恋姫婆娑羅 |
「荒野の決戦」
町から二、三里程離れた荒野に立つ二つの人影、奥州の独眼竜、伊達政宗と曹魏の覇王、曹孟徳である。
「・・・準備はいいか?曹孟徳さんよ」
「いつでも良いわ。あなたこそ覚悟は決まっているのかしら?」
戦いが始まる前から、この二人から発される圧倒的な覇気により大地が揺れる。そんな二人を少し離れたところから見ている三人の従者、片倉小十郎と夏候惇、夏侯淵である。
「なぜ華琳様がこのような危険なマネをしなくてはならないのだ・・」
「姉者、華琳様が自らのご意思で、あの男の挑戦を受けたのだ。我々に出来るのはただ見守ることだけさ・・・」
「しかし秋蘭・・・もしもの事があれば・・」
夏候惇と夏侯淵は曹操のことが心配なのだろう。先ほどから同じようなやりとりを何度も繰り返している。対する小十郎はただ向かい合う竜と覇王を見つめている。
乾いた大地に風が吹き抜ける。己の獲物をその手に握り、竜と覇王は駆け出す。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
竜の爪と死神の鎌がぶつかり合い、火花を散らす。五合、十合、二十合、打ち合う二人はどこか楽しげだった。
「上出来だ!!覇王さんよ。まだへばっちゃいねぇよな?」
「流石に、自ら竜を名乗るだけはあるわね。でも、この程度でこの曹孟徳の首は取れないわよ」
「そうこなくちゃな!なんせPartyは始まったばかりなんだからな!!」
竜の一爪が荒々しく振るわれ、覇王の身体に爪を突き立てる。曹操はそれを往なし、躱し、反撃に転じる。舞い踊るようなその鎌捌きに政宗の気分も上がる。
(♪〜、こりゃなかなか楽しいPartyになりそうだぜ・・)
(言ってはみたけど・・この男とんでもないわね。これだけ打ち合って息切れどころか、ますます技の切れが上がっていくわ・・・長期戦は不利ね・・なら!!)
竜と覇王の饗宴に先ほどまで青い顔をしていた夏候惇、夏侯淵も釘づけになって見つめている。二人もまた武人、この荒々しくも華やかな戦いに心奪われているようだ。
短期決戦で竜を沈めることに決めた曹操はこれまでの清流のような太刀筋から打って変わり、激流の如く激しい攻撃を行っていた。荒ぶる死神の鎌は竜の魂を狩り取るように政宗に襲い掛かる。
だが、当たらない・・・この斬撃の嵐の中で決定的一打が生まれない。政宗はまるで予知しているかのように鎌を躱す、紙一重とはまさにこのことだろう。さしもの曹操にも焦りの色が見え始める。だがここで引くのは己の誇りが許さないと手を休めることはしない。
(そろそろ終いか・・・)
大振りになってきた攻撃の隙に腰から抜いた三爪を叩きつける。
「MAGNUM!!」
「きゃっぁ!?」
「「華琳様!?」」
強烈な一撃を受け吹き飛ばされる曹操に夏候惇、夏侯淵はまたも青ざめる・・・が立ち上がった主をみて安堵の息を吐く。
「あれ食らって起き上がるとはな・・・なかなか根性あるじゃねぇか?」
「ぐっ・・・まだよ・・・まだやれる!!これから天を目指す私が・・この程度で・・・!」
そうはいうが、曹操は己の限界が近いことを悟っていた。鎌を握る手もすでに握力は無く、赤く腫れ上がっている。足も上手く動かない。しかし、曹操の眼からは未だ光は消えていなかった。
曹操の姿を見つめる政宗は彼女に問いかける。
「曹操、あんたは何をもって天下を目指す?」
急な問いかけであったが曹操は堂々とした声で告げる。
「・・力よ・・・私は、私の持つ力をもって天を制す!!」
「・・・その力で、泣く奴らが居てもか?」
「覚悟はとっくに出来てるわ・・・私の唱える覇の道はきっと多くの者を傷つけるでしょう。でも非道も道の内になるのがこの戦乱よ! 私の理想のため・・・私の信念のため、そして私を信じてついてきた者たちのため、この曹孟徳が天を取る!!」
曹操の言葉が荒野に響く、彼女の従者の二人はその姿と言葉に涙を浮かべている。
(なるほどな・・・大した覚悟と信念だ。だったら)
政宗は一度、刀を納める。怪訝な顔をする曹操を見つめ六の刀、竜の六爪を引く抜く。曹操は目を見開き、夏候惇と夏侯淵もその姿に驚愕する。
「・・・独眼竜・・なるほど、それがあなたの本気ということね?」
「That's right・・・あんたの信念、この独眼竜、確かに見させてもらった。だから、俺も本気ってやつを見せるのが礼儀だろ?」
「・・そうね、ならばその本気この私に示しなさい!!逃げも隠れもしない!!正面から受けてあげるわ!!」
その言葉を引き金として政宗は天高く飛び上がり曹操目掛けて六爪を振り下ろす。
「PHANTOM・・・」
「「華琳様ァーー!!」」
荒野に夏候惇と夏侯淵の悲痛な叫びが木霊した。
・
・
・
六爪は曹操の眼の前で止まった。しかし、曹操は動かない・・・否、動けないのだ。六爪が振り下ろされる直前、曹操はついに力尽き気を失っていた。それでも倒れなかったのはその身に宿る覇王としての誇りか、はたまた、己の信念故か。
政宗は苦笑しながら六爪を納める。
(最後の最後まで眼を閉じなかったな・・・全く大した娘だぜ・・・)
気を失った曹操を抱え、従者たちのもとへ行き、曹操の身を預ける。泣きながら駆け寄った二人の従者は主が生きていることを確かめ安堵するのだった。
「政宗様、お心はお決まりになられたのですか?」
小十郎が問う
「まぁな・・・その話は曹操の目が覚めてからでも遅くはねぇだろ?」
そう言うと政宗は夏候惇と夏侯淵に声を掛け、町に戻ることを提案する。二人はその提案をすぐに受け入れ急いで町に戻るのであった。
あの決戦から一夜明け、曹操が目を覚ました。起きた曹操が最初に見たものは、大泣きしていたのだろう・・目の周りを赤く染めて喜ぶ二人の従者だった。
「よぉ、目が覚めたみてぇだな」
「政宗・・・」
部屋に入ってきたのは政宗と小十郎であった。小十郎の手には剥かれた桃が皿に乗せられている。
「昨日、倒れてからなにも食ってねぇだろ、取り合えずこれでも食え」
出された桃を見ながら曹操は政宗を睨む
「そんなものを食べている暇はないわそれより・「クゥ〜」・・・・」
「腹の方は口より素直のようだな?」
正直は自分のお腹を恨めしそうにさすり、渋々といった感じで桃を食べていく。やはり空腹だったのだろう、三つ程剥いてきた桃はあっと言う間に無くなった。
「腹ごしらえは済んだな?じゃあ本題といこうか」
「えぇ・・それであなたは結局どうするの?私としては変わらずあなたたちを仲間に引き入れたいのだけど?」
曹操からしたらあの一騎打ちで政宗の強さを間近で見て、感じたのだ。なんとしても仲間にしたいと考えていた。
「・・・あんたが掲げる覇道の行く末、この独眼竜が見取ってやる。」
「それは私たちに手を貸してくれる・・・そう言うこと?」
「あぁ、だが一つ条件だ。あんたと俺は対等だ、もしそれが認められないなら・・・」
「・・・いいでしょう。それで竜の力が私の国に宿るなら・・」
「交渉成立だな?」
「曹孟徳に二言はないわ!!」
「小十郎の分かったな!」
「承知いたしておりますれば!」
こうして、奥州の双竜は曹操の覇道に手を貸すことになったのであった。
「それでは、仲間になったということで政宗?・・あなたに私の真名を教えるわ」
「Ah? 真名?そりゃなんだ?」
「あら?知らないの真名とは、その者の本質を表した本当の名前、本人が許さない限り知っていても決して口にしてはいけない神聖な名よ」
(そういや、曹操のことを華琳とか呼んでたな・・・あれか・・・)
「それを教えるってことは、俺らに心を許したってわけか?」
「図に乗らないで、これから仲間としてやっていくのだからそれくらい教えてあげても良いかと思っただけよ!!」
少し赤くなりながら曹操はまくしたてる。
「まぁ、教えてくれるっていうならしっかりと覚えとくぜ」
「なにか釈然としないけど、まぁ良いわ。私の真名は華琳、そして夏候惇が春蘭、夏侯淵が秋蘭よ」
「おいおい、そっちの二人のも聞いちまっていいのかよ?」
「私が良いと言っているのよ。ねぇ?春蘭、秋蘭?」
後ろの二人は黙って曹操の言葉に頷いている。夏候惇の方は何か言いたげだったが・・・
「では、次はあなたたちの真名を教えてくれる?」
「Ah~ それなんだが・・・俺らには真名なんてもんはねぇんだよ。まぁ、政宗や小十郎が真名に当たるか?」
この言葉に曹操たちは息をのむ。
「・・・じゃあ、なに?あなたたち初対面の私たちに真名を名乗ったと言うの?」
「そうなるんじゃねぇか・・・」
曹操たちは信じられないものを見ているような顔をしている。双竜はなんだか居心地が悪くなってきたので、話題を変える。
「まぁ!!そんなことは良い。これからよろしくたのむぜ華琳?」
「・・・そうね、あなたたちの力、期待しているわよ政宗?」
そう言って二人はがっちりと手を握る。今ここに魏王と竜の契が結ばれた。
続く
戦闘描写ってめちゃくちゃムズいね・・・なんかすごく中途半端で説明不足感が否めません。
こんな小説ですがこれからもどうか良しなに。
それでは、ここまで読んでくださった方には最大級の感謝を!!
説明 | ||
初めてコメントをもらったんですが・・・嬉しいものですねww というわけで第四話、戦闘描写についてはどうか寛大な心で・・・ |
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コメント | ||
劉邦柾棟さん コメントありがとうございます! なるほど〜気が付きませんでした・・・そういえば中の人夏候惇やってましたねwww(KG) ある意味で、華琳(曹操)と伊達政宗(「夏侯惇」中の人ネタ)の戦いが良いな〜。(劉邦柾棟) |
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