決まった指針が指す先は |
ガレージに向かうと、以前中を持っていたコータを叱っていた松戸とか言うおっさんが俺のジープとハンヴィーを弄っていた。そこには百合子さんもいた。何か大きな物がブルーシートに覆われている。
「奥様、お連れしました。」
「ありがとう。滝沢君、ハンヴィーもジープも両方とも最終整備が終わったわ。」
「そうですか。ありがとうございます。俺に用があるって言ってましたけど。」
「ええ。貴方宛の物を預かっていたの。」
ブルーシートを外すと、下から大きな白と青のバイクが現れた。見た所改造された白バイに見えるが、後ろのラックにはアタッシュケース、ハンドル部分にも見慣れないスイッチが幾つも付いていた。何だこれは?
「ご丁寧に説明書まで付いてるみたいよ。」
二十ページはありそうなマニュアルを俺に投げて寄越した。
「ちょっと待って下さい、これ誰から来たんですか?俺宛なら俺に来る筈じゃ・・・?」
「分かってる。私も得体の知れない物は受け取れないと最初は断ってたんだけど、貴方の事を持ち出されたらついつい断れなくて。一応命の恩人だし。」
「そうですか。でも、お互い様ですよ、それは。」
マニュアル片手に鍵を受け取ってエンジンをかけると、軽快なエンジン音がした。次にハンヴィーとジープのエンジンをかけた。こちらも問題は無い。いざ脱出する必要があれば逃げられる。だが突然ジープのエンジンが死に、電気も消えた。何度鍵を回してもかからない。
「クソッ!」
思った通り電磁パルスか。まさかこの状況で入るとはな。
「百合子さん、この建物の設備、対EMPの処置って・・・」
「残念ながらしてないわ。この建物全体への処置費用って馬鹿にならないのよ?資産が一遍に無くなっちゃう。」
そりゃそうだな。ジープは駄目でもどうやら幸いバイクとハンヴィーの方は問題が無かった様だ。あいつらにも伝えないと。俺は急いでガレージから屋敷の玄関の方へ向かった。雨は止んでいる。
「もしもし?リカ?!」
「静香、どうした?」
「電話、壊れちゃった・・・・」
画面からきな臭い煙が上がっていた。俺はそれを握り締めると、力任せに地面に叩き付けた。リカとの唯一の通信手段が断たれてしまった。
「EMPか?」
「ええ、そうよ。空が光った。宮本と孝もドットサイトのICがやられてるのを確認したから間違い無いわ。建物の電気も切れたし。ライフラインが使えなくなったわね。」
「じゃあ、もう携帯使えないの?」
静香がこの世の終わりが来たかの様な顔付きで沙耶に訪ねた。
「携帯所か、パソコン、発電所、そして大多数の車とかも駄目だ。俺のGPSとジープもお釈迦になっちまったし。電池を使う懐中電灯やロールスロイスみたいな物位ならまだ無事かもしれないが、電子機器類はほぼ完全にアウトだろうな。」
「誰か!助けて下さい!主人のペースメーカーが壊れたみたいなんです!」
ペースメーカーまでぶっ壊すとはな。現代の武器は恐ろしいぜ。
「EMPって・・・・」
「電磁パルスの事だ孝。High Altitude Nuclear Explosion.」
「通称HANE、高高度核爆発。大気圏上層で核弾頭が爆発すると、ガンマ線が大気分子から電子を弾き出すコンプトン効果が起きる。飛ばされた電子は地球の磁場に捕まって広範囲へ放射される電磁パルスになるの。電子機器には致命的な攻撃よ。集積回路を全て焼き切って駄目にしちゃうの。」
「政府機関や自衛隊のごく一部位しかEMPの処置はしていないだろうしな。百合子さんに聞いた所、馬鹿にならない値段らしい。それで、どうするよ?資源はあってもいずれは尽きるし、ライフラインが断たれたんじゃ出来る事も限られる。」
「治す方法はあるのか?」
高城総帥が百合子さんと一緒に下りて来て聞いた。
「パパ・・・焼けた部品を取り変える事が出来ればどうにかなる筈よ。それに、偶々影響が他よりも微量ながらあるだろうし、滝沢さんが言ったみたいにクラシックカーや電池で動く物は影響は受けないと思う。」
「直ぐに調べろ。」
「はい!」
「沙耶!混乱の中、良く冷静さを保った。誉めてやる。」
不器用な面構えとは裏腹に贈られた賞賛の言葉に、沙耶も思わず破顔した。
「さてと、それはそうと、皆はどうするか決めたのか?」
そう。まだ全員の答えは出ていない。それぞれの事情もプランもある。俺は只チームのメンバー全員の思惑が上手い具合に噛み合う事を何にとは言えないが、祈るばかりだった。
「私も孝も両親を捜しに行かなきゃ行けないし・・・・」
「私もそれに付き合うと言った。今更それを違えれば、毒島家の名折れだ。」
「ぼ、僕も連れて行って下さい!役に立ちますから!」
「沙耶と静香はどうする?ここに残るか?百合子さんと一緒にいれば一応安全だぞ。」
「うーん・・・・・でも、リカにも会いたいし・・・この中じゃ医療の専門知識があるのって私位だから・・・・うん、私も行くわ。」
これには正直俺を加えた皆が驚いた。あれだけの地獄を生き抜いて来て神経が図太くなったのだろうか?ドライブテクは確かに重宝するが・・・・
「俺が探しに行く。ここでじっとしてるよりは鉢合わせる確率が高い。それに、お前に死なれたら困るんだよ。」
「お互い様でしょ、そんな事。ね?」
静香は俺の腕に抱きついて満面の笑みを浮かべた。寄り添う彼女の体が震えているのが分かる。やっぱり怖いんじゃないかよ、バーカ、と言ってやりたかったが、確かに彼女の知識は必要だし、何より勇気ある決意を無駄にしたくはない。俺は何も言わずに頷くと、何時もみたいに彼女の頭を撫でてやった。
「ありすとジークはここに残った方が良いんじゃないか?流石にまたこのメンバーが全員出て行く訳にはいかないだろう?何より、彼女は小学生で、まともには戦えない。」
彼女は不要だ、足手纏いだなどと言う言葉は心の中にしまっておく。
「お兄ちゃん達、また行っちゃうの?」
「直ぐに戻って来るから、安心してここで」
「やだ!」
孝の言葉をありすが遮った。短い間とは言えアリスに取ってはこのチーム全員が家族となったのだろう。だが、それは彼女を連れて行く理由にはならない。ここに来る途中で拾ったのは仕方無かったが、ここから先避けられるリスクは極力避けた方がベストだ。
「頼むから聞き分けてくれ。ありすは俺達みたいに戦えない。それに、最悪の場合ありすを最後まで守り抜けるかどうか分からないんだ。ここの方が、絶対安全だ。君の父さんだって、君には死んで欲しくないだろう?ここにいる沙耶の両親は優しいし、強い。俺達は絶対に戻る。だから、そんな顔するな。」
「クウゥン・・・・」
「ほら、ジークも。俺達がいない間、ありすを頼むぞ。」
ジークの耳の裏側を掻いてやると、より一層キュンキュンと泣き始めた。まるで『行かないでくれ』と訴える様に。最後にもう一度頭を撫でると、俺は立ち上がった。
「さてと。最後はお前だな、沙耶。」
唯一答えを出してないのは彼女だ。苦渋の決断ではあるから無理も無い。彼女は親と再会し、無事に生きている。皆の様に親探しに付き合う必要は無い。既に自分の目的は果たしているのだから。彼女は俯いていたが、やがて顔を上げた。
「この天才沙耶様が付いて行ってあげない事も無いわよ?参謀は一人より二人の方が有利だし。」
「意外だな。目的を果たせば後はどうでも良い、とかその類いの言葉を聞かされると思ったが・・・・まあ、良いか。あ、でも、自分の身は自分で守れよ?」
「分かってるわよ。自分で出来る事位ちゃんとするわ。パパとママに会えて、無事だって分かったから少し気が楽になったから。すっきりした。」
そして孝の腕を抱き込んで麗を見やる。
「何よりリーダーに死なれたら女のプライドが許さないのよ。」
素直じゃないな。まあ、何にせよ話は纏まった。
「よし、じゃあ決まりだな。何時まで続くかは分からんが、皆改めてよろしく。」
俺の言葉に皆が笑った。勿論アリスも、涙を堪えながら笑顔を見せてくれた。
説明 | ||
とある民間軍事会社に勤めていた傭兵は、僅か二十六でその生涯に幕を閉じたが、次に目を開けた時には、赤ん坊として生まれ変わっていた! チートな特撮の武器も『神の介入』と言う事で出します。 |
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