真・恋姫無双 異聞 〜俺が、張角だっ!!〜 第5話 |
第5話 実験 Crop rotation
ザクッ! ザクッ!
「ホッ!・・・・・・ハッ!」
鍬を大きく振り上げ、そして下ろす。それだけの動作だが、粗雑にやるのではない。一振り一振り、丁寧に腕と鍬の軌跡を確かめながら振り下ろしていく。鍬を振り下ろすだけの農作業と馬鹿にしてはいけない。この振り下ろす動作は立派な剣の訓練にもなりうるのだ。
遮るものの無い爽やかな陽光が降りしきる中、雷華は畑仕事に精を出していた。自らに貸し与えられた畑で鍬を振るっている。
外気功の基礎中の基礎である講義の4「敬意を払えっ!」。その習得により、自身の『氣』の性質が電気変換資質を持っていると判明してから2ヵ月。その頃には雷華は『氣』による体内調整を無意識で出来るようになっていた。
『達者でな』
そう一言だけ言い残し玖若は去っていった。余りにもあっさりとしたその別れ方は、ある意味でらしかったと雷華は思い出す。
そして現在。玖若が去ってから3年が経過している。雷華は12歳となり、体の各所が成長し、見事に女らしくなってきている。というか女にしか見えない。
金紗の髪は後ろで一纏めにしている。所謂ポニーテールという髪型だ。雷華としては鬱陶しいので短髪にしたいのだが、両親の懇願により伸ばしている。
体は丸みを帯びてきていた。しかし、内側にはしっかりとした筋肉を着けてきており、下手な男よりも力持ちになってきている。無論内気功による身体強化無しで、である。
一番成長著しいのは胸であろう。巨乳という程ではないが、確実に同年齢の中では頭1つ抜きん出ている。同年代の女子からは羨ましがられるものの、雷華としては邪魔なだけなのであった。
そんな雷華の日常は玖若が去ったとしても変わっていない。玖若が来る以前と比べて、『氣』やそれに付随する肉体の鍛錬を行っているものの、農作業の実験と文字などの勉強といったことは変わらずに行っていた。
雷華は鍬を使って畑を耕している。実験のための農作業と、体を鍛えることの2つを同時に出来る一石二鳥のお得な作業だ。
現在の雷華の実験は、両親から畑の一部を借り受けて行われていた。勿論、そこから収穫されたものは全て家に収めてある。雷華が欲しているものは飽くまで実験の結果による情報なのだ。
「それにしても、土地を貸してもらえて本当に良かったなぁ」
一息いれて、額の汗を拭いながら雷華はしみじみと呟いた。
今雷華が行っている実験は輪作である。イギリスではノーフォーク農法とも言われていた輪栽式農業だ。これは小麦などの冬季の穀物→かぶ、てんさい等の根菜類→大麦などの夏季の穀物→クローバー等の地力を回復する性質を持つ牧草、という風にローテーションを組んで栽培するのが特徴の農法だ。
これにより、穀物の収穫量は下がるが、根菜類の作付けが多くなる。また、根菜類を育てることにより、冬季に家畜飼料を入手することが可能となる。その結果家畜の糞と牧草の根粒菌による地力回復により休耕地を設ける必要が無くなるのだ。
しかし、雷華はこの農法が出来るとは考えてなかった。輪栽式農法は4年周期で行うローテーションである。実験するにも畑を借りられるとは思っていなかったのだ。
しかし、あの両親は思い切って畑の一角を雷華に貸してくれた。生活に直結する畑を貸してくれた理由は何も親子の愛情、というだけの話ではないだろう。
雷華のこれまで行ってきた実験である堆肥は上手くいっていた。畑に撒く前段階として、自宅で家庭菜園として使っていた畑で実験して上手くいった堆肥を両親の畑で使ったところ、収穫量を大きく上げたのだ。その結果を受けて両親は今回も雷華にやらせてみたら上手くいくかも、と思っている節もあるのだろう。
まぁ、とにかく、雷華が「畑を借りたいのですが構いませんねっ!」と聞いたところ「いいよー」と答えた両親に感謝である。
(輪作は成果が出てくるのはもっと後になるし・・・・・・次の実験のこと考えとかなきゃなぁ)
鍬を振りながらも雷華は思考する。次は何をやろうっかな〜、と、自身の中にある知識を確認していく。しかし、鍬の挙動にブレは1ミリたりとも生まれては居なかった。
(現代にはあって古代の中国にはないものとかもあるし・・・・・・。でも外史だからかあるはずがないのに存在しているものもあるんだよな)
例えば、カブが古代中国に存在していたことを雷華は知っていた。農業史でならったからである。だからこそ雷華は土地を借りられたことで輪作の実験が出来たわけだが。
当然他の大陸、地域原産の物は存在しないものが多い。例えばジャマイカ原産のジャガイモなどは存在していないのを確認していたりする。イモ好きな雷華としては残念でならない。
しかし逆に、古代中国に存在していないのにここには存在しているものも多い。これは農業には関係ないが、髪色が金色の人間など確実に古代中国には存在していなかったであろう。まぁ、自身が金髪の雷華としてはそれが原因で迫害されなくて良かった、というものであるが。
そんなことをつらつらと考えながらも雷華は現在行っている実験のことも同時に思考していた。『氣』を用いる鍛錬をしている内に出来るようになっていた複数同時思考である。リリカル風に言うとマルチタスクか。
そんな思考の片隅で考えているのは、現在進行している実験のことだ。
(養蜂はあの森の一角で順調に推移しているし・・・・・・。農機具の発明は俺に出来るやつはやっちゃったしなぁ。後残ってるやつは俺の技術力じゃ無理なやつだし・・・・・・。)
さて、どうしようかねと悩んでいると、畑の向こう側、村へと続く道――といっても整備されたものじゃなく踏みしめられている内に自然と出来ていたもの――を何やら馬車が通っているのが見えた。それを見た雷華は行商か、と推測する。
(もうすぐ昼飯だし・・・・・・。ついでに何か売ってるものがないか見てみるか。珍しいもんもあるかもしれないし)
丁度良い、と雷華は鍬を片付けに村へと帰っていくのだった。
「こ、これは――――!!」
俺は今驚愕と、――何より、歓喜に包まれていた。
昼間やってきていた馬車はやっぱり行商の一団だった。聞くところによると、街から街への旅路の途中にこの村に寄ったらしい。まぁ、野宿するよりはこういう村に泊まる方がいいのはわかる話だ。商売も出来るしな。
そんな彼らが持っている商品は多岐に渡った。小麦などの生活に必須となる食材から、そうじゃない普段の生活では見ない珍しいものまで。どうやら本当はこういう珍品のみで生計を立てたいそうだが、それだけで上手くいくほど世の中は甘くないらしい。
そんな彼らが扱っている珍品。その中の1つを俺は手を震わせながら掴み取った。他の人たちはそれが何なのかわからないのか、そんな俺の行動を怪訝そうに見つめている。
俺が手に取った((それ|・・))は、俺が諦めていたものだった。この世界で生きているうちは一生遭遇することはないのだろうなと思っていた品だ。
この世界。やはり食のレベルは日本比べたら格段に低い。こんな農村ではなおさらだ。そんな中で俺が食の向上を目指すのは必然だったといえる。そしてたまに寄る行商でかつて日本に存在した食材を探すのも。
俺が手に取ったものは、前世であればスーパーでも手に入るような珍しいものではない。でも、やっぱりこの世界のこの場所に存在しているはずがないもので――――俺は、この世界で生まれて初めて転生する時にも出会わなかった、存在すら怪しい神に感謝した。
俺の手の中で、俺にだけは光り輝いて見えるその食材は、紫色の表皮を持っている。たっぷりと膨らんだその見た目からは中に栄養がたっぷり詰まっているのではと思わせる。独特の形をしたその食材。
「サツマイモ、だと・・・・・・!」
諸君 私は芋が好きだ
諸君 私は芋が好きだ
諸君 私は芋が大好きだ
ジャガイモが好きだ
サトイモが好きだ
ヤマイモが好きだ
馬鈴薯が好きだ
ナガイモが好きだ
コンニャクイモが好きだ
キクイモが好きだ
サツマイモが好きだ
家庭で 隣家で
出店で 屋台で
茶店で レストランで
洋菓子店で 和菓子店で
道端で 境内で
この地上で行われるありとあらゆる芋料理が大好きだ
商品棚に並べられたポテトチップスをまとめ買いをするのが好きだ
神社の境内で落ち葉を集めて焼き芋をする時など心がおどる
自分で芋の料理の研究をするのが好きだ
音を立てて油が跳ねる鍋から上げた芋の天ぷらが美味しかった時など胸がすくような気持ちだった
近くの屋台で芋のデザートを買い食いするのが好きだ
新しい芋の商品が飛ぶように売れる様など感動すら覚える
芋嫌いの友人達を芋好きに染めていく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ友人達が私の作り上げた芋料理を食べ歓声を上げながら料理を口に掻き込んでいくのも最高だ
料理サイトに書き込んだ自分の創作芋料理が閲覧者に実際に作ってもらい、「美味しかった」などと感想を書き込まれた時など絶頂すら覚える
蒸かした芋を滅茶苦茶に潰すのが好きだ
調理に失敗してしまい食材となった芋がゴミとして捨てられていく様はとてもとても悲しいものだ
芋の物量に押し潰されて窒息させられるのが好きだ
どこかのサイトで芋嫌いによって芋アンチされるのは屈辱の極みだ
諸君 私は栽培を天国の様な栽培を望んでいる
諸君 私に付き従う脳内会議者諸君
君達は一体何を望んでいる?
更なる栽培を望むか?
遠慮のない山の様な栽培を望むか?
知識智慧の限りを尽くし三千世界の彼方を埋める絨毯の様な栽培を望むか?
『栽培!栽培!栽培!』
「よろしい ならば栽培だ!」
「ちょっと、うるさいわよ。商売の邪魔になるから早くどきな」
「あ、すいません」
行商人のおばさんに叱られてしまった。どうやら嬉しさのあまり正気を失っていたみたいだ。恥ずかしっ!
だが、だが、そんなことは些細なことだ。ジャガイモが無いから完全に諦めていたんだけど・・・・・・。まさかサツマイモがあるとは。流石外史。侮れない。
「ふ、ふふふふふっ。何を作ろっかなぁ〜。天ぷらか?シンプルに焼き芋?面倒だけど焼酎もありだよな・・・・・・。あぁ、夢が広がる。ふふっふー♪」
まぁ、それも全て栽培が上手くいったらの話だ。上手くいかなかったなら絵に描いた餅となってしまう。きっちりと計画を立てて失敗はないようにしなければ・・・・・・!!
とにかく、ここに売ってる全部のサツマイモを買い占めるか。
「おばさん!これ全部頂戴!」
「だれがおばさんだって?」
「あ、すいません。お姉さんでした」
「よろしい」
こ、こええええぇぇぇ!!??何あの眼光?ギヌロッ!とか擬音ついてたよあれ。将軍もかくやって迫力だったよ。将軍生で見たことないけど。
「全部買うのはいいんだけどさ?あんたお金はあるのかい?」
ふっふ〜ん。そう言われるのは予想済み。そして予想している以上対策があるのも至極当然。
俺はおば、じゃなくてお姉さんにサツマイモを売らないで取っておくようにお願いしておき、そして家までそれを取りに行った。
暫くして戻ってきた俺を、お姉さんは驚いたような顔をしてみていた。まぁ、大きな壺を持ってきているんだから吃驚するのも当然か。
「ほい、これが代金代わりだ」
「これが?」
お姉さんが壺を訝しげに見ている。つぼの周りを見てまわっているようだけど、別におかしなところはない。特に高価なものでもないしな。大事なのは中身ってことよ。人と一緒だな。
お姉さんが壺の蓋を開けて中身を調べて見る。中に入っていたのはドロリとした液体。それを指で掬って舐めたお姉さんは驚愕!といった顔をした。
「おい!あんた!これってもしかして・・・・・・!?」
「そう、蜂蜜だ」
ケケケ、と悪そうな笑いを浮かべる俺。養蜂に成功しているってことは勿論蜂蜜も取れているってことなんどよな。遠心分離機を作るのに手間取ったけど、作ってから我が家の財政は一気に潤ったぜ?
なんせこの時代、甘味ってのはまだまだ高価なもんだ。それこそ一部の権力者や金持ちだけに許される贅沢で、庶民じゃぁ手が届くはずがないもの。それを俺が持っているってことは・・・・・・。
「もしも俺がこれを安定供給できる、って言ったらお姉さんならどうする?」
「ふん。そんなのは決まっているだろう?分かりきったことを聞くんじゃないよ」
蜂蜜ってのは、養蜂技術が確立されるまでは安定供給なんて出来るものじゃなかった。山までいって、蜂の巣をひいこらしながら探して。そして見つけても蜂に気をつけながら取るしかないもんだったんだよな。だからこそ供給量に限りがあるし、高値にならざるを得なくなってくる。
もしもそれが量産できるとしたら?
答えは簡単。ぼろ儲けのチャンスってぇわけだ。
俺は行商のお姉さんに蜂蜜を売って安定収入を。お姉さんは俺から仕入れた蜂蜜をお偉いさんにさらに高値で売ってガッポリ儲ける。お偉いさんも安定して美味しい蜂蜜を買うことが出来る。まさにwin−winの関係だぜ。
しかも俺はサツマイモまで買えるしな!ここ重要!
「今はこんだけしかないけど、定期的にもっと多くの蜂蜜を卸せるはずだ。宜しく頼むぜ?」
「ふん!生意気な餓鬼だね・・・・・・。まぁいいだろ。これはうちらにとってもいい商談だ」
こうして俺とお姉さん――後から聞いたらこの行商団のオーナーだった――は話を詰めていく。俺はどれくらいの量が、どれくらいの時間で取れるのか、その見積もりを。お姉さんはその量とこの質だったらいくらで買い取れるのか、その値段を詰めていく。かなり激しく議論を交わしていくが、基本win−winの関係なので拗れることはない。
まぁ、そんな契約の交渉をしながらも、頭の中では「栽培」コール一色だったけどな!サツマイモの栽培法は前世で詳しく調べていたから、完璧とはいかないけどちゃんといけるはずだ!いやぁ、サツマイモ料理が食べられることを思えば、こりゃたまらん、涎ズビッてなもんだぜ。
サツマイモの栽培が上手くいく時が今から既に待ち遠しいぜ。上手くいくといいんだけどな
説明 | ||
気功を習得した姜維=雷華。 そんな彼女の日常 |
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