とある 上条さんと美琴さんと金髪幼女
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とある 上条さんと美琴さんと金髪幼女

 

1 上条さんと金髪幼女

 

「ちょっと悪いんだけど……この子のことを今夜一晩預かってくれないかしら?」

 夏休みも終わりが近づいたある日の夕方のこと。突然やってきた御坂は俺に金髪ゴスロリ幼女を預かって欲しいと頼んできた。

 何を言っているのかさっぱり分からないと思うが俺もさっぱり理解していないので安心して欲しい。御坂の用事は割りといつもこんな感じで理不尽だ。

「その金髪ゴスロリの幼女は御坂の子どもか?」

「私の子なわけがあるかぁっ!」

 御坂が天井に向かって吠える。ついでに俺に向かってグーパンチが抉り込むようにして飛んでくる。

だが、御坂に対する危険察知が超能力レベルに達している俺はその攻撃を余裕で避けた。

「何となく目元が似ている感じがするんだが。2人並ぶとそっくりだぞ」

 しゃがみ込んで幼女の顔をよく見てみる。幼いながらも利発そうで目元とか御坂の面影が見えるような気がする。

「う〜……」

幼女はまだ俺を警戒している。そんな警戒する仕草も御坂に似ている。

「やっぱり、お前の子じゃないのか? 認めちまえば楽になるぞ」

「私はアンタと子どもが出来るような行為をしたことないでしょうがぁっ!」

 立ち上がろうとした所に御坂からの一撃が上から飛んできた。

「うおっ!? 痛いっ!?」

 いい感じに左頬を引っ叩かれました。回避不可能でした。

「何で俺とお前の子どもになるんだよっ!?」

 頬を押さえながら抗議する。

「アンタ以外に私に子どもを産ませる男なんてこの世界にいるわけがないでしょうがぁっ!」

「ぐへっ!?」

 もう1度いい感じに今度は右頬を引っ叩かれました。頬の痛みに気を取られて回避本能が発動されません。

「お前が何言ってんだか全然分からねえっての!」

「うっさいっ! いい加減分かれ。この鈍感朴念仁馬鹿がぁっ!」

「あぶっ!? びほっ!?」

 往復ビンタです。わたくしめは青髪ピアスとは異なり少女に叩かれることをご褒美と受け取れる人間ではありません。痛いだけです。苦痛です。果てしなく苦痛です。

 

「で、その子は結局誰なんだよ?」

 痛みが引くのを待ってから俺を興味深そうに眺めている幼女の正体を再び尋ねる。

「フェブリちゃん」

 御坂は幼女の名前を答えた。

「そうか。君はフェブリちゃんって言うのか」

 幼女と目線を合わせながら確認する。

「うん」

 フェブリはコクンと頷いて答えてみせた。幼い子どもらしい可愛らしい仕草。

「で、フェブリちゃんは御坂の一体何なんだ? やっぱり娘なんじゃないのか?」

「殴るわよっ!」

 御坂が拳を振り上げた。

「上条さんに殴られて喜ぶ趣味はありません」

 両手を上げて降参のポーズを取る。御坂は電撃より肉弾戦を仕掛けてくる方が怖い。

「大体、私とアンタの子じゃ金髪になるわけがないでしょうが。常識でモノを考えなさいってのよ」

「だからどうして俺とお前の子になるんだ?」

「…………ばかっ」

 御坂は頬をプクッと膨らませてみせた。

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「まあいいや。で、このフェブリちゃんはどこのお嬢さんなんだ? 某国の姫君か?」

 3度改めて尋ねる。

「知らない」

 御坂はあっさりと首を横に振った。

「知らないってなんだよっ! まさかお前、この子を誘拐してきたのかっ!? 俺に誘拐の共犯者になれと?」

 新聞の一面を飾る俺を想像して泣きたくなる。

「違うっての! 佐天さんが見つけて拾ったのよ」

「拾ったって犯罪臭バリバリじゃねえか。だから俺を危険な山に巻き込むなっ」

 幼女誘拐の汚名を着せられたら俺は社会的に抹殺されてしまう。ヒーローといえども2度と立ち上がれなくなってしまう。学園都市どころか全世界の暗部に足を突っ込んでしまう。

「ちゃんとジャッジメントを通じてこの子の保護者を探してもらっているの。私たちはその間この子を正式に預かっているんだから」

 ムスッと返答する御坂。

 

「なら、佐天さんの所で預かってもらえばいいだろう。あの子は小さい子の世話とか御坂より上手そうだし」

「何かとげのある言い方ね」

 御坂は不満そう。

「もちろん私だって佐天さんに預かってもらう予定だったのよ。でも、佐天さんも初春さんも学校行事の都合で今夜は学園都市を空けなきゃいけないのよ」

 大きなため息が聞こえてきた。

「なら常盤台のお前の部屋に泊めればいいだろうが」

「それができれば苦労しないっての」

 御坂が首を横に振る。

「常盤台の寮は部外者の宿泊に対して極めて閉鎖的なの。何枚も書類を書いて何日も審査を受けて運が良ければやっと通るぐらいなんだから」

「つまり今日急に泊めたいと申し出ても無理と」

「そういうこと」

 御坂が頷いてみせた。

「なら、常盤台以外に通う知り合いの家ならどうなんだ? 固法さんとか」

 メガネで巨乳という俺のストライクゾーンど真ん中のお姉さんを思い出す。

「固法先輩の家には今日ご家族が泊まりにいらしてるとかで無理なのよ」

「じゃあ、他は?」

「だからここに来たんじゃない」

 御坂は当然とばかりに頷いてみせた。

「…………ああ。さいですか」

 これ以上の追及は不毛と判断して頷いてみせる。

 御坂の交友関係をこれ以上探るのは止めよう。きっと上条さん家の家電が全滅する結果を招くに違いない。

 

「というわけでフェブリのことを1晩お願いね」

 御坂はパッと花開かせて微笑んだ。

「……だが断る」

 断固とした決意を見せる。

「何でよ?」

 御坂の表情がものすごく不機嫌なものに変わった。

「この子を泊めることで大きな損害を蒙る未来が見えるから」

 俺の不幸予知レーダーの感度を甘く見ないで欲しい。

「フェブリ可愛いじゃない。生活に潤いが出るわよ。超お得よ」

「昨今の社会は世知辛くてな。1人暮らしの男の部屋に幼女を泊めるっていうだけで、どれほどの爆弾となることやら」

 土御門や青髪ピアスに気付かれたら俺はもう2度と学校に通えなくなるだろう。現代社会で家族以外の幼女と寝泊りするとはそういうことを意味するのだ。

「そんな第三者からの噂なんて気にする必要なんてないでしょ。どうせアンタの評判なんて最初から地に落ちてるだし」

「底辺だからこそ、これ以上落ちたら困るんでしょうが」

 超の付くエリートさまに地を行く俺の悩みを理解するのは無理なことだったか。

「それとも何? アンタはまさか……年齢1桁の女の子に欲情するような変態なわけ? 中学生はBBAって言いたいわけ?」

「そんなわけがあるかっ!」

 本気になって否定する。ペド疑惑だけは絶対に止めて欲しい。

「腹ペコシスターだって一緒にいるんでしょ? 最悪な場合どうとでも言い訳は立つわよ」

「インデックスなら今夜うちにいない。小萌先生と一緒に食べ歩きツアーに出かけている」

 インデックスは今夜帰ってこない。そんな状況でこの幼女を泊めれば……

 

『とうまがいつまで経ってもわたしに手を出さないのはペドだからだったんだね。わたしがナイスバディーな大人な女のばっかりに、とうまの性的な関心を惹けなかったんだね』

『胸の大きさならインデックスとフェブリは変わらないだろ。どっちも無なんだし』

『ロリペドとうまだけは絶対に許さないんだよっ! ガブッ!』

アイツ自身が俺の最大の糾弾者になるのはもう間違いない。

 

「う〜ん……」

 一方で御坂は先ほどから天井を見上げて思案顔をしている。

「お前……一体何を企んでいる?」

 激しい悪寒が走った次の瞬間だった。

「フェブリちゃ〜ん。今夜は当麻パパの所にお泊りでちゅよぉ〜♪」

 御坂はフェブリを肩を後ろから押して俺の元へと送ってよこした。

「御坂テメェ。考えることを放棄して俺に面倒事を全部押し付けるつもりだなっ!」

「どうせアンタの部屋に泊めるっていう風にしか結論は出ないんだから。過程なんかどうでもいいのよ」

 御坂は堂々と開き直った。

「当麻……パパ?」

 フェブリが不思議そうな表情で俺を見上げている。

「そうよ。この人がフェブリのパパなの。だから今夜はパパの所にお泊りしましょうね〜♪」

 御坂は俺にはほとんど見せたことがない優しい笑みでフェブリちゃんの頭を撫でる。

「うん。パパの所にいる♪」

 そして純真な少女は御坂の言葉に素直に頷いてしまった。

「汚ねえぞ、子どもをダシに使うなんて!」

「アンタはフェブリのこの純粋な目を見ても同じことを言えるのかしら?」

 御坂がフェブリの顔を俺へと向ける。

「当麻……パパ♪」

 穢れなき幼女の瞳。

「うっ!」

 子どもの持つ汚れなき瞳の威力は絶大だった。たとえ悪女に騙されているにしてもこの子に罪はない。

「フッ。この純真な瞳に逆らうなんて不可能なの。アンタに勝ち目なんてないのよ」

 勝ち誇る御坂。だが、その態度は俺の反骨魂に炎を点させた。

「確かに俺には勝ち目はないのかも知れねえ。だがな、負けっ放しが決まったわけでもないんだぞ」

「えっ?」

 訝しがる御坂に対して俺は反逆の狼煙を上げた。

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「フェブリちゃんは美琴ママと一緒にいたいよな。なっ?」

 フェブリの頭を撫でながら御坂へと顔を向けさせる。逆襲の時は今始まるっ!

「えっ? 美琴……ママ? えっ? 私がママで……アンタがパパなの!?」

 御坂の顔が一瞬にして茹で上がっていく。

「美琴は……ママなの?」

「そうだぞぉ。美琴ママはフェブリのママなんだぞぉ〜」

 幼女に優しく言い聞かせる。子どもに嘘を教え込む悪人としての汚名を背負うことになろうと、俺にばかり苦労を押し付けようとする悪女を野放しにはできない。

「フェブリはママと一緒にいたいよなぁ?」

「あっ、アンタっ!?」

 焦った声を出す御坂。だが、もう遅い。

「うん。ママと一緒にいたい」

 純真な瞳でコクンと頷いてみせるフェブリ。

「ひっ、卑怯だわよ! 幼女に嘘を教え込むなんて!」

「お前が先に採った戦法だろうが!」

「フェブリのパパって認められたんだから、今夜はアンタの所で預かってよ!」

「お前こそママって認められたんだから、フェブリの世話を責任もってみろよ」

 喧々諤々の争い。しかし、互いに譲るわけにはいかないので口喧嘩は止まらない。

 そして──

 

「かみやん。夫婦喧嘩はせめて玄関を閉めてやって欲しいんだにゃ〜」

「子どもはパパとママの2人で仲良く協力して育てないとダメなんやでぇ」

「御坂は既に結婚してそんな大きな子どもがいたんだな。知らなかったが、おめでとうとだけこのメイド見習いが言っておくぞ」

「「あっ」」

 一番知られたくない連中に全部バレてしまった。

「今夜の焼肉パーティーはかみやんの結婚&家族が増えた祝いも追加なんだにゃ〜」

「あんなベッピンな嫁はんと娘がいるなんてホンマ人生の勝ち組ですわ。羨ましい」

「これから御坂のことは上条って呼ばないといけないわけか。ヤレヤレ、メイドはいつでも覚えることが多くて大変だぞ」

 土御門たちは俺たちにさして絡むことなく好き勝手述べると隣の部屋へと入っていってしまった。

「当麻パパ。美琴ママ。一緒……」

 フェブリが俺と美琴の手を引っ張った。

 もう逃げられる状況でないのは明白だった。

「今夜はパパとママと一緒に過ごすか?」

 フェブリに確認を取る。

「うん♪」

 楽しそうに頷いてみせるフェブリ。

「そういうわけだから、協力をよろしくお願いするぜ……美琴ママ」

「分かったわよ……当麻パパ」

 全身を真っ赤に染めながら頷いてみせる御坂。

 こうして俺は妻と娘を持つ家庭の一夜限りの主となったのだった。

 

 了

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2 学園都市第1位と当麻パパと金髪幼女

 

「三下ァッ! その金髪幼女を賭けて俺と全力で勝負しやがれェッ!!」

 一方通行は逝かれた瞳で口からダラダラ涎を垂らしながら勝負を申し込んできた。コイツの興奮が最大限に高まっている時の表情だ。

「普段の俺であればこんな勝負を受ける謂われはない。だが、今は……負けるわけにはいかねんだよっ! ロリペドなテメェにだけは絶対になっ!」

 今の俺は決して引けない状況にある。

「当麻…パパ?」

 心配そうな瞳で今日限定の俺の娘が覗き込んでくる。

「心配すんな、フェブリ。パパは負けたりしないさ」

 金髪幼女な娘の頭を撫でる。

「一方通行……幼女にしかハァハァできないお前に娘を託すなんてできるかぁっ! テメェの、テメェにだけ都合の良いペド幻想を木っ端微塵にブチ殺してやる!」

 叫ぶと共に体の奥底からかつてない力が漲ってくる。これがお父さんパワーってやつか。

 フェブリを守るためなら……俺はレベル5第1位にだって負けやしない。絶対に。絶対にだっ!

「吼えてんじゃねえぞォ三下ァッ! お前みたいな外道がそのガキの父親だなンて黙って見ていられるワケがねェだろうがァッ!」

 一方通行は一歩も引かない。やはりコイツのロリっ娘に対する異常なまでの粘着質な想いが奴をレベル5第1位に押し上げただけのことはある。なら、これ以上の言葉は不要。

「俺のフェブリに対する想いとお前のフェブリに対する想い。どっちが強いかケリをつけるぞ、アクセラロリータッ!」

「それは俺のセリフだ。今日こそ決着をつけてやるぜ、この女の敵めがァッ!」

 右の拳に全ての力と想いを注ぎ込み、目前の敵を粉砕する。俺が望むのはただそれのみ。

「アワワワワ。どうしてこうなっちゃったの? って、ミサカはミサカは当惑しながら2人の間を行ったり来たり」

 男同士の譲れない戦いが今ここに始まった。

 

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 色々あって金髪幼女なフェブリを一晩だけ御坂と共に預かることになった。

 

「夕飯の支度をそろそろしないといけないんだけど……」

 冷蔵庫の中を覗きながら御坂が言葉を切る。

「中、見事なまでに何にもないわね」

「ああ。出発前にインデックスがみんな平らげていったからな」

 出征祝いだとか何とか述べながら略奪は平然と行われた。俺が食べる分の食料が残されることはなかった。

「じゃあ、夕飯の材料を買ってきてよ」

「そうしたいのは山々なのですが、生憎と先立つものがありませんでしてね」

 冷蔵庫が空なのはそういう経済的な理由からだ。

「……本当に結婚したら私が働いて、当麻には主夫になってもらった方がいいかも知れないわね」

 御坂は冷蔵庫に頭を突っ込んだ状態で何かをブツブツ言っている。

「じゃあさ、今夜の食費は私が出すからアンタはフェブリと買い物に行ってきてくれない? その間に私はお米研いで炊飯器にセットしておくわ」

「ああ、分かった」

 御坂が冷蔵庫を閉めて室内へと歩いてくる。

「じゃあ、少ないかも知れないけれど……これで夕飯の材料をお願いね」

 そう言って御坂が手渡してくれたもの。

「って、10万円っ!?」

 ユッキー×10人だった。

「足りなかった?」

 首を捻る御坂。

「じゃあ、もう10万円ぐらい」

 御坂は特に何も考えないままゲコ太財布を開こうとする。

「もう十分ですっ! 上条家の食費2か月分を1食で費やそうとする美琴お嬢さまとは住む世界が違うことを十二分に理解いたしました」

「何よそれ?」

 御坂が不審がる。レベル5は金持ちだ金持ちだと思ってたけど……ここまでだったか。

 学園都市の経済格差恐るべし。ていうか上条さんが惨め過ぎます。

「さあ、フェブリちゃん。パパと一緒に買い物に出かけるか?」

 悲しみを振り払うようにして立ち上がる。

「うん♪」

 ゲコ太フィギュアで遊んでいた金髪幼女な娘が俺の声に呼応して立ち上がる。

「フェブリは何が食べたいか? パパとママが何でも作ってやるからな」

「…………はんば〜ぐ♪」

 フェブリは何かを思い出したようにニコニコしながら答えた。

「よし、分かった」

 今日の夕飯のメインディッシュは決まった。

「野菜やフルーツもちゃんと買ってきてよ」

「分かってますよ。上条さんだって栄養のバランスぐらいは考えますよ。うちには妖怪食っちゃ寝がいますからね」

 フェブリの手を繋いで玄関へと向かって歩いていく。

「……もしかして、当麻と結婚するともれなくシスターとフェブリっていう子どもが2人も付いてくることになるの? 新婚早々いきなり4人家族っていうのは……う〜ん」

 御坂は部屋に残って何かをブツブツ言い続けている。

「じゃあ、行ってくるぞ」

「きま〜すぅ♪」

 御坂を待っているのも面倒臭いので買い物に出ることにした。

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「買い物も無事に済んだし……万札を颯爽と差し出すのって気分いいなあ♪」

 買い物は問題が起きることなく済んだ。俺が金髪幼女と一緒にいることを若干怪しい目で見る人もいたが、声を掛けられるような事態には至らなかった。

 学園都市には留学生も多いのでさほど不審に映らなかったのだろう。

「じゃあ、帰るか」

「うん」

 チュッパチャップスみたいな飴を咥えながらフェブリが頷いてみせた。

 右手に買い物袋を持ち、左手でフェブリと手を繋ぐ。

 夕日のオレンジ色の陽光を横から浴びながらゆっくりと歩いて帰る。

「こういうのを……父親になった気分って言うんだろうなあ」

 手を繋ぎながら子どものペースに合わせてゆっくりと歩く。たったこれだけのことでも何か自分が変わった気がする。

 1人で歩いている時とも、御坂やインデックスと2人で歩いている時とも違う。

「??」

 フェブリは不思議そうに首を傾げている。

「公園が見えてきたぞ。少し寄っていくか」

「うん」

 いつもの公園へと入っていく。

 今思えば、その決断が間違いだったのだ。

 でも、可愛い娘と公園で戯れる父親という幻想は強く俺の中で働いていた。

 俺はその幻想を現実にすべく、誰が中にいるのか確かめずに公園内へと足を踏み入れてしまった。

 

 

 

「わぁ〜。可愛い子発見♪ って、ミサカはミサカは妖精みたいに可愛い子を間近で見て浮かれてみたり♪」

 公園に入って中をブラブラしていた所にラストオーダーが接近してきた。

「この可愛い金髪っ子は誰? って、ミサカはミサカは期待に胸を膨らませながら聞いてみたり」

 ラストオーダーは瞳を輝かせながらフェブリを見ている。

「……う〜」

そんな露骨な好奇心がフェブリには怖いのか俺の後ろに隠れている。

「この子はフェブリって言うんだ」

 フェブリの頭を撫でながら紹介する。

「へぇ〜フェブリちゃんかぁ」

 歓声を上げるラストオーダー。2人を見比べると若干ラストオーダーの方がお姉さんのようにも思える。

「一緒に遊ぼっ♪ って、ミサカはミサカはお姉さんになった気分でフェブリちゃんを誘ってみる」

 ラストオーダーはフェブリに向かって手を指し伸ばした。

「……っ」

 ビクッと震えるフェブリ。やはりこの2人、性格が開放的と内向的という差もあってラストオーダーの方がお姉さんにも見える。

 ラストオーダーとの出会いがフェブリの情操教育にいい影響を与えてくれれば。父としてそんなことを願ってしまう。

「ほら、フェブリ。ラストオーダーとちょっと遊んできたらどうだ?」

「う〜」

 乗り気ではないフェブリ。同世代の子と接するのを極度に警戒している。

「こんな時、父としてはどうするべきなのか……う〜ん」

 子どもの教育方針に関して思い悩む。

 フェブリを子ども社会に無理やりにでも入れるべきか。それとも今は大切に守るべきか。

 だが、俺は他のことにもっと気を使うべきだった。もう日も暮れるこの時間にラストオーダーが1人でいるはずがない。なら、誰と一緒に来ているのかもっと考えるべきだった。

 

「どうやら三下もォ……幼女の魅力に目覚めたみてェだなァッ!! ひゃっはっはっは」

 下品な笑い声を奏でながら俺たちの前に姿を現した白もやし。

「一方通行……お前……」

「ああそうだァ。中学生ってのはなァ……BBAなンだよ」

 学園都市最強の犯罪者、幼女しか愛せない不治の病に掛かっている一方通行だった。

「しかしそっかそっかァ。ようやく三下も真理に到達したらしいな。幼女こそ至宝。愛を注ぐのは幼女に限る。第二次性徴なンぞ必要ねェっていう真理によォ」

 それは普段であればペド野郎と叫んで蔑んだ瞳で見れば解決するだけのこと。だが、フェブリの父親となっている今の俺にとっては聞き捨てならない言葉だった。

「一方通行……貴様が俺の娘を邪な欲望に満ちた瞳で見ることは断じて許さねえっ!」

 俺の中でかつてない大きな力のうねり、熱い激流を感じる。

「俺の娘? 三下ァ、パパプレイを楽しンでその幼女を独占しようって腹か」

「独占とかじゃねえ。フェブリは俺の娘だ。お前みたいなペド野郎を近付けるわけにはいかねんだよ」

 守るべき娘がいる。

 倒すべき犯罪者がいる。

 だから多分、最初から言葉なんて要らなかったんだ。

「俺が勝ったらその幼女……オメェからもらい受けてやるッ!」

「二度とフェブリに近寄れないようにしてやるっ!」

 そう、俺と一方通行が考えることなんて最初から同じだったんだ。

 即ち、相手を排除したいというその一心で一致していた。

「「勝負ッ!!」」

 絶対に譲れないものを賭けた戦いが始まった。

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「スーパー・ウルトラ・ワンダフル・デリシャス・アブストラクトそげぶパーンチッ!!」

「言語で表し尽くせない超スゲェ力を応用したベクトル操作加速推進パンチィッ!」

 俺たちのクロスカウンターが互いの顎を捉えて脳を激しく揺さぶる。

「「グヘッ!?」」

 俺と一方通行は同時に地面に倒れ込んだ。

「チッ。こんなロリペド野郎と引き分けになっちまうなんて……」

 身体が全く動かない。

「俺こそテメェのような三下野郎に勝てねェとは焼きが回ったもンだぜ……」

 一方通行も動けない。

 両者ノックアウトだった。より正確には34分15秒の激闘の果ての相打ちだった。

「あのガキ……何か厄介なもンを背負い込ンでいるに違いねえゾ」

 一方通行の目がベンチに座って眠ってしまっているフェブリへと向けられた。ラストオーダーと並んで眠っている姿は1枚の絵画にでもできそうなほど愛らしい。

「…………だろうな」

 俺の不幸予感レーダーも警報を鳴らしている。

 そうでなくても、人の出入りが厳格に管理されているこの都市で、正体不明の少女の存在が怪しくないわけがない。単なる迷子ではないのは明らか。裏に何かある。

「テメェはあの金髪幼女を守りきれンのか?」

「ああ。そういうことか」

 一方通行がいつも以上に激しく絡んできた理由がようやく分かった。

「お前に守ってもらわなくても、あの子は俺と御坂が守りきってみせるさ」

 一方通行はフェブリを手元に置いて守ろうとしたのだ。ラストオーダーを守っているように。

 コイツは中学生未満の幼女に異常な執着を見せる一方で、ラストオーダーの入浴シーンを想像しただけで鼻血を吹いて失神する変態紳士。

 そして幼女のためならどんな強敵にも平然と立ち向かい命を落とすことも恐れない。それが一方通行だった。その男が俺を試していたのだ。

「うン? 超電磁砲オリジナルが絡んでるンのか?」

「この件のメイン担当は御坂だ」

「チッ」

 一方通行は漆黒の翼をはためかせて起き上がる。

「精々テメェ夫婦でそのガキを守り抜いてみせろ」

 一方通行は飛翔してラストオーダーの前へと降り立つ。

「幼女を守るってのは簡単なことじゃねえってことだけはよく覚えておけ」

 一方通行は眠ったままのラストオーダーをお姫さま抱っこすると大空へと飛び立っていった。

 

「ラストオーダーを守るために死闘を繰り返してきたアイツに言われると……説得力がパネェなあ」

 痛む体をおして立ち上がる。ズキズキと脈動する体を引きずるように歩きながらフェブリの元へと歩いていく。

「そろそろ帰るか」

 頭を優しく撫でながら眠りに就いている幼い姫を起こす。

「当麻…パパ?」

「うん。パパと一緒に帰ろうな」

 まだ寝ぼけているフェブリを立ち上がらせる。

「当麻ぁ〜フェブリ〜」

 制服にエプロン姿の御坂が俺たちの元へと駆けてきた。

「2人がなかなか帰って来ないから何かあったんじゃないかと思って心配になって出てきたのよ」

 我が家の王妃もなかなかに勘が鋭い。さすがは俺と共に何度も死闘を潜り抜けてきただけのことはある。

「って、アンタボロボロじゃないの? 敵襲っ?」

 御坂の表情が一気に引き締まる。いつでも電撃を発射できる体勢に入っている。

 我が家のママは勇ましくて頼もしい。

「フェブリを守れるかどうかテストされていただけだよ」

 御坂の頭を右手で撫でて体内の電気を打ち消す。

「テストって誰に?」

「一方通行」

 御坂の表情がゲンナリしたものに変わった。

「それで、学園都市最強のロリコンの採点は?」

「俺たち夫婦でフェブリを守り抜けってよ」

 俺がため息を吐きながら審査結果を口にした瞬間、御坂の顔が真っ赤に染まった。

「なっ、何言ってるのよっ!? 私たちがふ、夫婦って!?」

「そう言えばアイツに御坂がフェブリのママになってるって伝えてないのに、どうして俺たちを夫婦扱いしたんだろうな?」

 御坂の顔が更に赤くなっていく。

「さっさと帰って夕飯の支度をするわよっ!」

 御坂は真っ赤な顔で口をパクパクさせながら大声を上げる。

「ほら、フェブリ。ママと一緒に帰ろう」

 御坂が強引にフェブリの手を握る。

「うん」

 フェブリは余った右手で俺の左手を握ってきた。

「そうだな。親子3人で手を繋いで仲良く一緒に帰るか」

 幼い頃の記憶を失っている俺にとっては親子で仲良く歩くというのはちょっと憧れているシチュエーションだ。

「帰ろうぜ、美琴ママ」

 声を掛けたら御坂の顔が茹で上がった。

「わ、分かったわよ……当麻パパ」

 3人で仲良く歩き出す。

「……いつかこの光景……本当にして見せるんだから」

 星が出始めた空を見上げながら美琴ママは何かを決意するのだった。

 

 

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3 上条夫妻と金髪幼女

 

「「ごちそうさまでした」」

「でした〜♪」

 午後8時。御坂が作ってくれた夕飯を、今夜限りの妻と娘と3人で食卓を囲んで食べ終わる。家族って感じがするひと時。記憶を失って父さんと母さんのことを覚えていない俺にとっては初めてと言ってよい家族団らん。

「美琴ママって料理も上手なんだな。あのハンバーグは外の店より味が遥かに良かった」

 御坂の料理は予想外に驚いてしまうほど絶品だった。

 常盤台は3食付きなので普段料理をする機会は多くないはず。なのに御坂は毎日料理をしているかのようなベテランクラスの腕前を披露してくれた。

「そりゃあアンタに食べてもらう日を夢見て毎日弛まぬ料理の練習を重ねて……じゃなくて、常盤台生徒のスペックを甘く見てもらっちゃ困るわね」

 御坂は途中で頬を赤らめてボソボソ言いながら最終的にはふんぞり返った。

「真のお嬢さま学校は生徒に何でもできるように教育するんだなあ。さすがだよ」

「…………本当は違うのに。私が特別頑張ったのに」

 褒めたのに何故か御坂は落ち込んでしまった。何故?

「あ〜なんだ。ご飯も食べ終わったことだし、テレビでも見るとするか」

 気分転換に他のことをしようと提案してみる。とはいえ、テレビぐらいしか時間を潰す方法が思い付かないのだが。

「…………夏休みの宿題は終わったの?」

 御坂から恐ろしい一言が飛んできた。

「美琴ママ……?」

 ダラダラと冷や汗を流しながら御坂を見る。

「当麻パパのようなタイプは夏休み最終日に大量の宿題を抱えて泣く羽目に陥る。漫画のパターンから考えてそれしかありえないんだけど?」

 御坂がカレンダーを見ながら圧迫を掛けてくる。

 夏休みも残りわずか。そして御坂の指摘通りに俺は夏休みの宿題をしていない。

 流れ的には夏休みの宿題をするべきだろう。だが……。

「硬派な上条さんには亭主関白への憧れがあるっ!」

 御坂の言葉には素直に従えない。何故なら、御坂に圧迫を受けるままに従っているのでは一生尻に敷かれてしまう気がする。一家の主導権は譲れませんよ。

「アンタ、何を言ってるの?」

 御坂が白い目で見てくる。

「そんな目で見られようと、美琴ママの言いなりになってしまったら未来の上条家は美琴ママに支配されてしまう。当麻パパは今の内から断固抵抗しますよ」

「…………みっ、未来の上条家って!?」

 御坂の全身が一気に赤く染まる。

「と、とにかくっ! 亭主関白を気取りたいならまず自分の仕事をきちんとこなしなさい。宿題もできない夫に従う義理なんてないんだからねっ!」

 そして真っ赤になった顔で激しく怒った。

「ウグッ!?」

 亭主関白を気取るためには、それ相応の資質を有してなければならない。超エリートでハイパースペックの持ち主である御坂に釣り合うだけの資質……。

「当麻パパの一生は……美琴ママの尻に敷かれる運命にあるのか……」

 両手と膝を床についてガックリと落ち込む。未来の自分の限界点が見えてしまった。それ以上の先がもう見えねえ……。

「……私のこと、お嫁さんにもらえるんだからそれで満足してよね……当麻、私のことお嫁さんにしてくれるつもりなんだ」

 御坂は小声でボソボソ言いながら俯いてニヤニヤしている。

「とにかくっ! 当麻パパが落第なんてことにならないように宿題をやってよね」

 御坂の大声が胸を貫く。

「…………分かりました」

 降伏宣言を発しながら立ち上がる。娘の前で格好悪いが、妻の言う通りにする。宿題をやることが当麻パパのお仕事。

 

「ふぁ〜」

 フェブリが小さなあくびを発した。目がうつらうつらしている。見るからに眠そうだった。そしてその小さな声は俺にとっては天啓に思えた。

「よしっ。娘も眠そうにしていることだし、今日は風呂に入ってさっさと寝よう」

 今、父として娘の健康のためになすべきことを告げる。

「アンタ、そんなことを言って単に宿題をしたくないだけでしょ?」

「俺は娘を優先しているだけさ」

 ドヤ顔しながら返す。反撃の狼煙は今上がった。

「じゃあ、俺は風呂の準備をしてくるから。フェブリは美琴ママと待っていてくれ」

 言うが早いか風呂場に向かって駆け出す。風呂の準備だって、美琴ママの意のままに動くよりはマシだ。

「あっ! 当麻パパっ!」

 御坂の返事を無視して浴室に駆け込む。

「変な所で子どもっぽくて困った人なんだから……」

 御坂の小言はこの際無視して風呂の準備を始める。

 と、携帯が鳴る音がした。カエルの姿をした宇宙人が地球を侵略するアニメの曲は御坂の携帯に違いない。

「もしもし……ママ?」

 電話の相手は美鈴さんらしい。まあ、それはともかく掃除掃除♪

「えっ? 今、第七学区に到着したから今夜は私の部屋に泊めて欲しい? そういうことができない寮だってのはママだってよく知ってるでしょ」

 トラブルを抱えているようだ。

 まあ、御坂ならどうとでも解決できるだろう。何しろ無限の黄金律をもって金で解決できる問題は大抵何とかなる。

「へっ? じゃあ、他の候補を当たるからいいって……他の候補ってどこのことよ? あっ、こらっ、切るなぁっ!」

 社交性に富んで交友関係の広い美鈴さんは娘を頼ることを止めたらしい。この迅速な切り替え、さすがだ。

「まあ、俺には関係ないか」

 俺はパパとして娘のために働くことを最優先に据えたのだった。

 

-9ページ-

 

 数十分後。風呂の準備が整った。

「お〜い。できたぞぉ」

 浴槽に手を突っ込んで沸いていることを確認。部屋へと戻って2人に呼び掛ける。

「し〜」

 御坂は静かに人差し指を立てて口元へと持っていった。その膝元にはフェブリがすやすやと眠っている。

「……絵になる光景だな」

 御坂に聞こえない小さな声で呟く。

 俺から見た御坂には子どもっぽいイメージが付きまとっている。でも今日の夕飯の腕前といい、フェブリを眠らせている光景といい……。

「御坂ってお嫁さんって感じがよく似合うよな」

 御坂は意外と家庭的だと考えを改める。

「なあっ!? お嫁さんって!?」

 御坂に聞こえていたらしい。大きな声を上げられながら飛び上がられてしまった。

「……うん?」

 御坂が騒いだせいでフェブリが目を覚ましてしまう。

「パパ? ママ?」

 目を擦りながら寝ぼけ眼を見せる娘。

「目を覚ましちゃったことだし、風呂入るか?」

「お風呂?」

 フェブリはしばらくポヤッとした表情で考えていたが

「うん」

 やがて元気良く返事をしてくれた。

「じゃあ美琴ママ。フェブリを風呂に入れてやってくれ」

「分かったわ」

 御坂がフェブリの手を引いて立ち上がる。

 風呂のことは御坂に任せればいいので当麻パパの役割はここまで。

 さて、この隙に少しは宿題でもやりますかね……。

「パパと一緒にお風呂入る」

 そして幼女はとても困った要求を発してくれた。

 

「あのなあ、フェブリ。美琴ママが一緒に入ってくれるんだから問題ないだろ」

「パパと一緒がいい」

 フェブリは俺のズボンの裾を引っ張って抵抗の意志を示す。

「どうやら当麻パパの方が娘の心をガッチリ掴んでいるらしいな。フッ」

 ちょっと勝ち誇った気分になる。お父さん娘にモテモテですよ。

「何馬鹿なことを言ってるのよ、アンタは」

 御坂は少し不機嫌な声を出して俺を白い目で見る。

「で、どうするのよ?」

 俺の足にしがみつくフェブリを見ながら御坂が困った表情を見せる。

「どうするって、御坂が風呂に入れてあげればいいだけのことだろ?」

「パパがいい」

 御坂が何か答える前にフェブリが答えてしまった。どうやら俺の案は却下らしい。

「じゃあ、仕方ないから俺が入れるか」

 その選択肢しかない。

「…………男子高校生が金髪幼女と一緒に入浴。事件よね。むしろ死刑?」

「ボソッと怖いことを言うなっ!」

 味方になってくれるべき御坂から怖い話が飛び出す。

「俺はブラ要らずの子に欲情するほど落ちぶれちゃいねえっての!」

「それは黒子や食蜂からブラ要らずって陰口を叩かれている私への嫌がらせと受け取っていいのかしら? 死にたいわけね?」

 御坂の瞳に怒りの炎が宿る。胸の大きさを基準にしたのは間違いだった。

「とにかく俺は幼女に邪な感情を抱いたりしないっての!」

 言い直す。

「でも私が極秘に入手した、幼い女の子にハレンチなことをするゲームを愛好して止まないアキバ系ボーイ100人に聞いた設問調査の結果に拠ると……」

「サンプルが偏り過ぎてるっ!」

「でも、彼らは自分たちが日本男児の標準だって口々に語っていたって……」

「そんな奴らが標準であってたまるかぁああああああああぁっ!」

 大声で御坂の意見を打ち消す。そもそもの問題として、何でそんなアンケートが実施され、その結果を御坂が入手したのか謎過ぎる。

「とっ、とにかくっ! あんなアンケート結果が存在している以上、当麻がフェブリに欲情しないなんて科学的に証明できないわ」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ?」

「だから…………」

 御坂が俯く。そして──

「当麻がフェブリに変なことをしないように私も一緒に入ってやるわよっ!!」

 顔を真っ赤にしながらとんでもない爆弾発言をしてくれた。

「ほえっ?」

「うん♪」

 事態を飲み込めない俺の横でフェブリが嬉しそうに頷いてみせた。

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「どうしてこうなった?」

 浴槽から見慣れた天井を眺める。ここは普段俺のベッドでもあるのでこの天井の白はよく馴染んでいる。

「こっち見たら許さないからねっ!」

 浴槽の隣でフェブリの体を洗ってあげている御坂が警戒の声を出す。

「見ないから電撃は出すなよ」

 俺も御坂に向かって警告を出す。

 ここは風呂。水で溢れている。そして水は電気をよく通す。御坂が電撃を放てば俺だけでなくフェブリも感電死する運命を迎えるだろう。

「…………分かってるわよ。見たら思いっきり引っ叩くからね」

 なおも牽制を続ける御坂。

 今の彼女の状態は白いバスタオルを1枚巻いただけの姿。先ほどチラッと視界に入ってしまった時には肩の細さが印象的でした。胸の部分の起伏のなさも。

「まっ、上条さん的には結局御坂がフェブリを洗ってくれているから万々歳なんですがね」

 フェブリは俺が一緒に風呂にいればそれで文句はないらしい。だから御坂が全部世話をしてくれている。

 ちょっと疎外感を感じなくもないが、おかげで比較的平和な入浴タイムとなっている。

「はい。これでおしまいよ」

 御坂がフェブリの体を洗い終えたらしい。

「じゃあ、洗う番を交替するわね」

 御坂から声が掛かる。どうやら俺が体を洗う番になったらしい。

「い〜い? 分かってると思うけど、お風呂から出る時は目を瞑ること。出たら絶対に浴槽の方を見ないこと。分かった」

「へいへい。パパは一人寂しく体を洗いますよ〜だ」

 御坂に言われた通りに目を瞑って風呂桶を出る。そして椅子に座って体を洗い始めた。

 

 俺は御坂の言い付け通りに確かに浴槽の方を見ていない。だが、浴室には鏡というツールが設置されている。

 その鏡を通じて後方の御坂とフェブリの姿は丸見えになってしまっている。

「……ここで重要なことはただ1つ。上条さんは幼女の裸に興奮する変態ではありません」

 誰にともなく自らの潔白さを訴えてみる。

 上条さんほどの硬派ともなれば、御坂の半裸だって鏡越しなら全然平気です。ていうか、問題は別の所にあります。

「……何で美琴ママは上条さんをガン見しているのでしょうか?」

 血走った眼で上条さんを注視しているのが鏡越しによく分かります。いえ、鏡がなくても現在進行形で背中にビンビン野獣の視線を感じます。

「……そこまで疑われているのか、俺は?」

 御坂は俺の一挙手一投足をつぶさに観察しているのだろうか?

 自分の信用のなさに内面で涙を流しながら体を洗い続ける。

「……当麻の生背中。当麻の生脇。当麻の生足。ハァハァハァ」

 何かボソボソした声と荒い鼻息が聞こえてくるがとりあえず無視する。

「……どうして腰のタオルを取らないのよ。男なら豪快に取り外しなさいよ」

 ボソボソ声を無視して俺は体を洗い終えた。

 

「じゃあ、みんな洗い終えたことだしそろそろ出るか」

 大きな事件も起きずに体を洗い終えた。何か面倒ごとが起きる前にさっさと出てしまいたい。それが切実な思いだった。

「あっ、待って。私まだ、髪洗ってない」

 御坂から面倒臭い申告がきた。

「じゃあまた攻守交替だな」

「そうね」

「先に美琴ママたちが出てくれ。それから俺が目を瞑って浴槽内に移るさ」

「うん。そうする」

 水が流れる音が背後から聞こえてくる。この入れ替えが完了すれば神経を使ってばかりのお風呂イベントも無事に終わりを告げる。

 不幸続きの俺だが、細心の注意を払ってさえいれば不幸を回避できる。

 俺の勝利だっ!

 そう思っていたのが間違いだった。

 不幸なのは俺だけの専売特許ではないことを失念していた。

「きゃっ!?」

 御坂の小さな悲鳴が聞こえた。

 鏡越しに、足を滑らせた御坂が俺へと倒れ込んでくるのに気付いた時にはもう遅かった。

 圧し掛かってくる御坂を受け止めることも回避することもできなかった。

「うわぁあああああああああぁっ!?」

「きゃぁあああああああああぁっ!?」

 背中に体当たりしてきた御坂と俺の悲鳴が重なるのはその直後だった。

 そしてその衝撃で俺の意識は瞬間的に暗転した。

 

 

「うっ」

 後頭部に痛みを覚えながら目を開く。

目の前に御坂の綺麗な顔があった。御坂はまだ意識がはっきりしないのか目を瞑っている。

「……このパターン。何かとても良くないことになっている気がしますよ」

 上条さんは女性とは縁がない。けれど、土御門や青髪ピアス曰くラッキースケベと言われる能力を有しているらしい。

 仮にそんな能力が存在するとして、だ。過去の経験則に基づいて現状を把握すると……。

「やっぱり……御坂のバスタオルが外れちゃっている」

 御坂は素っ裸の状態で俺の上に倒れている。

 そしてこれだけで事が済まないのがラッキースケベの恐ろしさだ。

「左手は……はい。御坂のお尻を掴んじゃってますね。どうりで柔らかい感触だと思いましたよ」

 心の中で技ありと叫ぶ。

「それで右手は……ボリュームは少し寂しいですが、とても幸せになれる感触が……」

 恐る恐る確かめる。

「そうですか。そうですよね。美琴ママの胸を揉んでしまっていますか……上条さんのラッキースケベ的にそうなるのではないかと思ってたのですが」

 心の中で技あり、合わせ技一本と唱える。

「…………御坂の肌って綺麗だよなあ」

 試合終了はもう告げられてしまった。なので人生の最期に瞬間に綺麗なものを目に焼き付けておくことにする。

 日焼けを免れている部分の御坂の肌は驚くほど白い。控え目な曲線を描く胸の白さは芸術的とさえ言える。そして奥ゆかしい胸のその中央に咲く桜色の──いや、そういうのを長々語るのは下品で野暮というものだろう。

 とにかく御坂の体は綺麗だ。今考えるのはそれだけでいい。

「人生の最期に御坂の綺麗な裸を見れたことだし満足しないと駄目だよなあ」

 人生最期の風景になるであろう風呂場をもう一度眺める。

 すると裸の金髪幼女が心配そうに俺を覗き込んでいるのが見えた。

「フェブリはパパがいなくなっても平気か?」

「やだ」

 フェブリは首を横に振った。泣きそうな表情を見せている。

 幼いながらもこれから俺の身に起きる不幸を感じ取っているのかもしれない。

「そっか。フェブリはパパのこと好きか?」

「うん」

 フェブリは小さく頷いてみせた。

「ママのことは好きか?」

「うん」

 フェブリはもう1度小さく頷いてみせた。

「フェブリはこれから美琴ママと2人で暮らしたいか?」

「パパとママと一緒がいい」

 愛娘は小さい声で、けれどハッキリとした自己主張をしてくれた。

「なら……この絶望的状況からもパパは生き延びないとな」

 俺のラッキースケベ能力は告げている。ラッキータイム終了の時間を。

 こっから先は……サバイバル勝負だッ!

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「なあ、美琴ママ」

 意識が回復して目を開けた御坂に向かい先に口を開く。

「えっ? 私……あっ」

 御坂はすぐに自分がどういう姿勢にいるのか気付いた。

 ちなみに先ほどの姿勢のまま。裸の御坂が裸の俺に圧し掛かっている。

 胸を揉んでいた右手と尻を掴んでいた左手は退けている。問答無用で死刑になるのは避けたい。もう俺1人の体ではないのだから。

「どうしてこうなったのかは理解しているよな?」

「ま、まあ……さすがにね」

 御坂が目を伏せる。この状況が事故であること。仮に過失があるのなら倒れた美琴側に責任がより重くあることを認識させる。

「じゃあ、交渉だ」

 そして御坂が強く出られない内にサバイバルのための折衝を行うことにする。

「電撃はなしな。フェブリが感電する。ママとして節度ある行動を頼む」

「わっ、分かってるわよ。私はそこまで外道じゃないっての」

 御坂がちょっと面白くなさそうに頷いてみせる。とりあえずこれで最悪の事態は防げた。

「じゃあ、次。俺へのお仕置きをなしで済ますというのは?」

 最高の結果を口にしてみる。

「それは無理。この恥ずかしさは当麻に八つ当たりしないとダメ。じゃないと私は漏電状態に突入する。そうなったらこの家の人も物も全部黒焦げになる」

「なるほど。それはまずいな……」

 無血で済ますわけにはいかないらしい。

「オラオラですか?」

「オラオラよ」

 頷いてみせる御坂。どうやら俺は再起不能になるまで殴られるらしい。

「入院すると、フェブリの面倒を見られなくなっちゃうなあ」

「…………フェブリはチャイルドエラーみたいだから……施設で会えるわよ」

 御坂は辛そうに目を伏せた。

「そっか。フェブリにはパパとママがいないわけか」

 それを思うと、フェブリが俺に示してくれた愛情に特別なものを感じる。

「なあ」

「何?」

「フェブリを2人で引き取って育てないか?」

 その提案は自然と出た。

 

「アンタ、それ本気で言ってるの?」

「まあ、未成年者の俺らが法律上でフェブリの親になるのは難しいんだろうけどさ。その辺はうちの両親か美鈴さんを上手く引き込んでさ」

「…………その問題もあるけど。アンタがフェブリを引き取るとさ……もれなくもう1人付いてくるんですけど? 美琴ママの面倒もちゃんと見てくれるの?」

 御坂がジッと俺の顔を覗き込む。

「フェブリには美琴ママが必要なんだから当然だろ」

「じゃあ、当麻パパにとって私は必要なの? ママじゃなくて私が?」

「当たり前だよ。美琴ママとなら家族になりたいって今日強く思った」

「ふ〜ん」

 御坂が目を細める。

「私の面倒も一生見てくれるって言うのなら……その対価を差し引いてお仕置きの刑罰を軽くしてあげてもいいかな。グーパン1発で」

「そりゃあありがたいな」

 礼を言う話なのかは分からない。でも、減刑を申し渡されたことでホッとした。

「それじゃあ私の恥ずかしさを打ち消すためにっ!」

 御坂が上半身を起こしながらその右腕が振り上げられる。

 その時だった。

 

「ママっ! ダメっ!」

 フェブリが駆け寄って御坂の右腕にしがみついた。

「えっ? フェブリ?」

 突然のフェブリの行動に驚いて目をしばたかせる御坂。上半身を起こした状態なんで全部が丸見えになってしまっています。はい。

「パパをいじめちゃダメっ!」

「えっと、これはそういうんじゃなくてね。その、このおうちとパパとフェブリを守るために必要なことって言うか、その……」

 しどろもどろに説明を試みる御坂。だから、その奥ゆかしい胸が丸見えになってしまっているんですってば!

 上条さんだって硬派とはいえ男の子なんですよ。女の子の裸をこんな至近距離、しかも馬乗りになった状態で見せられたら……。

「「あっ」」

 俺と御坂の声が揃った。

「ねえ……当麻パパ。お仕置きは増刑させてもらうわね。今、フェブリと真面目な話をしているって時にアンタって人はぁっ!」

 真っ赤になって恥ずかしがりながら怒る御坂。

「だって仕方ないだろっ! 御坂がこんな間近でおっぱい丸出しでいるんだから。反応しない方がおかしいってのっ!」

 上条さんもヤケになって叫びます。ここで反応しない方が男として重大な問題になるんです。美少女中学生の裸見て、反応しない男子高校生なんてあり得ないんです。

 

『上条く〜ん♪ 美琴ちゃんにつれなくされちゃったから今夜はこの部屋に泊めてねぇ』

 

「あっ、アンタって人はぁ……ハレンチなぁああああああぁっ!!」

 御坂は胸を隠そうともせずに左腕を振り上げ俺の顔面に冷酷に振り下ろした。

「うぎゃぁああああああああああああぁっ!?!?」

 激痛と共に急速に薄れていく意識。

「悲鳴っ!? 一体どうしたの、上条くん!?」

 風呂場へと駆けつけてくる謎の足音。

 そして──

 

「美琴ちゃん……上条くんとの子どもを産んだのならちゃんとママに知らせてくれなくちゃダメじゃないの」

「まっ、ママっ!?」

「美琴ちゃん。子どもの前で親が暴力を振るっちゃダメよ。せっかく親子3人で仲良くお風呂に入るぐらい仲良しなんだから」

「これには色々と事情が……」

「どんな事情があるにせよ、その子は美琴ちゃんと上条くんの子どもなんだから。夫婦2人で力を合わせて子育てしないとダメでしょ」

「はっ、はい」

 

 俺が気絶している間に事態は解決した。

 美鈴さんの計らいによりフェブリは俺と御坂の子どもとして引き続き育てることになった。

 

 了

 

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4 大団円と金髪幼女

 

「よくも俺の娘を弄んでくれたな。お父さんは許しませんよパ〜ンチッ!」

「メガネバリ〜ンッ!?!?」

「オメェらァ、ジジイBBAの分際で幼女を弄ぶなンざ許されると思ってンのかァッ! 幼女に土下座して死ネェッ!!」

「「「ひぃでぇぶぅううううううぅッ!!」」」

 フェブリに巣食っていた闇は俺と一方通行でなぎ払った。

 美琴曰く「やり過ぎじゃないの?」と引かれるほどに悪をボコボコにしてやった。

 俺のフェブリの父としての怒り、一方通行の幼女愛好家としての怒りが重なった結果だった。

 とにかくフェブリの問題は暴力で円満に解決した。

だから残る問題はフェブリの今後に関してだけだった。

 

「上条くんは美琴ちゃんと一緒に住まないとダメだと思うのよ」

 フェブリの法律上の母となった美鈴さんは実質的な父である俺を第七学区内の喫茶店に呼び出して語った。

「今フェブリちゃんは上条くんの寮で生活しているわけでしょ」

「ええ、まあ。俺が学校に通っている間はインデックスが見てくれています」

 今まで食っちゃ寝するしか能がなかったインデックス。その居候が初めて役に立っている。

 一緒にゲームをしたり話したり遊んでくれるので俺としては助かっている。

「このままではフェブリちゃんがインデックスちゃんをママと呼び出しかねないわね」

 難しい顔で眉間にシワを寄せる美鈴さん。

 そう言えば昨日学校から帰ってきた時にインデックスが妙なことをフェブリに口走っていた。

 

『フェ〜ブリ♪ これからはわたしのことをママって呼んでいいんだよ』

『インデックスがフェブリのママなの?』

『実はそうなのです。当麻パパとインデックスママがフェブリの本当のパパとママなの』

『フェブリのママは美琴ママだよ』

『くっ。手強い。けれど、フェブリを手懐けてさえしまえば……とうまの本妻の座を取り戻すことができるんだよ。短髪にラスト5秒の逆転勝利なんだよ。くっくっく』

 

「何より美琴ちゃんに育児放棄の前例を作るわけにはいかないのよ」

「育児放棄って……美琴は毎日夕食を作ってくれてますよ」

 美琴を加えて4人での夕食が最近の普通になった。

「夕食だけ?」

「門限や外出制限がありますから、それ以上は無理ですよ」

 ちなみに風呂はインデックスが入れている。

「ママが通いで二号さんが住み込みじゃ美琴ちゃんのポジションが大ピンチなのよ」

「何を言っているのだか全く分からないのですが?」

「そういうわけで上条くんには、上条家の安寧と美琴ちゃんの正妻の座を守るために美琴ちゃんと一緒に住んでもらうわ」

 美鈴さんの満面の笑み。

「…………あの、お嬢さま学校の常盤台が男と同棲なんて絶対に認めませんよね?」

 とりあえず美鈴さんの提案が実現不可能なことを告げる。

「美琴ちゃんは明日から飛び級して大学生になるから大丈夫よ♪」

「無茶苦茶ですよ、それっ!?」

けれど、美琴の実力なら容易に実現可能である提案なのが恐ろしい。

「大学生のお姉さんと同棲できる男子高校生なんて羨ましがられるわよぉ」

 美鈴さん懇親のドヤ顔。

「美琴はまだ14歳……」

「女子大生のお姉さん。この響きの前に年齢なんて些細な問題よ。少なくとも私にとってはね」

「まあ、美鈴さんの場合はそうですよね……」

 美鈴さんの実年齢が何歳なのかは知らない。けれどこの人は20歳ほどの女子大生のお姉さんたちと何の違和感もなく混じるのだろう。そして混じりたいのだろう。

「でも、俺も美琴もまだ結婚できる年齢じゃないんですが?」

「同棲して、同じ苗字名乗っておけば周りは勝手に夫婦だと思ってくれるわよ。美琴ちゃんには大学では上条美琴で登録して通ってもらうから」

「裏工作の準備は万端っすねぇ」

 美鈴さんのこういうバイタリティーの高さは憧れもするし呆れもする。

「まあ、美琴ちゃんにはまだ何も話していないんだけど」

「ダメでしょ、それはっ!」

 娘の意見はガン無視ですか。

「でもついさっき、親の権限を行使して美琴ちゃんに内緒で常盤台に退学届けを受理させてきたから。シナリオ通りに進むのは間違いないわ。うん、問題なしだわ」

「それ美琴に無茶苦茶怒られますよ。下手すれば電撃で黒焦げですよ!?」

 どうしてこの人はこんなに向こう見ずなんだ?

「大丈夫よ。上条くんと用意周到な相談をした上での実行だって述べるから」

「俺まで殺されるだけじゃないですかっ!?」

「2人なら半殺しで済みそうじゃない♪」

 恐ろしい保険をかける人もいるもんだ。

 

「そういうわけで上条くんと美琴ちゃんの同棲と事実婚がつつがなく決まったわけだけど」

「美鈴さんはこの力技をつつがなくと呼ぶんですね」

 美琴がレベル5になれたのは美鈴さんの娘だからに違いない。

「結婚するからには結婚式を挙げる必要があるでしょ?」

「今時の若いカップルは結婚式を挙げない場合も多いと聞きますが」

「私が美琴ちゃんのウェディングドレス姿を見たいから結婚式は絶対よ」

 この人はいつだって自分に素直に生きている。自分に素直って漫画アニメではとても素晴らしいこととして説いている。だけど今の俺には欠片も同意できない。

「というわけで式場を予約しておいたから次の日曜日に2人の結婚式を挙げちゃうわよ♪」

「次の日曜日って明後日なんですが……」

「明日は結婚式のリハーサルだから2人とも忙しくなるわよ♪」

 この人は自分の提案に何の疑問も感じていないらしい。

「え〜と。その……結婚式の話は美琴には?」

「同棲の話さえ言ってないんだから、結婚式の話なんてしてないわよ♪」

 満面の笑み。

「それ、本気でまずいんじゃ?」

「大丈夫♪ 美琴ちゃんもすぐ知ることになるわ♪」

「へっ?」

 俺が首を捻った瞬間。アスファルトを破壊するような破砕音が響き渡り何かがこの店へと急速に近付いてきた。

 そしてその何かは店内へと入り込み、俺たちの前でその歩みを止めた。

「ちょっとママァッ!? いつの間にか私、学校を退学になっていたんだけど? どういうことだか説明してくれないかしら?」

 言うまでもなく美琴だった。

 俺だったら死を覚悟せざるを得ない怒りの形相の美琴に対して美鈴さんは……

「喜べ美琴ちゃん♪ 上条くんとの結婚式の日取りが決まったぞ♪」

 マイペースな笑顔を崩さなかった。

-13ページ-

 

「…………というわけで、当麻パパと美琴ママは結婚式を挙げて、みんなで新しい家に引っ越すことになったんだ」

 美琴を連れて家に帰り、フェブリとインデックスに事情を説明する。

「パパとママ、結婚するの?」

 あまり事情を理解していないフェブリが首を捻る。いや、俺も理解しきれていないのだが。

「そうよ。ママとパパはフェブリのちゃんとしたママとパパとなるために結婚するの♪」

 退学のことを聞かされた時には怒り狂っていた美琴。けれど今ではデレデレモード。美鈴さんの提案を全部丸呑みしてしまったぐらいだ。

「お引越しするの?」

「ああ。今より広いお部屋に引越しになるから、フェブリの遊び場ももっと増えるぞ」

「わぁ〜い」

 喜ぶ愛娘。よくよく考えてみなくてもこの部屋で4人暮らしは無理がありすぎる。美鈴さん提供のマンションに引っ越せるのは渡りに船だろう。

「わたしは反対なんだよっ! 引越しも泥棒猫に正妻の地位を与えるのも」

 インデックスは引越しに反対する。無理もないが駄々を捏ねられても困る。

「フェブリが納得しているのにお姉ちゃんのインデックスが反対してたんじゃダメだろ」

「お姉ちゃん?」

 インデックスは首を傾げた。

「インデックスが長女でフェブリが次女。新生上条家はパパママ2人の娘の4人家族で出発ですよ」

 インデックスも形式上は美鈴さんの養女になってもらい、実質的には俺と美琴の娘になってもらおうと思う。

 美琴はインデックスとの同居の継続にちょっと渋っていたが、最後には認めてくれた。

「インデックスはフェブリのお姉ちゃんなの?」

「そうだぞぉ」

「わぁ〜い」

 フェブリは納得してくれた。さて、後は……。

「それはつまり、とうまはわたしと禁断の親子プレイを望んでいる。そういうことなんだねっ!」

 インデックスは燃え上がりながら立ち上がった。

「義理の父に関係を迫られ、やがて義父の子を孕み産んでしまう。聖職者にあるまじき紛れもない神への背信行為。だが、それがいいんだよ♪」

 インデックスは瞳を光らせている。

「何だか知らないがインデックスが納得してくれたようで何よりだ……」

 インデックスの言葉の意味は考えないようにする。なんか怖いから。

「チッ。同棲して結婚式まで挙げれば諦めると思ってたのに……しつこいわね」

「当麻の赤ちゃんを先に産んだ方が真の勝者なんだよ。フッ」

 美琴とインデックスは早速母娘間でアイコンタクトで会話している。微笑ましい光景。ということにしておこう。これ以上考えるとなんか胃が痛くなりそうだ。

 

「そんなわけで日曜日は結婚式を挙げてそのまま新居に引っ越すから。今日から荷物の整理を始めるぞ」

 日曜日の朝に引越し屋が荷物を取りに来る。明日は結婚式のリハーサルで忙しいことを考えると時間はあまりない。

「あ〜後、私常盤台をクビになっちゃって寮を追い出されたので今日からここに住むから」

「「えっ?」」

 ちょっと予想外の展開だった。この狭い部屋に4人で住むのは幾ら2、3日とはいえちょっと無理が……。

「ベッドは片付けて布団敷いてみんなで『口』の字になって寝れば大丈夫よ♪」

「その寝方はスペース的に無駄が多いだけな気がします」

 全員壁にくっ付けということでしょうかね?

「じゃあ『山』の字にすれば解決ね」

「それはきっと、3人の少女に俺が足蹴にされるだけの構図だと思います」

 俺に向かって頭ではなく足が伸びる所に特徴があります。

「なら『?』とかはどうかしら?」

「それは上条さんの身体の上に3人の少女が寝転がって窒息する光景にしかならないです」

 青髪ピアス辺りは喜びそうだけど上条さんは嫌です。

「仕方ないわね。『愛』の字で寝るのを許してあげるわよ」

「4人でどう寝ればそんな複雑な字形を取れるのか想像もできませんよ!」

 上条さんが身体のパーツ毎に分解されそうで怖いです。

 そんなこんなで夜を迎え──

 

「フフッ。結婚式の前に当麻の本当のお嫁さんになってやるんだから♪」

「フッフッフ。とうまを寝取って日曜日に花嫁になるのはこのわたしなんだよ♪」

「フェブリ当麻パパ大好き♪ すぴ〜」

「パパもフェブリを愛してるぞ♪ すぴ〜」

「「チッ!」」

 フェブリと一緒に寝ていたおかげで何の事件も起きることなく無事に日曜日を迎えることができた。

 

-14ページ-

 

 そして結婚式本番。

「おぉ〜フェブリ〜♪ そのお洋服よく似合ってるぞぉ〜♪」

 いつもの黒いゴスロリからピンク色のゴスロリに着替えた愛娘はまさに地上に舞い降りた美の神と言うべき神々しさを放っている。

「フェブリが世界で一番綺麗だぞ〜♪」

「ありがとう。当麻パパ♪」

 このフェブリの愛らしさを最高質録画で余すことなく撮影しなくては。

 わが子が一番可愛いと信じて疑わない親ばかなる存在に対して今なら理解できる。

 だが、うちのフェブリが世界で一番可愛い。よって他の親ばかたちの主張は間違っている。心からそう思う。

「ねえ、当麻。私、ウェディングドレス姿の花嫁なんだけど?」

「……可愛いぞ、美琴。さすがは俺の嫁さんだ。世界で二番目に綺麗だぞ」

「何で適当な言い方なの? ていうか、ちゃんとこっち見て物言えやコラァッ!」

 嫁がうるさい。

「ねえ、とうま。わたし、イギリスから取り寄せた特別な法衣をまとってるんだけど?」

「……凛々しいぞ、インデックス。さすがは俺の娘だ。世界で二番目に綺麗だぞ」

「何で適当な言い方なの? ていうか、ちゃんとこっち見て物言って欲しいんだよコラァッ!」

 長女がうるさい。

「あのなあ、新生上条家が出発できるのはみんなフェブリの存在あってのことだろうが。だから今日の主役はフェブリに決まりなんだよ」

「今日は結婚式。主役は新郎新婦でしょうがっ!」

「とうまこそ妹に浮かれてばっかりで何も見えてないんだよっ!」

「ぶぼっ!?」

 嫁と長女のダブルパンチを顔面に頂きました。

 

「さ〜あフェブリちゃん。あなたには大役が待っているのよぉ」

 美鈴さんが待機室へと姿を現した。20歳前後の若い女性が結婚式で着るような青い派手なドレス姿で。少なくとも花嫁の母親の服装じゃない。

「たいやく?」

 フェブリが聞き返す。

「そうよぉ。この花束を持ってパパとママと一緒に結婚式の会場に入って行くの♪」

 美鈴さんは明るい色で飾られた小さな花束をフェブリに見せた。

「パパとママをかっこうよく見せるための大切なお仕事よ。できるかしらぁ?」

「うん。やる♪」

 元気良く頷いてみせる愛娘。

「仕事を引き受けるなんて……フェブリも成長しているなあ」

 わが子の成長ぶりにお父さんは思わず涙ぐんじゃいます。

「一緒に暮らし始めてまだ1ヶ月にもならないってのに、当麻ったらすっかりパパね」

 美琴が俺の隣に寄り添って立つ。

 こうやって改めてみると……俺の嫁さん、スゲェ美人だ。こんな美人を嫁にできるって上条さんってば、本当はすごい幸運の持ち主なんじゃないでしょうか?

 嫁も、娘2人ともみんな美人。上条さんは人生最高の勝ち組だと自覚します。

「当たり前だろ。俺はフェブリのパパなんだから」

「最初はやたら警戒していたくせに」

「娘を拒絶していたなんていうそんな黒歴史は上条さんメモリアルから削除しました」

 フェブリを初めて見たあの時はまさかこんな展開になるとは思わなかった。

「フェブリがあの家にやって来たあの日から……私は当麻の奥さんってことになってるのよね」

 美琴はちょっと照れ臭そうに俯く。

「そうだな。あの日から美琴は俺の奥さんで、今後70年ぐらいに渡って俺の奥さんであり続けるんだもんな」

「へぇ〜。じゃあ、私のこと大人になったらちゃんとお嫁さんにしてくれるつもりなんだ」

「そのつもりだが……美琴は嫌か?」

「別に嫌なんて言わないわよ」

 美琴は静かに首を横に振る。

「そっか。それじゃあこれは本当の結婚式になるわけね。私たちが死ぬまで夫婦でいる証を立てる」

 美琴は顔を上げて眩しそうに照明を見る。

 

「ねえ」

「何だ?」

「5人目の家族……いつ頃欲しい?」

「5人目?」

 美琴が何を言っているのか考える。

「と、当麻が望むのならいつでも……ほ、ほら。今の私、大学生だから……」

「5人目……」

 どうすれば家族が増えるのか考える。

 今日の俺たちのように結婚すれば家族構成員が増える。

 結婚。

 つまり……。

「フェブリは一生涯嫁にやらんっ! だから、5人目は必要ないっ!」

 こんな愛くるしい娘をどこの馬の骨ともしれん輩に託せるかっ!

「しばらくは4人家族のままそうね…………ばか」

 美琴は何故かガッカリしている。

 あれか?

 美琴は早く娘を嫁に出したい派か。

 これは将来夫婦で揉めるかもしれんな。

「まっ。何はともあれ末永くよろしく頼むぜ」

 美琴に手を差し伸べる。

「アンタが私を捨てない限り、一生側にいてやるわよ」

 美琴は俺の手を取りながら頷いてみせた。

 

「さあ、いよいよ式が始まる時間よ。みんなスタンバイして」

 美鈴さんが掛け声を掛ける。時計を見れば確かに式の開始時刻。

「じゃあ行くか、美琴、フェブリ。式の盛り上げを頼むぜ、美鈴さん、インデックス」

 フェブリと美琴の手を取りながら出発の準備をする。

「一番華やかな私が場を盛り上げてあげるわよ」

「本物のシスターであるこのわたしが祝福の歌を謳ってあげるのだから感謝して欲しいんだよ」

 全員準備は万端。みんなの協力があればきっといい結婚式になる。

「俺がこんな風に新しい家族と幸せになれるのも……みんなフェブリの存在のおかげだ」

 しゃがみ込んで愛娘の視線に合わせる。

「ありがとうな。フェブリは俺や美琴、インデックスに幸せを運んでくれる天使だよ」

 1人の天使の来訪が俺や美琴の人生を最高の幸せへと導いてくれた。

 俺の人生、本当に捨てたもんじゃない。

 それをフェブリの存在を通じて俺は心に刻み込んだ。

 

 

「ちょっと、当麻。これから結婚式だってのに、アンタが今から涙ぐんでどうするのよ?」

 美琴に指摘されて初めて自分が涙を流していることに気付く。

 感極まっていたらしい。

 式の最中ならともかく……新郎が式の前から泣いていたのでは色々とまずい。

「そうだよとうま。とうまはもっとクールでかつ情熱を見せないといけない立場なんだから。だって新郎なんだよ」

 インデックスの指摘はもっともなこと。俺がしっかりしないと式は台無しになる。

「そう言えば、一方通行からこんな時に気持ちをコントロールするまじないを聞いてたんだった」

 フェブリに害をなしていた組織をボコボコにした時に一方通行から聞いた話を思い出す。

「学園都市第1位がまじないって……何でそんな非科学的な」

 美琴は何か納得がいかないようだけど、まあいい。

「確かそのまじないだと……フェブリの肩を掴みながら魔法の言葉を唱えるんだ」

 一方通行の言葉を思い出しながら愛娘の両肩を掴む。

 そして俺は最高に気分が良くなるという魔法のワードを唱えた。

 

「Show you (しょう)guts cool(がく) say what(せいは) 最高だぜっ!」

 

 式が終わったら一方通行に拳で友情を確かめにいこう。

 そんなことを考えながら俺の緊張はどこかに吹き飛んだのだった。

 

 了

 

 

 

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上条さんとフェブリがであったら。
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フェブリ 御坂美琴 とある科学の超電磁砲 

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