トモダチ
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人を生ける屍に変える原因不明のパンデミックが始まってから一日と少しが経過した。空港に残っている連中も、幸いようやくルールが変わったのだと言う事を認識する奴が少しは増えて、尚且つ協力的になって来た。俺はと言うと、現在リカと一緒にまた滑走路付近に出没し始めた感染者の排除を行っている。部隊の奴らはそれぞれ乗って来た警備車両内で仮眠を取らせた。いざと言う時にはしっかり起きて働いてもらわなきゃな。

 

「距離、450。仰角、-6。左右の風はほぼ無風。修正の要、ナシ。射撃許可、確認した。」

 

俺は八十九式を、リカはPSG-1を使って撃ち始めた。立て続けに撃ち出される銃弾は言葉になっていない呻き声を上げる感染者の脳味噌を滑走路にぶちまけ、バタバタと倒れて行った。

 

「お見事。流石は全国ベスト5の腕前だ。」

 

「チッチッチ。俺はベスト3だよ。あ”ー、スッキリした。いてぇ???。」

 

長時間寝転びっぱなしだった為に首筋、肩、背中、そして腰が痛む。着ていた装備の一部を外して、伸びをした。ボキボキと首や腰が鳴る。屈伸運動も少しやってようやく痛みが引いた。リカはと言うと、アサルトスーツの前を開けて白いスポーツブラを露わにすると自分の胸を揉み始めた。

 

「う??、痺れちゃった。」

 

「お前なあ・・・・・人前でそう言う事をやるな。」

 

「仕方無いでしょ?早朝から寝転びっぱなしで痺れちゃったんだから。何なら貴方がやる?あたしより射撃上手いんだしさ。」

 

「願ったり叶ったりだが、流石に人前じゃあちょっとな。それに、相棒が見てるぞ?」

 

「全く、お熱い事で。」

 

「うるせえよ。撃つぞ?」

 

茶化す田島の頭をストックで小突いた。

 

「悪い悪い。新しい情報は何か入ったのかい?まあ、あってもあんまり芳しい物とは思えないけど。」

 

「ああ。あちこちで人がぶっ殺されてる。大橋の方も相変わらず封鎖されたままだ。ありゃあ恐らく所轄の連中を総動員しただろうな、会計課も含めて。二日足らずでアポカリプス・ナウだ。改めてどれだけインフラが簡単に崩れるか思い知らされた気がする。」

 

今俺は切実にシャワーを浴びたい。別に堪えられない訳ではないが、小綺麗にする事に馴れている為に体を綺麗にしたいと思っている。ウェットティッシュでも十分だ。

 

「まあ、確かに映画じゃ登場人物が取る一つの行動が世界の崩壊に繋がるってのが常套なシナリオなんだけどね。感染者は後どれだけ残っているやら・・・・・」

 

リカの言う通り懸念すべき事ではあるが、俺はそこまで心配はしていなかった。四桁、最悪の場合五桁は間違い無い。堅実にヘッドショットで一匹ずつ撃ち殺して行けば全滅とまでは行かなくとも、銃が故障するか弾切れになるまで撃ち続ければかなり数を減らす事は出来る筈。感染する事に関しては不用意に建物の外に出なければ大丈夫だ。

 

「あ。」

 

「ん?」

 

「どうかした?」

 

俺は今重大な事に気付いた。俺にはまだ強力な助っ人がいるのをすっかり忘れていた。最近はあまり連絡を取っていないので俺を覚えているかどうかは不安だが・・・・・・・・ここまで来たらもう賭けだな。電波はまあまあと。電池も切れていない。携帯のキーを手早く押し始めたのを見て田島は不思議そうに横から画面を覗き込んだ。

 

「こんな時に誰に電話するんだよ?」

 

コールをしばらく待った。一回、二回、三回、そして四回目が鳴った直後に繋がった。

 

『はい、高城です。』

 

声の音域についてはあまり詳しくないが、確かアルト、かな・・・?それ位のトーンを持った女性の声が聞こえた。

 

「百合子さん!繋がった・・・・・」

 

『あら、滝沢君?お久し振りね。今は確か・・・・洋上空港かしら?』

 

「はい。酷い有様ですよ。今、大丈夫ですか?」

 

『ええ。丁度一段落ついた所よ。避難して来た市民の皆をテントに移動させているから。まだ来るかもしれないけど。今でざっと三百人前後ね。』

 

「なるほど。今、情報供してもらっても?」

 

『ええ。ひとまずこのパンデミックが世界中で起こっている事、そして感染者は咬み傷のみによって新たな感染者を生み出す事が出来ると言う事は知ってるわよね?マスコミもパニックを恐れて役に立つ様な情報は殆ど公開していない。アメリカ大統領はホワイトハウスから洋上空母に避難したわ。』

 

洋上空母・・・・大統領は米軍の指揮権を持っている。空母と言うのは軍事的な拠点。そこから導きだされる答えは、

 

「核兵器を使う可能性が?」

 

それを聞いたリカと田島は息を飲んだ。

 

「ええ。モスクワとの通信が途絶し、北京は全市が炎上。核に関しては、ICBMが正常に作動してくれさえすれば心配は無い筈だけど。」

 

「自衛隊に任せるしか無いか。」

 

こればかりは俺達ではどうにも出来ない。曲がりなりにも軍隊みたいな物だから、そこまでのヘマはしない筈だ。少なくとも俺はそう願っている。

 

『でも、唯一治安が他よりも保たれていると言う事が確認出来たのは、イギリスよ。』

 

愛国心を持ってる奴らだからな。国のシンボルとしてまだ女王はいる。彼女が恐らく重要な支えの一つとなっているのだろう。何より、特殊空挺隊、通称『SAS』も場合によっちゃSEALSよりも優秀な部隊だ。纏まるのにもそこまでまごつく様な訓練を受けちゃいない。

 

「イギリス、ねえ・・・・それはそうと、避難した人の中に藤見学園から脱出して来たって人間は?長い金髪でちょっとゆるふわな感じの鞠川静香って人ですけど。」

 

『いいえ、いないわ。藤見学園に関しては、私の一人娘もそこにいる。』

 

次期後継者でもあり肉親をここまであっさり斬り捨てられるなんて。メンタル面の強固さは今も昔も変わらないな、この人は。

 

「助けなかったのは高城の女として優先すべき事があるから、ですか?」

 

『ええ。物理的に手が届かない人を心配していても何も変わらない。出来る事を、すべき事をやるだけ。海上自衛隊についてだけど、当分は洋上空港には着かないわ。向こうも向こうで厳戒態勢を取っている。私達が救援を送り込みたい所だけど、今はこちらの事で手一杯出し、何よりこの状況じゃリスクが大き過ぎるの。新しい情報は定期的にメールで送るわ。住所は分かってるわよね?』

 

「東坂の二丁目で、一番デカい家ですよね。ありがとうございます。それじゃあ。」

 

携帯を乱暴にポケットの仲に押し込むと、深く息をついた。あーあ。

 

「どうした?悪い知らせか?」

 

「それしか無いよ。向こうも向こうで避難民を誘導してるから手が離せないんだと。合衆国大統領はホワイトハウスから避難して空母を新たな軍事的拠点にしている。さっきも言ったみたいに戦術核の使用もあり得る。唯一破綻していない国は、イギリスだ。後、海自は当分厳戒態勢の状態でここに来るのはまだ先だとさ。新しい情報もメールで追って送るって。」

 

「その友達って誰だ?」

 

「悪いがそれは言えない。ただ、コネは色んな所にあるとても頼りになる人物、とだけ言っておこう。政治家では無いと言う事は予め教えといてやる。」

 

流石に右翼団体リーダーの妻ですなんて言えない。

 

説明
今回はまた百合子さんをチョイ役で出しました。
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