断金の誓い |
「私、王になるわ。孫呉を、なによりも素晴らしい国にしてみせる。だから――
手伝ってくれる?」
あの時、私は――なんと答えたのだったかな。
もう忘れてしまった。けれど、あのときの雪蓮のまっすぐな瞳だけは、今もはっきりと憶えている。
偉大な母親の背中を見据え、
守るべき妹たちを背中に庇い、
さらに孫呉の民までもを背負おうと誓う雪蓮の瞳だけは。
*
「冥琳?」
「ん・・・」
心地よい音と共に冷たい風が頬を撫でていく。
俺の横で釣りをしていたはずの冥琳は、どうやら眠ってしまっていたみたいだった。
起こすも悪いかな、と声をかけるのを止めたが、時既に遅し、だ。
「・・・北郷。すまない、眠っていたみたいだ」
「いいんだ。こっちこそごめんな、起こしちゃって」
「お前が謝る必要はどこにもない。私の職務怠慢だな…」
「職務て。」
「そうだろう?私たちは魚を人数分釣ると皆に約束した。昼時までに釣らねば、食いあぐねてしまう・・・」
大真面目な顔で、本気で危惧しているらしい冥琳を見ると、なんだかなあ、と思う。
そんなだから、俺の世界で君は早死にしちまったんじゃないのか?
「前から思ってたけど、冥琳はちょっといろいろ背負いすぎじゃないかな。疲れない?」
「・・・背負いすぎって、私がか?」
「他に誰がいるの」
きょとん、とした顔で聞き返してくる冥琳は、どうも納得しかねるといったふうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「ああ、いや・・・そんなふうに思ったことが一度もなかったのでな・・・」
「・・・俺が呉に来て結構経ったと思うけど…。俺は、冥琳以上に働いている人を見たことがないよ?」
「ふむ・・・。単純な仕事量から言えば、そうなのかもしれんがな。」
「というと?」
妙に含みのある言い方をするじゃないか。
「私は今までも、そして多分これからも…雪蓮ほどに何かを背負うということはないと思う。」
「・・・雪蓮、かあ」
その豊かな黒髪をなびかせて、懐かしむような目で冥琳は微笑んだ。
「私と雪蓮は幼い頃からずっと一緒だったのだがな…、奴が王になると決めた日のことは、今でも憶えている」
「・・・へえ?」
「強い目をしていたよ。いつか、呉を全ての民が笑って暮らせる国にするのだと言っていた」
ふっ、とその目に影が差す。
「それを実現させるために払った犠牲は、数え切れないほどある。孫堅様を筆頭に、な」
雪蓮と、蓮華、それに小蓮の母親。
江東の虎と恐れられた、紛うことなき英雄の一人。
雪蓮が言うには、ひどくおっかない人だったらしいが…。
それでも、孫堅さんのことを話すときの雪蓮の瞳は、大事なものを見ているときのように優しげだった。
「雪蓮はね、北郷。孫堅様がお亡くなりになったとき、泣かなかったよ」
――呉の兵たちが見ているから。
母親の屍を抱いて、家に伝わる宝刀を握り締めて。
涙を見せず、弱さを見せず、ただ前だけを向いていた。
「孫堅様だけじゃない。いろんな人を失ってきた。戦場に立っている限り、祭殿や私だっていつ死ぬかわからない。
それでも前だけを見ると誓うこと以上に重いものなんて、存在しないと私は思っている。」
それに比べたら執務なんて軽いものだよ、と冥琳は笑った。
「あら、冥琳ってば嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」
「雪蓮っ?」
「やっほー、果物たくさん獲れたわよ〜」
どさどさ、と足元に山のような量の果物を落としていく雪蓮。
恐る恐る冥琳のほうを見ると、俯いて、「しまった」と漏らしていた。
「ふふふ・・・もう、冥琳ったら私のことわかってくれてるんだから〜♪」
ニヤニヤしながらそういう雪蓮に、
「軍師だからな」
と顔を赤くしながら答える冥琳は、なんだか可愛らしかった。
*
「私、王になるわ。孫呉を、なによりも素晴らしい国にしてみせる。だから――
手伝ってくれる?」
ああ、雪蓮。
もちろんだとも――。
説明 | ||
真恋姫†無双、呉ルートにて。 冥琳がたまらなく好きなんだ・・・。 登録タグが違うとのことで追加してみましたが、こうでしょうか・・・? なにぶん未熟者でしてすんません。 |
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コメント | ||
照れる冥琳もいいですね。(ブックマン) 冥琳いいですよね〜 前作では歪んじゃったイメージが強すぎたけど、真の方は自分も好きです(MiTi) 登録タグが少し違うのでTOPの気になるキーワードで恋姫選んでも一覧に表示されないみたいですね(マーサ) 作者分かるわ〜w 冥琳可愛いから好きやでぇ^^w(Poussiere) |
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ct004khm 真恋姫†無双 冥琳 真・恋姫†無双 | ||
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