超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 ルウィー編 |
心の底から渇望が沸いてくる。眼前の敵を虐殺せよと魂が叫んでいる。
翼を広げて、一気に距離を詰めた。頭上目掛けてモーニングスターが振り下ろされるが、舞うように回転してそれを避けて、装甲が薄いだろう関節部分にすれ違い様に銃剣の黒曜日で切り裂き落とす。オイルが鮮血の様に吹きだす。
「我が爪牙はーーー殺戮に踊る」
ノーリアクションでロボットはプログラムに従ってもう片方に握っていたアックスで殴る様に振り下ろそうとしているが、既に双銃剣を振り下ろしている故にその刃は届くことは無い。
「クリムゾン・バレットォォ!!」
神速の五連撃、そして止めの射撃にキラーマシンは原型を留めることなく爆砕する。血を連想させる紅い炎から片手がないハードブレイカーがスラスターを吹かしながらビームブレイドを突き刺してくるが、ガンモードにしている黒曜日で腕を蜂の巣にする。今度は肩の主砲を空けるが、撃つ。綺麗な爆発は咲く。頭上に下半身だけのキラーマシンが空を舞って落ちた。振り向くと空が、キラーマシンの頭部に空は黄金の剣を突き刺していた。
「紅夜、落ち着け!キャラ崩壊どころの騒ぎじゃないよ!もはや別人だよ!」
「うるさい、黙れ」
溢れてくる。溢れてくる。無尽蔵に力が溢れてくる。
ハードブレイカーが主砲を放ってきた。翼を大きく広げて防御する。びくともしない。
「無機物が、スクラップしてやるから、壊れろよ」
主砲のエネルギーが尽きたのか終わる。そういえばあれほど煩く降ってきたミサイルが落ちてこない在庫切れって奴か。つまらない、そもそも空の奴がロボットのほとんどを損傷させているから、弱体化している奴を一方的に倒しても、快楽が得られない。翼を槍状にしてハードブレイカーの胸を貫き、腕状にして中身を抉り出して潰す。
「だ!か!ら!正気に戻れ、このバカ!!って…うわぁ!?」
「……うるさいなー」
ギャーギャー騒ぐ空にアカポリプス・ブラストを放つ。避けたが、その衝撃にあの空は地面に体を叩きつけたていた。周囲のキラーマシン、ハードブレイカー共が一斉に襲い掛かってくる。
「雑魚がいくら束ねても、所詮雑魚なのは変わりねぇんだよ。失せろ屑どもーーーブラッディ・クロス」
双銃剣を逆十字架に構える翼を宿して、血色に染まった紅刃を振るった。
紅い巨大な十字を描いた斬撃は、キラーマシンとハードブレイカーを?み込み消滅させた。
両手には、禍々しい双銃剣が握られている。気分はこれ以上にない最高だ。頭に『誰か』の記憶や意識が波のように襲ってくる。
苦しい。渇く。欲しい。何を?
「っ〜、デペアちゃんと抑えろ!!覚醒したら大体無双になるのが鉄則だけどさぁ!これじゃ前回と同じ暴走と言っても過言じゃないよ!」
『うるさい!こっちは女神に対しての殺意を抑えるので精一杯なんだよ!!この朴念仁!鈍感!ヘタレ!正気に戻れ!お前の自我が他人の意思に浸食されているぞ!!紅夜の軟弱者!』
「…………紅夜?誰だ、そいつは」
「『はぁ!?』」
俺の名前はーー、僕の名前はーー、私の名前はーーー何だっけ?俺は誰だっけ?
「うっ……あぁ、あああぁ…!!」
突然、頭が痛い。壊れる。壊れてしまう。二つの黒曜日が手から滑り落ちた。
空とデペアが何か叫んでいるが、それを声として理解できない。
知らない人の記憶が入ってくる。知らない誰かが喋っている。怨嗟が奏でられる。壊せと狂わせと、汚濁にまみれた歌を唄う。吐き気がする。気持ち悪い。耳を防いでもダメだ。歌っているのは頭の中だ。蛆虫が蠢く様に意識が、意志が闇にーーー
「えぇ〜と……あった!」
目の前に黄金髪が特徴的な誰かが目の前に現れる。首に何かを掛けると一気に力が抜ける。同時に感じる浮遊感と重力を感じられたが、それは一瞬で直ぐに温かい手が俺を包んだ。
「……空?」
「素質と才能はあっても、精神面が史上最悪レベルだ!あーもうーー!男をお姫様だっことか全く嬉しなくないよ!例え紅夜でも!」
『誰も得しない絵だね』
トンッと地面に着陸して、乱暴に投げられる。冷たい地面を顔から突っ込んだ。
起き上がろうと力を入れようとしたが力が入らない。いつの間にか変身が解除されていた。フードを掴んで持ち上げられて無理やり起こらされた。俺の頬に手を当てて、怒っているような心配しているような複雑な表情の空が視界に映る。
「僕が質問することに答えて、君の名前は?」
「え?…零崎 紅夜…だ」
「趣味は?」
「ゲームと読書」
「好きな女性のタイプは?」
「えっと物静かな……って、何を言わせようとしているんだ!」
空を両手で吹き飛ばす。地面に突き刺さっていた銃剣となったた黒曜日が普段の剣に、その近くにはイォマグヌットとアフーム=ザーが落ちていた。
「危なかった。もう少しで、負の思念に従うだけの殺戮兵器になっていた」
安堵するように胸に手を当てて息を吐く空。どうして安心するんだ?俺はーーーあれ?キラーマシンとハードブレイカーと戦った記憶は確かにあるのにどうやって倒したのか曖昧だ。まるで、その時は意識がなかったように。
『ブラッディハード……なんて厄介な置き土産を残したんだキャプテンは』
「あいつは、((邪神皇|アザトース))と肩を並べる全世界を探しても指で数える程しかいない実力者に入るからね。生み出す者も規則外だ。本来のブラッディハードの成り方より圧倒的に純粋で、((奴|・))に近い形だ」
『っていうか、なにあれ!?なった瞬間、女神に対して自動的に殺意が溢れてくるから、これは不味いと止めたんだけど、僕がいなかったら今頃白っ娘と紫っ娘の首が飛んでいたよ!?』
「女神の力を反転させた所為だろうね。盗ん……採取した女神メモリーをじっくり負に溶かした冥神メモリーというアイテムから転生させるものなんだけど、近く死んでしまった人の生への渇望が『負』に繋がってしまい。多少強引でも光に縋ろうとした結果なんだと思う。餓えた獣が血眼で獲物を追い求めるように」
『流石に疲れたよ』
「安心して、あのブラッディハードは不完全で不安定だ。これからもっと疲れるよ」
『どこに安心する要素があるのかワカラナイ……』
空とデペアが身の凍る内容を話していた。
なった瞬間から理解したーーーあれは、女神の対極なる神だ。思考が常に悪魔の囁きを受けている様に迷走しいる感覚。俺は自我を失っていた。『負』の意思に抗うことが出来ないまま、戦っていたーー空とデペアの会話と不可視な記憶欠落から想像できた。
「紅夜、首に掛けたそのペンダントは『負』の配給を抑える物だよ。ブラッディハード状態だとちょっと弱体化してしまうけど、ある程度は意識が保てるはずの代物だから、どんな時でも決して外さないでね。……絶対にだからね。あと無茶したら先ほどと同じようになる」
「……あ、ああ」
無知の俺でも豪華だと思う濃い青色の宝石に複雑な術式が描かれているペンダントを見つめて、空を見つめた。体に刺さっていたロボットの欠片を抜いていた、抜くたびに地面に血飛沫が落ちていくのが痛々しいが、異常なほどの回復スピードだった。左肩から左顔は焼かれたように真っ黒だったのに、既に回復しているし、貫通するほどの大きく鋭い欠片を抜いた傷は既に塞がっている。
「……すまん」
「何を謝るの?」
「俺は……お前を攻撃した」
なんで攻撃したのか動機が思い出せないが、確かに空に向けて容赦なくアカポリプス・ブラストを放った。それは、はっきりと覚えている。空はため息をして頭を掻いた。
「気にしなくてもいいよ。僕の知っている紅夜とならよく喧嘩をしていたから、むしろこの程度軽傷にはいるくらいだね」
「お前、人なら絶対に死んでいる傷を負っているのにそれが軽傷扱いかよ。ってかその喧嘩ってどれだけ凄いんだ」
「そうだなぁ……高山地帯が平野になるくらい、お互いに気に入らないことがあったら最高三か月くらいずっと殴り合うとかしてたよ」
「俺の常識じゃ理解できない喧嘩だな。それ……」
また一つ、空のチートを知った瞬間だった。
初めて((冥獄神化|ブラッディハード))をした所為か、体が頗る重い。ネプテューヌが女神化を継続すると疲れるとか言っていた気がするが、確かにこれは疲れる。
空はよっと軽々と立ち上がり、周囲を見渡した。それに続いて俺も周囲を見るが、酷い有様だ。所々に機能を停止させたキラーマシンやハードブレイカーがゴミのように散らばって、地面はミサイルやレーザー等によってクレーターばかりだ。本教会もかなりダメージを受けており、半分廃墟と言ってもいい。一機が侵入していたのか、外からロボットの部品らしきものを外に放り投げている人の姿が見えた。終った事を確認したのか、こちらにネプテューヌ達が走ってきている。空は、近くに倒れている両手と下半身が切り離されているキラーマシンに触れて、注意深く調べていた。
「空、どうかしたのか?」
「ん、自爆機能が仕掛けられている。あと三十秒で教会どころか山が消し飛ぶね」
「……へぇ?」
思考が一瞬真っ白になった。そして再起動。
「じ、自爆!?」
「ラステイションで君たちが戦った時だって、危うく自爆しそうになったじゃん」
確かにそれはどうだったが、なんでお前はそう冷静なんだ!?あれか?死なない自信があるからか!?
「仕方ない。ちょっと素になろうか」
そう言って屈伸したり準備運動を始める空。
そして、到着するネプテューヌ達。
「お前ら逃げろ!ってか、ああ!!デペア!」
『破壊神の言っていることガチっぽい。あと、鎧を顕現できるほどの魔力をチャージ中なので無理』
「どうしたのよ。まるで目の前に自爆直前の爆弾を見た焦りようよ」
「アイエフの言うとおり、ハードブレイカーとキラーマシンに自爆機能があるんだ!とにかくお前ら逃げろ!!」
「いやー、こぅちゃん。覚醒して、完全勝利!みたいな空気の中で、それをぶち壊す様なイベントが……確か、ラステイションでもあれと同じものが自爆しそうになっていたよね…」
ラステイションのことを思い出したのか、目を合わせたネプテューヌとアイエフの顔色が一気に青くなる。ホワイトハート様は、驚愕に顔を染める。周囲を見渡すと死んだはずだと思っていたハードブレイカーとキラーマシンのアイカメラがまるでカウントダウンを刻むように不気味に点滅を繰り返していた。
「黒閃!あと、どのくらいで自爆するんだ!教えろ!!」
肩を掴んで激しくシェイクしてきた。
「あと、三十秒と、ちょっと、らしい」
「そんな、教会にはまだロムとラムが……」
手を離して、ホワイトハート様の顔が絶望に染まっていく。膝が地面に付く。そして妹の名前が口から呟かれ始めた。
「私達に何かできることは無いの!?」
『いや、破壊神が破壊するから問題ないよ』
デペアの発言に離れて体を伸ばしている空に視線が映る。
確かにあいつは、自然を操り全てを破壊する力があるが、爆発して減った奴を除いても結構な数がいるんだぞ!そうしている間にロボット達に赤い線が伸びている。あ、終わったと思った時、腰と並行になるように腕を構えた空が一言呟いた。
《((旧神化|デウス・エクス・マキナ))》っと。
◇
紅夜達に言ったかもしれないが、僕の破壊の力は強力すぎてこの世界を無自覚に壊してしまう。
指で数えれるなら程度の数なら、自己空間に放り込めばいいのだが、流石に数が多すぎる。
だから、世界に掛ける負担を少しでも減らす為に刹那の時、全てのリミッターを解除して、ハードブレイカーとキラーマシンの((存在そのものを破壊した|・・・・・・・・・・・))。そしてリミッターを直ぐに掛ける。
消えたキラーマシンとハードブレイカーに目を白黒する紅夜たち。
そして倒れる僕。例で言うならば、10キロで走行している車をいきなり200キロまで加速して、また10キロに無理やり戻すって作業をした。勿論、そんなことをしてしまえばエンジンが絶対に壊れる。だから、それと同じこと様な事をした僕はぶっ倒れた。体の一部が壊れてゲホッと吐血した。
『……一応、令を言っておくよ。破壊神』
一応ってなんだよ。全く、相変わらず可愛くない奴。
デペアが先ほどの事情について、紅夜達に説明すると倒れている僕に近づいてきた。
「今の僕はゴフッ、なにをしても無抵抗だよ。どうぞ焼くなり煮るなり自由にしていいよ」
「テメェには返さないといけねェデカい借りがある」
ホワイトハートが拳を握る。それに反応した紅夜達をそれを止めようとするが、直ぐに手を離した。
「……でも、目やら耳やら口から血を吐きながら喋る奴をぶん殴るほど、私は落ちぶれちゃいねぇ」
……絶好のチャンスなのに、惜しいことをする奴。ネプテューヌとアイエフが顔を合わせて頷くと、ネプテューヌが女神化して、僕を起こして腕を首に纏わせて立ち上がり僕の状態に気を遣いながら歩き出した。
「あんなに私達を手ごまにしたあなたがそんなになるなんて、よっぽど無茶したのね」
「力を持つ者として、出来る範囲のことゴフッ」
「…あなた、もう喋らなくていいわよ。直ぐにコンパの所に連れて行くわ」
アイエフから発言禁止を言い渡された。紅夜は歩くのすら辛そうな顔をしながら苦笑している。ホワイトハートは舌打ちをして僕を視界に入れないように顔を逸らす。
教会の壁に背中を預けている負傷者に包帯を巻いているコンパが、こちらを見て手を振るう。それに返すネプテューヌ達。ここにハードブレイカーやキラーマシンを転移させたであろう諸悪の敵、ナイアーラトホテップはどこかでこの戦闘を見ているだろうが、あいつは自身の手で動くことを嫌う。ほとんど他人を陥れて木偶人形のように操って混沌を造りそれを見て楽しむ輩だ。だから、あいつ自身が来ることは無い。だから……これで一先ずは、終わりかな?
「ホワイトハート様!!」
「どうしたの、血相を変えて」
「その…それが…」
「…この人達は気にしなくていい、それでどうしたの?」
「西沢教祖が女神候補生達を庇って……!」
前後撤回、まだしないといけないことがあった。
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