第八節:清羅の過去、光武帝動く
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まえがき コメントありがとうございます。少しずつ寒くなってきて布団の中にいる時間が確実に長くなってきたsyukaです。さて、今回は清羅の過去についてスポットを当てながら話が進みます。菊璃、霧刀に雲台の将たちも動きますので、そこにも注目していただけると幸いです。第八節最終編!それではごゆっくりしていってください。

 

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 清羅の突然の告白に謁見の間が静寂に包まれる。

 

「私は、幼少の頃は幽州にあったとある豪族の娘として生きていました。 しかし、賊・・・以前の黄巾党のような輩に邑は壊滅。 その際に私の両親は殺されてしまいました。」

「お、おい・・・じゃああの村にいた姐さんの親父さんやお袋さんっていうのは・・・。」

「あの方々は私が落ち延びていたところを、何も聞かずに私の身を引き取ってくれたのですよ。 血の繋がりはありません。 ですが、実の両親よりお世話になったのは間違いありませんね。」

 

 清羅が芙蓉姫・・・確か演義で劉備の妻になる予定の人か。じゃあ俺が蜀・・・桃香たちのとこに落なければ桃香が清羅を救うことになったのかな?

 

「俺も相当世話になったからなぁ。 お袋さんの拳骨は何発もらったことか・・・。」

「確かに厳しい母でした。 父は穏やかな性格をしていましたが。 私の韓飛という姓はその両親のものなのです。」

「なるほど。 生い立ちは理解しました。 韓飛さんが幼少の頃に襲われた賊に関しては現朝廷の者たちは関与してませんが、韓飛という姓を名乗りだしてからの村襲撃に関しては十常侍の畢嵐が自分の部下に命を出していたようですね。」

「・・・しかし、私の村襲撃に関与した者たちには私が賊をしていた頃に報復しましたから生存していません。 その畢嵐という者が命を出したという情報は信じて良いものなのですか?」

 

 確かにそうだな。襲撃現場を見ていなければ十常侍の者たちが関与したという情報も信じるには物足りない。

 

「私が・・・見た。 畢嵐の・・・頭の中。」

「ん? どういうこと?」

「零は人の記憶を探ることができるのですよ。 その者に触れなければ見れませんが。」

「こっそり侵入して・・・気絶させた隙に覗いた。」

 

 プライバシーなんてないも同然なのね。

 

「まぁ、そこから畢嵐に命を出していたのが于吉という者だ。 という確証を得たというのが今回の私たちの報告の一部ですね。」

 

 その真実は清羅の表情を曇らせるに十分なものだった。百合と薔薇は未だに立ち直れていない。

 

「左慈と于吉か・・・何が目的なんだよ・・・。 清羅や薔薇たちの家族を陥れてまで成し遂げたい目的なんて・・・。」

 

 とりあえずその詮索の前に薔薇と百合を落ち着かせよう。この症状は放置してたらまずい。

 

「薔薇、百合、立てる? 一旦、俺の部屋で休もう。」

「・・・分かったわ。」

 

 薔薇はどうにか立てたけど百合はそうはいかないようでうずくまったままだ。

 

「百合、おぶるけど大丈夫?」

「はい・・・お願いします。」

 

 俺は百合をおぶり、薔薇と手を繋いで自分の部屋に向かった。戻ってきたら清羅のケアもしないとな。

 

「左慈に于吉・・・一刀たちの前にも立ちはだかったか。」

「というよりはご主人様を狙っていると言ったほうが的確じゃな。」

「どういうことだ? 話が見えないんだが。」

「複雑な事情があるのよん。 愛紗ちゃんたちは薔薇ちゃんたちについていてあげてくれると助かるわ。 今は心身ともに落ち着かないだろうからねん。」

「・・・了解した。」

 

 愛紗ちゃんたちもそれぞれ清羅ちゃんを連れて市に行くか、ご主人様の部屋に向かうかの二手に分かれた。

 

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「まだあいつらは外史の破壊なんて馬鹿げたことを考えているのか?」

「そうじゃろうな。 あいつらは外史が生まれるたびに動きを見せては、それぞれの外史におるご主人様・・・“北郷一刀”、またはそれに連なるものに阻まれておる。 特に左慈の確執は強いのじゃろう。」

 

 私がご主人様と初めて会った外史でもそうだったわねん。

 

「外史だの何だの・・・もはや関係ないわ。」

「菊璃・・・。」

「薔薇ちゃんや百合ちゃん、それに清羅ちゃんにあんな表情をさせたなんて・・・一刀が大切にしてる子たちは私の子供と同じよ。 あいつらを惨殺しても足りないくらいだわ。」

 

 菊璃ちゃんがここまで露骨に怒りを表に出すなんて珍しいわねん。普段がかなり温厚なぶんより一層色濃く見えるわん。

 

「しかしどうする? 左慈たちを見つけるにしてもかなり骨が折れることになるのは目に見えているぞ。」

「どれだけの労力になろうと構わないわ。 あいつらをこれ以上好き勝手にさせていては今以上に傷つき、悲しむ子たちが出てくる。 一刀が負傷したのだってあいつらが原因だって言うじゃない。 親として、後漢王朝を築いた者として、そして一人の人間として。 許しておくわけにはいかない。」

 

 こういうところで頑固なところがご主人様に似たのね。分かってはいたことだけれど。

 

「今の話、聞かせてもらいましたわ。」

「静空さん・・・。」

 

 物陰からそっと姿を現す静空ちゃん。おそらくずっとあそこにいたのでしょうね。

 

「私にも左慈と于吉の捜索、手伝わせてくださいな。」

「それは願ってもないことですが・・・。」

「久し振りに再会した友の手伝いくらいやりたいものです。 それに、私は鈴様の配下ですから。 一刀様が悲しめば鈴様も悲しみます。 鈴様の悲しまれるお姿は見たくありませんので。」

「いいのではありませんか? 私たちがいくら少数精鋭だと言えど、人数に時間。 それに行動範囲に限りはあります。 そんな中で静空様が加勢していただけるというのであれば、両手を上げてでも歓迎すべきと私は考えますよ。」

「・・・そうね。 静空さん、また迷惑をかけてしまいますね。 すみません。 それと、ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

「これも菊璃殿の人脈の広さゆえに出来たことじゃな。 いやはや、天晴じゃ! ガハハ!」

「そうねん。 丸く収まったようで何よりだわん。」

「貂蝉と卑弥呼は祝融さん、管轤さんと共に一刀たちの側に付いていて。」

「承知した。 まぁ、儂らがおらずとも上手くやっていけておったのじゃ。 心配せずとも良い。」

「それでも心配するのが親心というものだ。 子がどれだけ優しく優秀であったとしてもね。」

「菊璃様や霧刀様が心配性なのは昔からのような気がしますが。」

「その分だけオレらのことも含め見てくれてるってことだ。 良いことじゃねぇか。」

「そういうことよ。」

 

 その心配にもご主人様は気付いていそうだけれどねん。

 

「ところで話は変わるのですが・・・人間には貂蝉や卑弥呼のような変わった服装や装飾を身に付ける文化があるのですね。」

「・・・こいつらが特殊なだけですから。 他にこんな格好してる人間なんてこの大陸全て回ってもいませんよ。」

 

・・・

 

 とりあえず二人を部屋に連れてきた。百合は安心したのか泣き疲れたのか、横になり眠りに着いた。起きた時には元気になってれば良いんだけど・・・。

 

「薔薇は寝てなくて大丈夫?」

「・・・全然寝れそうにないわ。 聞いた話がずっと頭の中でぐるぐる回ってるのよ。」

「そう・・・。」

 

 話の内容だけでも衝撃的なものがあった。関係者なら俺が感じたものの比じゃないだろうに。

 

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「一刀は・・・」

「ん?」

「一刀はもし・・・もしもの話よ。 一刀のご家族が悪党に殺されたら・・・一刀はどうする?」

「・・・。」

 

 これは答えて良いものだろうか・・・。いや、安易に答えてはいけないものだな。

 

「薔薇はどう考えているの?」

「出来るものなら仇討ちしたい。 けど私なんかが仇討ちしに行ったところで、殺されるか利用されることなんて目に見えてる。 だからもう歯痒くて・・・頭の中ぐちゃぐちゃなの!! どうしたら良いか分かんないの!!」

 

 薔薇が俺に抱きついて涙を流しながら胸を叩いてくる。俺に答えを求めている。まっさらな心に一滴の墨汁が落とされどんどん浸食されていくように、黒い感情に埋め尽くされていく感覚を味わっているのだろう。似たような感情を抱いたことがあるから分かる。胡花が監禁されていたとき、賊どもの話を聞き耳が腐るような笑い声を聞いたときは心が一気に闇に持って行かれた。

 お前にもそのような感情があるのだな。

 まぁ・・・ね。

 婆ちゃんたちに止められていた禁じ手の封を一瞬だけ解いた。そしたらどうだ。意識は飛び、気が付けばあたりは血の海。結果は暴走に終わり、婆ちゃんが来てくれなかったら・・・想像するだけで身の毛が逆立ち鳥肌がする。正直、今でも制御できるか分からない代物だ。つまり・・・心を闇に染めるような、あんな感覚を薔薇には味わって欲しくない。

 

「大丈夫。」

 

 薔薇を受け止め、抱きしめる。心が不安定なときには親しい人の声が一番の薬だ。俺の時の婆ちゃんの声のように。

 

「俺が皆を守るから。 薔薇を守るから。 それに、薔薇が左慈と対峙して相手を殺すか、逆に殺されたらどうするの? 百合はどう思う? 一人残され、たった一人の妹を失った悲しみをずっと抱かせるの? 俺だって嫌だ。 それに、霊帝・・・薔薇のお父さんだってそんなことは望んでなかったはずだから。」

「・・・。」

 

 やっと落ち着いたのか大人しくなった。その証拠に、その身を俺に預けてくれている。

 

「それと、薔薇は皇帝なんだから。 薔薇が笑顔だったら民衆の皆が笑顔になる。 暗い顔なんて誰もしてほしくないよ。 だから朝廷に戻った時に笑えるように、今は思いっきり泣けばいい。 辛さも悲しみも苦しみも全部涙に変えて吐き出しちゃえ。 ね?」

「うっ・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 薔薇の頭を撫でると我慢の限界に達したのか、大粒の涙がどんどん溢れてくる。百合が隣で寝ているのも気にしないで、まるで子供のように泣いている。それを見て少しだけ安心した。涙は心が緩んだ証拠だから。さっきまではずっと張り詰めていたままだったから。いつか壊れてしまわないかと心配だったんだ。それから薔薇はしばらくの間、俺の胸の中で泣き続けた。この先、もう悲しみの涙を流さなくていいように。

 

・・・

 

「・・・みっともないとこ見せちゃった//」

「そんなことないよ。」

 

 泣き止んだ途端、顔を真っ赤にして再び俺の胸に顔を埋めてきた薔薇。

 

「泣き顔を見せるなんて恥ずかしいだけじゃない・・・//」

「俺は信頼してくれてるんだって実感出来て嬉しかったけどね。」

「馬鹿・・・//」

 

 さっきまでしんみりしていたはずの空気が、今はなんだかほんのり暖かい。

 

「とにかく! 私のことはいいから清羅のとこに行ってやりなさいよ。」

「けど百合がまだ目を覚まさないし・・・」

「清羅も心の中では穏やかではないはずだから。 大きな隠し事を長くしていた私も彼女の気持ちはちょっとだけでも分かる気がするから。」

「・・・分かった。 百合のこと、お願いね。」

「任せなさい。」

 

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 俺は二人を部屋に残したまま清羅を探しに市に向かった。

 

「・・・う〜〜〜!! 私のバカバカバカ! なんでもっと一刀に甘えられないのよ〜。 わざわざ今清羅のとこに行かせなくてもいいじゃない。 絶好の機会だったのに・・・。」

「くすくす。」

「・・・姉様、起きてますね?」

「バレちゃった。 てへ♪」

「てへ♪ ではありません。 いつから起きていたのですか?」

「う〜んと・・・薔薇ちゃんを一刀さんが説得?してるあたりかな。」

「・・・私が泣いているとこ、聞いてましたね?」

「うん、ばっちり♪」

「はぁ〜・・・。」

 

 姉様に泣いてるとこ聞かれてたなんて・・・ついてないわ。

 

「一刀さん、優しいんだね。」

「何をいまさら・・・。」

「けど薔薇ちゃん、あんな風に言われて嬉しかったでしょ。」

「ま、まぁ・・・確かに//」

「私ね、お父様が知らない人の陰謀で亡くなったって事実に押しつぶされそうだった。 何も考えられなくて、言葉も何も出てこなかった。 けど一刀さんが薔薇ちゃんに言ってた言葉が私にも言われてるように聞こえて、一刀さんがそばにいてくれたら乗り越えられそう。 って思ったの。」

「それは同感です。」

「だからね、私は皆が笑って生きていけるような世の中にしたい・・・って言っても出来ることは限られてるから、そんな理想を持ってる一刀さんたちのお手伝いをする!」

「確かに手伝えることがあるのならそうしますが・・・。」

「薔薇ちゃん。」

「はい?」

「一緒にめいどさんしよ!」

「・・・はい? 聞き間違いでしょうからもう一度聞きます。 なんとおっしゃられました?」

「一緒にめいどさんしよ!」

「・・・。」

 

 思わず言葉を失ってしまったわ・・・。まさかこんなことになるなんて・・・。

 

・・・

 

 俺は清羅を探しに向かった。・・・は良いんだけど、

 

「一人で探すには広すぎるしなぁ。」

 

 誰かいないかなぁ?今日はどこの隊も鍛錬は休みだから知ってる人の一人や二人くらいいてもいいはずなんだけど。おや?あれは・・・

 

「お〜い! 瑠偉〜!!」

「? っ!? た、隊長!?」

 

 一人で歩いてた瑠偉に声を掛ける。いつも美香に恵と三人一緒だから珍しいな。

 

「そんなに驚かなくてもいいのに。」

「驚いてません!//」

 

 絶対驚いてたよな?

 

「そ、それよりどうされました?」

「清羅を見てない? ちょっと探してるんだけど見つからないんだ。」

「韓飛様ですか? 確か茶店で馬鉄とお茶をしていたようですが。」

「茶店・・・いつも瑠偉たちが行ってる杏仁豆腐が美味しいとこ?」

「はい。」

「あそこか・・・ありがと! 今度何か奢るね!」

「そんな・・・それと、私はいつも二人に誘われて茶店に行っているのですよ?」

「けど、一番美味しそうに食べてるのは瑠偉だよね。」

「〜〜〜//」

 

 図星か。まぁそうだよな。顔を蕩けさせてるとこを何度も目撃してるから。

 

「ま、ありがとね。 じゃあ俺は行くよ。」

「・・・は、はい!」

 

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 瑠偉に別れを告げ茶店に向かった。思ったより早く見つかりそうだ。駆け足で向かっていると、鈴が背後に現れた。

 

「蒼がついているのならお前が行かなくても良いのではないか?」

「そうかもしれないけどさ、少しでも力になってあげたいじゃん。 困ってたり悩んでるなら尚更だよ。」

「そうか。 ・・・それもそうだな。 お前なら確かにそう言うはずだ。」

「鈴も困ったことがあれば相談に乗るよ?」

「私の悩みか・・・私が未だに一刀の嫁になってないことくらいだな。」

「それは時間が解決してくれるから心配ないね。」

「う〜む・・・何とももどかしい。」

「あはは。 鈴が生きてきた時間からすればすぐだよ。」

「それはそうだがな。」

 

 そんな他愛ないことを鈴と話しながら走っているうちに茶店前に到着した。

 

「・・・あれ、何してるの?」

「おそらく隠れているつもりなのだろうな。」

 

 物陰からこっそり見ているつもりなのだろうか・・・。

 

「桃香。」

「うひゃい!」

「覗きはよくないよ。」

「な、な〜んだ、ご主人様か〜。 もう、びっくりさせないでよ〜。 せっかく見つからないように隠れてたのに〜。」

「周囲を見渡してみようか。」

「?」

 

 あたりでは桃香のことを微笑ましそうに見ているおっちゃんやおばちゃん。店員さんも似たような視線を送っていた。これが日常風景だから仕方ないのかもしれないけどさ・・・。

 

「なんでいっつも失敗するのかな〜・・・私なりには完璧のはずなのになぁ。」

 

 桃香の完璧に対する定義はさぞかし低いんだろうな。桃香のあれが完璧なら隠密で動いている管轤さんあたりはどう表現すれば良いんだ?月とすっぽん?

 

「だってだって! 愛紗ちゃんと鈴々ちゃんもあんな風に隠れてるんだよ〜。」

「ん?」

 

 桃香と店を挟んだ反対側から似たように隠れている・・・いや、もう隠れているとは言うまい。隠れもどきの愛紗と鈴々の姿が。よく似た姉妹だよホントに・・・。

 

「一刀、先に清羅のとこに向かえ。 これでは埒が明かん。 愛紗と鈴々は私が回収しておくから。」

「・・・任せた。」

「ご主人様、清羅ちゃんのことお願いね。 それとも、私も行ったほうが良い?」

「いや、今回は俺と蒼でどうにかするよ。 あまり人数は増えないほうがいい。」

「分かった。」

 

 ということで入店し、清羅と蒼の座るテーブルへと向かう。

 

「よっ。」

「兄貴。 さっきまでそこに桃香様と愛紗に鈴々がいたんだが、・・・あいつらは何をしてたんだ?」

 

 やっぱりバレてるよねあれじゃ。というかバレない方がおかしいか。

 

「気にしなくていいよ。 それより清羅は・・・」

「城を離れた時よりはだいぶ落ち着いたぜ。 兄貴が来る少し前まではずっと心ここにあらずって感じだったからな。」

「そう・・・。 清羅、気分はどう?」

「ご主人様・・・心配をお掛けして申し訳ありません。」

「気にしないでいいって。」

「ふふっ、ご主人様ならそう言うと思いました。」

 

 微笑するもすぐに笑みは崩れ重々しい表情へと戻る。

 

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「話なら聞くよ? 言葉として外に出したほうがすっきりするだろうし。」

「そうだぜ。 何でも自分の中に溜め込むのは体にも良くねぇからな。」

「話を・・・聞いていただけますか?」

「うん。」

「おう。」

 

 俺たちが頷くと清羅が淡々と語り始めた。古い記憶を思い返しながら・・・どこか哀愁が漂っているように感じる。

 

「私の本姓・・・芙蓉は元来、豪族の血統として代々受け継がれてきたものなのです。 先ほど、自分の記憶を掘り返している際に少しだけ思い出せました。」

「姐さんはそんなにすげぇとこの嬢さんだったのか。」

「かなり昔の話ですよ。 この血を引いているのは今や私のみ。 ですが、芙蓉の姓を受け継いでいこうとは考えていません。 勿論、血の繋がった父や母のことを考えていないとは言いません。 しかし、今の私は韓飛葉蓮。 この姓があったからこそ・・・私を引き取り、守ってくれた父さんや母さんがいたからこそ今の私がいます。」

「ん? それならそれで問題ないように思うんだけど・・・。」

「そうですね。 ですが・・・」

 

 清羅の表情が苦々しいものへと変わる。何かに縛られているような・・・背負わされているような・・・。

 

「この芙蓉を利用・・・または邪魔に思っている輩がいることが問題なのです。 城を出て、蒼が共にいなければ誰にも知らせぬまま成都を離れていたかもしれません。 ご主人様たちの枷にならぬよう、人里離れた場所でひっそり暮らすことさえ頭に浮かびました。」

「んなっ!? そんな馬鹿げたことまで考えてたのか!?」

「はい、馬鹿げていますよね。 ですが・・・私が芙蓉の姓を持っていたことであの村は狙われ、多くの人々が亡くなりました。 私がこのままここに残れば次はここが村の二の舞になる可能性だって考えられます。 あのような思いを二度と・・・もう二度と味わいたくはないのですよ。 自分の目の前で大切な人達が殴られ、斬られ・・・殺されていくような光景を・・・。 いっそのこと自害して全てを終わらせられるのなら・・・」

「いい加減にしろ!」

「あ、兄貴?」

 

 黙って聞くつもりだったけど、流石に今のは流せない。

 

「人里離れたところで暮らす? 自害? 俺たちの枷になる? いい加減にしろよ。」

「ご主人様・・・。」

 

 清羅に腹が立つわけじゃない。こんな発言をさせてしまうほどに・・・頼られなかった俺自身に腹が立つ。こんなきつい口調じゃなくていいはずなのに、俺の口は歯止めが効かなくなっている。

 

「自分ひとりで背負い込むなよ。 そんなに辛いなら俺らに相談しろよ。 皆にが無理ならせめて俺だけにでも頼ってくれよ。 出て行くなんて、ましてや自害するなんて・・・二度と言うな!」

「解決法なんてないではありませんか! 私の存在自体が枷なんです! 重荷なんですよ! 私は・・・私は! ご主人様の重荷になるくらいなら・・・喜んで死を選びます。」

「清羅が死を選ぶというなら俺は自分の身を犠牲にしてもお前を生きさせるぞ。」

「そんな・・・ご主人様がいない世など何の価値もありません。 そのようなこと言わないでください。」

「分かってるんじゃないか。」

「え?」

 

 やっぱりだ。清羅の思い・・・願いは俺と同じなんだ。対象となる人間が違うだけ。

 

「姐さんはさ、兄貴がいなけりゃ生きる意味もない。 そんなことを言ったろ。」

「え、えぇ。」

「それは兄貴にとっても同じなんだよ。 姐さんがいなけりゃ自分が生き残っても仕方ない。 そう考えてるんだろ、兄貴。」

「お察しの通りだよ。」

「ま、兄貴の場合は俺ら蜀将や兵、それに成都の民全員を含むんだろうがな。」

「バレバレだったか。」

「たまに自分で言ってるだろ。」

「そうかな?」

 

 自覚がないってことは無意識のうちに言ってるんだろうな、俺。

 

「そういうこと・・・だったのですね。」

「納得してくれたかな?」

「・・・はい。」

 

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 良かった。凄く安心した。頭に昇った血もいい感じで下がったし。

 

「も〜、清羅ちゃん水臭いんだから〜。」

「桃香様? ・・・いつからいらしたのですか?」

「・・・俺が来る前から多分視界には入ってたと思うよ。」

「そうだったのですか・・・すみません。 まったく気付きませんでした。」

「隠れてたんだから仕方ないよ〜・・・一応。」

 

 まだ隠れてたと言い張るか。意外と頑固だな。

 

「清羅ちゃん!」

「はい。」

「悩みがあるならいつでも相談してね! そのための仲間なんだから! 隠し事はなし! だよ♪」

「・・・お心遣い、感謝します。」

 

 清羅の双璧から涙が零れる。これは安堵の涙か、はたまた喜びから来る涙か。どちらにしても結果オーライだな。

 

「ご主人様、これからやること、また一つ増えたね。」

「あぁ。 左慈と于吉の捜索。 三国同盟の一件もあるし・・・雪蓮たちにも伝えておいたほうがいいかな。」

「そうだね。 蒼さん、呉に早馬を出してもらえますか?」

「了解。 じゃあちょっくら城に戻るわ。 後はごゆっくり。」

 

 蒼は席を立ち城へと歩いて行った。それとはすれ違いに鈴がこちらにやって来た。

 

「まったく、一刀というものがいながら相談のひとつもないとはな。」

「それについては重々反省してます。」

「まぁ良い。 とりあえず、スッキリしただろ。」

「はい。 先ほどより気分も良いですね。」

「それでこそ清羅だな。」

 

それからは四人でまったりティータイムへと洒落こんだ。

 

・・・

 

 日が暮れ、自室に戻ると頭を抱える薔薇となんだかテンションが異様に高い百合がいた。

 

「・・・何が起こったの?」

「一刀さん!」

「ん?」

「一刀さんのめいどさんにしてください!」

 

 ・・・?

 

「ごめん。 薔薇、通訳して。」

「無理。」

「というか発端は何?」

「姉様に直接聞きなさいよ・・・はぁ。」

 

 俺が部屋を出てる数時間の間に何が起こった?

 

「一刀さんのお仕事のお手伝いがしたいんです。 駄目ですか・・・?」

「うっ。」

 

 上目遣いはずるい。ここはびしっと言わないと・・・

 

「・・・、駄目・・・ですか?」

 

 びしっと・・・

 

「・・・う〜〜〜」

 

 やばい、泣きそうになってる。百合が。

 

「・・・ゆ、月と詠に相談してからね。」

「ありがとうございます♪ 薔薇ちゃん! 二人で頑張ろうね!」

「・・・ん? 薔薇も一緒にするの?」

「何でかそうなったのよ。 姉様の頭の中で決定されたわ。」

「・・・ご愁傷様。」

「ま、姉様ひとりにさせるのも不安だし。 目の届くところにいてくれる分には多めに見るつもりよ。」

「その方が俺も安心だ。 色々と。」

 

 というわけで、百合と薔薇はメイド(仮)になった。う〜ん、月はともかく詠になんて言われるか・・・。

 

「俺も頭を抱えたくなってきた。」

「〜〜〜♪♪」

「はぁ・・・。」

 

 俺と薔薇は二人してため息をつくのだった。

 

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あとがき 読んでいただきありがとうございます。今回は主に紅白姉妹+清羅にスポットを当ててみました。菊璃様こと光武帝軍+静空様こと青竜も次回から動き出します。三国同盟に左慈、于吉の捜索。問題は山積みの一刀たちですがどうにかやっていけるでしょう。ちなみに、清羅の本名である芙蓉は実名ではなく、本名は不明とのことでしたので刀蜀伝では本名扱いとさせていただきました。この点はご了承いただけると幸いです。それでは次回 第九節:THE MEIDOデビュー!/光武軍始動、二国会議開催 でお会いしましょう。

 

説明
何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。
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コメント
だいぶ進んできた感じですね。(ガリ眼鏡)
メイド隊、結成か…!? 続きが楽しみです! ところで、メインのタイトルが足りない気がするのですが…。(孔明)
こうして月と詠のライバルが出来ると…月さんが笑顔の裏で恐ろしい事を考えそうでちょっと怖い気も。(mokiti1976-2010)
メイドか・・・・・・一刀はメイドに弱そうですもんねww(本郷 刃)
左慈と于吉か・・・この外史の一刀とお母さん達なら圧勝できそうなんですがw(nao)
百合めっさ可愛いwwメイドで欲しいw(デューク)
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真・恋姫†無双 一刀 清羅 菊璃 静空 薔薇 百合 刀蜀伝 

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