模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第4話
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「助けてくれてありがとうございました」

 

アイが頭を下げる。コンドウと名乗った青年はアイのAGE2Eを興味深そうに見た。

 

「ハセベさんから話は聞いてるよ。拝見させてもらったけど君のAGE2、なかなかいい改造をしているな」

「まだまだですよ。現に今回負けそうでしたし」

 

褒められたのにも関わらずどうもアイの反応はイマイチだ。卑怯な手を使われたとはいえ、

マツオ達に負けそうになった事が悔しいのだろう。

 

「でもあの動き、凄かったです。コンドウさんって『ガンプラマイスター』なんですか?」

 

「まさか!ただのしがないガンプラビルダーさ。修行中の」

 

「?ねぇアイ、何そのガンプラマイスターって」

 

また聞き慣れない言葉だ。ナナはとりあえずアイに聞いてみる。

 

「ガンプラマイスターって言うのはガンプラを極めたビルダーに送られる称号の事だよ。

作ったガンプラは芸術品、バトルは負け無しってね、中には神って言う人もいる位で目標にしてる人も多いんだよ」

 

――私もその一人なんだけどね……――アイは心の中でそう呟いた。

 

「あ、つまり錬金術師って事」

 

「う……まぁそうなるね」

 

「?なんで錬金術の例えになるんだ?」

 

「あ、いやこっちの話ですから」

 

言ってる事が理解できないとキョトンとなるコンドウ、アイはいちいち説明の必要もないと誤魔化した。

 

「さて、まぁ助けに入ったのはいいとして、今日君に会ったのは頼みがあったからなんだ」

「頼みですか?」

 

「俺とガンプラバトルしてほしい」

 

ある程度予想は出来た発言だ。アイとしてもあの三人をあっという間に倒すビルダーだ。

勝てるかは分からないけど断る理由はない。すぐに自分の答えを言おうとする、が……

 

「ちょっと待て!まだこっちの勝負はついてない!」

 

低い大声が響く、コンドウが叩きのめしたケイ・マツオだ。

 

「往生際悪いわねアンタ」

「うっさいわ!!恥の上塗りして黙ってなんかられるか!」

「いや、それが恥の上塗りってんでしょ」

 

呆れたナナのツッコミに動じないマツオ、それを聞いたアイは

 

「いいよ。ただしこっちにも準備がある。勝負は一週間後、それが条件」

 

キッとした表情で返した。次は負けない。そんな意志を表して

 

「よっしゃ!それなら勝負は今度の日曜日だ!首洗って待っていやがれ!」

 

そう言うとケイ三兄弟は去って行った。

 

「ったく、嫌な三人ね。また来週あの顔拝まなきゃならないと思うと憂鬱だわ」

 

「まぁ世の中色々な性格の人がいるから」

 

「あんな性格だから他人に作らせたガンプラ平気で使ってるんでしょうね。

やっぱ他人に作らせたガンプラに乗ってる奴ってダメって事ね」

 

ナナは悟った様に言う。だがその発言を聞き捨てならない人物がいた。

 

「いや、そういう事じゃないよ」

 

「オッサン?」

 

コンドウだった。

 

「人の作ったガンプラを使う。その行為自体は俺は悪い事じゃないと俺は思う」

 

「えーじゃああのデブ達肯定するって事?」

 

「そうは言ってない。確かに他人に作らせたガンプラでのさばる人間はいる。それが良いとは俺だって思わないさ。

でも世の中には作りこみたくても作れない、ガンプラがうまくてもバトルが苦手で友達に託すって人もいるからな」

 

「それって屁理屈じゃないの?苦労して自分のを作った人から見てみればそういうの手抜きなわけだし」

 

「まぁそういう見方もあるな。でも俺は自分で作るよりもっと大事な物があると思うんだ」

 

「?何よ。その大事な物って」

 

「それは……」

 

その時だった。コンドウのスマホが鳴り出す。電話がかかってきたのだ。

 

「あ……スマンちょっと……」

 

肩すかしを食らうナナ、ナナ達から少し離れるとコンドウは電話に出た。

 

「もしもし……あっ!課長!はい……」

 

相手は上司らしい。電話とはいえ妙に余所余所しい態度になる。

 

「えっ本当ですか!?解りました。すぐ行きます!」

 

電話を切るとすぐにナナ達の所にコンドウは戻ってきた。若干焦ってる様に見える。

 

「スマン!上司から呼び出し食らった!すぐに会社に戻らなければいけない!」

 

「え?ちょっと待ってよ!『もっと大事な物』って何よ!」

 

唐突な状況にナナは驚く。

 

「悪い!急いでるから今日は話せない!来週の対決の時に話すから!」

 

「えー!」

 

「じゃ!来週の日曜日に!」

 

すぐさま更衣室に入るとあっという間に元のスーツに着替え、コンドウはガリア大陸を後にした。

そこにはポカンと口を開けたアイとナナがそこにいた。

 

「あのオッサン……まさか答えられないからああやって逃げたわけじゃ……」

 

「さすがにそれはないと思うけど……いつまでもこうしてるわけにはいかないから私達も帰ろうよ」

 

「ん?結局今回は何も買わないのアンタ」

 

「大丈夫、一個買うよ。ちょっとコンドウさんの見てたら思いついたことがあるんだ」

 

ナナの問いにアイは、先程の悔しさを感じさせない、いつもののんきな調子で答えた。

 

 

 

そして一週間後の日曜日、プラモ屋『ガリア大陸』

 

「再び集まってもらったわけだが、今日の勝負は俺が預かる!お互い全力を尽くして戦うように!」

「なんでオッサンが仕切ってるのよ?」

 

観戦用モニターの前でコンドウが声高々に宣言する。コンドウにナナは突っ込んだ。

 

「正々堂々としたバトルになるように俺が審判を務めると言う事だ。妙な真似したらまたゼクで乱入するぞ」

 

「分かったよ……」

 

マツオを見ながら言うコンドウにマツオは渋々承諾する。そして四人ともGポッドに入った。

 

「で、また三対一になっちゃったわけだけど」

 

「そんなんで負けるようなヤタテじゃないさ。それにアイツの顔を見たか?」

 

ナナはGポッドに入る前のアイを思い出す。不安なぞ全く感じさせない表情だった。

 

「負けないよ。アイツは」

 

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そしてガンプラバトルが始まる、今回のフィールドもタクラマカン砂漠、ただし夜間だ。

闇に包まれる砂漠。昼夜が違うだけで全然違う印象を受ける。

 

「さて……アイツはどこかな?」

 

ギャンに乗った三男、ウメオがまたもハイドボンブを散布しながらアイの機体を探す。

 

「ん?」

 

その時だった。前方から何かが近づいてきてるのを確認する。

黒い影だ。それも地上スレスレを高速で飛んでくる。

 

「見つけたぜ!」

 

ウメオは浮かぶハイドボンブを盾に、更にシールドを影に向け、内蔵されたミサイルを撃ちだす。

しかし影は何かを右肩から外し投げつける。それは回転しながら高速で迫る。

見た感じ実体兵器だろう、それもかなりの大型だ。

 

「ブーメランか!?はん!このハイドボンブと盾の防御二段構えを簡単に貫けるもんかよ!」

 

が、物体はそのままハイドボンブ、ミサイルの爆発を受けてもビクともせずそのままの勢いでギャンを襲う。

 

「何だとぉ!?」

 

ウメオが叫ぶ直後、ギャンは正面から真っ二つにされ爆発した。回転する物体はそのままブーメランの様に影の手元に戻った。

 

「次は……負けない……」

 

影に乗ったビルダー、アイがつぶやくと同時に月に照らされ機体の姿が露わになる。

紫にペイントされた忍者の様なAGE2が、ダブルバレットをベースに両足はスパロー、両肩の装備は農丸の物をいじった物だ。両腕だけでなく全身を新しく作ったAGE2だった。

先程投げた物体は巨大な農丸の手裏剣だったわけだ。これにはナナもコンドウも驚く。

 

「おお!これは!農丸のパーツを使ったのか!」

「姿が違う!?忍者!?」

「これが私のオリジナルウェア!AGE2Eナイトメア!!」

 

 

「ケッ!なにがナイトメアだ!」

 

ガフランに乗った次男、タケオは余裕の態度だ。

トカゲが二足歩行になった様な機体『ガフラン』は、ガンダムAGEに登場する敵機だ。

背部のランチャーは見方によっては尻尾にも見える。そのランチャーを前面に展開、ナイトメア目掛けて撃つ。

放たれたビームを難なくかわすナイトメア。そのまま高速でガフランに接近しようとする。

 

「こ!このっ!」

 

タケオはガフランの両掌に設けられたビームマシンガンをナイトメアめがけて撃ちまくった。

だがナイトメアはジグザグに動きかわしつつガフランに肉薄する。と、ナイトメアはガフランとすれ違った。

 

「な・なんだ!脅かしやがって!」

 

撃墜されるかと思ったタケオは安堵する。しかし次の瞬間。

 

ズルッ

 

「なっ……」

 

タケオのモニター表示が左右でズレる、直後ガフランは爆発する。

ナイトメアの左手には農丸とGバウンサーのパーツを組み合わせた大型のシグルブレイドが握られていた。

ガフランはすれ違いざまにシグルブレイドで縦に真っ二つにされていた。モニターのズレはその所為だったわけだ。

 

「ちょこざいなぁ!」

 

前回と違いチューブを外されたジ・Oに乗った長男、マツオはナイトメアにビームライフルを撃つ。

しかしナイトメアは軽やかにかわし跳躍、シグルブレイドで斬りかかる。

 

「うわっ!!」

 

とっさに隠し腕のビームサーベルで受け止めようとする、が反応が遅い、あっという間に隠し腕を切り落とされた。

 

「この!」

 

すかさずマツオはビームライフルでナイトメアを撃ち抜こうとする。

が、読まれてたようだ。簡単にビームライフルを持った右手ごと切り落とされた。

 

「はぁぁっ!!」

 

そのままアイはジ・Oに回し蹴りを見舞う。足のバーニアを吹かし勢いをつけたキックはジ・Oの腹に綺麗に決まりジ・Oはその場で倒れ込む。

 

「何故だ!クソッ!クソッ!ちゃんと動け!このポンコツ!」

 

自棄になったマツオが叫ぶ。細い目は感情が高ぶった所為か見開かれていた。瞳は小さく目つきが悪い。

 

「実力者に作ってもらったんだぞ!金かけたんだぞ!なんでこんな無様な姿さらさなきゃいけないんだ!!言う事聞けよ!」

 

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「なんか……無様ね」

 

観戦モニターを見ていたナナが呟く。

 

「……ガンプラビルダーは完成度はもちろん重要だ。だがそれよりも『作った時の楽しい気持ち』『完成した時の嬉しい気持ち』

それがガンプラに宿り力を発揮すると俺達ビルダーの間では言われている」

 

コンドウが観戦モニターを見たまま、しかし真剣な表情で話し始めた。

 

「じゃあやっぱり他人のガンプラだから?」

 

「いや、他人のガンプラでもそう言った力は引き出せるよ。ただ引き出すには大事な気持ちが必要なんだ」

 

「またそれ?一体……」

 

 

Gポッド内でアイはマツオの叫びを耳に受けながらシグルブレイドを構える。

マツオはジ・Oが倒れた体勢のまま本音を叫び続けた。

 

「全然自分の機体のポテンシャルをひき出せてないよ、素組の時の方がまだ強かった」

「何が悪い!うまい人に作ってもらって設定も知ってる!引き出せない力がどこにある!?これ以上に何が必要だっていうんだ!」

 

「……」

 

その瞬間、アイはマツオを見て悟った気がした……

 

『簡単な話だよ(だ)。好きって(という)気持ちと信じるって(という)気持ち、大事にしようって気持ち』

 

アイとコンドウ、二人とも発言したのは同時だった。

 

「何をわけのわかんねェことを!!」

 

「作ってくれたプロの人だって全身全霊を込めて作ってくれたはずだよ。それなのにそんな事言って!力を引き出せるわけない!」

 

「くっ!」

 

ジ・Oは起き上がり残った左腕のビームサーベルでナイトメアに斬りかかる。ナイトメアは片手のシグルブレイドで受け止めた。

 

「綺麗事ぬかすんじゃねぇ!」

 

「コンドウさんや私が証拠だよ!現にあなたは負けたし押されてるじゃない!」

 

ナイトメアは微動だにせずアイは話し続ける。

 

「自分で作れば見えてくるものだってあるよ。うぅん、好きって気持ちがあればこのパーツを試したい。

もっとこいつで強くなりたい。そう思えるハズでしょ!?設定じゃカバーしきれないところも、気持ちを込めれば込めるほど解るものなんだよ?だから……」

 

ナイトメアはジオをパワー押し勝つ。ジ・Oのビームサーベルを払いのけたのだ。

その際よろめいたジ・O目掛けてナイトメアは飛び、ジ・Oの脳天からシグルブレイドをつき刺し上から下に切り裂いた。

 

「せめてその気持ち位持ってよ!!」

 

「ぐぉおおお!!!」

 

切り裂かれたジ・Oはそのまま沈黙、爆発した。

 

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「対戦という形はとっていても、結局はプラモの出来を競い合うのがガンプラバトルだ。ガンプラの壊し合いじゃない。

やってる以上は作ってくれた人の想いも背負っている。だから一層信じたり大事にする気持ちを持たなくちゃいけないんだ。

そりゃ自分で作った方がいいかも知れないが」

 

「そんな簡単な事だったんだ。アイもそれに気付けたわけね」

 

 

 

「くっ……覚えてろ……」

 

捨て台詞をはくと三兄弟はそのまま立ち去った。安堵するアイにナナとコンドウは駆け寄る。

 

「やったじゃんアイ!前回が嘘みたいな活躍だったよ!」

 

「あぁ、見事だったぞ」

 

「ありがとう。オリジナルウェア、大成功だよ!」

 

「あ、そういえばなんで忍者だったわけ?」

 

「あぁ、コンドウさんのゼクが侍っぽい改造だったから」

 

「いやそれ安直すぎ」

 

ナナが笑いつつもツッコミを入れる。

 

「さて、いつまでも話を続けておきたいが戦いは終わった……帰るか?」

 

コンドウが質問するかのように言うが

 

「何言ってんですか。今日はもう一回対戦予定あるんですからね」

 

アイがニッっと笑う。

 

「やはりな……ちょうど今のバトルを見てて俺もスイッチが入ったところだ」

 

コンドウも待ってましたと言わんばかりに笑う。

 

「付き合ってもらいますよ……!勝負!」

――初めて。アイが自分から対戦申し込むなんて……どんな戦いになるんだろ?――

 

ナナはその光景をただ眺めてるだけだった。

 

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これにて第四話終了となります。

 

どんなホビー作品でも主人公は自分の機体を大事にしてます。

 

作ったのが他人でも、それを大事にしたり使いこなすよう努力するならそれでいいんじゃないかと個人的に思ったのが結論です。

 

現にプラモ狂四朗やビルドファイターズ等、ダメージで壊れるプラモ作品でも皆自分の機体を信じてるわけですし

 

上のマツオみたいに自分の機体に当たり散らすのが一番NGだと個人的に考えております。

 

それはそうとガフランやティターンズの機体といいせっかくビルドファイターズで株を上げたギャンといい嫌な役回りにしてしまいましたね。

 

今後はこういう立場でも見せ場を作れるよう努力していきたいです。

 

今回の機体、ナイトメアの設定資料はこちらです。

 

http://www.tinami.com/view/632165

説明
第4話「本当に必要な事」

前回卑怯な手でケイ三兄弟に敗北寸前まで追いつめられたアイ、そこを救ったのは
日本刀を持ったゼク・アインに乗るコンドウ・ショウゴというビルダーだった。
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コメント
mokiti1976-2010さん コメント有難うございます。そうですね。自分の出来る全てを打ち込むと言った所です。三兄弟への名誉挽回は構想はあります。ただやたら先ですが…(コマネチ)
外面の情報だけでなく魂を込める事が重要という事ですね。三兄弟に救いがあるのかどうか…。(mokiti1976-2010)
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