義輝記 序章 その参
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【 颯馬、仲間の絆を再確認するの件 】

 

あれから刻が流れた。日の本を出たときは、秋の訪れを感じる夏だったが、こちらに来てから初めて感じる春の訪れだった。

 

あれから、堺から薩摩を経由して、応天府(南京)付近の港に無事到着。

 

大陸の情勢を大きく変化させる程の年月も経っていないが、賊の討伐、官軍等の客将や復興の手伝い等を行いつつ、情勢収集も兼ねて『大陸』の各地を巡っている状態である。

 

義輝達の供となった7人の仲間達は、それぞれ打ち解け合い、または助け合いながら義輝様を支え続けた。

 

性格、生い立ち、年齢、性別、環境と前会う場所と違えど、同じ道を行く者。

 

苦しむ時は皆で耐え、悲しい時は慰め叱咤激励し合い、怒れる時は力に変えて困難に向かい合い、嬉しい時は皆で笑いあった……俺の大切な主君と仲間達。

 

出会った時に比べ、遥かに『絆』が深くなったと、俺自身は思っている。

 

だから、誰一人欠けさせないように、行く手阻む強敵を排除出来るように、自分の軍略を強くしなければ……。

 

俺は、心中深くに誓いを立てる。この者達と共に『大陸』を平和にし、必ず日の本に帰るのだと!

 

それから、二十日程経過。ここは、順天府(北京)近辺の街。

 

今日は、街に買い物に来ている。泊まっている宿の部屋に籠もると何か溜まる為、気分転換をするための外出。久しぶりに、日の下に出てきたような気がする。

 

平穏無事な日々が続き、『 こんな日常が…続いていけばいいのに… 』と独り言を呟いてしまい、慌てて見渡すが…知ってる顔は居なかった。

 

ホッとした後、ふと見上げれば、あの時と同じ晴天だった。

 

義輝様の供へと求められ、光秀と一緒に『大陸』へと行く事になり、不安と期待で心が定まらなかった、当時の自分を羨ましく思っている俺がここにいた。

 

誓いの後、仕事が無ければ、部屋に閉じこもり古今東西の兵法書、歴史書を読み漁り、自分だったらどうすれば勝てた、こうなれば負けてたと頭の中で想定して動かす。

 

休日になれば、終始部屋に籠もり策を考え、腹が減れると外に出て飯を食べる。食べ終われば部屋に戻り、また頭の中で戦をし、疲れたら寝る。

 

俺は、皆を守るため、必ず勝てる軍略の構築を試行錯誤して目指している。看破が出来ない、敵が必ず全滅する、こちらが傷付く事無く、必ず勝てる策を…!

 

皆が、心配して声を掛けるが、『 これは軍師としての悩みだから、なんとか自分自身で解決したい! 』と強張った笑顔でお願いしたので、皆渋々応じてはくれるが…。

 

外に出るたびに、小太郎や光秀が心配そうに、昌景殿や鹿介殿は俺の顔を見ても一言も喋らず、信長や義輝様は、何故か双方背を相手に向けて、目を閉じ押し黙っていた。

 

それからも、寝ても覚めても、より完璧な軍略を考えて勝利を得る事を考え続けていた。

 

だが、考えるたびに策の綻びが気になり、補正すればするほど策に余裕が無くなる。

 

そして、考える俺の身体も、疲労で少しずつ衰弱していくのが、体感出来る……。

 

『 だが、いかんな…。こんな弱きな考えを、浮かばせてしまう事が多い、とは。もし、策が破られ、仲間達が討たれたら、どうする…!! 』と、また独り言を吐き出す。

 

三太夫「 討たれなんかしないよ、天城の旦那! 」

 

光秀「 そうですよ、颯馬 」

 

いつの間にか左側に…三太夫と光秀が!

 

昌景「 颯馬の言うこともよくわかるが、己の身体も大事にしないと、いざと言うときに役に立たないものだぞ。儂の経験からだ! 」

 

小太郎「 そうです! 颯馬様が亡くなれば、私、生きていられません!!! 」

 

と右側に、昌景殿と小太郎が?!

 

鹿介「 皆さん、颯馬殿を心配していたのですよ。部屋に閉じこもってばかりだから…! 」

 

信長「 いや、私はただ、晴天だから、外へ出掛けようと、思ってな… 」

 

義輝「 何を言うか。 『 颯馬が倒れているかもしれん!! このまま出てくるのを待っていられるか!!! 』と言って、扉を蹴破ろうとした信長とも思えん台詞よの。止めるのも何度目になるか…… 」

 

信長「 何を関係なさそうな事を申しなさる! 義輝様も、何回か颯馬の部屋に様子を窺いに入ろうとしたであろう? 私がわざと部屋の傍を通らなければ、危ないところだった!! 」

 

義輝「…信長よ、いつから部屋の監視していたのじゃ? 結構、間隔を開けて部屋に訪れたのに、何故かお前に出会うので不思議に思っていたのじゃが? それに何が危ない? 言ってみるが良い!! 」

 

後ろから、鹿介殿、信長、義輝様が近づいて来るが、途中、義輝様と信長が口論を始めだした。義輝様が「後で顔を貸せ」とか言っているが、信長はそっぽを向いている。

 

どうして、皆も街に? ……さっき確認した時は居なかったのに?

 

義輝「 なに、我らもあの日の天気と同じだったな、と思い出して出てきたまでじゃ。…別に颯馬が三日間部屋から出て来ないため、心配で付いてきたわけではないのでな! 」

 

俺は、三日も部屋に居たのか?! てっきり半日ぐらいと思っていた。

 

義輝「 颯馬よ、軍師に考えるなと言うのは、無理かもしれん。じゃがな、わらわ達は仲間じゃろう? まずはわらわ達に相談せい。大した力になれないかもしれんが、一人で悩むより打開策を見つけやすいぞ?! 」

 

颯馬「 しかし、もし俺の策が見破られ、義輝様達が危機に陥ったら、どうすればいいのですか…………?! 」

 

義輝「 ……颯馬、わらわ達はそんなに頼りないかえ? わらわ達の力を見くびってはいないかえ? 颯馬の策が破られば、わらわ達が奮戦すればいい。颯馬は、己の力を信じ、己の策を信じ、わらわ達を信じ、最後に勝利を信じればいいのじゃ! 」

 

無茶苦茶な理論だと言うのは分かるが、何故か納得が出来た。俺だけの力では限界ならば

仲間にお願いして、分担すれば負担は軽くなるし、成功率も上がる。

 

早い話、『 私達を頼れ! 』と言うことだったのか。

 

俺は、皆の事を考えたつもりが、逆に心配させてしまった件を謝罪し、協力を仰ぐことを

約束した。義輝様達は、笑いながら了解してくれた。

 

その後に俺は倒れ、皆を慌てさせてて、七日間絶対安静となってしまった。

 

◇◆◇

 

【 颯馬、策を思案して落ち込んだの件 】

 

皆より励まされ、新たな軍略を考えながら、大陸を巡り廻る。と、言っても今度の軍略はあの時とは違い、完璧な勝利を考えていない。

 

昌景殿の主君である『 武田信玄 』殿は、七分の勝ちを奨励したという。

 

『 六分勝ちなら上を目指そうと考え、八分勝ちから慢心する 』と。

 

俺は、十分の完璧な勝ち方を目指して試行錯誤したが、そんなものは、まず無理だったのだ。勝つ気が慢心だったというのに気が付かず…。

 

そして、残り三分は、義輝様達の采配を信じて策を託す事。これが自分が目指していた勝利だと、悟ったから。

 

そんな中、賊が『 天水 』付近に現れたという知らせが入ったのは、つい昨日の事だ。

 

あれから大陸をまた巡り、偶々近くの街で滞在していた義輝様一行。

 

賊は、約百名の小隊。『 天水 』から南に三里(約1,3`)ほど離れた草原で様子を窺っているとのこと。 無論、義輝様が、この状況を捨て置く筈がない。

 

俺を含む三名を偵察に派遣、残った義輝様達が攻守どちらも取れるようにと、続報を待ちつつ手筈を整える。

 

本来、軍師の立場上、義輝様の側に居なければいけないのだが、賊の規模と地形を直接確認しておきたくて、義輝様より許可をもらった。

 

理由は二つあり、一つは師の教え。

 

『 策を考案するなら、まず実地を確認する事が基本です 』と、師匠の一人である島津歳久殿に散々教え込まれた経験から。

 

俺が日の本にまだ居て、姫武将達を説得した夜の事。

 

島津歳久殿が急に俺の部屋へ訪ねられた。 

 

俺の戦略、戦術には甘さがあるらしく、そこを大陸の軍師達につけ込まれれば、義輝様達を滅亡に導くはめになりかねない。

 

そのために、政務を終わらせてから訪ねてくれたという。

 

俺の心配をしてくれているのかと思い、礼を言うが

 

歳久『 義輝様が命を落とされれば、日の本という国が侮られ、大陸から日の本へ戦が広がる可能性があります。そんな事にならないように、颯馬には頑張ってもらわなければいけません! 全く、馬鹿颯馬は、そんな事も分からないのですか? 』

 

と、言われ深く落ち込んだ。

 

そんな訳で大陸へ渡る三日間に教わったのだが、何故かこの事が知れ渡り、他の軍師を司る姫武将が俺の部屋に来ては、教授していってくれたのだが……。

 

……そんなに、俺は、軍師として、力不足なのかな?

 

と、そんな事が脳裏に蘇り、また気分が落ち込んだ。

 

…まぁ、その話は捨て置いて、実地確認の重要性を、他の師匠達からも補足事項という事で教えてもらったが、こんな事になるらしい。

 

?実地で見れば策が作りやすく、また欠点も見えやすい。

 

?早く策が出来れば、次に作る策に余裕が出来るし、欠点が分かればそこを補完するなり、逆にわざと策を破らせ、別の策を用意して仕掛ければいい、という利点がある。

 

そして、もう一つ。

 

官軍の到着前に賊討伐を終わらせるため。

 

義輝様と官軍との間には、不信感があり、とてもじゃないが共同戦線なんて出来るものでは無いと断言できる。

 

三太夫「 そうだな、俺も無理としか言えないな…  」

 

義輝様達には、この『大陸』に到着したときの官軍の横暴を目の当たりにし、尚且つ自分達も受けてきた経験があるためだ。

 

小太郎「 ほんと、腹立ちます!! 小さい子やお婆さん達を苛めたり、義輝様や私達に乱暴しようとするし! しかも、颯馬様の目の前で!!!! 」

 

官軍にとっては、海を越えてきた得体の知れない者の癖に、民達の信望を集める憎き者。

 

三太夫「 そりゃね。自分達の事、棚上げで文句言う奴はどこでもいるわな 」

 

これでは、同時に賊を攻撃すれば、仲違いか足並み揃えきれずにつけ込まれ、負け。

 

小太郎「 そんな不埒な官軍達は、お仕置きです!! 」

 

どちらかが街を守り、どちらかが攻撃すれば、今度は疑心暗鬼で個別撃破で負け。

 

三太夫「 賊と敵に見える味方の両方相手じゃ、力が分散されて負けだよな 」

 

こんな事にならないように、賊の規模と地形をしっかり確認しなければ!

 

小太郎「 颯馬様、頑張りましょう!! 」

 

って、俺の頭の中で考えてた事、わかるの?

 

三太夫「 いや、走りながら普通に独り言呟いていたぜ。器用だな、旦那 」

 

軍師が考えていた事を呟きながら走るなんて…………絶望した!!

 

今度は口に出さずというか、ゼエゼエと息継ぎしたから言えれないが正しい。

 

偵察に向かう三太夫と小太郎をヨロヨロ追いかけた…。

 

 

【 賊の意外な結末とある人物の件 】

 

一刻(約二時間)後、目視出来る場所まできたが、俺達は『 ? 』とも『 ! 』とも頭に浮かばせ驚いていた。

 

と、いうか予想が出来る範囲をかなり越えている状態…。

 

武装していたと思われる賊約百人( 周辺に武器や鎧が散らばっている )が、何も無い草原で全員仲良く気絶中。

 

…しかも、全員が見たくもない裸の姿で。

 

仲間達に周辺の探索と賊の捕縛を頼み、俺は尋問のために賊を一人捕縛してから起こす。

 

賊は『 褐色筋肉質で形容し難い服を纏った大男が、襲いかかってきた。武装していた俺達を、大男は素手でなぎ倒し、尚且つ服まで剥ぎ取られた。大男は、俺達をこのままにして、天水に向かった(要約) 』と早口で語る。

 

だが、姿が自分達と違うと分かると、急に喚き立てだした。

 

どうやら、俺を援軍と間違えたようだ。もしかすると仲間がいる可能性も考慮しなければいけないかもな。

 

だが、時もあまりないため、こいつにはしばらく寝てもらった。

 

その後、賊達の状態を確認したが、全員外傷等は全く無し。

 

ただ、共通するのが、頬に接吻の痕があっただけだが…何故か俺の背中に強烈な悪寒が走り、暫く震えが止まらず、皆に心配かける羽目になった。

 

縛り上げた賊達を、丁度こちらに向かっていた天水の官軍へ引き渡す。

 

やはりというか当然の反応というか、裸の賊達を見て怪訝な顔をしている。

 

それだから、『 この賊の捕縛の手柄は官軍に贈呈する。俺達は民が救えればそれでいい 』と説明して納得させた。ついでに、こいつらは、先発隊で本隊がいるかも知れないから注意するように伝えた。 …無視すれば街に被害が出るからなんとかするだろう。

 

ついでに、賊の武器や衣服等も官軍に事情説明した時に渡しておくのも忘れない。賊の物をあのままにするわけにもいかないから。

 

◆◇◆

 

【 …都の踊り子、登場の件 】

 

後始末が終了後に義輝様に報告。

 

事態に不振に抱いた義輝様は、かの大男を捜すために天水に移動、仲間達に情報収集及び捕縛を命じられる。

 

特徴がもの凄く分かりやすい大男だから、すぐに手掛かりが掴めると考えていたのに、何故か目撃情報が皆無………だと?! 

 

まさか、見たくもない姿だから無意識に目が逸れたとでもいうのか?

 

そんな中、三太夫は忍びだけあり情報を得たというので、話を『天水』の茶店に入りながら聞き、捕縛する策を考えようとしていた。

 

三太夫「 旦那、『 幽霊市 』って知ってるかい? 」

 

颯馬「 あぁ、この天水で話すと、すぐにその話になるからな 」

 

三太夫「 そいつを見た奴の話だと、向かった先がその場所になるんだ 」

 

颯馬「 ……どう思う、三太? 」

 

三太夫「 それを考えるのが旦那の仕事って、その略し方、いい加減止めて欲しいんだけど!? 」

 

颯馬「 すまん、つい呼びやすいから。だがな、義輝様も結構気に入られて、皆にその愛称で呼ぶようにせよと…… 」

 

三太夫「 ちょっ、愛称って!? 天城の旦那ーーーー!!! 」

 

三太夫は、忍び=カッコイイという発想のため、かわいいものに変えると物凄く嫌がる。

 

三太夫「 …だから、忍びはカッコイイものだから、そんな愛称なんて付けられるのは、忍びの矜持に… 」

 

颯馬「 わかった、わかった。三太じゃなく、違う愛称で呼んでくれ、というわけだな 」

 

三太夫「 全然違う!! しっかり聞いてくれ!!! 」

 

俺に文句を浴びせる三太夫を弄りつつ、かの大男の行動を考えてみるが、全く全然浮かばない。

 

俺と共通点なんかないから、当たり前と言えばその通りなんだが……。

 

??「 あらん、わたしのことを探しているの? こんないいおのこ達に探求心を与えるなんて、わたしは罪な漢女なのねぇ 」

 

後ろから野太い声が! なんだ?! 前日の鳥肌が急に出てきたぞ!!

 

さ、さ、三太夫? 三太夫!!  駄目だ、白目向いてやがる! 

 

こうなれば、三太!!  起きなければ、お前は一生、愛称で呼んでやる!!

 

三太夫「 ……や、やめろ! 三太夫だ! 三太夫と呼べ!!! ………って、旦那どうしたん ウワッ!! 」

 

??「 ちょっっと! 失礼よあなた達! 漢女に対してその対応は?! わたしのか弱い心臓が衝撃で壊れてしまうわよん。……確かに、こんな美女が急に現れば驚くのは、無理もないと思うけどぉ… 」

 

後ろを向いた俺は、全身全霊を持ってユックリと対峙する。

 

一回ソレを見て気絶してたので耐性が出来たのか、今度は隙の無い身のこなしで俺の横に付く三太夫。

 

あの賊より聞いた『 褐色、筋肉質 』で『 形容し難い服を纏った大男 』が目の前にいる…。なのに、周辺の人々が騒がない。どちらかというと、こっちが奇異な目で見られている。

 

??「 ……残念。この外史ではわたしの美しさを分かる人は、少数のようねぇ。でも、今回用事があるのは、そこのア・ナ・タ! 」 

 

自称踊り子が片目を閉じると、急に砂塵が巻き起こる!

 

うぉーーー!! 暴風が!! 妖術の類いなのか?!

 

??「 うふん、可愛い反応。ご主人様と反応が同じで体が疼くわぁぁ!! 」

 

と、鳥肌がーーーーーー!! 三太夫、何とか出来ないのか!

 

三太夫「…力量がまるで違う。俺が動いた途端、旦那と俺の首はおさらばになりそうだ」

 

??「 その前に、お仕事っと。まず自己紹介ね、わたしは『 貂蝉 』、都で踊り子を行っているわん。その子の後ろに隠れているあなたが、天城颯馬で間違いないかしら? 」

 

な、なんで俺の名前を? その前にお前が踊り子? いや、その前に服……あぁーーー突っ込みどころが多すぎる!!!!!

 

三太夫「 旦那、すまねぇ。 俺が対応させてもらうよ 」

 

そう言って、俺を自分の後ろに庇うように前へ出た。

 

三太夫「 取り込み中のとこ悪いが、俺が話をさせてくれ。俺の名は、百地三太夫。旦那はどうもあんたに目を奪われたようでね。確かに天城颯馬で間違いない 」

 

……確かに、悪い意味で目をうばわれたな。

 

貂蝉「 ご紹介ありがとねん。じゃ、言付けよん? 今日の夜遅くに『幽霊市』が開かれるわ。そのときに、見せたい物と頼みたい事があるの。足利義輝様と仲間達、皆で来てちょうだい!! とっても大事な話だから!! 」

 

三太夫「わかった。主君に伝えておくよ」

 

貂蝉「 宜しくね。じゃ、ぶうるるるわぁぁぁっ!! 」

 

また、片目をつぶったと思えば、暴風を巻き起こしつつ、姿を消した…。

 

三太夫「旦那、これは義輝様に報告しなければならない事だ。確かに危険な奴だが、悪い奴じゃないと思うんだよ。俺達の命を奪わなかったし、旦那に変な真似しなかったしな」

 

颯馬「 …今回は、俺の出番は無さそうだ。軍師としては罠の可能性大だから止めろという意見になるが、お前を信じてその場所に訪ねられるよう進言してみよう 」

 

他にも、賊に怪我を負わせず撃退した事もあるから、そのことも踏まえて出した意見だ。

 

後、義輝様がどう採るかだ……。

 

◆◇◆

 

【 義輝様一行 新たな覚悟を決めるの件 】

 

俺達の泊まる宿の一部屋に、皆が集まり今後の対応を協議する。

 

義輝「…面白い話じゃ。夜になれば、ぜひ行こうではないか!」

 

やはり、こうなるか…と、予想通りで力が抜けた。

 

光秀「ですが、三太夫程の忍びが動く事が出来ない、武に秀でた変態自称踊り子なんて怪しすぎます!! 私は、反対です! 」

 

昌景「……ちと、話の途中で済まぬが、『幽霊市』とはなんの事だ? 」

 

鹿介「 昌景殿、この天水ではかなり有名な話ですよ?! 」

 

小太郎「 すいません、私も知らないんです 」

 

三太夫「 おいおい、忍びが情報収集やらないでどうする?! 」

 

信長「 まぁ、そう言うな。今回は急な動きだったから、対応が出来なくても仕方がないではないか? なあ、義輝様? 」

 

義輝「 そ、そうじゃの…… 」

 

………やけに、言い方が怪しいな。こうときは…当事者に聞くか!

 

颯馬「 小太郎。今日は何をしていたんだ? 」

 

小太郎「 ごめんなさい。颯馬様でも秘密なんです 」

 

颯馬「 正直に答えたら、頭をなでてやろう! 」

 

小太郎「 はい!! 実は義輝様と信長様と昌景様と私の4人で甘味処に寄りました! 」

 

なるほど。人があれほど恐ろしいめにあったのに、あなた達は甘味処だと…?

 

俺の顔の表情で察したのか、光秀が先に声を挙げた。

 

光秀「颯馬、このままでは話が続きません。あなたの怒りは分かりますから、義輝様達の罰は後で決めましょう。どなたか『幽霊市』の事を説明してもらえませんか? 」

 

三太夫「なら、俺が集めた情報の開示といこうか! 」

 

懐から天水周辺の地図を取り出したので、俺達は近くにあった机を持ってきて、その上に地図を展開させた。

 

三太夫「…まず、ここが天水っと。 ここが昨日、賊を捕らえたとこ。 そして、ここが今年出現し始めた『幽霊市』の場所 」

 

天水から向かうと、距離的には一里(約四`)程か。もし、向かうのなら夕飯を終えたら

すぐに行かないといけないな。

 

三太夫「この『 幽霊市 』現れ始めたのが十年前ぐらい。場所は色々と変わっているようで、数年前から今の場所に出現するようになってから、往復がとても楽だと評判だ! 」

 

信長「 ん? どういう事だ? 普通ならそんな得体な知れない物に近寄らないのが常ではないのか? それとも、何か利になる物でもそこに…… 」

 

三太夫「 流石、信長の姐さんは目の付け所が違う!! そこには、市が開かれいるのさ! それも、この辺りでは見掛けない物ばかり売っているって話だ 」

 

小太郎「 ど、どんな物を売っているんですか?! 」

 

好奇心旺盛に聞いてくる小太郎。体を乗り出す信長。内容をしっかり把握しようと腕組みをして、泰然自若としている義輝様。『 私は興味ありません 』という顔をしながら、耳をピクピク動かす光秀。昌景殿と鹿介殿は、また馬か武具かと興味深々な態度をとる。

 

無論、俺も三太夫を凝視して、次の言葉を待つ。

 

三太夫「 それは、俺も不思議に思い実際に買った奴に当たったよ。見たのは十点位かな。くっきーだとかいう甘い煎餅、冥土服という女性専用の仕事着、何故か『日本酒』と書いてあった酒があったな? 」

 

信長「 なに!! 南蛮渡来のあの甘菓子がここにあるのか!!! 」 

 

昌景「 この大陸の奥に日本酒があるとは……久しぶりに一杯やりたいものじゃわい! 」

 

鹿介「 冥土服、それは覚悟を決めたおなごが羽織る陣羽織みたいなものです? 」

 

三太夫「 まだあるから、後で説明するから! 落ち着け、落ち着いてくれ!! 」

 

義輝「 うむ、皆静かに。まだ続きがあるのなら聞かなくてはならないからの。大事な事があるかもしれん 」

 

一部突出した者達を義輝様が抑えて、三太夫に先を勧めさせる。

 

三太夫「 はっ、では続きを。…俺が他に見たものは、『 八百一 』という部類の艶本 」

 

義輝、光秀、小太郎、信長、鹿介「「「「「 八百一!!!! 」」」」」

 

な、なんだ!! 急に光秀達が叫んだぞ?! なにかとてつもない本なのか?

 

驚く昌景殿、三太夫、俺。なのに、姫武将達が全員俺に向き直り、言葉を叩きつける!

 

光秀「 颯馬は、知らなくてもいいです!! 」 

 

信長「 その通りだ。これは、おなごにとって大事な教本みたいなものだ!! 」

 

義輝「 命が惜しければ、探索などしてはいかんぞ!! 」

 

鹿介「 颯馬殿が追求するなら、某が身体を張って止めるのみ!! 」

 

小太郎「 禁断のアノ世界は、見せれませんし、行かせたくもありません!!!! 」

 

…………誰も読ませてくれとは言ってないのだが。

 

まぁ、日頃、書物に接する量が一番多いからな、俺は。だから、皆から特に強く忠告されたのだろう。………最後の禁断のあの世界ってなんだ?

 

昌景「 ………で! 結局、その幽霊市とはなんなのだ!? 」

 

少し怒気を含んだ昌景殿の正論で刻が止まる…………。

 

姫武将達は、真っ赤な顔をして下を向く。自分達が何言ったのか思い出したのだろう。

 

三太夫「 はっ、はい! 理由は不明ですが街や商売人達は生きた人間。しかも外見はこの街の人々は変わりないようで。なんらかの術を利用した『動く街』というのが、俺の結論です 」

 

義輝様は、改めて皆を見渡し宣言した。

 

義輝「 今、ここで申し渡す。酉の正刻(午後六時)に『幽霊市』に向かう! 光秀達の言う通り罠が仕掛けてある可能性もあるが、かの人物が我らの仲間を傷つけずに、わざわざの招きを受けたにも関わらず、知らぬ振りをするのは足利家の礼儀にも反す 」

 

 

義輝「 わらわは皆の命を預かる者でもあるため、今回は特別に供を外す! 疑う者は残れ! 一緒に命運を共にしたい者は来るがいい! 」

 

そういうと、義輝様は座り込む。

 

俺と光秀は、「 何を今更 」と笑いながら傍らに座る。

 

小太郎と三太夫は、旦那(颯馬様)がいないと困る!と俺の傍に。

 

昌景殿は、「 義輝様に粉骨砕身尽くすと誓いましたからな 」と義輝様の傍に。

 

鹿介殿は、「 七難八苦こそ、我が願い!! 」と胸をはり、義輝様の傍に。

 

信長「 日の本でどれだけ苦労して、ここへ出て来たというのだ! 」と言い放ち、出口へ向かう…………?!

 

義輝「 …………………… 」

 

信長「 義輝様、いや、義輝! なにをぼんやりしておる。今から飯にしなければ酉の刻限に間に合わぬぞ! 」

 

そう言って宿より出ていく。…ん? 今、義輝様を呼び捨てに?!

 

義輝「 あぁ、実は卜伝流の姉弟子に当たるのでな、信長は。……昔から呼び捨てにしては、わらわに稽古をつけてくれたものじゃ。昔も今も本当にに頼りになる姉弟子じゃ 」

 

皆、知っていたの? と振り向くと昌景殿と鹿介殿、三太夫が頷く。信長が話したそうだ。光秀、小太郎、俺は知らなかったのに、いつ話したのだろう。

 

義輝「 皆、すまんな。この足利義輝、感謝する!! 」

 

急に頭を下げられ、慌てふためく俺達。

 

義輝「 さて、信長に先に行かれてしまったから、わらわ達も急ぐかの? 遅れると信長に何を言われるかわからん! 」

 

俺達を即しながら、義輝様は笑顔で足取りも軽く出ていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

あとがき

 

今回も、読んでいただきありがとうございます。

 

やっと、『大陸』に入り、恋姫に関わるキャラが出せました。

 

予定でしたら、これで次回は恋姫の世界に入るはずだったのが、まだ『道具』が出せなかったので、次回で戦極姫の世界より恋姫の世界に入る事になります。

 

今度の更新は、少し長くなると思いますが、良ければまた読んで下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
やっと、恋姫の登場人物が出せましたが…。ちなみに地理の名前は、当時の国の地名を載せてみました。宜しければ、また読んで下さい。
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