アニネプDD!第四話【私達の決意(ターン)】
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〜リーンボックス ズーネ地区離れ小島 中央部〜

「むかしむかし、あるところに女神さまが生まれました」

 

子供に聞かせるような優しい声で、マジェコンヌが語り始める。

全身をコードで巻かれ拘束されピラミッド状に張られたバリアのせいで刻一刻と命が削られているにもかかわらず、安心して聴けるような錯覚に陥っていた。

 

「生まれた女神は女神として生まれるはずでした。しかし、それは違うものだったのです。生まれた女神さまは普通の女神さまのように人々の信仰…希望を糧にして生きるものではなく、むしろ逆の人々の恨みを糧にして生きなければならなくなってしまったのです」

 

「人々の恨み……?」

 

「そのことを知ったにんげんは女神さまをころそうとしました。しかし女神さまはそのころそうとするいしすら糧にして、なんと国からにげだしたのです。女神であるはずの女神さまに向けられる感情は恨み。女神さまはにんげんを襲うモンスターに近いことにしったにんげんは裏切られたとおもい女神さまをひどく恨みました。しかしそれすらも女神さまは糧にします。女神さまは逃げながら、密かに生き残りながらも世界中から力をたくわえていたのです」

 

「……何がいいたいの、ベラ」

 

楽しそうな表情をするマジェコンヌを睨みながらブランが聞く。

その問いにも嬉しそうな顔をしながら答える。

 

「お伽噺ってさぁ、哀しい物語ばかりだよねぇ。童話もああ見えて本当は怖いものばかり」

「……質問に答えて」

「どうせ出るなら、怖いお伽噺より楽しい英雄譚に出たいと思わないかな?」

 

とても真面目に答えているように見えないマジェコンヌをさらに睨み付けるブラン。

それも無いかのように軽い様子で瓦礫の山を降りそっと四人を覆うバリアに触れる。ジュウウウという肉の焼ける音と共にマジェコンヌの掌から黒煙が上がるのを見て全員が息をのんだ。

 

「この通り、出れないよ。女神は決して入れないし、出れない。女神を拒絶する意志の結晶」

「……あなたは、何が目的ですの…?」

「さっきも言ったでしょ?どうせ登場人物になるのなら、お伽噺の犠牲者じゃなくて英雄譚の敵役のほうがいいってだけ」

「いやー、なんかもう英雄譚どころかSFのバッドエンド一直線に見えるなー」

「これぐらいの難関も越えられないで英雄を名乗られても名前負けだよ?」

 

英雄譚の敵役。

それはつまり【最終的に負けることが前提】ということ。自らが負けることが当然と言っているのだ。

こんな絶望的な状況を作り上げておいてなお【自分は最終的に負ける、その逆転劇を楽しみたい】と言っているのだ。

あまりにもおかしい。理解できない。そんな表情をする四人を見てマジェコンヌは微笑んだ。

 

「理解されても困るよ。英雄譚は敵をバッタバッタとなぎ倒してこそでしょ?敵の都合なんて考えてもしょうがない。自らの意志を貫いてこそ英雄だよ」

 

むしろこれは前座だよ?と首をかしげるマジェコンヌに真っ先にネプテューヌが反応した。

前座なのは『この罠』ではなく『((自分たち|四女神))』のほうではないか、ということだ。となれば、マジェコンヌの本来の狙いは------

 

「まさか、狙いは……ネプギア達!?」

「なっ……!?」

 

ネプテューヌの問いに対して、マジェコンヌは微笑み、かと思ったら急速に表情を消した。

 

「正直なところ、四女神がこんなあっさり脱落するとは思ってなかったんだ。こんな簡単に終わっちゃあ三流SFバッドエンドだよ。まぁ次は順当に考えて女神候補生たちじゃないかな?それまで脱出の算段でも出してみたら?見つかるといいね。そういえば物語ではとらわれた女兵士って割と凄惨な目に合うよね。悲惨でもいいかな?まぁ女同士だしそこまで穢れるような目には合わないよたぶん。あ、でもやっぱもうちょいストリップでもしてみる?ほら、いろいろ別方向で人気とれるかもよ?人生間際の女神のグラビアとか誰が得するんだろうね、逆にやりたくなってきた」

 

表情をなくし、畳みかけるように話す速度を上げたマジェコンヌ。口をはさむ暇を入れずに言う内容に平然とろくでもないものが混じっていたがそこは気にせず、誰もマジェコンヌを睨むことでしか返せなかった。

 

「さて、こんな人知れない場所で消えられても流石にそれはそれで微妙だよねぇ。ワレチュー」

「はいはーいッチュ」

 

返事と共に黒いネズミ型モンスターがカメラを持ちバリア上を駆けずり回って写真を撮っている。

女神と違いシェアエナジーに影響されない生物だからか平然と走り、多方向から撮り、小さなノートパソコンを操作している。

 

「写真…?まさか……!」

「明日の記事は『【速報】罠にあっさり引っかかって完全敗北した女神【終了】』だね」

「きゃー!ねぷ子さんの触手プレイとか流出すんのやーめーてー!あ、ローアングルはベールだけでね!ベールだしそういう担当」

「もう少し緊張感持ちなさいよあんたは!」

「後わたくしがローアングル担当ってどういうことですの!?」

「大体体勢的にはネプテューヌはハイアングルのほうが危険」

「はっ!ほんとだー!わーやめー!」

 

ぎゃーぎゃーわーわーと緊張感なく騒ぎ散らす四女神についにマジェコンヌが汗を垂らす。

どこまでも緊張感が続かないなとため息をつき、四人から目をそらす。それに釣られ四人も同じ方向を向いた。

 

「あれは…ネプギア!?それにあいちゃん!」

「5pb.……何故ここに!?」

 

全員が向いた方向、瓦礫が積み重なった崖の上。

女神化を解いたネプギアとその横にアイエフと5pb.が隠れるように様子を見ていた。

 

見つかったのに気付いたか「やば」と小さく声をあげ逃げようとする人間二人の頭を逃がすまいとネプギアの両手が捕え、元の位置に戻した。

思わず全員が(何やってるんだろうあの三人)と思ったがそんなことは知らずにネプギアが剣をすっとマジェコンヌの方向に向けた。

その後、剣を持たない左手の親指を自らの首に向け、横にスライドさせた。

俗にいう『死ね』のジェスチャーだ。それを平然と無表情でやっているのを見てマジェコンヌは目を見開いた。

 

「あはは……すごいよ!ダークヒーローじゃない、あれじゃあ!ありとあらゆる敵を飲み込む濁流みたい!すごい、かっこいい!」

 

まるで子供のように、遊園地で有名キャラクターのキグルミやらコスプレを見て喜ぶ幼児のような表情をしてマジェコンヌは声を上げる。

目をキラキラさせ一頻り笑ったのち、ふう、と息をつき目の色を戻した。

 

「こほん。……女神の妹、かな?」

「はい。あなたを殺すモノです」

 

囚われている四女神を前にして平然とそう口にした。いや、というより四人が眼中に入っていないようにも見えていた。

相変わらず表情のないネプギアはその手を翻し走りだそうとし――――――

 

「ストップネプギア!」

 

アイエフに腕をつかまれて止められた。

何をするのか、とネプギアが抗議の目を向けるも、決して離さずネプギアを見つめている。

 

「あんた一人じゃ、あいつには勝てない」

「………」

「…目的をはき違えないで。私たちの目的は、偵察よ」

「アイエフさん、目的は達したよ!」

 

二人の横で5pb.がカメラを構えピラミッドの頂点やマジェコンヌの姿を撮影している。

グッ、とサムズアップしたのを見てアイエフも頷きネプギアの手を引いた。

 

「ねぷ子!絶対迎えに来るからね!」

 

それだけ言い残しアイエフはその足で、5pb.はカメラをしまい置いてあったらしい鉄の板に乗って走り去ってしまった。

三人を見届けたマジェコンヌにワレチューが近づく。

 

「よかったッチュか?」

「むしろアレを待ってたんだよ。時期に援軍引き連れてくるだろうね。楽しみ」

「はぁ、ついてく奴間違えたかもッチュ」

「今更、だよ」

 

ため息をつくワレチューの頭をそっと撫でるマジェコンヌ。

何も知らない者が見ればペットを愛でる少女、ということで片付けられるだろうがその背景が囚われた四女神なあたりがなんともいえない。

 

「………ネプギア……」

 

だからだろうか、ネプテューヌが人間体とは思えないような真剣な表情で呟いていたのは誰も気づかなかった。

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〜十数分後 リーンボックス本島 リーンボックス教会 宴会会場跡〜

『なるほど、アンチクリスタル。そしてマジェコンヌ………』

 

宴会会場に戻ってきた三人は、候補生たちと共にプラネテューヌ教祖イストワールと連絡を取っていた。この手のわからないことは『古いもの』だとすればイストワールの領分だからだ。

だが結果は芳しくなく、『調べるにはみっかかかる』というお決まりの(無能)宣言を受け思わずアイエフもため息をついた。

 

「とりあえず、ねぷ子たちをどうにかして救出しなければなりません」

『わかっています。が、四女神が集って敵わなかった相手に誰が勝てるのでしょうか?』

 

全員が口を閉ざした。

それも当然といえば当然である。四女神はつまりこの世界の最高権力にして最高戦力。

国を主導する女神がまとめて捕まったということは世界丸ごと人質になったということだ。

 

「……………アンチクリスタル…私が…」

 

ふと、ネプギアが口を開いた。

いつものネプギアとは違い、泣き出しかねないような声でぼそぼそとしゃべっている。

 

「買い物のとき、私が触れたあの赤い結晶…あれがアンチクリスタルだったんだ………それに気が付いていれば……」

「やめなさいネプギア。あの時点ではわかりようがないことよ」

「でも……!」

 

アイエフが窘めるように言うもネプギアは顔を振り、自らを責めるように自らに言い聞かすように言い続ける。

いつもの何にも興味を示さないネプギアの変貌ぶりに一同が一瞬茫然とする。

その後まず最初に動いたのがユニだった。つかつかと近寄り、ネプギアの胸ぐらをつかみあげた。

 

「っ………」

「ねぇ、ネプギア?あんた、自惚れてない?」

 

ユニの表情には、怒り…より先にあきれているような感情が浮かんでいる。

問われたネプギアは何を言っているのか、と困ったような顔をしている。「表情を出す」ことすら珍しいようなネプギアが、だ。

 

「姉さんは女神よ。強い、すごく強い。あんたんとこの姉さんだってかつて最強なんて呼ばれてたわね。知ってるわよ。でも、【全能じゃない】。最強と全能は、イコールじゃない」

「なにが、いいたいの」

「姉さんが負けたのは姉さん自身の責任よ。完全であるべきものは自らの行いによって起きた事象はすべて自らの責任にしなければならない。姉さんたちの責任をあんたが勝手に背負ってんじゃないわ、姉さん達を見下すのも大概にしなさい!!」

 

叫ぶようなユニの言葉に、はっとした後目を伏せるネプギア。

言いたいことは言ったとばかりにネプギアから手を放し、自らの服の隅々についているポケットから弾薬の整理をし始めた。

 

「どうしたの……?」

「姉さんの尻拭いよ。聞いた以上、もう姉さん達の逆襲は期待できない。できるのは、あたし達だけ」

「で、でも!お姉ちゃんが勝てなかった相手――――――」

 

ネプギアの必死の表情を見て、ユニはにやりと笑みを浮かべた。

準備を終わらせたのち勝ち誇ったようにユニはネプギアに向き直す。

 

「あんた、なあんにも興味がない機械みたいなやつだとは思ってたけど、違ったみたいね。少なくとも、お姉ちゃん子なのは間違いないってこと」

「……どういう、こと?」

「あんたのそんな泣きそうな顔、見たことないっつってんの。あんたの姉さん、あんたにとって随分大きな存在だったみたいね。【最強】だっけか。……あんたも、必死だったんじゃない?」

「っ………」

 

はっと息をのんだ。

すぐに袖で涙をふき、元の無表情に戻そうとするネプギア。しかし気を抜けばまた目が潤み始めている。あーあーとユニも呆れて止めた。

 

「……」

「あんたも、辛かったのかもね。あんたがいくら強くても、その姉が【最強】って言われてたのなら…目標は高く、遠いわけね」

「……」

「あんた、口下手だしね。あの剣も自作っつってたじゃない。……あんた、気軽な話し相手いた?」

 

ネプギアを抱きしめながら、そっと聞くユニ。

その問いにネプギアはふるふると軽く首を振ることで答えた。

 

その光景に、場の全員が把握しきれていなかった。

【最優の女神候補生】と言われるパープルシスター・ネプギア。感情がなく慈悲もない。最強の女神の再来(まだ生きてる)と言われた女神。

よくあっていたアイエフとコンパ、よく遊んだロムとラム、ユニもネプギアのこんな顔は見たことはなかった。

だが、その後すぐ全員が理解した。【これが本当のネプギア】なのだと。

姉という重圧に負けじと自分なりに必死に頑張っていた結果なのだろう。そういう意味では、ユニと全く同じタイプだったのだ。

 

「あたしもそうだったし、初めて気軽に話せるのがあんただから。……なんか恥ずかしくなってきた。もう行くわ」

 

顔を真っ赤にしてネプギアを離し、全員の視線を背中に受けながら扉を開けようとしたところで――

 

『ガ  ラ  ッ  !  !』

 

前開きのはずの扉が突然横に開かれる。謎の現象と共にユニの目の前にいつか見た全体的にピンクな幼女が現れた。

ユニにとってはそれなりにかっこいい出立をイメージしていただけあって突然現れたシリアスとは何の縁もないような存在に思わず怒りがこみ上げ、思わず手が振りあがり、思わずその手が落ちてしまった結果。

 

―――ゴチーン!

 

「い っ た ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ い ! !」

 

痛快な拳骨音とともに幼女の悲鳴が響いた。

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〜で?っていう〜

「いったぁ………なんで登場早々殴られないといけないわけ!?」

「わかんないならもう一発行くけど」

「ひいぃぃ!黒の女神には幼女いないから呼んでないのにぃ!」

 

現れた全体的にピンクな幼女、アブネス。

トリック・ザ・ハードによる誘拐事件に便乗してブラン降ろしを企むもパープルハートに逆に利用されたいろんな意味で哀れな人物である。

出立を邪魔されてユニはご立腹。隙あらば照れ隠しにでも殴ろうとしているのをネプギアがなんとか抑えている。

 

「……で、何しに来たのあんた」

「ふっ、あんたや紫のところの中途半端に発達した不幼女なんて非幼女よ!四女神がいないいまこそロムちゃんラムちゃんを正しい幼女として「よし死ね」ギャアアア!」

 

目の前で算段をだらだら垂れ流すアブネスにあっさりキレたユニが容赦なく発砲。さらに弾痕が増えた。

狙い自体は外していたからか直撃はしていないがアブネスの頬からツウと一筋の血が流れた。

 

「教会、それも女神の目前で女神誘拐宣言とはとんだド低能ね。……その脳髄、ぶち抜いてとっかえてやろうかしら」

「暴力反たァァァァァァァい!」

「今、私たちは忙しいの。それに………あんた、【何故ねぷ子たちがいないのか】……知ってるわね?」

「ギクッ」

 

アイエフの質問にアブネスは露骨に目を背けた。

つまりアブネスは「何故四女神が妹を残しここを離れ」「今現在どうなっているのか」このどちらかあるいは両方を知っているということだ。

前者はともかく後者を知られると非常にまずい。前のトリック・ザ・ハードはまだ候補生だったからいいが今回は四女神、しかも全員だ。知れればことがことだ。

 

「ああ、そういえばあんた、確か女神反対の市民運動に参加してたわよね」

「わ、悪い!?幼女を女神にするような悪質な「黙れ」……ハイ」

「……そうね。前回のトリックのときならまだしもこれを知られたのはまずいわね。……ユニ様、消しますか?」

「安全を取るなら消したほうがいいわ。理由はあとからついてくる。……こいつもよくやったことよ」

「じ、自由な報道の邪魔を「黙れといった」………」

「報道の権利、だったかしら。確かに報道も取材も権利があるわね。ただし、『拒否権も存在する』」

「報道の自由?自由を掲げて自由を消すあんたらのやり口あたしすっごい嫌いなのよね」

 

ずもももももといった擬音を出して暗い笑みを浮かべながらアブネスの処遇を相談するアイエフとユニ。

その空気をモロに受けているアブネスの居心地の悪さは加速度的に増えていき、そーっと逃げようとした瞬間

 

「逃げたら指名手配ね。((Dead or Alive|生死問わず))で」

 

ピシッ、と時間が止まったようにアブネスの動きが止まった。

生死問わない指名手配。それはつまりあらゆる勢力から追われる覚悟を負えと言っていることだ。仮にもテレビに出ている(自称)アイドルであるアブネスにそこまでさせるほど、女神側は切羽詰まっている。そう解釈した。

が、アブネスにすでにできることはない。うかつなことをすれば瞬間的に消されるかもしれないのだ。

 

「………アブネスさん」

「はひっ!?な、何よ紫の非幼女!」

 

ここまでずっと俯いていたネプギアが口を開いた。

ネプギアの評判が評判だけにユニよりひどいことを言われるのかと思いながらも気丈に聞き返すアブネス。

 

「……囚われている女神には、ブランさんもいます」

「し、知ってるわよ」

「……ブランさんはこのままでは死ぬそうです。それを助ける邪魔をするつもりですか?」

 

睨むような目つきで、ネプギアは聞いた。

アブネスには覚えがある。あの眼は、『パープルハートと同じ目』だ。

ありとあらゆる事象を投げ飛ばし、頂点に君臨する『最強』と同じ目だ。そう感じ取った。

思わず、全身がぶるぶると震えていることを理解した。おびえている。どうしようもなく目の前のネプギアにおびえていると理解したのだ。

 

「あ、ぁ………!」

「どうなんですか……邪魔をするんですか…?あなたは……幼女を殺す手助けをしますか……?」

「ね、ネプギア……?」

「するのならば……邪魔をするのであれば………」

 

剣を抜きアブネスの目前に突きつけるネプギア。

さっきまで泣いていたはずの顔には頬に涙の跡があるだけでまた表情が消え、光のない紫色の瞳がアブネスをじっと映している。

引くべきか、この脅しにも等しい提案を受けるか。受ければ、トリックと同じ、利用されるだけの咬ませ犬。

拒否すれば、間違いなく『消される』。

声が出ない、ぱくぱくと口が開き息が吐かれ吸われるだけ。

気付けば座り込み、ネプギアの顔を見上げていた。

 

「…………」

「わ、わたしは……幼女を、助けるのが、使命よ……」

「………だから?」

「……協力する。女神に協力するわよ!」

 

 

アブネスはゆっくり立ち上がり、ネプギアを睨み返す。

足も諤々と震えいっぱいいっぱいといった様子のアブネスを見て、ネプギアは目を伏せて歩き出し、アブネスの横を通り過ぎた。

 

「ああもう、あのバカギア……」

「ま、そんな簡単には変われないか。悪かったわね、うちの子が」

 

慌ててネプギアを追いかけるユニ。茫然とするアブネスの頭にアイエフが手をのせる。

目を覆うバンダナのせいで目の色はわからないが多分苦笑しているのだろう、と感じた。

 

「……で、協力するってこんなところで言っちゃったからね。役には立ってもらうわよ」

「…わかったわよ。何すればいいわけ」

「移動手段。少なくとも四人以上乗れる車用意して頂戴。あんたの番組結構大きいしね、あるんじゃないの?」

「盲目のくせによく知ってるわね」

「これでも元諜報部でね。コンパ、アイテム準備するわよ」

「はーいです」

 

ニヤニヤと口元で笑いながらコンパを引き連れてアイエフも部屋を出ていく。

こっそりと5pb.もそれに続き、そして部屋に残ったのはアブネスと、ロムとラム。

 

「……幼女たち」

「思ってたんだけどさ、あたしたちは【幼女たち】なんて名前じゃないわ!あたしの名前はラムよ!」

「……ロム」

 

抗議するような目でアブネスを見つめる二人。

じーっと見つめ続ける視線に耐えきれず、すぐに「ロムちゃんと、ラムちゃん」と呼びなおした。

それに満足したか二人も笑顔になる。

 

「よろしい!お姉ちゃんを助けるんだから、がんばりましょ!」

「……がんばろ?」

 

笑顔で言う二人にアブネスは思わず息をのむ。

【何故?】

何故、命の危険もある女神という存在に、幼女であるこの二人、挙句はブランまでもがならなければいけないのか。

幼女、とは、絶対に守らなくてはいけない存在なのに、幼女に守られていて恥ずかしくないのか。

アブネスの根底にある矜持。守らなくてはならないものを守る。言葉にすれば当然のはずのことなのに。

 

気付けば、アブネスの口は開いていた。

 

「ねぇ……何故、幼女であるあなたたちやブランちゃんが危険な目に合わなければいけないの?女神なんて、やらなければいけないの?」

 

アブネスにとっても自然に出てきた疑問。

根底にずっとあった疑問が二人に向けられた。

互いに顔を見合わせ、首をかしげる二人。質問の意図が伝わっていなかったのか。と思ったアブネスがもう一度言おうとしたとき、二人はアブネスに向き直した。

 

「あたしたちが【((女神|そういうもの))】だから……なのかな?」

「そういうもの……?あなたたち幼女は、守られ、愛されて成長しなければならないのに……」

「……幼女って、いけないことなの?」

「そ、そうじゃないわ!幼女は守り健やかに成長させなければいけない段階で」

「なんでそれを押し付けられなきゃならないの?」

 

言葉に詰まった。

ラムはもちろん、口を閉ざしたままのロムですら真剣な表情でアブネスを見つめている。

 

「それは……」

「……アブネスちゃん。言ってた。『女神をやめさせる』って」

「い、言ったわ。幼女は女神なんかやめて、幼女らしく成長させるべきだって……」

「……女神をやめたら、死んじゃうよ」

 

やっと口を開いたロムからの言葉に、アブネスが目を見開いた。

初耳だ、と言いたそうな表情をして、茫然としている。

知らなかったことに逆に驚く二人。わなわなとアブネスが震えているのを心配そうに見ていた。

 

「女神をやめたら、死ぬ……?」

「……(こくり)」

「女神は、シェアでできているから、女神をやめたら、シェアを補給できなくなって、消えちゃう……って聞いたことあるわ」

「じゃ、じゃあ!私がやってきたことって……!」

「【幼女を助けるといいながら、幼女を殺そうとしていた】」

「そんな…………!」

 

頭を抱えるアブネス。

自分の信じていたものが全て裏切られた衝撃に目が回り、混乱している。

 

大丈夫か、と見上げる二人を見て心配させずと微笑むと、二人に背を向けた。

 

「私は……幼女を、助けるのよ!それが私の祈りなのだから……!」

 

ふらふらと歩くアブネスを見送り、二人は目を見合わせる。

 

「どうしよっか……?」

「……いこ?」

「そうね。お姉ちゃんを助けるんだから!」

 

頷きあい、二人もアブネスを追いかけて走り出した。

 

 

すっかり静かになった部屋の中。無造作に置かれていた本がパラパラと開かれる。

 

『……』

 

本に浮かんだ少女の絵は、にっこりと笑みを浮かべた。

すぐに絵は消え、ぱらぱらと映像が逆再生されるように本が閉じ、ふわりと浮かんで本棚に収まった。

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〜孤島―リーンボックス本島間〜

教会を出発し、救出に向かう一行。

アイエフ・ネプギアは変わらずに走行+飛行。

5pb.の乗るフライングボードにはユニが立っており5pb.にしがみつく。

四人を追いかけるようにアブネス☆ちゃんねると大きく描かれた放送用ワゴンカーが走る。運転席に座っているのはアブネス、隣にコンパ。

後部座席にはロムとラムが乗っている。乗ったとき『アブネスが運転?』と全員が懐疑の目を向けたもののいざこうしてみれば砂地の道であるにもかかわらず軽快に走っている。

アブネスの体型で運転できるのも驚きだが、運転中のアブネスの表情が妙に真剣なのもあり、ロム・ラム・コンパには妙にカッコよく見えていた。

 

途中、全員に持たせている通信機(アイエフが用意したらしい)からネプギアの声がした。聞こえやすいようにか少しスピードを落としワゴンカーの隣に位置している。

 

『ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃん。私からのアドバイスです』

『アドバイスぅ?なんであたしがそんなこと受けなきゃなんないのよ』

『女神化に関することですよ。……ずっと、何故私だけが女神化できるのか考えていました。そして、皆が女神化するためのヒントを得ました』

「もったいぶらないで教えなさいよネプギア!」

「………(わくわく)」

 

なかなか言わないのを不満層にするユニやラムに急かされながらも即座に言わず、少しためらうようにしてから、意を決してネプギアは言った。

 

『……【隣に立つ】だけでは足りないんですよ』

『は?』

『なんて言えばいいのか……【同じ領域】では【以下】でしかないんです。もっと【上】に行かないといけないんです』

『「は?」』

 

思わず二度聞き返すユニとラム。

アドバイスと妙に偉そうに言い出した割にはなんて言えばとか言い出すネプギアに呆れている。

一人納得した様子のロムに気づかず、何を言っているんだとさらに聞き返した。

 

『……私が女神化に成功したとき、おねえちゃんに対抗意識を抱いたんです。身長ぐらいでしか勝ったことありませんでしたから』

『つまり、姉さんに勝つ意思、姉さんを超える意志が必要ってこと?』

『確かなわけではありませんが……』

「じゅーぶん!ネプギアにしてはいいアドバイスじゃない!」

『ありがとうございます』

 

仲がいいのか悪いのかよくわからない会話に苦笑する人間四人。

女神なりのコミュニケーションなのだと割り切り、話が終わったのを見計らってアブネスが話し始めた。

 

「あんたたち。あそこと本島間が地続きなのは午前6時頃まで。今が深夜1時だからタイムリミットは五時間弱。それを過ぎれば飛べる紫はともかくそれ以外はこの島に一日置いて行かれることになるわ。流石にこの車を船に乗せるわけにもいかないからね。……ほかの三人とは違って私には戦う力はないわ。あるのは声の大きさと思想だけよ。……お願いね」

『ま、気にすることはないんじゃない?女神には女神の領分がありあたしら人間には人間の領分ってのもんがあるわけだし』

『僕らができるのは斥候だね。女神さま方、雑魚は任せて!』

『コンパ、あんたはアブネスと車の護衛よ。無理はせず車と一緒に逃げ回ってもいいわ』

「はいです!」

 

人間達も人間達で仲良さそうに相談事。先ほどまで(一応)敵対していたアブネスにも答える当たりすでに溶け込んでいるようだ。

だが、しかし。道中の談笑に『女神』と『人間』間では会話が一度もなかった、ということは起こっていたが。

 

「もうすぐ着くわね。5pb.。着いたらボードは車の中にでも入れておいて」

『走ってる間に仕入れたこの島の上面図、全員に配っておくわ。特にアブネス、叩き込んでおきなさい』

 

全員が持つ通信機から光の板が伸びすり鉢状の島を上からみた図が表示されている。

画像の隅にリーンボックスとルウィーの商標があることからトリック事件の際使われた衛星写真なのだろう。

 

『ネプギア、あんたは本命よ。とにかくまっすぐねぷ子達の救助。ユニはボス格の足止め。ロム、ラム、5pb.、あたしで雑魚を蹴散らすわ』

『了解、先行します』

 

アイエフの指示を聞いていたのかいないのかネプギアが海岸に到着したと思ったら即座に近くの崖を沿って登って行った。

案の定一人で言ったとため息をつきながら「コンパ、5pb.。そいつらのお守りお願いね」と言い残して崖を飛び伝って登っていく。

 

ネプギアは人間ではないのはわかっているからまだいいが断崖絶壁を平然と飛び跳ねて登っていくという人間離れしたことをやっとのけるアイエフに一同(コンパ以外)絶句。

どうしようと助けを求める視線を向けるアブネスも5pb.もいることだし、と仕方ないといった表情でコンパが支持を出し始めた。

 

「アブネスちゃん、まずは中央に向かうです。5pb.ちゃん案内お願いするです」

『了解!女神さま、振り落とされないでよ!』

『んなこと言うなら揺らすなぁぁぁぁぁ!!』

 

ワゴンカーの前を錐もみ回転したり逆さまになったりしながら飛ぶフライングボード+5pb.&ユニ。

どう見ても遊んでいるようにしか見えないし何より後ろで必死にしがみついているユニの顔が真っ青になっている。流石に女神ぐらいしかやらない機動を無理やりやったのは堪えたようだ。前の5pb.はぴんぴんしているが。

 

「何やってんのかしらあいつら」

「……楽しそう」

「駄目よロムちゃん!あれは危険!」

「そうですよー。あんなことしたら頭から落下してトマトみたいにぶちゅって脳髄が出てきちゃうです」

「喩えが怖いわよあんた」

 

なんだかんだでどちらも緊張感がなかった。

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〜孤島 中心部〜

「いやー……暇だね、うん」

「この緊張感のなさはある意味尊敬できるわ」

 

束縛されている四女神はというと、相変わらず暇そうにしていた。

しかも四女神どころかマジェコンヌまで暇そうにしている。

 

「ああそうだ、忘れてた。みんな下見てみて」

「ねぷ?……うわぁい」

 

全員が下を見ると、ピラミッドの底に黒い液体が溜まっているのが見えた。真っ黒な水面はバリアの光を反射して四人の姿をくっきりと映し出している。

 

「あれこそがアンチクリスタルにより生み出された淀んだシェアエナジーだよ。あれにのまれちゃったりしたら……大変だね」

「ねぷぁー!?へるーぷ!ネプギア―!」

「でも、ネプギア一人でなんとかできるのかしら?うちのユニはまだ女神化できないし……」

「最悪、ロムとラムまでついてくるかもしれない。この状況は、二人にはあまりにも早い」

「……そうでも、ないのでは?」

 

慌てる三人をベールが穏やかな表情で宥める。

それはあきらめたようには見えず、何かしらの確信をもっていっているように見えた。

 

「ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃん。妹を大事にすることはよいのですが少し過保護にしすぎたのでは?」

「……どういうことよ」

「そのままの意味ですわ。姉として妹を守りたい、という思いは結構ですけれどそうも言っていられません。いつか、彼女達は私たちに替わって女神を勤める存在なのですわ。その試金石が、今なのでしょう」

「……」

「なんにせよ、私たちにできることはありません。妹達がこなければ、私たちは消滅するだけですわ」

「元とはいえさいきょーのわたしがかませで妹の踏み台だよぉー歯痒いなぁー」

「花を持たせると考えればいいじゃありませんか。私は渡す相手もいないんですことよ?」

 

ベールの言葉に黙り込むノワールとブラン。

ネプテューヌもいつもどおり……のようでいて俯いているようにも見える。

会話が途切れ数秒経ったとき。全員の耳にピコーンピコーンといったレーダー音が入った。

 

「きたッチュ!女神の妹四人…と、人間の反応が4ッチュ!」

「4対8、いや…私を正確に言い表せれば3.5対8かな。数の暴力を使うってのはどちらかといえば悪役のすることのはずなんだけどなぁ。あの槍であらかた吹き飛んじゃったのが悔やまれるよ」

「悠長なこと言ってる場合じゃないッチュよ!……ん?ミーは戦闘には役に立たないッチュよ?」

「だから3.5。心強い【子供たち】がいるからね。すぐわかるよ」

「どうせまた口八丁でごまかすッチュ、ミーにはわかるッチュ」

「私、この戦いで生き残ったらルウィーに帰るんだ」

「唐突にフラグを立てるのはやめるッチュ!」

 

あまりにも緊張感のない一人と一匹の間を縫うようにレーザーが通り過ぎた。

突然のことに驚いたワレチューは即座に逃げ隠れ、マジェコンヌは予想通りと言いたげにビームの放たれた方向を向いた。

 

「おかえり((女神|あなた))」

「ただいま((女神|あなた))」

 

ビームを放ったからか微かに煙が上がる((銃剣|M.P.B.L.))を向け、崖の上にネプギアは佇んでいた。

女神化はしていないが、右手に女神の武器を持ち左手には愛用している赤く光る剣を握っている。

薄紫色の髪が顔にかかりどこからも表情は確認できない状態だったが、マジェコンヌだけはなんとなく察していた、【笑っている】と。

何の意味もない(とネプギアは思っている)声の掛け合いの後、ゆっくりと歩き出し、崖を飛び降り、着地。

ゆっくりとマジェコンヌに向かって歩を進める。マジェコンヌもそれに対応するかのように歩き始めた。

 

互いに近づき、通りすがるかと言ったところで二人とも歩をとめた。

ぼそり、とマジェコンヌにしか聞こえないような声量でネプギアは話しかける。

 

「あなたを殺せば……全て片が付きます」

「……そうだね」

 

沈黙が続く。

ネプテューヌも、ノワールも、ブランもベールも。ただ黙って背を向け合う二人を見守っていた。

 

『どきなさい、ネプギア!』

 

叫び声とともにネプギアが跳ぶ。

バク宙にも似たフォームで飛び上がりマジェコンヌの頭上を越えるネプギア。それを気にもせずに双頭の天秤刀をマジェコンヌはバットかと思うほどに振り向きざまに振った。

 

―――カキン!

 

軽い金属音が響いた。

そのままふわりと浮き上がり、ネプギアと奇襲者、ユニを見据える。

 

「二人目。後の6人どこかなぁー……」

「アウトオブ眼中?いい度胸してんじゃないの……」

 

きょろきょろと辺りを見回すマジェコンヌをにらむユニ。その手には潰れた銃弾が入っていた。

奇襲の際、撃った弾丸が打ち返されユニの手に戻されたのだ。

その気ならわざわざ【キャッチできる勢いで打ち返す】なんてことしなくても自分の体を貫通できる勢いでできるはずだ。また、自分は嘗められていると、ユニは直感的に感じた。

 

「戦力の小出しは悪手だよ?どうせこっちにはろくに戦力も残ってないんだからさ。かかってきなよ」

「はっ、あんた程度あたしら二人…いいや、あたし一人で十分よ!」

 

勇ましく両手の銃を向けるユニ、両手の剣を構えるネプギア。

あくまで二人で相手する気というのを見てマジェコンヌは一つ息を吐いた。

 

「じゃあ、残念だね。せめて人間だけで私に挑むべきだった」

「……何が言いたいのですか」

「そのままの意味…だけどまぁ、教えてあげるよ。……もういいよ、我が子供達」

 

マジェコンヌが指を鳴らした。直後ネプギアとユニ、それどころか捕まっている四女神や隠れているワレチューの背筋にも一瞬寒気が通った。

場の全員が感じた無差別な殺意。

咄嗟に皆が感じた方向、マジェコンヌの頭上を見た。

 

落下に伴う風切音とともに、三つの巨体がマジェコンヌの後ろに落下した。

一つは黒い巨体。刺々しいデザインのところどころに蒼く光る装甲と、手に持った髑髏を装飾された斧が高らかに笑うかのように震えている。

一つは白い巨体。赤、青、白のトリコロールカラーと握る炎を纏った剣とまるでアニメの主人公の乗るロボットのような造形をしていた。

一つは紫色の女性。背中に身を包めそうなほどの大きさの赤黒い翼を生やし、淡く光る大鎌を持ち佇んでいる。

 

『我ら、神により生まれし僕』

 

黒い巨体が膝をつき、斧を掲げる。

 

『我ら、神により存在せし僕』

 

白い巨体も同じく膝をつき、大剣を掲げる。

 

『我ら、神の敵を絶滅する僕』

 

紫の女性が鎌を掲げ、二体が掲げた武器に当て、カチンと鳴らす。

 

『『『我ら、神の元に無双を誓いし僕なり』』』

「さぁ、女神達。私たちの戦力はこれで全部。これを突破すれば君たちの勝ちだよ」

 

三体の前に立ち、微笑んだ様子でいうマジェコンヌ。

一体一体が女神に匹敵するか、それ以上の威圧感を放つ巨体達にネプギアもユニも息をのんだ。

 

「……上等、やりましょうか」

「ちょ、ネプギア本気!?数ですら負けてるっていうのに……!」

「すぐロムちゃんたちも来ます。それまでに対策法を立てましょう」

「ああもう、やってやるわよ!やればいいんでしょ!」

 

ネプギアも女神化し、用意は万全といったところ。

二人を見てマジェコンヌは気楽そうな表情で後ろを向いた。

 

「マジック、相手してあげよう」

『御意に』

 

マジックと呼ばれた女性の姿が紫色に光り輝き、そのままマジェコンヌに吸収される。

直後、マジェコンヌの姿が変わっていき、ボロボロの黒い翼が背から生える。

 

『クリムゾンハート【Form-Magic】』

 

女神のような装甲を身にまとい、赤黒く光る鎌を持ったマジェコンヌが現れた。

白黒の巨体は関係ないとばかりに膝をついたまま。戦いに参加する気はないようだ。

 

「一人で十分、ということですか」

「はっ、趣向返しってわけ?」

『そんな意図はないけれど…純粋にそう思ってるだけだよ。【女神相手にはマジックだけで十分】ってね』

「では、それを根底から砕きましょうか」

 

一番に飛び出したネプギアが両手の剣を振り下ろす。

一瞬微笑んだマジェコンヌは鎌を持たない左手を前にだし、丸い障壁で剣を受け止める。

その直後、ネプギアの表情がゆがんだ。咄嗟に背中のスラスターを前に吹かせ、さらにM.P.B.L.を撃ち飛んで元の場所に戻った。

 

「ユニちゃん、わかりました…確かにその通りみたいです」

「何言ってんのよネプギ……!?」

 

に弱気な発言をしだしたネプギアを見てユニは絶句した。

ネプギアの姿が【ブレ】ているのだ。

女神化しているはずなのに、数瞬だが元の姿のネプギアが写っている。断続的に続くそれを見て、マジェコンヌに目を向けた。

 

「恐らくですが、あれは……女神の力を吸収する力を持っています。女神相手には十分といった理由は、女神の力そのままがあれに加算されるからです……!」

「じゃ、じゃあどうやって勝つのよ!」

「女神の力を使わずに戦うしかありません。私にとっては大した枷ですが、ユニちゃんにとっては変わらないはずですよ」

「女神化ができないことが得になっただなんて、感じたくはなかったわ……!」

 

ユニも発砲を始めるもマジェコンヌは一歩も動かずネプギアの武器を防いだのと同じ障壁で受け止める。

弾かれた銃弾はぱらぱらと足元に落ちていった。

 

「普通の銃弾は弾かれ、女神の力は吸収……どうしろってのよ」

「正攻法がだめなら絡め手です。どうせあの障壁も全方位には出せませんよ」

 

意味がないと判断したか女神化を解いたネプギアがM.P.B.L.を構え、マジェコンヌの足元を撃ち抜く。

瓦礫の上に位置していたマジェコンヌは足場を失い、ゆっくりと近場の地面に落下する。

それを見て二人はマジェコンヌの左右に分かれ角度を変えながら銃を撃ち続ける。

 

ユニの方に向けた右手から出る障壁は銃弾を弾き、足元に銃弾を増やしていく。

ネプギアの方に向けた左手から出る障壁はレーザーを吸収し、その輝きを増しているように見えた。

 

「ネプギア、使いなさい!」

 

それを見たユニは擦れ違いざまにネプギアに自らの持つ銃の片方を投げ渡す。

跳んだり一瞬身を屈めたりして角度を変えつつも撃ち続けるが全く通じている気配がない。

 

「……手緩いね。ブレイブはあと二人の女神と、ジャッジは人間達と遊んでおいで」

「「御意に」」

 

マジェコンヌが声をかけた直後白黒の巨体群が立ち上がり、それぞれ別方向に飛び去って行った。

まずい。ネプギアもユニも直感的にそう思った。

目の前の奴ほどではないとはいえあの双子で一体を倒せるかと言えば間違いなく無理だ。何より二人とも遠距離型。見るからに近距離型のロボット相手に何ができるのかわからなくなるほど。

飛び立ったのを見てネプギアが間髪入れずユニの襟をつかんだ。

 

「ユニちゃん、ロムちゃんたちの援護を。ここは私が抑えます」

「は、あんた本気?」

「倒すだなんて一言も言っていません。あの白いのをユニちゃんたちでできるだけ急いで倒してください」

 

それだけいいユニを白い巨体が飛んでいった方向に投げ飛ばす。

「せめて投げるなぁぁぁ」とか言いながら飛んでいくユニを見送り、マジェコンヌに向き直した。

 

「………」

「いいね、その眼。殺すことを躊躇わないダークヒーローの眼だ」

「……あなたが何かだなんてどうでもいい、お姉ちゃんを助けるために、あなたを殺す」

「そう、それがベスト。私が思い描く理想の主役だ。さぁ、倒してみなよ。急激な成長でもご都合的な援軍でもなんでもいい。私を倒し、物語を進めるんだ」

 

威圧的に睨むネプギアを見て面白そうににやけるマジェコンヌ。

狂ったような笑みに嫌悪感を感じながらも銃と剣を構え、切りかかった。

-6ページ-

〜孤島外周〜

一方ロムとラム、そしてアイエフたち。

ネプギアとユニが先行したのを追いかけるワゴン車の前に突然何かが落下、地響きとともに目の前が砂塵に覆われた。

 

「な、なになに!?」

 

ドリフト走行しなんとか衝突を免れたことに案著しながらも突然の出来事に混乱するアブネス。

敵襲だと思いロム、ラム、アイエフと5pb.が車外に出た。

砂塵が晴れると、全員の前にトリコロールカラーのロボットが、炎に包まれた大剣を片手に佇んでいた。

 

「な、なによこれ……」

「私らの役目って雑魚の露払いじゃなかったっけ……」

 

『汝ら、ルウィーの女神候補生、ホワイトシスターをお見受けする』

 

トリックのように機械的に作られたような声が巨体から響く。

剣をロム、次いでラムに向けた。

 

「だったらなんなのよ!」

『我が名はブレイブ・ザ・ハード。一つ、手合せ願いたい』

「っ、全員で相手するしかないわ!」

 

二人を庇うように立つアイエフをみてブレイブはため息を吐くようなそぶりを見せる。その直後全員の背後、車をはさんだ反対側に先ほどと同じ落下の地響きが鳴った。

次は何だと一行が振り返った時だった。

 

『なんだなんだァ?女子供しかいねぇじゃねぇかよ』

 

砂塵の中から男の声が聞こえた。

若い青年のような声がし、砂塵が晴れていくとブレイブとは逆に全身真っ黒装甲のロボットが浮いていた。

 

『まァいいか……我が名はジャッジ・ザ・ハード、マジェコンヌが死神だァ』

『貴様も来たのか、ジャッジ』

『オレの役目は人間どもの排除だ、残りの女神どもと同じところならァこうなるってことだ。……それにしても女子供だけかァ?それはそれでつまんねェなァ』

『女神社会とはそういうものだ。人間の社会は必然的にトップの性別が尊いものとされる傾向にある』

『けッ、つまんねェなァ』

 

ジャッジと呼ばれた黒い巨体とブレイブが仲良さげに話している。一体相手に全員でも勝てるかどうかなのに二体に増えた。流石に絶望的かと判断してアイエフがジェスチャーを送り全員をワゴン車に乗せる。

 

『てかよブレイブ、テメェなんだその声は?』

『わからないのかジャッジ?ロボットアニメに女性主人公というのは少ない。つまりはそういうことだ』

『何言ってんだお前』

 

二体は仲が良くないのか謎の口論を始めた。

それを見計らいワゴン車をだし、ブレイブの足元をすり抜ける。

 

『まだわからないとはお前の頭脳は筋金入りだな。いいかジャッジ、かっこいいロボットヒーローというものは男性型でなければならない。女性型はやはりアイドルやそういった方面に行かざるを得ないからな。故に私の外部装甲はこのようにヒーロー的要素に溢れたものでな』

『ものすっげェどうでもいい。……ん?おい、あいつらどこいった』

『何?………』

 

二体が気付いた時には既にワゴン車ごとアイエフたちの姿はなく、ワゴン車が巻き上げたであろう砂塵の道ができていた。

二体そろってその道を眺め、数秒した後――――

 

『逃がすかァァァァァァ!』

『カーチェイスというのも嫌いではない!』

 

二体そろって飛び立ち、ワゴン車を追いかけ始めた。

-7ページ-

〜次回予告〜

「時間がもう………!」

 

                  「HELLO AND GoodBye.」

 

                                     「弱い、弱い弱い弱い弱すぎるんだよォォ!」

 

「僕は音を操る、音を操ることができれば雷だって自由自在!」

 

                                       「私は、私はっ………!」

 

「ナイトメアレイジ………さようなら」

 

                  「ネプギアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

次回、【女神たちの覚醒(オーバーリミット)】

-8ページ-

〜キャラ紹改 主に原作と(略)〜

ベラ(マジェコンヌ/クリムゾンハート)

悪役志望の女神なりそこない(自称)。

女神化したマジェコンヌ。マジックと合体することによりFormMagicという形態に変身する。ジャッジ・ブレイブ・トリックにもそれぞれ形態が存在するらしい。

Formマジックの見た目はほとんどマジック・ザ・ハード。にプラスしてマジェコンヌの謎羽。

武器は大鎌(R4DS)。

 

ジャッジ・ザ・ハード(???)

戦闘バカの大馬鹿。のはずだったのだが周りがおかしいのばかりなせいで何故か常識人枠に。あのロボット的見た目はいわゆるパワードスーツ的な外付け装甲。飛行能力も備わる超能力。どちらが本当の姿なのかは不明。

武器は両刃の大斧。

 

ブレイヴ・ザ・ハード(???)

甘味バカのヒーロー馬鹿。中身は少女な姿だがパワードスーツ姿では男性声に変声している。一応飛行能力はあるにはあるが補助的なものなので寧ろ主な移動手段はホバー移動。

ガッチョンガッチョンと音を立てて走るのも浪漫だと思ってはいるがパワードスーツの摩耗が心配であんまりできないのを残念に思っている。

武器は炎に包まれた大剣(別に炎属性ではなくただの演出)

 

 

説明
見てると短いのに書いてみると長いアニメストーリー。しょうがないね。
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コメント
>Z&H御中 マジェ「未婚の母だよー子供四人いるよーいつの間にかいたんだけど」ジャッジ「未婚の云々って結婚した女神なんているのか?」マジェ「記録にはいる、程度らしいけど」ジャッジ「いるのか……」(リアルではおぜうタイプ@復帰)
>ヒノ氏 マジェ「二番目と三番目を足した感じかなー」マジック「失敗作というのは捨てられながらも意思を持つものだよ。言ってしまえば危険廃棄物だ」マジェ「あれ、その表現あんまり嬉しくない」(リアルではおぜうタイプ@復帰)
>ジーク氏 寧ろアニメが(尺の関係もあるが)あっけなさ過ぎたという可能性も。(リアルではおぜうタイプ@復帰)
チータ(R)「女神としての献身か、世界に自分を刻みたいのか、運命として受け入れ楽しんでいるのか…」ユウザ(R)「うーん…糧が恨みとはいえ、女神なんだよな…裏切ったのは人間の方ってこった。」チR「自分達に危害を加える存在と近いんだ、こればっかりは仕方が無いよ。」(ヒノ)
最後の方はアニメと違って大ピンチですね。(ジーク)
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