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予想通りと言うべきか、東署は無人だった。心底落胆した宮本は小室が慰めている。とりあえず敷地の周りをボードで一周したが、<奴ら>と俺達以外は誰もいない。いざ脱出する必要があれば出来るだけ素早く出来る方が良い。田島、リカ、ありす、静香、中岡、そして平野の六人を残し、俺を含む五人で中に入った。空のダッフルバッグを肩に掛けると、手持ちの武器で最も静かな武器を選んだ。クロスボウ、『バーネットワイルドキャットC-5』だ。矢を番えると、それを構えてゆっくりと足音を立てずに前進する。
「無人に近い、かな・・・・?」
「建物の周りを一周した時にタイヤの跡が見えた。恐らくまだ署内に残って生きてた奴が何人かいたんだろう。書類にも砂利とか泥で出来た足跡が見える。」
足でくしゃくしゃになった紙の束を軽く突いた。
「まずは弾と武器の調達だな。他に何か思い当たる事は?」
「特に無いな。銃を置いてる場所に案内しよう。保管庫は・・・・あ。」
保管庫に案内する、と言おうとしたが、俺はある事に気付いた。警察やっててこんな単純な事を見落とすとはな。いよいよの勘が鈍って来たらしい。
「え?何ですか?」
「いや、銃を保管している部屋を探すなんて時間の無駄だと気付いただけさ。恐らくもう何も残ってないだろう。警察に支給されてる銃だ、持ち出されてない方がおかしい。行くとしたら、証拠品とか押収したブツを保管している倉庫だろう。ヤー公やマル暴の方々から色々と玩具を取り上げた時期があったからな。押収された密輸品なんて結構あるんだぜ?勿論、持ち出されていなければの話だが。」
警察は証拠品の紛失とかで首を飛ばされたりした事は過去に何度かあった。保管場所の移動、事情聴取、取り調べ、もしくは鑑識に改めて回すとか、そう言った余程の理由が無い限りあの中にある物は持ち出せない。最後に見た時はトカレフとかマカロフやらがあったな。ヨーロッパ圏の銃は確かに良いが、あれは駄目だ。共産圏の銃は大量生産の方にばかり目が行き過ぎて安全も精度もほぼ完全に無視している。トカレフにセーフティーを付けないってどう言う神経してやがんだ?アホだろ?
「話している途中悪いが、客人が来たみたいだぞ?」
毒島の言葉に俺は彼女が目を向けている所に視線を移した。男女一組の<奴ら>だ。無造作に構えていたクロスボウの引き金を引く。シュッと矢が空を切り裂く音がして矢が解き放たれた。鼻腔を貫通した一体目<奴ら>の屍から矢を抜き取ると、それを使って女の<奴ら>の眼孔を貫いた。ソイツの服で矢についた血を拭うと、再びその矢をつがえた。
「この様子じゃ恐らくまだまだいそうな感じがするな。 小室、毒島や宮本と先に上に登ってろ。先に三階に登れ。高城、援護を頼んでも良いか?」
「え、わ、私!?」
「今この場でお前以外に高城って名前の奴はいないだろうが?」
それに、高城は未だに持っているそのルガーを撃っていない。少しは撃って経験を積んだ方が良い。たとえ音が少し響いても建物の中だ。外よりも多少は閉め切られた部屋の中の方が銃声は響かないからな。
「一階と二階を探査してからついて行く。もし<奴ら>が上と下から迫って来て挟み撃ちにされたら、それこそヤバい。急げ。すぐに済ませる。」
「沙耶、気をつけろよ?」
「分かってるわよ。私は天才なんだから。」
ほらほら、ストロベリってる暇があるならさっさとついて来い、時間も押してるんだから。
「小室、見つけた銃と弾は全部この中に入れられるだけ入れろ。後は・・・・懐中電灯とかの乾電池を使う物も、もしあれば。」
小室にダッフルバッグを投げ渡すと、さっさと一階の探索を開始した。静かに、だが足早に歩く。周りを警戒しながら廊下を歩き回り、部屋の中を二、三秒欠けて見回し、<奴ら>がいればクロスボウで二体ずつぐらいを纏めて串刺しにする事で仕留める。次に窓とドアを締め、完全に部屋が密室になる様にした。
「よしと。あそこに二体いるだろ?あれを撃ち殺すんだ。ストックをしっかり右肩に押し込めろ、下手な持ち方したら肩が脱臼するぞ。」
「こ、これで良いの?」
四インチモデルのルガーはストックがついていると命中率は上がるが、俺からすれば持ち難い。どうせならストック無しのダブルハンドで撃った方がマシだ。
「脇の締めが甘い。肘をもっと下げろ。狙う時は息を止めるんだ。それでブレの補正が出来る。リアサイトとフロントサイトが一列に並んだら引き金を引け。その瞬間、腹に力入れて口から一気に息を吐き出すんだ。」
暫くどうか舞えれば良いか数分程苦戦していたが、すぐに撃ち易い構えでルガーを保持した。引き金を引くと、乾いた銃声と共にトグルアクションによって薬莢が弾き出され、九ミリ弾は顔の右半分を大きく削ぎ落としたが、まだ倒れない。再び銃声。マグレかどうかは分からないが、二発目は眉間を貫き、一体目が倒れた。
「やった・・・・・!」
「次の一体も同じ様に撃つんだ。ストックを外しても撃てる様になれ。それが壊れたり弾が切れれば他の銃を使う事になる。ストックを付けるハンドガンはあまり無いから、馴れておく為だ。」
俺が知ってる中でもオプションでストックを付けられる銃はマシンピストルの様な片手で持てる自動小銃だ。例えばベレッタM93、グロック18C、UZI、TEC-9、MAC-11、MPL SMGなど。映画の様に2丁拳銃でフルオート連射なんて事は実質的に不可能だ。撃発によって生じる反動で銃口の向きが上へ上へと向いて行くからだ。フルオートの片手撃ちが出来る様になりたいなら、腕の力はゴリラ並みにならなければ出来ない。そしてマシンピストルはアサルトライフルとは違って装弾数がかなり少ないから、フルオートで撃てば三十秒と立たずに弾切れになる。
「こ、のっ!」
ダダンッと二発。一発は喉笛、もう一発は目玉を抉り、二体の<奴ら>は沈黙した。
「天才と言うだけの事はあるな。百合子さんの娘だ。強い女だよ、お前は。」
「あったりまえでしょ!」
どうだとばかりに胸を張る。ソレも母親譲りだな、うん。さてと、次は二階か。だが、階段に向かおうとした瞬間、金属に何かがぶつかる音が聞こえた。
「・・・・・嫌な予感がする。ここ、留置所あるんだよな・・・・」
格子は鉄製だし、当然鍵が無ければ開けられないが、万が一と言う事もある。
「どうするの?檻を見に行くのは良いけど、小室達とはぐれちゃうわよ?」
「いや、閉まってるから大丈夫だろう。二階に急ぐぞ。」
本音は見に行ってもし檻の外にいる<奴ら>がいるなら始末したい。だが、当初に定めたグループの目的がある。装備の大部分を持っている仲間とはぐれそうになる状況に身を投じるなんて馬鹿過ぎる。それに、戦争を生き抜いて来た俺と違い、高城はまだまだガキだ。肝心な所でメンタル崩されたらそれこそ取り返しがつかない事になる。
「俺の三歩後ろをついて来い。」
小走りで足音を立てずに階段を登って行く。殆ど無人だったが、ハンドシグナルで高城に止まる様指示する。<奴ら>の蠢く音も、呻き声も、誰かの断末魔も聞こえない。ここはクリアだな。天井を指差して上に行く事を無言で伝えると、再び三階を目指して走った。そこでは小室達が新しい武器を手に持っている。小室は肩にイサカを引っ掛け、代わりにベネリM4スーパー90セミオートショットガンを携えていた。大量の銃器と弾を詰め込んでいる所為で重くなっているらしく、少しよろめいていた。
「その中、何が入ってる?」
「ハンドガンが幾つかと、ライフルっぽい奴が二つ。後は、田島さん達が持ってるサブマシンガンみたいなのも二丁位入ってますけど。残りは使えそうな弾全部です。」
「上出来だ。渡せ、俺が運ぶ。」
クロスボウを携行する為のストラップでクロスボウを背負うと、片手でバッグを、もう片方の手でシグを持った。さてと、行くとしますかね。階段の方へと足を向けると、外から入り乱れる銃声が聞こえた。
「銃声?!」
「滝沢さん、早く下に・・・・!」
「お前らが行け。地上からじゃ電柱や壁が死角になって撃てない所が幾つかあるんだ。俺は屋上から狙撃する。留置所の方は見なかったから<奴ら>がまだいるかもしれない。もしいたら遠慮無く殺せ。」
銃声が聞こえた瞬間から、俺は無意識の内に口角を吊り上げてにんまりと笑っていた。敵襲・・・・・つまり相手は人間。つまりは脳味噌を働かせて策を練れる。つまりは出し抜く甲斐がありそうだと言う事。バッグの中からL96A1とマガジン二つ、そして弾も一掴み持った。グズグズはしていられない。二十発前後と矢が六本でどうにか出来れば良いんだが。
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