真・恋姫?無双 〜夏氏春秋伝〜 第二十四話
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虎牢関の一室。

 

そこでは虎牢関の守将の一人、張遼が軍師・陳宮を連れて、包帯を巻かれた上半身を起こした状態の一刀と話をしていた。

 

「おはようさん、一刀。傷はどないや?」

 

「…正直、何で生きているのか不思議に思うくらいだよ。ああそうだ、治療してくれたんだね。ありがとう、霞」

 

「月っち達の身に関わることもあることやしな。一刀に死なれたらウチらが困る、ってだけのことやから」

 

霞は気にするなとでも言うかのように手を振り振りそう言う。

 

更に霞が言葉を続けようとしたところで横槍が入った。

 

「なっ!お前!霞殿の真名を!!」

 

「まあまあ、ちょい落ち着き、ねね。ウチの真名はもう一刀には預けてるんよ」

 

一刀の言葉尻を捕らえて激昂する陳宮であったが、すぐに霞に宥められる。

 

真名を呼ばれた本人がそう言うのであれば、これ以上他人である自分が言えることは無い、と渋々ながら陳宮は引き下がる。

 

そんな2人の様子を見て苦笑を漏らしている一刀に、早速霞が本題を持ちかけた。

 

「起きて早々で何やけど、一刀、聞きたいこと、それから教えてもらいたいことがあんねん」

 

「ああ、分かってる。今の俺は立場的には捕虜だ。そこは間違えてないよ」

 

存外素直に応じる一刀に少々陳宮は驚いているが、霞は想定済みだったのか、特に反応を示すことなく質問を始める。

 

「まず一刀に質問や。このままやりおうたとして、ウチらは何日持つと思う?」

 

「連合側の現状が分からないけれど、将が全員出れるようであれば5,6日。数人が治療に専念することになっていたとしても10日持たせるのはきついだろうね」

 

さすがにこの発言には堪らなかったのか、陳宮が両手を振り上げて抗議する。

 

「何を言うですかっ!我々には恋殿が付いておるのですぞ!10日持たせるどころか、連合など返り討ちにしてやるのです!」

 

少々ずれた反論。

 

個人の武を過信しすぎるその論調からは、まだ子供らしい思考が抜けきっていないことが読み取れた。

 

「えっと、君は…」

 

「おお、忘れとったわ。こいつは陳宮。詠の代わりにここに軍師として派遣されとんのやけど…」

 

そこで言葉を濁す霞。

 

大体何を言いたいのかを悟った一刀は苦笑を浮かべる。

 

「陳宮ちゃん、ね。2つ程いいかな?」

 

「何なのです?」

 

「まず1つ目。軍師であるなら、彼我の戦力分析は第三者の視点に立って冷静に行わないといけない。これを怠ると手痛い目に遭うのは自分達なんだから」

 

「う…」

 

「そして2つ目。君は個人の武に重きを置きすぎている。確かに呂布さんの武は凄まじい。でも、呂布さんの武がいくら凄かろうが、高度に組織化された軍隊には勝てない。そこも見誤ってはダメだ」

 

「うぅ…」

 

幼いとは言え、軍師をしている程である。

 

陳宮には一刀が正しいことを言っていることが分かってしまう。

 

しかし、敵と認識している一刀の指摘に素直に首を縦に振ることは陳宮の矜持が許さない。

 

結果、陳宮が取った行動は。

 

「う、う、うるさいのですっ!それくらい、ねねも分かっているのですぞ!!」

 

明らかに先の言動と内容が一致してはいない。

 

だが、この場でこれ以上そこを突くのは無粋でしかないと思い、一刀は霞に向き直って回答を続ける。

 

「いくら凄腕の武人が董卓軍に揃っていようと、連合とのこれほどの数の差はどうしようもない。何より連合には名立たる軍師が何人もいる。恐らく、もう今日のような快進撃は呂布さんであろうとも無理になるだろう」

 

「そうか。詠からの連絡もまだ何も無いし、やっぱり間に合わへんねやろなぁ…もうしゃあないか…一刀。前言ってた作戦、あれ教えてんか?」

 

半分ほど諦めの感情が心を占めているようではあるが、霞は一刀に作戦の説明を促した。

 

水関で霞から簡単に状況を聞いていた一刀は、こうなることを大体予測していたため、それほど驚くこともなく説明を始める。

 

「俺が考えた策は基本的に二方面作戦だ。但し、全ては月、詠、そして霞、君達3人の命を助けるため”だけ”の作戦だ。勿論、内容を聞いてから拒否してもらっても構わない」

 

「随分と勿体ぶるやつなのです。それに何故霞殿だけなのです?」

 

陳宮の当然の疑問に一刀は再び苦笑しながら答える。

 

「知己の命を救うために立てた作戦だからね。勿論変更も可能だ。その辺りについては取り敢えず全てを聞いてから考えてくれ」

 

長い前口上に少々訝しむ陳宮だったが、かねてから霞が聞くべきだと主張していたこともあり、首を縦に振る。

 

霞もまた目で先を促していた。

 

一刀は一つ息を吐くと、作戦の核心から話し始める。

 

「まず最初に言っておくと、月と詠には申し訳ないが、2人には死んでもらうことになる」

 

途端、目の前に2人が慌てた様子で同時に口を挟む。

 

「ななっ?!やはり貴様はねね達の敵なのですっ!!」

 

「ちょ、ちょい待ち!一刀!どういうことや?!あんたは月達を助けてくれるんとちゃうんかいな?!」

 

凄まじい剣幕で詰め寄る2人に物怖じすることなく、一刀は身振りで落ち着くように促す。

 

まだ一刀は話し始めたばかりであり、続きを聞かないことには最終的な判断を下しようもない。

 

それに気づいた霞はどうにか気持ちを落ち着かせ、陳宮も無理矢理抑えこむ。

 

それでもなお陳宮は暴れようとするが、それなりに場が鎮まったことを見て一刀が説明を再開する。

 

「勿論、本当に死んでもらうわけじゃないさ。所謂世間的な死を2人に送るんだ」

 

「世間的な死?」

 

「ああ。霞も知っているだろう?月、董卓は今、大陸の者達にどう思われているかを」

 

一刀の問いかけに霞は、口にすることが嫌なのだろう、渋い顔を作りつつもその答えを口にする。

 

「…帝を傀儡にして悪逆非道の限りを尽くす暴君、やな」

 

「〜〜ぷはっ!月殿はそのような方ではありませんぞ!!」

 

霞の手を振りほどいて陳宮が声を荒げて主張する。

 

一刀は真面目な顔を保ってそれに頷いた。

 

「ああ、勿論それは分かっている。だが、”真実”と”事実”は往々にして異なるものだ。そして大衆に限らず、ほとんどの者にとっては”事実”さえあれば”真実”がどうだろうと関係無いんだ。それが意味するところは、分かるよね?」

 

2人は同時に頷く。

 

話に付いてこれている事を確認して一刀は続ける。

 

「さっきも言ったけど、連合との数の差による戦力差は埋めがたく、このままではまず負けるだろう。じゃあ、これを予測して月達を逃がしたとする。連合が洛陽に押しかけた時にはもぬけの殻になっていれば、それ以上月達に火の粉はかからないと思うかい?」

 

「それは…」

 

陳宮が言葉に詰まる。

 

恐らく、その後の展開が読めたのであろう。

 

少し顔を青ざめさせていた。

 

「暴君董卓を都から追い出しました、めでたし、めでたし、で終わることは無いだろう。大義名分があるとは言え、帝の御座す街に矛先を向けたんだ。連合は敵の首魁の首を取るまでは止まらない、いや、止まれないだろうね」

 

そう、このままでは例え月達が上手く洛陽から逃げ果せたとしても、最後にはどこかに追い詰められ、その短い人生に幕を引いてしまうことになるだろう。

 

運良く追い詰められなかったとしても、今後一生影に怯える生活となってしまう。

 

あの可憐な少女にそのような道を歩ませたくは無かった。

 

「こうなってしまった以上、可哀想だが月達は今までのような生活を送ることは出来ない。それこそ、いつ何時、刺客がやってくるかもわからないような状態になってしまうだろう。だが、俺はあの2人にそんな生活を強いたくはない」

 

「そんなん、ウチかて一緒や。せやけど、それがさっきの話とどう繋がんねん?」

 

「簡単なことだ。生きてる限り追われ続けるのなら、死んでしまえばいい。つまり、月達は死んだ、という”事実”を連合に突き付けてやればいいのさ」

 

作戦の核を聞いて2人は黙って考え込んでしまう。

 

確かに聞く限りでは実にシンプルな考えに基づく作戦。

 

しかし、それを実行に移すは一筋縄ではいかないことは明白であった。

 

「お前の考えは分かることは分かるのです。ですが、そもそも月殿達が納得しないことにはどうしようもないのですぞ」

 

「せやな。特に詠が納得するとは思えんねやけど、そこら辺はどないするつもりなん?」

 

「月達の説得にはちょっと考えがあるんだ。それに、月達を説得してからでは絶対に間に合わない。元々は霞にだけ納得して貰ったらすぐに作戦に移るつもりでいた。言い方は悪いけど、最早選択権はないに等しい状況なんだから」

 

頭の回る2人は、董卓軍の現状をよく理解したのだろう。

 

一刀の言葉に顔を曇らせてしまう。

 

「確かに、一刀の言う通りやな…分かった。ウチは全面的に一刀の作戦に協力したる。ねね、あんたはどうや?」

 

「霞殿は簡単に物事を決めすぎるのですぞ!ねねは恋殿と、不本意ながらあの猪の意見も聞くべきだと思うのです」

 

陳宮の発言に思わず苦笑を漏らす一刀。

 

(華雄は味方内でもそういう扱いなんだな。それにしても、あの2人、果たして説得に応じてくれるものだろうか…)

 

華雄は過剰なまでに武に自信を持つ生粋の武人。

 

呂布は一度剣を交えたにも関わらず、何を考えて動いているのか、全くわからない。ある意味不気味な存在。

 

この2人の説得は骨が折れそうだ、と、この時の一刀は考えていた。

 

「それもそうやな。ってことや、一刀。今日はもう遅ぅて呂布っちが寝てもうたからな。明日の朝、そいつらと話し合いの場、設けるわ」

 

「ああ、了解した」

 

「ほなな〜」

 

「ねねを置いていくなです〜!」

 

そのようにこの日の話し合いを締めると、霞は手を振り振り、笑顔を浮かべて部屋を出ていく。

 

陳宮もまた霞を追って出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

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翌日、朝。

 

一刀は霞に引き連れられる形で一つの部屋に入って行く。

 

そこには既に華雄、呂布、陳宮といった、董卓軍の幹部連が揃っていた。

 

「そいつか、張遼?月様の命運を握るとか言う奴は」

 

一刀達が部屋に入るなり、鋭い視線を飛ばして華雄が尋ねてくる。

 

陳宮も同じく鋭い視線を飛ばしてくるものの、昨夜の話し合いにて一応の納得をしていることもあって突っかかるような真似はしてこない。

 

そして呂布はと言うと…

 

「……んぅ…」

 

寝ていた。それはもう見事に。

 

「そや。今後の為にもちゃっちゃと決めてまうで。ほら、恋もそろそろ起きぃ」

 

「んん……霞…?おはよう…」

 

「はい、おはようさん。ほれ、軍議始めんで」

 

「ん…」

 

未だに眠そうに目を擦りながらも、どうやらちゃんと起きたようである。

 

何度か目を擦ってようやく顔を上げた呂布は、その視界に一刀を捉えると軽く首を傾げた。

 

「……?」

 

「今から一刀に月を救う作戦を説明してもらうねん。恋もそれ聞いて乗るか降りるかを決めてくれ」

 

「ん…」

 

呂布はただ一言発して頷くと、それきり一刀を見つめて黙りこくる。

 

どうやら呂布は戦場だけでなく普段から口数が相当少ない様子である。

 

呂布が完全に起きたことを確認した霞は一刀を目で促す。

 

一刀は一つ頷くと、説明を開始した。

 

「それじゃあ説明されてもらうよ。まず大前提として、董卓軍が連合に勝つことは無いものと考えて欲しい」

 

「何だとっ!貴様ぁっ!!」

 

当然の如く華雄が激昂する。

 

勿論それは想定済みであるので一刀は慌てることなく反論を投げかける。

 

「華雄さんは、俺が董卓軍の力を舐めている、と感じたのかもしれないけれど、それは大きな間違いだ。兵の練度は高く、将の質も良い。また高度な情報戦をもこなし、君主の人望も篤い。舐めるどころか、むしろ、かなり高く評価しているよ。だが、それでも連合の数は余りに膨大だ。華雄さんはそれを覆せると?」

 

「当たり前だ!私も呂布も張遼もいる!それに我らの兵は皆精強だ!連合など返り討ちにしてくれる!」

 

この発言には一刀もさすがに溜息を吐いてしまう。

 

己の鼓舞の為に去勢を張っているわけではなく、本気でこの劣勢を覆すことが出来ると信じていることを、華雄の目が語っていたからである。

 

「武官として己の武に自身を持つのは構わない。それは確かに必要なことだ。けれども、それを過信しすぎるのは頂けない。しかも華雄さんの場合は盲目的と言える程だ。そのような驕りによって散って行った猛者は数知れない。歴史に謳われる勇将とはそこを間違えることの無い者のことだ」

 

そこまでを一息に言い切る一刀。

 

こうまで言われて華雄が黙っているはずも無く、言葉が途切れた瞬間に一刀に食ってかかる。

 

「私は驕ってなどいない!月様にお仕えしてからこっち、数多の戦場をくぐり抜けて来たのだ!本当の戦場も知らん、数だけの弱卒連中になど負けるはずがなかろう!!」

 

「…2つ、大事なことを見落としていることに気づいているかな?」

 

「…何だと?」

 

案の定、華雄は一刀の指摘に鸚鵡返しに聞き返す。

 

またもや溜息を吐きたい気分になるものの、ここはぐっと堪えて一刀は解説する。

 

「まず一つ目。昨日の戦闘で前線に展開していたのはほとんどが袁紹、袁術の兵だ。この2つは数こそ多けれど、兵の質は良くない。およそ数で押すことしか考えないのだろう君主が上にいるからなのだろうな。だが、少なくとも後ろに控えていた曹、劉、孫、馬は違う。これらはいずれも精強な兵を育て、寡兵であれ劣勢であれ、戦う覚悟を定めている。本当の戦場を知らないという言葉は当て嵌るはずもない」

 

「ぬ、ぬぐっ…」

 

「そして2つ目。これは軍師の存在に関してだ。先の前者と後者の大きな違いはやはりそこにある。優秀な軍師が綿密に策を立てた場合、弱卒であろうとも無策の精兵を破ることは多々あることだ。昨日の敗戦を受けて、連合は曹や劉、孫のどれか、あるいは全てから軍師を立ててくるだろう。今日、或いは明日からか、そこからの連合は昨日とは一線を画すものになるだろう。というわけで、数だけの弱卒、というのも当てはまらなくなる」

 

「うぅ…」

 

「つまりだ。それだけでも先程華雄さんが挙げた負けない理由は悉く否定されるわけだけど」

 

「な、ならば、我々は初めから負けの決まっている戦をしていたと言うのかっ?!」

 

一刀の言葉を遮る形で叫ぶ華雄。

 

その内容に些細な違和感を感じた一刀。

 

それは霞も同じであったようで、華雄に問いかけた。

 

「なあ、華雄。あんた、詠の作戦ちゃんと理解してるんやったよな?」

 

「今更何を言っている、張遼。そんなことは当たり前だろう」

 

「ちょっと言ってみ?」

 

「さっきから何だと言うのだ?水関、虎牢関で連合軍を倒すのだろう?」

 

『……』

 

まさかの答えに霞と一刀は絶句してしまう。

 

余談だが、この時2人はこめかみを抑えて頭を振る詠の姿が鮮明に思い描けたそうだ。

 

それはともかく、この認識の齟齬は非常に頂けない。

 

2人は、まず、この溝を埋めることから始めることに決めた。

 

「ええか、華雄。ウチらは確かに連合と戦うように指示されたわ。けどな、目的は倒すことやなくて、足止めやて詠が言うてたんを忘れたんか?」

 

「倒すことが目的ではないと言うのなら、何故我々は戦っているのだ?!」

 

「やっぱわかっとらんのやんけ!ええか?ウチらは月っちらが洛陽から逃げ出す時間を稼ぐことが目的やったんやで?そやから基本的に籠城決め込むて言うてたんや。けどな、あんたが水関で勝手な行動起こすからそれも出来んようになっとんのや!」

 

「うっ…」

 

「んで?まだ文句あるか、華雄?」

 

「……いや、ない…」

 

自身の間違いを悉く指摘され、以前の失敗を糾弾され、すっかり意気消沈してしまった華雄は力無く頷く。

 

取り敢えず反論が出なくなったことで、一刀はようやく策の説明を再開する。

 

「話を戻そう。作戦の目的は至極単純、月と詠の命を救うこと、これだけだ。これは董卓軍を救うことと同義ではないことに注意してほしい」

 

理解が追い付いていないのか、呂布が首を傾げる。

 

華雄もまたよくわかっていないような顔をしていた。

 

霞と陳宮は理解してはいるが、このまま進めるよりも、と思い、一刀は一言補足する。

 

「つまり、月と詠を救うためには、董卓軍の崩壊も辞さないということだ」

 

華雄の目が驚きに見開かれる。

 

しかし、華雄が何かを叫ぶ前に一刀が続きを語り出した。

 

「話を聞く限りでは、恐らく詠は洛陽から脱出した後、情報戦を仕掛けることで董卓軍の存続を図ろうとしていたのだろう。だが、あまりにも水関が抜かれるのが早かった。結果、情報戦を仕掛ける猶予どころか、月達の脱出の時間すら稼げるか疑わしいような状況となってしまっている。現状の悪評を払拭出来ないまま連合に洛陽に入られてしまっては、最早挽回は不可能に近いものとなってしまうだろう。ならば、そうなる前に連合の手では無く、自らの手で軍に終焉を与えた方が都合がいいんだ」

 

暗に自身の失敗を再認識させられ、華雄は言葉に詰まってしまう。

 

現状、董卓軍は二進も三進もいかない状態であるが、こうなってしまった大元の原因が自身にあることをまざまざと思い知らされてしまうからであった。

 

「話が長いのです!早く作戦の骨子を説明するのです!」

 

陳宮に急かされて一刀は作戦の概要の説明に移る。

 

「まず、大前提として連合への抵抗戦は続けてもらうことになる。ただ、徹底抗戦で無くて構わない。2,3日。洛陽へ着くまでの間、保たせてくれる程度で構わない」

 

「徹底やない抗戦て、どういうことや?」

 

「基本的な籠城戦を決め込んでくれたら十分だろう。幸い、昨日の一件で連合軍は必要以上の警戒を敷いてくるはずだ。虎牢関での初戦からあんな常識外れの一戦をしておきながら、次の日からは打って変わって教本通りの行動をされると、頭のいい者ほど何かがあると勘繰ってくれるだろう」

 

「確かにそうですな。敵がそんな行動を取ったとなれば、ねねでも疑いますぞ」

 

腕を組んで頷きながら陳宮も一刀に同意してくる。

 

その様子を見て霞も納得したようであった。

 

「なるほどな。ほんじゃあ、2,3日経ったらどないすればええんや?」

 

「犠牲を抑えるためにも出来るだけ早くに退いてもらいたいところだけど…実際その時になってみないとわからないことではあるね。特に問題が無いようであれば、壁上から矢等で間断なく威嚇している間に、小分けした部隊を徐々に撤収させていくのがいいだろうね」

 

「その辺りはその時に考える方が良いのです。今細部を決めたところで、それを全うできずにもたもたする方が命取りになるのですぞ」

 

「ねねの言うとおりやな。差し当たっての問題は誰が何をするか、か?」

 

そこで一刀は顎に手を当てて考え込む。

 

「そこが問題なんだが…」

 

実際、現時点で役割が決まっているのは、洛陽へと赴く一刀だけである。

 

基本が籠城であるため、虎牢関における指揮官たる陳宮はさすがに残る方向で決まるだろう。

 

だが、残りの武将3人についてはどうしたものかと考え込んでしまう。

 

元々の一刀の予定では、董卓軍に潜り込んだ後、霞だけ説得して洛陽へ向かい、月達の死を偽装してドロン、であった。

 

しかし、現状の一刀は呂布に敗れ、捕虜と考えるべき立場。

 

ならば、一刀が月の身を保証する作戦を授けるにしても、董卓軍の面々の意向は可能な限り汲んでいかねばならない。

 

結果、一刀は自身では決めることが出来ないような状態になっているのであった。

 

「まずは皆の意志を確認しておきたい。この作戦の大まかな方針に反対の人はいるかな?」

 

「ウチは反対はせんよ。ウチの頭じゃ、一刀の作戦以上のもんなんて出せへんしな」

 

「悔しいですが、ねねには今の状態を打開する策は浮かばないのです」

 

内容が内容であるので積極的ではないものの、霞と陳宮が賛同を示す。

 

「やはり私は納得がいかんぞ!武人たる者、逃げずに戦わねばならんだろう!」

 

華雄は依然として納得出来ていないと憤るものの、

 

「確かに、もし10日ほど掛けて迎え撃つ準備が出来るのであれば、様々な策の施しようもあるだろう。だけど、現実は連合はすぐ目の前に迫っていて、戦の下準備の時間などはない。打って出るにしても、虎牢関前の平原は狭く、必然取れる作戦の幅は狭まる。罠も準備できない、選択肢もほとんどない状態で数の差だけは5倍でもきかない。このまま戦っても、待っているのは全滅のみだ。そして、その先にあるのは月達の死。今ここにいる者達に突きつけられているのは、そういった玉砕を望むのか、それとも、軍の存在を犠牲にしてでも主君の命を守りたいのか、という問題なんだ」

 

「月様の…命…」

 

「掛かっているのが自分の命だけなら、武人の誇りに殉ずるのもアリだろう。けれど、今回はそうはいかないんだ。それでもまだ納得してくれないかな?」

 

「……私には、この武しかなかった。そんな私に月様は本当に良くして下さったんだ…そんな月様の命を引き合いに出されたら、頷くしかないじゃないか…」

 

さすがに月を犠牲にしかねない選択肢は選ぶことが出来ず、賛同の方向に回った。

 

「呂布さんはどうかな?」

 

そして一刀は、ここまでずっと黙ったまま一刀を見つめ続けていた呂布に話しかける。

 

話の矛先を向けられてもすぐに話し出すことも無く、一刀の目を見つめ続ける呂布。

 

沈黙が痛く感じ始めた頃になり、ようやく呂布が口を開いた。

 

「……月を、助けに行く?」

 

「ああ、その為の作戦なんだけど、呂布さんは賛同してくれるかな?」

 

僅かの揺らぎすらなく目を見つめ続けてくる呂布に対し、一刀も月を想う気持ちをあるだけ瞳に乗せて呂布を見返す。

 

果たしてそれが伝わったのか、僅かの後に呂布が再び口を開いた。

 

「……ん、わかった。恋も手伝う」

 

「そうか。良かった。ありがとう、呂布さん」

 

全員の賛同を得て、再び話題を戻す。

 

「話を戻すけど、洛陽には俺と、後もう1人来て欲しい。俺だけだと、月に会うことが叶わないかも知れないからね」

 

「ならば、恋殿が適任ですぞ!月殿に気兼ねなく会うことが出来ますし、何より、そこの男が何かしでかそうとしても恋殿であれば止められるのです!」

 

「ん〜、確かにな。理由はアレやけど、それでええんちゃうか?」

 

「分かった。呂布さんもそれでいいかな?」

 

「……ん」

 

呂布がコクリと首を振って肯定を示す。

 

軍議を始めて半刻、ようやく大まかな作戦が決定したのであった。

 

「それじゃあ、さっきも言ったように、抵抗は基本的に籠城戦で。2、3日経ったら一度洛陽の方まで退いて来てくれ。指揮の方、よろしく頼むよ、陳宮」

 

「お前に言われずとも分かっているのです!この位の作戦、このねねにかかればちょちょいのちょいなのですぞ!」

 

両手を振り上げて意気込む陳宮。

 

そんな陳宮に呂布が声を掛けた。

 

「……ちんきゅ、頑張る。恋も、頑張る」

 

言葉が少なく分かりづらいが、どうやら陳宮を激励しているようだ。

 

陳宮にはそれが分かっているのだろう、先ほどよりもさらにやる気を漲らせていた。

 

そんな2人を横目に霞が一刀に話しかけてくる。

 

「一刀、ほんなら月っち達のこと、よろしゅう頼むわ」

 

「ああ、任せといてくれ。霞も頑張れよ。また後日、互いに元気なままで会えることを願っているよ」

 

「おう。ウチが3日位、余裕で防衛して見せたるわ」

 

霞はニカッと笑みを浮かべる。

 

その笑みは本当に清々しいほどのものであった。

 

 

 

 

 

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その日の昼、太陽が丁度中天に達する頃。

 

虎牢関の裏側では、馬に乗ってフードを目深に被った2騎が洛陽に向かって発って行った。

 

その反対側、連合が布陣している平原は、昨日とは打って変わって静けさに包まれていた。

 

一刀の予想した通り、動きのない虎牢関に多大な警戒を向けているのであった。

 

この時がまさに歴史の分岐点である。

 

ここからの3日間が、今後の大陸の情勢に大きな影響を及ぼすことになろうとは、この時は誰も想像していないのであった。

 

説明
第二十四話の投稿です。

虎牢関内部で一体どんな話が為されているのか。
その内部を覗いてみましょう。


提出物の〆切が重なってしまって、今まで以上に執筆に時間が取れなくなってきました…
更に更新頻度落ちそうです。スイマセン。
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コメント
ここからどうなりますかねぇ〜楽しみな展開です(はこざき(仮))
>>marumo様 確かに、仰る通りですね。一人称は気を付けていたつもりなのですが、申し訳ないです。(ムカミ)
ネネのこのセリフ「お前に言われずとも分かっているのです!この位の作戦、この私にかかればちょちょいのちょいなのですぞ!」 この私ではなくネネにかかればの方が良いと思うです(marumo )
>>未奈兎様 ありがとうございます!(ムカミ)
うーん面白い(未奈兎)
>>naku様 なるほど。だから数多の外史であのような形になるのですね。きちんと一本の芯が通っている辺り、桃香よりも君主らs、ゲフンゲフン(ムカミ)
>>naku様 他の皆様の作品に登場する月の思考傾向はそうですね。その辺りを桃香と比較するパターンが多いですね。この傾向は原作でもあったのでしょうか?(ムカミ)
>>陸奥守様 時間を稼ぐ選択をした以上、というよりも、戦の選択をしてしまった以上、兵の犠牲は避けられないことは月も納得していると思っています。一刀の選択もある面から見れば犠牲を減らす選択でもありますので、そこを突けば月の説得も実現出来ると思っています(ムカミ)
月が兵を犠牲にして生き延びる事を納得する可能性低い気がする。勢力保持したままなら選択肢として有りと思うけど、死んだ事にしてだからね。兵を犠牲にする意味あんの?って普通思うんじゃないかな。(陸奥守)
>>h995様 確かに、その方が表現としてはいいですね。各国の情勢等をいじくり廻すという意味で書いたつもりでしたが、恋姫自体が歴史という観点から見たら大分逸脱しているものですしね。(ムカミ)
歴史というよりも外史のプロットを無視といった方がいい様な。恋姫では蜀に付く詠こと賈?は本来、魏の重鎮です。……尤も、詠については立ち位置自体がそもそもおかしい訳ですが(董卓の演義での軍師は李儒)。(h995)
>>本郷 刃様 ここからは歴史無視ですねw 自分の拙い想像力をフル動員して、楽しんでもらえるようにしたいところです(ムカミ)
>>一火様 彼女は猪のイメージが定着してますしねぇ。最初から側にチートな一刀さんがいない限りは、どの外史でも猪な気がします(ムカミ)
>>劉邦柾棟様 発った2人は本文中の通りですね。実を言いますと、華雄さんをどう扱おうか、まだ迷ってたりします…w(ムカミ)
大陸の大きな影響を及ぼすという言葉・・・今後の流れが凄く気になってきました(本郷 刃)
かゆうまさんはまだ猪かぁ・・・・・・(一火)
出発した二人が一刀と華雄であって欲しいな。(劉邦柾棟)
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