一カ月前

劉弁「桜！無事か？」

扉が急に開かれ、誰が入ってきたのか確かめると、そこには血まみれの兄上がいたのだ

桜「兄上！どうしたのだその血は！」

月「劉弁様！大丈夫ですか？」

劉弁「董卓もいたか。我のことは良い！それよりも聞くんだ！

張譲が生きている！そして、あの書もまだ…」

グサッ

劉弁「ガフッ…クッ、張…譲…」

会話はそこで途切れる。兄上は喋らなくなった。

見てみると兄上の心臓に槍が刺さっていた

月「い、いやーーーーーーー！！」

桜「兄上！兄上！しっかりしてください！兄上！！」

「まったく、愚かな男だ。ちょこまかと鬱陶しい。

だがこれで、そのわずらわしさも解消されるでしょう」

桜「お主は！張譲！！お前が兄上を！」

張譲「ええ。殺しましたが。それが何か？

無能な癖に、いっぱしに頭は切れるから、目障りだったんですよ。

そして、私の下まで辿り着いてしまった。殺すしかありますまい」

桜「この下衆が！」

張譲「ええ。私は下衆ですね。しかし貴女はそんな下衆にすら勝てないんですよ。

…お前たち、劉協と董卓を捕えろ。殺すなよ。まだ利用価値はある」

現在

桜「といった風に、我と董卓は捕まってしまったのだ」

なるほどな。劉弁殺害も張譲の、しかも劉協の目の前で殺されたのか。

しかし、劉弁はいったい何を見たんだ。消されるほどの物となるといったい。

今回の戦争に関係あるものか

零士「劉弁は、君たちに書がどうのこうの言ってたんだよね？

その書ってのはなんだい？」

桜「わからん。ただ、兄上があのように焦っていたとなると、なにかよくない書のなのだろう」

良くない書ねぇ。………まさかな。あれは燃えたはずだ。

だが仮に、もしあるとしたら…

零士も同じ考えにいきついたのか、冷や汗を流している

そんな馬鹿な

咲夜「なぁ、零士。まさかとは思うが…」

零士「あまり考えたくはないが、それならこの戦争の意味が見えてくる。

見ての通り、街は負の感情でいっぱいだった。そして戦場は、あらゆる感情で溢れている。

もしあるとしたら、かなりの負の力を蓄えられる」

詠「いったい何の話？」

詠は私たちに訪ねてくる。確証はない。

だが妙な確信はあった。あまりあって欲しくない確信が

咲夜「なぁ、太平要術の書って知ってるか？」

そして私は、太平要術の書について話し始める。

その力、特性、黄巾の乱の元凶、そして焼き払ったと思っていたこと。

私が知りうる全てを話した。その話を聞いた者は、各々考え込んでいた。

確かに、信じられる話じゃない

詠「その話が本当なら、張譲は最初から、その本の強化が目的？」

咲夜「恐らくな。それならあの情報操作や、この連合の結成にも納得がいく」

桜「兄上は、その書の所在を知ってしまったが故に、殺されて…」

李儒「……段珪は、何か知っているのでしょうか？」

咲夜「わからないな。だがすぐ殺すのは、やめたほうがよさそうだ」

無意味な気はしている。段珪は恐らく何も知らないだろう。

もし知っていたら、張譲と共に戦争勃発の前に行方をくらませるはずだ。

それがなかったと言うことは、ただ欲に走っただけにしか見えない

零士「月ちゃん、劉協ちゃん、とりあえずこれを食べておくんだ。特製卵粥だ」

そういって零士は、二人分の卵粥を持ってくる。

奥でこそこそしてるとは思っていたが、いつの間に作っていたんだ

月「あ、ありがとうございます」

桜「何から何まですまないな」

零士「気にする必要はないよ。さて、それを食べたら段珪のとこに行くか」

咲夜「だな。生きていることを後悔させてやる」

月と桜が食事を取った後、私と零士、月と桜は王の間に向かう。

詠と李儒さんは、董卓軍の面々に救出成功を報告しに行った

咲夜「ここだな」

しばらくして、豪華な装飾の扉の前に辿り着く。

ここまで来るのに苦労はなかった。警備が誰一人としていなかったからだ。

違和感を感じていたが、その答えはすぐにわかった

零士「この中にいるね。身辺警護に回したか」

気配で感じる。この中には少なくとも百はいる

桜「大丈夫なのか？」

桜が心配そうに尋ねてきた。見ると月も不安気だった。

それを見た私と零士は、微笑み

咲夜・零士「余裕！」

そう答えてあげた

零士「乗り込む。みんな下がっているんだ」

零士は気を凝縮した拳を構える。それを見た私は庇うように月と桜の前に立ち、そして

ガァァンッ

思いっきり扉を吹き飛ばした。中にいた奴らは驚き、騒ついていた

「なんじゃ貴様！」

小太りの、ハゲ散らかった男が声をあげる。

あれが段珪か？小物臭が半端ないな

桜「段珪！よくも我と董卓を閉じ込めてくれたな！万死に値するぞ！」

段珪「劉協に董卓！？何故ここに！」

咲夜「私たちが助けたに決まっている。諦めるんだな」

段珪「諦める？たかが二人で何ができると言うのじゃ？

こっちには精鋭百人はおるんじゃぞ？」

零士「ククッ、聞いたか咲夜。百人だってさ」

咲夜「あぁ。クッ、笑えてくるな」

私と零士は挑発するかの様に笑ってみせる。

それに対し段珪は顔を赤くして激昂していた

段珪「なにがおかしいのじゃ！」

咲夜「ハッ。なら逆に聞くが、たった百人で私らとやろうってか？この豚野郎！」

段珪「ぐぬぬ…お前ら！あの賊共を生かしておくな！殺せ！」

武器を持った男共が一斉にかかって来る。

それに対し零士は刀を、私はナイフを抜いて待ち構えた

咲夜「ハァァァ！!」

零士「………ッ！！」

私と零士は一気に走り抜けた

後ろには

先ほどまで襲いかかってきた男共の屍で満ちていた

段珪「……は？」

段珪は何が起きたかわかってない様子だった。

馬鹿みたいに間抜けな顔をしている

桜「董卓、なにが起こったのだ？」

月「わ、私にも…」

どうやら後ろ二人にも、理解出来ていなかったみたいだな

段珪「貴様ら、何をしたのじゃ！」

零士「何って、すれ違いざまに一人一太刀ずつ入れただけだけど？」

段珪「そ、そんな馬鹿な話…」

咲夜「だから言っただろう。百人で何ができるって。

私たちと一戦交えたきゃ、一万は引っ張ってこい」

ちょっと本気を出せばこんなものだ。百くらいなら、瞬殺ってやつだな

段珪「た、頼む！命だけは！」

でたよ、命乞い。さすが小物だな。手のひら返すのが早い早い

零士「ふむ、とりあえず質問に答えろ。そしたら考えてやろう」

段珪「な、なんじゃ？なんでも答える！」

零士「そうだな。太平要術の書は知っているか？」

段珪「いや、聞いた覚えはない」

零士「………なら、張譲の目的は？」

段珪「それも知らん。あやつ、突然行方をくらましたからな」

零士「…本当に、何も知らないのか？」

段珪「うむ。弾圧のあった日、たまたま張譲と一緒におって、運良く難を逃れた。

その後しばらくして、張譲が劉協、董卓を拉致すれば好き放題できると言われてな。

そしたらこの戦じゃ。わしですら、何が起きているかわかっとらん」

あ、零士が呆れている。予想通りとはいえ、こうも何も知らないじゃさすがにな

零士「はぁ……お前の目的はなんだ？」

段珪「酒池肉林じゃギャアァァァ！」

あ、とうとう切り伏せてしまった。相当イラっとしたんだろうな

桜「我はこのような小物に…」

桜も少し落ち込んでいた。当然だろう。あんな奴に出し抜かれるなんて

零士「全ての元凶は張譲だ。元を絶つにはそいつを見つけないといけない」

咲夜「はぁ。とりあえずは、一つ解決だな。さて、もう一つをどうするか」

どうやってこの戦争を終わらせるかな

零士「あぁ、それならなんとかなりそうだよ。

詠ちゃん曰く、連合側で董卓の顔を知る人はいないはずらしい」

咲夜「そうなのか？なら……あぁ、その豚を董卓にしたてあげよう」

月「あ、あの、何のお話ですか？」

咲夜「あぁ、そう言えばまだ話していなかったな。

この戦争をどう終わらせるかなんだが、詠や李儒さんにも意見が聞きたい。

先にあいつらと合流しよう」

そして私たちは、死体置き場となった王の間を後にした