超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 ルウィー編 |
ホワイトハート様は、教会関係者の言葉に顔面を真っ青にて、半分廃墟となっている教会の中に走り込んだ。
西沢教祖ーーー操られたロムちゃんとラムちゃんを運んだ時に一番心配をしていた表情をしていた人だ。
「パープルハート、ホワイトハートの元に連れて行って」
「何をする気?あなた、自分の体の状態を分かっているの」
耳や口や目から壊れた様に血を吐きながら、あの空は自分の足じゃ立つことすら困難なほどのダメージを負っている。空がしたことは英雄と称えられるほどの行動だ。対女神システムを積んだキラーマシンとハードブレイカーの群に真っ先に突っ込んで、その多くを沈めて、自分の身を犠牲にして自爆を阻止したんだ。
「お前のしたことは十分だろう。だから、休めよ」
「連れて行って」
女神化状態のネプテューヌ、アイエフ、コンパと顔を合わせた。空は一切退く気がない。俺達が、拒否すれば同じくらいの数を頼みこんでくるそう思わせるボロボロであったが、空の瞳には訴えを感じられた。
「まともに立てない貴方が言ってどうなるのよ。いくら貴方でも……」
「そうです。まずは横になることか始めるべきです!空さん、壊れた様にボロボロです!」
現在進行形で、腕を首に回してネプテューヌに持ち上げてもらっている空の流血は止まる様子を見せない。無言で俺達は首を振った。流石に連れて行くことは無い。
『ーーー旧神の鍵・儀典を使うんだね』
「うん」
デペアの儚げな声に空は即答した。
「旧神の鍵・儀典……って確か、紅夜の暴走を止める時に使っていたアイテムよね。それで何をするのよ」
「見てからのお楽しみって奴だよ。早く」
『僕からもお願い、連れて行ってやって』
デペアが空に加担した事に驚いた。デペアは空を一方的に嫌っている。そのレベルは生理的で、憎んでいると言ってもいいレベルだ。
「……それは、みんなの為になることなの?」
ネプテューヌの質問に喋る事も辛そうに空は頷いた。
俺は、空のもう片方の腕を首に回して持ち上げる。ブラッディハードの使用は精神に負担が多かったが、肉体的には酷くなかったのでこれぐらいは出来た。これぐらいしか出来ない。アイエフもコンパも後ろから空を気にしながら付いてきている。ゆっくり、空の傷が開かないように注意をしながら、俺達は本教会の中に歩き出した。
「…酷いわね」
「…はいです」
ハードブレイカーが一機、侵入して大暴れしたのか床やら屋上は真っ黒に焦げていた。そしてその壁には怪我を負った人が苦しいと嘆いていた。巻かれた包帯はコンパがしたんだろう。しかし、一目で分かるほど既に手遅れた人が複数見られた。
歯を食い縛りながら、周囲を見ると飾っていたであろう絵も、豪華な絨毯も一欠けらも存在しない。教会の人にホワイトハートの居場所を聞きながら、俺達は奥に進むと子供の泣き声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。
「くそっ…私が今よりもっと強かったら……!早く駆けつけることが出来たら…!」
懺悔しているホワイトハート様。歩くその先には、胸に風穴があいた西沢教祖が、瞳に光をなくした状態で倒れていた。その地面には血がぶちまけられていた。近くには護衛をしていた腕が落ちていた。ネプテューヌ達は目を逸らした。俺も見てられなかった。擦り傷などは見えるもののロムちゃんとラムちゃんには大きな怪我はなかった。
「ホワイトハート様……」
俺の声にびくっと肩を揺らしてこちらを見た。その瞳からは涙が流れていた。
「……笑えよ」
痛々しい懺悔の声が耳に届いた。
「女神なのに、私は何も出来なかった。むしろお前達がこの国を救った英雄だ。私は……血の繋がった双子でさえ、守ってもらった」
「おねえちゃん……!、おねえちゃん…!」
「みなおねえちゃんが、みなおねえちゃんが……!!」
ホワイトハート様の胸の中で小さな双子の女神候補生が泣いている。
俺達がしたことは、結局のところ、壊しただけだった。キラーマシンとハードブレイカーに今まで培ってきた戦闘技術をぶつけただけ、悲しみを苦しみを塞ぐ絆創膏にはなれない。
さきほど俺が手に入れた力も、その本質はただ他人の絶望を他人に押し付けて絶望させて、それを伝染させていくことで自分の力を増幅させていく狂気の存在の力。人の心に孕んでいる恐怖を表に出させて混乱を愉悦として喜ぶ異常者だ。
「ネプテューヌ、こんな私をどう思う?女神だとか、御大層な名前があるけどさ……私がしたことって、部屋に閉じこもっていただけ、なんで、どうして、ミナが……!」
苦しみは後悔へと変わり、溢れ出る懺悔は涙と共に落ちることは無く、ホワイトハート様を傷付ける。
俺達は何も出来なかった。そもそも、空が動かなければ、いてくれなければ、教会への奇襲すら気づくことに遅れていた。駆けつけれたとしても、あの数のキラーマシンとハードブレイカーを全て倒すことは絶対に不可能だった。
「……ピーピー泣いているんじゃないよ。子供じゃあるまいし、女神でしょ」
「空…」
「大丈夫、一応立てるくらいは回復した」
黄金の髪が手から落ちていく。千鳥足で西沢教祖の屍に近づいて、崩れるように倒れ込む。
「……空、その人はーーー死んでいるわよ。いくら貴方が破壊神だとしても」
「君の常識で僕が量れるほど、僕って小さいかな?だとしたら心外すぎて死んじゃうよ」
薄らと空は笑って振り向いた。そして、ホワイトハート様が抱き締めているロムちゃんとラムちゃんの肩に触れた。びくっと涙で濡れた顔でロムちゃんとラムちゃんは空の方に向いた。
「ロムちゃんラムちゃん、大丈夫だよ。これは夢の中だから」
「…おねえちゃん、だれ?」
「僕は君たちをこの悪夢から助けるために来た天使ちゃんさ」
「あくむ…?ゆめのなか…?」
「うんうん、だから力を抜いて瞳を閉じて、目覚めたら温かい場所で君たちの大切な人が優しく抱きつめてくれるよ」
まるで、魔法でも掛けているようにロムちゃんとラムちゃんは瞳を閉じて寝息を立て始めた。泣きつかれたこともあるだろうが、空の声には決して抗えない言霊のような力が合った。それを一身に浴びたロムちゃんとラムちゃんは、意識を無くすように深い眠りを始めた。そしてホワイトハート様は、空を睨みつけた。
「……テメェはなにをしようとしているんだ」
「さっきまで起きたことをーーー全て夢にする」
空は立ち上がる。左手に刻まれた旧神の証エルダーサインが光っていた。
『……君ってやっぱり子供好きだね』
「ーーーはっ」
立ち上がって、空は鼻で笑う。
血で濡れた白いコートに魔法術式が浮かび上がって、血が浄化される。穢れを無くした空のコートは世界から孤立した白の色。
そして腰まで伸びる黄金色の髪をそっと優しく撫でて、左手に拳を作ると突如として空の目の前に石板が姿を現した。
それには、箇条書きで記憶が書かれているようで、思わず畏怖の念を抱くほどの美しい文字のような絵が描かれていた。その大きさは空の上半身で、すっぽりと納めれるほどの大きさで、それに空は触るとガラスが砕け散ったようにバラバラになる。光を反射しながら、粒子のように変換された石板の欠片が舞うその光景は、言葉では表現できないほどの神秘と幻想の存在だ。人に理解できない光の深淵だ。
「もし、目の前の立ち上がれない子供がいて、それに手を伸ばす。そして、立ち上がった子供がいつか大人に成長して、同じような状況に向かい合った時、同じように子供に手を伸ばせるようにするために、僕は子供の心を助けようとしているんだよ。大人の仕事は子供を守ることでしょ?神様が人を救うようにね」
当たり前のことを、当たり前と言うのにはっきりと空の意思全てが。それに集約されていた。
欠片は繋がる。光の波動が巻き起こり、空の手がまるで孕んだように光が集まって、再構築される。
その衝撃に、両手でそれを防ぐ。否、それは防御反応だ。アレに見て触れれば、俺という魂魄は一瞬で消滅させられるという理屈がない確信があったからだ。光を連想させる色は白。そして白の極限は無となる。故にあれに魅入られてしまえば、存在は白くなって誰にも触れらず感じない虚無となってしまう。そんな恐るべき光が形を成した。空の意思は光の極致、虚無を無理やり世界に具現化させた。
「幻想にねじ曲がれ、世界よ」
まるで、眠る我が子に子守唄を歌う様な安らかな声と共に全ては、白い闇に?まれた。
◇
ナイアーラトホテップは唖然とした。
ご都合主義展開をを意のままできる邪神の一派を封印した忌々しい鍵。森羅万象の欠片。旧神の鍵・儀典が使われたからだ。しかも、強制的に。
夜天 空が所持させらている旧神の鍵・儀典は、彼の行動に大きく制約を付加するための強固な首輪。そして使える条件は基本、邪神関連のみしか使えなかった。それを彼の想像を絶する意思の強さによって無理やり使用する半分、自殺に走るような行いだが、二人の幼き神の為に躊躇なく使ったのだった。
本人は旧神の鍵・儀典をあまり使いたがらない。
当然だ。彼は生きる目的を奪った旧神派の物だからだ。
ただ、人間を殺し尽くすという、邪神からすれば道に生える草を踏みつぶすような感覚で、出来ることを真面目に殺戮を繰り返していた。それが夜天 空の存在理由だったからだ。それを奪ったのは旧神派だ。
話を戻そう。
世界の一片を使って世界を自分の思い通りに変えることが出来る旧神の鍵・儀典を旧神のバックアップ無しで使用する場合、一時的に存在を世界と同化させる必要がある。
その負担は凄まじい。
言うなら、世界の流転を一身に浴びてそれを操作するのだ。人間ならば同化する前に魂魄は砕け散るだろう。この世界の神ならば間違いなく発狂死する。『世界の声』は、この世の全てを飲み込む津波のような物だ。遥か長く続いている世界の輪廻情報が、この世界に生きた全ての生物の声が、そしてこれから続くであろう未来と既に起こった過去が全て刃となって押し入る。感情を持つであれば、一瞬で粉砕する量の情報量を操作するなどを受け止めてその流れを変える。正に広大な砂漠の砂が全て針となってそれに突き刺されながら、自分の向きたい方向に一つ一つ手作業で向けたい向きに変えていく作業だと言ってもいい。
「……イムナール!」
本教会の前に空のその姿は顕現させて、無防備に倒れた。
駆けつけるナイアーラトホテップが空を抱えるが、全く返事がない。まるで死んでいるように肌色は白磁のように白く、美しい髪も瞳も生気が抜けた様に真っ白だった。
暴力的なまでの存在感に不思議と視線を集める魅力を持った彼の姿はいない。枯れ果てた善なる神の隷属だけだ。
「この大馬鹿者!!貴方がそうなってまで、彼女たちを尽くすことにどんな意味がありますか!?レインボーハートの為ですか!?あなたにとっての名付け親と言ってもいい存在の為に貴方は自分の存在を削って、誰にも感謝されず、誰にも理解されず、むしろ貴方は……いつでも虐げられる側だ!」
「…………」
「なぜ、あなたは望まない!?」
いつでも出来た。
苦しいなら、悲しいなら、その一言あればいつでも世界をひっくり返すほどの戦力が夜天 空には合った。邪神も旧神も関係なく、全世界に喧嘩を売って、勝利を手に入れるほどの人材を三人も抱えていたの何も望まず夜天 空がしたことは、愛した我が子を抱えることだった。その欲の浅さが、知能の低い輩がチャンスだと勘違いをさせて事件を引き起こし、空は全てを失ったのだ。絆を、家族も、幸せも。
破壊神と呼ばれ恐れられるのに、好戦的になって周囲を威嚇することをせず未来を浅く考えて、夜天 空はまるで今を必死で生きる……まるで人間のように、今を楽しんでいた。
人間ならばよかったかもしれない。しかし、夜天 空という存在は唯一旧神の素質を持ちながら、邪神の素質を持つ複雑な立場だ。敵も多い。まともに自分の力を使いこなせない不完全で未熟な部分がある夜天 空個人の力はあまりにも脆い。
「…こ…の、…状……態……で、…答え…ろ…と?」
「えぇ、答えてください。じゃないとこの世界に邪教でも振り撒いて邪神を召喚させます」
「……それ…は…困る…な…ぁ……」
ナイアーラトホテップは、それが無駄と分かっていた。
もし、仮に実行しようとも目の前の彼は滅ぼした後、いくらでも旧神の鍵・儀典を使って何度でも復元する決意があることが、先ほどの一連で分かったからだ。
使用すればするほど、自分の存在感を薄めて最終的には還って・・・しまう。
そうなってしまえば、一番お気に入りの玩具が感じることは出来ても、触れられなくなってしまう。
そんなのは絶対に認めない。認めてなるものか。順番は気にしない一番手も、二番手でなくてもいい、ただ話すだけでもいい。
今にでも消えてしまいそうな儚げな姿の夜天 空は微かに目を空けた。
光を映さないハイライトの瞳が、ナイアーラトホテップの顔をガラスのように映す。
「あなたは、レインボーハートを愛していますか」
「…直…球だ…ね…」
「もし、そうであるならばこの世界はあなたの奴隷。好みの演劇が始まるまで、貴方は永遠に見続けることでしょう。例え、骨と皮だけになろうとも朽ち果てて砂となろうとも」
「……否定、も…出来な…いし……肯定…も出…来ない…か、な…?」
「貴方のそういうところ、人間味が感じられて好みですよ」
ヌギル=コーラスの落とし子の気配が近づいてくる。恐らく心配させまいと夜天 空は外に出て姿を晦ますつもりだったが、夜天 空を探す為に外に出ようとしているのだろう。ナイアーラトホテップは静かに夜天 空の額に口づけをして上半身を壁に寄せて、倒れないようにした。
「最初から、私の負けだったのですね」
「…そう、だよ………君…じゃ、何…も出来…ない」
夜天 空は、この世界を維持して好みの始まりを選ぶために存在を削っている。故に害悪を絶対に許さない。
ナイアーラトホテップは、弄って初々しく怒りながら悪友として、絶対に敵意を向けてこない友人を縛る鎖から解き放ちたかった。
空は、最初からナイアーラトホテップを悪友としてではなく邪神としてこの世界から遠ざけようとした。
ナイアーラトホテップは空の過去を知って解放させようと悪に手を染めてしまい空に対して絶対な敵対意識を持つようになってしまった。
空にとっての勝利条件は、ゲイムギョウ界からナイアーラトホテップがいなくなることで、
ナイアーラトホテップにとっての勝利条件は、空の意識をゲイムギョウ界から遠ざけるだった。
ナイアーラトホテップはこの世界を破壊すればいいと思っていたが、命を懸けるほどの大切な物だとは思わなかった。これから幾度もなく手札があるナイアーラトホテップなら、この世界を破滅に追い込むことは余裕で出来るだろう。破滅後に夜天 空は何度でも旧神の鍵・儀典を使ってこの世界に再選択させるだろう。その存在を薄くしていくことを代償に。このまま活動を続ければ、夜天 空の存在は完全に自然に溶けて、ナイアーラトホテップの目的は永遠に達成されない。
「ーーーあなたの心を支配したかった」
「残…念……、僕の、心は、名前…の通り…だよ」
夜天 空。
星無き夜の天空のように、寂しく冷たくどこまでも一人ぼっち。
幾ら綺麗な星が輝こうとも何れ消えていく定め。
暗黒がどこまでも広く壮大に続いていき、始まりがなく終わりもないずっと迷子のまま。
「私は負けました。しかし、貴方も負けます」
「…………?」
「可能性ですよ。貴方の暗黒のような意思とヌギル=コーラスの落とし子の黎明のような意思は対極。彼らは近い未来に絶対にあなたに立ち向かいます」
勝つか負けるか、可能性がそのような形であれ選択は二つだけ。
「世界はいつだって、主人公の味方ですから。私はあなたが負ける方に賭けます」
「……それ……は、残酷な…こと…だ…ね。なら、僕は…僕……が勝つ……方に賭け…るよ……」
空は力が入らない体に必死で獰猛な表情を作った。
ナイアーラトホテップはいつもの様に見る者を見下すような冷笑を作って背を向けた。
「…悪……友、…いつ…か映……画でも…見に…行……く…?」
「いいですね。ふふ、デートですね」
お前には奥さんいるだろうが、空は内心突っ込む。あと、今は男性体だ。
ナイアーラトホテップは新しいおもちゃを得た様に鼻歌交じりに歌った。
この世を憎み怨みながら、雪が降る空に向かって次にするべきを事を決める。決めた。
鮮血に染まった刃で夜空を切り裂き、闇を照らす虹色の様に輝く星散の空を作る方法を。
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その17 | ||
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