超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 ルウィー編
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……暇。

満足に動かせない体に憂鬱を感じながら、窓から映るルウィー特有の雪の大地を見つめていた。

漸く、手を握る動作と足に力が入る様になってきて、あともう少しで、立ち上がることが出来るようになるだろう。だからと言って、直ぐに戦える状態になるとは期待できないけど。

さっき、ポチがゲイムキャラの力を借りるためにパープルハートと紅夜がプラネテューヌに到着した事を伝えてきた。正直な所、アホか?女神として何やっての?バカなの?死ぬの?と実際にそういう選択をしたパープルハートに会ったら罵倒したいところだが、こんな体でそんなことを言うほどの気力はない。

 

事実、今までのパープルハートを考えれば、僕のような奴が何を言っても自分を曲げることはないだろう。

実務は逃げる癖に、いざとなれば誰よりも早く前線に突っ込むのが、主人公としての因果を持っているパープルハートの特徴だ。

僕は今まで経験から次に起きることを予想して動くタイプだが、彼女の場合はほとんど理由なんてない本能に動いているんだろう。故に僕は彼女のことが嫌いだ。僕には何物を持っているのだから、予想が出来ない。あの時だって、((女神を要求する魔剣|ゲハバーン))をネプギアじゃなくて自分が使えば良かったのに、どうして妹に未来を任せたのか、今でも彼女の心理を理解できない。莫大なシェアさえ確保できれば、女神候補生を生み出すことは不可能ではなかったのに。

 

いや、そんなことを考えても過去は過去で、あれは終わった物語だ。競争相手はいないゲイムギョウ界は自然と衰退していって……滅びた。うん、ただそれだけの話だ。

 

「ーーー失礼します」

 

過去のゲイムギョウ界に起きた事件などを頭の中で整理していると扉が開いた。紅いコートに薄い水色をした長い髪をしてメガネと帽子が特徴的な女性。見た目で言えば教授の印象が強い。この土地ルウィーの教祖である西沢ミナが入室してきた。口を開いて息を吐いて舌を動かす。うん、普通に話せる程度には回復しているね。

 

「ロムちゃんやラムちゃんはどうしたの?」

 

「今はゆっくり眠っていますよ。あなたのお蔭でとても元気ですよ」

 

「……そう」

 

良かった。未来の女神になる者として、心的障害を抱えたままとか不安でたまらない。

今の所は必要ないけど、これからの未来には様々な困難があるから、その時にトラウマが原因で足を止めるわけにはいかない。何より邪神が関連したのなら、それを止めるのが僕の役目でもあるし。

 

「どうして、浮かない顔をしているのですか?まだ本調子ではないのですか」

 

そういって西沢ミナは僕の体調を心配するように見た。

……これは怪我でも病気でもなんでもない。ただ急激な運動をしてぶっ倒れて、過激な疲労で体がうまく動かせないだけ。

 

「大丈夫だよ。寝てれば治るから」

 

「…そうですか、貴方には本当になんとお礼を言っていいか…」

 

「僕のしたことは、別にお礼を言われることじゃないよ」

 

「……えっ?」

 

いやだって、僕がロムちゃんとラムちゃんを助けようとした理由って、ただの都合上でしかない。

僕のしたことは横暴だ。今までの経験でロムちゃんとラムちゃんを正しい方向に育てていけたのは西沢ミナの活躍が多い。……今回の事件で、西沢ミナは自らの仕事を全うして死んだにも関わらず、僕はこいつ以外にロムちゃんとラムちゃんの教育係は務まらないと言う理由で、彼女の勇気と決意を無に還した。だから、僕のしたことは誰にも褒められるものではない。

 

「僕だけの都合で生き返したんだよ。道具を直したんだよ。だから、感謝される資格なんてないし、僕自身正しいことをしたって感覚はない」

 

「……あなたは」

 

あぁ、そうだ。この世界に住む全ての生物は次なる世界をより円滑に秩序を回すだけの情報源でしかない。

今までそうやってきた。これからもそうやって、使い潰していくつもりだ。だから、僕はーー

 

「ロムちゃんとラムちゃんが大好きなんですね」

 

「−−−−」

 

思考が強制停止した。お前、何を、言っているの?

 

「貴方の事は、零崎さんからいろんなことを聞きました。ロムちゃんとラムちゃんの事を聞いたとき、直ぐに動いてくださったそうですね。今回も、貴方の都合はロムちゃんとラムちゃんが泣く顔が嫌だったから、私を蘇してくれた。他にも教会を教会を守ろうとして亡くなった人を蘇してくれた」

 

…………。

 

「貴方自身は、そんなになっても後悔の一つもしていない様子です。ですから貴方はとても優しいお方です」

 

「アホらしい。どうしてそう言い切れる?あとで莫大な報酬を請求するかもしれないよ?」

 

「ロムちゃんとラムちゃんを初めて助けてくれた時、報酬は全部零崎さんに譲ろうとした人が、ですか?」

 

「うぐぐ……」

 

マジで請求してやろうかこの野郎。

 

「それでは、私もそろそろ用事があるので失礼します。お体を大事にしてくださいね」

 

「西沢ミナ、一つ訂正がある」

 

言いたいことだけを言って、部屋から出ようとした西沢ミナを止める。歩みを止めて、何か用事かとこちらに振り向き頭を傾げて僕を見つめる彼女に対して僕は、こう言い切る。

 

「ロムちゃんとラムちゃんが大好きじゃないーーー子供が大好きなだけだ」

 

「……ふふ、そうですか。私と同じですね」

 

そういって、今度こそ西沢ミナは部屋を後にした。誰もいなくなった部屋。窓から見える景色は変わらず、沈黙がこの空間を支配していた。

 

 

「……はぁ」

 

なんだか負けた気分になった。

 

 

 

 

 

「テケリ・リ」『この奥にプラネテューヌのゲイムキャラがいます』

 

ポチさんに案内されたところは、バーチャフォレストの最深部。巨大に成長した危機が陽光を阻害して、全体的に薄気味悪い空気を醸し出していた。なるほど、ここまで来るのにそれなりに強いモンスターと遭遇したし(全てポチさんが倒した)なにより纏う様な湿った空気に陰湿なこの場所に来る物好きはそうはいないだろう。

 

「ここからは私一人で行くよ」

 

「……ネプテューヌ」

 

緊張しているのか力強く手を握っていたネプテューヌが進言した。

 

「これは、私だけの力でやりたい」

 

「…お前の話術で説得できるのか?」

 

「全然自信ないよ。けど、今まで沢山のことを経験して、私は女神だと知った。……けど、私ってみんなに守ってばかりだったから、今回も他人任せで、ちょっとプラネテューヌには我慢してもらわないといけない。だけど、責任ぐらい私は背負わないと女神として」

 

俺は何も言わなかった。ネプテューヌの決意に言葉はいらない。

だから俺はネプテューヌと手を離して、背中を軽く押した。

 

「行って来い。だけど、お前の後ろにはコンパやアイエフ、俺がいるからな」

 

「うん!」

 

ネプテューヌは駆けだした。その姿は木々の間が生み出した暗黒に消えていった。

隣にいたポチさんは口に手を当てて笑っていた。

 

「テケリ・リ」『少し大げさですよ。もしもの時は切り札もありますし』

 

「あるの!?」

 

驚愕の真実、すごくいい空気をぶち壊された!!

 

「それを使えばいいじゃないか…」

 

「テケリ・リ」『いえ、ゲイムキャラを復活させる物でもなく、犠牲を糧に強大な力だけを得る物なので』

 

「……犠牲?」

 

「テケリ・リ」『それに一度使ってしまいその存在が証明されてしまえば、((守護女神|ハード))戦争が女神同士だけではなく、人間同士の戦いにも発展する可能性を秘めた代物ですから、主様も「解決はするがその後の収拾がつかなくなるから最後まで使うな」と言っておりました。だから、ネプテューヌ様の選択は正しいと思いますよ』

 

何だかよくわからないけど、邪神ですら覆すほどのマズイ代物がある。しかし犠牲が必要となると言っていた。ポチさんの顔も真剣そのもので、他国のゲイムキャラの力を借りるより、高い犠牲が必要になると語っていて、俺は口を閉じて、ネプテューヌを信じて待つことにした。

 

 

 

 

 

 

目的地までは比較的に近い場所だった。木々が生み出す暗黒をしばらく走っていると開けた場所に出た。そこには人工的に造られたと感じる程に木々はドーム型の形を形成しており、その中央にはディスクが治められた祭壇があった。

 

「…あれかな?」

 

木々はそのディスクから遠ざかる様に伸びているが、その祭壇には決して光が遮られないように伸びている。まるで神聖な物を守護しているようにも見えた。

ネプテューヌは、その不思議な空間の中で慎重に足を進ませて祭壇の目の前にまで迫った時、頭の中に声が響いた。

 

『始めまして、紫の女神』

 

「えーと……ゲイムキャラでいいんだよね?」

 

『えぇ、その通り。私がプラネテューヌの秩序と循環を司るゲイムキャラで間違いはありません。あと私と貴方は初対面なので、硬くならないで大丈夫ですよ』

 

物腰柔らかそうに話すゲイムキャラに少しだけネプテューヌは安心した。

空の従者であるポチから、既に事情は伝えてあると言う事は聞いていた。ネプテューヌ自身、女神であることを認知したが、女神がどのような存在であるかは思い出せていない。紅夜達がネプテューヌの選択が、どれほど非難を浴びるようなことなのかを言われているので、ゲイムキャラは凄く怒っているとネプテューヌは思っていたからだ。

 

『いえ、少し怒っています』

 

ディスクなので当然、目はないが睨まれ、頭に響く言葉も少し怒り気味の声にネプテューヌは思わず声を上げそうになったが、力強く手を握りしめてゲイムキャラを見つめた。

 

「お願い。ゲイムキャラ、力を貸して」

 

『それが現状のプラネテューヌのことを理解しての発言ですか?』

 

問い詰めるような言葉にネプテューヌは力強く頷く。

 

『なぜ、他国の助けようとするのですか?富ですか?名誉のためですか?そのためにこの国が被害に合うかもしれないんですよ』

 

「そんなものはいらないよ。正直な所、そんなこと言われても物凄く現実味がなくてすごく困る。少し前までは私っていーすんを助けて、記憶を取り戻すんだー……それが私の旅の目的で、いつの間にか一国の女神って言われてもなんだか信じきれない」

 

『女神であることを貴方は認識できていないのですね。ならば余計に私の力を貸すことは出来ません。貴方には責任を背負う覚悟がない』

 

確かにそうだ。いつも突っ走って仲間に助けられてきたのが、ネプテューヌだ。

所謂守られる側に立って、それがいつの間にか守らないといけない側の自分を認識するのが酷く怖いものだった。−−−((少し前までは|・・・・・・))。

 

「背中を押してくれた仲間がいるんだよ。不安だった時に手を握ってくれた大好きな人がいたんだ。ピンチの時にヒーローのように駆けつけて、自分だけ傷ついて命がけで私達を守ってくれた人がいるんだよ」

 

ーーー思い出せば。

ラステイションでキラーマシンに襲われた時に、自分を囮にしてまで逃げそうとしてくれた彼がいた。他にもいろんなピンチになれば彼は自分の身を顧みず駆けつけてくれた。リーンボックスでは恩師に恩人に刃を向けてまで、全てを投げ捨ててまで駆けつけてくれた。いっぱい傷ついて、泣きたくて、痛いはずなのにやることは変わらなかった。

 

「確かに私には覚悟とか責任とかそんな難しいこと背負えれないかもしれない。でもね、私はこのルートを選んで、それに大切な仲間達が背中を押してくれた。だから、お願いーーー力を貸して!」

 

ネプテューヌは必死の思いで頭を下げた。

とても悔しかった。自分には、ゲイムキャラのような力がないことに。

だけど、それ以上にまた紅夜が身を削るようなことをして傷ついて、そして最後はあの醜く禍々しい化物になってまで、自分たちの障害をただの暴力だけで破壊しようとした姿になる方が、ネプテューヌ自身が一番辛い事だった。あの時に現実を叩きつけられた。自身がとても弱いことに、とても大切な人を守るようなことが出来るほどの力がないことに。

自分に出来ることと言えば、苦しんでいる彼にそばにいる事だけだ。

彼はまた何かを背負っている。不思議と分かる。だって、ずっと一緒に旅をしてきたのだから。

 

『………勝手ですね。』

 

「勝手だよ!でも、それでも守りたい人がいる!」

 

ネプテューヌの決意の言葉が空間に響き渡る。ゲイムキャラは暫く黙って一つの言葉が浮かんだ。

『ノブレス・オブリージュ』、豊かな人は貧しき人に手を差し伸べなければならないという義務の事だ。

目の前の彼女は、きっと無意識ながら自身が女神であることを理解していたかもしれない。

守護女神はただ人の為にある守護の神。そういう存在であり以上、在り方は決まっている。

彼女は見返りを求めていない。神がする守護は、人間である所の呼吸活動と同じようなことであり、当たり前の行動なのだ。故にネプテューヌは最初から女神であろうとしていたのだ。

 

 

ーーーあなたが記憶喪失で本当に良かった。

 

 

ただ経験が肉体にあるだけでゼロとなった女神。女神同士の憎しみは消滅した無垢なる彼女の先が見てみたい。

必要があるまで生かされ、必要な無くなれば処分される様なシステムを構築したあの忌々しい異世界の神は着目するのは守護女神の利用価値だけだ。モンスターを操作して女神の価値を絶対的な物にして、人間を増減を決めて王様気分でこの世界に居座っているあの吐き気を催す神には、いい加減我慢の限界だ。

 

七万年前に突如としてプログラムされた世界の法則を切り替え、自由度が増した世界に再構築したのは少しだけ好感が持てる所ではあるが、あの神は決して届かない空に必死で手を伸ばす事しか知らない人間のような存在故にまた何を仕出かすか予想が出来ない。

 

ゲイムキャラは決意した。

彼女なら出来るかもしれない。そして彼女をここまで成長させた彼がいれば。

この運命を。

この因果を。

この物語を。

 

 

ーーーー((破壊|・・))してくれるだろうと。

 

 

 

 

 

 

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