二回、三回、四回戦を行い、翠、星、愛紗が勝ち残った。その結果、試合とは違う意味でいい勝負が行われたことで、試合会場は穴ぼこだらけとなり、それを埋めるためインターバルが設けられた。

 

地和「さあ、休憩を挟みましてやっと二回戦です!正直ちぃ疲れちゃった。あ、そういえば休憩してたところもつないでたりしたんだから、当然お給金は発生するんでしょうね?」

 

風「うーむ、そこのところは交渉次第ですかねぇ。とりあえず、一回戦でぬるっと負けた方にも、解説席に加わってもらったのですよ。」

 

霞「なんかその紹介の仕方は気になるんやけど、出来ればもっとこう...」

 

風「はい、張遼さんですー。」

 

霞「そこは無視かいな!」

 

風「相変わらずいいツッコミですね。その調子で試合にもビシバシツッコんでください。」

 

霞「いや、試合にツッコミどころって...」

 

風「そこはこう...ずばっと。」

 

霞「だめや、この子にいちいちツッコんでたら疲れる...」

 

地和「そうなのよねぇ。話の間が合わないっていうか...まあいいわ。とりあえず今はお仕事お仕事。お二人は二回戦のみどころはどこだと思いますか?」

 

霞「そら決まってるやろ。愛紗が超絶かっこ良く綺麗で気高い...はぁ〜。」

 

 そのまま硬直する霞。恐らく今はもう夢の国にいるのだろう。

 

風「どこかに旅立ってしまった人に代わりまして...やっぱり今回もお兄さんですかね。さっきはまぐれで勝てたような部分もありましたし、今回は前回みたいなことにはならないと思いますよ。」

 

地和「というとこは、ボコボコにされると?」

 

風「さぁ。そうなるかもしれないしならかいかもしれないような?」

 

地和「なんだか煮え切りませんが...勝負の方は待ってくれません!早速二回戦第一試合、北郷一刀選手と馬猛起選手の登場です!」

 

兵士たち「うおおおおおお!」

 

 二人が修復された試合会場に進み出る。

 

翠「へへっ。風の言うとおり、さっきはついてたみたいだが、今度はそうは行かないぜ?」

 

一刀「翠。それ、お話なんかでしょっぱな味方がやられて、その直ぐ後漁夫の利狙って出てきた悪の下っ端っぽい台詞に聞こえるんだけど...」

 

翠「うっせ!あたしは実力伴ってるからいいんだよ!」

 

一刀「まあそうなんだけど...」

 

審判「それではお互い位置について。」

 

 試合会場の真ん中で武器を構えて向かい合う。正直、風や翠自身の言うとおり、さっきのはまぐれによるところが大きい。だが、この試合は一本入れれば勝ちになる。ということは、さっきみたいに機を見て打ち込む方法を使えば、力量差があっても勝てる見込みはあるはずだ。そこに翠と近づいたことである感覚に気づいた。

 

一刀「おい、翠。なんか臭わないか?」

 

翠「臭い?特になにも感じないけど。」

 

 言われてスンスンと鼻を鳴らすが、翠にはなにも臭わないらしい。ということは、翠自身から発せられてる臭いなのか?

 

一刀「あ、お前もしかしておもら...」

 

翠「してねぇ!」

 

 顔を真っ赤にする。この話題にはやはりここでも触れてはいけないらしい。

 

一刀「流石にそうだよなぁ。んー、さっきの休憩中になんか食ったか?」

 

翠「ああ、そう言えば腹が減ったから貯蔵庫に行ったんだけど、すっげー高そうな小壷がおいてあってさ、そん中にはいってたやつがすっげーうまくてさ...」

 

 そこまで聞いて、臭いと合わせて一つ思い当たる。

 

一刀「おい、翠。その壺って赤かったか?」

 

翠「赤かったな。」

 

一刀「貯蔵庫の棚の一番奥においてあったか?」

 

翠「よくわかったな。もしかして、ご主人様も狙ってたな?でも残念、既にあれは全部あたしの腹の中だ!」

 

一刀「いや、それって...」

 

 得意そうにする翠に対して一刀の表情は青ざめてくる。翠が食べてしまったというその正体は、

 

??「だせ...」

 

翠「ん?なんか言ったか?」

 

??「だせぇええええええ!」

 

 ドッシーン!

 

翠「うわ!?なんだなんだ!?」

 

 わけもわからないまま地面にころがされる翠。それを見下ろしていたのは、

 

星「...」

 

 鬼の形相をした星だった。そう、翠が食べてしまったのは、俺が星に頼まれて買っておいた、一級品のメンマだったのだ。

 

翠「星!?な、なんだよ。どうかしたのかよ!?」

 

 その尋常でない様子に怖気づいたのか、半ば震えるようにそう尋ねる翠であったが、

 

星「食ったのか。」

 

翠「は、はい?」

 

星「全部食ったのかと聞いているのだっ!」

 

翠「は、はい!ぜ、全部食べました!」

 

星「...そうか...」

 

 そこで星は一度転がした翠から俺に目を向ける。

 

星「主、あれは他に用意は?」

 

一刀「た、たしかあれが最後だったはずだ...通向けの商品だからそんなに数は商ってないっておっちゃんも言ってたし。」

 

 つられてこちらも怖気づいてしまう。正直、この状態の星に勝てるやつなんていないんじゃないだろうか。

 

星「...」

 

 それだけ聞くと転がったままの翠をキッと睨む。そして、そのまま審判に向かって言う。

 

星「翠は棄権だ。私も棄権で構わん。タップリと灸を据えてやる。」

 

翠「へっ?」

 

星「審判、それでいいな!」

 

審判「は、はい!」

 

翠「ちょ、やめてくれ星!だ、だれか助けてくれぇ〜!」

 

 哀れな翠はそのまま鬼に連れて行かれた。おそらく、ここではまだ加入したてで、メンマ=趙雲の図式が出来上がっていなかったことが招いた悲劇だろう。この場のほとんどの人間はそれがわかっていたため、頂点に達した星の振る舞いに、その一部始終を黙ってみていることしかできなかった。星と翠が会場を離れる間沈黙が流れていたのだが、二人の姿が見えなくなると、

 

地和「そ、それでは、勝者、北郷一刀〜!」

 

 ガチガチにこわばった声でそう宣言する地和。どうやら今までのやりとりをなかったことにしたらしい。

 

霞「え!?もう試合終わってしもうたん!?」

 

 そしていまさらに現実へ帰ってきた人が一人。そしてその隣ではさっきまで同じく夢の国に旅立っていたはずの風がテキパキと進行を引き継ぐ。

 

風「星ちゃんが棄権したので、自動的に愛紗ちゃんが不戦勝、優勝はお兄さんと愛紗ちゃんで争われますね。」

 

霞「え?ええ!?」

 

地和「それでは決勝戦、北郷一刀対関雲長!両者前へ!」

 

霞「えーーー!?」

 

愛紗「まさかこんなことになるとは思いませんでしたが...勝負である以上、全力でお相手させていただきます。」

 

一刀「あ、棄権できるなら俺も棄権させても...」

 

審判「それでは位置について!」

 

一刀「ちょっ!そうだ、参ったて言っても負けになるんだよな?」

 

審判「はい。試合開始してから有効になります。」

 

一刀「よ、よし!」

 

審判「では...試合開始!」

 

一刀「まいっ...」

 

愛紗「いざ尋常に!」

 

一刀「うわああああああ!!」

 

 

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 −あとがき−

 

 いつも読んでくださって有難うございます。こんばんは、れっどです。

 

 本編に書きたかった話をぶち込むみたいな形になってしまいました。もちろん意味もちゃんとあるのですが。一回戦の他の試合は尺考えてさらっと流してしまいましたが...第一回ということは?ただ、ネタとしてはありきたりかなぁと自分で思ってしまったり。大会の話は萌なんかでもありましたしね。そう言えばあの大会、思春さんはどこに消えたんだ...むむむ。とりあえず、一刀君素質はあると言われてましたから、恋姫武将と打ち合ってもある程度ハンデがあれば、一年修行もありましたしある程度打ち合えるんじゃないかなってところで今回みたいな形になりました。ここから一刀君は成長...するのかなぁ。

 

 それでは、次回もお付き合いいただけるという方はよろしくお願いします。

 

説明
恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第33話になります。 この作品は恋姫†無双の二次創作です。 設定としては無印の関羽ルートクリア後となっています。
面白く書こうと思って書くのって難しいですよね...
それだけです。
それではよろしくお願いします。
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コメント
いたさん 実際にその場にいたら死ぬ思いしそうですけどね(笑(Red-x)
これは、結果がわかっていても見物ですね!(いた)
nakuさん 一刀君が女口調に!? naoさん こうなると形式的に北郷軍で二番目に強いのが一刀君ですね(笑(Red-x)
一刀運いいなw決勝までいっちまったぜw(nao)
対愛紗戦なら、一刀の心理攻撃でかなり善戦するとかしないとか。特級フラグ建築士の腕の見せ所w(R田中一郎)
決勝前に三位決定戦という名の地獄を入れてほしかった・・・・・・(アルヤ)
たっつーさん きっと誰も水洗トイレの使い方なんか教えてくれないのと同じですよ...(Red-x)
nakuさん なるほど、確かにそうですね(笑(Red-x)
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