真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第十一話
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「北郷さん、この件はどうしましょう?」

 

「北郷様、この荷物はどちらに…」

 

「北郷殿、明日の盧植様のご予定は…」

 

 俺が洛陽に来てから二ヶ月程が経った。

 

 最初の方こそ先輩方について仕事を教わってばかりだったが、しばらくして

 

 流れが分かってくると特に誰からも教わる事もなくなり、今では逆に俺から

 

 皆に指示を出している位になっていた。(ちなみに先輩方からそれについて

 

 まったく反発はなく、むしろ『北郷殿が来てくれて負担が減った』とか言わ

 

 れた位だった)

 

「その件は盧植様がお帰りになられてから改めてお願いします」

 

「その荷物は厨房の方へお願いします」

 

「盧植様は明日は昼から皇甫嵩将軍との打ち合わせが此処でありますので準備

 

 をお願いします」

 

 俺は皆に指示を出し終わると休憩の為に自分の部屋に戻る。

 

「ふぅ〜っ、宮仕えも楽じゃないよね…って別に宮仕えでもなかったかな?」

 

 そう呟いてからしばらく寝台に寝転がったままでいると、扉がノックされる。

 

(ノックは俺が『自分の国ではこんな風習がある』と言ったら、侍女さん達か

 

 ら支持を受けてこの屋敷内で導入される事となった。やはり女の人からして

 

 みればそういう合図があった方が嬉しいようだ)

 

「はい?開いてますよ」

 

 俺がそう告げると入って来たのは盧植様だった。

 

「お、お帰りなさいませ!」

 

「はい、ただいま」

 

 俺が少し慌ててそう言うと盧植様は何だか嬉しそうに返事を返してきた。

 

 

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「それでどうされました?何かご用事ですか?」

 

「あら、用事が無かったら来ちゃダメ?」

 

 盧植様はそう言うなり寝台から立ち上がろうとする俺の腕に自分の腕を絡め

 

 ると、そのまま俺の横に座る。

 

 ええっと…現状を整理すると、俺は寝台に腰掛けていてその横には俺の腕に

 

 自分の腕を絡めている盧植様が座っていて、そして…俺の腕には盧植様の胸

 

 がグイグイ押し付けられている。

 

「…って、どうされたのですか盧植様!?」

 

「あら、何か不都合でもあるのかしら?」

 

「い、いえ、不都合と言えば不都合ですけど決して不都合と言うわけでも無い

 

 という…」

 

 慌てふためく俺の顔をしばらく眺めていた盧植様は、腕を離すと大笑いし始

 

 める。

 

「ふふふふふ…ごめん、ごめん。ちょっと若者をからかってみたかっただけよ。

 

 ちょっとしたおばさんの悪戯と思って許してね♪」

 

「からかうって…それに盧植様はまだまだお若いですよ」

 

「あら♪そんなお世辞も言えるのね。ありがとう、此処は素直に受け取ってお

 

 くわ♪」

 

 盧植様はそれだけ言うと手を振りながら部屋から出て行ったのであった。

 

 ここ最近、二日に一回はあれをやってくるので正直いろいろヤバいのだが。

 

 他の人にそれとなく聞いてみても俺以外には特にそんな事をしているわけ

 

 でも無いみたいだし…何故に俺だけ?

 

 俺はしばらく考えていたが、結局何も答えは出なかった。

 

 

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 その頃、部屋に戻った盧植は机に座って考え事をしていた。

 

「ふぅ…本当、嫌になるわね張譲の奴。宦官のくせに何時も私の事を舐めまわ

 

 すように見てくるし。一刀がいなかったら私おかしくなってしまっていたか

 

 もね…でも何時もああやってからかわれて一刀は迷惑じゃないかしら…だっ

 

 たらどうしよう?」

 

(ちなみに一刀は盧植より真名を預かり済である。もっとも一刀の方はあくま

 

 でも『盧植様』としか呼ばないので盧植本人は少し不満に思っている)

 

 そう呟いて、初めて盧植は自分の中で一刀の存在が大きくなっている事に気

 

 付いて少し顔を赤らめる。

 

「もう、何考えているのかしら私…一刀は自分の子供だって言っても良い位の

 

 年なのに、これじゃ初めて恋する少女みたいじゃない」

 

 実際、盧植も若い頃には恋の一つや二つは経験済みではあるが、十八の年に

 

 許婚が賊討伐の戦で戦死して以来、身辺に男を近づける事は滅多に無くなっ

 

 ていたので、何故今になって遥かに年下の一刀にこんなに興味を持つのか自

 

 分自身でも良く分かっていないのが現状であった。

 

(ちなみに同僚である朱儁も未婚である為、周辺では二人は百合関係にあるの

 

 ではないかと、まことしやかに噂されている)

 

「ダメダメ、今は陛下の為、そして張譲や何進の専横を止める為に一刀の力が

 

 必要になるんだから。月からもその為に一刀を派遣するって言ってたし…」

 

 盧植は考えを振り払うかの如くに首を左右に振っていたのであった。

 

 

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 数日後。

 

「一刀、この書簡を皇甫嵩将軍のお屋敷まで持っていってくれるかしら?」

 

「はっ、かしこまりました」

 

 一刀はこれで何度目かになる皇甫嵩への使いとして屋敷の外に出ていった。

 

 ・・・・・・・

 

「しかしこの二ヶ月で宮中の勢力争いがおおよそ分かってきたな」

 

 俺はそう呟きながら皇甫嵩将軍の屋敷に向かっていた。

 

 俺が理解した限りでは現在、宮中の勢力は三つに分かれている。

 

 一つ目は張譲を始めとする十常侍とそれに従う宦官達の勢力。

 

 二つ目は何進を中心とした軍部の勢力。

 

 三つ目は軍部の中でも何進と距離を置いている者達の勢力。

 

 盧植様達は三つ目の勢力に属しており、張譲も何進もそれを自らの勢力に

 

 取り込まんと日々誘いをかけてきている状況だ。

 

 つまり現在、一応の静穏を保ってるのは微妙すぎる位のパワーバランスの

 

 おかげであり、もし盧植様達がどちらかに付く事になった場合には洛陽に

 

 大動乱が始まるという事になる。それを止める為に必要なのはやはり皇帝

 

 陛下の存在という事になるのだろうが、現状ではあくまでも張譲達が言っ

 

 ているように『奥で臥せっている』という事になっている。当然の事なが

 

 ら俺はそれが嘘である事は分かっているが、ならば今何処でどうしている

 

 のかが結局の所探りきれていないのであった。

 

「此処はやはりもう少しリスクを冒してでも中に入ってみるべきか…しかし

 

 やはりもう少し外堀を埋めてからの方が無難か…」

 

 

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 俺がそう考え事をしている所に声をかけてくる人がいた。

 

「ちょっとそこの者。道を聞きたいのだけどいいかしら?」

 

「…はい、何でしょう?」

 

 何だか少し上から目線の物言いにムッとした気分で振り向いた所にいたの

 

 は…物言いは上からだが背は俺より随分低い女の子だった。しかもその胸

 

 は服の露出に比べてそんなには…顔立ちは絶世の美少女と言ってもいいの

 

 にな。ていうかこの人も金髪でグルグル巻きとは…こっちじゃ流行ってい

 

 るのかこの髪型?それとも実はこの人は袁紹の親戚だったりとか?

 

「…何だか随分失礼な事を言われたような気がするのは気のせいかしら?」

 

「いえいえ、そのような事は。それで、どちらまでですか?」

 

「…まあ、いいわ。皇甫嵩将軍のお屋敷まで行きたいのだけど」

 

「皇甫嵩将軍のお屋敷でしたら私もこれから向かう所ですので、よろしけれ

 

 ばこのままご案内いたしましょう」

 

「なら、よろしく頼むわ。春蘭、行くわよ」

 

「はっ」

 

 金髪グルグルの人は後ろにいた黒髪の人に声をかける。すると突然黒髪の

 

 人が声をかけてくる。

 

「お主のような者が何故皇甫嵩将軍のお屋敷に用事があるのだ?」

 

「春蘭、いきなり失礼よ」

 

「華琳様の仰せではありますが、いきなり会った者が目的地に行く所だった

 

 などとは出来すぎです。もしやこれは我らを嵌める為に…」

 

 何だ、この人?それこそいきなり何を言い出すんだという感じだ。正直な

 

 話、二人を嵌める意味が分からないのだが。とはいえ、此処でくだらない

 

 揉め事などつまらないし…。

 

 

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「私は盧植将軍にお仕えしております北郷と申します。皇甫嵩将軍のお屋敷

 

 へは主人からの使いとして参ります所です。不審に思うのなら主人に問い

 

 合わせていただいても構いませんが?」

 

 俺がそう名乗ると、

 

「!…申し訳ない、北郷殿。部下が失礼な事を」

 

「ろしょく?ろしょく…ろしょく…誰だ?何処かで聞いた名だが…」

 

 金髪の人は謝意を示すが、黒髪の人の方はかなり訳の分からない事を言い

 

 出す。大丈夫か、この人?

 

「春蘭、中郎将の盧植将軍の事でしょう!陳留に行く前にお世話になったの

 

 をもう忘れたの!?部下が失礼しました。申し遅れましたが、私は陳留で

 

 刺史を務めております曹操、この者は私の部下で夏侯惇です」

 

 その名乗りを聞いて俺の思考は一瞬、真っ白くなる。この娘が曹操?あの

 

 覇王曹操?そしてこの残念な黒髪が夏侯惇?っていうか夏侯惇ってこんな

 

 残念な思考の人だったっけ?

 

「あの…どうかしました?」

 

 俺の身分が分かった瞬間に何だか言葉遣いが丁寧になった曹操の問いかけ

 

 に俺は我に返る。

 

「いえ、何でもありません。疑いが晴れたのならそれで私は特に何も。それ

 

 と私は単なる下働きですので別に敬語はいらないですよ」

 

「そう、なら普通に話させてもらうわ。でも…北郷って言ったわね。ただの

 

 下働きなのに随分と重要な任務を頼まれるのね?」

 

「皇甫嵩将軍と顔見知りなだけで頼まれただけでそんな重要なものじゃない

 

 ですよ」

 

 俺のその返答に曹操は曖昧に頷いているだけであった。

 

 

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「おおっ、曹操ではないか。久しいな、陳留での暮らしはどうじゃ?」

 

「おかげさまで、毎日が充実しております」

 

「うむ、お主の善政は洛陽にも聞こえておるぞ。お主の父もさぞかし向こう

 

 で喜んでおろう」

 

「将軍にそう言っていただいた事にこそ父も喜んでおりましょう」

 

 皇甫嵩将軍の屋敷に着くなり、曹操と皇甫嵩将軍は和やかに話をしていた。

 

「ところで…何故北郷と一緒なのじゃ?」

 

「少々道に迷っていた所で北郷殿にお会いいたしまして、案内してもらった

 

 のです」

 

「そうであったか」

 

「私は単に盧植様の使いでこちらに参る途中で曹操様にお会いいたしただけ

 

 の事。大した事はしておりません。お話の邪魔になる前に、これは主人よ

 

 り将軍にお渡しするよう仰せつかった物でございます」

 

 俺の方に話が振られたので、俺は盧植様よりの書簡を差し出す。

 

「うむ、確かに。では気を付けて帰れよ」

 

「はっ、ありがとうございます」

 

 俺は皇甫嵩将軍と曹操に一礼すると、その場を辞したのであった。

 

 ・・・・・・・

 

「皇甫嵩将軍、今の北郷殿の事ですが…」

 

 一刀が帰った後、曹操は皇甫嵩に一刀の事を尋ねようとすると、

 

「何じゃ?お主はああいうのが好みか?てっきり俺の事を好いていてくれて

 

 いるとばかり思っていたがな」

 

「何と!?華琳様、それは真なのですか!?」

 

 皇甫嵩はその質問をはぐらかすかの如くに軽口を叩き、それを夏侯惇が真

 

 に受けて詰め寄るので、曹操はそれ以上の質問をする事が出来なくなって

 

 しまったのだが、妙に一刀の事が彼女の心に引っ掛かったままになってい

 

 たのであった。

 

 

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「一刀、今日は大将軍府へ行きます。供をしなさい」

 

 曹操と出会った二日後、俺は盧植様にそう言われ何進の屋敷へと行く事に

 

 なった。

 

 しかし、どうも盧植様は俺から質問をしてほしいような素振りを見せるの

 

 で一応、疑問に思った事を質問をしてみる。

 

「あの…一体、今日はどのような用事で?確か大将軍様は盧植様とはあまり

 

 親しくはされていなかったはずでは?」

 

「そうよ、向こうから何かくればそれは訳の分からない愚痴か遠征の命令し

 

 か無かったくせに今日に限って『将軍一同を招いて親睦を深めたい』とか

 

 言ってきたのよ。絶対そうじゃない事位、子供だって分かる事なのに!」

 

 待ってましたとばかりに盧植様は喚き始める。どうやら俺は盧植様のスト

 

 レス解消の役回りになったようだ。

 

 それから四半刻程愚痴を聞かされた後、何進の屋敷へ出発したのであった。

 

 ・・・・・・・

 

「ようこそおいでくださいましたわ、盧植さん。何進閣下は執務の為少し遅

 

 れておりますので、来られるまでの間は不肖、この三公を輩した袁家の棟

 

 梁たる袁本初が取り仕切らせていただきますわ。お〜ほっほっほっほ!」

 

 何進の屋敷に着くなり出迎えたのは袁紹の高笑いだった。そして盧植様の

 

 テンションがとてつもなく下がっていくのが傍から見ていても良く分かる。

 

 ため息をつきそうになった俺に声がかかる。

 

「あら、北郷も来てたの?」

 

 それは曹操だった。

 

「これは曹操様、この間はどうも」

 

 

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 俺が挨拶をすると、袁紹と盧植様の二人が意外そうな顔をする。

 

「一刀、曹操殿と知り合いだったの?」

 

「華琳さんがこのような貧相な下僕と知り合いなどとは驚きですわね」

 

「いえいえ、この間たまたま道を尋ねられただけでして」

 

「そうね、成り行きで名を名乗る事にもなったけどね」

 

 俺と曹操の答えに二人は少々訝しげな顔をしながらも頷いていた。

 

「それにしても曹操殿がこっちに来られていたとはね」

 

「ええ、麗羽に顔を出すように言われてね」

 

 盧植様の問いに曹操は若干嫌そうな顔でそう答える。おや、曹操と袁紹は

 

 真名で呼び合う仲なのか。

 

「…そういえば、袁紹様と曹操様はご学友だったな」

 

 俺のその呟きに袁紹と曹操の両方が反応する。

 

「あら?…何故あなたのような方がそれをご存知ですの?」

 

「そうね…私と麗羽が同じ私塾で学んでいたのはもう三年も前の事。それを

 

 まったく関係の無いあなたが知ってるとは不思議ね」

 

 しまった…俺は知識上それを知っていたけど、普通ただの下働きがそこま

 

 で知ってたらおかしいよな。どう言い訳すれば…。

 

「い、いえ…やはり袁紹様程の有名なお方ともなればそういった小さい事ま

 

 で知れ渡ってしまう物。有名人の宿命とも言うべき事かと…」

 

「あらあら、そう言われればそうですわね。袁家の棟梁たるこの私の事を少

 

 しでも知りたいと思う者が多いのは確かですわ。ああ、この身からにじみ

 

 出る魅力が皆を狂わせるのですわね…生まれつきとはいえ、とめどなく溢

 

 れ出るこの魅力が憎いですわ」

 

 俺の苦しい言い訳に袁紹はご満悦な様子で身悶えていた。ふう、これで何

 

 とか…と思ったのだが、曹操さんの眼は俺を見つめたままであった。うう、

 

 やはり袁紹は騙せても曹操を騙すのは無理か…。横を見ると、盧植様は苦

 

 笑いしたまま傍観していた…なかなか薄情な主人です、はい。

 

 

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「北郷、あなたは…」

 

「何進様の御成りです!皆、畏まってお迎えするよう!!」

 

 曹操が俺に声をかけようとしたその時、衛兵さんの声がかかり、皆がその

 

 場で平伏する。ふぅ、とりあえず助かった。

 

 少しして、ドカドカと足を踏み鳴らして少し恰幅の良い中年の男性が現れ

 

 る。どうやらこの人が大将軍何進のようだ。

 

「皆、ご苦労。良く俺の為に集まってくれた」

 

 何進は皆がいるのが当たり前のような顔でそう言っていた。

 

「おや、朱儁と皇甫嵩の姿が見えんな」

 

「恐れながら…二将軍におきましては件の賊の集団の討伐に向かいましてご

 

 ざいます。この度は二ヶ所での報告がございましたれば」

 

 何進がムッとした顔で言ったその言葉に盧植様がそう答える。

 

「件の…ああ、例の黄色い布の輩か。ふん、くだらん者どもめが…まあ良い。

 

 そのような賊如きすぐに片付くであろう。それより、今日此処に集まって

 

 もらったのは他でもない。宮中における張譲ら宦官どもの専横はもはや止

 

 まる所を知らず、それに対する怨嗟の声は各方面から上がっておる。そこ

 

 でじゃ、この大将軍何進の名において憎き十常侍の奴らに断罪を食らわす。

 

諸君等もそのように心得ておいてもらいたい。今度こそ洛陽に巣くう害虫

 

 どもを一掃するのだ!」

 

「はっ!この袁紹、何進様の御為ならば何時でも身命を賭して事にあたる覚

 

 悟にございます」

 

 何進の宣言に袁紹が追従するとその場にいたほとんどの者が賛意を示すか

 

 の如く雄叫びを上げる。例外は盧植様と俺、そして曹操位だ。

 

 

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「どうしました盧植さん、華琳さん。何進様のお言葉に何の態度を示さない

 

 とは無礼でありましょう?それとも…まさか張譲に付くなどとは言いませ

 

 んわよね?」

 

 袁紹は何も言わない盧植様と曹操にそう言って詰め寄る。

 

「いえ、そのような事は…しかし一体どのようにして?張譲側とて警戒はし

 

 ておりましょう?」

 

「ふむ…盧植の申す事も尤もじゃ。じゃがな、如何に張譲とはいえ丸腰にな

 

 らざるを得ない時があるのだ」

 

 盧植様が疑念を逸らすかのように口にした質問に何進はニヤリと笑ってそ

 

 う答える。

 

「それは?」

 

「先帝が亡くなって今年で二十年目になった。そこで一ヶ月後、先帝の追悼

 

 の儀式が執り行われる。そこに参列する者は全て武器の携帯を禁じられる。

 

 だが警備にあたる者は別じゃ」

 

「まさか…でもあの張譲が自分を殺すかもしれない者に警備を任じるはずは」

 

「そこで盧植さんと華琳さんの出番という事ですわ」

 

 盧植様の質問に答えたのは袁紹であった。

 

「と申しますと?」

 

「前々から張譲は盧植さんに近付こうとしてましたわね。そこで逆にあなた

 

 の方から張譲へ近付いていただければ間違いなくあなたに警備を任じるは

 

 ず。そこに盧植さんの部下と偽って華琳さんの兵も加えればもはや張譲に

 

 逃げ場は無し。首尾良く事が運べば後は何進閣下が陛下に奏上して後の事

 

 を収めますわ」

 

 

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「おそれながら」

 

 ずっと黙っていた曹操が口を開く。

 

「何ですの?華琳さんは何かご不満でもあるのかしら?」

 

「いえ、そうではなく…確か陛下におかせられましては病により奥で臥せっ

 

 ておられると聞き及んでおりますが?如何に先帝の追悼とは申せ重病の身

 

 で出られて何かありましたならばその方が問題ではないかと」

 

 曹操のその質問には何進が答える

 

「曹操と申したの…お主は陛下がご病気と本気で信じておるのか?」

 

「!…それでは、やはり」

 

「そう、陛下は今張譲によって捕らわれの身となっておられる。じゃが先帝

 

 の追悼と言っておるのに閉じ込めておくわけにもいくまい。何かしらの手

 

 は講じてくるだろうが、張譲さえ殺してしまえば問題は無い」

 

 何進はそう言って笑っていたが…正直、俺だったらそんな程度の事でみす

 

 みすやられにはいかない。幾ら盧植様が何進と距離を置いているからとい

 

 っても張譲側からしたら警戒する相手には変わりないはずだ。そんな所に

 

 変に近付いていったら盧植様自身にいろいろな意味で危険が降りかかるだ

 

 けだろう。

 

 盧植様も曹操も同じような事を考えているのだろう、その眼は険しいまま

 

 だった。

 

「ともかく、頼んだぞ。それでは今日の所はこれで、仔細は追って通達する。

 

 解散!」

 

 何進と袁紹はそれに気付く様子も見せずにご満悦の様子で皆に声をかける

 

 と屋敷の奥に消えていった。

 

 

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「…という事よ」

 

 その日の夜、盧植の屋敷に朱儁と皇甫嵩が呼ばれ、盧植より事の顛末が伝

 

 えられた。

 

「馬鹿な…何進の奴はそれで本気で成功すると思っておるのか?」

 

「むしろあっちの罠にかかりに行くような物ではないのか?」

 

 二人は言葉は違えど『無理に決まっている』という意見では一致していた。

 

「そもそも今日武官が大将軍府に呼ばれたのはとっくに張譲の耳に入ってい

 

 ると考えて間違いないでしょうしね」

 

 盧植のその言葉に二人とも頷く。

 

「しかし…本当にその場に陛下が出てくるのであればそれはそれで好機じゃ

 

 がな。何とかお助け出来れば一気に風向きは変わるのは間違いない」

 

「確かに義真(皇甫嵩の字)様の言った通りになれば…だけどね」

 

「やっぱり樹季菜も陛下は来ないと思う?」

 

「おそらくは…重病で動けないってどうとでも言い繕って代理の貴族でも連

 

 れて来られたら何も出来はしないでしょ。姫君様達も行方不明みたいだし」

 

「姫君様方の行方はまだ分からんのか?」

 

「ええ、張譲も何進も八方捜しているみたいだけど、手がかりも掴めてない

 

 そうよ」

 

「月からそれについては何も言って来てないの?」

 

「月も捜してるとしか…でも頼れる所なんかそんなに無いはずなのだけど」

 

「ふうむ…しかし何とかならんものか。このままでは…」

 

 三人はそれ以上何も答えを出せないままであった。

 

 

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「それじゃこれを天水までよろしくお願いします」

 

 俺が手紙を渡すと受け取った人は闇に消えるようにいなくなる。今手紙を

 

 渡した人は、董卓さんの手の者だ。俺の役目の中にはこうして定期的に連

 

 絡する事も含まれている。そもそも董卓さんは俺を盧植様に仕官させて内

 

 部を探らせるのと同時に自らの息がかかった者も他に洛陽に潜入させて俺

 

 との連絡や独自の情報網の構築に役立てている。

 

「さて、後は…その先帝の追悼の儀式とやらでだな。むしろ好機になるかも

 

 しれないし」

 

 ・・・・・・・

 

 数日後、天水にて。

 

「そうか…先帝の追悼の儀式とな」

 

 命は董卓より一刀からの手紙を見せられてそう呟く。

 

「命様、その儀式の時にもしかしたら…」

 

「ああ、何やらややこしい事が起きそうな気がしてならん。じゃが…一刀は

 

 もしかしたらそこで何かしらのきっかけを掴んでくれるかもしれんな。頼

 

 んだぞ、一刀…」

 

 命はそう言って洛陽の方角をじっと見つめていた。

 

 

 

                                           続く。

 

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 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回は…いきなり華琳さんが登場させてみました。本当は

 

 別の人にしようかと思ったのですが…結局彼女になってし

 

 まいました。一応これからも、もう少し出る予定です。

 

 一応次回は先帝の追悼の儀式が行われている裏で

 

 色々と…という流れです。

 

 

 それでは次回、第十二話でお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 作中に出てきた『黄色い布の賊』は言うまでもなく

 

     黄巾党の事です。まだ現段階では大規模な乱までは

 

     発展しておりません。黄巾編はもう少し後からにな

 

     りますのでもうしばらくお待ちください。

 

 

 

 

 

 

説明

 お待たせしました!

 前回に引き続き、洛陽での一刀の活躍を

 お送りします。

 でも基本的に表向きは普通に仕事をしている

 だけですけどね。

 そして今回もヒロインの登場はあまりありません。

 それではご覧ください。
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コメント
じゅんwithジュン様、ありがとうございます。確かにそうすれば万事解決…一刀の精力以外では、ですけどね。(mokiti1976-2010)
一刀は恋姫たちを全員攻略するという方法で大陸を平和にしてしまえばいい。(じゅんwithジュン)
あいりっしゅ様、ありがとうございます。しかし、華琳はここではメインヒロインじゃないので、もしデレても出番はかなり後回しです…多分。(mokiti1976-2010)
華琳のデレが早くみたい!と言ってみるw(あいりっしゅ)
陸奥守様、ありがとうございます。覇王様の活躍は…まあ、色々と考え中ですのでお待ちくださいませ。(mokiti1976-2010)
kyou様、ありがとうございます。きっと洛陽の美女全て引き連れて凱旋…ごめんなさい、冗談です。でもとりあえず同僚の方は今のところありませんので。(mokiti1976-2010)
summon様、ありがとうございます。華琳さんは基本的に一刀に興味津々ですよね…これからは未定です。(mokiti1976-2010)
牛乳魔人様、ありがとうございます。そして母娘の仁義無き戦いが…という流れだったらまだ楽に書けるものを(エ。(mokiti1976-2010)
D8様、ありがとうございます。さあ、今回の覇王様はどうしようかなぁ〜…とりあえずは敵ではありませんけどね。そして…お姉様のフラグはこのまま続くのか否か!?(mokiti1976-2010)
アルヤ様、ありがとうございます。お姉様は意外に男に対する免疫が低いので種馬オーラにあてられたものと推測されます。(mokiti1976-2010)
何時でも何処でも覇王(笑)な華琳が登場したが、その本領を発揮する時は何時か。めっちゃ期待してる。(陸奥守)
先生(&出来れば同僚も?w)とツンな覇王様と陛下と……さて、戻るまでに何人陥落出来るのか!?w(kyou)
華琳さまがデレる一歩手前、「曹操は北郷を興味深そうに見ている」が発動しましたね。これからどうなるのか、楽しみです!(summon)
一刀さんが天水に帰る時は、両隣に盧植先生と劉宏皇帝をはべらせて凱旋ですな(牛乳魔人)
さて、前作は覇王(笑)だった曹操ですが今回は果たして。そしてやはり盧植先生にフラグがたっていた!!(D8)
さすが種馬、早くもお姉様を陥落させてやがるwww(アルヤ)
平野水様、あいがとうございます。相手は百戦錬磨の化物ですので、果たして…という所ですね。(mokiti1976-2010)
飛鷲様、再びありがとうございます。確かに一緒にいる限りは時間の問題です…しかし(エ。(mokiti1976-2010)
たっつー様、ありがとうございます。やはり春蘭はああでないとですね。ちなみに秋蘭は留守番をしております。そして…お馬鹿どもは当然引っ掻き回してポイですとも。(mokiti1976-2010)
きまお様、ありがとうございます。落ちるまでの時間及びお姉様に襲い掛かられる時間ですね。そしてやはり原作でも中心人物にあたる人が出てくるとやはり幅が出ます。(mokiti1976-2010)
禁玉⇒金球様、ありがとうございます。百合は噂に過ぎませんよ。後は…似た感じになってきてますけど(オイ。(mokiti1976-2010)
きっと朝に盧植さんのお肌が艶々する日が来るのも時間の問題な気がする。(飛鷲)
↓時間の問題・・・落ちるまでの時間、という事かwさすが一級フラグ建築士の一刀さん!ツンデレツインドリルが出て話が膨らんできましたね。(きまお)
真・恋姫†無双 異伝 超外伝 「百合とツバメと熟女の狭間に」(禁玉⇒金球)
一丸様、ありがとうございます。はい、なかなか可愛らしいお姉様です。そして、相手が嫌がってなければ既にそれはセクハラとは言わないという…後は時間の問題か?(mokiti1976-2010)
いや〜、盧植お姉様はかわいらしいですねえ〜wwセクハラも、まあ一刀君が嫌がってはいないでしょうし、ほどほどにしておけば、問題ないよねww・・・ではでは、続きを楽しみに待ってます。(一丸)
飛鷲様、ありがとうございます。フラグを立てる事に関しては一刀の右に出る奴ぁそうそういないでしょうね…何せ年齢層広いし。(mokiti1976-2010)
流石、一級フラグ建築士だな。(飛鷲)
いた様、ありがとうございます。いろいろ考えたのですが、華琳さんで落ち着きました。次回以降の活躍もお楽しみに。(mokiti1976-2010)
naku様、ありがとうございます。噂その1はどうやら真実が混じってそうですが、その2については原作キャラが出てくると一気に下がるので…。(mokiti1976-2010)
わぁ、本当に出てきたwww 。 話としては曹操が出てくる方が後の展開も楽だなと思います。次回も楽しみに待ってます!!(いた)
観珪様、ありがとうございます。種馬能力は相手の年齢に関係なく発動するものと…でも盧植はまだ完全にオチたわけではないですけどね。(mokiti1976-2010)
やっぱり盧植さんは攻略済みでしたかww さすがは一刀くん、ゆりかごから墓場まで、ですなww(神余 雛)
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