義輝記 序章 その弐
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【 説得中と説得後の出来事の件 追記 】

 

俺達の説得に屈せず、供を希望する姫武将達。

大分数を減らしたが、義輝様や光秀、俺も何人か増やして連れて行こうと考えていた。

 

光秀「……信長様は、必ず置いて行くべきです! あの方が絡むと、秩序の破壊と傍若無人さで人に悪意を与えます。そんなことになったら義輝様に、申し訳がたちません!! 」

 

光秀は、足利家に仕える前に織田家に数年仕官したことがあり、その時、信長に我が儘等や行動で散々困らせられたという。

 

俺も、最初に御家へ仕官した信長と対面して、その覇気や行動には恐れたが、接するにつれ可愛い面や間抜けな面と人間らしいとこを見て、今は友人に近い気兼ねない関係になっている。

 

それに、南蛮に大分憧れている様子だから、一緒に連れて行けば、『大陸』の情報収集に力を発揮してくれるのではないか?

 

しかし、義輝様は光秀の案件を受け入れたようで、後で見た光秀の顔は嬉しそうだった。

 

 

姫武将達の説得がやっと終わり、義輝様と俺達は肩を撫で下ろす。

 

結局、新たに供に付いてくれるのは、『風魔小太郎』殿、『山中鹿介』殿、『山縣昌景』殿となった。

 

ちなみに山縣昌景殿は、男である。

 

「姫武将」が供に加わりたいとの話に、何故か譜代の重臣なんて大物が加わるのか分からなかったが、義輝様や武田家からの要望があったらしい。

 

後、島津姉妹は不参加ということになったとの報告と詳細な事情を豊久より受けている。

 

原因は言わずと知れたあの方、島津貴久殿。

 

島津姉妹としては、何としても供に加わりたいとの一心だったが、父親たる貴久殿の許可がないと話が進まない。だが、あの通りの断固反対派であるため、このままでは無理。

 

そのため、島津の知恵袋の異名を持つ歳久殿が、策を見いだして姉妹と相談をする。家久殿、義弘殿は勿論賛成意見、要である義久殿も大賛成したそうだ。

 

その翌日、義昭様城下の島津屋敷で四姉妹と貴久殿が対面し、勝負を願い出た。

 

『義久の手料理を最後まで食べれたら、姉妹全員日の本に残る』という単純な物。

 

だが、侮るなかれ。俺も一度馳走になったが、あれは『料理』ではなく『兵器』だった。

 

まず、料理中に香りで鼻をやられ、出来た品を見て目をやられ、食べて口がやられた。しかも、この間に耳等の残りの五感がやられ、三日間寝こんだ。

 

あれを貴久殿に、食べさせるとは……。

 

しかも、一品だけでなく、大陸で伝え聞く『満開全席』を模した創作料理だったと聞いて、あの恐怖が蘇り体が震えだした!!

 

そんな、大規模な料理を行ったわりには、城下から苦情や被害が来なかったのは、被害が及ばぬように遠く郊外で行った歳久殿の指示だったという。

 

用意に一日掛けて、過去を踏まえた情報収集、抜かりない布陣、万全な策で望んだこの戦い、勝者は明らかに島津姉妹と思われていた。

 

……………だが、貴久殿が、我を省みず食し完食を果たす!

 

汗やら涙やら鼻水やら垂らしながらも、最後まで食べきったと、涙ながら語る豊久の心情は、姉達の方か父親の方のどちらに向いていたか、聞いてみたかったが、本人にはそれどころではないだろう。

 

審判役の豊久が、貴久殿の勝利を挙げると、島津姉妹は、唖然としてこの様子を眺め、その後部屋に引きこもったままだそうだ。

 

無論、貴久殿はあれから寝こんだまま、一向に目が覚めない…。

 

おかげで、豊久が臨時当主で島津家を回しているようで、豊久親衛隊の手助けもあり、何とか政務をこなしているようだ。

 

…俺も少し関係あるため、お見舞いに行こう。

 

◇◆◇

 

【 風魔小太郎が供に参入 の件 その一 】

 

義輝様の供として、新たに加わる『風間小太郎』殿に挨拶を行いにきた、と、いっても、まだ城の大広間の中で、やんわり説得?された姫武将達は憤然として城下の各屋敷に戻っていく最中。

 

まず、風魔小太郎殿にと探すが、今まであったことがないため、顔が全然判らない。北条早雲殿が出席されていたので、聞けば教えてくれると考え、会いに向かう。

 

少し歩けば、前方より向かってくる二人組がいる。

 

一人は、早雲殿だと分かるが、もう一人がわからない。

何となく氏政に似ているのだけど、背が少し高い上に髪型が少し違う。もしかして、風魔小太郎殿ではないか…?

 

早雲殿は、挨拶を交えた後に隣の人物を紹介してくれた。

 

背格好は、早雲殿の娘、氏政より少し高い。髪は肩まで丁寧に切りそろえてあるのに、前髪が目を覆い隠す程長い。それでも、任務には支障は出ないらしい。ちなみに、氏政より胸も大きいようだな。コホン、服装は、三太夫の忍び装束と同じだが、色は茶色。

 

口数は少なく、『よ、宜しくお願いします』とだけ挨拶をされた。少し顔が赤い気がするが、余程緊張しているのだろう。

 

俺も初めて会う人物なので、早雲殿に聞いてみると、風魔党を束ねる党首だという。

 

北条家に風魔とくれば、とても凄腕の忍び集団と聞いている。三太夫に尋ねたら、『党首と手合わせしたが、勝敗が全然決まらない』って、笑いながら言っていたけど……。

 

今回、風魔小太郎殿を供に入れたのは、義輝様の対応のおかげ…であるのか?

 

◆◇◆

 

【 北条早雲、義輝様を嵌めるの件 】

 

?義輝、説得中

 

義輝様が、北条親子に説得しに行くとすでに平伏して待っていた。

 

北条家の早雲殿と言えば、あの松永久秀殿に匹敵する謀略の才を持つ人物と噂される方。

 

義輝様も、松永久秀殿には煮え湯を呑まされた経験があるし、義輝様襲撃事件の首謀者は結局不明のままだが、松永久秀殿ではないかとよく影で言われている。

 

そんな訳で用心深く対応したらしいが、早雲殿は北条家代表して口火を開く。

 

早雲『私達、早雲、氏康、氏政は、義輝様の旅には同行せず、日の本を守ると話し合って決めました。どうぞ、御承知願います』

 

義輝『それは、殊勝な。供にと望む者は多いが、自分達から言い出してくれるとは。じゃが、何かしら考えがあるのではないかえ?』

 

早雲『…流石、義輝様! 見事な慧眼でございます…。』

 

義輝『そうか、そうか。因みに聞くだけ聞いておくが、どのような事かの?』

 

早雲『…有り難うございます。実は、私共の配下に『風魔小太郎』が居るのは、ご存知かと思いますが。』

 

義輝『うむ、数多くある忍びの中でも上位に位置する忍びと聞いておる。』

 

早雲『はい、その通りでございます。私共も隣国やら他国の調査には色々と情報収集を行わせましたが、失敗は何一つありませんでした。』

 

義輝『ほう、それは凄いの。颯馬の下にいる百地並みかの?』

 

早雲『まぁ、百地殿も颯馬殿配下とは、義輝様は本当に素晴らしい家臣をお持ちです。

小太郎も何度か百地殿と刃を交えたそうですが、互角だったそうで』

 

義輝『あの百地と武でも互角。文字通り百地並みとは。で、その者がなんじゃ?』

 

早雲『はい、出来でれば小太郎を供にお連れ下さればと思いまして。ただ、義輝様は、供の人数分を制限されているとお聞きしましたので、私共が身を引こうかと』

 

義輝『なんじゃ、それなら早く言えば良かったものを! うむ、認め…っと。その前に質問じゃが、その者の実績は嘘、偽りはないな?』

 

早雲『はい、それはこの早雲の名に掛けてでも!』

 

義輝『後、風魔小太郎の名を得たお前達三人というのも、ないな?』

 

早雲『はい、それは北条家の名を掛けても!!』

 

義輝『うむ。では、風魔小太郎の供を認める!』

 

早雲『有り難うございます。念のためにお伺いいたしますが、誠に供にお加え下さると言うことで宜しいですか? 後で駄目だと言われますと小太郎が可哀想で…』

 

義輝『大丈夫じゃ、わらわも何回も確認し、お主より承諾のため家名まで預けてもらった。今度は、わらわの『足利義輝』の名にかけても!!』

 

◇◆◇

 

【 風魔小太郎が供に参入の件 その二 】

 

後で光秀が義輝様に、もの凄い剣幕で怒っていたようだ。

 

後で、『風魔小太郎』殿が、女の子で姫武将であること。とある戦で俺の姿を見て懸想を抱いているとの噂があると三太夫より聞いたから。

 

しかも、義輝様が自分の名まで掛けて、供を承諾したものだから断るわけにもいかない。

 

これは、早雲殿を褒めるべきなんだろうな。用心深くなった義輝様に先に策を見破らたと見せかけ気を良くさせ、さらに他愛のないところをさも大事な場所のように強調、最後に肝心なところを認めさせるのだから。

 

その話は置いといて、俺は俺なりに疑問があった。

 

そんな凄い人物を推薦する意味が分からなかった俺は、早雲殿に聞いてみた。

 

早雲殿は、少し悲しそうに説明する。

 

『小太郎は、幼き頃両親を亡くして、代わりに私が育てたのです。丁度年の近い娘達もいましたので。成長してから、恩を返したいと言い出して、私が止めても熱意は変わらず、配下の風魔党に頼んだのです』

 

『あそこなら修業も厳しいので、すぐに戻ってきてくれると思っていたのですが、そうしたら、全修業を修めて、いつの間にか風魔党の党首に持ち上げられてしまいまして……』

 

俺は、早雲殿の心情を察して、下を向く。

 

育てた娘が、戦の影働きである忍びにいると言うことは、いつ姿が消えるかわからないという事。いつ何時に死が訪れるか、母親としては辛いことだ。

 

『颯馬殿、あなた達の働きで、日の本が戦の無い世になりました。おかげで私が娘達を、娘達が家族を心配することが無くなりました。ですから、そのお礼に小太郎をお貸しします』

 

『政務や戦では、情報収集は大事なのは、あなたもお分かりなはずです。ならば、信用出来る腕の立つ者を置くのも当然かと。百地殿の噂は小太郎より聞いておりますが、一人だけでは限度がありますので。それに、異性の忍びも必要ですよ。情報収集には偏りなく万弁に収集して、真実が見える物。この言葉と共に小太郎をお連れ下さい』

 

俺は、早雲殿に厚くお礼をいい、小太郎に向き直り質問をする。

 

颯馬「早雲殿より話を聞いたが、一つだけ確認をさせてくれ。今度の旅は、いつ日の本に戻れるかわからない、もしかしたら戻ってこれないかもしれない。それでも、付いてきてくれるのか?」

 

小太郎「……母様や姉様、氏政には別れは済ましてあります! それに、これは母様から頼まれたわけではなくって、私からお願いしたことだから…」

 

颯馬「うん、了解した。それでは改めて紹介させてもらう。俺の名は「天城颯馬様」っと。知ってて当然……天城颯馬様!?」

 

小太郎「天城颯馬様、私、風魔小太郎です。お嫁さんとしては不束者ですが、末永く宜しくお願いします!」

 

勢い良くお辞儀をして、ニッコリと笑う。

 

……早雲殿、これも、あなたの入れ知恵ですか。

 

俺はジト目で睨むと、早雲殿はにっこりと微笑みながら呟いた。

 

早雲「……もう一つの戦、『天城颯馬争奪戦』はすでに火蓋を切ってますからね。私も出来る限りの知謀を尽くすつもりですよ」

 

◆◇◆

             

【 山中鹿介が供に参入の件 】

 

尼子家は群雄割拠の交戦の中で、淘汰され消滅した。

 

しかし、当主尼子義久殿は、幸いにも健在で毛利家で養われている状態。

 

義久殿は、生まれつきの不幸体質のためか、すぐに物事を諦める癖があるためか、尼子復興を望んでいなかったように見えるが、実際には一人の忠臣の支えがあるため、諦めることをしなかった。

 

その忠臣である『山中鹿介』殿は、その武勇、その知謀、その人柄を各大名家より知られ、数多の誘いがあるに関わらず、尼子家再興に執念を燃やす御仁である。

 

そんな山中殿が、御家に縁ありて俺の采配で動いて貰う事は、絡繰りの精密が上がるが如く策が障害なく進み、時には俺が討たれそうになれば、救ってもらい、その回数も一度だけではない。いつかは、この恩に報いなければと考えていた。

 

 

そのため、供を願いでる姫武将に山中殿の姿を見つけたため、説得の最中に声を掛けた。

 

颯馬「山中殿が、この場に居るとは少し驚きました」

 

山中「颯馬殿、某は尼子家再興を目指す者です。ですが、この平和な日の本に尼子家が新たに得る領地は無いのも事実。他の仕事は、武骨者には難しいので手柄もあげれませんし。だから、大陸で戦働きで活躍して、かの地で再興を目指したいと思いまして」

 

颯馬「………ですが、尼子義久殿は日の本に居て、あなたは大陸に渡るとなれば、そう簡単に再会が出来ません。それに、山中殿が功なり領地を得ても、もし尼子義久殿が日の本での暮らしがいいと言われたりしたら?」

 

山中殿は、確かにと頭を縦に振ってその意見を認めて、心中を吐露する。

 

今まで、誰にも…言わなかった…話だと思う。

 

山中「それは、仕方ありません。…実を言えば尼子家再興は某の意地のよう物。……某にまだ力があれば、尼子家は大名家で残っていたと考えてしまうのです。それに、三日月に誓った願いですので、今更取り下げるというのも某の矜持に関わります」

 

颯馬「…そうですか。今の話は誰にも言いませんのでご安心下さい。それから、山中殿がそのようにお望みならば、恩人に報いなければならないのが俺の矜持です。供の件を義輝様に承諾してもらうよう頼んでみます!」

 

山中殿が驚いた顔をして尋ねる。

 

山中「これは、完全な私事の為ですよ! それなのに、応じていただいて宜しいのですか? 他の方々に示しが…」

 

俺は、山中殿があまりに煮えきれないため、山中殿の両手を取り、顔を見ながら説得を試みる。

 

颯馬「山中殿は、自己の評価が低すぎます。あなたの武働きは、俺にとっては必要なんです。それに、山中殿が居れば、大陸の鎮静化も早まりますので、ぜひ一緒に来て下さい!! 」

 

山中殿は、急に顔が赤くなる。『颯馬殿から誘われた』や『某を必要とされている』と小声で繰り返す。

 

山中殿「わっ、わかりました! そのときは、付いていきますので。どうぞ某を思うように使って下さい。 …後、手をお離しに…… 」

 

有り難い。山中殿なら間違いなく大きな戦果を挙げてくれるだろう。本当に有り難い。あまりに喜び過ぎて、山中殿の手を握りしめていることを失念していた。

 

◇◆◇

【 織田信長が供に乱入の件 】

 

光秀「……………………!!!」

 

信長「ははは、どう足掻こうと結末はこうなる。私をこんな面白いことに、誘わないのが悪いのだ。」

 

堺の港で、義輝様と同行する仲間達の集合を待っていたら、光秀と信長がやってきた!

 

信長は、同行を拒否されたのではなかったのか?

 

颯馬「何を子供みたいな事を。だいたい信長は、当主だから日の本から離すわけにはいかないと、義輝様より申し渡されたのではないか?!」

 

俺は睨むと、信長は偉そうに鼻で笑い言い放つ。

 

信長「ふっ、無理だと思ったので出奔してやったまでの事」

 

おい!! お前は何を考えてやがる! 

 

家臣の皆さん、特に丹羽殿の頭が心配だ…! ただでさえ、また薄くなったと嘆いていたのに。

 

あぁ、光秀の顔が鬼のような怖い顔になった。

 

光秀「信長様!! あなたって方は……!!」

 

義輝「待て、光秀。少し落ち着くが良い」

 

今まで黙っていた義輝様が動いた。

 

義輝「信長よ、ならば条件を出そう。わらわと剣で立ち会い勝てば許そう。負ければ海の藻屑。……どうじゃ? 」

 

信長「…面白しきことを。前将軍とはいえ、容赦は致しませんぞ! 」

 

義輝様と信長が…。って固まってる場合じゃない!! どう考えても、信長の負けじゃないか。

 

光秀の顔も、鬼からいつもの顔を通り過ぎて、まっ青な心配顔に変わる。

 

義輝「では、刀を抜いて構えろ」

 

信長「……」

 

双方、ゆっくりと構える。

 

義輝様は、卜伝流中段の構えを取り、信長は……同じ卜伝流の中段構え?

 

信長「相手を知るなら相手の手を調べる。兵法の基本だろう?」

 

とニヤリと笑う。

 

義輝「確かにその通りだが、にわか剣術では勝てぬぞ!  ハッ!! 」

 

義輝様が言葉を発するが同時に動き、刀を上段に持っていき振り抜く。信長も刀を斜めにし、相手の刀筋を外しつつ、刀を切り返し、同じように上段より振り抜く。義輝様も、足を踏み換え上段の攻撃を避ける。

 

何回も刀を閃かせ刃を交えるが、互角の戦い。義輝様にあれだけ食らいついていけるとは、正直思わなかった。

 

俺も二人の戦いを止めたかったが、相互の会話に違和感を感じ取りその疑念解消に没頭していた。それが、早期解決を示しているような気がするためだ。

 

何十回か手合わせ後、一瞬の隙を見逃さず懐に飛び込むどちらかが入り込む。

 

光秀「 あっ!! 」

 

光秀が小さく鋭く声を発し、俺はこの瞬間に違和感の正体が解った。

 

一本の刀が、空に舞い上がったと思うと、直角に地面へ突き刺さる。

 

一人は片膝を付き荒く息を呼吸をして、もう一人は刀を相手に突きつける。

 

勝者は、義輝様であった……。

 

義輝「…約束通り、海の藻屑になってもらうぞ」

 

信長「…是非も無し 」

 

静かに目を閉じる信長。

 

光秀「ま、待って下さい! どうか命だけは…」

 

義輝「そこから離れろ、光秀! 武将が約束事を決め戦った結果だ。このまま信長を斬る! 」

 

光秀「ならば、私ごとお斬り下さい 足利家に仕官する前に仕官した元当主。黙って斬られては、武士の恥になります! 」

 

泣きながら助命嘆願を行う光秀に、冷たく目を光らせる義輝様、唖然としている信長。

 

パン!!

 

そんな状態の途中に、俺が手を一度拍手して義輝様と信長に睨みつける。

 

颯馬「いい加減、悪ふざけを止して下さい! 義輝様!信長!」

 

義輝、信長「「!!!」」

 

光秀「なっ!?」

 

三者三様で驚き、俺に視線を向ける。

 

義輝「何を言い出すのじゃ、颯馬! 今の戦い見ていただろうに!」

 

信長「そうだ。私は負けたのだ。だから、こうして「そこがおかしい!」 !?」

 

信長は、俺が途中で口を挟んだ事に恨めしげに見るが、そんなもの知ったことじゃない!

 

光秀は、俺の態度にオロオロしている。

 

まずは、理由を語るか。そうしないと、光秀が落ち着かないし、騙されたままじゃ可哀想だ……。

 

颯馬「理由を言いましょう。まず一つめ、信長の勝負への諦めが早すぎること。 もし負けたとしても、必ず再起して、次に勝つべき行動を起こす執念深い奴ですから」

 

信長「だが、これは武士としての約束事だぞ!それを破ってまで…」

 

颯馬「そう、そこも納得出来ないところだ。自分がどんなに不利になろうとも、信長は必ず約束事を守る将。なのに、負けが確実に判る勝負に、どうしてそこまで拘るのか? これが二つめの理由」

 

信長「………」

 

颯馬「それと、最後に三つめ。義輝様、信長と何かしら意志疎通を図りましたね?」

 

義輝「……なんのことじゃ」

 

颯馬「信長が、卜伝流剣術で義輝様とあそこまで対等に戦える。これが理由です」

 

義輝「……何を言うかと思えば。信長が他流の剣術を学ぶ機会はいくらでもあるし、戦場を駆け巡った将だ。応用して卜伝流でこれくらい戦えるのは当然であろう!! 」

 

颯馬「では、丁度到着された山縣昌景殿と山中鹿介殿にお聞きしましょう」

 

俺の傍に、昌景殿と山中殿が、急に自分達に意見を求められたため、驚いている。

 

颯馬「別に難しい事はありませんよ。戯れに質問をさせて下さい。戦場で勇名を轟かせるお二人ですが、今まで習ったことがない剣術流派で一年間修練、その流派を主に使いながら、しかも生死に関わる戦いを、義輝様相手に挑む事ができますか? 」

 

昌景「…どう考えても自殺行為だ。儂ならそんな勝負は最初から受けん!」

 

山中「某も同意見です。慣れ親しんだ剣術でも勝てないのに、それではよけいに勝てません。その者は、よほどの命知らずか戯れが許される義輝様と親しい者だけでしょう」

 

小太郎の意見も聞きたいがと思うが、忍びの意見だから見解ちがうだろうしな。

 

小太郎は、『私の意見は?』という顔で昌景、山中両人の傍にいるが、片手拝みで謝り義輝様に向き直る。ちなみに光秀は、放心状態だからそのままにしている。

 

颯馬「歴戦の勇将達は、このような見解を語ってくれるのですが、どう思われますか?」

 

義輝様「…………」

 

大分困った顔しているな。あと、もう一手欲しいのだが……。なんて考えていると、三太夫が走ってきた。

 

三太夫「み、皆、早…い…」

 

颯馬「もう少しで、出発する刻限になる。全然早くないぞ」

 

三太夫「そ、そうかな? やっぱ、そうか…。出かけに足袋の紐が切れたり、いつも通る道が通行止めになったりしたからか。……皆、遅れてゴメン!!」

 

三太夫は、頭を皆の前で下げながら、両手で拝むようにして謝る。

 

すると、書状が懐より落ちる。油紙で包んであるから余程大事な書状だろう。と思っていたら三太夫が拾って俺に渡すではないか。

 

三太夫「出かけ時に、旦那宛てだからって回ってきたものを預かってきたんだ。これが一番手間がかかってさ! なんで、今日もついてないんだ!!」

 

その書状を開くと、差出人は尾張の丹羽殿だった。しかも、内容を読んで驚いた!

 

それは、『信長の再々の同行願いに折れ、国は丹羽殿、柴田殿、羽柴殿達協議の末で行うから宜しく取り計らいを頼みたい』との内容が記載されている。

 

同封されていた別書状には、羽柴殿や黒田殿も同行したかったようだが、竹中殿の様態が心配等あり日の本に残るという。

 

これで、決まりだな。

 

俺は、義輝様、信長を除く全員に書状を回覧し、義輝様や信長に改めて見せた。

 

義輝様は、体の強張りを緩め、信長は先程とは違い、目を閉じ正座している。

 

真意を確かめるため、更に口を開こうとすると、義輝様が話出した。

 

義輝「信長よ、すまん。 お主との計画は、軍師に見破られたようじゃ…」

 

光秀「 !! 」

 

義輝「颯馬の言い分は大体合っておる。違うのは、信長は出奔したわけではない。信長の同行は正式に許可してあるのでな。これが証拠じゃ」

 

俺は義輝様から書状を受け取り、光秀と拝見すれば、丹羽殿からの書状である。

 

内容は、俺の物とほぼ同じ。ただ公式か私的な形式の違いだけ。

 

光秀「……………では、先の大立チ回り………ハ? 」

 

ユラリと光秀が、放心状態から急激に復活。体の周りの風景が、陽炎のように揺らめき、怒気が風となって吹きすさんでいく。体が一回り大きくなったような…。

 

義輝「信長が、普通に同行しても、盛り上げが足りないからと言われてじゃな?

日の本の地もこれで最後になるやかもしれん。わらわも参加して派手な出発にしようと

一芝居を打ったわけなのじゃ!  光秀も信長を庇うところは迫真の演技じゃたぞ! 」

 

光秀「…………」  ブチン!!

 

俺は、信長と義輝様、光秀から皆を離れさせ、また光秀の傍へ向かう。

 

光秀「…颯馬は、コノ者共を、許ス…つもり、デスカ?」

 

俺は、首を横に振る。他の皆や特に光秀にあんなに迷惑かけて許せるか!!!!! 

 

颯馬、光秀「「……………」」

 

この次の瞬間、百雷が鳴り響くかの如く説教の声が響いたと、小太郎が涙目で語っていた。……時刻として二刻ぐらい続いたかと、神妙な顔をした昌景殿と苦笑を浮かべる山中殿が後で教えてくれたが、後悔はしていない。

 

義輝様は、言い訳やなだめようと声を出すたびに、光秀の怒気が膨れ上がり、義輝様の剣気を飲み込み気勢を削いでいく。しかも、顔は無表情のままで。

 

義輝様は、最後には涙を流して平謝りに謝っていた。

 

後で、あの時の光秀は怖かったなと見ていた皆に言うと、お前が言うなと逆に言われた。

 

光秀とはまた違う気迫が出ていたと言うのだが、俺自身は正直わからん。

 

信長は、義輝様と違い神妙に俺達の説教を聞いていた。

 

そして、最後に『騙してすまなかった』と土下座をしたもんだから、光秀は口を半開きで呆然とし、俺と義輝様も目を丸くして、次の言葉が全く出ない。

 

一体何があった?! 怒られ過ぎて性格が反対になったのか?! 熱でも出したの!!と遠くで見ていた残りの将達が大騒ぎ。あの気位が高い信長とは思えない行動だから。

 

信長「失敬な…。今回の非は、明らかに私にある。光秀と颯馬をからかうつもりで行った行動が、まさか光秀に命懸けで庇ってもらえるとは、夢にも思わなかった…」

 

光秀「もし、また同じ行動しましたら、今度は捨て置きますから!!」

 

なんて、顔赤くして信長にまくし立てているが、信長が同じ状態になったら、また光秀が庇うのだろうなと、少し嫉妬してしまった。

 

義輝様と信長の謝罪で説教も終わり、避難していた皆も集まってきた。

 

小太郎「颯馬様! 凄いです!!」

 

昌景「話を聞いたが、よくぞあれだけの内容で、見破れたものだな」

 

山中「全くです。さすが私達の軍師ですね!」

 

颯馬「とんでもない!! 結構穴だらけの推測でしたから。昌景殿や山中殿の到着、最後の三太夫の持ってきた書状がそれを補完してくれましたから」

 

三太夫「…いつもこんな具合で役立てれば、運の悪さに少しは俺も救われるんだけど」

 

小太郎「私は、何もできませんでした…。颯馬様のお嫁さんなのに…」

 

こ、小太郎!!  それは言わない、言ったら駄目だ!!

 

光秀「今回の件は、颯馬の活躍が主体ですので賞賛はそのまま受け入れればいいでしょう。しかし、今の小太郎殿の発言は、どういう意味か特と知りたいですね…」

 

に、逃げ出したいが、船が旋回してこちらに接岸しようとしている! 誰か俺を救ってくれ!!

 

◆◇◆

 

【 出発後の話題の件 】

 

船の甲板にて儂を含む三人集まり、今後の話をする。

 

昌景「日の本最後の一悶着もこうして無事に済み、儂等は船に乗り組みんで、大陸に出発する事ができたようだな」

 

山中「義輝様は船室でお休みいただき、颯馬殿と小太郎殿と光秀殿は、先の発言の意味を厳しく問い詰め、双方主張しあっている様子かと…」

 

三太夫「夫婦喧嘩は犬も喰わないって、まだ婚礼もしていないじゃないか!どうするのかね、颯馬の旦那は………」

 

山中「そ、某にとっては、都合が、いいと……い、いけない! 某にはまず尼子家の再興が大事。恋に浮かれている場合では」

 

昌景「いや、若人は多いに悩むべし。これも青春というものよ! ハハハ!!」

 

三太夫「相変わらず、旦那だね。…あ、そういえば信長の姐さんは?」

 

昌景「儂も見ておらんの。鹿介殿はどうだ?」

 

山中「面目ない。某が見たのは、船に乗り込むところまでしか…」

 

カツンカツンカツンカツン、カツン!

 

信長「お主達、何をこの船上で集まっておるのだ」

 

昌景「おお、信長殿か。丁度、信長殿を船内で見ていないと話になってな、どうしたものかと相談していたところよ」

 

信長「ふむ、それはすまぬ。先程の颯馬の事を考えて、割り当てられていた下の部屋で思索をしていたのでな」

 

山中「信長殿、宜しければ疑問を答えてもらいませんか?」

 

信長「………皆にも、迷惑かけた身だ。存分に答えさせてもらうぞ!」

 

三太夫「じゃ、俺からっと。信長の姐さんは、誰から卜伝流を習ったんだい?」

 

信長「勿論、卜伝殿よ。数年前、尾張の領主だった私に剣を教えてもらったのが付き合いの始まりだ。丁度上洛途中で、義輝様も剣を学んでいなかったはずだと記憶しているが。そのため、私が姉弟子になる。今回の件も、姉弟子の特権で頼んだのだ」

 

山中「あの双方の戦いは、某、感嘆致しました! 卜伝流を続けておられるのですか?」

 

信長「…いや、卜伝流は当時卜伝殿周辺でしか学べなかったのでな。他の陰流等を修める事になった。今回は、信綱殿にお願いして組太刀を教えてもらい、義輝様と練習したのだ。本気でやれば一合も交えずに倒されていたのだろう」

 

昌景「今回の騒動は、信長殿の戯れだけが原因か? 儂はなんとなく違う感じがしての。年寄りの勘というか経験がそれに気が付かせたのか分からんが」

 

信長「半分は戯れよ。もう半分は、颯馬の実力を試したのだ。相手は此処よりも文化や知識が遥かに進んでいる『大陸』だ。私如きの策で、いいように翻弄されたのなら、あの場で颯馬達を見限り私一人で向かうつもりだった。私が『大陸』で騒動を起こせば、義輝様達の行動も多少は有利になるだろうと。まさか、あの早い段階で見破らるとは、思わなかったがな」

 

山中「………すると、信長殿も、颯馬殿の事を………」

 

信長「あやつには、散々からかわれたたが気の置ける良き友だと思っていた。あの騒動で私の策を見破り、尚且つ本気で怒鳴りつけたのは、男では彼奴をおいて知らん。恋愛とまでは如何が、それに近いものを持っていると言った方がいいかもしれんな!」

 

山中「恋敵がまた一人?! いや、まだまだ分からないか。 …三日月になったら尼子家再興ともに、颯馬殿との良縁も願わなければ!」

 

三太夫「…………」

 

昌景「ほれ、ボーとしてないで部屋へ入るぞ。まだ先は長いのだ、これくらいの騒動で対応出来ないと、やっておれんぞ」

 

三太夫「いや、人生の理不尽を肌で感じていたから」

 

山中「昌景殿の言うとおりです。某達の戦いは向こうに着けば、想像以上に厳しいものになると思われます。少しでも休み、英気を養わなければ」

 

信長「さて、私も部屋に戻り、軍略と政策の教本を改めて読んでおくかな。どうも、颯馬にあのまま勝ち越しのままでは、腹が立って仕方がない!」

 

昌景「それにしても、くくくっ。 颯馬は楽しませてくれるわ。この場にお館様達が居ないのが、真に悔やまれる……。大陸に入ったときにでも書状を託すでもするか……。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

後書き

 

最後まで読んでいただき、有り難う御座います。

 

戦極姫4の設定でキャラを書いていますが、こちらの憶測と都合で付け加えた設定を入れてありますのでご注意ください。

 

これで、義輝一行は『大陸』に入り、それなりに活躍をして行く事になります。

そして、恋姫の世界に繋ぐ舞台と人物が登場します。

 

予定では、次で『大陸』での話。その次から恋姫の世界となります。その時に戦極姫のキャラを更に7人から8人増やしたいなと。

 

拙い文章ですが、それでも読んでいただけるのなら嬉しいです。これからも、宜しくお願いします。

 

説明
『義輝記』の続編です。小説中に出てきます『大陸』ですが、『大陸』自体の表記がないため、恋姫と同じ大陸であると思い、この小説では設定しております。
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