真・恋姫†夢想〜世界樹の史〜第一章・忘れ草編
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 ☆拠点Part 凪 『でぇと』

 

 

明くる日、自分は隊長と警邏についていた。

 

隊長は多忙なためあまり警邏には出られないが、時間が空くと率先して警邏へと出向いてくれる。

 

町の人の話を聞き、困っていれば相談にのる。隊長は街の方々にとても慕われていた。

 

本当に、尊敬できる方だと思う。

 

凪「隊長、工業地区の警邏報告書なのですが…

 

  隊長?」

 

一刀「あ、あぁ、ごめんごめん!

   肉まんが美味しそうでつい。」

 

凪「警邏中です。我慢してください。」

 

一刀「(´・ω・`)」

 

凪「ひ、一つだけなら…。」

 

一刀「大好きだ凪!」

凪「だ、だいすっ?!」

 

ボンっと赤くなる自分を置き、出店へ駆ける隊長。

 

本当にこの人は…

 

 

 

 

店主「おっ、御遣い様じゃねぇか!いい嫁さんは見つかったか?」

 

一刀「ま、まだ早いって!」

 

女性「み、御遣い様!こ、こちら、宜しければどうぞー///」

 

一刀「うわっ、美味そ!貰っちゃっていいの…ってもう居ない?!」

 

隊長は行く先々で声をかけられる。

 

その光景は普段から隊長をよく見ている自分にとっては納得のいくものだった。

 

だらしないところもあるが、頼りになって、色々なことを教え導いてくれる。

 

それに、命の恩人でもあるのだ。

 

 

 

自分の小さな恋心には少し前に気がついていた。

 

凪「(でも、この気持はしまっておこう。自分なんかじゃ手が届かない人だから。)」

 

胸の痛みは誤魔化せない。それでも、この気持ちを打ち明けて嫌われたらと思うと…。

 

 

 

女の子「みつかいさま〜!」

 

小さな女の子が隊長に駆け寄る。

 

隊長はそれに気がつくと、笑顔でその子を抱き上げた。

 

一刀「お〜、今日も元気だな!」

 

女の子「えへへ〜!

    みつかいさまは、あのお姉ちゃんと でぇと?」

 

凪「隊長、でぇと とはなんですか?」

 

女の子「あのね、みつかいさまの国のことばで、

    恋人どうしがお出かけすることなんだって〜!」

 

凪「なっ?!た、たたた隊長と自分が?!」

 

顔が熱くなりフラフラしてしまう自分。

 

凪「た、隊長は自分などには勿体無いお方です!」

 

女の子「そうなの〜?」

 

一刀「そんなことはないぞ!

   なんたって俺と凪はデート中だからな!」

 

凪「た、たたたたたたた隊長?!」

 

女の子「わ〜!頑張ってね、お姉ちゃん!」

 

こちらを向き笑顔でそう言うと、その女の子は走って行ってしまった。

 

凪「〜〜〜〜〜〜っ」

 

微笑ましく見守っている住民たちの目が、とてつもなく恥ずかしい。

 

一刀「さて、肉まんでも食べて デートの続きと行こうか!」

 

笑顔でそんなことを言う隊長に、自分は言葉を発せなかった。

 

ただただ、赤くなった顔を隠そうと俯くのが精一杯で。

 

そして、こんな事も思っていた。

 

凪「(本当に良いのですか、自分なんかでも?

   こんなに傷だらけで可愛げのない自分でも?)」

 

諦めていたが、色々と期待を持ってしまう出来事であった。

 

そんな二人を物陰から見つめる姿があることを、この時は気付きもしなかった。

 

 

 

真桜「なぁ、アレどう思う?」

 

沙和「ん〜、凪ちゃんに春がきたのは喜ばしいけど〜。

   凪ちゃんだけズルいの〜!」

 

真桜「せやな〜、やっぱり平等に愛してもらわな。」

 

沙和「あれ〜?真桜ちゃんも隊長のこと好きなの〜?」

 

真桜「あたりきやんか!

   賊に襲われて死にかけとったのを助けてもろて、部下になってみたらめっちゃ仕事出来てカッコエェやん。

   惚れるな言うほうが無理やろ。」

 

沙和「そうだよね〜。全然偉そうにしないし〜、沙和達の話もちゃんと聞いてくれるの〜!」

 

真桜「流石、種馬言われてるだけあるわ。」

 

沙和「でもとりあえず…、風ちゃんに報告なの!」

 

真桜「せやな。」

   

 

 

 

 

 

 

 ☆拠点Part 風 『やきもち』

 

 

一刀「えーっと、この区画が空いてるみたいだから…」

 

コンコン

いつの間にか普及した、ノックの音が聞こえる。

 

一刀「はーい!開いてるからどうぞー!」

 

隊員「失礼します!

   区画整備の件で…ご連…絡…を…。」

 

尻切れトンボな隊員に目を向けると、とても気まずそうに目をそらした。

 

一刀「ん?どうかした?」

 

隊員「いえ!ご用件はこちらの書簡にまとめておりますので、自分はこれで!

   失礼しました!」

 

そういうとソソクサと部屋を出て行ってしまった。

 

一刀「なんだろ?」

 

コンコン

来客が多いな。

 

一刀「どうぞー!」

 

華琳「邪魔するわよ?

   治安報告書が遅れているようなのだけ…れど…」

 

そこまで言うと、華琳の言葉が途切れてしまう。

 

一刀「あぁ、ごめんごめん。

   真桜からなかなか上がってこなくてな。急がせるから。」

 

華琳「…。」

 

一刀「華琳?」

 

華琳「…。

 

   一刀、その膝の上は何?」

 

華琳が指をさすとそこには…

 

風「ぐうzzz」

一刀「あ〜…。」

 

華琳「…。」

 

風「んゆ…よく寝たのですよ〜。

 

  おぉ〜、これはこれは華琳様。どうかしましたか〜?」

 

華琳「おはよう風♯」

 

にこやかに青筋を立てる華琳。

 

華琳「一刀、貴方はいつもこうやって仕事をしているのかしら?」

 

一刀「そ、そんなワケないだろ!

   今日は何故か風が俺の膝で眠り始めて…痛たたたたっ?!」

 

風に脇腹を思いっきり抓られる。

 

風「お兄さんは凪ちゃんとは逢引するのに、風は一緒に居るのもダメなんですね〜。」

 

一刀「い゛?!ど、どこでそれを!?」

 

華琳「へぇ…。

   詳しく聞かせてもらおうかしら?」

 

一刀「いや、ちょっと待っt」

風「昨日の警邏の時、凪ちゃんとそれはそれは楽しそうに逢引してたようですけど〜?」

華琳「へぇ…。」

一刀「…。」

 

華琳「一刀。」

 

一刀「は、はい!」

 

華琳「春蘭と秋蘭にも伝えておくわ。

 

   今日の鍛錬が楽しみね?」

 

そう言うと、くるりと背を向け部屋から出て行ってしまった。

 

一刀「終わった…。」

 

風「まぁまぁ、元気だしてくださいお兄さん。」

 

一刀「他人事だと思って…」

風「風も。」

 

一刀「ん?」

 

風「風だって女の子なのです。

  風もお兄さんにこっちを見て貰いたいって思ってるのですよ。」

 

一刀「え、あれ?それって…」

 

風「風は一緒に居られないのですか?妬いたりしてはダメなのですか?」

 

一刀「…。」

 

風「風は…風は…。」

 

一刀「ごめん。」

 

風「っ…!」

 

ふわり と抱きしめられる。

 

風「お…お兄さん?」

 

一刀「暖かいな、風。」

 

風「…お兄さんもです。

 

  こんなことされると、風はもう離れなくなりますよ?」

 

一刀「あははっ、じゃあもっとしないとな。」

 

風「う〜、ズルいのです〜。

 

  …もう、風を放っておいたりしないですか?」

 

一刀「するもんか。」

 

風「手を離したら怒りますからね。」

 

一刀「…あぁ、約束だ。」

 

そっと口づけを交わす。

 

次の日、幸せ絶頂な風の横に、疲れ果ててボロボロな天の御遣いが居たそうな。

 

 

 

 

 

 

 ☆拠点Part 『北郷さんちの軍事演習』 

 

 

その日、来る戦に備え大規模な軍事演習が執り行われていた。

 

秋蘭「姉者、北郷はどう出ると思う?」

 

春蘭「うむ…あの盾兵は厄介だな。」

 

華琳「あら?春蘭が居ても負けるのかしら?」

 

春蘭「滅相もございません!!華琳様のためならこの夏侯元譲!容易く殲滅してみせましょう!!」

 

華琳「ふふっ、期待しているわ。

   桂花、貴方も最善の策を練るように。」

 

桂花「もちろんです華琳様!あんな猿に負けることなんてあり得ません!私に全ておまかせを!

   必ず息の根を止めて見せます!」

 

秋蘭「…演習だぞ?」

 

華琳「そうね、あちらは勝てば北郷が『ご褒美』を用意しているようだし?

   こちらも期待しててちょうだい。」

 

「「はっ!!」」

 

春蘭「お、おのれ北郷!!奴らとよもやそんなイヤラシい約束をしていたとは!!」

 

秋蘭「姉者、たぶん姉者が思っている『ご褒美』とは意味が違うぞ?」

 

 

春蘭隊、秋蘭隊、華琳隊の第一軍は一気呵成となっていた。

 

 

 

対する北郷隊、季衣隊、流琉隊の面々は…

 

真桜「分かっとるなお前ら?」

 

風「分かってるのです〜。」

沙和「当然なの〜!」

凪「あぁ。」

流琉「はいっ!!」

桂樹「にへら〜///」

季衣「んにゃ?」

 

真桜・風・沙和・凪・流琉・桂樹「「(隊長(お兄さん)(ご主人様)のご褒美!!絶対に取る!!)」」

 

季衣「ん〜、ご褒美ってなんだろうな〜。

   流琉は何か知ってる?」

 

流琉「っ?!

   そ、それは…その…。」

 

季衣「にゃ?」

 

流琉「に、兄様がいっぱい『食べさせて』くれるみたい!」

 

季衣「ほんとに!?」

 

流琉「え、えぇ!季衣が『初めて食べる』ものかも!」

 

季衣「うわ!絶対勝たなきゃ!燃えてきた〜〜〜!!」

 

流琉「ほっ…。」

 

三羽烏「…。」

 

流琉「??

   どうしたんですか、皆さん?」

 

沙和「流琉ちゃんって意外と…。」

 

真桜「流琉〜、あんた意外とムッツリやな。」

 

凪「///」

 

流琉「っ〜〜〜〜!!」

 

第二軍の士気は異様に高かった。

 

 

 

 開戦前・華琳の陣

 

桂花「相手の攻撃の軸は間違いなく流琉と季衣です。

   あの二人が両翼に布陣し、中央で押し込んできた盾兵を利用し左右から挟み込んでくるかと。」

 

 開戦前・一刀の陣

 

一刀「と、桂花なら考えるだろうから、別の策をヨロシク。」

 

風「う〜む…ならこういうのはどうですかね〜。」

 

 開戦前・華琳の陣

 

桂花「風の性格なら、間違いなく伏兵は置いてくるでしょう。」

 

 開戦前・一刀の陣

 

桂樹「姉貴は几帳面だからな〜、伏兵に気を配りだすと気になって仕方なくなるぞ。」

 

一刀「そうか。なら…。」

 

 開戦前・華琳の陣

 

華琳「兵数はこちらの方が上なのだし、警戒だけしていればそこまで伏兵に気を張る必要は無いのではなくて?」

 

 開戦前・一刀の陣

 

一刀「こう思ってるとひっくり返される可能性がある。華琳は無駄を嫌うからな。」

 

風「ぬ〜、こうなってくると第一軍が一万五千、風達が一万という兵力差が痛いのです〜。」

 

 開戦前・両陣

 

華琳「決まりね。」

一刀「決まったな。」

 

 

 

 開戦

 

桂花「何これ…!こんなバカみたいな陣形で何をするつもりなの!?」

 

華琳「ふむ…捨て鉢になっているわけではないでしょう。

   何を考えているのかしら?」

 

中央に鋒矢の陣で春蘭が、そのすぐ後ろに鶴翼の陣で秋蘭が布陣する第一軍に対し、

 

中央に北郷隊が鋒矢の陣、左右にそれぞれ反転した雁行の陣を敷く第二軍。

 

予定通り、春蘭隊が突撃を開始する。

 

北郷隊も前進し、衝突に備える。

 

春蘭「北郷〜〜!!覚悟〜〜〜〜!!!!」

 

衝突する瞬間、目の前の陣が左右に消えた。

 

春蘭「ぬぅ?!」

 

突撃していたため、急に止まることが出来ない。

 

すると、陣がぱっくり別れてできた道の先に、北郷が待つ本陣が見えた。

 

春蘭「しめた!!

 

   春蘭隊はこのまま突撃し、本陣を落とす!皆の者ついて来い!!」

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 

秋蘭「?!

   待て姉者!!ちっ、聞こえていないか!」

 

秋蘭が後を追おうとするも、そこへ鋒矢の最前列へ布陣していた凪、真桜、沙和が現れる。

 

秋蘭「何っ?!一体どうやって!」

 

真桜「秋蘭様、覚悟してもらうで〜!」

凪「隊長が春蘭様を落とすまで、お相手をして頂きます!」

沙和「怖いけど、粘々頑張るの〜!」

 

秋蘭「くっ、これは不味いな。」

 

 

 

一般兵「か、夏侯惇様!囲まれています!!」

 

春蘭「何だと?!背後の秋蘭はどうした!」

 

一般兵「別働隊に抑えられているようです!」

 

春蘭「くそっ!!一体どうなってる!!

 

   お前ら!包囲を突き破るぞ!敵の一番『厚い』北郷隊を破る!!

   皆の者、反転!!」

 

隊を反転し、盾を構える北郷隊へ食らいつく春蘭隊。

 

勢いが無い春蘭隊は、盾を構えビクともしない北郷隊を破りきれずもたついていた。

 

桂樹「あらら〜、やっぱり女はバカだな。

 

   流琉隊、季衣隊!春蘭隊をケツから削っていけ!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

華琳「…負けね。」

 

春蘭「う…。」

 

秋蘭「申し訳ございません。してやられました。」

 

華琳「桂花。」

 

桂花「ヒッ…!」

 

華琳「貴方は十日間、一刀に戦術を学びなさい。いいわね?」

 

桂花「なっ?!そんな華琳様!!どうしてこんな猿に!!」

 

華琳「その猿に負けた貴方が何か言えるのかしら?」

 

桂花「うっ…。」

 

一刀「でも華琳、なんで華琳の本隊が動かなかったんだ?

   本隊が秋蘭隊に合流してれば、まだ分からなかったのに。」

 

桂花「っ!!」

 

華琳「桂花、説明してあげなさい。

   簡潔に、ね。」

 

桂花「それは…。」

 

一刀「それは?」

 

桂花「伏兵に気を取られていたから…。」

 

一刀「ぷっ」

 

桂花「なっ!!笑うことないでしょ!!これだから男ってやつは!!」

 

一刀「いや、ごめんごめん!!あははっ、桂樹が言ったとおりだったからつい。」

 

華琳「居もしない伏兵に怯えるなんて。

   一刀に度胸も学んできなさい。まったく。」

 

「「隊長〜〜!!」」

 

華琳「呼んでいるみたいよ。

   後始末は桂花と春蘭に任せるから、祝勝会でもしてらっしゃい。」

 

一刀「あぁ、ありがとう。任せるよ。」

 

そういうと、風達が待つ方へ駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆拠点Part 桂花 『炸裂!北郷塾!』

 

 

そこでは、桂花の叫び声が木霊していた。

 

桂花「む、無理無理!!無理よこんなの!!」

 

一刀「大丈夫だ!ほら、跳べ!」

 

トン、と桂花の背中を押す。

 

ここは城の近くに架かっている橋。

 

桂花の足には、真桜特性・伸縮自在の紐を付けバンジージャンプをさせていた。

 

さすが真桜。無駄な発明では右に出るものはない。

 

桂花「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

引き上げてみると、桂花は気絶していた。

 

桂花「…ん。」

 

一刀「お、気がついたか。」

 

桂花「ひっ!!」

 

一刀「じゃあ、もう一回だ!」

 

桂花「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

それを繰り返すこと、もう十回はしただろうか。

 

腰の抜けた桂花をおぶり、城への帰途へついていた。

 

桂花「…満足?」

 

一刀「何が?」

 

桂花「今まで散々コケにしてきた私に、こうやって仕返しできて。」

 

一刀「…教育的指導。」

 

痛烈なデコピンをする一刀。

 

桂花「イタ!!ちょっと何するのよ!あ、っていうかほんとに痛い!!すごく痛い!!」

 

一刀「桂花はさ、華琳に危険が及ばないように伏兵を警戒していたんだろ?」

 

桂花「…だから何よ。」

 

一刀「そんなに自分一人で気を張っていたら、守るものも守れないと思うんだ。」

 

桂花「…。」

 

一刀「ほんの少しだけでいいから、周りも頼りにして欲しいかな。なんて。」

 

桂花「橋から何度も突き落としておいてよく言うわ。」

 

一刀「あははっ、でも楽しかっただろ?」

桂花「楽しくないわよ!!」

 

一刀「この恐怖を味わったんだから、伏兵ごとき何でもないな。」

 

桂花「紐が切れたらどうするつもりだったのよ!」

 

一刀「あぁ、それなら大丈夫だ。

 

   あそこの橋は落下事故が多くてね。この前下の広範囲に防護用の網を張ったんだよ。霧で見えないけどね。」

 

桂花「先に言いなさいよ!!」

 

一刀「そしたらつまらないだろ?」

 

桂花「どのみち楽しくないのよ!!

 

   き、気絶したことは内緒にしてよね。」

 

一刀「え、お漏らしの方は言っていいの?」

 

桂花「し、してないわよ!!

 

   ん?あれ?!下着が変わってる!!」

 

一刀「こんなこともあろうかと!!」

 

桂花「どや顔するな変態!!!!もう死ね!!!死んじゃえーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 ☆拠点Part 管理者『胡蝶』

 

 

北郷一刀は悩んでいた。

 

時折来る頭痛、外史への疑問、そして自分自身の道について。

 

執務室を抜け、街へと歩きながら、彼は答えのない悩みに苦悶していた。

 

すると、突然目の前が白く光り出し、彼以外の時が止まっていることに気付く。

 

一刀「な、なんだこれっ!動いてるの俺だけか!?」

 

?「やっと見つけたぞ!北郷一刀!」

 

声の方へ振り返ると、目付きの悪い青年が立っていた。

 

?「ここで貴様を消し、このくだらん外史を葬り去ってくれる!」

 

一刀「外史?え、今外史って言った?!」

 

?「何を驚いている。よもや俺様を忘れたわけではあるまいな?」

 

一刀「…忘れた!ごめん!」

 

?「バカな!俺は貴様を」

一刀「ていうかさっき外史って言ったよね!

   よかった〜、俺みたいな人がいて!ちょっと聞いてくれよ〜!」

?「いやお前が俺の話を聞けよ!」

 

一刀「あ、そうそう、名前なんていうの?」

 

?「本当に忘れているのか…一体どうなってるんだ。

 

  俺の名は左慈だ。どうだ、思い出したか。」

 

一刀「いや、全然。

   それでさー!」

左慈「お構いなしか!」

 

?「落ち着いてください、左慈。貴方らしくもない。」

 

一刀「あれ、お友達?」

 

?「ふむ…同じ外史のファクターでありながらこの様子だと、私のことも覚えていないと?」

 

一刀「ごめん、誰?」

 

?「…于吉です。」

 

一刀「于吉くんか。それでね、さっき話そうと思ってたんだけどさ〜」

 

左慈「残念だが、話す必要はない。

   お前はここで死ね!!」

 

唐突に一刀へ蹴りを放つ左慈。

 

一刀「うぉっ!?危なっ!!」

 

咄嗟に盾を構える一刀。

 

于吉「バカですね。管理者である左慈の蹴りをそんな盾で防ごうとは。」

左慈「ぬわあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」

于吉「吹き飛ばされて終わ…左慈?!」

 

一刀「いきなり危ないじゃないか!」

 

左慈「な、何が一体どうなってんだ…!」

于吉「さぁ。私にもわかりませんが、あの盾が異常なのでしょう。

   それならば動きを止めてしまえば…

 

   『縛』!!」

 

一刀「けろっ。」

 

于吉「ケロッとしてるーーーーーーーーーーー??!!」

左慈「ていうか言ったぞ!もう口でけろっと言ったぞ!!」

于吉「そ、そんなはずは!

   …可怪しいですね。」

左慈「奴は外史のファクターじゃないってのか?」

于吉「だとしても、時間停止の網にかからず、妖術も効かない。

   こんなことは有り得ません。」

 

一刀「あの〜!」

 

左慈・于吉「っ?!」

 

一刀「とりあえず話していい?」

 

左慈「な、なんだ。」

 

一刀「ずっと気になってたんだけどね?

   外史っていっぱいあるわけじゃん。それって全部同時進行してるの?」

 

于吉「いえ、発端がどこで開くかにもよりますね。」

 

一刀「そっか。

   そうすると、他の外史だったら人格が違ってたり、そもそも考え方が変わってたりは?」

 

左慈「あり得んな。

   それをし得るのが貴様だけだ。だから我らは貴様を消しに来たのだ。」

 

一刀「物騒だなぁ。でも助かったよ!ずっと気になってたんだ。」

 

于吉「気になっていた、とは?」

 

一刀「いや、何かを忘れてるような…忘れてないような…みたいな気持ち悪い感じ、かな。」

 

于吉「ふむ…。

   左慈、一度退きましょう。」

 

左慈「そう、だな。」

 

于吉「さて、では北郷一刀に一つ忠告です。

   貴方の行動一つ一つによってこの世界は変わっていきます。行動には十分ご注意を。

   ただ…貴方が一つ間違った程度で外史が壊れるなんてことはありません。」

 

左慈「そんなヤワな世界だったら俺様も苦労していない。自惚れるな。」

 

一刀「…そっか。

   ありがとう。」

 

左慈「ふん、やめろ気色が悪い。」

于吉「それでは、私達はこれで。次に会うときは敵かもしれませんが。」

 

一刀「あははっ、そいつは勘弁。」

 

辺りが光りだすと、二人は姿を消す。

 

胸のつかえが取れ、少しだけ気持ちが楽になっていた。

 

街並みも時間を取り戻し、何事もなかったように動き出す。

 

于吉「左慈、『あの』北郷一刀に手を出すのは止めておきましょう。」

 

左慈「…あぁ。」

 

于吉「これでは、どちらが蝶かわかりませんね。」

 

 

 

 

 

 ☆拠点Part 流琉

 

 

流琉「はぁ〜…。」

 

玉座の間。

 

そこでは、軍議が執り行われていた。

 

華琳「…ふむ。では、一刀の警邏隊の再編案に関してはどう?」

 

秋蘭「はっ、かなりの効果を得られているようです。

   正規軍の方にも質のいい新兵が編入されてくる為、こちらも助かっております。」

 

流琉「はぁ〜…。」

 

華琳「…。

   続いて何か報告したことはある?

 

   よろしい。それでは本日の軍議はこれまでとする!」

 

「「はっ!!」」

 

華琳「一刀、ご褒美に今晩閨に来ても良いわよ?」

桂花「そんn」流琉「そんなのダメです!!」

 

一刀「へ?」

春蘭「ぬ?」

 

流琉「あっ!ご、ごめんなさい…!///」

 

華琳「秋蘭。」

 

秋蘭「はっ」

 

華琳「流琉の様子を見てやりなさい。

   あんなにため息ばかり吐かれたら仕事に差し支えるわ。」

 

流琉「あ、あう…。」

 

秋蘭「…御意。」

 

 

 

 流琉の部屋

 

気まずい空気が流れ、お叱りを受けるのではと俯き項垂れる流琉。

 

どれくらいそうしていただろうか。秋蘭が口を開いた。

 

秋蘭「…流琉。」

 

流琉「は、はい…!」

 

秋蘭「北郷か?」

 

流琉「えっ!?な、どうしてっ!!」

 

思いがけず悩みのタネを言い当てられ狼狽する。

 

秋蘭「ふふっ、やはりか。」

 

流琉「どうしてわかったんですか?!」

 

秋蘭「いやなに、ため息をついては奴を見て顔を赤くしていれば誰でも気がつくだろうよ。」

 

流琉「あう…///」

 

秋蘭「あそこまで思いつめて、何かあったのか?」

 

流琉「それが…。

 

   私じゃ子供過ぎて、相手にしてもらえないのかなって。」

 

秋蘭「ふむ…。」

 

流琉「この間の軍事演習の時、兄様からご褒美をもらえるって言うから頑張ったのに…。」

 

秋蘭「何もなかったのか?」

 

流琉「い、いえ!頭は…撫でてもらいましたけど…///

   でも、私は妹にしか見られてないのかなって…。」

 

皆はそれぞれご褒美を貰ったと、とても嬉しそうに話していた。

 

私は高価な物なんか要らないけど、ただ兄様に振り向いて欲しかった。

 

私の気持ちをほんの少しでも受け止めて欲しかった。

 

秋蘭「…。」

 

そこでふと、秋蘭は北郷に相談されていたことを思い出す。

演習の後、流琉は何が好きなのか、何がほしいのかを尋ねられたことがあった。

 

秋蘭「ふふっ。」

 

流琉「わ、笑うなんてひどいです…。」

 

秋蘭「いやすまんすまん。

 

   では流琉、これから北郷の部屋へ行ってみるといい。」

 

流琉「に、兄様の部屋にですか?」

 

秋蘭「あぁ、きっと流琉を待っていると思うぞ。」

 

 

 

 一刀の部屋

 

コンコン

一刀「は〜い!空いてるからどうぞー!」

 

流琉「し、失礼します!」

 

一刀「お、流琉?」

 

流琉「に、兄様、あの!」

一刀「ちょうど良かった!」

流琉「へ?」

 

一刀「流琉に渡したい物があってね!ちょっと待ってて!」

 

そう言うと、棚の中から紙袋を出してきた。

 

一刀「はい、この間も演習で頑張ってくれたし、いつもお世話になってるからね。

   これはそのご褒美。」

 

流琉「え、兄様、これは?」

 

一刀「エプロンって言ってね。俺の世界では料理をするときにこれを着けるんだよ。」

 

流琉「兄様…。」

 

一刀「いつもありがとう、流琉。」

 

いつものように頭を撫で、微笑みかける。

 

流琉「兄様、わたし…。」

 

今は子供に見られていても良い。

届かなくたって良い。

 

一刀「ん?」

 

それでも、みんなに負けたくない!

 

流琉「大好きです、兄様。」

 

一刀「…。」

 

この気持ちは届かないだろう。

とても悲しいけど、とても胸が苦しいけど、私の気持ちだけは知っていて欲しかった。

 

一刀「ありがとう。」

 

流琉「兄様…。」

 

気がつくと、私は兄様の腕の中に居た。

 

流琉「え…?」

 

一刀「俺だって流琉のことが大好きだ。」

 

それは妹としてなのか。それとも…

 

でも、今はそれでも満足だった。

 

流琉「兄様。」

 

兄様をギュッと抱きしめる。

 

絶対に離してほしくないと、知ってもらいたくて。

 

 

 

 

 

今回もお付き合いいただき有り難うございます。

 

作品の都合上、進み方が駆け足ですが理由はきちんとあります。

まだまだ謎なところは明かされませんが。

 

次回は反董卓連合が勃発です。

感想などお待ちしておりますので、お気軽に頂ければと思います。

 

 

最後に一句

『普通にね なんでもこなす 普通にね

   それが味だと 言うに耳だこ』

説明
※この物語は特にどの√が本筋というわけではありません。
※筆者は三国志好きのため、姫武将以外もオリジナルで登場します。
※今回は拠点Partのみになります。
※この第一章はさくさく進んでさくっと終わります。
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コメント
白蓮は自分の領地を一人で治めるっていう荒業をやってる時点で普通ではないと思うんよ(J)
アルヤ様 そうですよね!秋蘭も星も文武いけるけど、ここまで普通に出来ないですから!(alcapon)
アルヤ様 毎度どうもです(alcapon)
ほかのみんなは文武どちらかしかできないけど白蓮さんは両方普通にいけるじゃん!それを誇りに思うんだ!(アルヤ)
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