焦れば、負ける
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キングサイズのベッドの上で退路を断たれた静香の前に、腰に鉈を差した男がいた。あの野郎・・・・

 

「武器を捨てて彼女から離れて下さい!でないと・・・・」

 

俺より先にあさみが到着していたらしく、コータに渡させた銃を構えてそいつに向けていた。だが、手が震えている。あんなんじゃ長髪にすらなりはしない。

 

「でないと、何だ?俺を撃つってか?そんなにビビッて震えてて、本気で撃てると思ってんのか?」

 

思った通り、男はあさみのメンタルの弱さを見抜き、ベッドの縁に腰掛けて挑発して来た。

 

「撃てるもんなら撃ってみろよ!ほら、どうした!?ポリ公の嬢ちゃんはビビって何も出来ねえってか?」

 

直ぐにでも飛び込みたい所だが、あさみが銃を持ってる。ああ言う人を撃つ事を想定していない、もしくはそんな経験が無い奴に限ってAD(Accidental Discharge) 、所謂暴発を引き起こす。あの糞野郎に当たる可能性はあるが、俺が飛び込んで行って間違って流れ弾が静香に当たったらマズい。ぞろぞろと喧騒を聞きつけた他の奴らも近付いて来た。

 

「撃てる・・・撃てるんです!あさみは警察官で市民の安全を守る為に撃たなきゃいけないんです!」

 

目を閉じるな、馬鹿野郎!だが、次の瞬間、いつの間にあいつの後ろに回り込んだのか、コータが細い紐に取っ手を結びつけた物を男の首に巻き付けて力一杯器官を締め付けた。

 

「お喋りは終わったかい?暴れても無駄だよ、紐は皮膚に食い込んでる。だから外れない。」

 

声にならない叫び声を挙げながら男はバタバタと暴れるが、酸欠で体に力が入らず、徐々に動きが鈍くなって行った。

 

「さあどうする?婦警さんの指示に従うか、今この場で僕に縊り殺されるか・・・・」

 

鉈を取り落とした所で孝がそれを回収、そしてコータはそいつをベッドから引き離す為に蹴っ飛ばした。

 

「ナイスだ、ありがとうよコータ!」

 

走った勢いを利用してタックルをかますと、ソイツの背中に乗ると後頭部をナイフの柄で殴り付けた。暴れる力は無いだろうが、念の為だ。ソイツの腕を掴んで捩じ上げると、空いた手でナイフを喉に押し付けた。

 

「てめえ人の女に何しようとしてた?良いか、俺の女に触れるな。次は殺す、必ず殺す!分かったな?」

 

だが痛みに呻くだけで返事になっていない。締め上げる力を強め、その手の指三本を全力で逆方向に折り曲げた。

 

「返事をしろ、糞が!」

 

耳元で怒鳴ると、か細い声で返事が返って来た。

 

「分がり、まじだ・・・・・」

 

ソイツの腕を離して立ち上がると、腹いせにソイツの腹を思い切り後程二回蹴飛ばした。しばらくすると、嘔吐物の酸っぱい臭いが辺りに漂い始めた。

 

「中岡さん、銃をしまってください。」

 

「え?え?」

 

コータの言葉にあさみは呆然としていた。緊張でカチンコチンに固まってる上、接着剤で貼り付けたかの様に手が銃から離れない。その手は相変わらず震えている。

 

「誰も撃たなくていいですから、銃をしまって下さい。」

 

銃口を下に向けさせ、起こした撃鉄を寝かせた。

 

「後、手錠も貸して下さい。」

 

「あ、はい・・・」

 

手錠を孝に投げ渡すと、孝は鎖をベッドフレームに通し、その男の手に手錠を後ろ手にかけた。良い判断だ。本当ならコイツの目玉抉ってからコロンビアンネクタイでも仕立ててやろうと思ったが、流石に静かにそんな残酷な場面を見せる訳にも行かない。

 

「冴子、俺は二人一組で固まれって言ったよな?」

 

「・・・・・すいませんでした・・・・」

 

大きく舌打ちをすると、ナイフをしまって静香の所に戻った。乱れた衣服を直してやり、抱き寄せた。あー、落ち着くぜ。

 

「静香、無事か?」

 

「ん、平気。ありがと。ちょっと怖かったけど・・・・でも、毒島さんを責めないで欲しいの。先に行ってって言ったの私だし。許してあげて。」

 

冴子は俺が睨んだ所為で目を伏せていた。静香がそう言うなら仕方無いな。惚れた弱み、だよな、これ・・・・・

 

「冴子、次は無いぞ。いいな?」

 

「はい。以後、気を付けます。」

 

気持ちを落ち着ける為に近くのオープンカフェの席にそれぞれ陣取った。だが、一番最初に感情を爆発させたのは麗だった。

 

「何時までここにいるつもり?!人前で誰かを平気で犯そうとする奴がいて暢気に休んでられないでしょ?!このチームの中で、私を加えた四人が一番その危険があるわ!」

 

「確かにそうだ。でも、今はここを迂闊に動く訳にはいかない。皆疲れてる。休める時は休んで状況に対応しないと。ここぞと言う所でミスをしたら、共倒れだ。」

 

ほう・・・・以前の孝ならヒートアップして言い返すかと思ってたのに、随分と冷静な対応が出来る様になったな。リ?ダーとしての貫禄がでて来たって所か?

 

「麗、身も蓋も無い言い方であることを承知の上で言うが、今は我慢するしか無い。ま、お前がが言うみたいに俺もカマ掘られるのはごめん被る。それは認めようだが、俺もリーダーの言葉に賛成だ。」

 

「宮本、私からも良い?この馬鹿はちょっと置いときなさい。目的達成の為には常に先の事を計画しなきゃ行けない。そして綿密に計画を練るにはそれなりに時間は掛かるの。」

 

「私も賛成だ。一番の問題はまずここをどうでるかだ。そのとき初めて他の問題も視野に入れる余裕が出来る。どれだけ水や食料が必要か、そして私達の間で連絡を取る事が出来るか。それを全て考慮した上で一番安全なルートで最初の目的地へ」

 

「私の家はここから歩けば二十分もあれば着くのよ!!」

 

焦ってるのはその所為か。気持ちは分からなくはないが。

 

「二十分の距離は、今の状況において夜明けまでかかるかもしれない。それ位分かっているだろう、宮本君。」

 

麗はそっぽを向いて歯軋りした。近くまで来ているのにまだ何も出来ない。本当なら今直ぐにでも飛び出して行って両親を捜したい。そんな思考が在り在りと顔に出ていた。肩をポンポンと何度か叩いてやった。

 

「冴子の言う通りだ、麗。気持ちは分かるが、焦るな。何も考えられなくなったり、考えようとしない時点で、死ぬ確率は大幅に上がる。今までの経験でそれは分かったろ?」

 

麗は肩を怒らせて俺の手を振り払うと椅子に腰掛けて窓の外を眺めた。

 

「あの、高城さん。僕は電磁波とかの事は良く分かりませんけど・・・・本当にあのEMP攻撃で全ての電子機器が使用不能になったんですか?雷とかに耐えられる物だってありそうですし、無事な機器もいくらかはあるんじゃないかと・・・・」

 

「駄目だ。そんな物はEMPの前じゃ紙の楯だ。遮断物があっても無駄だ。建物は内部の電子機器が外のアンテナから電波を受信出来る様に設計されてる。」

 

「確かに、滝沢さんの言う通りだわ。でもまあ、EMP攻撃が当たった所がどれだけ晒されているかと言うのも機器の無事を左右する筈よ。確かめる術は無いけど。」

 

コータの質問に俺がダメ出しをして、それを更に沙耶が畳み掛けるとコータは撃沈した。そこまで落ち込む事なんて無いだろうに。

 

「じゃあ、車は?沙耶の家でも、クラシックカーとかなら動くって言ってたろ?」

 

「良く覚えてたわね、孝。でも点火プラグが無事じゃなきゃエンジンがかからないわ。」

 

「それに、使える点火プラグなんてそう都合良く見つかる訳じゃないからな。ディーゼル車はマニュアルトランスミッションで、クランクがあればピストンを動かせるかもしれないが、これが中々掛かり難い。下手すりゃ五分、十分は掛かるし、車を探す為に弾も時間も浪費する事になって俺達の計画を大幅に狂わせるぞ。」

 

「では、銀行にある金庫の中はどうだろうか?」

 

「んーーー・・・・可能性としてはあるわね。滝沢さんは?どう思う?」

 

「行ってみる価値は有ると思うな。」

 

「銀行ならここにあるし、おっきい金庫位あると思うわ!運が良ければパソコンとかも見つかるかもしれないし。そう思わない?それに、マウンテンバイクを扱ってるお店で組み立ててある奴が沢山あったから、車が使えなくても<奴ら>よりは速く動けるわ。」

 

・・・・静香にしては結構まともな事言うな。

 

「でも、もしあのグループが取ろうとしたら?」

 

そう、問題はもう一つのあのグループだ。俺達の動きに感付いて排除しようとするかもしれない。沙耶の質問に皆が押し黙った。こんな世界でも、出来る限り<奴ら>になってない人間は殺したくないんだろうな。

 

「物資の共有に文句は無いけど・・・・同じ物が二つあればの話だ。」

 

「流石リーダー。即断即決、素晴らしい。さて、リーダーのお言葉だ。二人一組で行くぞ。今度は静香は俺と来い。」

 

「あ、ちょっとタンマ。」

 

移動を始めようとした所で麗が全員を呼び止めた。おい・・・これからって時に何だよ?

 

「氷は無かったけど、ディスペンサーはちゃんと使えるみたいだから。ここ、他の人達には見つかってないみたいだし、ボトルに入った水もあるわ。全員に行き渡っても余りある位にね。」

 

さっき思った事を取り消そう。麗、グッジョブ!

 

「にしても、手慣れているな。」

 

「夏に、一度喫茶店でバイトしてたの。お父さんにバレてから一週間でやめさせられたけどね。」

 

「そりゃそうだろ・・・・」

 

刑事の娘ともなれば尚更だ。俺もグラスを取って氷抜きのアイスコーヒーを一気に飲み干した。

 

「よしと。じゃあ、改めて。冴子、麗、沙耶、そして孝は銀行の方を調べろ。俺は静香と一緒にオフィスとかを見て使える物が無いか探す。」

 

「あ、じゃあ僕屋上に行きます。本屋とカメラ屋から地図と予備の双眼鏡を見つけたんで、使えるルートがあるかどうか・・・・」

 

「分かった、頼むぞ。気をつけろよ。」

 

それぞれが別方向に散った後、コータの後をあさみが追って行くのを見て思わずニヤリと笑ってしまった。あの顔を見れば馬鹿でも分かる筈だ。あさみはコータに惚れてる。陳腐な言い方にしてしまえば、自分を助けてくれた王子様だからな。まあ、銃を渡す様に指示したのは俺だけど。

 

「どしたの、圭吾?そんな変な顔して。」

 

「いや、なに、チームきってのガンマニアにも春が来たのかなーと思ってさ。」

説明
とある民間軍事会社に勤めていた傭兵は、僅か二十六でその生涯に幕を閉じたが、次に目を開けた時には、赤ん坊として生まれ変わっていた!

チートな特撮の武器も『神の介入』と言う事で出します。
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R-15 オリ主 神様転生 残酷な描写 特撮武器登場 ヒロインは大人組 オリ主視点 ご都合主義・・・・かな? 学園黙示録 

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