模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第1話 |
――宇宙……、モニター越しにアタシの目の前に広がる暗黒の空間……。
星々の煌めく闇の中を、数体の巨大なロボットがまるで庭といわんばかりに飛び交い、戦っていた。
その中で一際強い機体がいた。あっという間に二体の敵を斬り伏せ倒す。
まるで剣とも取れる四枚の翼を持った肩、大型の銃、二つの目、額に一対に別れた角……その白い機体の名前をアタシは知っていた。
「ガンダム……」
アタシはふいに呟いた、ロボットの事は全然知らないアタシでも、あの機体がガンダムと呼ぶ物だという事は知っていた。
そして……あのガンダムに乗ってるのが、今日初めて会ったアタシの『友達』だと言う事も。
「何者なの?アンタは……」
茫然とするアタシの疑問をよそに、残りのロボットが一対一で戦いあう。
敵の青い、エイを背負った手足の生えたヒトデの様なロボットがガンダムに長い銃を向けビームを放つ。
ガンダムは戦闘機のような姿に変形、ビームをかわしヒトデに突っ込んだ。
銃剣つきの銃が機首になっており、巨大な銃剣が深々とヒトデを貫く。
ガンダムはそのまま機首を切り離し人型に変形、すぐさま刺さったままの銃を手に取るとトリガーを弾いた。
「――!!」
ガンダムに乗ったアタシの友達が何か叫ぶ。同時に放たれたビームはヒトデを貫通し、ヒトデは風穴が空くと同時に爆炎に飲み込まれた。
「何を……?」
爆発により照らされる宇宙とガンダム、アタシは唖然となりながら、理解出来なくてもその一部始終を見ていた。
破壊されたロボット……それに人が乗っていたことは知っていた。
そして今日会った友達が……人が乗った物を破壊した……。
でもアタシはその友達に対しても、やった事もおかしいとは思わなかったし怖いとも思わなかった。だってこれは……――
――プラモデルを使ったゲームなのだから。――
――……こうなった経緯を話す為には、その日の朝へと時間を遡る必要があるだろう。
「ふぁ〜あ……お母さんおはよ〜」
都会すぎず、田舎すぎない町、山回(さんかい)町。そのとある住宅街の一軒家。
トントンと階段を下りながら一人の少女がダイニングキッチンへと入る。
冬服のセーラー服に身を包み。赤茶色のセミロングをポニーテールに纏めた髪、頭髪と同じ色の目。
本来ならば快活な雰囲気を出してるのだろうが寝起きの為か微妙に顔にしまりがない……、名前は『ハジメ・ナナ』16歳の高校一年生だ。
「おはよ〜って、顔が緩んじゃってるぞ。ま〜だ冬休み気分でいるの?」
台所で料理中の、顔がよく似た女性が少女の顔を見ながら答える。彼女の母親だ。
「う〜、しょうがないでしょ?今まで長期休みだったんだし、まだ本調子じゃないんだから……休みボケだわ〜」
怠そうにナナはテーブルについた。そう……今日は1月7日。冬休みが終わり今日から三学期となる日だ。
冬休み明けというわけで一層ナナの気分は怠かった。
「運動部やってる子とかはそんな言い訳しないよ?やる事ないからそんなだらけちゃうんじゃないの?」
「……知んないわよ……どーせアタシは無趣味ですよーだ」
だらけた顔から一転、頬をぷぅと膨らませながらナナはむくれる。このハジメ・ナナ、器用ではあるものの今の今まで熱中した物がない。本人はその事を気にしていた。
「ハイハイむくれない。そんな不機嫌な顔もだらけた顔もダメよ?今日アンタお隣さんの子に学校案内するんでしょ?」
「あ!そうだった。前の終業式の日に先生に言われたんだっけ」
母がなだめ、ハッとしたナナが思い出す。
始業式の日つまり今日、同じクラスに転校生がやってくるから通学路と学校の案内をしてくれと担任に言われたのだ。
「でも、転校生って言ったらもっとサプライズなもんでしょ?事前にそういう事言われるのもなんだかなぁ……」
「同じクラスなんだし信用されてるって事でしょ?ま、そんな事よりせっかくお隣さんなんだもの、友達になれるといいわね」
「うん」
ナナが同意として頷く。ナナ本人としても折角隣に同い年の子が来るのだ。
友達になれる子が来てほしいとは思っていた。
「じゃあ、なおさらいつまでもお正月気分じゃまずいってわけよ。はい早く食べてシャキっとする!」
ナナの母はそういうとテーブルに朝食を並べる。並んだのは磯辺焼き、あんこ餅、お雑煮……
「……なんでこの流れで正月料理?」
「いやーお正月の余りがまだ消化しきれてなくて……、後ぶっちゃけアタシも正月気分抜けてないから使いまわしで楽したくて……」
「アンタもかい!!」
「う〜寒っ!」
準備を終えたナナは隣の子を迎えに行くべく外に出た。
制服の上にコートにマフラー、準備は万端だ。しかしそれでも早朝の寒さは肌に染みる。
ナナは白い息を吐きながら隣の家を見た。住宅街で売りに出されていた二階建ての家。
どんな家族が引っ越してきたんだろう?どんな子が来たんだろう?そうナナは一瞬思案する。
が、直後、隣の家から声が聞こえてきた。それも慌てた声が、
『オカーサンナンデオコシテクレナカッタノ!!』
『アンタジブンデオキルッテイッタジャナイ!!』
『ソレデモモウチョットキニカケテクレタッテイイジャナイ!!アーモウオクレチャウヨー!!』
『ア!アンタアサゴハン!セメテリンゴモッテイキナサイ!』
かなりドタバタしてるらしい。少なくとも暗い人達じゃないだろうな、とナナは苦笑した。
「い!行ってきまぁぁっっす!!!」
切ったリンゴを口にくわえた少女が玄関から飛びたしてきた。急いで出たらしく右手には学校指定のコートとマフラーが握られていた。
急いで口にくわえたリンゴを噛み砕き飲み込む。
「んぐっ!はぁ……はぁ……お隣さんの迎えが出る前に早くしなき――」
まだナナが出てこないと思ってたのだろう。コートを着ようとするが、その拍子に苦笑いするナナが思いっきり視界に入った。
「あー……」
「……」
途端に少女の顔が真っ赤になる。気まずさを感じながらも声をかけるナナ。
「はじめまして……」
「あ……はい……今日からこの街でお世話になります……はじめまして……」
萎縮しながら少女は答えた。
髪は首を覆う長さの黒いストレートボブ、やや垂れた目も髪に合わせた黒色で、全体的に痩せ型の体躯、断崖絶壁の胸、そしてほんのちょっと猫背。
人によっては地味に見えるかもしれないが素朴な可愛らしさがある少女だ。
ナナは緊張を解くようにやんわりと声をかけた。
「向こうで話は聞いてると思うけど……アタシが案内担当の『ハジメ・ナナ』だよ。よろしくね」
「あ……『ヤタテ・アイ』です。よろしくお願いします」
アイ、そう名乗った少女はボブの毛先を揺らしながら頭を下げた。
「へぇ、この街へは昨日来たばかりなんだ」
「はい、正直右も左も分からないのでハジメさんがいてくれて助かります」
二人はナナが案内する形で通学路を歩く、住宅街を抜け、商店街を突っ切れば後は学校まで真っ直ぐだ。
学校が近くなるにつれて通学する生徒の数も多くなってゆく。
「アハハ、ナナでいいよ。そんなかしこまった態度される程立派なアタシじゃないし」
「え?でも……」
「同い年なんだよ?慣れてないから遠慮とかあるかもだけどさ。早く打ち解けてほしいしね、この街にもアタシにも」
「うん、ナナちゃん」
「OK!」
二人が話し込んでる丁度その時、
カシャッ!
後ろからシャッターを切る音が聞こえた。デジカメだ。
「いいねぇ。可愛い転校生さんをエスコートするお隣さんの姿〜っと」
「え!?」
「その声は、タカコか」
アイは戸惑い、ナナは振り返る、そこにいたのはデジカメを持った女の子だ。
セミロングの髪型と常に笑ってそうな口元、そしてパッチリ見開かれた目は温厚かつ、呑気そうな印象もある。
「あいあい、おっはよ〜ナナ」
「おはよ〜」
「この人は?」
「アタシのクラスメート、タカコだよ」
「うぃっす初めまして転校生ちゃん。フジ・タカコだよん。新聞部所属なんだ〜」
「で、さっき撮ったのも新聞に使うわけ?」
「いやいやプライベート用、初日の記念って奴?馴染む前の初々しさってのがたまんないよ〜。可愛くて」
「え?」
再びデジカメをアイに向けるタカコと呼ばれた少女、またもアイは戸惑う。
「理屈が解んないよ……そんな事言ってると変に思われるよ……」
もう一人女の子が現れる。長見で男子と間違えかねない程のベリーショート。目はジト目でちょっと近寄りがたいイメージがある。
「あ、ムツミおはよ〜、初詣以来ね」
「おはよナナ、転校生ってそこの子……?」
ムツミと呼ばれた少女はアイを見ながら言った。アイ本人は状況が解らない様だ。
「ナナちゃん、この人も?」
「そ、二人ともクラスではアタシと特につるんでる奴らだよ」
「ミヨ・ムツミ、陸上部所属。ようこそ山回町へ……」
通学のメンバーも増え、四人並んで会話しつつ学校へ向かう。内容はアイへの質問がもっぱらだ。
「ちょっと意外かな?ヤタテさんの好きな食べ物が牛丼だなんて……」
「あはは、恥ずかしながら……女の子っぽくないってのは自覚してるんだけどね」
「じゃあ?……ご趣味は?」
「え?」
言ったのはタカコだ「何お見合いっぽく言ってんのよアンタ」とナナがツッコミを入れる。
その横でアイは少しためらう。
「?なんか引っかかる反応」
「まぁ、これまた女の子っぽくないと言いますか……変わってるといいますか」
「趣味でそんなの気にする必要ないと思うけどな」
フォローをナナが入れる。
それでもどうしようか。と思案しながら頬を人差し指でかくアイ。
「そだよ〜。世の中色んな趣味持ってる人いるんだし、例えばこっちのムツミね。『SGOC(スゴック)』の大ファンなんだけどね?」
「タカコ……?」
スゴック……国民的アイドルグループの名前だ。デビューからもう何年も経っているが人気は衰えることを知らない。
「特にリーダーのコウジ・マツモト君が大好きでさ。マラソン大会の時なんて(一位になればコウジ君がデートしてくれる……)って何度も願掛けみたいに呟いてたんだよ〜?」
「え?」
急にミヨの顔が真っ赤な慌てた顔になる。
「タ・タカコ!なんで知って・じゃなくて!言ってないよそんなの!大体趣味の話なんだからただSGOCのファンだって言えば済む話じゃないか!」
「え〜言ってたじゃん。つかSGOC好きってだけじゃ普通の趣味の話になっちゃうじゃん」
「普通でいいんだよ!!そんな事言うなら君だって!趣味の所為でボク達不審者扱いされた事があったじゃないか!」
ムツミはおかえしとばかりに話し出す。タカコはきょとんとした顔になる。
「え?あったっけ?」
「前に皆で遊びに遠出した時の事だよ。ミシマ・ライ君って言ったっけ?」
「あ!!」
叫ぶタカコ。思い出した様だ。急に彼女の顔が冷や汗でダラダラになる。
「う!ちょっと待って!」
「アイちゃん……。コイツはね、新聞部の取材を言い訳に初対面の小学生男子を質問責めと撮影責めにしたんだよ……。おかげで近くにいたゴスロリ着た人に不審者と思われて……」
「え?!」
再び落ち着きを取り戻したムツミはアイに淡々と話した。
「しかもそういうのは一回や二回じゃない……。つまりタカコはそれが趣味……」
「い!いいじゃない!あのカワイイ年代はすぐ大人っぽくなっちゃうんだから!その時の姿を残しておかないと!」
「認めてる……」
「あぁもう!はいはい転校生の前で恥をまき散らさない!」
二人をたしなめたのはナナだ。二人は「あ」と呟くと恥ずかしそうに言いあいをやめた。
「ま、そういう事よ。世の中いろんな趣味があるんだから、別に恥ずかしがる必要なんてないよ」
「うん、そうだよ。限度はあるけど……」
「そそ、変な行動に映るのも好きって気持ちが強いって事で〜」
「タカコ、君の場合はどうかと思うよ……」
アイはそんな三人を見てて緊張が和らいだようだ。言おうと決める。
「実は私……『模型』が趣味なんです」
「模型?ってことはプラモデル?」
「うん、特にガンダムのプラモデル『ガンプラ』って言うのをよく作ってて」
「色とか塗るの?」
「うん、まだ色々と未熟なんだけどね」
少し心を開こうとしてるのか。ほんの少しアイの口調が柔らかくなった。
「ガンダムかぁ……昔アタシの周りでも流行ってたから、アニメちょっと見てたけどプラモ作ってる人ってのはいなかったなぁ」
「女の子だし変だっていう人も少なからずいるんだけどね、だから迷ったというか」
「んな事ないよ。アタシ趣味ないし……」
「うん、ボク達は別に変だとは思わないよ……コウジ・マツモト君もガンプラが好きだって言っていた。コレクターとも」
「そだよ〜。思ったよりずっとノーマルな趣味じゃない」
三人の反応にアイはホッと胸を撫で下ろす。
「よかったぁそう言ってくれて、ありがとう」
「じゃあさ、今日半ドンだし、帰りに商店街のプラモ屋見に行こうよ。今後よく利用するかもしれないし」
「本当?ありがとう!」
嬉しそうにアイが言う。と、話し込んでる内に学校についた。
アイは始業式で紹介される為先に職員室に行かなければいけない。
故にアイ、そして職員室への案内役としてナナはその場で別れる。
「じゃあ私は一旦別れるね」
「うん、またクラスでね……」
「じゃついて来てアイちゃん!」
「あ!待ってナナちゃん!」
『また後で〜』
タカコとムツミは二人を手を振りながら見送る。
「プラモデルが趣味っていうのはちょっと意外だったけど、仲良くなれそうな子が来てくれたね」
「うん……、想像してたよりずっと、友達になれるといいね……」
「大丈夫だよ、きっと」
その後は始業式、クラスでのアイの紹介、新学期初日の為授業もなく早く学校は終わる。
その後アイとナナは通学路上にあるアーケード街『山回商店街』を通っていた。
タカコとミヨは部活がある為いない。平日である為人は少ないが買い物以外にも通勤や通学に使用する人間は数多くいる。
今はまばらだが、朝通った時は多くの人間が道幅8メートルの空間を行き来していた。
「それにしても商店街が通学路になるとは思わなかったなぁ。家からも近いしプラモ以外でも結構使い勝手よさそう」
「この辺ショッピングモールないからね、大体のこの近辺の人はここ利用するんだ。駅とかも近いからね。通る人は一杯いるよ?っと、あそこかな?」
と、ナナはプラモ屋を見つける。ナナには通り慣れた商店街だがプラモ屋を意識した事はない。
様々な店が立ち並ぶ中、看板にはデカデカと『ガリア大陸』と書かれていた。
「変な名前ね。プラモ屋なのに大陸って付くなんて」
「店の名前なんてそういうのばかりだよきっと」
二人は中に入る。入ってすぐ左にレジが見える。客はまばらだがどういうわけか店員の姿は見えない。
商店街の店の構造故か横の広さはそれほどでもないが奥行きはかなりある。
ガンプラ以外にも別のプラモデル。道具、塗料、かなりの種類が揃えてあった。
「店員いないなんて不用心ね〜。それはそうとしてどんなもん?普段プラモ屋行き来してる身としては」
「結構、ううんかなりいいよこれ。広さもあるし揃えも十分。後はもう一つあれば個人的にはいう事ないかな……?」
「ん?もう一つ?」
キョロキョロと何かを探す様に辺りを見回すアイ、とその時だった。
ドン!という爆発音が天井から響き、同時に上からどよめきが起こる。
「何?今の音」
「上の階か。行ってみよう」
「あ!待ってよアイちゃん!」
アイはレジの隣にある二階へ続く階段へと走る。ナナには何が起こったかさっぱりだがアイには馴染みのある音だった。
二階、そこには一階と比較してまるで別の店の様だった。模型に関する商品の類は一切置いておらず階段の近くに丸テーブルとイスが数個おいてある。
奥の部分には台座に乗った楕円形の機械が左右三個ずつ置いてあった。機械の左側にはスモークグレーの出入り口がついてある。
更にその機械に挟まれるようにして中央奥には大型の観戦モニターが設置されており、そこに数人の子供達が集まっていた。中には女の子もいる。
「おぉ〜これぞまさしく」
「なんかゲームセンターみたいになっちゃったけど、何あれ?」
「ガンプラバトルだよナナちゃん」
疑問を持つナナに待ってましたと言わんばかりにアイが説明する。
「ガンプラバトル?名前聞く感じプラモで対戦するってわけ?」
「そ、作ったレベルや改造で強さが変わったり、何より自分の作ったプラモに乗れるっていうのが魅力なんだ。大人気なんだから!」
「へぇ〜こんなのが実現してたなんてね、で、早速やってみる?」
とそこへ後ろから沈んだ声が聞こえた。
「ガンプラバトルだったら今は難しいよ……」
『っ!?』
不意打ちだった為、二人はビクッとなりながら後ろを振り返った。後ろにいたのは『ガリア大陸』と描かれた前掛けをつけた一人の中年男性だ。
年は40代半ばと言ったところか。ヒョロッとした体躯、短髪に無精髭、そして丸縁のメガネ、顔つきはいいのだが情けないオーラが出てた。
それとは別に落ち込んでるのか声の通りどよ〜んとした暗い雰囲気を放っている。
「あ、もしかして店長さんですか?」
「いや、バイトの店員だよ」
「紛らわしい。で、無理ってどういう事よ」
「荒らしだよ。今日Gポッド6個中2個故障しちゃってて、荒らしの人達が3個使って対戦相手リンチしてるの。
『どかしたきゃ1人で俺たちに勝ってみせろ』って言っててね」
『Gポッド』先程説明した楕円の機械の事だ。1つの筐体につき参加出来るのは1人が原則となる。
つまり4個中3個を荒らしが占領したと言う事。
前方にたむろしてる子供達も言ってるのは文句ばかりだった。下に聞こえたどよめきもこの愚痴だったのだろう。
「うわセッコ!バイトとはいえ店員なんでしょ?!ならなんとかしてよ!」
「注意したんだけど、逆にボロクソ言われちゃってね……」
店員が悲しそうに俯く、その時の事を思い出したのか更に暗い雰囲気が増した気がした。
甲斐性なし、二人はそんな言葉が浮かぶ……
「だからそんな暗い雰囲気だったのね……」
「ともかく今は無理だよ。時間が経てば収まると思うから君達も……」
「要するにその3人に勝てばいいんですよね?」
黙ってたアイが口を開く。と、同時にアイが空いてるGポッドを見据える。
「アイちゃん?」
「次は私が対戦しますよ。急いでるから更衣室でヘルメットだけ借りますよ」
「え?!ちょっと待ってよ君!相手は三人だよ!?」
店員は動揺する。アイの印象からして店員はアイが強そうには見えなかったからだ。だがアイはその反応を余裕ありげに返した。
「大丈夫。任せといて」
そして観戦モニターより奥にある更衣室でヘルメットだけを取ってくると、アイは空いていたGポッドの扉を開け中に入る。
ボールの内側のようなスペースの中にあったのはシートと操縦桿、そしてフットペダル。ガンダムお約束の操縦席、その再現というわけだ。
アイはサイフからカードを取りだしシートに座った。
――住む場所が違っても、ここはどこ行っても変わんないよね――
アイはヘルメットを被るとシート右後方の機械からコードを引き出す。巻き取られたコードがカチカチと音を立てながら引っ張られる。
そのままアイはヘルメットの右耳部分に設置されてるイヤホンジャックに繋いだ。
Gポッドとヘルメットは繋がれ、これによりバトル中の通信が可能になる。通常はパイロットスーツと併用するのだが今は急いでる為着ない。
続けて前方の機械のスリットに自身の戦績やパーソナルデータの入ったカードを挿入。カードを認識するとシートの右側に備え付けてあったスキャナーが開く。
丸い黄緑色のスキャナー、その外見は機動戦士ガンダムにおけるマスコットロボ『ハロ』を模した物だ。
「初陣だよ。ここでの私にとっても、あなたにとっても……」
アイは呟きながら鞄からガンプラを取り出す。
ガンダムAGE2、ストライダー形態と呼ばれる戦闘機に変形可能な機体だ。
スキャナーにガンプラを入れ、数秒で読み取られるとそれが己の搭乗する機体としてガンプラバトルの世界へと映しだす。
まず映ったのはステータス画面、左側に自分の機体の姿、
右側には『素材剛性』『間接可動性』『間接保持力』『工作精度』『表面処理精度』『塗装/印字精度』と横棒グラフでガンプラの評価がされていた。
これがバトルでは機体性能に直結する。アイのAGE2はいずれのグラフもまちまちの評価だった。
――間接可動は……AGE系だしやっぱ素で高いよね。塗装は思ったより伸びないけど……うーん、筆でスプリッターはマズかったかなぁ――
そう呟いてると画面が戦艦内の格納庫内に切り替わる。
目の前をCGで再現されたオブジェクトの整備兵が無重力の格納庫を通り過ぎる。
――今回は宇宙ステージなんだ……――
アイは無重力の演出からステージを予想する。ガンプラバトルでは多種多様なステージが用意されている、宇宙も地上もバリエーションは豊富だ。
『今回のステージはサイド7宙域です』と画面に表示される。
サイド7、ファーストガンダムに置いて物語の発端となった場所だ。
『ゲームをスタートします。戦果を期待します』
目の前のカタパルトが開き音声アナウンスによるバトル開始の合図が響く。
荒らしを退治しなきゃいけないのにワクワクする……。妙な高揚感をアイは感じていた。
「じゃ、参りますか……。ヤタテ・アイ。ガンダムAGE2!いえ!AGE2E(エンハンスド)出ます!」
アイが叫ぶと同時に艦のカタパルトがAGE2Eを射出する。強烈なGがアイを襲う。
「くぅぅっ!!やっぱこれないと……乗った気になんないよ!!」
仮想空間にオブジェクトとして配置されていたペガサスを模した戦艦、ホワイトベースからアイの乗ったAGE2Eが飛び出す。
バトル中は機体の動きがGポッドに振動という形で連動される。
まさにGポッドに入ったアイはガンダムAGE2Eに搭乗しているのと同様だった。
「さて相手は……?」
目の前の画面に広がる宇宙をアイは見回す。真っ暗だったGポッド内部は、球体の内側状の360度全てがモニターとなりフィールドを映す。
遠くに円筒状の巨大な衛星、シリンダー型のスペースコロニーが見える。
あれがガンダムの世界において宇宙に出た人間が住居している場所だ。
と、荒らしがこちらを見つけたのだろう。結構な量のビームが飛んできた。が、距離が離れすぎてる為当たらない。
この距離じゃスナイパーライフルでもなきゃ当たりっこないのに……とアイは心の中で呟いた。
「まぁいいや!こっちから行ってあげる!!」
アイはAGE2Eを変形させる。下半身後ろに90度せり上がり、肩も90度畳まれる。
手に持った銃が機首となり頭が胴体に沈む。人型から鋭角的な戦闘機の姿へと変わった。
戦闘機形態、ストライダー形態だ。アイはビームを確認した方向へと大推力で飛んで行った。
一方荒らしの三人は獲物がかかったと歓喜していた。
「ハ!またカモがネギしょってやってきやがったか!さっきみたいに撃ち落しな!」
リーダー機のエイを背負ったヒトデの様なフォルムの青い機体、『ハンブラビ』が重火器で固めた二体の僚機に指示を出す。
僚機は背中左右に、開いた扇型のバインダーを持った大柄な黄緑の機体。『パラスアテネ』。
右腕に二連装のビーム砲を装備、左右のバインダーには四つずつの対艦ミサイルを装備していた。
またパッと見では解らないかもしれないが全身にビーム砲を装備している。どちらもZガンダムに登場した敵機だ。
『了解だ!兄ちゃん!』
二体のパラスアテネが同時に答えながら撃ちまくる。三人とも兄弟の様だ。
肩部や右腕部のビーム砲で敵機をおびき寄せ、近づいてきたら背部の対艦ミサイルを一気に撃ち込む算段だ。
二機合わせてミサイルは16基、それで弱らせて倒すというのが荒らしの戦法だった。
「俺らは三機!向うは一機だけ!」
――今日は平日の昼だから来てるのはガキばかりだ!またとない稼ぎ時になる!――
ハンブラビに乗った長男が笑いながら思った。この三人の目的は勝利による戦績ポイントだ。
このポイントは勝利回数が多ければ多いほど溜まっていく。溜まったポイントは強者の証でもあるのだ。
同時にポイントの溜まった。つまり経験豊富な実力者は倒せば得られるポイントも高い。
だが経験や実力の浅い子供でも多少のポイントはある。経験の少ない子供相手でもち少量ののポイントは手に入る。
だがそれを重ねれば結構な量のポイントが手に入るわけだ。
「小さな事からコツコツと!そしていずれは、あの三人を超えて―「に!兄ちゃん!」
悦に入ってた長男は次男の慌てた声で現実に引き戻される。
「どうした?」
「当たらない!いくら撃っても!早い!」
「なにぃ!?」
高速でアイの乗ったAGE2Eストライダー形態は突っ込んでくる。
パラスアテネは撃ちまくるがストライダー形態のスピードに補足しきれない。
AGE2Eは一機のパラスアテネに機種の銃『ハイパードッズライフル』をパラスアテネに撃ち込んだ。
高出力のビームがパラスアテネを襲う。
「ぅ!うおおお!!!」
慌てたパラスアテネの搭乗者は、機体をシールドで防御する。
ビームはシールドに当たるが、その衝撃は凄まじくパラスアテネの左腕ごとシールドははじけ飛ぶ。
はじけ飛んだといっても内部機構は存在しない。衝撃でパーツが分解しただけだ。
ガンプラはバトル内では20メートル近い巨大なサイズとってはいる。
が、あくまでプラモとして表現されている為、中に機械があるわけではなく空洞だ。
「なんだとぉ!!」
割れたパーツと共に衝撃で体勢を崩すパラスアテネ。バーニアをふかし姿勢を整えAGE2Eに向き直る。
見るとAGE2Eは人型に変形し間近に迫っていた。
そして銃身についた剣を振り下ろす。
「う!うわぁぁ!!!」
パラスアテネはあらかじめ右手に持っていたビームサーベルで銃剣を受け止める。
パラスアテネ全長はAGE2Eのひとまわり大きい。しかし相手の方がパワーは上だ。
「な!何だコイツ!外見だけじゃない!パワーも!」
素人じゃない!パラスアテネのパイロットはそう思わざるを得なかった。
ボディの色はコバルトブルーとスカイブルーの分割したような塗装。スプリッター迷彩という奴だ。
両足外側にはガンダムアストレアFの足についていたアタッチメント。銃剣の正体は同じくアストレアのプロトGNソードだ。その上完全にパワー負けしている。
「こんなもの振り回すんだから間接強化位やるでしょ?」
「お!女の声!?」
アイのAGE2Eは腕関節のポリキャップに瞬間接着剤(少量)を使い関節をきつくしていた。
バトルではこれがパワーの向上につながる。
そのままAGE2EはGNソードでビームサーベルごとパラスアテネを叩き斬る。
「何者なんだお前はぁぁ!!」
真っ二つにされ断末魔と共に爆発するパラスアテネ。
だがそのタイミングを見計い、AGE2Eの背後からもう一機のパラスアテネが斬りかかって来た。
「私は……」
「敵は一人じゃないんだよ!」
「あぁもう!人が答えようとしてるのに!」
声高らかに叫ぶパラスアテネのパイロット。だがアイはすかさず左手にビームサーベルを取りだす。
手を持ち上げ、後ろを向いたままパラスアテネのビームサーベルを受け止めた。ビーム同士が接触し激しいスパークを起こす。
AGE2Eの頭上が、パラスアテネの顔面が照らされる。
「何ぃ!?」
「でもただのゴリ押しじゃ勝てないよ?」
アイはそう言うと、ハイパードッズライフルの握られた右腕だけを後方のパラスアテネに向ける。
「ヒッ!?」
パラスアテネのパイロットが気づくも遅く、ドン!という音が響く、直後パラスアテネの胸部、コクピットはビームに撃ち抜かれていた。
「強い……!二体まとめてあんな簡単に!」
店員が叫ぶ隣で観戦モニターを見ていたナナはアイの操縦するAGE2Eを茫然と見ていた。
「ガンダム……」
観戦モニターを介して聞こえるアイの声は凛として、自信に満ちていて、
それでいて楽しそうで、あまりにも今朝の印象とは違い過ぎた。回りの見ていた子供達も見入っていた。
「ス・スゲェよあの姉ちゃん」
「ある程度やりこんでないと出来ないぞ……」
「戦い慣れてる!」
「何者なの?アンタは……」
「クソォ!!ただじゃおかねぇ!!」
弟達の援護をしようとしていたらあっというまに弟達がやられた。
ハンブラビの搭乗者が納得できないと言わんばかりに叫ぶ、そして手に持った長大な銃、フェダーインライフルでAGE2Eを狙い撃った。
「んっ!」
アイはたやすく回避する。が、ハンブラビは急接近、
ライフルの柄から発生させたビームサーベルでAGE2Eに斬りかかる。フェダーインライフルは半回転により遠近に対応できる複合兵装だ。
「折角の稼ぎ時だったんだぞ!それをお前は!!」
「荒らしやってた人間の言う事ですかぁっ!」
アイはGNソードの刃でフェダーインライフルを受けながら叫ぶ。
「勝ち目的なら数で押すんじゃなくて自分で作り込んだらどうなんですか!?」
アイが叫びと同時にAGE2Eがハンブラビを薙ぎ払う。
弾かれたハンブラビは隠し持ってた武器を取り出す。海ヘビと呼ばれる物だ。
名前の通り蛇の頭の様な先端部をワイヤーで撃ち込み電流を流す。テーザーガンの様な武器だ。
「初対面が説教垂れんなぁ!!」
海ヘビを放つと先端部はAGE2EのGNソードに巻きついた。直後高圧電流がAGE2Eを襲う。
「つぅっっ!!」
機体には電撃だがGポッドには振動という形で反映されていた。
ただ揺れ方が尋常でない。しばらくして電撃が止むがAGE2Eはその場で動きを止めたままだ。
「だがここまで俺達を苦しめたお前だ。いいポイントが稼げそうだな!」
フェダーインライフルを構えるハンブラビ。このままAGE2Eを撃ち抜くつもりだ。
「元は取らせてもらうぜ!」
「くっ……」
フェダーインライフルからビームが放たれる。だがその瞬間
「なんてね!」
「!?」
全然効いてないといわんばかりにアイが叫ぶと同時にAGE2Eの眼が輝く。
そして再びストライダー形態へと変形。ハンブラビめがけ突っ込む。しかし前方にはハンブラビの撃ったビームが迫る。
「よっと!」
アイは速度は変えずAGE2Eを横向きだった姿勢から縦向きに変える。機体のすぐ横をビームが掠めた。
「何!?」
「ぅおおおお!!!!」
AGE2Eは最大推力でハンブラビに突撃する。ハンブラビのど真ん中にGNソードが突き刺さり、そして刃が背中から貫通した。
「何故だ!海ヘビ食らって全然元気じゃないか!」
「さっきの海ヘビのパーツ切り取り後…バリ(パーツを切り離した部分のでっぱり)がまだ残ってたよ。あれじゃ本来の威力出せないよ!」
AGE2Eは、ハンブラビに銃剣が突き刺さったまま機首を切り離し変形、
刺さったままのハイパードッズライフルのトリガーに指をかける。
「もっとも海ヘビ一発でやられる程柔に作っちゃいないけど!」
「そ・そんな……!百均だけどちゃんとニッパーを使ったのに……!」
トリガーを弾くとゼロ距離で放たれたビームがハンブラビを撃ち抜く。
「ニッパーは二千円以上がベスト!」
「駄目なのかぁぁっっ!!」
胸部に穴の開いたハンブラビは断末魔と共に爆散、これによりバトルはアイの勝利となった。
「何を……?」
そして見ていたナナは言ってる内容がさっぱり解らなかった。
「お!おぼえてろよー!」
Gポッドからアイが出てきた時、荒らしは捨て台詞と共に姿を消していた。
「んん〜完勝。幸先いいかな」
バトルの結果に上機嫌だったアイ、そこへたむろしていた子供達が集まる。
店員も喜んでいた。(暗い印象は無くなってたが情けない印象はそのままだった。)
「有難う君!ガリア大陸は救われたよぉぉっ!!」
「凄いやお姉ちゃん!どうやったらあんな強く作れるの!?」
「有難う姉ちゃん!これで皆でバトル出来る!」
「俺と一緒にお茶しない?」
「わわ!皆ちょっと待って!」
興奮気味の子供たちに戸惑うアイ、しかし一番戸惑っていたのは……
「アイちゃん!」
「あ、ナナちゃん」
ナナまで群がる子供にまぎれながらアイに詰め寄る。
「凄いよ!あんな簡単に三対一で勝っちゃうなんて!」
「いやーまだまだだよ。相手が弱かっただけで」
「でもあのガンダム……だよね?あれもアイちゃんが作ったんでしょ?あれ?モデラーって奴?」
「アハハ、モデラーなんて大層なもんじゃないよ。モデラーじゃなくて……」
――それは……現実の世界にとてもよく似ていて……だけどほんの少しだけ科学の発展した、こことは違う世界のお話……
科学技術の発展は、CGによる仮想空間の中でガンプラ同士を競い戦わせる『ガンプラバトル』が実現していた。
それに参加する者達、作り、戦い、作品に魂を込める者達を人はこう呼んだ……――
「模型戦士・ガンプラビルダー」
――2014年1月、その日、山回町に新たな風が吹いた……――
読んで頂きありがとうございます。
この作品の元ネタ、『ガンプラビルダーズ』は『ガンダムビルドファイターズ』の原型作品とも言うべきOVA作品です。
用語は一部共有している物の別世界の話なのでプラフスキー粒子の類は一切出てきません。完全にCGの仮想空間です。
それと実は戦績ポイントのくだりは捏造設定だったりします。
まだまだ未熟なのでご指摘、ご感想等頂ければ嬉しいです。
なお、モデルの方に登場オリジナル機をガンプラで再現した物があります。
http://www.tinami.com/view/626075
設定資料の代わりにして頂ければ幸いです。なお、自分の投稿した物はあくまで『再現』ですので実際主人公達が作った物はもっとうまいです。(そのままだと何故か自分のガンプラを自画自賛してるような気がして……)
説明 | ||
第1話「やってきた転校生」 ※この作品は『模型戦士ガンプラビルダーズ』の二次創作になります。 始めまして、コマネチと申します。ガンプラやそれを題材にした作品が大好きです。 好きが高じて『自分でもガンプラ作品を作ってみたい!』そう思いこの作品を書きました。 未熟な駄文ですが読んで頂けたら幸いです。よろしくお願いします。 |
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