真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第九話 |
「ああ…さっきよりとんでもない空気になってる」
俺は李儒さん達のいる部屋へ向かっていた。しかし、近付けば近付く程
そこから漂ってくる空気の重さは十倍増しで重くなっていくように感じ
られていた。
「こんなプレッシャーは本気を出したじいちゃんを初めて目の当たりにし
た時以来だな…はぁ〜」
俺はため息を一つついてから再びそっちへ目を向けるが、当然状況が変
わるはずもなく…。
「仕方無い…覚悟を決めて行きますか」
俺がそう呟きながら足を向けたその時、
「おい、北郷!何だあれは?何が起きている!?」
おそらく気を感じ取ったのであろう華雄さんが慌てた様子で駆け寄って
来た。
「ええっと、俺も現在どうなってるのかは分からないのですけど…」
俺は知ってる部分だけを華雄さんに説明する。
「…なるほど、李儒殿と李粛殿が険悪な雰囲気になったので董卓様に仲裁
を頼んだのか。確かにあそこから感じられる気はそのお三方の物だな」
「でもさっきはこれほど重い空気では無かったんですけど…」
「ふむ、何が起きているのかは分からんがこのまま放っておくわけにもい
くまい。お主も止めに来たのだろう?」
「はい、俺の力で何処まで出来るかは分からないですけど」
「案ずるな、私も共に行く。あそこには王凌殿もいるのだろう?三人いれ
ば何とかなるはずだ」
華雄さんはそう自信満々に言うが…まあ、確かに華雄さんの言う事も一
理あるかな?
「そんな事を思った時もありました…はぁ」
俺達が部屋に着いた時、其処は既に『部屋の跡』と化していた空間が広
がるだけであった。
「すまぬ…儂の力ではこれ以上被害が広がらないように誘導させるので精
一杯じゃった」
横に立つ王凌さんは本当にすまなそうに頭を下げていた。その王凌さん
の姿もボロボロになっていた所を見ると、かなりの苦労があったであろ
う事は見て取れる。
そして当人達の方へ目を向けると…。
「でぇぃやぁぁぁ!!」
「ふん、その程度で!!」
「そういう夢様の剣筋も随分鈍っておられますよ!!」
そこで繰り広げられていたのは、暴風とでも言うべきな位に荒れ狂った
剣戟の応酬であった。
「ていうか董卓さんにああいう一面があったのは驚きだな…」
「…董卓様は普段はお優しいお方なのだが、一度ああなるとそこらの兵士
程度では近寄る事すら出来ん。周りに人がいない所を見ると、おそらく
賈駆が素早く皆を退避させたのだろう」
俺の呟きに華雄さんがそう答える。
そうか…やはり賈駆さんはこうなる事が分かっていたからあの命令を出
したのか。さすがは名軍師だな。
「…って感心している場合じゃないな。とりあえず何とか三人を止める手
立てを…このままじゃ被害が広がる一方だ。華雄さん、王凌さん、手伝
ってもらえますか?」
「北郷には何か考えがあるのか?」
「考えって程のもんじゃないですよ。何せ力ずくで止めようっていうだけ
ですから」
俺の言葉に二人は一瞬ポカンとした顔になる。そして、
「待て、それは危険じゃ!お主は死にに行きたいのか!?」
「ふふふ、それは面白い。やはり戦は何時如何なる時も突撃あるのみだな」
二人は正反対の事を言っていた。
(ちなみにどちらが誰の台詞かは想像にお任せします)
「他に方法があるのなら聞きますけど?」
「「………」」
俺の問いかけに答えは返ってこなかったので、了承の意を得たとみなし
た俺は三人が尚も暴れ回っている方を向く。
「ではまず俺が真ん中に飛び込んで動きを止めますので、その瞬間を狙っ
て華雄さんは董卓さんを王凌さんは李儒さんを抑えてください。李粛さ
ん一人なら少しは話を聞いてくれるでしょうしね」
「しかし…夢様もああなってはあまり話を聞いてはくれんぞ?」
「そこは何とかします」
「…分かった」
王凌さんはそう言うと身構える。華雄さんは何時でも飛び出せる態勢に
なっていた。
「ならば行きます!」
「「応っ!!」」
その時、李儒達の喧嘩は何時果てるとも分からない状況になっていた。
「姉様…何時まで駄々をこねているのです?」
「ふん、駄々をこねとるのはそっちじゃろうが!!」
「私から言わせてもらえばどっちもどっちです!」
三人ともこれだけ戦い続けてまだ口撃の応酬も出来る元気が有り余って
いた。
そしてまた三人の剣が交錯しようとしたその時、その中心に飛び込んで
きた影によって三人とも剣をはじかれる。
「「「なっ!?」」」
三人がそれを驚きの表情で見たその瞬間、華雄によって董卓が、王凌に
よって李儒が後ろから羽交い絞めにされて身動きを封じられる。
「なっ!?じい、何をする!離さんか!!」
「華雄さん、いきなり何を!?」
何が起きたか分からず少し呆けた顔でそれを見ていた李粛の前に一刀が
立ちはだかっていた。
「北郷殿…?先程のはあなたが?」
「はい、かなりヒヤヒヤものでしたけどね」
一刀が肩をすくめながらそう言うのを聞いていた李粛の顔が不満そうに
歪む。
「何故このような事を?私は姉様と…」
「話をするのに剣はいらないでしょう?それに…周りがどうなっているか
落ち着いて見て欲しいのですけどね。李儒さんと董卓さんも」
そう言われて初めて李粛達は周りの建物が崩壊している事に気付く。
「さて、三人とも落ち着かれた所で、とりあえず…」
一刀はそこでコホンを咳払いを一つしてから、
「みんな、僕の為に戦ってはダメ!!」
大げさなポーズをとりながらそう言う。
「「「「「………………」」」」」
その言葉に一刀以外の全員の眼が点になっていた。タイミング良く遠く
から烏の鳴き声まで聞こえてきて、その場を妙な静寂が包む。
「お願いですから誰かツッコんでください…」
一刀のその呟きも風に消えていったのであった。
・・・・・・・
「ええ〜っと、いろいろありましたが被害は賈駆さんの予想より下回った
ようですので、これから大反省会を開催したいと思います」
あの後、壊れた場所は賈駆さんと華雄さんの指揮で直す事となり、俺達
は一旦客間に移動して、何故か俺が司会進行で話し合いが始まる事にな
った。
「言っておくが妾は何も反省する事は無いからな!」
「いや、とりあえず建物を壊した事は反省してください」
李儒さんは開口一番そう言っていたが、俺がツッコむと押し黙る。
「…確かに少し熱くなり過ぎたかもしれません。剣を抜いた事については
私達は大いに反省するべきですね」
李粛さんがそう言うと、李儒さんと董卓さんもバツの悪そうな顔をして
いた。
「では改めまして…そもそもこういう事態に至った原因ですが、李粛さん
が俺に何か頼み事をしようとして、それに李儒さんが反対された事から
始まるわけですが…」
俺がそこまで言うと、
「誰が何と言おうと妾は北郷にそれをさせる事は反対じゃ。これ以上夢が
何を言おうが耳を貸す必要は無いからな」
「姉様…だから何時までそのような事を」
李儒さんがそう口を挿み、李粛さんは不満そうに呟いて李儒さんを睨む。
「二人ともお待ちを。そもそも何をするのか俺は何を決めるのかも聞いて
ないのにそれを置いて喧嘩をするのはやめてください」
俺がそう言うと、李儒さんは今度は俺の方を睨む。
「妾は北郷の為を思って言っておるのじゃぞ!これに関しては聞いてから
やっぱりやめますは通じぬ。じゃからお主はこのまま無関係でいるのが
身の為なのじゃ」
「そうなのですか?李粛さん」
「確かに聞いた以上は知らぬ存ぜぬというわけにいかないでしょうが…で
も私は北郷殿ならば必ずやってくれると…大丈夫だと信じられるからこ
そ、それをお願いしようと…出会ってそんなに長くない私の口からこの
ような事を聞いてもあなたは信じられないでしょうけど」
俺の問いに李粛さんは眼を伏せながらそう答える。その顔からは彼女も
俺にお願いする事に対して抵抗が無いわけではないと感じられる。
しかし俺にお願い事って何だろう?聞いてしまう前に俺はあれこれ考え
てみる。そもそも李儒さんと李粛さんはあの『劉弁』と『劉協』なわけ
だよな…そして今二人が此処にいるのは洛陽が普通ではない状況になっ
ているという話だった。ならば考えられるのは…。
「二人のお母上…皇帝陛下の御身に何かあって、そして今どうなってるか
を俺が洛陽に行って探ってくるって事か?」
俺のその呟きに李儒さん達の眼が鋭く光る。
「あ、あれ…聞こえました?今の独り言」
俺が戸惑いと共に発したその言葉に皆が頷きを以て返す。
「あはは…でも、これだけの情報があったらこれ位予想出来ますよね…?」
「まあ、確かにな。でもそれはもう聞いてしまったのと同じ事じゃぞ?」
俺のさらなる呟きに王凌さんはそう答える。そう言われれば言い返す事
も出来ないけど…何だか微妙な気分だ。
「じい…それでは北郷を脅迫しているようなものではないのか?」
李儒さんは仏頂面でそう詰め寄るが、王凌さんはそ知らぬ顔をする。
「むう…じいも北郷を行かせる事に賛成という事か」
その顔を見た李儒さんの仏頂面はますます濃くなっていく。
「姉様、じいや私とて心の底から北郷殿にそのような事をさせたいと思っ
ているわけではないのです…でも、今の私達では何も分からないし何も
出来ない。そこにこれだけの技量を持つ北郷殿が参られたのです。私は
少しでも事態を好転させる事が出来るのなら、北郷殿におすがりしたい
…それによって我が身に如何なる天罰が下ろうとも覚悟の上です」
李粛さんは顔を歪ませながらそう言っていた。そうしなきゃならない事
に自分自身でも悔しさがあるのだろう。
「夢………お前、そこまで……」
それを見た李儒さんも同様に顔を歪ませていた。こうして見るとやはり
二人は双子なだけあってそっくりだなぁと思う…少々この場には不謹慎
な事を考えてるな、俺。さて、それはともかくこの場を収めるにも俺が
どうするか決めなければならないという事だな…ならば。
「李粛さん、俺の事を信用出来ますか?」
俺のその言葉に李粛さんは眼を見開いて俺を見つめる。
「信用…ですか?」
「そうです。だって俺はさっきあなたが仰られた通り出会ってそんなに長
くないんですよ?もしこのまま洛陽に行って、俺が敵側に付いちゃった
りとかは考えないのですか?俺が必ず貴女方の為に働くと信じる事が心
の底から思えますか?」
俺はそこまで言うと、じっと李粛さんを見つめる。李粛さんも戸惑いを
見せながらも俺の顔を見つめる。
「大丈夫じゃ、北郷は妾達の敵になったりはしない」
突然そう口を挿んできたのは李儒さんだった。
「あの〜…俺は李粛さんと話をしてたんですけど?」
「そうじゃの、だから妾も夢にそう語りかけただけじゃ」
俺の反論に李儒さんはしれっとそう答える。
「姉様…またお得意の『女の勘』というやつですか?」
「ああ、妾の勘が良く当たるのはお主が一番知っておるじゃろ?」
「そうですね、その代わりに私は生まれてこの方一度も勘働きなんか成功
した事が無いのですから」
李粛さんは少々自虐気味にそう答えてため息をつく。
「でも姉様、そんな事を仰られるという事は、北郷殿に行ってもらう事に
反対はしないという事ですか?」
「正直賛成はしたくないのじゃが…夢も夢の考えがあっての事であるなら
ばこれ以上反対は出来んよ」
李儒さんがそう言うと、李粛さんの顔に安堵の色が見える。
「姉様…ありがとうございます」
「…最初からこういう風に平和的解決にするという選択肢は無かったんで
すか?」
俺がそう言うと三人ともまたバツの悪そうな顔になるが、
「ああやって一度大暴れして鬱憤を発散させたからこそ、こうやって平和
的解決にたどり着けたという事じゃ!」
李儒さんが開き直った表情でそんな事を言ってくる。俺はそれを無言+
ジト目で返すが李儒さんは眼を逸らせて口笛を吹いて誤魔化していた。
「さて、それはともかく…では俺から。さっきの問いかけの通り、俺の事
を信用してくれるのであれば、俺はそれに全力で答えていきたいと思っ
ています。正直、今この国がどういう状況になっていてこれからどうし
ていけば良いのかまだまだ分からない部分も多いですが、俺も短い時間
ですが、皆さんと接してきて信じるに値する人達だと思っています。俺
の力がお役に立つのなら、喜んでお手伝いをさせていただきます」
俺がその言葉に李儒さんは眼を伏せて考え込む表情となり、李粛さんは
喜びの表情を見せる。
「ありがとう、北郷殿」
李粛さんはそう言って俺の手を握り、それを自分の胸の前まで持ってく
る。その拍子に俺の手が李粛さんの胸に当たる。
(なっ、何というボリュームと柔らかさ…こうして見ると李粛さんってや
っぱり美人だし、スタイル良いな…)
俺がそんなかなり不謹慎な事を思っていると、突然俺の尻に衝撃と痛み
が走る。
「痛っ!?李儒さん、何を…」
それが李儒さんが俺の尻を蹴飛ばしたと数瞬かかって気付く。
「ふん、自分の胸に聞けば良いのじゃ!」
李儒さんはそう言って一人でプリプリ怒って客間から出て行く。
「命様、何処へ…『ちょっと庭に出るだけじゃ!』…ふむ、これはこれは」
李儒さんの様子を見て、王凌さんはしたり顔で何やら頷いていた。
「北郷よ、すまぬが命様を追いかけてはくれぬか?儂よりお主の方が適任
ようだし」
王凌さんにそう言われ、俺は良く分からないまま李儒さんを追いかける。
・・・・・・・
「じい、もしかして姉様は本当に…」
「おそらくは」
「むう…やはり姉様もですか」
「?…夢様、今何と?」
「い、いえ、何でもないのです、何でも」
李粛は慌てた様子でそう言いつくろっていたが、
(姉様もそうであるなら…先程のはちょっとあからさま過ぎたでしょうか?
…それともこの際早めの実力行使も必要でしょうか?)
心の中で少々物騒な事を考えていたのであった。
「李儒さん?」
中庭にいた李儒さんに声をかけると、当の本人は驚きの表情でこっちを振
り向く。
「おわっ!?北郷、何故ここまで…もしかして妾を追いかけてきてくれたの
か!?」
「はぁ…王凌さんに言われて」
俺が来た事に李儒さんは少し嬉しそうな顔をしたが、俺がそう言うとまた
不機嫌な顔になる。
「…ふん、どうせそういう事じゃと思ったわ!」
そのまま彼女はそっぽを向いたままであったが、俺が近くでそのまま佇ん
でいると仏頂面のまま俺の方を向いて問いかけてくる。
「北郷…お主は妾達の手伝いをすると言ったが、本当に事の重大さを分かっ
て言っておるのか?」
「…宮中にいる者達が俺の想像を遥かに超えるような悪党連中なのだろう事
は分かります。そこに行くという事が危険極まりないというのも分かりま
す。でも、俺がこの世界に来た意味がそこにあると…何となくですがそう
感じました。俺が李儒さん達と出会ったのもこういう事に身を投じるのも
運命というやつなのだと…だから俺は李儒さん達の為に役に立とうと思っ
たのは確かです」
俺の言葉をじっと聞いていた李儒さんはふぅと一つ息をつくと、俺の方を
向く。
「そうか…お主がそこまで思ってくれているのなら、妾も腹をくくる事にし
たぞ。北郷、妾からも頼む。洛陽に行って母様の様子を探ってほしい」
「了解しました。でもその前に…」
「何じゃ?」
「一体、母君…皇帝陛下に何があったのか教えてくれても良いですか?」
俺の問いかけに李儒さんは少し逡巡するも、少しずつ話し始める。
「そもそも漢という国自体が根元から腐りかけているのが原因じゃ。皇帝な
どと肩書きは偉そうじゃが何一つ実権など無く、政は一部の奸臣や宦官達
にいいように操られてそのツケは全て弱い民達にまわり、そして…民達の
怨嗟の声は日に日に高まりそれは全て皇帝に向けられる。そんな状況じゃ
った。母様は元々皇族ではあったが、本来皇帝になるような地位では無く
ずっと地方におったのじゃが…先帝の一族とその背後にいる奸臣どもの不
毛な争いと洛陽に流行った疫病が原因で母様以外の皇位継承者は皆死んで
しまったらしくての。母様が皇帝になったのじゃが…母様はずっと民達を
近くで見てきたので、それまでの政を根本から改革しようとそれまで特権
階級にいた者や腐敗政治を行ってきた者達を更迭したりしてきたのじゃ。
しかし、それでも排除しきれんかった者達がおっての…」
「それが張譲とか何進ですか?」
俺の問いかけに李儒さんは頷く。
「張譲を始めとする十常侍の連中は後宮の者達と結託して母様の改革を邪魔
しての…何進は我が伯父上でありながらこっちはこっちで自分の権力の強
化と贅沢にしか興味を持たず、しかも勝手に方々に手を回して大将軍にな
ってしまい、軍部の大半を掌握してしまいおった。それでも母様は地方に
おった頃から親交のあった馬騰や董卓達の力を合わせて何とか力の強化を
図ってきたのじゃが…張譲の奴めが…」
「張譲が?」
「張譲の奴め…最初は『陛下のお心がようやく分かりました』などと言って
臆面も無く近付いてきおってな…妾達は信用するなと言ったのじゃが母様
は『私に任せておけ』というばかりで…母様がそう言うのだからと成り行
きを見守っておったが、張譲は母様の側近じゃった連中を少しずつ自分の
方へ取り込んでいっての。そして、あの日…」
〜回想〜
「陛下、是非に見ていただきたい物がありまして…但し、少々大きいもので
別室にありますればそちらまでご足労願いたく」
「ほう、張譲だけならともかく皆がそう言うのであれば良い物なのだろうな。
ならば見に行こう」
劉宏は促されるままに向かおうとするが、
「お待ちください、何やらあやしゅうございます」
王允が押し留める。
「そうか?ならお主は同行せずとも良い。命達の所に行っていてくれ。後は
頼むぞ、あれを置く場所もな…この間見たあの井戸とか良いな」
劉宏はそう言って立ち去る。王允はそれを聞くやすぐに劉弁達のいる部屋
へと向かう。
「どうした、じい?そんなに慌てて?」
「姫様方、申し訳ありませんが黙って私についてきていただきたい」
「…どういう事です?」
「理由は後で説明します。お早く!」
劉弁達は訝しげな表情をしながらも王允に従う。それからしばらく経って
からその部屋に十人程の兵士が乱入してきた。
「…なっ、誰もおらんだと!?」
「侍女を問い詰めた所、しばらく前に何処かに出て行ったきり帰ってないと
の事です」
「くっ、捜せ!何としてでも姫君達を張譲様の所へ連れていくんだ!」
その頃、洛陽城外にて。
一台の馬車が西の方をに向かって進んでいた。
「姫様方、もうしばらくご辛抱ください」
馬車の御者台にいる王允は馬車の中に敷いてある布に向かって声をかける。
「分かった…しかし洛陽からの初の外出がこのような格好とはの」
「姉様、声が大きゅうございますよ」
その布の下には劉弁と劉協が隠れていた。
「ところで…じい、これからどうするのじゃ?」
「まずは董卓殿の所へ。既に使いは出しておりますれば」
「月の所なら安心ですね。伯父上の所に行くなんて言い出されてたら今すぐ
馬車から飛び降りて逃げようかと思ってました」
「じゃが行くまでが大変です。気を引き締めていきましょう」
「うむ、でも大丈夫な気はするぞ」
「おや、姉様の勘ですか?」
「ああ、勘じゃ」
「ならば少しは安心出来るというもの」
「少しとは心外じゃ!」
「姫様方、見回りの兵が来ます。お静かに」
少し声が大きくなった所を王允が注意する。
こうしてしばらく馬車で移動した後、馬車を乗り捨てて徒歩で雍州に入り
山伝いに董卓の所に向かったのであった。
「…妾が知っておるのは以上じゃ。後はおそらくじゃが母様は妾達を逃がす
為に自分自身を囮にして引き付けてくれたのじゃろうが…実際は母様から
聞いてみない事には分からぬ」
李儒さんから事の次第を聞き、俺は今更ながらに重大さに気付く。
「でも…それなら『劉弁』の名前で張譲を弾劾すればいいのではないのです
か?そうすれば味方についてくれる諸侯もいるはず…」
「今の妾達ではそんな事をしても大した力にはならん。もし味方が出来ても
それでは国を二分した戦いになってしまうだけじゃ。それで喜ぶのは五胡
位じゃろ?諸侯に檄を飛ばすなら少なくとも母様の身柄は無事に確保する
必要はある」
俺の疑問に李儒さんはそう答える。
なるほど…そこで俺が洛陽に潜入して皇帝陛下の現状を確認してくるとい
う事か。
「…あれ?でも行った所でどうやって?幾ら何でもいきなり宮中に入るのは
無理でしょう?」
「それは私にお任せを」
そこにやってきたのは董卓さんだった。
「私からの紹介という事で、北郷さんにはとある貴族の所に仕官してもらい
ます。それでも陛下の所まで到達するのは大変でしょうけど…」
「分かりました。それからの事はお任せください。それと…」
「何でしょう?」
「璃々の事をよろしくお願いします。どう考えてもしばらく帰れなさそうで
すし」
「璃々ちゃんの事はご心配なく。私が責任を持って面倒を見させてもらいま
すので」
「北郷…本当にすまぬ。本来ならお主を巻き込むべき話では無いのじゃ」
李儒さんはそう言って頭を下げる。
「いいんですよ。何せ俺は好きでやるだけですから」
俺のその言葉を聞いた李儒さんの顔がみるみる赤くなる。
「好き…好きなのか?そ、その…妾の事がか?」
「えっ!?…ええ、そうですね。李儒さんも李粛さんも王凌さんも…董卓さ
ん達や璃々の事も」
俺が戸惑いながらそう返答すると、嬉しそうにはにかんでいた李儒さんの
顔がみるみる怒りに変わる。
「何、じゃと…ふん!!」
そしてその瞬間、李儒さんの蹴りが俺の脛にヒットする。
「痛っ!?な、何を…」
突然の痛みにうずくまる俺を見下ろしながら李儒さんは、
「ふん、お主が少し勉強が足らんからじゃ!」
そう言って怒っていた。董卓さんは俺の後ろで苦笑いを浮かべる。
「それはそうと…一応、妾の為に働いてくれるのじゃ。礼を取らすぞ」
「礼?一体何を…」
俺が言葉を続けようとしたその瞬間、俺の唇は李儒さんの唇に塞がれていた。
「へ…へぅ、へぅぅぅぅぅ!」
突然の出来事に董卓さんは赤面したままじっとその光景を眺めていただけで
あった。
「ぷはぁ…どうじゃ?これはなかなか味わえぬぞ。それと…妾の事をこれから
真名の『命』と呼ぶ事も許すぞ!無論、本当の名である劉弁もな」
「命様、それは…!」
「月、良いのじゃ。妾は出来れば北郷をそうしたいという事じゃ。今すぐどう
こう出来るわけはないじゃろうがな」
はっと我に返った董卓さんが慌てて声をあげるも、李じ…『命じゃ!!』心
の中の事までツッコまれた…命はそれを止める。
「は、はぁ…それじゃ俺の事は一刀と…真名は無いけどそれが一番近いもので」
「そうか。なら一刀よ、これから大変な事に巻き込んでしまうがよろしく頼ん
だぞ」
命はそう言ってにっこり微笑みかける。その笑顔に俺は眼を奪われてしまう。
あまり普段気にしてなかったけど、命も美人だよな…っていうか今の俺のフ
ァーストキスだ。それをこんな綺麗な人と…何だか現実じゃないみたいな。
「どうしたのじゃ?」
「い、いえ…その、キ…接吻は初めてだったから」
「そうか、一刀は初めてじゃったか。かく言う妾も初めてじゃったがな」
命はそう言って嬉しそうに笑う。そうか…初めてか、そうだよな…何といっ
ても彼女は皇帝の姫君なわけだし…あれ?確か皇族の接吻って婚姻の証明じ
ゃなかったっけ……………どうなるんだ、これ?
俺はしばらく何も考える事が出来なくなっていたのであった。
・・・・・・・
「むう…先を越されました。まさか姉様が実力行使に出るとは…でもまだまだ
勝負はこれからです」
その光景を少し離れた所で見ていた李粛はそう呟きながら拳をギュッと握り
しめていた。
…続く?
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回も大変お待たせしました事をお詫び申し上げます。
あれやこれや考えている内に時間ばかりが…。
とりあえず次回からしばらく『一刀・洛陽潜入編』をお送りします。
果たして一刀は劉宏の所まで辿り着けるのか?張譲や何進達の動向は?
乞うご期待…なんて言える程のものでは無いですけどね。
それと作中で劉宏様が元々皇位継承権から遠く離れていたという話を
入れましたが、あくまでもここだけでの設定ですのでご了承の程を。
それでは次回、第十話にてお会いいたしましょう。
追伸 恋のバトルはしばらくお預けですので。
説明 | ||
お待たせしました! 三つ巴の修羅場に意を決して突入しようとする一刀。 果たしてその結末や如何に!? そして一刀の決意は…? それではご覧ください。 |
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いた様、ありがとうございます。どうしてもメインは命達なもので…でも月にも光が当たる日があるかもしれません。(mokiti1976-2010) なにやら月が空気のような状態ですが、立場が立場ですのでね。いや〜次回も楽しみですね!(いた) naku様、再びありがとうございます。「カーッッペェッッ!!!」は分かりませんが大体似た感じかと。(mokiti1976-2010) 平野水様、ありがとうございます。大丈夫です、朱里は刺すのではなくカスカスになるまで搾り取り続けるだけですから(マテ。(mokiti1976-2010) きまお様、ありがとうございます。まとめてというより親子の奪い合いと意地の張り合いに一刀が巻き込まれる気がしますけどね。それでも親〇丼と姉〇丼にはなりそうな…。(mokiti1976-2010) みんなわかってないなあ。ここは「お母さんと娘さんたちをまとめてください!」に決まっているじゃないか♪親○丼と姉○丼が一緒に楽しめ・・・熟女?むしろご褒b(以下血まみれに(きまお) 禁玉⇒金球様、ありがとうございます。確かに向こうからしてきた接吻で結婚迫られたら一刀はやってられないでしょうね。そして劉宏様の出番はもう少しお待ちください。(mokiti1976-2010) じゅんwithジュン様、ありがとうございます。もはや外史に渡った際に一刀の遺伝子に擦り付けられた刻印の可能性も…。(mokiti1976-2010) 観珪様、ありがとうございます。その結果、お母さんの方が「娘にはもったいないから私が貰う」とかいうパターンも或いは(マテ。(mokiti1976-2010) 陸奥守様、ありがとうございます。命は少々舞い上がり気味でしたね。一応そういう偉い姫君の接吻がそういうものだと一刀が思っているだけで、命本人はさほどに思ってない可能性も…。(mokiti1976-2010) summon様、ありがとうございます。当然、一刀の行く所は修羅場の連続ですから!洛陽編でもいろいろとトラブルが…お楽しみに。(mokiti1976-2010) 憶測にすぎませんがこれで婚姻を迫ってきたら正に事後承諾というか既成事実というか結婚詐欺というか体の良い駒というか、走って逃げて隠れて一刀君、あと色恋やってる場合でなしこれだから小娘共は!、熟女美人の劉宏様速くカマン!!!(禁玉⇒金球) 相変わらず一刀は通常運転ですね。これはもう一種の呪いか何かなんでしょうか……(じゅんwithジュン) これは劉宏さまの下にたどり着いた時に「娘さんをボクにください!」って言うことになるんですね、わかりますww(神余 雛) 命はっちゃけすぎだな。接吻が婚約・婚姻の証だったら、もう一刀を天の御使いにして結婚するしかないじゃいか。(陸奥守) 修羅場をかっこよく(?)乗り切ったかと思えば、また次の修羅場の始まりの予感…洛陽編も楽しみにしていますね!(summon) たっつー様、ありがとうございます。確かにスベリ芸は緻密に計算されてる部分はありそうですよね。それに比べれば一刀のはただスベっただけという…。そして、とある貴族は…いろいろ考え中です。(mokiti1976-2010) アーバックス様、ありがとうございます。次回から一刀が混沌の中へと身を投じます。さあ、どういう風になっていくやら…。(mokiti1976-2010) おぉ・・・遂に一刀君が動き出しますか…今後が楽しみですね…w(アーバックス) naku様、ありがとうございます。当然あれをやってスベらないはずもなく…やはりああいうのは、はかない美少女がやってこそですよね。それと損害賠償等は…どうしましょう?(オイ(mokiti1976-2010) Alice.Magic様、ありがとうございます。夢とは洛陽より帰還後に何かあるかもしれません(エ。とりあえず仕官先の選択肢に華琳様はありませんので。(mokiti1976-2010) 一丸様、ありがとうございます。『・・・・・・・・・・・・』の部分が何なのか少々怖い感じもしますが…キスでこれだったら今後どうなる事か。(mokiti1976-2010) D8様、ありがとうございます。命には少々乙女心を出してもらいました。夢については一刀が洛陽から帰ってきた後で。(mokiti1976-2010) 夢様お早くー!wwさて、一刀君は一体誰に士官するんですかねー・・既存の軍雄で言えば曹猛徳こと華琳様か、生きていれば、孫文台か。もしくは、 盧植、朱儁、皇甫嵩 辺りか・・・(Alice.Magic) きゃあ〜〜〜〜?命ったら、積極的〜〜〜・・・そして、一刀は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ではでは、続き楽しみに待ってます。(一丸) お待ちしておりましたああああ!命様が可愛すぎる!夢様がこれからどう動くかも見ものですね。次回も期待してます!(D8) |
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